渋谷O-Crestの店長のムロキヨト氏が主催するフェス、MURO FES。これまでに晴海埠頭、新木場STUDIO COAST、お台場特設会場、幕張海浜公園と、野外の会場はことごとく今はオリンピック関係で使えないであろう場所を転々としてきたフェスであり、ライブハウスで生きているバンドの晴れ舞台にして見本市的なフェスであるが、昨年の中止を経て今年は本拠地と言える渋谷のO-EAST、duo music exchange、O-Crestの3つの会場で開催。さらにO-EASTはメインのMU STAGEとサブのRO STAGEに分かれており、計4ステージで総勢40組以上が出演。
リストバンド引き換え時に検温と消毒をしてから各ライブハウスに入るという形式であるというのは今の通常のライブハウスでのライブと変わらないが、やはりアルコールなしというスタイルで、各会場は床にそれぞれ線で区切ってあったり、足のマークの立ち位置が貼ってあるというスタンディングスタイル。
10:00〜 バックドロップシンデレラ [MU STAGE]
メインステージであるO-EASTのトップバッターはバックドロップシンデレラ。このフェスではおなじみの存在のバンドであるが、主催のムロキヨトは開演前のおなじみのグダグダな挨拶で、このライブ後に名古屋へ行って対バンライブをやるという超強行スケジュールであることを明かす。
先に豊島”ペリー来航”渉(ギター&ボーカル)、アサヒキャナコ(ベース)、鬼ヶ島一徳(ドラム)という3人がステージに登場すると、豊島がギターを弾きながら
「毎年毎年MURO FESは朝が早くて嫌になっちゃうよ」
と「およげ!たいやきくん」の替え歌でフェスの出演時間の早さを愚痴りながら、
「9年前に初出演した時も朝10時からのオープニングアクトだった。変わらずにいるMURO FES最高」
と、初出演時と同じ時間に戻ってきたことを明かして、でんでけあゆみ(ボーカル)が登場。そこからは豊島のスカのリズムの強いギターと、妖艶な出で立ちのアサヒ、手袋を装着してスティックを持つ鬼ヶ島のリズム隊によるサウンドで朝イチから踊らせまくるのだが、でんでけあゆみの身軽さ、機動力はとても朝10時のバンドマンのそれとは全く思えないし、それはバンドの演奏の強さとテンションもそうである。どんなに朝が早くても眠くても、ステージに立てば自分たちの音楽を全力以上の力で鳴らす。そこにはライブハウスで生きるバンドの生き様そのものが鳴っていた。
このバンドにとっては初めてのフェス出演がこのフェスのオープニングアクトだったということで、曲の願望や夢を叶えてくれたフェスに出ているという感慨を感じさせる「フェスだして」では間奏で鬼ヶ島が
「ムロツヨシがムロの全てじゃない〜」
とコーラスを繰り返していたが、豊島によるとムロツヨシがブレイクしたピーク時は3割の客はムロツヨシのフェスだと思ってチケットが売れていたという。そんなわけないけど、確かに今でも勘違いする人がいるのも確かである。
あいみょんのヒット曲にインスパイアされたであろうタイトルの「2020年はロックを聴かない」は昨年のライブがなくなってしまっていった時の心境をビックリするぐらいにありのままに描いた曲であるが、曲の中に微かな希望があるからこそ、それが今、2021年に繋がってこうしてこのフェスが開催されているし、バックドロップシンデレラもライブハウスを巡る生活をすることができている。
リリースされたばかりの「8月。雨上がり」は時に意味不明にも取れるこのバンドの歌詞の中では情景描写の曲となっているが、梅雨が明けてこの曲の描いている通りの情景になってきたと言える。
そんな中でこのフェスの歴史を知るメンバーたちなだけに、
「9年前にまだ誰からもフェスに呼ばれなかった我々がオープニングアクトで初出演した時、もう1組のオープニングアクトがSUPER BEAVERでした。ムロさんは先見の明があり過ぎるのかなんなのか(笑)
でもこうして批判されないギリギリの規模の中くらいのフェスが開催できていることに本当に感謝しておりますし、ムロさんは凄いと思っております」
とフェスの歴史で笑わせつつ、バンドだけではなくフェスにも拍手が送られるようにする話術はさすがもはやベテランの域のバンドである。
そしてラストはでんでけあゆみがさらに高く飛び上がりまくる「月あかりウンザウンザを踊る」から「さらば青春のパンク」というキラーチューンの連発で、やはりO-EASTは朝イチとは思えないダンスフロアとなる、最高のスタートダッシュを切り、バンドはビレッジマンズストアと対バンするために足早に名古屋に向かったのだった。
1.台湾フォーチュン
2.フェスだして
3.2020年はロックを聴かない
4.8月。雨上がり
5.月あかりウンザウンザを踊る
6.さらば青春のパンク
10:35〜 Atomic Skipper [RO STAGE]
O-EASTの中はMU STAGEが終わるとすぐにRO STAGEのサウンドチェックからライブが始まるという、次々にバンドが出てきてはライブが見まくれるという設営。そのRO STAGEにトップバッターで登場するのはAtomic Skipperである。
静岡は浜松出身のバンドであり、最近は千葉LOOKのスケジュールなんかでもよく名前を見ることがあるのだが、至ってそのあたり、というかこうしたライブハウスの客席側にめちゃくちゃいそうな紅一点ボーカルの中野未悠(Tシャツに黄色いハーパンという服装も含めて)のパワフルなボーカルが、青春パンクも思わせるようなストレートかつファストなバンドサウンドに乗るのだが、「ロックバンドなら」というタイトルの曲から始まるというあたりが、本当にロックバンドが好きで好きで仕方ないんだろうなと思うし、神門弘也(ギター)と久米利弥(ベース)の2人も、4人編成のバンドとしてはかなり狭いこのRO STAGEの上で楽器を抱えてジャンプしたりする。もう少し大きなステージだったらどんな開放的なライブを見せてくれるんだろうか。
中野はこのフェスへの思いを叫んでもいたが、そうした姿も歌い方も完全にロックバンドをやって生きていこうとしている人のそれであるが、「幸福論」「スーパーノヴァ」「人間讃歌」というあたりはこれまでに数々の先輩バンドやアーティストたちが歌ってきたテーマであるが、それでも埋もれることがないだろうなというくらいにメロディが強い。おそらくはひたすらにそこを磨いていくというバンドになっていくのだろうと思われるが、世代的にも編成的にもインディーズの頃のSHAKALABBITSを彷彿とさせた。もしかしたらこれからいろんなフェスの火付け役として会うことも多くなるかもしれないと思える存在。
1.ロックバンドなら
2.幸福論
3.コアビリーフ
4.スーパーノヴァ
5.人間讃歌
6.シグネイチャー
11:00〜 BYEE the ROUND [duo]
このフェスには何組かの、ずっと出演し続けているフェスの守り神的なバンドがいる。そんな中でもAJISAIとともに、数少ない帰ってきた守り神バンドであるのがこのBYEE the ROUNDである。
というのもBYEE the ROUNDは紆余曲折の末に2015年に活動休止をし、2019年に活動再開をしたバンドだからである。これまでもこのフェスで数々の名場面を作り、松山晃太(ボーカル&ギター)は休止後もGRAND FAMILY ORCHESTRAでこのフェスに出演してきた(今回も出演している)が、このバンドでMURO FESに本当に久しぶりに帰還。
