BET IT ALL EXTRA ON LINE -DaisyBar 15th Anniversary 下北沢Daisy Bar 2020.8.15 a flood of circle, SISTER JET
個人的にバーカウンターのアルコール飲料のラインナップの幅広さという意味ではトップクラスのライブハウスだと思っている、下北沢のDaisyBarが15周年を迎えた。
それによって様々な記念プログラムライブが組まれてきたのだが、コロナ禍によってそれらも延期や中止に。もともとは3月に予定されていた、a flood of circleとSISTER JETの2マンもこの日に延期となったが、まだ通常のライブができるような状況ではないため、両バンドのボーカルの弾き語りの配信という形に。
配信ライブであっても開場から開演時間までは会場の様子が映るという通常のライブと同じような形にするパターンも多い中、この日は開演時間の17時30分を10分くらい過ぎた頃に突然画面にDaisyBarのステージが映ると、そこにはすでに黒の革ジャンを着てアコギを持った佐々木亮介の姿が。
アコギをポロポロと弾きながら、
「ごちゃごちゃうるさい世界でたった一つだけ」
「ごちゃごちゃ言われても世界でお前は1人だけ」
とブルースマンのように口にして、そのフレーズがそのまま歌詞になっている新曲を歌い始める。これは来るべきa flood of circleのニューアルバム「2020」に収録される新曲なのか。アルバムのタイトルからしてもこのコロナ禍の世界状況が色濃く反映されたものになるのは間違いないだけに、その軸になりそうな歌詞の内容である。
「ロックンロールパーティーのはずだったね 今日は今日のパーティー
DaisyBarは実家 だからまぁいいか」
と韻を踏みながらブルースを歌うようにしてから、昨年リリースしたソロアルバム「RAINBOW PIZZA」収録の自宅パーティーソング「Sofa Party」へ。
歌詞の内容もステイホームしなければならない感じが今なお強い現在に図らずも適しているものになっているが、トラップなどを取り入れ、現行のアメリカの最新のR&Bやヒップホップの要素が強いサウンドだった「RAINBOW PIZZA」の曲すらも、弾き語りになるとブルース色が濃くなるのは亮介のその独特のしゃがれ声ならではであるが、ライブが普段通りに出来なくなってからはライブの本数そのものが減っていて喉が酷使されていないからか、亮介の喉の調子は実に良さそうに感じる。
すると亮介は急にWATARU.Sにエレキギターを貸してもらうのだが、
「弦切るなよ!」
というWATARUの声が普通に聞こえてくるのが面白い。
亮介「やっぱりWATARU.Sの音するね、このギター。これ高い?」
WATARU「カスタムショップのやつだから高いよ!WATARUスペシャル!」
と、もはやWATARUはマイクを通さずに亮介と普通に会話する中、DaisyBarの加藤店長が初めて褒めてくれたフラッドの曲という「象のブルース」をWATARUスペシャルのエレキギターの弾き語りで披露。
やはりアコギの弾き語りとは全然違うし、フラッドで普段亮介が弾くエレキの音ともまた違う。それでもやっぱり亮介が歌えばそれはブルースでありロックンロールになる。それはフラッドの曲なだけに当たり前とも言えるけれども、久しぶりに聴いた「象のブルース」はエレキの弾き語りという形であることで、より一層ブルース色が強く感じられた。
亮介「WATARU君、久しぶりに会ったけど変わってなさすぎてびっくりした」
WATARU「人って変われないから」
とやっぱり演者同士で普通に会話しているのが聞こえる中で、
「辛気臭い曲」
と紹介してから歌い始めたのは、先日の亮介も参加しているSHIKABANEで「佐々木亮介選手権」が開催されるくらいに山田将司(THE BACK HORN)と村松拓(Nothing’s Carved In Stone)が歌い出しの
「十字路で〜」
のフレーズをモノマネしまくっていた「月面のプール」の本家バージョン。(SHIKABANEでも亮介は歌っているのだが)
普段の弾き語りでもよく歌っている曲であるが、やはりアコギではなくエレキ(しかもWATARUスペシャル)を弾くことによって曲のイメージはガラッと変わる。亮介の言う辛気臭さはかなり減っている。
「久しぶりに革ジャン着たらこんなに暑かったのかって(笑)」
と革ジャンのプロらしからぬ言葉を発するが、35°Cを超えるような暑さに加え、最近はSHIKABANEやSATETSU、THE KEBABSなど革ジャンを着ない形態でのライブが多かっただけに感覚が鈍ってしまったところもあったのだろうか。
「ピロウズのさわおさんにこの前会ったんだけど、「次なんかライブあるの?」って聞かれて。「SISTER JETのWATARU.Sと一緒に」って言ったら「あいつか〜」って(笑)
