何年か前にyonigeが高田馬場の小さなライブハウスでツアーを行った際に、レーベルメイトとしてゲストで出演していたのがハルカミライだったのだが、その時のライブは全然ピンとこなかった。なんだか普通のバンドだなと思った。まだメンバーの見た目もめちゃくちゃ幼かっただけに、もしかしたらこれから変わるのかもしれないとは思っていたけれど。
しかし去年のCDJで久しぶりに見たハルカミライは、バンド名以外全て変わったんじゃないかと思うくらいに全く別のバンドみたいになっていた。自分が最初に感じた「普通のバンド」ではない、自分たちが抱える衝動を音楽にして、ライブで音にして爆発させることができるパンクバンドになっていた。
初めて見たときはパンクというワードは全く思い浮かばなかったが、その時にパンクだと感じたのはそのライブのスタイルやサウンドはもちろん、自分たちがこのバンドでどんな音楽やどんなライブをやりたいのかというのが定まったように感じたからだ。そのパンクバンドとしての熱さは自分がいわゆる青春パンクと呼ばれていたムーブメントの渦中で感じたことがあるような、でもそれと全く同じではないようなものだった。だから今の10代や20歳くらいのロックが好きな人たちがこのバンドを求めているんだろうな、と感じるような。
そのハルカミライは去年の年末にすでにZepp Tokyoワンマンをソールドアウトさせるような規模のバンドになっていたのだが、万単位の人を動員できるようなフェスの大きなステージに立つようになった今年の年末に選んだのは、なんと幕張メッセ。ど真ん中にステージを設営し、周りを客席が囲むという360°ワンマンはかつてBRAHMANやWANIMAというパンクの先輩たちがこの幕張メッセで見せてきた戦い方を彷彿とさせる。
幕張メッセの外に設営された先行物販エリアは開始時間の12時に到着するとすでに長蛇の列。それはオシャレだから欲しいとかじゃなくて、ハルカミライのTシャツやパーカーを着ていればその時だけ普段の自分よりも少し強くなれるような、日々辛いことや投げ出したい現実にも向き合える力をもらえるような、だから着ていたいというような感じがする。その感覚もまたパンクロックの大先輩たちと通じる部分である。
本当に幕張メッセ1ホール(CDJで言うならEARTH STAGEの1番ステージ側)の中に入るとど真ん中にステージが設営され、360°スタンディングの客席が取り囲んでいる。先週の幕張メッセでのREDLINEに出演した時に橋本学(ボーカル)は、
「幕張メッセ、また来週〜!」
と最後に叫んでいたが、本当に幕張メッセのホールの一つがこのバンドだけのものになる瞬間が来たのだ。
開演時間の17時を少し過ぎるとSEが流れ、メンバー4人が客席の間の通路を通ってステージへ。小松謙太(ドラム)は素肌にジャケット、須藤俊(ベース)はいつものようにモッズコート着用、関大地(ギター)もおなじみの赤いTシャツ姿で、最後に橋本学が白いロンTで登場。
小松がドラムセットの椅子の上に立って自身の後ろ側にいる観客達に手を振るという360°ライブならではの光景を見せながら、機材の配置位置自体はそれぞれが別方向を向いている中で4人が向かい合って音を出すと、「君にしか」でスタートし、
「君にしか歌えない 君にしか歌えない」
という、我々からしたらハルカミライに対して感じているようなこと、ハルカミライからしたらきっとこうしてライブを観に来てくれている、曲を聴いてくれている人に対して思っていることであろうサビのフレーズでいきなり拳を上げて大合唱が起きる。今やフェスなどでも大合唱が起こるのが当たり前になっているバンドであるが、やはりワンマン、しかもこの規模と人数になるとまた違うというのがメンバーが歌わなくても声が響いているというところからよくわかる。
橋本はステージを歩き回りながら歌い、須藤は時折ベースを弾かずにバンザイしたり観客に手を振ったりという自由さは幕張メッセでのワンマンになっても変わらないし、関がいきなりステージから降りて客席に突入してスポットライトを当てられながらギターを弾くというのも変わらないが、「カントリーロード」での勇壮な大合唱と、
