ステージの見やすさや音の良さ、キャパの広すぎず狭すぎずなサイズ感など、石野卓球などの様々なアーティストから「理想のハコ」と評されている、恵比寿のLIQUIDROOMが15周年を迎えた。
それ故に今年はたくさんの周年記念ライブが行われているが、そのうちの一つがこの日のKEYTALKとヤバイTシャツ屋さんの対バンライブ。ともにロッキンではメインステージであるGRASS STAGEに出演しているだけに(ヤバ Tはすでに1週目に出演し、KEYTALKは2週目に出演)、このキャパで観れるのが実に不思議な気持ちである。
・ヤバイTシャツ屋さん
19時ギリギリに会場に到着すると、ステージにはスリーピースのバンドの機材がセッティングされており、ヤバTが先攻であることがわかる。つい数日前にロッキンでライブを見ているが、最近では1番小さいキャパでもZepp Tokyo(それすらも全く当選しないレベル)なので、本当にここにヤバTが出てくるのか、そして自分はそのライブを見れるのか、とどこか現実味がないのはやはり6万人を動員するステージに立ったのを見た直後だからか。
おなじみの「はじまるよ〜」の脱力SEで3人がステージに登場すると、
「LIQUIDROOM、15周年おめでとうー!」
と、夏フェスシーズンの疲れを一切感じさせずにこやまたくや(ボーカル&ギター)が元気いっぱいに挨拶し、この日はなんと「かわE」からスタートするという意外な展開。ライブハウスでの対バンとはいえ、持ち時間はロッキンのGRASS STAGEとほとんど変わらないし、KEYTALKを目当てに来た人もいるであろうことを考えるとロッキンと同様の流れで、というようになってもおかしくないが、そうはならないし、そうしたこちらの予想を心地良く裏切ってくれるのがヤバTというバンドである。
自分はこの曲の2コーラス目のサビでこやまとしばたありぼぼ(ベース&コーラス)が体を左右に振りながら歌う姿が実に好きなのだが、そんなキュートな素振りとは真逆と言っていいくらいに冒頭からダイバーの嵐。ダイブが禁止されているロッキンで見た直後だから忘れてしまいがちだけど、ライブハウスで見るヤバTのライブは完全にパンクバンドのそれだし、こうした激しい楽しみ方もそうでない楽しみ方も、他の人を傷つけたりしなければ一切否定することがないのもヤバTのメンバーの人間性が現れている。だからヤバTのライブは初めて見た人でも本当に楽しい。
そのこやまとしばたの男女混声のハーモニーが伸びやかな「鬼POP〜」、ロッキンではやらなかった、もりもりもと(ドラム)もボーカルを取るファスト&ラウドなパンクソング「Universal Serial Bus」ではさらに客席も激しさと暑さを増していく。
間奏でおなじみの観客をしゃがませてから一斉にジャンプさせるという「メロコアバンド〜」ではあまりに前方に観客が押し寄せまくっていることによって全然しゃがむことができず、こやまいわく「しゃがんでるような顔」からみんなが一斉にジャンプ。このキャパでこの激しいライブを見ていると、本当に
「We are メロコアバンド」
という歌詞の通りだし、そうでないなら他になんと言えばいいのか、というくらいにこの日のヤバTはメロコアでありパンクである。
ヤバTは基本的にライブにおいて「ネタバレ」という概念がないバンドである。2daysのライブではやる曲も曲順もガラッと変えてくるし、それはツアー中でもそうなので、ツアー中のセトリを公式アカウントがツイートしたり観客の載せたセトリをそのまま使ったりするというかなり前代未聞なバンドなのである。
そうして各ライブでやる曲を変えまくるというのは自分たちがマンネリしないのはもちろんのこと、何公演も観に来てくれる観客に何回見ても新鮮さを感じて欲しいというそもそもがライブキッズであるこのメンバーたちだからこそのやり方であるが、この日もロッキンの時はやっていなかった「喜志駅周辺なんもない」を演奏するのだが、間奏部分でのLIQUIDROOMのスタッフに媚びを売りまくるコール&レスポンスでこやまが噛みまくってしまい、もりもとからいつもとは違うツッコミを喰らう。もりもとはドラムの腕だけでなくこうしたアドリブ対応力も向上しているようだ。