メンバー4人がステージに登場すると、高橋”Satoshiante”(ギター)が髭が伸びたことによって夜の本気ダンスのドラムの鈴鹿秋斗に瓜二つという出で立ちになっているが、長髪のオオイユウスケ(ベース)、金髪で童顔のSO(ドラム)というリズム隊の見た目は休止前とまるっきり変わっていないようにすら見える。
自分自身もかつては代官山UNITでのワンマンを観に行くなど、非常に期待していたバンドであっただけに活動休止は残念であったが、復活して初めて見る今、バンドがどんなライブをやるのかというのがなかなかイメージがつかなかったのだが、「イメージ」から始まると、かつての焦燥感を感じさせるギターロックサウンドと、伸びがありながらも太さを感じさせる松山のボーカルという要素は全く変わっていない。
しかしながら変わったな、と一目でわかるのは、松山が演奏中に笑顔になっている場面が多いことだ。音楽性的にそうならざるを得ない部分もあったのかもしれないが、休止前はもっとメンバー間がライブ中もバチバチしていた。笑顔というイメージはほとんどないバンドだった。
それが休止につながっていったであろうこともわかるのだが、松山はそうした笑顔を浮かべて「反逆のmm」の間奏で、
「ベース、オオイユウスケ!」
とオオイを指差し、オオイはそれに応えるようにベースを高く掲げながらソロを弾く。松山も、後ろではSOも笑っている。このバンドで、この4人でこのフェスに戻って来れたのが嬉しくて仕方がないというのが表情から溢れ出ている。こんなBYEE the ROUNDが見れるなんて全く想像していなかった。
とはいえそんな劇的な復帰劇を果たしたこのバンドがなんでこの位置での出演?と思っていたら、
「ムロさんからBYEE the ROUNDで MURO FESに出て欲しいって連絡が来たんだけど、サトシが「ちゃんとリハ出来ないから出たくない」って言い出して(笑)
それをそのまま伝えたら、トップバッターならリハがちゃんとできるってことでこの時間になりました(笑)」
という予想外過ぎる理由が。
そんな高橋の印象的なギターリフが炸裂する「コンティニュー?」での爆発するかのような音の圧力の中で、
「まだ人間で居るか やめにしようか
アーティストだから答えないとな」
という答えを自分たちの今の姿でしっかりと提示すると、このバンドの持つメロディの良さとロックバンドとしてのカッコよさが最大限の水準で融合する「共犯者は笑う」で松山の歌唱もさらに伸びやかになる。聴いていて本当に懐かしくなった。リリース当時、本当によく聴いていた曲たちだったから。
この状況の中で開催することを選んだ主催のムロ氏とこのフェスへの感謝を告げると、最後に演奏されたのは
「だけどまぁいつもアリガトウ
もっといい歌作るよ
それじゃサヨナラ」
という締めのフレーズがこのバンドのこれからに期待させる「ロックスター」で再びオオイのベースソロも交えながら、実に久しぶりのMURO FESのステージを終えた。最後にステージを去ったSOのマイクを通さなくても外まで聞こえるんじゃないかというくらいの声量での
「ありがとうございました!!!」
はメンバーが手にした充実感を示していた。
GRAND FAMILY ORCHESTRAのライブも見たいとずっと思いながらも、休止してからのメンバーの活動はほとんど追っていないし、休止してからはBYEE the ROUND自体の曲も全く聴いていなかった。それでもこうしてライブを見ればメロディもリズムも歌詞も体が覚えている。曲のタイトルもすぐに出てくる。活動はしていなくても、バンドは自分の心の中でずっと生きていたのだ。今でも自分とバンドは手を結んだ共犯者のままだった。
もうデカいことをやってやろうとか、これからまたシーンに攻めていこうなんてことはもう考えていないだろう。それでも、たまにでいいからこうしてこの4人でBYEE the ROUNDの曲を演奏するのを見ることができたなら。それがMURO FESに来れば毎年見れるものになるのならば、また一つこのフェスに毎年来る理由ができる。
1.イメージ
2.反逆のmm
3.一言だけ
4.コンティニュー?
5.共犯者は笑う
6.ロックスター
11:50〜 LUNKHEAD [duo]
LUNKHEADは近年夏フェス(出自が少し異なるとはいえ、このフェスでもレギュラー的な存在になりつつある)に出ると毎回リハで何のサウンドのチェックにもならないはずの「夏の匂い」を演奏してくれる。
それはこの日も「サービス」と言って演奏してくれたし、かつて地上波のCM曲として大量にオンエアされていたこの曲の存在を今も大事に思ってくれている人がたくさんいるということをメンバーがわかっているのである。
本番ではハットを被った金髪の山下壮(ギター)がアルペジオを奏でると、ベテランになった今も変わらない少年性をその声に宿す小高芳太郎(ボーカル&ギター)のボーカルが響き、カラフルおじさんこと合田悟(ベース)がグルーヴィーにベースを弾きながら客席から見えなくなるくらいに左右の袖の奥まで歩いて行ってしまうという「前進/僕/戦場へ」という初期からの代表曲からスタートするのだが、
「もうだめだ打ちのめされた そこが僕の始まりだった
誰もいないこの場所で 独りきりで誓いをたてた
胸の奥にゆるぎない ひとかけらの勇気手にしたら
前だけを見て歩いてゆける 僕が生きるべき戦場へ」
というサビの歌詞は今の音楽が、バンドマンが置かれている状況からこうして一歩踏み出すことをそのまま歌っているようじゃないか。いつだってライブハウスやフェスのステージはLUNKHEADにとっての戦場である。2004年にリリースされた曲が今こんなにもリアルに響くということは、これから先もこの曲は変わらぬ普遍性を持ってありとあらゆる状況の我々の背中を押してくれるということである。
山下がギターを銃のようにして客席に向けた「ギグル」からはバンドのサウンドがどんどん獰猛なものになっていく。もはやこのフェス出演者の中で最ベテランと言っていいレベルのキャリアを誇るバンドが今になってこうしてロックバンドとしての刃をさらに研ぎ澄ませているというのはLUNKHEADなりに時代の空気に敏感に反応して、ロックバンドとしてそこと戦っているのかもしれない。
渋谷という街の持つ猥雑さをロックバンドとしてのサウンドに落とし込んだ「SHIBUYA FOOT」はこのフェスがこうして渋谷で開催されているからということに合わせた選曲であると思われるが、そうした遊び心を近年の曲で表すことができるというのはそれはそのまま今の自分たちの姿を見せることにもつながることである。
「履きなれた靴を履いて
ナンバーガールを耳に刺して
深呼吸をひとつする」
という歌詞の「アウトマイヘッド」もまた近年のバンドの鋭さを示す曲であるのだが、小高はナンバーガールのコピバンもやったりしているし、この日のサウンドチェックでも「IGGY POP FUNCLUB」のギターを弾いたりしていた。復活して今ライブが見れるということを小高はどう思っているんだろうか。いつか対バンすることができたら、と思わずにはいられない。