「君よどうか側にいて抱きしめてくれ歓びの歌」
という締めのフレーズ部分でリズムが消えてギターと歌だけになるというアレンジは橋本の歌の上手さと声量の大きさ、ひいては橋本のボーカリストとしての素晴らしさを実感させてくれる。
フェスなどではリハも含めて複数回演奏されることも多い「ファイト!!」を早くもここで演奏して一発ぶっ飛ばすと、小松の激しいツービートの連打に呼応するかのようにダイバーが続出する「俺達が呼んでいる」ではまさにメンバーが呼ぶかのようにステージの方にたくさんの人が転がっていくのだが、この日は客席がかなり細かくブロック分けされていて、各方角ごとに前から「1」「2」「3」という配置だったのだが、橋本は
「ブロックとかあって、後ろのブロックから前のブロックの方に飛んでいく人もいると思うけど、今日は前の人は飛んでくるやつに「なんだこいつ」とか思わないでいこうぜ。安全に見たいやつは小松の後ろ、それ以外のやつはどんどんこっちに来い!」
と煽りまくることによって後ろのブロックであっても関係ないとばかりにその後もダイバーが続出しまくっていく。そもそも曲も短ければMCを挟まない限りは非常にテンポ良く曲を連発していくバンドなだけに、そうしてライブを最後まで楽しむにはかなりの体力が要求されるが、さすがにこのキャパとなると(特にメンバーよりだいぶ年上の人などは)、後ろの方の余裕があるスペースで見ている人も多い。
そんな中でこの会場のセンターステージで
「僕ら世界の真ん中」
という大合唱によってまさにこのステージが真ん中、なんならこの日のこの会場が本当に世界の真ん中なんじゃないかと思うくらいにあらゆる力が結集しているかのようにすら感じる「春のテーマ」からは普段のフェスではなかなか聴けないアルバム収録曲たちが続く。パンクな曲もあれば、メロディが立ったような曲まで、こうして様々な曲が聴けるのはワンマンならではであるし、ある意味ではライブでの力が音源とは比べ物にならないくらいに高いバンドだからこそ、そうした音源でしか聴けていなかった曲のライブで聴くからこその秘められた力を実感できるというか。きっとそうやってこのバンドのライブではその日に聴けた曲がそれまでよりもはるかに大事な曲になっていくのだろう。
そんな中でも時には小松以外の誰がどこにいるのかわからないくらいにメンバーは次々にステージから降りて客席に突入していくのだが、メンバーが客席に降りるだけではなくて観客の女性をステージに上げてサビ前のカウントをさせたり、
「決められたセトリをそのままやるんじゃつまらないから〜」
と言ってこの日2回目の「ファイト!!」でぶっ飛ばしたかと思いきや、「Tough to be a Hugh」を2回連続で演奏したりとこのバンドの自由さはライブハウスではなくても全く変わらないというか、むしろ大きなステージで長い尺のライブになることによってより一層なんでもアリになっているような感じすらする。
橋本はこの日のライブに母親が見にきていることを明かすと、
「今日来てる人は大学生が多いのかな?今は好きなことやったらいいと思うよ。もうちょっとしたら親孝行もして。でもこれってめちゃくちゃ親孝行になってるんじゃないの!?(拍手)
俺は高校を卒業する時に父親に「お前は高校卒業したらどうするんだ?早く働いて親孝行しなきゃダメだぞ」って言われたんだけど…これはめちゃくちゃ親孝行になってると思う!」
とこの幕張メッセという大きなステージに立っていることへの特別な喜びを語る。この日は橋本以外のメンバーの家族も来ていたらしいが、彼らの親はこんな大きい会場でたくさんの人がこのバンドだけを見に来ているという状況や景色をどう見ていたのだろうか。
今年リリースしたフルアルバム「永遠の花」のオープニング曲であり、
「一話も逃さず見ていたのに
打ち切りだなんて 好きだったのに」
という独特な歌い出しから一気に温度を上げていく「星世界航行曲」、パンクでありながら
「1番綺麗な君を見てた」
というサビを全員で大合唱できる「ウルトラマリン」からは「Mayday」、真っ赤な照明がステージに降り注ぐ「ラブソング」というバラードと言ってもいいような、橋本の歌のスケールがより大きく響くような曲が続く。
