全てのアーティストがライブが出来なくなったりするという活動が止まってしまうことになったコロナウイルスの影響を、the telephonesはモロに被ってしまった。
5月に予定されていた、9mm Parabellum BulletとORANGE RANGEという同世代のバンドを迎えて開催されるはずだったバンドの15周年記念ライブは来年に持ち越しになり、その15周年記念に合わせてリリースされる予定だった、活動再開後初のフルアルバム「NEW!」も発売が延期。さらにはそのリリースツアーも中止と、本格的な活動再開イヤーとして再びロックシーンに切り込んでいきながら、15年間の活動の祝祭となるはずの予定はほとんどが白紙になることを余儀なくされてしまった。
この7月17日は本来ならば「NEW!」ツアーのファイナルである、さいたま新都心HEAVEN’S ROCKでのワンマンのはずであり、そのさいたま新都心HEAVEN’S ROCKにて無観客配信ライブを開催。昨年もいろんなフェスに出演したりワンマンを行ったりもしていたが、やはりこの世の中の状況ということもあって実に久しぶりのライブとなる。
ライブ待機画面で「Light Your Fire」が流れるというのは通常のライブでいうところの開場してからの開演までの待ち時間的な感じであるが、そのBGMがおなじみのSEである「happiness,happiness,happiness」に切り替わると、画面にはthe telephonesの過去の記念碑的なライブ映像を繋いだものが流れるというオープニング。
なのでいつものようにアフロカツラを被ってステージに登場というものではなく、さいたま新都心HEAVEN’S ROCKのステージに画面が切り替わると、メンバーはすでにステージの上にスタンバイしており、しかも4人ともフェイスシールドを装着している。
「Online DE DISCOー!この日がやって来たぜー!画面越しでも楽しもうぜ!Are you disco!?」
と、石毛輝(ボーカル&ギター)がおなじみのハイトーンボイスで叫ぶと、石毛はクチビルサングラスは装着したままではあるが、メンバー全員あっという間にフェイスシールドを外しており、ノブがカウベルを連打する「Baby, Baby, Baby」でスタート。
この曲でスタートするというのは実に珍しい感じもあるのだが、この日のライブには映像で加藤マニ(前日のキュウソネコカミのライブでも映像を担当していた)のチームが参加しているということで、サビではスマホの顔加工アプリによって石毛や長島涼平(ベース)が長髪になる加工が施されて映るというのは配信ライブならでは。普段ならばこの曲ではカウベルを叩きながら暴れ回ることが多いノブもそうした演出があるからか、まだ大人しめと言える。
石毛がサングラスを外すと一気にアッパーに振り切れるディスコパンク「DaDaDa」へ。色鮮やかな照明も、ステージ背面に映される映像も通常のライブと全く変わらないくらいにフル活用される中、
「too much trouble for everything」
のフレーズでカメラ目線で歌うというあたりは配信ライブという慣れない形ではあれど、ライブをしまくることで生きてきたバンドならではの経験や余裕のようなものを感じさせる。
基本的に客席は映らずにステージ上のメンバーの演奏する姿が映るのだが、客席に人がいないことがわかってはいても、この曲の演奏中に客席でダイブやモッシュが起こっている景色が目に浮かぶ。それはこれまでに見てきたライブでのこの曲でのそうした景色が目に焼き付いているからであるし、ステージ上で演奏しているメンバーは今までのライブの時と全く変わらない姿を見せてくれているからこそそう思えるのだろう。
the telephonesと言えばライブタイトルにもあるように「DISCO」であるが、この日最初に演奏されたDISCOナンバーは「Keep Your DISCO!!!」。ライブハウスで鳴らされているtelephonesの音楽。その熱量によって画面越しにでもメンバーに合わせて視聴者は自宅などで見ていながらも「DISCO!!!」と叫んでしまっていただろうし、石毛は間奏のギターソロで画面にアップで手元が映ったりしながら、最後には