「今日が来年このフェスが野外で2daysできることに繋がっていく。俺たちの最大の攻撃は笑い合うこと、喜び合うこと」
と小高がこのフェスの未来と、それを作るための我々の戦い方を口にしてから演奏されたのはそうしたメッセージがそのまま歌詞に詰め込まれた「小さな反逆」。
結果的にはアルバムとしては最新作となる「plusequal」の曲が続く形になったが、そのアルバムもリリースされたのは2019年。コロナ禍になる前にリリースされた曲たちが結果的にはコロナ禍を生きていくための曲になっている。
それはそのままLUNKHEADというバンドの生き方が今この状況に対して強い力を持った、有効なものであるということを示しているし、そうした音楽を作り続けているということを、せめて昔ロッキンやCDJに毎年出演していた頃に聴いていた人たちくらいには、知って欲しいなと思う。今でも、というより今は今までで1番カッコいいバンドだから。それは止まることなく続けてきたからである。
リハ.インディゴ
リハ.夏の匂い
1.前進/僕/戦場へ
2.ギグル
3.SHIBUYA FOOT
4.アウトマイヘッド
5.小さな反逆
12:35〜 Large House Satisfaction [O-Crest]
BYEE the ROUNDほどではないが、しばらくライブを見ていないうちにドラマーが脱退して、今は賢司(ベース)と要司(ボーカル&ギター)の小林兄弟とサポートドラマーという編成になっている、Large House Satisfaction。
リハでは
「ロッキンに出た時にノリにくい曲を1曲やったらその瞬間に人がごっそり移動していった(笑)」
という今だからこそ笑える過去の話をしてくれるが、実際にそのライブを見ていただけになかなか笑えないくらいにマジで人が居なくなって寂しい思いをした記憶が蘇る。
ドラマーは黒髪長髪の田中秀作からサポートメンバーの、ちょっと痩せて金髪だった頃のタカandトシのタカを思い出させるワイルドな風貌のサポートドラマーのSHOZOに変わっているのだが、このSHOZOがビックリするくらいにドラムが上手い。もはや体全体がリズムでありグルーヴというような手数と音の強さ。時に立ち上がって叩いたりと、ドラムスタイルも見た目以上に派手だ。メンバー脱退というのはネガティブに捉えられがちな事象であるし、明らかにデビュー時よりも規模が小さくなってきているだけに、どうなるんだろうかとも思っていたのだが、まさかこんなドラマーを見つけてくるとは。
そのSHOZOのドラムがあまりに強いだけに、小林兄弟のギターとベースの音も超爆音。完全にこの日見た中では1番ライブを見ていて耳が痛くなるくらいの爆音でロックンロールを鳴らしていた。
かと思えば
要司「今日めちゃくちゃ暑いよな。もうちょっと涼しくてもいいのに」
賢司「天気の話?1番世の中でどうでもよいと言われている天気の話をしてる?(笑)」
要司「でも後輩とかに話しかけられたりしたらそういう話になるだろ(笑)俺は誰に挨拶されても「ウッス」って返すだけだけど(笑)」
と、小林兄弟の距離感も良い意味で変わってきたように感じるMCの緩さ。これは賢司がツイッターで使っているギャラガー兄弟の関係性とは全く違うと言っていいだろう。
近年生まれた曲が多めだったのか、前からよく聴いていた曲は4曲目に演奏された「Traffic」だけだったが、今までは合唱を煽っていたコーラス部分ではSHOZOが立ち上がりながらのバスドラの連打のみが響くという形になり、
「MURO FESでバスドラだけ響くのって夢だったんだよねー。誰も他にやってないでしょ」
と強がるように要司は言っていたが、そこには少しばかりの寂しさも感じられる表情だった。と思ったら賢司が要司の方に寄ってきて、要司の脇にベースを挟むという兄弟仲に笑わされてしまったのだけど。
最後まで爆音ロックンロールをぶちかますという25分間だったけれど、編成が変わったことによってLarge House Satisfactionは間違いなくその「爆音ロックンロール」という部分に焦点を強く当てたバンドになった。以前までもカッコ良かったけれど、今がこんなに凄いなんて全然想像していなかった。この形で来月はa flood of circleと久しぶりに2マンライブを行う。それが本当に楽しみになった。
13:30〜 LEGO BIG MORL [MU STAGE]
サウンドチェックに出てきた段階でタナカヒロキ(ギター)の髪が非常に長く量も多くなっていることが目を惹く、LEGO BIG MORL。大型フェスに出ていたことも多いだけに、あまりこのフェスっぽくないようなバンドという感じもするけれど、実は毎年のようにこのフェスに出演してきているバンドである。
同期の壮大なサウンドの上にカナタタケヒロの澄んだボーカルが乗る「RAINBOW」でこのフェスの未来に虹をかけるようにスタートすると、この日朝イチからずっといろんなバンドのライブを袖で見ていたアルカラの稲村太佑が「ちょっとステージ側に出てきすぎじゃない?」と思ったらそのままマイクを持ってコーラスで参加し始めるといういきなりのコラボ。実はこれはアルカラ主催のネコフェスでも行われたコラボだったらしいのだが、
カナタ「いきなりコーラスデカくなったからビックリしたわ(笑)」
と言っていたことから飛び入りでのコラボだったのかもしれない。コーラスしながら踊りまくる稲村の姿は神聖な空気のこの曲で観客だけでなくステージ上も笑顔にしてくれるが、稲村の1番近くにいるヤマモトシンタロウ(ベース)はいつものポーカーフェイスが全く変わらないのも凄いと思う。
そうして稲村との突然のコラボを終えると、
「この状況だから生まれた曲」
と言って、
「こんな僕に 聖人を求めるなよ 正体はそうでもない
もうちょっと遊びたい でも怒られそうか
潔癖症押し付けても 本当に君自身の
あれやこれ 汚れてないのかな」
という歌詞がまさに「今」に突き刺さるギターロックサウンドの「潔癖症」を披露するのだが、それはコロナ禍ということだけではなく、知り合いでもなんでもない有名人のプライベートなことについて何かと言いがちな今の世の中に対しての警鐘としても聞こえる。でもお前はどうなんだ?と。
「RAINBOW」もそうであるが、「Spark in the end」でも同期の浮遊感のあるデジタルサウンドを取り入れており、そうした要素を取り入れて進化してきたバンドの姿を感じられるのだが、このフェスにおいてはそうしたバンドがほとんどいないだけにそうしたサウンドが実に新鮮に感じられる。
しかしながらタナカによるMCではカナタが意味不明なタイミングで拍手をしたりと、どんどん漫才みたいな空気になってきているのは15周年を迎えたバンドだからこその経験と余裕なのかもしれないが、
「本当に今こうしてたくさんの人が関わるフェスをやるのは大変で。こうして開催してくれてるムロさんに恥かかせたらいかんで。みんな絶対ルールやマナーを守って、感染者ゼロで今日を終わらせられるように」
という言葉からはバンドの姿勢と人間性を感じさせる。見た目がスマートなメンバーたちだからこそ音楽性も人間性もそういうイメージを持ちがちだが、忘れらんねえよらと深い交流があることなどからも、このバンドのメンバーたちはむしろ泥臭いロックバンドというような人間たちだと思う。