MCではしばたによる「夏休み謎かけ」を、
「夏休みとかけまして、大きな鳥とときます。そのこころは、目一杯羽を伸ばせるでしょう!」
と見事にまとめて大歓声を浴び、それが収まってきているのにひたすら
「もうええから!」
とずっと歓声が起こり続けている体だったのは実に面白かったが、こやまは学生時代にKEYTALKを関西のライブイベントで見たことがあると言い、
「その時に、「鍵が喋ってKEYTALK!」っていう挨拶をしていた記憶があるんやけど、ググっても全然出てこないからあれは夢だったのかと思ってる。全くウケてないのにメンバー4人だけめちゃ笑ってた(笑)」
とその時の記憶を掘り返してみる。それが事実だったかどうかはこの後のKEYTALKのライブに委ねることに。
ちょっと大人な視点も入りながら、「癒着」という本来はあんまり良くない意味で使われる単語をこんなにキャッチーに響かせてしまうあたりはもはやこやまは言葉のマジシャンと言える領域に達しているとすら思える最新シングル曲「癒着☆NIGHT」をここで演奏するのだが、リリースされたばかりのこの曲ですらダイバー続出と、こやまが
「LIQUIDROOM、元気過ぎる!(笑)」
というくらいの客席のテンションは上がる一方だし、それを最新曲がブーストさせているというのは、かつては一発屋とかすぐ消えるとか言われていたヤバTが次々にそれまでの曲を上回る名曲を生み出してきた証拠である。
大量のリフトした人たちが率先して大合唱する「無線LANばり便利」から「Tank-top of the world」と、もうこの日の流れは本当にパンクでしかない。ダイバーが多すぎてセキュリティはおろかローディーすらダイバーをキャッチしたりしていたが、そうなるのもわかるくらいに衝動を掻き立てるような熱い演奏とサウンド。
そんな中で
「KEYTALKの義勝さんが好きだって言ってくれた曲があるんだけど、全然ライブでやらない曲だから、もし盛り上がらなかったら義勝さんのせい(笑)」
と、首藤義勝のリクエストによって演奏されたのはまさかの「かかとローラー」。そのタイトルとおりにかかとにローラーがついた靴を履いた小学生にぶつかられた、というそれ以上でもそれ以下でもない意味しか持たない曲であるが、かつて少年ナイフがアメリカツアーをした際に「「亀の子タワシ」をテーマにロックできるのは世界広しと言えどもこのバンドだけ」と評されたことがあったが、同じように世界広しと言えども「かかとローラー」をテーマにロックできるバンドはヤバTくらいであろう。そもそもそんなテーマで曲を作ろうとする人すらいないと思えるが、
「親が注意せえ 保護者の責任しっかり果たそう」
というフレーズは子供がしたことならなんでも許されると思っている親が可視化されてきている社会へ警鐘を鳴らしているようにすら感じるし、そんな曲なのに最後の合唱パートはなぜか感動的ですらある。つまりは義勝のせいにしなくてもいいくらいに盛り上がっていたのである。
そしてラストはやはり加速しまくりの「ヤバみ」から、この曲ですら!というくらいにダイバーが頻発しながらの大合唱を巻き起こした「ハッピーウェディング前ソング」とヤバTアンセムを連発し、最後に演奏されたのはロッキンでは1曲目に演奏されていた「あつまれ!パーティーピーポー」。この曲順はライブ中にパリピサングラスをかけたりするパフォーマンスを見せるKEYTALKとの対バンだからこそなのかな、とも思った。最近は短い尺のライブではやらない時もある曲なだけに。
ヤバTはれっきとしたパンク・メロコアバンドだし、そうしたバンドたちに影響を受けてバンドを始めて、それを自分たちにしかできないやり方で進化させてきたバンドである。ステージはもちろん、客席もしっかり見えるこのキャパのライブだと改めてそれを実感することができるし、この1週間ちょっと、関東では猛暑日が続いているが、この日のヤバTのライブももはや暑E超えて熱Fだった。ライブ後にドリンク列が並びまくっていたのも納得でしかない。
1.かわE
2.鬼POP激キャッチー最強ハイパーウルトラミュージック
3.Universal Serial Bus
