先日の豊洲PITでのイベントでも共演を果たした、2000年代前半に起こった「青春パンク」というムーブメントの中においても盟友という2組である、ガガガSPと銀杏BOYZ。(当時はGOING STEADYだったけど)
ガガガSPは地元の神戸で「長田行進曲」という主催イベントを行っており、銀杏BOYZも出演したことがあるのだが、この日はそのイベントの東京編というタイトルがつけられている。そのことからもただの2マンではない予感が。
個人的には15年ほど前にこの2マンが行われた渋谷CLUB QUATTROでのライブにチケットが取れずに行けなかったので、はるか長い年月を経てのリベンジである。
19時になって、人がひしめき合う新宿LOFTの場内が暗転すると、ステージに現れたのはガガガSPのボーカルのコザック前田。
「本当はワンマンにしようかとも思ったけれど、せっかく東京でできるから、最近またよく会ってるし、峯田さんに出てくれないかとお願いしたら快諾してくれました!」
とこの2マンが行われることになった理由を話すと、ガガガSPからの誘いを快諾した男のライブへ。
・銀杏BOYZ
この日は事前に弾き語りでの出演であることがアナウンスされていたので、ガガガSPの機材がセッティングされているステージに現れたのは、素肌にモッズコートという出で立ちの峯田和伸。ドラマの撮影などによる影響で最近は丸坊主みたいな髪型だったけれど、少し髪が伸びてきている。どこかGOING STEADYがデビューした頃のような姿にも見えるのはガガガSPとの対バンだからという要素もあるのだろうか。
「おめでとうー!」
という声も飛ぶ中で峯田がアコギを持つ。その「おめでとう」の理由はこの日が峯田の42歳の誕生日だからである。その年齢を聞くとずいぶん歳を取ったんだな、と思うけれどそれは峯田の作った音楽をずっと聴いてきた我々も同じである。
そんな42歳になって最初に歌うことを選んだ曲は、アコギを弾きながら
「君が泣いてる夢を見たよ 君が泣いてる夢を見たよ」
と歌い始める「人間」。銀杏BOYZとして活動を始めた初期からこうして歌われてきた曲である。
峯田がマイクをぐるっと客席に向けると、
「まわる まわる ぐるぐるまわる
吐くまで踊る 悪魔と踊る」
というサビのフレーズで大合唱が起きる。バンド編成の時は曲の途中でメンバーが登場してバンドサウンドに転じていく曲であるが、この日は弾き語りなので最後までアコギと歌のみ。それがこの曲の産まれたままの形なんだよな、と思わせる。
GOING STEADY時代から数え切れないほどライブをしてきたというこの新宿LOFTへの思いを口にしてから演奏されたのはGOING STEADY時代の「東京少年」。最近ライブで毎回のように演奏されるようになっているのは実に嬉しいところであるが、弾き語りという形態だとどこかフォークさを感じさせる中に(銀杏BOYZにも「童貞フォーク少年、高円寺にて爆死寸前」という曲があるため、フォークは峯田のルーツの一つであるが)、やはり原曲の持つパンクさを感じられる。当然のように観客は合唱。
「2000年にガガガSPに出会って。「京子ちゃん」っていうCDをメンバーからもらって家で聴いてたんだけど、本当に衝撃的だった」
とガガガSPとの出会いを語ると、その出会いの曲である「京子ちゃん」のカバーというこの日だからこその選曲が。こうして20年近く経っても一緒にライブをやっているということを当時の峯田とガガガSPのメンバーたちが想像していたかどうかはわからないが、峯田はその出会いの衝撃に一切の嘘も虚飾もないのがわかるくらいに完璧に弾き語りで歌っていた。思えばGOING STEADYにも同じような曲の背景を持つ「佳代」という曲がある。こうして出会ってから今でも一緒にいるということは、やはり両者にはどこか人間として通じるような、同じ部分があるのだろう。
こうして弾き語りで歌われるのが実に似合う(バンドでのライブでも峯田はアコギを弾きながら歌うというのもあるし、曲が出来た時に弾き語りでよくライブをしていたからだろうか)「骨」では峯田が
「東京タワーのてっぺんから 歌舞伎町までジャンプする」
と歌詞を今ここでしかないものに変えて歌う。数え切れないほど来ていてもいつまで経っても好きになれない歌舞伎町の雰囲気も、こうして峯田が歌うことによってちょっとは好きになれるような。