「俺ら時間押してるよね?(笑)そしたらIvyに1曲削って貰えばいいか(笑)」
という後輩への愛あるいじりも含めて。
そうしたバンドだからこそ、最後に演奏されたカナタの歌唱力の高さを最大限に活かした壮大なバラード「あなたがいればいいのに」はいわゆるJ-POP的なラブソングとしてではなく、目の前にいる1人1人がこうしてライブという場にこれからもいて欲しいと思えるような説得力に満ちていた。本人たちも
「俺たち1曲1曲が長いから(笑)」
と言っていただけに、25分だと4曲しか演奏できないが、もっと長い尺でも見てみたい。
リハ.end-end
1.RAINBOW w/ 稲村太佑(アルカラ)
2.潔癖症
3.Spark in the end
4.あなたがいればいいのに
14:05〜 Bentham [O-Crest]
前週にはベースの辻怜次を秋山黄色のサポートで演奏しているのを見た、Bentham。ドラムの鈴木敬もかつて秋山黄色のサポートで叩いたことがあるだけに、なんらかのバンドとしての接点があるのだろうか。こちらもライブを見るのは久しぶりである。
メンバー4人がステージに登場すると、鈴木の軽快な4つ打ちのリズムのイントロにライブならではのアレンジが加わっているのはおなじみのキラーチューン「パブリック」であるが、オゼキタツヤの歌うメロディや曲の骨格はそのままに須田原生のギターとリズム隊の音で曲をライブごとにブラッシュアップするというのがBenthamのスタイルであり、いつもとセトリが同じように見えて内容や印象はライブを見るたびに変わる。
タイトル通りに曲とサウンドで踊りまくり、楽しい雰囲気にしてくれる「FUN」と、やはりBenthamのダンサブルなロックサウンドは本当に我々を楽しくさせてくれるのだが、オゼキは
「絶対に乗り切ろうな」
と実にシリアスな口調でこの状況への思いを口にしていた。バンドは10周年を迎え、それに向けたスペシャルライブを10月に川崎クラブチッタで行うが、それに向けたクラウドファンディングも行っている。クラブチッタはかなり規模が大きめの会場ではあるが、もうバンド側もそうして協力を募らざるを得ない状況にあることにあるということがオゼキをシリアスにさせているのかもしれない。それでも、
「他の人のことよりも、今は自分のことを考えて。無理はしなくていいから」
というところにオゼキの人間性が表れている。
そうした思いを込めたか観客へのアンサーと言えるような「僕から君へ」から、こちらも「パブリック」同様に須田のギターとリズム、さらには曲終盤のコーラスを鈴木がはじめとして低いキーで歌うことでどこかコミカルなイメージにアレンジした「クレイジーガール」で飛び跳ねさせまくると、最後に演奏された新曲は全くそうした飛び跳ねたり踊ったりする曲ではない。ただこの1年間にBenthamというバンドが負ったもの、見てきたことについて歌っている曲、というイメージだった。この曲を含めてファンとの絆を改めて確認した(クラファンはすぐに目標を達成した)Benthamはこれからどんな曲を生み出し、どんな活動をしていくのだろうか。その最初の1歩がこの曲に反映されている予感がしている。
1.パブリック
2.FUN
3.僕から君へ
4.クレイジーガール
5.新曲
14:40〜 Ivy to Fraudulent Game
すでに本番前から寺口宣明(ボーカル&ギター)がハンドマイクで「革命」を歌っていた、Ivy to Fradulent Game。この曲を本編ではやらないのか、という感じもしてしまうが、持ち時間が短いフェスであるために仕方がない部分でもあるだろう。
本番では寺口もギターを持っての「青写真」からスタートするのだが、金髪のライブキッズ風な出で立ちのカワイリョウタロウ(ベース)のゴリゴリなリズムは寺口の出で立ちによるスマートさがそのままバンドのイメージっぽく感じてしまうことを覆すくらいに熱く、泥臭い。
それは「blue blue blue」でも寺口が煽るように叫んだりし、ギターをぶん回すというステージングからも感じられることであるが、大島知起のステージ上を動き回りながらの演奏も、腕を振り下ろすように感情をステージ上で爆発させるカワイも含めて、ライブを見るたびにこのバンドのイメージは更新されていく。それははるかにロックであるというものに。
リリースされたばかりの新曲「ゴミ」はこのバンドの歌詞を哲学的かつ文学的に担ってきた福島由也(ドラム)によるものではなく、寺口による歌詞。だからこそ今までの曲に比べるとかなりストレートな歌詞にも感じられるし、珍しく終わったラブソングというイメージを抱かせる。
「あまり喋らずにガンガン曲をやりたい」
と言って昨年配信リリースされ、今年リリースされたアルバム「再生する」にも収録された「旅人」の
「新しいノーマル 貴方となら行けるさ
まだ行けるさ まだ行けるさ
って思ったんだよ」
という福島の描いた歌詞はこのバンドなりにこの世界を生き抜いていこうという姿勢が表れているが、そうして「生きること」「死ぬこと」をこの状況になる前からずっと歌い続けてきたバンドだからこそ、寺口が叫んだ
「生きていこうぜ!」
という言葉は胸に響くし、最後に演奏された代表曲と言える「Mement Mori」は究極的にそうしたことを歌っている曲だ。
「そうやって僕等は一つ一つを
乗り越えながらも生きている
生きる為生きていたってさ
いつかは死んでしまうから
あらゆる不安や畏怖の意味の無さに
笑ってみせて欲しい
いつかは死んでしまうなら
大した事など無いから
あらゆる不安や畏怖の意味の無さに
笑ってみせるがいい
想えいつかの死」
という歌詞は今まで聴いてきた中でこの日が1番響いた。生きる為に生きているんじゃなくて、こういう日のために生きている。Ivy to Fraudulent Gameの持つ死生観やバンドとしての熱さは今こそ強い力となるんじゃないか、このバンドが強く輝くのは今なんじゃないだろうかという気さえしている。
リハ.革命
1.青写真
2.blue blue blue
3.ゴミ
4.旅人
5.Mement Mori
15:15〜 KAKASHI [RO STAGE]
もう4年前か、お台場でこのフェスが開催された時にオープニングアクトで見たのがKAKASHIだった。その時は群馬から出てきた純朴そうな少年たちによるギターロックバンドというイメージだったが、それからも毎年出演していたにもかかわらず、その時以来の邂逅である。
RO STAGEの狭いステージに4人が登場すると、堀越颯太(ボーカル&ギター)による、
「群馬県KAKASHIです、よろしくお願いします!」
と言って、
「結局変わらないんじゃないか。
どうにもならないんじゃないか。
こんな思いをするため走ってきたの?違うよ。」
という「違うんじゃないか」の歌詞がまさに今の音楽シーン、フェスシーンをそのまま捉えているかのようで、一瞬にして掴まれてしまった。いや、それは歌詞だけではない。ギターロックというよりも青春パンクと言っていいくらいに激しく、重く強くなったバンドサウンドとメンバーの演奏時のパフォーマンスによって掴まれたのだ。この1曲で「ああ、変わった」と思った。4年前に見た時はこんなことは全く思わなかった。
