フルアルバムとしては2年ぶりとなる「Section #11」を11月27日にリリースした、THE BAWDIES。今年は15周年を迎えての3回目の日本武道館ワンマンから、アルバムの曲を先にお披露目ツアーや、つい先月に新木場STUDIO COASTで360°ライブを行ったりしているだけにアルバムリリースこそ久しぶりだがロックンロールバンドとして転がり続けてきた。
そんな中での「Section #11」のリリースツアーは発売翌週からスタートというかなりタイトなスケジュール。開幕戦は渋谷CLUB QUATTROでの2daysであり、この日は2日目。都内でこのキャパでTHE BAWDIESのワンマンが見れるのは今やかなり貴重な機会であり、チケットは当然のようにソールドアウト。
なので客席は開演前からたくさんの人でひしめき合う中、17時を少し過ぎたところで場内が暗転すると、「SOUL MAN」でも「ダンス天国」でもない新しいSEが流れて秋から着用しているキャメルカラーのスーツを着たメンバーが登場。SEが変わっても手拍子で迎えるあたりはさすがTHE BAWDIESファンならではの前のめりな楽しみ方というか、もしかしたら前日にも来ていて曲を知っていた人が多かった可能性もあるけれど。
「THE BAWDIESでーす!」
とROY(ボーカル&ベース)が元気良く挨拶すると、「Section #11」の1曲目である「DON’T SAY NO」でロックンロールにスタート。リリースされたばかりとは思えないくらいに観客がすでにアルバムを聴き込んでこの日のライブに臨んでいるのがよくわかるくらいにいきなり腕も上がるし飛び跳ねまくる。ステージでは爽やかなTAXMAN(ギター&ボーカル)のコーラスがROYの太いボーカルの後に続くことでロックンロールでありながらあくまでキャッチーなイメージに。
そんなキャッチーなロックンロールとしてアルバムに先駆けて配信された「LET’S GO BACK」はもはやライブ定番曲と言ってもいい位置の曲になっており、サビでは合唱が起こるのだが、クールなMARCYもドラムを叩きながら口ずさんでいた。それくらいに楽しい空気をこの曲は作ってくれる。
「飛び跳ねましょう!」
とROYが言ってTAXMANがイントロのギターを刻む「JUST BE COOL」はフェスなどではクライマックスを担う曲であるが、この序盤で早くも演奏されるというあたりに今のTHE BAWDIESのモードがうかがえる。新しい曲たちをその位置に持っていくべき曲にしようとしているというか。最後のサビ前のブレイクではROYが
「行くぞ渋谷ー!」
と煽り、さらに高く跳ぶ観客。JIM(ギター)は早くも長い髪を左右に振るとそこから汗が飛び散っている。
ROYが早くしゃべりたくてしょうがないとばかりに、
「ベストアルバムを去年出しまして。その後にぬるっと始まりたくなかったんです。だからベストアルバムを超えるアルバムを作ろうと思いました」
と「Section #11」はメンバー自身が並々ならぬ気合いを持って作られたアルバムであることを語ると、
「この渋谷QUATTROはデビューして最初のツアーの時のファイナルの会場でした。またこうやって戻ってこれて原点回帰というか、その頃はレーベルの人とかも僕らをクールなロックンロールバンドとして売り出そうとしてたと思うんです。でも僕にクールなイメージは無理でした(笑)
だってTHE BAWDIESのロックンロールは人を笑顔にするロックンロールだから!」
と自分たちなりのロックンロールバンドらしさを口にして、そのロックンロールバンドとしての最新の形のロックンロールである「SHE’S MY ROCK’N’ROLL」へ。すでにアルバム発売前にライブで何度も演奏されてきた曲だからか、良い意味で新曲感が全くない。本当にずっとこうして演奏されてきたかのようにライブで演奏されていることに新曲ならではの慣れなさみたいなものが全然ないのである。まだツアー2日目にしてすでに完全にバンドの血となり肉となっている。