峯田が自身の誕生日であることに触れ、改めて大きな拍手と歓声に会場が包まれる。こうして自分の人生を変えたと言っても過言ではない存在の人の誕生日にこうして本人が歌っている姿が見れて、ずっと峯田の音楽を聴いてきた人たちと一緒に祝うことができる。なんて素敵かつ幸せな夜だろうか。
そんなムードをより一層ロマンチックなものにしてくれるのは「新約 銀河鉄道の夜」。GOING STEADY屈指の名曲として生まれてから何度も形を変えてきたこの曲もまた弾き語りでも違う魅力を感じられる曲だ。特に峯田のセリフの部分は音数が少ないことによってその言葉の一字一句をしっかりと噛みしめることができる。
そんなロマンチックな空気が一気にシリアスなものに変わるのは冒頭に演奏された「人間」の続編として描かれた「光」。この曲も「人間」同様にバンド形態のライブでは弾き語りからバンドに切り替わる曲であるが、この日は弾き語りのみ、しかもそれによってかなりスッキリとした構成になっている。しかし最後の峯田の絶唱とも言うべきボーカルはこの曲が持つ切実さをより一層強めているし、この曲からさらに連なる形で「生きたい」が生まれた、生み出さざるを得なかった理由がよくわかる。
銀杏BOYZのライブでは峯田も合唱をよく求めるし、弾き語りという形態だとそれに応える観客の合唱がよく聴こえるのだが、「BABY BABY」ではもうアコギをジャカジャカと弾き始めると峯田はもう歌わずにギターのみを弾く。サビだけでなく歌い出しから起こる大合唱。みんな完璧に歌詞を覚えているから歌声が小さくなる部分が一切ない。自分は果たしてこの曲をこれまでに何回聴いてきたのだろうか。GOING STEADY「さくらの唄」に収録されたバージョンも、銀杏BOYZとしてGOING UNDER GROUNDの伊藤洋一のキーボードが加わったバージョンも、こうしてライブという場でも。ここにいたみんなも果たして人生においてどれだけこの曲を聴いてきたのだろうか。きっとそれはもう数えられるような回数ではないけれど、一つだけわかるのは我々はずっとこの曲に支えられてきて、この曲がこの世に存在するあらゆるアーティストのあらゆる曲の中でトップクラスの名曲だと思っているということ。だからこれからも間違いなくこの曲を聴き続けていくのだろう。
もう今年も年末ということで、峯田は次のライブが大晦日にあることを告知するも、
「チケット代がめちゃくちゃ高い」
と海外アーティストとの2マンだからかやたらと高いチケット代について我々の気持ちを代弁するかのように語ると、
「可愛い女の子が出てくる人数の多さでギネスに申請しようかと思っている」
という「ぽあだむ」では峯田のアコギの音だけではなく打ち込みのサウンドも流れる。ちなみに「ボーイズ・オン・ザ・ラン」は
「ブサイクな男が世界一登場するMVとしてギネスに申請できる」
とのことだが、峯田は曲途中でサウンドを打ち込みに任せるとギターを下ろしてハンドマイクで歌いながら客席に突入。やはりこの男の弾き語りはただ持ち曲をアコギで弾きながら歌うというものにはならない。だから見逃せないし、いつもライブを見るたびにドキドキするのである。
そんな峯田は客席に突入した時に意図せずに女性ファンの胸を触ってしまったことを若干嬉しそうに謝りながら、ファンから手渡された誕生日だからこその花をステージ後方へ放り投げるという峯田らしさを発揮すると、
「今、アルバムのレコーディングをしてる。もう半分くらいはできてる。期限が決まってるから、出る日も決まってる。来年出せるよ。期限が決まってないと終わらないから(笑)」
と、かつての反省も口にしながら、ついにアルバムが来年リリースされることを口にする。思えば「光の中に立っていてね」「BEACH」がアルバムとしては9年ぶりにリリースされて、峯田以外の3人が脱退してからもう5年も経っている。あの9年に比べたら「もう出るのか!」と思ってしまうくらいにもう感覚がマヒしてしまっているが、銀杏BOYZの新作アルバムが出るというだけでも2020年が素晴らしい年になるのは間違いないし、峯田の口ぶりからしても今回はかつてのような出す出す詐欺的なことにはならないだろう。
なぜなら「骨」を筆頭にシングル曲もこの5年の間にリリースしてきたし、この日最後に演奏された「アーメン ザーメン メリーチェイン」もまた新曲だからである。銀杏BOYZの曲は実際にレコーディングされてみないと弾き語りで新曲として披露した時とはまるっきり違うということになりがちなので、バンドアレンジでどういう曲になるのかは全くわからない。だが一つだけ言えるのは
