1月に渋谷CLUB QUATTROで金曜日と日曜日という変則的な2daysを行い、春からは恒例の対バンツアーで全国を回り、そしてこの日はこちらももはや毎年恒例のバンド主催フェスを開催、という今年も全く止まることなくライブを重ねまくるはずだった、2020年のa flood of circle。
しかしながらやはりコロナウィルスの影響によって対バンツアーは全て延期となり、この日の主催フェス「A FLOOD OF CIRCUS」も中止に。
昨年はDOESの復活、2年前はバンドのプロデュースも行った田淵智也のいるUNISON SQUARE GARDENとの久しぶりの共演という、a flood of circleならではのお祭りだったこのフェスはただ中止にするのではなく、フラッドの有料配信ライブというこの現状だからこその形での開催となった。
16時になって画面に映し出されたのは、見慣れたO-EASTのステージ。無観客という形ではあれど、ステージ上だけでなく会場全体を飾り付けているというのは例年のこのイベントと同様であるだけに、やはり「どうして今自宅で画面を見ているのだろうか…」という気持ちも正直浮かんできてしまう。もし普通に開催されていたらどんなアーティストがフラッドの前に出演していたのだろうか、ということも。
(ボーカルの佐々木亮介は昨年の開催時に
「俺は来年プリティが出るって信じている」
と、当時交通事故で長谷川プリティ敬祐が入院していたgo!go!vanillasの復活を後押ししていただけに、バニラズは出ていたと思うけれど)
すでにステージにメンバーがスタンバイしているのは配信ライブならではだな、とも思うが、すでに近日の写真などに上がっていた通りに佐々木亮介は髪型が少しさっぱりしており、対照的に青木テツ(ギター)はさらにワイルドさを増した見た目になっている。
HISAYO(ベース)と渡邊一丘(ドラム)は今までと全く変わらない見た目であるが、亮介が黒の革ジャンを着ていることを含めて、この日は全員が黒の衣装で統一されている。
1月以降にライブを見れていないので、5ヶ月もフラッドのライブを見る期間が空いたというのは果たしていつ以来だろうか、もしかしたらフラッドに出会ってからは初めてなんじゃないだろうか、とすら思うくらいにフラッドは止まることなくライブをやりまくり、フェスやイベントもおそらくオファーが来れば全部受けるという姿勢で生きてきたライブバンドであるが、そんな5カ月ぶりのフラッドのライブの1曲目は「Flyer’s Waltz」。
「大サーカス」とも称されるこのフェスのテーマソングと言えるような曲であるが、この自粛期間中にはビレッジマンズストアが本来ならばフラッドを招いて行うはずだった日の配信ライブでこの曲をカバーしており、その際に
「めちゃくちゃ難しい」
と言っていたが、こうして聴いていても改めて普通のロックンロールバンドがやるようなリズムの曲ではないよなぁと思うし、それを自分たちのロックンロールにしているフラッドというバンドの凄さを初っ端から改めて感じる。
普段ならばサビの
「空をぶっ飛んでいく」
というフレーズに合わせるかのように観客の上を転がっていくダイバーの姿が見れないことや、やたらと音も映像も止まってしまうのはやはり違和感があるが。(この時はまだ自分の見ている環境が良くないのかもしれないと思っていた)
「Dancing Zombiez」ではライブではおなじみの
「まぁこんなもんなんでしょう」
のフレーズの後にその日の会場の地名などを入れて煽るという亮介のパフォーマンスも無観客だからかなしで、歌詞通りに歌う。ある意味では実に新鮮とも言えるが、アウトロではテツが思いっきり
「イェーイ!」
と叫んでおり、どうやらこの男はメンバーの中で最も観客がいなかったり配信ライブであっても普段と変わらないようだ。
さらに「The Beautiful Monkeys」と前半から飛ばしまくる。ワンマン配信とはいえ、本来のこのライブの持ち時間である1時間ほどという設定に合わせているところもあるのであろう。シーンごとに画面に映し出される部分が変わるという配信ライブだからこその視点によって、2コーラス目においてはステージを赤い照明がこの曲の雰囲気に合わせるように明滅しているのが良くわかる。
亮介がギターを下ろしてマイクとタンバリンという形になっての「Sweet Home Battle Field」では曲中に単独でコーラスを務める部分もあったHISAYOの首に亮介がタンバリンをかけてアルカラの稲村のようにしたりという微笑ましい場面もあり、とっくに春の季節は過ぎ去ってしまったが、春にライブができずに演奏できなかった分をこのライブにぶつけているかのような「春の嵐」という選曲はファンにとっては実に嬉しいところだ。去年の長いツアーの中では春の時期の公演のアンコールで演奏されていたんだよなぁということを思い出す。