「2年ぶりのMURO FES。その間に今年ここに一緒に出てるはずの仲間がたくさん居なくなってしまった」
と、堀越はコロナ禍になって周りにいたバンドたちが居なくなってしまったこと、このフェスで会えなくなってしまったことを口にする。
その堀越の周りを固める、幼い見た目の斎藤雅弘も荒々しく足を振り上げたりしながらギターを弾き、長い髪をヘッドバンドで留めた中屋敷智裕(ベース)と関佑介(ドラム)のリズム隊も速さもありながら実に力強い。俺たちはこれをやって生きていくんだ、という強い気持ちがそのストレートな演奏をさらに加速させている。
何より驚いたのはたくさんの観客が腕を上げてこのバンドの演奏や音にダイレクトに反応し、それが明らかにちゃんと曲を知っているというものになっていたということ。こんなバンドになっていたのか…というのはバンドだけではなく観客側を見ていてもわかることである。
その観客の思いに応えるように堀越は
「来年も開催されたらいいなぁ。来年も出れたらいいなぁ。来年もあなたがここにいてくれたらいいなぁ。来年もあなたが好きなバンドが出てくれていたらいいなぁ」
と口にした。ただ曲が浸透しているだけじゃなくて、その聴いてくれている、ライブに来てくれている人たちの思いを背負えるバンドになっていたのだ。何よりもそこにバンドの成長と進化を感じてしみじみとしていたのだが、その後に
「あと、来年は一緒に歌えるといいなぁ」
と付け加えたことにトドメを刺された。このフェスや、音楽シーンのことすらも背負える、そこにちゃんと説得力を感じられるようなバンドになっていた。だからこそ「ドラマチック」「ドブネズミ」というラスト2曲の畳み掛けは、この日最も感動した瞬間だった。
正直、4年前に見た時はほとんど印象に残っていない。それくらいに普通のバンドだな、という感じで終わってしまっていた。でもこの日見たKAKASHIはどう考えても普通のバンドではない、群馬県のKAKASHIというこのバンドでしかない大きな存在になっていた。
そう思った経験を近年すでにしているなと思った。それはこの日MU STAGEのトリ前に出るハルカミライだ。ハルカミライも昔、高田馬場の小さなライブハウスで見た時は「普通のバンドだな」と思っていた。でも今はそのバンドを自分は追いかけるようになっている。KAKASHIもそうした存在になるのかもしれない。
1.違うんじゃないか
2.本当のこと
3.グッドバイ
4.変わらないもの
5.ドラマチック
6.ドブネズミ
16:00〜 TOTALFAT [MU STAGE]
このフェスにはオーバーエイジ枠というか、敢えて今このフェスに出なくても、というくらいの存在のバンドが出てくることがある。中止になった去年もストレイテナーがラインナップに並んでいたし、過去にはandropなど、すでに大型フェスに毎年出演しているようなバンドが若手に混じってバンドの強さを示してきた。今年のその枠はこのTOTALFATだと言っていいだろう。なんと10年ぶりの出演だという。
3人がステージに登場すると、Jose(ボーカル&ギター)が
「夏の始まり 君と交わり 絡み出す恋心」
と弾き語りのように歌い始めた「夏のトカゲ」からスタートし、曲中では祭囃子に合わせてタオル回しも行われる。ライブハウスの中にいると暑さや太陽を感じることはなかなかできないが、こうしてこのバンドがこの曲を演奏してくれることによって気分は完全に夏だ。
その夏の気分を夏の野外フェスで感じたかったな、と思うのはBunta(ドラム)による激しい高速ツービートにJoseのハイトーンボイスが伸びる「晴天」。リリース時はそれなりに賛否両論あったりした曲であるが、ライブでやり続けてきたことによって間違いなく今やバンドの代表曲になっている。
Shun(ベース&ボーカル)がこのフェスへのリスペクトを込めて演奏した「My Game」という、バンドが3人になってから生み出された曲で今のTOTALFATとしての形を見せるのだが、きっとこのフェスの客層からしたら初めてTOTALFATのライブを見るという人もいるはずで、そうした人から見たらおそらくもともと4人だったのを3人という形でやっていることに気付かない人もいるであろう完成度である。パンクバンドでありながらも荒さや衝動もありながら、決してそれだけではない。それはやはりキャリアと経験、そしてこうしたフェスに今でも参戦するというライブへの変わらぬ意欲があってこそのことだ。
持ち時間が短いが故に早くもやってきた「Party Party」で完全にこのフェスをホームに変えてしまうぐらいに観客を踊らせまくると、
「このフェス、フェスの名前が主催者本人の名前になってるんだけど、なかなかそういうフェスはないよ。何かあったら主催者本人に全部責任が行くんだから。今いろんなフェスが苦しい立場にある中でも、こうして責任を全部背負う気概を持ってこのフェスを開催してるムロさんに大きな拍手!今はライブハウスに来れなくても、配信でこのライブを見てくれてる人にも大きな拍手!俺たちはずっとライブハウスで音を鳴らしてるから、またそれぞれがライブハウスに行けるタイミングになったら来てくれ!」
というShunの言葉からは主催者だけでも参加者だけでもなく、来たくても来れない人へも思いを馳せていた。だからこそ最後の「Place To Try」は本当に今だからこそ沁みるのだ。
「Foever
君はひとりじゃない
涙こえて
君と進んでいこう
何も怖くなんてないんだ
This is the place to try」
という歌詞は青臭いかもしれないし、文字にすると薄っぺらいかもしれない。それでも今この曲が、この言葉が本当に力と勇気をくれる。
その説得力も含めて、やはりちょっとTOTALFATはありとあらゆる面でレベルが違うバンドだ。そんなバンドがたった5曲、たった25分のためにこのフェスに出てくれて、こうして音楽やライブへの思いを口にしてくれる。その姿勢に心からリスペクト。
リハ.スクランブル
リハ.Show Me Your Courage
1.夏のトカゲ
2.晴天
3.My Game
4.Party Party
5.Place To Try
16:35〜 TETORA [RO STAGE]
時勢的にキャパを少なくしなければいけないとはいえ、早くもZeppでワンマンをやるようになっているバンドである。大阪の女性スリーピースバンドというと、yonigeやHump Backという先輩バンドと出てきた時の勢いとしても重なるところもある。
3人がステージに登場すると、演奏を始める前に上野羽有音(ボーカル&ギター)が、
「たった25分!たった5曲!でも持ち時間の長さよりも余韻の長さやと思ってる!初のMURO FES、忘れられない時間にしたる!」
と思いっきり叫んでから「素直」へ。上野がレフティであるが故にベースのいのりとの並びが楽器としても対照的になっているというのはバンドの並びとして実に美しいが、上野のそのCharaをめちゃくちゃロックにしたかのようなハスキーなボーカルは好き嫌いは別れてしまうかもしれないが、紛れもなくTETORAをTETORAたらしめている要素であると言えるだろう。
そんな中で「正直者だな心拍数」には
「「ライブハウス」って言ったらママが嫌な顔をするらしい
そうだよね ママのいう事をちゃんと聞いた方がいいんじゃない?
