2日前に続いてのZepp TokyoでのヤバイTシャツ屋さんのワンマン。5daysのうちの3日目の第2部という公演であるが、3年前にこの会場でROTTENGRAFFTYと2マンを行った際にこやまたくや(ボーカル&ギター)は
「大きいところでやるよりも、Zepp Tokyoで5daysやれるバンドになりたい」
と言っていたが、この日は3日目という未体験ゾーンである。とはいえすでに夕方には1部の公演もやっているという恐るべきタフネスっぷりであるが。
この日も検温と消毒を経てから椅子が並べられたZepp Tokyoの客席の中に。ヤバTの曲のリミックスがBGMで流れており、20時30分になると場内が暗転して「はじまるよ〜」の脱力SEとともにメンバーがステージに登場するというのは変わらないが、ステージには2日目にはなかったクレーンカメラが稼働しており、客席にもカメラマンが何人もスタンバイしているあたりにまた2日前とは違うライブになるというのがすでにわかってワクワクする。
こやまのこの状況でのライブの楽しみ方レクチャーを兼ねた挨拶は変わらないが、2日前は「Tank-top of the World」だったオープニング曲はこの日はいきなりの「ハッピーウエディング前ソング」となり、手拍子と
「キッス!キッス!」「入籍!入籍!」
に合わせた観客の飛び跳ねる姿によって、いきなりのピークと言ってもいいような多幸感がZepp内に満ちていく。
そもそも今回のツアーでは公式アカウントがその日のセトリを1部2部ともに公開していることからもわかるが、ヤバTはライブごとにやる曲や順番をガラッと変える。同じツアーでここまで変えるアーティスト(バンドだけでなく)は他にいないだろうと思えるレベルで変える。
なので2日目は後半に演奏された最新シングル収録曲「Bluetooth Love」もこの日はこの序盤で披露され、サビでのTikTok的な振り付けが客席中に広がっていく。その景色はやはり「こんなにも!?」と思うくらいに圧巻であるが、こうしてすでにこのツアーですでに聴いている曲も順番が入れ替わることによって、常に「いつどの曲が演奏されるのか全くわからない」という何回来ていても初めてツアーに来たような感覚を持ち続けたまま、ワクワクしながらライブを楽しむことができる。これだけ公演数が多いと(これがツアー64公演目)すでに何本もライブを見ている人もたくさんいるだろうけれど、そういう人でも全く飽きることはないし、これがツアー1本目だという人はもっとライブに行きたくなる。そんなライブができるバンドはなかなかいないし、それはもともとライブハウスにライブを見に来ていた、つまりは我々と同じように生きてきたキッズたるメンバーによるバンドだからである。
1日空いた(前日は先輩の10-FEETがこのZepp Tokyoでやはり1日2部でライブをしていた)とはいえ、それでもこの日も2公演目とは思えないくらいにメンバーの動きはキレキレで、こやまは自身が歌わない箇所ではステージの端の方まで動いていってギターを弾き、しばたありぼぼ(ベース&ボーカル)はベースという楽器の特性や他のベーシストを見ていたら同じ楽器を弾いているのかと思うくらいに様々な動きやアクションを見せながら演奏している。
ボーカルのキーがあまりにも高い、こやまの上履き味の思い出が染み込んだ「sweet memories」は2日前はこやまが若干声がキツそうな感じもあったのが見事に持ち直しており、さらには間奏ではこやまのギターソロとしばたのベースソロまでも挟まれる。
初期の頃は演奏力や歌唱力の拙さを指摘されたこともあったりしたが、こうして今ライブを見ているとそう言われていたのが信じられないくらいにもりもとのドラムも含めて演奏が上手くなっているし、なによりもその音に今バンドが伝えたいことがしっかりとこもっている。それが伝わるようなライブをできているからこそ、ツアーの各地では涙を流しながら観ている人もいたのだろう。
この日は
「タンクトップの呪縛に 逃れられん運命か」
と、ヤバTがタンクトップ=パンクロックであり続けているということを自分たちが鳴らすサウンドによって示し、そこに観客がヘドバンをする(声を出さないしその場でできるから禁止されていない)というラウドさすらも加えた「KOKYAKU満足度1位」、さらには