ハルカミライのラブソングはきっと橋本にとって対象になっている人物がいる。だから我々は共感したりすることはほとんどできないのだけれど、その思いが歌に思いっきりこもっているからこそ聴いていてつい感動してしまう。それはいわゆる世の中にたくさんあるラブソングとはかなり違う構図である。
メンバーがステージの真ん中に集まって、小松以外の3人が肩を組むようにして
「ああ僕のこと 君のこと 話は尽きないほど
独り言も2人のこと尽きるまで話そう」
と歌い始めると、それが客席まで広がっていって大合唱となる「世界を終わらせて」。
例えば今で言うならばWANIMAがそうであるように、合唱というのはパンクバンドにとっては切っても切り離せないものだ。それは銀杏BOYZやHi-STANDARDや遡ればJUN SKY WALKER(S)もライブにおいてはそうであるし、映像でしか見たことがないブルーハーツ(ハルカミライが大きな影響を受けているのは周知の通り)、そのさらに前の世代であるラフィン・ノーズもきっとそういう景色を作ってきたのだろう。
ともすれば合唱というのは人によっては「ボーカルが聴こえなくなるからやめてくれ」ということにもよくなりがちだけれど、それぞれ違う人の声が重なることによって生まれる感動というものも間違いなくある。それはMONGOL800のライブで「小さな恋のうた」をメンバーが歌わずに観客が大合唱するのもそうであるし、普段生きている中ではなかなか周りに存在することのない、パンクが好きな日がこの場所にはたくさんいる。普段1人で聴いている曲を歌える人がこんなにもたくさん存在しているということを視認させてくれる。全然名前も年齢もどこで何をしてる人なのかも知らないけれど、そういう人たちが周りにいるということは1人でライブに来ていても1人じゃないと思わせてくれるような。とりわけメンバー全員が本気で歌うこのバンドのライブにおいてはなおさらそう感じる。
先月にはこのライブに向けたと言っていいであろうニューシングルもリリースされているのだが、その収録曲3曲の中で先陣を切って披露されたのは
「こんな君と僕に奇跡がやって来ないはずがねぇ」
というサンボマスターを彷彿とさせるくらいの熱さでもって締められる「君と僕にしかできないことがある」。
と思いきやちょっとでも間が開くと「Tough to be a Hugh」をやってしまうので、結果的にこの曲と「ファイト!!」はもう演奏され過ぎることに驚かなくなってしまうくらいに。普通のバンドだったら一回のライブでこんなにも同じ曲が複数回演奏されるというのはあり得ないことであるけれど。
ライブならではの橋本がその日感じたことやその時期ならではの歌詞を曲前につけるという、先輩バンドで言うならばMy Hair is Badの椎木もよくやることだけれど、それによってその日のライブならではのものになるのもこのバンドの魅力の一つであるが、この日の「それいけステアーズ」ではそれに加えて、
「俺たちはあの花よりも咲かなくちゃいけない!」
と橋本が叫んでから、サビの
「さくら さくら さくら あの日夢見た自分が今はどこにもいなくても」
というフレーズに繋げてみせる。桜の花びらが降ってきたり…というようなよく大きな会場であるような演出は一切ない。ただひたすらに自分たちだけで音を鳴らして歌うのみ。でもそれが何よりもバンドにとって大事なことであり、このバンドが咲き誇っているようにみえる最大の要素だ。もしかしたら今後はそうした演出的なものを取り入れていくライブをやる日が来るかもしれないけれど、今はまだそれは考えられないし、考えなくていいのかもしれない。
そして「カントリーロード」においてもそうであるが、この「それいけステアーズ」においても
「風が僕らを揺らしても 季節が過ぎてもこのままで」
という最後のフレーズの部分だけベースとボーカルのみになるというバンマスの須藤の音の差し引きの見事さ。やりたい放題やっているように見えて、どうすれば曲が1番輝くのかということをもの凄くしっかり考えているはずだ。