再び観客が飛び跳ねまくる「NO WAY」から、「Section #11」の音源では鍵盤やグロッケンなどのいろんな音が入っている「I’M YOUR HOME」、同じく黒人女性のコーラスを取り入れていた「GET UP AND RIDE」という曲たちを、ライブならではの4人だけの形で演奏。それでも音源と比べて物足りなさが全くないのはこの4人の音こそがTHE BAWDIESの軸であるというのもそうだが、そうした音源に入っている音がなくても成立するようなライブアレンジ(MARCYも含めた3人によるコーラスなど)を施しているからだろうし、それはきっとツアーを経ることでさらに進化、変化していくはずだ。
すると「hey!」の合唱が響く「KICKS!」へ…と思いきや、途中でいきなり「LEMONADE」のイントロのギターにスムーズに切り替わる。これまでにもよくやっていた、ライブならではのメドレーセクションである。「KEEP YOU HAPPY」も含めてライブでよく演奏される曲をつなげた形であるが、最新アルバムのツアーとなるとアルバムの曲をやるだけにどうしてもこれまでに演奏してきた曲を減らさざるを得ない。でもそうした曲も演奏したいし、聴いてもらいたい。そういうバンドの思いが感じられるメドレーであるし、これはきっとこの後の冬フェスシーズンでも見ることができるはずだ。
「Section #11」の中でTAXMANがメインボーカルを務める「EASY GIRL」はパンクらしい疾走感にTAXMANの爽やかな声がよく似合う。実はTAXMANボーカル曲は名曲揃いであるが、この曲も間違いなくその系譜に連なる曲。というかもはやTAXMANボーカル曲を並べるだけでアルバム1枚作れるくらいの数になっている。ROYが絶対にそれはやらせないだろうけど。
そのROYはやはり自分以外のメンバーの名前を観客が真っ先に呼ぶことに違和感を感じながらも、新曲お披露目ツアーのZepp DiverCityでのライブの「JUST BE COOL」の時にTAXMANがラストサビ前で演奏を止めて
「レインボーブリッジ、封鎖できませーん!」
と「踊る大捜査線」の劇場版の織田裕二の名台詞を叫ばせたことへ文句を言い、新木場での360°ライブの際にはアコースティックコーナーでハンドマイクだったためにMARCYに近寄って歌ったら良い匂いがしたと語る一方、TAXMANはその際にROYに肩を組まれた時のことを、
「ローリング・ストーンズのライブでよくミック・ジャガーがキース・リチャーズと肩を組んで歌ったりしてるのを見てきたから、そういうのに憧れがあった。でもROYに肩を組まれた時に「なんか違うな」って思った(笑)」
と回想して笑わせると、同じようにJIMとは背中をくっつけ合うようにしたら、
「腰の位置まではおなじなのにお尻の位置が全然違うんですよ。俺(ROY)がすごい足が短いみたいな空気になってたけど、足が短いんじゃなくてお尻が長いだけなんです!(笑)」
とやはりTHE BAWDIESはMCも実に面白いのだが、その理由をROYは
「サザエさんとかドラえもんとかって年齢がずっと同じ世界線じゃないですか。俺たちもそうなんです。小学生の頃からずっとこのまんまなんです」
と説明した。今でもそれが続いているというのは本当に凄いことだけれど、こうして見ているとそれはその通りなんだろうなと思う。1人だけ途中から3人の輪に加わったTAXMANは少し睨みつけるような目でROYのことを見ていたけれど(笑)
JIMのギターがややサイケデリックな雰囲気を感じさせ、ROYのボーカルもエコーをかけているように感じる「THE BEAT」ではイントロやサビ部分でのコーラスをROY以外の3人だけでなく観客も合唱。この今までの合唱とは少し違うようなタイプのコーラスはフェスなどの大きな会場でたくさんの人が参加することでさらに映えるような予感がする。そういう意味でも「Section #11」の曲はフェスでの主力選手となっていってもおかしくない。
ロックンロールバンドとして転がり続けていく意志を示す「THE EDGE」でさらにハードな、ロックンロールなサウンドに振り切っていくと、完全にその流れに連なる「HIGHER」ではMARCYのドラムが一気に強さを増す。この曲の存在はある意味では「Section #11」というアルバムを象徴しているかもしれない。新たな方向性というよりもこれまでに培ってきたTHE BAWDIESのロックンロールを今のバンドの状態で結集して音と曲にしているかのような。それが「Section #11」が15年目のバンドの新作とは思えないくらいの名盤になった理由であるとも思う。