「もうあなたのことは好きじゃない 愛してるだけ」
というかなり重めなラブソングとしての歌詞であるということ。これまでにも数え切れないくらいの名フレーズを世に残してきた峯田だけに、歌詞の全容も早く知りたいところであるが、それがわかるのはきっとそんなに遠い未来の話ではない。
銀杏BOYZの新曲が出る、新作CDが出る。それを心の支えにしてきた数年間があった人生だからこそ、今でも「来年アルバムが出る」と言った時は本当に嬉しかった。まだまだ長生きして、これからたくさん生まれるであろう銀杏BOYZの新曲を聴いて、こうしてライブに行かないと。峯田は最近ライブでよく言う
「シャブやっても援交してもいい。どんな手を使っても生き延びてください」
ということをこの日は言わなかった。でもそれ以上に生きていたいと思わせてくれるようなことを口にしてくれたのだった。
1.人間
2.東京少年
3.京子ちゃん
4.骨
5.新約 銀河鉄道の夜
6.光
7.BABY BABY
8.ぽあだむ
9.アーメン ザーメン メリーチェイン
・ガガガSP
そして主催のガガガSP。すでにドラムをはじめとした機材がセッティングされていることによって実にスムーズに転換を終え、転換中に降りていた幕が上がると、おなじみのハンチング帽を被った田嶋悟士(ドラム)、見た目がいつになっても老けない桑原康伸(ベース)、こちらもいつになっても髪の量が多い山本聡(ギター)、そしてメンバーの中では1番年齢というか年輪というか、ガガガSPが完全にベテランバンドになったことを感じさせるコザック前田が水を飲みながらステージに現れ、
「今日は10年、15年ぶりにガガガSPのライブを見るっていう人もいるでしょう。おかえりなさい。初めてライブを見るっていう人、はじめまして。我々が神戸のゴキブリ、日本最古の青春パンクバンド、ガガガSPです!」
とコザックが挨拶して「素晴らしき人生」からスタート。その挨拶は銀杏BOYZとの2マンだからということもあるだろうけれど、先日の豊洲PITでの「ティッシュタイム・フェスティバル」でも「こんなに大きな会場でやれる機会は本当に久しぶり」と言っていた通り、メンバーは今の自分たちが置かれている状況をちゃんとわかっている。あの頃とはもう違うということを。でも今でもこうしてバンドを続けている。それはそのまま「素晴らしき人生」であるということが1曲目から満面の笑みを浮かべて演奏するメンバーの表情からよくわかる。
「いつまで経っても別れた彼女のことを忘れられないとか、今年40歳になるんですけど、この歳でそんなことばっかり歌ってたらストーカーですよ。でも僕は一生そういう歌を歌うって決めたんです。そんな決意表明の歌を」
と言って演奏された「声に出すと赤っ恥」では山本と桑原がサビでコーラスフレーズを思いっきり叫ぶようにして歌う。そのスタイルはそのままガガガSPならではのものになったし、コザックの父親やCOMING KOBEの主催者であったコザックの同級生である松原裕が今年亡くなったことを受けて書かれた「スイートフォークミュージック」に顕著なように、かつてのブーム期には一口に「青春パンク」と括られていたし、昔はそこから抜け出そうとしていたこともあったけれど今はそれを自認しているとはいえ、このバンドはパンクでありながらフォークの要素が非常に色濃い。コザックはかつて泉谷しげるとソロで曲を作ったりしているけれど、一口に青春パンクと言ってもそれぞれのバンドが影響を受けてきた音楽ややろうとしていたことは違っていたんだろうなと思う。
「この前まで初期の曲しかやらないツアーみたいなのをやってたんだけど、そのツアーが終わってそこから解放されていろんな時代の曲ができます!」
と言って演奏された「元町サンセット通り」は彼らの地元の神戸のことを歌った曲であり、訪れたことはなくても曲を聴いていると、こんな場所なんだろうなというイメージが浮かぶような。
青春パンクブームが過ぎ去った時に一気に人気や動員も沈静化してしまったのは不遇だと思わざるを得ないが、そんな中でもバンドは名曲ばかりを作り続けていたというのがよくわかる「忘れられない日々」ではLOFTの客席でダイバーが発生し、ここからは次々に観客がバンドの鳴らす音へのダイレクトなリアクションをその身で示していく。