ああ 耳鳴りでお説教が聞こえない
こんにちは先生
わたし、その口コミよりシンジツを知ってます」
という歌詞がある。それはこの状況になってもライブハウスで生きていくということの宣言であり、ライブハウスを信じているということでもある。ライブハウスって言っても親も誰も嫌な顔をしないような世の中になって欲しいと、この曲を聴くといつも思う。
しかしながらいのりは飛び跳ねながらベースを弾き、ミユキ(ドラム)は思いっきり振りかぶってキメを打ち、上野は狭いステージ上を転がりながらギターを弾く。演奏も実にしっかりしているけれど、その衝動を炸裂させるライブはまだデビュー間もないとは思えないくらいにライブの見せ方、ライブそのものが素晴らしいと思える。yonigeもHump Backも最初に見た時は曲は良いけれどライブとしてはまだまだ、という感じだったのだが、TETORAはすでにそこをきっと無意識のうちに体得している。だからこそZeppまで行くのも納得であるし、ラストの「レイリー」のメロディのキャッチーさも含めて、まだまださらにその先も見えているバンドだと思う。このフェスのキャパを飛び越えてしまうくらいに。
リハ.もう立派な大人
リハ.どうせ
1.素直
2.正直者だな心拍数
3.知らん顔
4.今日くらいは
5.レイリー
17:10〜 ラックライフ [MU STAGE]
もともとはこの時間はこのフェスを象徴するバンドであるLACCO TOWERのはずだった。しかしスタッフに体調不良者が出てしまった(検査の結果は陰性だったという)ため、やむなく急遽出演キャンセルとなってしまった。
そこへピンチヒッターとして出演したのは、すでにこの日duoでライブをやったラックライフである。まさかの当日になってのダブルヘッダーである。
4人がステージに登場すると、アニメのタイアップになった「風が吹く街」からスタートし、さらに同じくアニメタイアップの「リフレイン」へと続いていくのだが、自分はタイアップしたアニメのことは全然知らないけれど、やはりこうしてアニメのタイアップになるような曲を連発していて、かつバンドのイメージ的にももっと歌に寄ったライブをするのかと思っていたら、ビックリするくらいにロック色が強い。
それは金髪でメガネという出で立ちのたく(ベース)と、パンクやラウドバンドのメンバーと言われても納得するくらいにスポーティーなLOVE大石(ドラム)によるリズムのどっしりとした安定感と、ikomaのギターのシャープさというバンドの演奏技術の高さによるものであるが、この辺りはさすがにもうベテランという立ち位置になっているバンドである。
そんな中で
「群馬、LACCO TOWERに変わりまして、大阪、ラックライフ」
と野球の代打アナウンスのようにおどけてみせたPON(ボーカル&ギター)の持つ歌心は今年リリースされた、この状況の中で生きる我々1人1人に寄り添うように思いを込めて歌われた、実に距離の近さを感じる「あなたを」で最も発揮されるのだが、そのPONはこうして代打としてこのステージに立っていることを、
「LACCO TOWER兄さんたちが1番悔しいと思う。だからLACCO TOWERの分も心込めて歌おうと思ってきた。LACCO TOWERがどれだけこのフェスを大切にしてきたのかっていうのを一緒に出てきてずっと見てきたから。
だから…そこのLACCO TOWERのタオル持った子、見たかったよなぁ。俺たちでゴメンな」
と背負いながらも、どうしたって代わりにはなれないことも口にし、話している本人が泣いてしまい、ikomaに助けを求めることになっていた。それくらいに、メンバーはLACCO TOWERが毎年このフェスで見せてきたライブや姿を見てきたということだ。代わりにはなれなくても、そこまで理解しているという意味ではこのバンドほどここで代わりにライブをやる適任はいなかっただろうし、ムロ氏もそれをわかっていてこのバンドに任せたのだろう。
そうした思いの発露もあっただけに、早くも最後の曲となった(すでに1回ライブをやってるけど)のは「サニーデイ」。
「笑える 笑える まだ笑えているよ」
というフレーズはこのバンドの持つ空気をこれほどまでに体現しているものはないな、というくらいにさっきまで泣いていたPONも含めて会場が笑顔になっていた。それはきっと来年のLACCO TOWERのライブにも(笑顔は似合わないライブだけど)繋がっていくはずだ。
MURO FESには何回もドラマがあった。落雷の中断からのircleのライブとか、それでもほとんど時間を押さなかった全力の進行とか。そうした自然現象によって起こったものもあったけれど、このLACCO TOWERの代打でのラックライフのライブもまたこのフェスの歴史に刻まれるドラマになっていくはずだ。
1.風が吹く街
2.リフレイン
3.あなたを
4.サニーデイ
17:45〜 Unblock [RO STAGE]
実はこの時間はCrestでHEREを見ようとも思っていたのだが、一度抜けて入場規制になって入れなくなるのが怖かったのでクライマックスに向けてそのままEASTにいることに。
RO STAGEのトリ前を担うのはTHE NINTH APOLLO所属のスリーピースバンド、Unblockである。結果的には直前がラックライフになったことにより、TETORAから大阪のバンドが続くことに。