「世界を変えろー!」
と叫ぶ。活動再開後は「世界は変わったかー!?」と問いかけるように叫ぶことも多かったフレーズであるが、こうして「変えろ」と叫んだのは現在の世界的なコロナ禍の状況だからこそというのもあるのだろう。その世界が変わった時は、きっとこうして画面越しではなくてまたライブハウスでtelephonesのライブを観ることができているはずだ。
「バカみたいに踊ろうぜー!」
と言ってのノブのシンセがポップさを際立たせる「A.B.C.DISCO」とDISCOシリーズが前半から続くと、
ノブ「結構汗かいてるよね。汗拭いた方がいいよ」
とヌルッとMCに入っていき、
石毛「新鮮な気持ちで楽しい」
涼平「でも他の配信ライブの現場がどうなのかはわからないけど、スタッフが全然笑ってない(笑)」
と実にtelephonesらしい会話が展開されていくのだが、
石毛「配信ではあるけれど、我々はライブバンドだと思っているので。活動初期に比べたらスタッフがいる分、当時より人が多いもんね(笑)
なんならその頃はさいたま新都心HEAVEN’S ROCKでなんかライブできなかった。プロのバンドじゃないと出れない会場だと思ってたから。だから今日は初心に帰ったようなライブになると思う」
とライブバンドとしての想い、地元である埼玉のライブハウスへの想いを口にする。telephonesのホームであった、北浦和KYARAがなくなってしまったからこそ、これからはこの会場でライブをする機会はこれまでよりもはるかに増えていくはず。
ライブができない期間にアルバムから先行して配信された「Tequila, Tequila, Tequila」は配信ライブと言えども、こうしてライブで聴くのは初めての機会。髭(HiGE)にも「テキーラ!テキーラ!」という曲があるし(元ネタはこの曲なのかもしれない)、a flood of circleにも「Tequila Club」という曲もある。テキーラという酒はなかなか普通に居酒屋や家などで飲む機会は少ないが、こうしてバンドマンたちの曲のテーマになるということは、ライブハウスでのライブ後の打ち上げなどで酌み交わされては泥酔する、ということが繰り広げられているのかもしれないと思う。
石毛のダークなギターと歌のみのイントロでノブが華麗に舞い踊る「SAITAMA DANCE MIRROR BALLERS!!!」はこの会場が埼玉だからこその選曲かもしれないが、
「画面越しでも飛び跳ねようぜー!」
と石毛が言うと、ノブの80′s的なシンセのサウンドの効果もあって、メンバーも演奏中の躍動感をさらに増していく中、ラスサビ前では石毛以外の3人がマネキンチャレンジかのようにピタッと動きが止まる。
その様子を見て少しキョロキョロした石毛が歌い始めるとメンバーが動き出すという、久しぶりのライブであってもこの4人の完璧に揃った阿吽の呼吸は全く変わらない。
そんな素晴らしい演奏ができたからか、メンバー全員が曲終わりに自分たちで拍手をし、
石毛「自分たちで良い演奏をしたら拍手。普段は皆さんがやってくれるから」
ということをメンバーが愛する漫画「SLUM DUNK」のキャラである三井寿の名シーンで例えると、ノブがすかさず
「でも俺たちの方が最高だと思うよ!」
と、すでに自身のライブがSLUM DUNKすらも超えているくらいの自信を感じさせる。涼平いわく、
「ノブさんは観客が見えている」
らしいが、それはあながち間違っていないのかもしれない。
この日のライブでは「DISCOシリーズ以外のライブでやって欲しい曲」を事前にリクエストという形で募っていたのだが、
涼平「タイトル見てもどんな曲か忘れてる曲もある」
というくらいにレア曲に票が集まったということであり、そのリクエストの3位に入った「My Final Fantasy」はかつてはフェスなどでもよく演奏されていた曲であるが、確かにライブで聴くのは久しぶり。石毛はギターを弾かずにハンドマイクを持って歌い、スポットライトを浴びながら天を仰ぐという神々しい場面も。サビでの高音コーラス部分では石毛がカメラ目線で耳に手を当てて画面越しからの声を聞こうとするのだが、かつてライブで演奏されていた時にはこのコーラス部分のキーが高すぎてキツかったことをこうして久しぶりにライブで聴くと思い出す。票が集まったのはFinal Fantasy VIIのリメイクが今年リリースされたということも少しは影響しているのだろうか。
