先月のBAYCAMPに2days行った時、2日目に普段はライブハウスで生きていながらもアリーナを飲み込んだ、化け物みたいなバンドが2組いた。1組目はドミコ。これまでに何度かライブを見てきたバンドだけれども、それまでに見てきたのとは全く違う、より「このバンドにしか絶対できないライブ」をやるようになっていた。
もう1組がリーガルリリー。こちらも何度もライブを見ているというか、なんならワンマンにも何度か足を運んでいるくらいにライブを見ていても唖然としてしまうくらいの凄まじさであった。
そんなリーガルリリーの急遽開催された、Zepp Tokyoでのワンマンライブ。この日が初のZeppワンマンであるとともに、ボーカル&ギターのたかはしほのかの23歳の誕生日でもある。
リーガルリリーのライブはBAYCAMPの主催であるAT FIELDが制作しているということもあり、来場者フォームの入力や検温、消毒をはじめとしたコロナ感染対策は開催から2週間か経過しても感染者が出ていないフェスの経験が確実に生かされている。
そうして入場すると、場内の壁にはメンバーの幼少期の写真が貼られてあるというのは誕生日ライブならではである。
開演前にはBAYCAMP主催者でもあるP青木の影アナによる注意喚起が行われるのだが、ベイキャンやキュウソのライブの前説では噛みまくったり間違えたりするのに、この日は一切そんなことがないというのは謎である。
開演時間の19時30分を少し過ぎたあたりで場内が暗転してSEが流れるのだが、1回音が止まった影響からか、少ししてからいつものように身軽そうな出で立ちのゆきやま(ドラム)、鮮やかな金髪の海(ベース)、そして割烹着みたいな白い服が給食委員の中学生のようにすら見える、たかはしほのかの3人がステージに現れ、それぞれが楽器を手にすると薄暗くてメンバーの表情がしっかりとは見えない中で「ベッドタウン」からスタート。そのステージの様子はまさに都心で仕事をしてから寝るために帰るための郊外のベッドタウンの夜の静けさそのもののようであるが、一転して「GOLD TRAIN」ではタイトル通りにステージに光が満ちてメンバーの演奏する姿が鮮やかに照らされていく。
無垢という言葉をそのまま声にしたかのような、たかはしの透き通る声、音階的に動きまくることによってどっしりとした土台の太さと低音の心地よさを感じさせる海のベース、音源よりもはるかに手数と強さを増している、スーパードラマーと言ってもいいレベルに進化したゆきやま。その3人が鳴らす音に反応して、最初は自身の客席に座っていた観客たちが1人、また1人と次々に立ち上がっていく。目の前で鳴っている音がそうさせている。それくらいに目に見えない、もちろん画面越しでは伝わることのないオーラのようなものがこの3人の鳴らす音からは発されている。(この日はクレーンカメラも回っていたので、なんらかの形で映像化するのかもしれないが)
ここまでの2曲は2月にリリースされた初のフルアルバム「bedtime story」のオープニングと同じ流れであり、いわゆるリリースツアー的なものが開催できなかったご時世であるだけに、そのアルバムの流れを再現するようなライブになるような予感もあったのだが、実際の東京タワーの前で演奏しているかのようにステージが真っ赤に照らされる「the tokyo tower」から、曲間一切なく繋がる「トランジスタラジオ」へと至る流れで、これはアルバムのリリースライブというよりも、タイトル通りにバンドの集大成的なものになることを予感させる。
たかはしのカッティングギターがどこかトロピカルな空気を生み出しながらも、
「僕のママは、君のこと一生許さない。
君のママは、僕のこと一生許さない。」
という不穏な歌詞との融合を見せる「キツネの嫁入り」と、聴いても聴いてもその曲や歌詞の持つ真意にたどり着くことができないたかはしの詩世界に没入してしまう。
とはいえMCではあまりにも緩すぎてそのライブの緊張感が一気に解けていくというギャップが本当に凄まじい。それは海からも
「何を言ってるのかよくわからない(笑)」
と言われてしまうたかはしの独特過ぎる雰囲気が生み出しているものであるのだが。
「ばかばっかのせんじょうに」
というフレーズのリフレインからタイトルの「ジョニー」という単語が浮かび上がってくる「ジョニー」、ゆきやまの軽快な4つ打ちのドラムのメロが心地良い「そらめカナ」、映画の主題歌になったことによって多くの人にバンドの存在を知らしめた「ハナヒカリ」…。テンポ良く次々に曲を演奏するというのがこのバンドのスタイルであるし、新旧を交えまくったセトリからは流れらしい流れを見つけることはできないが、照明のみというエンタメ精神の薄いストイックな空気の中で光の粒が飛び散るようにミラーボールが回り出した「猫のギター」はこうした広いステージだからこそ映える曲だと言えるだろう。