4.メロコアバンドのアルバムの3曲目くらいに収録されている感じの曲
5.喜志駅周辺なんもない
6.癒着☆NIGHT
7.無線LANばり便利
8.Tank-top of the World
9.かかとローラー
10.ヤバみ
11.ハッピーウェディング前ソング
12.あつまれ!パーティーピーポー
・KEYTALK
そして後攻のKEYTALK。こちらもワンマンの規模としては幕張メッセまで到達しているという、今となってはこのキャパで観れるのが信じられないくらいの位置にいるバンドである。ロッキンにはこの週の週末に出演するが、その他の夏フェスやイベントなど、海外も含めて全国を飛び回っている中でのこの日のライブ。
おなじみの「物販」のSEでメンバーが勢いよくステージに登場すると、この日はそれぞれがイメージカラー通りの服で統一されており、4人の個性がはっきりと見える。八木優樹(ドラム)は登場するなり客席最前列の柵に足をかけて煽りまくり、巨匠こと寺中友将(ボーカル&ギター)は登場した瞬間から缶ビールを飲んでいる。
それぞれが立ち位置に着くと、
「今日の1曲目は、ヤバTのもりもとからのリクエスト!」
と巨匠が言って「ナンバーブレイン」からスタートし、ヤバTのライブを見ているかのようなダイバーの嵐。ヤバTはこやまが10-FEETやロットングラフティーを好きなだけでなく、もりもとも相当なパンクファンであるが、KEYTALKの中でもこの曲をリクエストするあたりは彼の趣向が改めて伺えるし、KEYTALKがそんなにライブでやらないこの曲をいつでもライブで演奏できる状態にあるということに驚かされる。
そこからはレーベル移籍第1弾シングルである、ちょっと大人な新しいKEYTALKでありながからも、間奏部分では小野武正がギターを弾きまくるあたりにしっかりこのバンドのロックな部分を注入している「BUBBLE-GUM MAGIC」、配信されたばかりの爽やかサイドの曲であり、義勝のボーカルがフィーチャーされた最新曲「ララ・ラプソディー」、今年の夏フェスでも新たな世代のサマーアンセムとして響くであろう「YURAMEKI SUMMER」と、ある意味では予想通りというか、まぁこの辺りの曲はやるだろうな、という曲が続いていく。
武正が
「15年ぶりくらいに新しいギターを買った」
と言って新調した白いSGを弾くのが楽しくて仕方ないとばからにMC中でも急にギターを弾きながら、LIQUIDROOMも15周年のアニバーサリーであることに触れ、
「僕らが15年くらい前に作った曲」
とLIQUIDROOMと歩みを合わせるように演奏されたのは初期の「blue moon light」。全英語詞かつ、今やEDMすらも自分たちのサウンドに取り入れるくらいの引き出しの広さを誇るバンドとしてはものすごくストレートかつシンプルな曲であるが、だからこそこの日はそこにパンクさを感じることができるし、当時の彼らがどんなバンドに憧れていたのかということもよくわかる。
さらに「バミューダアンドロメダ」というレアかつ激しい曲を畳み掛けていくが、およそフェスではお目にかかれないようなこの曲たちはヤバTとの2マンだからこその選曲なんじゃないかと思う。KEYTALKはそうしてその場所や対バンなどによってセトリをガラッと変えるような先輩バンドたちの姿を見てきたバンドだし、今年のTHE BAWDIESとの2マンもフェスなどではやらないような曲を連発(しかもこの日とはまた違う曲)していた。そうしてそれぞれのライブに変化をつけたり意味を持たせたりすることによって、もっとライブを観に行きたいと思えるし、あの時のライブではこんな曲をやっていた、こんな内容のライブだったというのは忘れられないものになる。もちろんこの日の内容はパンクである。
義勝がヤバTが「かかとローラー」を演奏してくれたことに感謝を告げる姿は何故だかはわからないけれどこの曲が本当に好きなんだな、と思わせてくれるが、八木はそんな義勝がこの曲を好きなことを、
「歌詞を聴いていると昔の義勝を思い出す。小学生の頃、学校で義勝が猛スピードで後ろ向きでダッシュしてて。躓いて転んで消火器の角に頭をぶつけたことがあったんだけど、車じゃなくて良かった、って歌詞を聴いて思い出した(笑)」