チャットモンチーのアッコさんに会った時にも「あいつか〜」って言ってた(笑)
相当イメージ悪いのが定着してる(笑)」
と、未だに悪ガキ的なイメージの強いWATARU.Sが先輩たちからもそう思われている話で笑わせるも、
「うちの最初のギターの岡ちゃん(岡庭匡志)は1970年代のロックンロールしか聞いたことないみたいなやつだったんだけど、SISTER JETとThe Strokesが自分を変えてくれたって言ってて」
と、かつてSISTER JETとこうして下北沢で対バンしていたであろうインディーズ期に在籍していたメンバー(こうして彼の話ができるようになったというのは亮介の中ではもう決着がついているのだろう)がSISTER JETに強い影響を受けていたことを語ると、
「やっぱり最新が最高」
と、もう一つの影響源であるThe Strokesが7年ぶりにリリースした最新アルバム「THE NEW ABNORMAL」収録の「Brooklyn Bridge To Chorus」のカバーを。この新作の曲を早くも弾き語りで自分のものにしているという反射神経はさすがという他ないが、当然ながら英語の歌詞のままでカバーしている。かつてOasisのカバーをした時などは独自の日本語訳で歌っていたが。
そして1st「IS THIS IT」があまりにも鮮烈過ぎただけに、以降のアルバムが少し物足りなく感じてしまうというデビュー作が傑作過ぎたが故の十字架を背負ってしまっていたThe Strokesだが、今回の「THE NEW ABNORMAL」は日本でも世界でも完璧な復活作として絶賛されているし、それは常に傑作を作って自分たちを更新してきた亮介からしても同じようだ。
フラッド屈指のロマンチックな名曲「Honey Moon Song」を歌うと、
「歓声がWATARU.Sしかない(笑)
どうせこの後WATARU.Sだもんね(笑)
俺、福生行ったことないんだよね。呼んでくれないから(笑)」
と、SISTER JETの地元である福生には意外にもまだ行ったことがないことを口にする。こうしてその話をしたからには、近いうちにSISTER JETが福生のライブハウスでライブをやる時にフラッドを呼んでくれたりするのだろうか。独自の文化を持っている街であるだけに是非一度ライブを観に行ってみたいものだ。
「SISTER JETは呼んでもないのに全員来てるけど、フラッドはメンバー誰も来てない(笑)」
と両バンドのメンバーの姿勢の違いを明かすと、
「DaisyBarに捧げます」
と言ってから歌い始めたのは、弾き語りではおなじみのレパートリーと言える、中島みゆきの「ファイト!」。なのでこれまでにも何度となく聴いてきた曲であるが、
「あたし男に生まれればよかったわ」
のフレーズからをギターを弾かずにボーカルだけになると、その歌の力に飲み込まれるかのような迫力に。フラッドのメンバーと同世代だったり、さらにその下の世代の人からしたら原曲を全然知らないかもしれないけれど、原曲を知っていても完全に亮介の曲になっている。それくらいにこの曲を歌い込んできたし、やはり亮介の声あればこそどんな人の曲すらもロックンロールとブルースに昇華することができるのだ。
本来ならこれで終わりだったようだが、WATARU.Sから「アンコール!アンコール!」という声が上がり、呼ばれてもないのに来たというSISTER JETのKENSUKE.A(ドラム)とオオナリヤスシ(ベース)がステージへ。リズム隊がSISTER JETでボーカルがa flood of circleということで、「SISTER JET of circle」と命名されたスリーピースバンド編成によって「カントリーロード」のカバーを演奏するのだが、これもまたThe Strokesのカバー同様に英語歌詞バージョン。なので
「mountain mama」
のフレーズを
「DaisyBar」「下北沢」
に変えるというこの日ならではのバージョンに。
急造バンドとは思えないくらいのハマりっぷりはやはり両者が昔から今に至るまでずっと、メンバーが変わってもロックンロールというスタイルを貫き続けているからだろうか。
先日下北沢SHELTERで見た、SATETSUのライブも弾き語りスタイルだったが、亮介1人になるとやはりそれとは全く違う。フラッドもあり、THE KEBABSもあり、SATETSUもあり、SHIKABANEもあり、ソロバンドもあり、弾き語りもある。佐々木亮介という男がいれば、それだけで飽きることのない人生を送れそうな、そんな気すらしている。その全てがこんな世の中の状況でも全く停滞することがないのが亮介の生き様を表している。
1.新曲
2.Sofa Party
3.象のブルース
4.月面のプール
5.Brooklyn Bridge To Chorus
6.Honey Moon Song
7.ファイト!