アルバム「星屑の歌」の最後を担う曲であり、こうしたライブにおいても最後に演奏されても良さそうなくらいに締め感の強い「パレード」を演奏し、すでに演奏した曲は20曲を超えているにもかかわらず全く終わるような気配はなく、
「よく褒め言葉として「バケモノみたいな」って形容してもらうんだけど…。俺たちはバケモノなんかじゃない。本物なだけだ!」
とライブが凄すぎるが故に自分もついつい「バケモノ」という形容をしてしまいがちなのだが、そんなことを無効化するくらいに日本のパンク史、ロック史の歴史に残りそうなくらいの名言をこの幕張メッセのど真ん中で橋本が叫んでから演奏されたのは最新シングルのタイトル曲である「PEAK’D YELLOW」。MUSICAのこの曲のインタビューでは
「ダイブ禁止のフェスとかにも出る中でどうやったらもっと伝わるんだろうかと思いながら作った」
と語っていたが、このバンドはそうしたフェスにもガンガン出て行っているし、そうした場ではメンバーもステージから降りたりしない。ダイブができなくても、客席に降りていけなくても伝わるものがあるということをわかっているから。それはやはり歌であり、この曲で言うならば
「へいへいほー」
という普通なら脱力必至なコーラスの合唱である。須藤は3人のコーラスを意図的に歌声に個性を出さないようにしているとも言っていたが、それが観客が歌える要素の最も大きなポイントになっているとも思う。
もはやこの規模でワンマンをやっているという点だけでもこのバンドが本物であることは紛れもない事実であるが、
「俺たちは本物で、そして普通の男の子4人組かもしれないよ!」
と言って演奏されたバンドのことを歌った「QUATTRO YOUTH」と聴いていてどんどん胸が熱くなってくる中で、ダンサブルなリズムがこのバンドにおいては新鮮な、所属レーベルによるショートチューンコンピレーションアルバムに収録された「フュージョン」、さらに橋本が客席に突入すると観客もやはり次々とダイブしまくる「エース」とショートチューンを連発し、橋本がステージに戻ってくるとなぜか関がドラムセットに座ってドラムを叩こうとしており、
「こういう時に初めてやることをやるのはやめようぜ(笑)」
と言いながら、関がドラム、橋本がベース、須藤がギター、小松がボーカルというパートチェンジをして「ファイト!!」を演奏し、さらに橋本がドラム、関がベースとリズムを入れ替えてもう一回「ファイト!!」を演奏するというやりたい放題っぷりだが、普通に演奏が成り立っていたのは凄いことである。客席に突入しながら歌っていた小松のボーカルを聴いていると橋本がどれだけ歌が上手いのかが逆によくわかってしまうけれど。
パートを元に戻すと
「音楽で優しくなれるのがロックスターだ!」
と橋本は叫んだが、だとするならばハルカミライは本物のロックスターである。こんなに激しいのにこんなに優しさを感じるようなバンドはそうそういないし、インタビューで
「音楽に救われたことはないけど、自分の音楽でそう出来る自信はある」
と言っていたように、彼らは音楽で人を救ったり、前に進む力を与えたいと思って曲を作ったりステージに立ったりしている。その気持ちがライブでの歌と演奏に最大限に込められているから、聴いていて泣きたいわけじゃないのに涙が出てきてしまうのだ。
そしてこの日の「A CRATER」というライブタイトルが発表された時から絶対演奏されるだろうなと思っていたのは「宇宙飛行士」。
「クレーターの真ん中に描くよ 君だけにわかるような合図を」
というフレーズはこの日この会場にいた人たちとバンドだけが共有できた時間やものを真ん中のステージに立っているからこそ感じさせてくれるが、
「さぁ写真を撮ろう ちょっとだけさよならだよ」
という男女の別れの瞬間を思わせるようなフレーズが、その直後に
「忘れないでほしい 私も思ってるよ
写真はまだ見れないけどさ」
というフレーズを曲前に橋本がオクターブを下げて歌うことによって「アストロビスタ」は「宇宙飛行士」の後日談的な曲であるというつながりを感じさせる。それはライブだからこそできることであるし、曲中に