この時期に聴くことで冬になったことを感じさせる「雪どけ」や酒飲みとしての視点による「はきだめぶぎ」と本当に幅広い、フェスやイベントではまず聴けないであろう曲が次々と演奏される中、このバンドとファンのテーマソングと言ってもいい名曲「弱男」では観客が一斉に前方に押し寄せて大合唱が起こる。その光景を見ていると時代の徒花的な見られ方をしていたこのバンドの曲は今も色褪せていないし枯れていない。
「僕らはレギュラーにはなれなかったバンド。ずっと補欠。それはサンボマスターを見ていても思う。でもこれから先もずっとレギュラーを目指してやっていきます!」
と盟友の1組であるサンボマスターのことを称えながら演奏されたのは、全野球経験者必聴の大名曲「野球少年の詩」。コザックが音楽界屈指のオリックス・バファローズファンであり、選手の応援歌も作っていることは野球ファンには局地的に知られていることであり、この曲のタイトルも「ドカベン」や「あぶさん」で知られる水島新司の野球漫画のタイトルから取られていることは明白であるが、
「いつまでも いつまでも 君が笑い続けたら
それでいいんだと思って 僕は頑張っています
いつの日か いつの日か 僕はレギュラーを取って
君にカッコイイ姿を見せてやりたいのです
素朴な野球少年の大きな目標です」
というあまりに純真な想いを綴った歌詞は自分が野球に打ち込んでいた野球少年時代を嫌でも思い出させてくれるし、この曲の歌詞自体は野球だけどそれは野球以外のいろんなことに通ずることだ。サッカーでも、バスケでも、音楽でも。
つまりガガガSPはしみったれた恋愛の歌ばっかり歌っていると言われたりしてきたが、それも含めて「人生」というものを歌ってきたバンドであるということ。コザック前田がアコギを弾きながら歌う「夏の匂い」から、さらにアコギに加えてブルースハープまでも吹く「あの頃の僕は君にとってどう見えるかい」は、
「ブームの波に飲まれ 自分というものを見失い
酒におぼれ くだをまいたバンド全盛期
酒の味を女の味を覚えたコザック前田が
パニック前田になったあの二月のよう」
という歌詞も含めてバンドの自伝的な曲であるが、それを歌えているのは今もバンドがこうして変わらぬ形のままで続いているからだ。
そんな曲を演奏する前にコザックは峯田も口にしていた両者の出会いについて語っていた。「京子ちゃん」をリリースして意気揚々と東京に乗り込んできたら渋谷の屋根裏でのライブに客が3人しか来なかったこと。その後の下北沢SHELTERでのライブにLINKの柳井良太がたまたま見に来ていて話かけてくれ、その柳井が
「今度GOING STEADYと対バンするんだ」
と言って誘ってくれた横浜でのそのライブをメンバーで見に行き、ライブハウスでの中打ち上げにまで出たのに峯田とは全然ちゃんと喋れなかったこと。喋れなかったのに峯田が
「電話番号を交換しましょう」
と言ってくれ、最初は全然連絡が来なかったのが突然電話がかかってきて、
「今度のGOING STEADYのツアーにガガガSPに出て欲しい」
と言われ、コザックが
「ツアーのどこですか?」
と聞いたら意を決したように峯田が
「全部です!」
と言って、当時日本のインディーズバンドのシングルCDのオリコン歴代最高順位を記録した「童貞ソー・ヤング」のリリースツアー「童貞脱出大作戦ツアー」に全箇所出演したこと。
そのツアーの初日のZepp Sendaiでのライブの日に隣の会場で当時スプリット盤を出して大ヒットした175RとSHAKALABBITSが本当に楽しそうにライブをしていたこと…。リアルタイムで経験した世代としてはそのどれもが今でも忘れることのできない大切な思い出であるが、そこに至るまでに峯田がガガガSPのCDを聴いて、自分たちと同じ何かを感じ取ったからツアーに呼んだこと。それは今でもこうして続いている。そうしたかつての話も含めて全てがガガガSPの音楽として人生を歌う要素になっているのだ。
中盤には
「我々演者やバンドはピッチャーで、あなたたちは受けるキャッチャーなわけだ。我々の投げるボールをしっかり受け取ってくれたら嬉しいけれど…」