と幼少期のエピソードを交えて話したが、そんな昔からこのメンバーたちは同じ景色を共有してきたんだな、と思うと、今でもこうしてバンドのメンバーとして同じ景色を見ているというのは物凄いことである。
一方でライブの記憶をよく覚えている男・武正はヤバTがMCで話していた、「鍵が喋ってKEYTALK!」の話について触れ、
「あの時、「鍵が話す、でKEYTALK」っていう挨拶をしてただけだから!(笑)しかもメンバーみんな笑ってなかったし!(笑)
でもあのライブ、2011年のことなんですよ。こやま君、そんなに昔から俺たちのことを見ていてくれたんだな、って」
と確かな情報に訂正。ググッてもわからないような歴史をちゃんと覚えているというあたりはさすがである。
すでに缶ビールを2〜3本空けているくらいにビールを飲みまくっている巨匠は
「ヤバTのパンクさに刺激を受けた」
と言って「夕映えの街、今」でギターを降ろして歌いながら客席にダイブ。するとダイバーたちは明らかに巨匠目がけてダイブし始め、巨匠のマイクで歌う人すら出てくるというカオスな状態になるが、まさかKEYTALKのライブでこんな景色が見れるとは全く思っていなかった。
そんな激しさはとどまることを知らず、巨匠がEDMパートでダンスを踊る「Summer Venus」ですらダイバーが続出するというあまりにパンクな展開になるのだが、ラストのテンポの良い「アワーワールド」を含め、この日のKEYTALKは本当にパンクだったし、だからこそ客席もパンクバンドのライブのものになっていた。こういうKEYTALKを見たいという人もたくさんいるはずだけれど、きっとメンバーたちはそれ以上にやりたいことがまだまだたくさんあるはず。
アンコールでメンバーが再びステージに登場すると、パンクなライブではあったけれどやはり最後はこれだよなぁという「MONSTER DANCE」を演奏すると、途中でヤバTの3人がステージに現れて踊りまくるのだが、完璧な振り付けの客席とは異なり、こやまとしばたは己自身の振り付けで踊って爆笑を巻き起こす。実はもりもとが1番普通に踊れていた。
そんなコラボが終わると、写真を撮ったりするでもなく、すぐに全員がステージを去っていった。それもまたこの日のライブがパンクであったことを強く思わせてくれた。
こうして2マンでのライブを観ていると、両者には共通点があることに気付く。どちらもどんな曲でもいつでも演奏できる状態にあるバンドであり、だからこそ多彩なセトリのライブができるバンドだということ。
しかし最大の共通点は、ともにイメージや雰囲気でナメられたり、軽く見られたりすることが多いバンド同士であるということである。
ではこの2組はそういう軽いバンドなのか?と言われると全く違う。ダイブが起こることだって、そこにダイブをしたくなるような衝動を呼び起こすような演奏をしていないとそうはならない。
何よりもスケジュールを見ればわかる通り、この2組は他のどんなライブバンドにも負けないくらいにライブをずっとやり続けるという生き方をしてきたし、デビュー時よりさらにライブで生きているというイメージが強くなっている。
ヤバTはそうしてバカにされてきたことへの悔しさを臆面なく口にするし、KEYTALKもきっと口に出さなくてもそういう思いはあるはず。それは決して100%ぬぐい切ることができない悔しさかもしれないけれど、その悔しさは間違いなくバンドを続ける上での力になる。
だからきっとこれからもヤバTとKEYTALKはロックバンドとして、ひたすらにライブをやり続けて生きていくはず。彼らはそれが1番カッコいいバンドの在り方だと思っているだろうし、実際にこの日に見た両者は一点の曇りもなく心からカッコいいと思えるものだった。
1.ナンバーブレイン
2.BUBBLE-GUM MAGIC
3.ララ・ラプソディー
4.YURAMEKI SUMMER
5.blue moon light
6.バミューダアンドロメダ
7.夕映えの街、今
8.Summer Venus
9.アワーワールド
encore
10.MONSTER DANCE w/ ヤバイTシャツ屋さん
文 ソノダマン