時折音や映像が止まってしまう場面もちょくちょくあっただけに、演奏後の曲間に暗くなると止まってるんだかただ間を置いているだけなのかわからなくなってしまいそうにもなるのだが、どうやらこの時は止まってはいなかったようで、亮介が
「A FLOOD OF CIRCUSへようこそ」
「意外といつも通りだよね」
とMCを挟む。
MCと地続きのようにしてギターを弾きながらブルースマンっぽく
「やることは一緒〜」
と、あくまでステージに立って曲を演奏することこそが俺たちのやることであるという姿勢を明らかにしてから、とびきりロマンチックな「Honey Moon Song」へ。アッパーなロックンロールというタイプの曲ではないけれど、この曲が音源よりもライブの方が輝いて感じるのはやはり亮介の張り上げるようながなり声と、テツによる轟音と言ってもいいギターサウンドあってこそ。
昨年リリースのメンバーそれぞれが手掛けた曲が収録されたシングル「HEART」からはまずは亮介が手掛けた「スーパーハッピーデイ」が演奏されるのだが、亮介とテツが1本のマイクに向かって2人で一緒にコーラスするのに加え、HISAYOによる腕を動かすダンスのような動きまでも追加されている。これは一瞬しか見れなかったので、早く実際に観客として客席からこの動きを確認したいところである。というくらいにビックリしてしまった。「今何してた!?」と思ってしまうくらいに。
「みんないつものサーカスよりもおかわりとか行きやすいんじゃない?(笑)
好きな時に行けるから(笑)」
と自宅で見ているからこそ何にも気にせずに酒を飲んで見れるという配信ならではの利点を口にしてから、この日のライブの目玉の一つでもあるリクエスト曲の演奏へ。
かねてからSNSなどでこの日のライブでやって欲しい曲を募集しており、リアルタイムで亮介とHISAYOがPCの画面で投票結果を確認しようとするのだが、うまく表示されずに見ることができず、HISAYOの
「友達の子供がこの曲を聴いたら勉強する」
という鶴の一声によって、
「次は何でしょう?」
とHISAYOが問題を出すように演奏されたのは「Quiz Show」。とはいえこの曲はそこそこライブではやる機会もある(なんならテツがライブに参加するようになった時からすでにやっていた)だけに、フラッドファンが選んだリクエストの純粋な結果が気になるところだ。それは公表されるのだろうか。
すると亮介も
「リクエストの曲だけやるのもいいかも。来年のサーカスはそうしてみる?」
と意外なほどに乗り気。果たしてその時にはどんなセトリになるのだろうか。個人的にはまだこの4人になってからは演奏されていない「SWIMMING SONG」を久しぶりに聴いてみたかったりするが。
「自粛期間中にテツはカレー作るのが上手くなったから、来年のサーカスで出してみれば?(笑)」
と早くも来年に向けてのアイデアがとめどなく湧いてくる中で、自粛期間中に作ったという新曲「2020 Blues」を披露。
歌詞は聞き取れなかったが、亮介の早口ボーカルパートもあるというロックンロールナンバー。タイトル的にも今のこの世の中というか世界の状況を切り取ったものになっているのは間違いなく(「Summertime Blues II」など、亮介はそうしたその時の空気や感じたことを曲や歌詞に落とし込むのが実に上手いソングライターでもある)、今フラッドとして世の中に最も放つべきメッセージがこの曲であると思う。
本来ならば対バンツアー中に物販で販売されるはずであり、1月のクアトロのライブで観客の声をコーラスとしてレコーディングした「Beast Mode」は結果的に通販という形でこの日のライブよりもはるかに早く手に取ることができるようになったが、間奏でステージ前まで出てきて弾きまくるテツのギタープレイはもはやギターヒーローと呼んでも差し支えないレベルだろう。
そのテツのギターも含めて、状況が状況なだけに、この日のライブ以前にメンバーで集まってリハをやったり練習できるような時間はそう多くはなかったはず。(リモートという形で合わせていたかもしれないが、それはやはり配信を見るのと実際にライブを見るのが違うように、実際に顔を合わせて演奏するのとは違うはずだ)
しかしフラッドはライブのグルーヴであったりメンバーそれぞれの呼吸が久しぶりのライブでも全く錆びつくことがないどころか、前にしか進んでいないのが画面越しに見ていてもよくわかる。もしかしたら実はずっと水面下でライブやってたんじゃないかと思うくらいに。