音源を聴いていても思うことであるが、Unblockはサウンド自体はエモーショナルなギターロックというシンプルなものであるにもかかわらず、「Blue」から始まったこの日のライブも田口卓磨(ボーカル&ベース)の凛とした歌声によって歌モノとしての力も備えているバンドであると思っている。決して衝動で前に前に出て行くというだけではなく、重心を後ろに残したままでしっかり両足を地につけているかのような。
だから中村大(ギター)がどれだけ激しく暴れながらギターを弾いていても、「また生まれ変わっても」というJ-POPど真ん中で鳴り響いていてもおかしくないような曲もあれば、それをあくまでロックバンドのものとして鳴らすことができる。池辺涼真のドラムもこうした曲では田口の歌に寄り添うような優しいリズムを刻んでいる。
それでもやはり最後には「夜を越えて」「サイレン」と加速してたくさんの観客の腕が上がる。かなり長い経歴を持つバンドであるし、ライブハウスでひたすらにライブをやって支持を集めてきたということがよくわかる光景である。何よりもそのバランスやトータルの完成度の高さは猛者揃いのレーベル内でもトップクラスのバンドなんじゃないかと思う。
1.Blue
2.未来の種
3.永い夢
4.また生まれ変わっても
5.夜を越えて
6.サイレン
18:20〜 ハルカミライ [MU STAGE]
Unblockのライブが終わった瞬間から、待ち構えていたかのように関大地(ギター)、須藤俊(ベース)、小松謙太(ドラム)の3人はリハを始めて、本番と言ってもいいくらいに満員のEASTの観客の腕を上げさせる。
そのまま真っ赤な髪色の橋本学(ボーカル)が登場すると、ずっと様々なバンドたちのライブを見まくって昂りまくった猛獣が解き放たれたかのように「君にしか」からスタートし、関がアンプの上に立ってそこから大ジャンプ、須藤はステージ上にベースを置いて歩き回っていたかと思ったら最後にはベースを持ってスライディングするというやりたい放題極まりないハルカミライのライブとなる「カントリーロード」、さらにはリハも含めると早くもこの日3回目となる「ファイト!!」とぶっ飛ばし、早くも上半身裸になった橋本は
「楽しみにしてきたよー!」
と叫ぶ。今日も最高だ、というよりも最近はデカいステージでのライブが多かったということもあってか、ライブハウスでのライブを心から楽しんでいるように見える。どこか生き生きしているように見えるというか。
「俺達が呼んでいる」のパンクなツービートの疾走感によって、最前列で飛び跳ねまくりながら拳を振り上げている男性(もちろんライブのルールは守っている)に
「兄ちゃん、凄いな!(笑)」
と笑いながら、そんな人たち全てを世界の真ん中だと捉えるような「春のテーマ」、今回は小松が前には出てこないパターンの「世界を終わらせて」と、やはり持ち時間が非常に短いというのもあって、どこか飛ばしている印象だ。それでもこなしているという感覚は1%足りともない。ひたすらにこのライブハウスで魂を燃やし尽くしている。ワンマン以外でのそうするためのセトリが今はこの流れなのだろう。
そんな中で唯一意外な選曲だったのが「僕らは街を光らせた」。
「憧れはいつかライバルに変わる」
というフレーズで橋本は客席の方を指差した。ここまで来いとばかりに。そして
「俺、これがあればやっていけそうな気がする!これがあれば無敵になれる!」
と叫んでから最後の
「俺たち強く生きていかなきゃね」
というフレーズに繋いでみせた。
「これがあればやっていける」「これがあれば無敵になれる」と自分が思えるのは自分にとってはハルカミライの音楽であり、ライブだ。だからこそそれを見れる場所を自分たちでちゃんと守っていかなくてはいけないと思う。それはあれだけ以前までは客席に突入しまくったりしていたハルカミライのメンバーたちがしっかりルールを守った上でライブをやっているからだ。その姿が、自分たちにもそうすることが今1番カッコいいことであると思わせてくれる。
そしてラストはやはり「アストロビスタ」であるが、
「忘れないでほしい 私も思ってるよ」
の後のフレーズを
「さあ写真を撮ろう」
と「宇宙飛行士」のものに変えて歌うと、最後には
「いつか、MURO FESのトリをやりてぇなぁ」
と笑顔で言って大きな拍手を浴びていた。
実際、ライブの規模だけで言うならばこのフェスの出演者ではハルカミライがダントツだ。横浜アリーナのイベントに出たり、幕張メッセでワンマンをやれるバンドは他にいない。ただ、このフェスのトリをやってきたバンドたちはみんなこのフェスを担ってきたバンドたちだ。果たしてそこはどうかと考えると、ハルカミライは2017年には1番小さいステージに出ていた。それから毎年出演してきて、その過程で今の規模にまでなった。そんなバンドがこのフェスのトリをやりたいと言うのは、このフェスのことを本当に大事な存在だと思っているということだ。来年以降、また2days開催に戻った時にはどちらかの日のトリをハルカミライが務めているかもしれない。きっとその頃にさらにどれだけデカい存在になっていても、ハルカミライは必ずこのフェスに帰ってきてくれるはずだ。
リハ.ファイト!!
リハ.ファイト!!
リハ.ウルトラマリン
リハ.ラブソング
1.君にしか
2.カントリーロード
3.ファイト!!