「ライブはもうちょっとで終わっちまうけど、帰ったら1人でイヤホンで俺たちの曲を聴いてくれな。そしてまたライブハウスで会おう」
という言葉を入れることができるのもライブならでは。この曲には
「眠れない夜に私 ブルーハーツを聴くのさ」
という必殺のラインがあるが、自分はリアルタイムでブルーハーツを見れなかった。すでにヒロト&マーシーはハイロウズとして活動していた。それはきっとメンバーたちもそうだろう。だからブルーハーツには間に合わなかった世代だけれど、もしかしたらだからこそこうしてハルカミライというバンドに出会えたのかもしれない。我々がこうしてハルカミライを見ているように、上の世代の人たちはブルーハーツを見ていたのかもしれない。そう考えると、この世代として生きているのは決して悪いことではないと思える。こうしてライブに行ける時間や体力があって、目の前にハルカミライが立っていて、そのライブにこんなにも明日以降生きていく力を貰えるのだから。
「終わっちまうけど、すぐに会いたいからアンコールで呼んでくれ」
と言って音が鳴った「ヨーロービル、朝」では音の上に橋本による
「八王子でライブをやりまくっていた。その時にできた曲。もういいんじゃないかっていうくらいに八王子のライブハウスでライブをやって、朝まで打ち上げをして、この曲を作った。そうしたらホームって呼べる場所になった。
俺たちが、八王子のハルカミライだー!」
と叫んでから演奏されたこの曲は、どうしたって少ししか街の風景を知らなくても八王子のことを思い起こさせる。マキシマム ザ ホルモンやグッドモーニングアメリカという先輩バンドも八王子にいる。そうした素晴らしいバンドを生み出してきた八王子という街には本当に敬意を表したくなるし、このバンドを育ててくれてありがとうと思う。
やることを予告していたアンコールでは橋本が1人で登場。
「すげぇよな。こんなデカいスピーカーから音が流れてるんだぜ」
と言いながらアコギを手にして弾き語り始めたのは「これさえあればいい」。それはバンドであり音楽のことを歌っているように感じるのだが、それを独白的な弾き語りという形で演奏したのは興味深いし、弾き語りという形だからこそ橋本のパンクバンドのボーカルとしては破格の歌唱力の高さと声量の大きさを感じることができる。
ヤバイTシャツ屋さんのこやまたくやも最近「デッカい声で歌う!」とライブ前によく意気込みを口にしているが、ヤバTもまたパンクバンドとしては異例とも言える規模でライブをすることがあるバンドだ。彼らはきっとそうした場所で全ての人に届かせるために必要なことをきっと無意識のうちにわかっている。だから行くべくして大きな場所に行っているかのような。
それで終わろうとする橋本であったが、さすがにバンドでやってくれないと締まらないだろうということでさらなるアンコールを求めると今度は4人でステージへ。明らかに何を演奏するかをちゃんと決めてない中で、客席からは「みどり!」という声が上がると、最初は「無理ー!」と言っていたが、毎回のごとくにライブでリクエストされるだけに、
須藤「全然練習してない曲だからミスるかもしれないけど、ミスって笑ったら暴れて帰るから(笑)」
橋本「暴れて帰るの見たいな(笑)」
と言いながらも、
「この曲は姉ちゃんが結婚する時に作った」
と曲が生まれた背景を語ってから演奏。緑色の照明が即座に点いたのはスタッフのファインプレーか、それとも本当はやると決めていたのか。須藤もちゃんと演奏できていただけに後者かもしれないが、曲の背景としてもこうして特別なライブの日に聴けて幸せな気分になれる曲だ。
とはいえしんみりと終わるわけにはいかず、実にこの日5回目の演奏となる「ファイト!!」で締めようとするも、メンバーがステージを降りようとする→アンコールに応えてステージに戻るということが繰り返され、
「終電気になる人は帰っていいからね(笑)これただの趣味だから(笑)」
と言ってなんと7回もアンコールをやるということに。きっと終わりたくなかった、帰りたくなかったのだろう。その気持ちは非常によくわかる。それはこっちもこのライブが終わって欲しくなかったから。
そうして繰り返されたアンコールは、