そしてその我らがギターヒーロー・テツが手掛けた「Lucky Lucky」ではそのヒーローっぷりを証明するかのように、テツと亮介が立ち位置を入れ替えてテツがセンターに立つという場面も。
さらには「ミッドナイト・クローラー」と終盤になってさらに畳み掛けていき、我々の明日に捧げるべき「シーガル」へ突入していく…というタイミングで画面が動かなくなった。
なんでこんな良いところで!と思っていたら、どうやら自分だけではなく見ていた人のほとんどが同じ状況だったようで(その後に「オーロラソング」をやっていたという話も聞いたが、どうやって見れていたんだろうか)、それまでも止まる瞬間は数え切れないくらいにあったが、これ以降は再びライブが映ることはなく、しばらく経ってから再ログインしたら、そこには「2020 Blues」や「Beast Mode」を収録したニューアルバムの告知が出ていた。つまりはもうライブは終わっていたのである。
何回も止まっていた段階で「これは有料配信ライブとしてどうなんだろう?」と思っていたし(「春の嵐」のギターソロで止まった時は特に)、普通のライブでこうして途中で強制終了したら払い戻しレベルのものだろう。
自分はこれまでに数え切れないくらいにフラッドのライブを見てきて、それを全てこうしてライブレポという形で文章にしてきたが、ライブに関してマイナスだったりネガティブなことを書いた記憶が全くない。
それはフラッドの音楽が好きだからというのもあるけれど、何よりもフラッドのライブがそんな後ろ向きなことを書かせないくらいにいつも素晴らしかったからだし、そういうライブを見てきたからどんなにバンドの形が変わって、離れられるタイミングがあってもずっとライブに行くのをやめなかった。年間130本くらい、フェスやイベントなどを含めても数え切れないくらいのアーティストのライブを見てきていても、フラッドのライブは「やっぱりこれなんだ!」という確信を自分に与えてくれるからだ。
だから今回の配信が止まったことでフラッドというバンドへの愛や信頼が揺らぐことはないし、ライブだってやってくれるようになったら絶対に行く。それはきっと同じようにこのライブを途中で見れなくなってしまったファンの方々も同じ気持ちだと思っている。
でもこうしたライブそのものの出来ではないところで不具合やストレスが発生した時に、バンド自身やメンバーは全く悪くないのに、回り回って被害を被ったりするのはバンドでありメンバーである。
フラッドが好きでずっとライブに行っている人であっても、今回のようなことがあると今後の有料配信ライブは手を出さないという人がいても仕方がないし、それは利益という面で(ただでさえそこまで視聴者数は多いバンドじゃないだけに)直接バンドに影響してきてしまう。
何よりも良いライブやカッコいい音楽が、本来伝わるべきレベルで伝わらなくなってしまう。それが本当にもったいない。フラッドのライブにおける「シーガル」は我々ファンが明日への新しい一歩を踏み出す最大の力なってきたからこそ、毎回ライブで欠かさずに演奏されてきたのだ。そうした力をフラッドのライブで貰うことが出来なかったのは後味としては実に厳しい。
配信ライブというのはリアルなライブの代わりには絶対にならない。フラッドのライブをいつも見ている人たちはみんなそれを心からわかっている。何よりも目の前で鳴っている音や、それを鳴らしている人間の姿に高揚したり、感動してきた人たちだから。
これから先、いつになったらまた配信ではないリアルなライブを見れるようになるのかはまだわからない。今回のように配信で、というのが暫くは続くのかもしれない。でも今回の配信で一つ確かにわかったことは、我々はやっぱりリアルなライブでのフラッドをまた少しでも早く見れるようになりたいということ。配信という形について思うことはそれぞれ違っていても、そこだけはフラッドファン全員が思っていることだと確信している。
だからこそ、この日聴くことができなかったあのフレーズを、早くフラッドのファンの方々と一緒に亮介にマイクスタンドを向けられて歌いたいのだ。
「明日がやってくる それを知ってるから またこの手を伸ばす」
と。
1.Flyer’s Waltz
2.Dancing Zombiez
3.The Beautiful Monkeys
4.Sweet Home Battle Field
5.春の嵐
6.Honey Moon Song
7.スーパーハッピーデイ
8.Quiz Show
9.2020 Blues
10.Beast Mode
11.Lucky Lucky
12.ミッドナイト・クローラー
13.シーガル
文 ソノダマン