小さいライブハウスでも、今年のベイキャンのようなアリーナでもリーガルリリーのやることは全く、本当に何にも変わらないけれど、曲を輝かせるためにバンドの周りにいる人たちが出来ることは、大きいステージになるにつれて間違いなく増えているし、渋谷のQUATTROで見たワンマンと比べても、ビックリするくらいにステージが大きくなってもメンバーは一切そうした要素を気にしていないように見える。見えるというか間違いなくそうだ。
歌詞カード上はひらがな表記であるが、この歌詞は果たしてメジャーからリリースされるバンドのアルバムとして大丈夫なんだろうか?と思ってしまうくらいに一切の禁句もないような言葉が比喩表現として綴られた「まわるよ」、飛び跳ねたくなるようなリズミカルな演奏に
「君に会いたいな
君に会いたいわ
君に会いたいぜリリー。
ぼくのリリー。」
という、まさに我々観客からバンドへ抱く想いを歌詞にしたかのような「僕のリリー」、現代のファンタジーバージョンとしての「アダムとイブ」かのような物語が展開されていく「林檎の花束」と、次にどんな曲が来るのか全く想像できないけれども、演奏されるとすんなりと耳や体や心に違和感なく馴染んでしまうというのが恐ろしい限りである。
ライブによっては曲間で長めのセッション的な演奏をし、それがイントロと連なるというライブならではのアレンジを施すことも多いバンドであり、これまでも何度もそうした場面を見てきた曲である「リッケンバッカー」はこの日は至ってシンプルに演奏が始まったのだが、バンド最大の代表曲であると言えるだけに、この曲が最もこのバンドのライブでの化けっぷりを感じることができる。
もう本当に音源と違い過ぎるな、と思うのは音源と今では演奏しているメンバーが違うということではなく、お台場の街中ですれ違ってもメンバーであることがわからないかもしれない3人が鳴らしている音が、見た目がいかついラウドバンドが鳴らしているのかと思うくらいの轟音となっているからである。全席指定でなければ、こうしたご時世でなければ、フロントエリアに駆け出していきたくなるような衝動を与えてくれる。それを「偽物のロックンロール」なんて言えるはずがない。紛れもなくこれは本物のロックンロールだ。
そんな轟音ロックンロールが鳴らされ、普通ならそのままそうしたサウンドの曲を連発してクライマックスへと向かっていく…となりそうなはずなのにそうはならず、直後に演奏されたのが素朴なサウンドの「好きでよかった。」であるというあたりか、「どうやったらこんな曲が作れるんだろう?」という曲のオンパレードであるこのバンドがそれだけではなく「どうやってセトリ、曲順を考えているんだろう?」と思わざるを得ない。普通ならばライブを見れば見るほどそのバンドについての理解が深まっていくはずなのに、このバンドに関してはよりわからなくなっていく。いや、「わからない」ということが理解できていると考えれば…ともはや禅問答に近いような状態にすらなってきている。
今年はこの3人になった記念日である7月5日に毎年開催されてきた「海の日ライブ」も中止になってしまったが、こうしてたかはしの誕生日にワンマンをやれていることに触れると、
「あ、今日誕生日だった」
と、まさかのたかはし本人が忘れているという超ド級の天然っぷりを炸裂させ、場内にはマスク越しの失笑が漏れ出してくる。
そうして極限まで緩和された雰囲気の中で、
「3人になって初めてMVを撮った曲。マネージャーがカメラを回して、編集まで全部やってくれた。もう2年前」
と月日が経つことの速さを噛み締めるかのように演奏されたのは「overture」であるが、すぐさま海に
「3年前だよ(笑)」
と突っ込まれていただけに、そのたかはしの月日や年月の感覚はどこかバグっているというか、もしかしたら普段は精神と時の部屋みたいな場所で音を鳴らしたり曲を作ったりしているのかもしれない。バンドの進化を目の当たりにすると、そんな空想もまた空想であるとは思えなくなるというか。
たかはしの口笛と海のハモリがあまりに上手すぎて同期の音が流れてるんじゃないかとすら思ってしまう「ぶらんこ」から「こんにちは。」という初期のミニアルバムの曲の流れは、まさにバンドの集大成的なワンマンにふさわしい選曲であるが、最後のMCタイムでは海とゆきやまが楽屋などでも普通に会話していても、たかはしが話に入ってくると意味不明過ぎて会話が終わってしまうということをステージの上で実演してしまうことに。それでもここでようやく、
「今日が私の誕生日っていうことは、私のお父さんとお母さんがお父さんとお母さんになった日っていうことで。それが1番嬉しいです」
と自分なりの言葉で誕生日の喜びを口にする。何というか、独特な感性の人ではあるけれども、それは心から純粋な人であるからというか。
そしてこの日のライブのタイトルにもなっている、たかはしが生まれた年である「1997」へ。ステージ背面の幕が開いていくも、映像が投影されるということはなく、ステージに無造作に置かれた照明器具たちの影がまるで夜景のビル群のようにも見える中で海がゴリゴリのベースでバンドサウンドを牽引し、