「社長が「もうそろそろ終わろう」って言ってる(笑)」
という一声によって、橋本がアコギを持つと弾き語りではなく3人も一緒に歌う形での「これさえあればいい」。サウンド的にはバンドのものではない。でも橋本だけではなく3人が歌うことによって4人のバンドの曲になる。どこかこのバンドはそんな特別な力を持っているように思う。笑っている人はもちろん、泣いている人もたくさんいた、ハルカミライの39曲にも及ぶ幕張メッセワンマンはこうして幕を閉じたのであった。
橋本はこのライブのことを、
「ライブハウスに毎回来てるやつはいつもと違うって思うかもしれない。でもこれは挑戦なんだ。バンドが強くなるため、進化するための挑戦」
と言った。「特別」ではなくて「挑戦」。それはきっとこれからもこのバンドはライブハウスに軸足を置きながらも、こうしてそれよりもたくさんの人が一緒に歌えるような場所をも作ってくれるということだし、きっとこのバンドはこれからさらにこうした会場でもいつもとは違うと思わなくなるようなライブをするようになる。それくらいに初めてライブを見た時よりも強くなっているし、進化している姿を見ているのだから。
しかしハルカミライは決して新しいことや難しいことをやっているバンドではない。なんならある程度楽器が演奏できる人を集めればすぐに曲をコピーすることはできるだろう。でも弾ける人やどんなに上手い人が集まってもこのバンドのようなライブをすることは絶対にできない。
このバンドの音からは、橋本が歌って、関がギターを弾いて、須藤がベースを弾いて、小松がドラムを叩いている姿が見えるからだ。誰にでもできそうに見えて絶対にこの人たちでしかできないことをやっているというのは、もしかしたら新しいことをやるよりも難しいことかもしれないし、ライブにおいて最も音楽を輝かせることができるのは小手先の技術ではなくて人間らしさと人間の力であるということをこのバンドは教えてくれる。だからパンクの衝動や衝撃を15年くらい前にすでに通過している自分のような人間が見ていても感動してしまうし、それは世代や年代や時代がどんなに変わったとしても絶対に変わらない、1番大事なものをこのバンドが持っているということだ。結局、どれだけいろんなジャンルの音楽を聴いていても、自分が帰ってくるのは、1番心を鷲掴みにされるのはこういうバンドなんだろうし、自分が今10代だったらこのバンドによって人生を変えられていたんだろうな、とも思う。
こんなバンドにこの時代になって出会えるなんて思っていなかった。ピュア過ぎるように見えるメンバーたちであるが故に、どうか周りに惑わされないで欲しいし、風が僕らを揺らしても、季節が過ぎてもこのままでいて欲しいと思う。そしてこれから先も、ハルカミライがカッコいいんだって話ができたら、それだけで。
1.君にしか
2.カントリーロード
3.ファイト!!
4.俺達が呼んでいる
5.春のテーマ
6.俺よ勇敢に行け
7.ゆめにみえきし
8.predawn
9.October’s
10.幸せになろうよ
11.ファイト!!
12.Tough to be a Hugh
13.Tough to be a Hugh
14.星世界航行曲
15.ウルトラマリン
16.Mayday
17.ラブソング
18.世界を終わらせて
19.君と僕にしか出来ない事がある
20.Tough to be a Hugh
21.それいけステアーズ
22.パレード
23.PEAK’D YELLOW
24.QUATTRO YOUTH
25.フュージョン
26.エース
27.ファイト!! パートチェンジver.
28.ファイト!! パートチェンジver.2
29.宇宙飛行士
30.アストロビスタ
31.ヨーロービル、朝
encore
32.これさえあればいい (弾き語り)
encore2
33.みどり
34.ファイト!!
encore3
35.俺達が呼んでいる
encore4
36.フュージョン
encore5
37.Tough to be a Hugh
encore6
38.エース
encore7
39.これさえあればいい (4人ver.)
文 ソノダマン