8.カントリーロード (SISTER JET of circle ver.)
少しの転換時間を経てから画面に映し出されたのは、WATARUスペシャルのエレキを持ってサングラスをかけた、SISTER JETのWATARU.S。こうして映像でもライブを見るのは久しぶりであるが、亮介が言っていた通りに全く見た目は変わっていない。
そんなWATARUが歌い始めたのは、Oasis「Morning Glory」のカバー。WATARUはエレキのリフをループさせて重ねたりと、スリーピースバンドのボーカル&ギターとして技量を磨いてきたギターの上手さをいきなり見せつけてくれるし、どことなくWATARUのスイートなボーカルをリアム・ギャラガーのロックンロールでしかないそれに寄せているかのようなイメージである。
てっきりサングラスをかけていたのはOasisのカバーであり、リアム・ギャラガーのマネをしているという意味もあったのかと思っていたが、SISTER JETの「マギーメイブルース」の弾き語りでもサングラスをかけたままなので、この日はそういうスタイルであることを悟る。エレキとはいえギターのみになるとやはり一気に弾き語り感が強くなる。
「佐々木君がブルージーだったんで俺もそういう感じで」
と言って歌い始めた「Manufactured Monkey Dance」はブルージーというよりもロックンロール感を強く感じたが、堀江博久とカジヒデキが参加しているDOTS + BORDERSを加えた名義の曲ということもあるからだろうか。
WATARUが強く影響を受けているという詩人のことを歌った新曲「ブコウスキー」は、WATARUが「酔いどれ詩人」と評しただけあり、WATARUだけならずフラッドとも相性が良いと思われる。
(WATARUはSISTER JETが[Champagne]時代の[Alexandros]と宅飲みをした際に他のメンバー6人が全員酔い潰れて寝てしまった中で1人だけ余裕で起きていたというくらいにめちゃくちゃ酒が強いことでも知られるボーカリストでもある)
「どうだった?良かった?良かったならよかったよ」
と、サングラスをかけているだけに、その言葉や目線が誰に向けられているのかわからない問いかけをしながら、
「例年ならこの時期は福生地方ではカニ坂ロックフェスティバルっていう、河川敷でやってる、ステージとかも全部手作りの、フジロックとかよりも歴史が古いフェスがやってて。
一言で言うなら「負の連鎖」というか「悪の巣窟」というか(笑)
SISTER JETはそのフェスを2回出禁になってて(笑)
1回目は9時に来いって言われたのに平気で11時くらいに行ったらそれ以降呼ばれなくなって(笑)
10年ぶりくらいに呼ばれた時はかましてやろうと思って寝転びながらギター弾いたりしたらそれ以降呼ばれなくなってるんだけど(笑)
そのフェスに狂育委員会っていう先輩のスリーピースバンドが毎回トリで出てるんだけど、そのバンドがライブやると観客がステージ上がりまくって暴動みたいになるんだけど、1曲だけバラードがあって。暴れてた人たちもその曲をやってる時だけは収まってみんな聴く。リスペクトを込めてその曲を」
と言うと、その狂育委員会のバラード曲「たまにはアイラブユー」のカバー。暴動が起こるようなバンドの曲とは思えないくらいに良い曲なだけに、狂育委員会がどんなバンドなのかが気になってしまう。
「もう60代とか70代なんだけど、ドラムの人が何回か塀の中に入ってて(笑)
あの人いないな、って話してると、3回くらい夏を越えると戻ってくる(笑)」
というような人たちらしいが。
この日のために募ったリクエストで選ばれたのは、WATARUが30歳になった時に作ったという「30」であるが、エフェクトをかけた幻想的なギターのサウンドはとても弾き語りのレベルのそれではなく、改めてWATARUのギターの技量の高さを実感する。
そんなWATARUももう38歳になり(見た目は全然そんな歳に見えないが)、そろそろ続編と言える「40」という曲を作らないといけない、とのこと。
そのギターの技量の凄まじさを亮介に称えられると、
「僕、スリーフィンガー凄いんですよ。昔のブルースマンってみんなそうじゃん」
と、サングラスを外して敢えて渋い顔を作ってブルージーなギターを弾きまくるのだが、サングラスをかけている理由が
「道で寝てたら毛虫に刺されて目が腫れているから」
というあまりにも予期できないものであることを明かす。