ROYが大阪のキャンペーンに一緒に行った時のMARCYのことをいじりまくる(MARCYいわく緊張するからとのこと)と、その後に演奏された「HAPPY RAYS」は同期のストリングスのサウンドも使われたが、
「「HAPPY RAYS」のカップリングの曲なんですけど、ライブでやらないつもりなのかと言われまくったんでやります!」
と言って演奏された「SHE CAN ROCK」はそのタイトル通りの痛快なロックンロールナンバーであるが、武道館や新曲お披露目ツアーでも演奏されるだろうと思われていたにもかかわらず演奏されなかったという点ではライブで聴けることはない曲なのかもしれないと思っていただけにこうして聴けたというのは実に嬉しいことであるが、カップリングにはもったいないくらいというかシングル曲になっていてもおかしくないとすら思える曲であるし、そんな曲がアルバムにも入らなかったというところからも今のTHE BAWDIESの絶好調っぷりを感じることができる。
ROYがTAXMANを指差すとそのTAXMANが歌うこの日2曲目は「SO LONG SO LONG」。ベースのみに徹するからこそベーシストとしてのROYの音の動きっぷりを堪能することができる曲であるが、前日はこの位置で演奏されたのは「RAINY DAY」だったらしいので、ツアー中のTAXMANボーカル曲は「EASY GIRL」は固定としてもう1曲は日替わりになりそうである。それがわかってしまうとツアーの他の公演にも何本でも行きたくなってしまう。
すると真っ暗になったステージの上でスポットライトが当てられたのはエプロンをつけたTAXMAN。会場にはサザエさんのテーマ曲が流れると、おなじみの劇場は「サザエさん」であることがわかるのだが、ROY演じるカツオが36歳になっても働かずに中島と野球をして遊んでいるという設定であり、JIMはスターウォーズのヨーダ師匠のようにマスオさんのモノマネを抜群のクオリティで披露し、MARCYは申し訳程度にタラちゃん役で参加。
働こうとしないカツオにキレたサザエさんがカツオを赤いバットで殴ろうとすると、カツオがまるでパンのような色のグローブでバットをキャッチし、それがホットドッグのようだということで「HOT DOG」でさらに急加速するのだが、前日も同じサザエさんであったが話の内容が違ったらしい。果たしてこのバンド(というかROY)は一体この劇場にどれだけの時間と労力をかけているのだろうか。もはや完全にTHE BAWDIESのライブにおける楽しみの一つになってきているけれど。
そして終盤を担うことになった、フェスなどでも演奏されまくってきたことによって新曲とは思えなくなってきている「BLUES GOD」はロックンロールバンドでありながらもブルースやソウルミュージックをルーツとしているこのバンドらしさを感じさせてくれる曲。ROYの裏でコーラスをするTAXMANの声も実にハイトーンなのがブルースらしさを感じさせる。
「まだまだ行きますよ!乗り遅れないでくださいね!乗り遅れたらこうなりますよ!」
と言って演奏された「IT’S TOO LATE」でROYが超ロングシャウトを聴かせると、セッション的なイントロを加えてから最後に演奏されたのは盟友バンドである9mm Parabellum Bulletとの男性限定ライブで初披露された時からTHE BAWDIESの新しいポップなキラーチューンになると思われていた「SKIPPIN’ STONES」。小気味良いコーラスとサビでの合唱はポップでありながらもライブ映えする曲であるし、最後に一気に加速していくアレンジも含めてこの曲は長くライブの主軸を担っていきそうである。個人的にもこの曲を男性限定ライブで初めて聴いた時に「アルバムは凄いものになる予感がする」と思ったし、それはやはりその通りになったのだった。