さらには「完全に予想外」なほどに票を集めたという「Relationships」が投票結果2位。実はこの曲はライブで演奏されるのは初めてであるのだが、この曲が収録されている、活動休止前最後にリリースされたアルバム「Bye Bye Hello」はツアーを行っておらず、この曲同様にまだライブで聴いたことのない曲が多い。こうして休止から復活したからこそ、「Bye Bye Hello」の他の曲もどんどんライブでやってもらいたい。ノブがシンセを弾きながら頭をブンブン振ったりというパフォーマンスをするということも知らなかっただけに。
そしてぶっちぎりの1位というくらいに票を獲得したのは、ノブと涼平がイントロでハンドクラップをする「What’s Your Name???」。正直、そこまでダントツで人気がある曲だとは思っていなかったし、それはメンバーもそう思っていたらしく、演奏後には
「1人何回でも投票できたから、投票期間の10日間くらいを捨てるくらいにこの曲に投票し続けた奴がいる」
「多分100回くらいこの曲に投票してる」
と、この曲を絶対に聴きたいと思っていたファンの存在を疑っていたほど。
また、この日はライブを見ながらリアルタイムでチャットにコメントができるのだが、メンバーがそのコメントを見ていると、この日の映像を担う加藤マニが「Something Good」をリクエストしたことが判明するが、さすがにここでは演奏されず。
しかしながらメンバーそれぞれがやりたい曲として、
誠治「ambient metronome」
涼平「3,2,1 right now!!!」
石毛「Girls, Boys, Romantics」
ノブ「Fire, Fire, Fire」
と、メンバーもまたかなりのレア曲というかマニアックな曲を挙げる。確かにファンとしてもどれも聴きたい曲であるのだが、その4曲の中で1番聴きたい曲をリアルタイム投票で募ると、最も票が集まったのはこの4曲の中で1番古い曲である、誠治リクエストの「ambient metronome」。
なので8年ぶりくらいにこの曲を演奏するのだが、他の曲とは全く違う構造の曲であるだけに、石毛はかなり入念にチューニングをしていた。この初期の曲を聴くと当時の海外の流行の音楽であった、ディスコパンクやUSインディー的なバンドたちの存在を思い出すくらいに、当時のtelephonesはそうしたバンドたちへの憧憬が強かったバンドであることを改めて感じさせてくれるのだが、
「6畳くらいの、他のメンバーが出している音が全く聞こえないスタジオで作った」
というエピソードがあるくらいにまだ何者でもなかった時代に生み出された曲が今でもファンから愛され続けているというのは本当に嬉しく思う。
「せっかくのライブだから、未発表の新曲を!」
と言ってここで演奏されたのは、残念ながらリリースが延期になってしまった「NEW!」収録の最新DISCOシリーズ曲「Do the DISCO」。
まさにtelephonesのDISCOシリーズらしいDISCO曲であり、サビではタイトルを叫ぶという、これまでのDISCOシリーズ同様に観客も一緒になって作り上げる曲。この日はその部分を叫ぶのはメンバーだけであったが、そのタイトルフレーズ部分で画面にはタイトルが大きく映し出されただけに、もう1回聴いただけでサビを覚えてしまうくらいの分かりやすさ。
そして最新のDISCOシリーズの後にはこれまでのおなじみのDISCOシリーズの畳み掛けというtelephonesのライブならではのクライマックスへ。
「Monkey Discooooooo」ではノブが間奏で
「よっしゃー!」
と気合いを入れるように叫び、石毛は
「画面の向こうで俺と同じ格好をしてくれー!」
