そもそもは開演時間が18時30分からだと思っていたのだが、前日になって開演時間が17時であるということが判明し、スタートに間に合わないことが確定。
さらには仕事が長引いたことにより、yonigeとSPARK!!SOUND!!SHOW!!を迎えて開催されたMy Hair is Badの最後の新木場STUDIO COASTでのライブとなる主催イベント「超学校」は開演に間に合わないどころか、ゲストのバンドのライブが全く観れないという事態になってしまった。
検温と消毒、接触アプリの確認を経て入場すると、ロビーにたくさんの人が出てきたのを見て、これは本当にマイヘアしか見れないなと思っていたのだが、客席に入ったらステージにはやたらと高い位置のシンバルのドラムセットがセッティングされており、完全にマイヘアのライブを残すのみである。
場内が暗転して拍手に迎えられながら、この日の主催のMy Hair is Badの3人がステージに。一目で彼のものであるとわかったくらいにシンバルの位置が高い山田淳のドラムセットの前に3人が集まって気合いを入れると、椎木知仁がギターを鳴らしながら雄大なメロディを歌い始める「宿り」でスタート。バヤリースこと山本大樹もベースを弾きながら、マイクを通さずとも歌詞を口ずさんでいる。その表情は笑顔でありながらも穏やかという印象であり、この日のyonigeとSPARK!!SOUND!!SHOW!!のライブがどれほどいいものだったか、この日のイベントがどれほどいいものになったかを物語っている。
早くも椎木が間奏のギターを飛び跳ねるようにして弾く「ドラマみたいだ」を歌った後に椎木はyonigeとスサシへの感謝とともに、この日が自分たちにとって最後のCOASTでのライブであることを改めて告げる。そこにはどこか切なさというよりも愛おしさのような感情を言葉に宿しているような。
そんな椎木は
「僕の前でだけ独身に戻る君が好きだ」
と、ブルースマンのように、あるいは吟遊詩人のようにギターを弾きながら1人言葉を紡ぎ始める。
春先のさいたまスーパーアリーナワンマンの時もそうであったが、それは
「オリンピック中止のニュースすら
聞こえないくらい恋してた」
という、結果的には開催前からいろいろと問題ばかりありながらもオリンピックは行われたことによって、椎木の描くパラレルワールドの物語のように聴こえるようになった「予感」につながる描写と言える。
「「結婚するんだ。」って受話器越しで君が泣いていた
僕は「おめでとう。」としか言えなかった
本当は分かっていた
僕たちが結ばれないことも
君が話したいことも 終わり方も」
という歌詞からして、冒頭の語りはこの曲の後日談と言えるだろう。それを歌詞で描いたらより一層ドロドロしたものになってしまいそうな。
タイトル通りに真赤な照明が3人を照らす「真赤」では椎木は明らかに声がキツそうな感じだった。しかしそれでも振り絞ろうとする姿や声がこの曲のエモーショナルなギターサウンドと合わさることによって、常に全く同じライブにはならないロックバンドとしてのマイヘアらしさを強く感じられるものになっていたのだが、マイヘアは今年様々な各地夏フェスに出演する予定だった。それはほとんどが中止になってしまったから感じられなかった、夏の匂いがした。
そしてイントロの山田のドラムの連打が「そんなにぶっ叩くか!?」というくらいに力強すぎる「戦争を知らない大人たち」でのポエトリーリーディングと
「Good night」
というリフレインを繰り返しているうちに、「真赤」で声がキツそうだったのは幻だったのだろうか?というくらいにその声には活力と伸びやかさが満ちていく。
その姿に椎木という人間は、マイヘアというバンドは本当に不思議な存在だなと思っていたのだが、椎木は
「個人的な発表があります!」
と言ったので、ついに結婚か!?と思っていたら、
「昨日、ずっとやっていたゲームをクリアしました!」
とのことで、思わずなんだそりゃと思うのだが、そのクリアしたというゼルダの伝説が、ラスボスより途中の敵の方が強かったということを、