アンコールではいつもより長く感じるような間があったし、何やらスタッフが転換作業をしている様子が暗闇の中でもわかった。普段はそうした動きは全くないだけに、これは何かいつもと違うことがあるだろうな、と思っていたらやはりステージに現れたのはスーツのジャケットを脱いだROYのみ。
ステージにセッティングされた鍵盤の前に座ると、なんとROYの鍵盤弾き語りという形で演奏されたのはその演奏するMVも話題を呼んだ「STARS」。そのTHE BAWDIES史上最も少ない音数によってROYのボーカルの唯一無二さがよくわかるし、切ない鍵盤のメロディはこの季節に夜空に光る星の景色を想起させる。その星が照らすのはTHE BAWDIESの、日本のロックンロールの未来。ROYは全く触ったことすらなかったという鍵盤を2ヶ月間猛練習したということだが、MVがその形だったとはいえこの曲がこの形で演奏されるとは思っていなかった。なんならTHE BAWDIESのライブで鍵盤を弾くということがあることすら全く想像していなかった。それを他ならぬROYが演奏したのだから驚かないわけがない。
歌い切ったROYが大きな拍手に包まれる中で3人もステージに戻ってくると、ROYが最後にドヤ顔で観客にアピールしたのをJIMとTAXMANにいじられながら、「A NEW DAY IS COMIN’」で大合唱を巻き起こすと、最後に演奏されたのはやはり「KEEP ON ROCKIN’」。観客が高く手を挙げて手拍子をする音だけが響く時間から、コール&レスポンスでは声が小さくて止める→「Section #11」だけに11倍の声でやり直して大合唱を巻き起こし、アルバムリリースツアーの初日とは思えない完成度の高さのロックンロールパーティーとなった。
演奏後にはおなじみの大将ことTAXMANによる「わっしょい」が行われるのだが、説明をしているTAXMANの後ろでMARCYがTAXMANの缶ビールを振りまくるといういたずらっ子っぷりを見せつつもTAXMANはビールの缶を開け、この日はサザエさんのエンディングでの腕を上に上げて左右に揺れるバージョンのわっしょい。ROYは「実は波平は違う動きをしている」ということで、波平のものとは思えないくらいの俊敏な動きを見せると、
「ツアー行ってきます!おかわり自由ですからね!また新木場に帰ってきますので!」
とツアーファイナルの新木場STUDIO COASTでの再会を約束すると、JIMはピックを客席に投げ込みまくり、MARCYもその1枚を客席に投げ入れたのだが、届かずに柵の前に落ちて拾い直していたのが実にMARCYらしかった。
3度の日本武道館や、横浜アリーナ、日本のあらゆるフェスのメインステージ…。2010年代にロックンロールバンドでこんな景色が見れるとは思っていなかったような景色をTHE BAWDIESはたくさん見せてくれた。
その頃に比べたら今はそこまで広いステージに立っているわけではない。でもきっとこれからまた新しい、今までに見たことのない景色をたくさん見せてくれるはず。「Section #11」はそんなことすら思わせてくれる、まさにROYが言うような「新しい基準」のアルバムだからだ。そんなアルバムを手にしたTHE BAWDIESは間違いなく「今までで1番最強のTHE BAWDIES」である。前日とはセトリも変わっているらしいし、このライブを見たら何回でもおかわりしたくなってしまうじゃないか。
1.DON’T SAY NO
2.LET’S GET BACK
3.JUST BE COOL
4.SHE’S MY ROCK’N’ROLL
5.NO WAY
6.I’M YOUR HOME
7.GET UP AND RIDE
8.メドレー
KICKS! 〜 LEMONADE 〜 KEEP YOU HAPPY
9.EASY GIRL
10.THE BEAT
11.THE EDGE
12.HIGHER
13.HAPPY RAYS
14.SHE CAN ROCK
15.SO LONG SO LONG
16.HOT DOG
17.BLUES GOD
18.IT’S TOO LATE
19.SKIPPIN’ STONES
encore
20.STARS
21.A NEW DAY IS COMIN’
22.KEEP ON ROCKIN’
文 ソノダマン