と言ってブリッジギターを披露。さすがに瞬時に同じ格好をできる人はそうそういないだろうけれど、「I Hate DISCOOOOOOO!!!」へと続く流れを見ていると、客席でtelephones people同士でぐちゃぐちゃになりながら踊ったり叫んだりしたいと思う。こうして自宅だとなかなか叫んだりすることが難しいし、そうすることが何よりも楽しいということをtelephonesのライブにずっと行っていた我々は知ってしまっているからだ。
そしてかねてから募集していた、みんなの「DISCO!」と叫ぶ声を使って、「We are」「DISCO!」のコール&レスポンスが行われることによって、会場の中に響くのがメンバーやスタッフの声だけではなく、ファンのものも含めてこのライブを作るというtelephonesならではの配信ライブのやり方を提示してみせると、「urban disco」では上半身裸になったノブがステージから客席に飛び降りて客席で腕立て伏せを始めて演奏中の他のメンバーは爆笑。
さらにはいつの間にかまたフェイスシールドを被ったかと思ったらすぐにステージから消えて、カメラマンを誘導して楽屋まで走っていき、楽屋でバナナを食べて戻ってくるという、あまりにも自由でいて、あまりにもノブらしいパフォーマンス。今でこそこうしたぶっ飛んだパフォーマンスをするようなバンドのメンバーも増えてきているが、ノブにはきっと「こうしたらウケる」とかいう計算みたいなものが全くない。全て直感やその場での昂りで動いている。だから見ていていつも本当に面白いし、何度見ても全く飽きることがない。15年目を迎えてバンドとしてはもはや中堅からベテランに差し掛かりつつあるが、このノブらしさは変わらないで欲しいと思う必要すらないくらいにこれからも変わらないと思う。
そしてラストはやはり「Love&DISCO」。タイトルフレーズで観客の大合唱が響くのが聞こえないというのは少し寂しいところもあるけれど、その分メンバーたちの声はよく聞こえる。何よりもこの曲が持つ、特別な幸福感や祝祭感。そうした力にこれまでに何度も希望や勇気をもらって生きてきた。それは画面越しではなくて目の前で鳴らされている音を浴びるからこそ感じることができたもの。
演奏が終わると、メンバーはみんなカメラに向かって手を振りながら
「次はライブハウスで会いましょう!」
と言って配信ライブは終了した。次が果たしていつになるのかはわからない。でも我々は希望を持って待つことができる。それは活動休止をしたtelephonesをずっと待っていた経験があるから。だからいつか、それが近い未来であるということもわかっている。復活してから初めてのアルバムのリリースとバンドの15周年を、メンバーやスタッフとファンのみんなで一緒になって祝えるように。
かつて石毛は
「俺たちはオーディションとかで出てきたんじゃなくて、ライブハウス出身であることを本当に誇りに思っている」
と言っていた。ライブハウスで働いて、ライブハウスで生まれて、ライブハウスで生きてきたtelephonesが発した言葉だからこそ、何年経ってもずっと覚えている。そんなバンドだから、配信ライブもライブハウスからでなければならなかったし、ライブハウスでライブができるようになる日を誰よりも待ち望んでいるはず。
そして来週には石毛輝のもうひとつのバンドである、Yap!!!が観客を入れてライブハウスでライブをする。久しぶりにライブハウスでライブを見ることができる。ライブハウスに戻れる機会を自分にくれて本当に嬉しいし、久しぶりに目の前でバンドが音を鳴らしている姿を見て自分はどんなことを感じたり思ったりするのだろうか。そして石毛はどんな想いを音に込めて演奏するのだろうか。
1.Baby, Baby, Baby
2.DaDaDa
3.Keep Your DISCO!!!
4.A.B.C.DISCO
5.Tequila, Tequila, Tequila
6.SAITAMA DANCE MIRROR BALLERS!!!
7.My Final Fantasy
8.Relationships
9.What’s Your Name???
10.ambient metronome
11.Do the Disco (新曲)
12.Monkey Discooooooo
13.I Hate DISCOOOOOOO!!!
14.urban disco
15.Love&DISCO
文 ソノダマン