「人生なんてそんなもんだ!」
と「フロムナウオン」の導入につなげてみせるのだから、本当に不思議な人間でありバンドである。(山田が「クリアしました!」と発表した時に祝うようにドラムを叩いたのも含めて)
そこからは椎木の詩人性の独壇場とばかりに次々に言葉が放たれていく。
「自分のことしか考えなくても、俺は幸せになりたいし、楽しく生きていたい!俺が笑えば誰かが笑う!笑っていて欲しい!」
と、こうして人前に立ってライブをするという人生の根源にあるのが目の前にいる人、自分を見てくれる人のことを笑わせたいから、それによって楽しい人生を送って欲しいからということ。
だからこそ最前の観客の表情を見て、
「笑ったな!」
と言ったのは、自分の存在が誰かを笑顔にできているということの証明でもあり、椎木自身も本当に笑顔になっていた。それはどこかこのCOASTで対バンしたことのある、サンボマスターのライブに通じるものも感じた。そうしたこの場所での記憶が蘇ってくるようであり、だからこそこの日、マイヘア最後のこの場所でのライブを見れて本当に良かったと思う。
そうしたこの日の「フロムナウオン」の後だからこそ、
「たった一秒でも 長く笑えるように
ありふれた日々の 味方でいられたなら
なにも必要ない 瞬きの後に君がただ
そばにいれば それでいい」
と歌う「味方」は
「だって 僕は もう
悪になろうと 君の味方でいたいから
君が笑えば なにもいらない
君がいれば 僕は負けない」
という締めのフレーズも含めて、この日目の前にいた人たちのことを「味方」であると歌っているかのようであった。気づけば椎木の歌声は1ミリたりとも不調な部分を感じないくらいの包容力に満ちている。一体どんなスイッチを持っているバンドなんだろうか。
「「超学校」っていうタイトルは5秒くらいでつけたんだけど、我ながらいいタイトルだなと思って。俺は大学に行ってなくて、高校を卒業してからフリーターになってそのままこのバンドを始めて。俺もスサシも19歳の時に出会ってからの付き合いで。yonigeも牛丸たちが19歳の時から知ってる。もともと同じ学校に行っていたのが離れて、またこうして今日集まってるって学校みたいな気がする」
と、付き合いの長い両者だからこその必然性を持ったイベントになったことを口にしながら、
「この会場でライブやるときはいつも尖ったりオラついていたりした記憶ばかり」
とこのCOASTへの想いも口にしながら、最後に演奏された「アフターアワー」はそんなこの場所への想いも音に変えるかのような熱量を3人が鳴らす音が放ち、椎木はこの曲ではおなじみの
「ドキドキしようぜ!」
と口にしたが、最後のCOASTでのライブの最後の曲がこの曲であるということにドキドキしないわけがない。
「心で歌ってくれ!」
と叫ぶ椎木の顔は、終わり良ければ全てよしというか、これまでの少しでもマイナスなことがあったこの場所での記憶が全てがプラスな方向に向かうこの日のライブで上書きされたかのような笑顔だった。
そして3人が向かい合ってキメを連発すると、
「全てのロックバンドと全てのライブハウスが自由になれますように!」
と言った。それは
「自分のことしか考えなくても」
と言っていたバンドが、自分の周りにいる人や自分や周りの人にとっての大事なもののことを考えて、思いやって音楽を鳴らしていることの証だった。マイヘアというバンドのことをより深く学ぶことができた「超学校」だった。また、そんなマイヘアにとっての大事な場所で会うことができたら。
椎木が冒頭で口にしていた通り、この日はアンコールはなし。規制退場で会場の外に出た人の多くが、COASTの象徴の一つとも言える看板の写真を撮っていた。一体あと何回この看板の写真を撮ることができるだろうか。一体あと何回ここでライブが見れるだろうか。この日マイヘアが抱いていた会場への想いを、自分も抱く日がすぐそこまで来ているなと思っていた。
1.宿り
2.ドラマみたいだ
3.予感
4.真赤
5.戦争を知らない大人たち
6.フロムナウオン
7.味方
8.アフターアワー
文 ソノダマン