と野球ファンならではの例え話も実に秀逸なコザックのMCの後はエルトン・ジョンの曲に自作の日本語歌詞をつけてさらにパンクに仕上げた「君の歌は僕の歌なのさ」、盟友であるシンガーソングライターのメガマサヒデ(2019年はライブを4本しかやっていないらしいが)の「一人ぼっちの世界」とカバー曲を連発。エルトン・ジョンに関しては好きで聴いていた曲だと思われるが、メガマサヒデに関してはリスペクトする仲間にこんなに良い曲を作る男がいるということをたくさんの人に知ってもらいたいという気持ちもあるはず。それはかつてGOING STEADYのツアーに自分たちが呼んでもらった時のように。
そしてコザックは先日の豊洲でのライブ後にメンバー4人で幡ヶ谷で朝まで飲んでいたというエピソードを語る。一緒にバンドをやるようになって23年。まだまだ青春の真っ只中にいるバンドが歌う「青春時代」はいろいろな経験を経てきたけれどまだまだ瑞々しさを失っていないということを、何よりもバンドの音とパフォーマンスが示している。
そう、ガガガSPのライブパフォーマンスは世に出てきた時から全く変わらない。時にはマイクを持ったまま客席最前列の柵に足をかけて観客の手を握りながら歌うコザック、サビではメンバーで声を合わせて歌う曲が多い中にあって時には叫ぶかのように声を張り上げる山本、様々な曲のMVで見られるようにベースを弾きながら頭を振り乱して汗を飛び散らせる桑原、そんなメンバーの姿を見ながら父親であるかのような見た目と演奏に安心感を覚える田嶋。その姿はこれから何十年経ってもずっと変わらないような気がする。
そしてセンチメンタリズムが爆発するのはガガガSP屈指の名曲である「線香花火」。
「嗚呼 線香花火よ
この路地の向こうにいる
あの娘の顔も一緒に照らしてくれないか」
という歌詞は線香花火を見ている主人公の横にあの娘がいないということを示しているが、続く
「この暑い暑い夏の夜に」
というフレーズをコザックは
「この暑い暑い冬の夜に」
とこの季節に合わせて歌詞を変えて歌った。そう、この日この場所は本当に暑くて熱かった。まだそのベテランになってもストレートしか投げられないような、でも今でも150kmのストレートで空振りを取ろうとしているバンドの熱さに、自分はまだまだ感動することができている。バンドもあの頃と変わっていないかもしれないし、あの頃にこのバンドを聴いて、こうして今でもライブを見ている我々も変わっていないのかもしれない。
新曲「イメージの唄」も披露される中、客席を見渡すコザックはどこか涙ぐんでるように見えた。こうしてたくさんの人が今もライブを見にきてくれていること、自分たちが今になって最高だと思えるライブができていること。その2つをはじめとしたあらゆる要素が絡み合ったことにコザックをはじめとしたメンバーたちが感動しているように見えた。
ガガガSPは人生を歌っていると書いたが、まさに人生訓であるかのような「つなひき帝国」の熱血パンクっぷりで山本は叫びまくるのだが、その次に演奏された「国道二号線」では美しくも切ないイントロのギターを響かせる。
「今日は君とよく行った、ラーメン屋にでも行って帰るとするよ」
というサビの歌詞はまさにパンクサウンドとフォークミュージックの融合と言えるような世界観であり、今聴いても本当に名曲だよな、と思える。この日の客席ではダイブを連発する若い観客もいたけれど、そういう年代の人たちにもこのバンドの名曲はきっかけさえあれば確実に響くはずだと思う。
そしてラストは物静かに始まり、
「明日からではなく打ち明けてみよう みんなと一緒に学校を変えたい」
という教師目線の歌詞が一気に速く激しい音に乗っていく、小谷美紗子が作った「明日からではなく」。「野球少年の詩」のテーマが野球であるにもかかわらず様々な出来事にも通底するものであるように、この曲もまた目線自体は教師であるが、本当に言いたいのは
「もったいないとか、無駄な事だとか、僕は思わない決して思わない。」
という締めのフレーズのとおりに、そしてこの日コザックが
「4000円も払ってこんな地下の薄暗い、山手線の満員電車みたいになってるとこにわざわざ来るっていうあんたらは頭がおかしいですよ(笑)
でもこういう夜があるから頑張って毎日生きていけるんですよね」
と言っていたとおりに、少しでも毎日を楽しく、人生をおもしろいと思えるように生きていきたいということ。それをこのバンドのライブは確かに感じさせてくれる。
「弱男」の大合唱に迎えられてメンバーがアンコールに登場すると(本編の最後にコザックは「アンコール絶対やるからな!」と言っていた)、「あたたかい月」という意外な選曲で始まるのだが、途中から明らかにコザックではない男の声が入ってくる。その声の主は峯田和伸であり、まさかのこの曲でのコラボ。峯田は「京子ちゃん」もそうだったが、歌詞を全く間違えることなく思いっきり歌っている。まるで普段からCDを聴きながら自分も合わせて歌っているかのように。