「私は私の世界の実験台」
というこれもまたライブタイトルになっているフレーズをたかはしが歌うと、サビではキャッチーに開いていったかと思いきや、曲の最後にはポエトリーリーディングになるという目まぐるしい展開っぷりは今のリーガルリリーのスタイル、できること、やりたいことが全て凝縮されている。「リッケンバッカー」的な曲や、もっとわかりやすい曲を作ろうと思えばいくらでも作れるだろうし、もっと売れることだってできるだろうに、そうした作為的なものは全くない。ただ自分たちの感覚や閃きに従うのみ。鳴らしている轟音だけでなく、そうした姿勢までもがこのバンドを本物のロックンロールたらしめている。
性急なカッティングギターのイントロが鳴った瞬間にはさぞやBPMの速いロックソングが演奏されるかと思いきや、実際の音像としてはシューゲイザーバンドかのような轟音ギターがタイトル通りにノイズを生み出す「スターノイズ」はステージの至るところから光る照明がまさに星のように光る中、アウトロではバンドの演奏がさらに動きも音も激しくなっていく。たかはしも海も広いステージ上を動き回るというか、もはや暴れ回るというか。その所作もベイキャンの時とはまた違うだけに、その日その時の状態や精神などによって変わるのだろう。
そして本編ラストはもともとはシークレットトラック扱いであったが、今ではこうしてライブの締めを飾る曲になっている「蛍狩り」。暗闇の中で眩く光るライトがまるで蛍の輝きであるかのよう。そんな夏の儚さの代名詞的な存在をメンバーが鳴らす轟音がさらに強調していく。曲最後のたかはしによるポエトリーリーディングは20曲というこれまでに見てきたこのバンドのライブではダントツに多く、長いライブのエピローグが語られているかのようだった。
アンコールではやはり演奏中とは打って変わって緩い表情と語り口のメンバーがアンコールをもらえて嬉しいと話しながらも、
「用意していたアンコールの曲をやります(笑)」
という身も蓋もない発言。
そうしてアンコールで演奏された曲は「bedtime story」収録の「ハンシー」。構成的にはこのバンドの曲の中でもわかりやすい、キャッチーと言えるタイプの曲である。しかし、
「もしかしたら これが最後の歌かもしれなくて
もしかしたら これが最後のギターかもしれなくて」
という歌い出しのフレーズは今の社会の状況で聴くと、思わずハッとさせられる。
というのも、この日のライブではメンバーもそうしたことを口にしなかったし、そもそも口にするタイプのバンドではない。客席には椅子があるが、取り立てて観客の楽しみ方が変わったわけでもない。つまりはこの状況になってからのライブで、トップクラスに「コロナ禍」ということを意識しなかったライブだった。
だからこそこのフレーズで今我々が生きている世界がそうした可能性があるものであることに気付かされる。いや、もともとリーガルリリーはずっとそうした思いでライブをしてきたのかもしれない。いつもこれが最後かもしれない、と。だからこそこうして衝動を燃やし尽くすようなライブができるのかもしれない。
そんなライブの最後を担うのはタイトル通りに演奏そのものが走り出すように、このバンドの曲の中で最もパンクな「はしるこども」。だがステージを動き回るたかはしの姿を見ていると、彼女こそが「はしるこども」そのものなんじゃないかと思える。見た目も、心も、歌声も無垢そのもの。世の中のことを知ってしまった大人では持ちうることができない力を持っている。珍しく1人で最後までステージに残って観客に挨拶してから走り去っていく姿を見て、無垢であるということは無敵であるのかもしれない、と思った。そんなことが頭に浮かぶバンドが他にいるのだろうか。
ボーカルだけが突出した天才だったりカリスマだったりというバンドはもしかしたらそれなりにいるかもしれない。でもボーカルだけではなくて1人1人が化け物のような演奏をすることができて、その1人1人が揃って3人になることによって、それが×3でも3乗でもない、それ以上の図り知れない力を生み出す。ロックバンドの面白さや魔法を感じさせてくれるのはもちろん、こんなにライブアルバムをリリースして欲しいと思うバンドなんてそうそういない。この音楽は間違いなく人を生かすけれど、僕だけのロックンロールにしておくのがもったいなさ過ぎて。
1.ベッドタウン
2.GOLD TRAIN
3.the tokyo tower
4.トランジスタラジオ
5.キツネの嫁入り
6.ジョニー
7.そらめカナ
8.ハナヒカリ
9.猫のギター
10.まわるよ
11.ぼくのリリー
12.林檎の花束
13.リッケンバッカー
14.好きでよかった。
15.overture
16.ぶらんこ
17.こんにちは。
18.1997
19.スターノイズ
20.蛍狩り
encore
21.ハンシー
22.はしるこども
文 ソノダマン