4.俺達が呼んでいる
5.春のテーマ
6.世界を終わらせて
7.僕らは街を光らせた
8.アストロビスタ
18:55〜 ircle [RO STAGE]
RO STAGEもいよいよトリのバンドに。このステージのトリを担うのはこのフェスを象徴するバンドの1組であり、これまでにも様々な名場面を作ってきたircleである。
「ジャパニーズロックの救世主、ircleです。MURO FES、ただいまー!」
と河内健悟(ボーカル&ギター)が叫ぶと、「呼吸を忘れて」「セブンティーン」と代表曲を畳み掛けていく。白というかアッシュというような髪色になった仲道良(ギター)は今までのMURO FESのようにステージには登ることはできないけれど激しく体を揺さぶりながらギターを弾き、伊井宏介(ベース)は時折右腕を上げて観客を煽り、ショウダケイト(ドラム)はおなじみの高い位置のシンバルをぶっ叩き、河内はやはりいつものように、いや、2年ぶりのMURO FESであるだけにいつも以上に思いっきり感情を込め、暑苦しいくらいに叫びまくりながら歌っている。
そんな中で今の時期、しかもめちゃくちゃ暑い最近の気候だからこそより情景が浮かぶ「カゲロウと夏」という、むしろ野外でのMURO FESで聴きたいと思えるような夏曲を演奏すると、河内は今の世の中の状況をも前のめりに、しかし本当に不器用極まりないくらいに不器用なバンドだとわかるように話す。きっとircleがもっと器用なバンドだったらもっと売れていてもおかしくはないだろう。でもこの不器用さこそが河内の、ircleの人間性なんだよなと思える。
そんな人間性が極まったのが
「東京オリンピックどころじゃなくなった2020年の春より」
というフレーズから始まる、去年1年の河内の見てきたものが凝縮された「2020」。オリンピックは本当にこのまま開催されるかどうか、この直前になってまでも全くわからない。だからこそこの曲の歌詞が1年経った今でもダイレクトに響いてくる。それはこの曲が2020年を活写した曲でありながらも、きっとこの先もircleにとって大事な曲になっていくということである。
そしてステージのトリとはいえあっという間に迎えた最後の曲は河内が
「愛してるなんて 言われる程」
と歌い始めると伊井が腕を上げるまでもなく観客全員が腕を上げて応えた「本当の事」。晴海埠頭で開催されていた2015年、ircleのライブ中に落雷の警報が出たことによってライブが中断し、再開した後に1曲だけ演奏されたのがこの「本当の事」だった。いわばircleにとってもこのフェスにとっても本当に大事な曲。それをこのステージで演奏したのは不器用極まりないircleなりのこのフェスへの確かな愛だ。演奏後に力を使い果たして倒れる河内の姿もまた、このフェスで何回見てきたことか。このフェスを愛し、愛されてきたircleのライブがMURO FESに帰ってきた瞬間だった。
リハ.ホワイトタイガーオベーション
1.呼吸を忘れて
2.セブンティーン
3.カゲロウと夏
4.2020
5.本当の事
19:30〜 アルカラ [MU STAGE]
いよいよこの長いフェスも最後のバンドを迎える。1日開催となった今年のトリはやはりアルカラ。トリなのに朝イチからあらゆるバンドのライブを袖で見て、時には乱入してきた稲村太佑(ボーカル&ギター)はもはや共同主催者と言えるレベルである。
メンバーが登場すると、「アブノーマルがたりない」からスタートし、そのまま「チクショー」になだれ込んでいくという詰め込みまくりの怒涛の展開であり、下上貴弘(ベース)も下手客席前まで歩み出して演奏したり、飛び跳ねまくったりし、疋田武史(ドラム)は激しい曲であっても笑顔がハッキリと見える。稲村はというとHEREの「ギラギラBODY&SOUL」のフリを踊っているという、それぞれがそれぞれの手法でMURO FESへの帰還を祝っている。
「久しぶりに会うバンドがたくさんいて、安否確認みたいになってて。もちろん初めて会うバンドもたくさんいて。
みなさんもそうじゃないですか?久しぶりに会えた、生音が聴けたバンドがたくさんいて、初めて観れたバンドがたくさんいるんじゃないですか?」
という、たくさんのバンドマンの仲間がいるアルカラですらもこうしていろんなバンドに会えるのが久しぶりであるというところにコロナによって生まれてしまった会いたい人にも会えない距離を感じてしまうのだが、そんな中で演奏された新曲が実にアルカラらしい捉えどころのなさというか、一言で説明できない多様な要素を感じるのだが、さらにはまさかこの尺のライブでやるかという「はてない」の静謐かつ祈りを込めるかのような演奏には先ほどまでのユーモアが別人であるかのように引き込まれてしまう。
すると時間がない中でも稲村はステージ背後の、初年度から変わらないフェスのロゴを指差し、
「あのロゴ、俺が考えてん。パソコンで急いで作ったから、まさかこんなに長く使われるなんて思ってなかったし、フェスがこんなに長く続くなんてことも思ってなかった。
いろんなことがあるけど、どんな状況になってもバンドマンもライブハウスもここにいるみんなも音楽大好きってことがわかった。それだけでもいいのかなって」
と言って演奏されたのは「ミ・ラ・イ・ノ・オ・ト」。
「10年後少し強くなって
空前のドラマみたいだって
もしか小説でも書けるんじゃない
書けそうだよ」
初年度から10年経った。毎年のようにいろんな場所を転々としてきた。去年の中止も乗り越えた。その上での10年。それはまさに小説にでもなりそうな、フェスのドキュメントでも作れそうなくらいのドラマだ。それを作ってきたのがいつだってアルカラだった。主催フェスも開催しているけれど、やっぱりMURO FESのアルカラは特別だ。彼らほどこのフェスを背負っているバンドは他にいないから。
もう時間的にも終わりかな?と思っていたら、稲村が金髪のカツラとワンピースという出で立ちに着替えて登場し、
「来年はLACCO TOWERが2回出るから、その分ラックライフはなしで!(笑)」
と笑わせながら、残っていた出演者がマスクをしてステージに集合する「交差点」はもはやMURO FESの公開打ち上げのような光景だ。私服だと普通にイケメンなHERE・尾形回帰の430円で買ったアクセサリーをいじり、HaKUのギターの藤木寛茂(GRAND FAMILY ORCHESTRAで出演)やBYEE the ROUNDがいるとMURO FESっぽいよなぁと戻ってきた仲間たちを感慨深そうに受け入れながら、
「最後はLACCO TOWERの終わり方で終わろう!」
と言ってLACCO TOWERのキメを打ち、去り際はGOOD ON THE REELの千野のモノマネという詰め込みっぷり。やはりMURO FESで見るアルカラは最高だ。そこには溢れんばかりの愛しかないから。
リハ.夢見る少女でいたい
リハ.キャッチーを科学する
1.アブノーマルがたりない
2.チクショー
3.新曲
4.はてない
5.ミ・ラ・イ・ノ・オ・ト
encore
6.交差点
終演後にはムロ氏が出てきて、挨拶もそこそこに、
「じゃあ壇上にいる人から規制退場はじめまーす。お疲れ様でしたー」
とあっさり帰していく姿は面白かったが、10年目ともなればフェスも変わる。アルカラとともにトリを分け合っていたグッドモーニングアメリカは休止し、かつてオープニングアクトから始まり、トリまで行ったSUPER BEAVERはこのフェスの規模を超えて行った。それでも次を担うバンドたちが今もライブハウスにはたくさんいる。それを実感することができるのがこのフェスだ。
そしてMURO FESに来ると毎回思う。ギター、ベース、ドラムという愚直なロックバンドばかり出ているフェスだ。最新の世界の音楽というものを聴いているような人からしたら、最も非効率だとか古臭いだとか言われるような。
でもそう言われながらも残り続けている、次々に若いバンドが出てくるというのは、最新ではなくても消えることも決してない普遍性をバンドという形態が持っていることの証明だ。もしバンドが流行ってるのが日本だけだというのならば、それだけでも自分は日本に生まれて、日本で生きていて良かったと思っている。このフェスに来ると、あらゆる音楽の形態の中でロックバンドが1番カッコいい、1番好きだと実感できるから。こうして小さなライブハウスで生きているバンドがこれからも生きる場所がある、堂々とロックバンドをやれている世の中でありますように。
文 ソノダマン