コザックが峯田のことを改めて紹介すると、
「今日は来れなかったけど、来るはずだった友達の歌を」
と言ってガガガSPの演奏でコザックと峯田のツインボーカルという形で披露されたのは、先日の豊洲PITでのライブの時もアンコールで共演した、オナニーマシーン「I LOVE オナニー」のカバー。
峯田もコザックも客席に突入しながら歌っていたが、かねてから癌の闘病中であったオナニーマシーンのイノマーは危篤状態になってしまったらしい。峯田はずっと手を握っていたと話していたし、ガガガSPのメンバーもそこにいたらしい。イノマーは朝になって目を覚ましたということだが、入院していなければ間違いなくこのライブを見に来ていただろうし、バンドマンとしてステージに立ち続けるという生き様を見せてくれた友達へのエールでもあったし、自分たちの音楽をたくさんの人へ広めようとしてくれた音楽ジャーナリストであるイノマーへの感謝の気持ちがそこには確かにあった。
だからこそ峯田が去った後に最後に演奏されたのは、
「死ぬまで生きてやろうじゃないか!」
という言葉とともに演奏された、このバンド最大のヒット曲「晩秋」だった。それは間違いなくイノマーに向けられていたものであると同時に、この場にいた全ての人や、人生の中でガガガSPと出会った全ての人に向けられていた。
気がつけば2時間以上経っていた。時計を見ると22時30分前という、平日にしてはかなりの遅い時間。それでもほとんどの人が最後まで残り、
「ありがとうー!」
とガガガSPへの感謝の気持ちを叫んでいた。そう叫びたくなるのもわかるような、素晴らしいライブであり素晴らしい一夜だった。
「晩秋」とかくらいは知ってる、というくらいの人からしたら「まだやってたの?」と言われるような現状かもしれない。でもそんなバンドがあの頃から全く変わらぬメンバーで今もライブを続けている。あのブームの渦中にいながらそんなことができるバンドは他に全くいない。そして間違いなくあの頃よりもライブバンドとして進化しながら、あの頃よりも優しくなっている。もしかしたら今のガガガSPはキャリアの中で最高、最強の状態にいるのかもしれないとすら思える。
あの頃に戻りたいわけではないし、戻ることはできない。でもあの頃のことを思い出すことはできる。今の自分はあの頃のように、純粋に音楽と向き合えているのだろうか。「みんなが良いって言ってるから聴かないと」みたいな理由で音楽を聴いたりしていないだろうか。
あの頃は確かにパンクもみんなが聴いていた。でもパンクを聴く理由はそうしたものではなかった。パンクはあの頃の自分のようなやつのための音楽だったし、ただただパンクは刺激的で、カッコよくて、何よりも良い曲だった。こうしてあの頃聴いていたバンドのライブを見るとその当時の自分自身と向き合わされるかのような。きっと、青春パンクというジャンルは自分にとっては何かあったときに帰って来れる場所。そんな場所を今でもずっと守ってくれているバンドたちがいる。自分はあの時代を高校生としてリアルタイムで駆け抜けることができて本当に幸せだったと今はちゃんと言える。
GOING STEADYは銀杏BOYZになり、峯田1人になっても続いていて、ガガガSPもMONGOL800もSTANCE PUNKSも氣志團もなんやかんやありながら続いていて、175Rもジャパハリネットも戻ってきた。ブームはあっという間に過ぎ去ったけれど、そこにいたバンドたちは終わりはしなかった。時代の徒花だったかもしれないけど、その花は今も枯れていない。
1.素晴らしき人生
2.声に出すと赤っ恥
3.スイートフォークミュージック
4.元町サンセット通り
5.忘れられない日々
6.雪どけ
7.はきだめぶぎ
8.弱男
9.野球少年の詩
10.夏の匂い
11.あの頃の僕は君にとってどう見えるかい
12.君の歌は僕の歌なのさ
13.一人ぼっちの世界
14.青春時代
15.秋までに
16.線香花火
17.津山の夜
18.イメージの唄
19.つなひき帝国
20.国道二号線
21.明日からではなく
encore
22.あたたかい月 w/ 峯田和伸
23.I LOVE オナニー w/ 峯田和伸
24.晩秋
文 ソノダマン