しかしながらフェスなどにも引っ張りだこだった頃にはSISTER JETのバンドとしての演奏技術の高さはほとんど語られることはなかった。もちろんそれはバンドを続けてきたことで上達したり会得してきたものでもあるだろうけれど、そうした場所に立つための力を元からこのバンドは持っていたということだし、それは今も錆び付いてないどころか進化し続けている。
そんな思いが去来する中で歌い始めたのは、バンドの代表曲の一つと言っていい名曲「キャラメルフレーバー」。この曲はバンドがガンガン階段を駆け上がっていた頃にリリースされ、スペシャの「Power Push!」に選ばれてめちゃくちゃ流れまくっていた曲。この曲がリリースされた頃は、
「ふたりはこのままどこまで行けるかな?」
という歌詞の通りに、このバンドはどこまで行けるんだろうかと思っていた。もしかしたら期待ほどは遠いところまでは行けなかったかもしれないけれど、こうして今もバンドが続いていて、WATARUはこの曲を歌っている。それだけで充分かもしれないと思う。
「大晦日のイベントのオファーを蹴ったのに無理矢理その日のライブに乱入したりして。オファー蹴った時も「ノルマ払わなくていいなら出る」って言ったり、昔から金の話ばっかりだったなぁ」
と、DaisyBarへの思い出を口にするWATARU。どれだけ歳を重ねてもその生意気なロックンロールキッズ感は全く変わっていないけれど。
それを証明するかのように初期の曲「オーロラchannel」も変わらぬ瑞々しさで歌うと、WATARUが弾いたギターのフレーズをその場でループさせまくる「SUPER BIG」では曲途中からKENSUKEとオオナリヤスシが登場して通常のバンド編成のSISTER JETに。
ライブならではのセッション的な演奏も挟まれる中、
「またライブハウスで会いましょう!」
と、自分たちがこれまでに生きてきた場所であるライブハウスでの再会を約束すると、
「SISTER JETは今年で20周年です!これからもご贔屓に!やっぱりバンドって最高!」
と、呼んでもないのに来たとは思えないくらいに息ピッタリの演奏を見せながら、20周年と言われるとまだ中堅くらい(スペシャ列伝ツアーに出た時はTHE BAWDIES、andymori、avengers in sci-fiと一緒だっただけに)だと思っていたこのバンドが一気にベテランであるかのように感じるが、15周年の時に記念として作られたこの曲も一切ベテランらしさを感じさせないだけに、このバンドはこれからも成熟という言葉とは無縁のまま、ずっとキラキラしたロックンロールバンドであり続けて行くのだろう。
そしてラストの「to you」では佐々木亮介を招き、WATARUとのツインボーカルという形に。歌詞を見ながらではあるが、リズムとメロディは完璧な亮介はずっとこの曲を聴き続けてきたのだろうけれど、そのサウンドは当時とはだいぶ変化して、よりストレートなロックンロールになっているように感じる。それはベースが当時とは違うメンバーだからというのもあるだろうけれど、この曲が持つきらめきはずっと変わらない。WATARUは最後に
「SISTER JET of circleでした!」
と挨拶して、あくまでSISTER JETとフラッドの2マンであることを強調するという優しさを感じさせた。
そう、WATARUはあまりにも優しすぎた。それがSISTER JETが突き抜けきれなかった理由の一つだと思っている。どんなに失礼なことをされても決して怒ることなく、目の前に見えるポジティブなことに目を向ける。だから他のバンドを蹴落としたり、押しのけてまで自分たちが大きくなることができなかった。あまりにも優しすぎて、かつ不器用過ぎた。
でもその優しさと不器用さはそのままSISTER JETの音楽になっているということが今になるとわかるし、そういうバンドだったからこそ、登り切った季節を終えても続いているということもわかる。
またこのDaisyBarでのフラッドとの2マンはいつか必ずやると宣言していたが、そうした機会じゃなくてもまた久しぶりにSISTER JETのライブを見てみたい。そう思えたことが何よりも嬉しかったし、この配信ライブを観れて本当に良かったと思った。
1.Morning Glory
2.マギーメイブルース
3.Manufactured Monkey Dance
4.ブコウスキー
5.たまにはアイラブユー
6.30
7.キャラメルフレーバー
8.オーロラchannel
9.SUPER BIG
10.Dancing Days
11.to you w/ 佐々木亮介
文 ソノダマン