「キャッチーな感じ 男女混声のハーモニーやん
それが今はええと思ってるんやん」
とバンドのストロングポイントであり、明らかに「ヤバT以降」というひとつのスタイルを作り出したとでも言える、男女ツインボーカルであることの強みを歌った「鬼POP〜」というシングルのリード曲としてリリースされた曲を連発。シングル曲ではありながら決して定番というわけではない(2日前はどちらも演奏されていない)曲であるだけに、こうして聴けるのが嬉しいし、その2曲を連ねた流れはよりアッパーに、パンクに会場と観客の空気を変えていく。カウントしているわけではないが、定番ではないながらもこのツアーの至る場所で演奏してきたんだろうなというのがよくわかるサウンドの迫力である。
そんなカッコいいパンクバンドとしての姿を見せてくれているのにこやまは
「ありがとう!オリゴ糖!ありがとう!オリゴ糖!」
と久しぶりに「ありがとう」と「オリゴ糖」を絡めた感謝の仕方をすると、しばたともりもとにMCですぐに突っ込まれる。
それはジョイマンをリスペクトしたものだったらしいが、その後にも懐かしさすら感じるザ・パンチの
「チャッチャチャーッス」
の挨拶を繰り出し、しばたはアクセルホッパーのネタを始めるという、ひたすらに少し懐かしいお笑い芸人のネタをしまくるという、ツアー64公演全てでセトリのみならずMCも変えてきたことの結果である。
しかしながらしばたが「アクセルホッパーのネタの平日バージョン」として、
「賢いリズムと賢いパズルで平日に東大生集合」
と、アクセルホッパーのフレーズを全て真逆に変えたものは「QuizKnock」であるという結論に達し、
「「QuizKnock」は早く問題出さないと伊沢に怒られるから!」
ということで次の曲へと行くのだが、2日前はTikTokに触れていたし、かと思えば常にツイッターにもいるというこのヤバTのアンテナの広さは本当に凄まじいものがある。それらは決して活動と無関係なわけではなく、全てがヤバTの表現につながっている。生粋のエンターテイナーたる3人である。
そうして突入した「泡 Our Music」は2020年リリースのシングルの収録曲であるだけに、ライブが出来なくなってしまった時期という実にもったいないタイミングでリリースされた曲なのだが、もうずっとライブでやってきたかのような仕上がりっぷり。あまりに仕上がり過ぎて、しばたは演奏しながら最前列の観客とジャンケンを始めるという始末。
Aメロのラウドさをライブで体感すると、こんな激しくて重いサウンドの曲がCMタイアップとして流れていたことに驚いてしまうが、
「新しい暮らしへ Crush it yeah」
と、タイアップ企業である「クラシエ」というワードを全く違和感なく溶け込ませているあたりは「とりあえず噛む」もそうであるが、こやまの天才作詞家っぷりをこの上なく感じさせてくれる。タイアップ曲だしそういう仕掛けもあるけど、それがなかったとしても普通に良い曲、楽しい曲、カッコいい曲として聴ける。その才能にもはや恐ろしさすら感じる。
ここまではシングルのリード曲メインという、アルバムのリリースツアーであることを考えるとど真ん中過ぎて逆にレアさを感じてしまうのだが、そうしたセトリを組んだのはこのライブをそうしたテーマのものとして設定しているからであろう。
そんな中にあって「You need the Tank-top」から演奏されたアルバム曲は、異彩を放つタイトルの曲ばかりのヤバTの曲の中でもより一層異彩を放っている「原付 〜法定速度の範囲で〜」。
もうタイトルのまんまに原付のことを歌った曲であるが、そんな曲を作ったのは大学時代にメンバー3人がよく原付に乗っていたからだという。なかなかこの3人が原付に乗っている姿というのはイメージしにくいところもあるのが正直なところだが、そうしたある意味では思い出によって作られた曲なだけに、サビのメロディからは青春性を強く感じさせるのだろう。
歌詞の通りに原付に乗ったメンバーが手信号を出して左折している姿はシュール極まりないけれど。
2日前にはライブハウスを背負う覚悟を持って最後に演奏された「Give me the Tank-top」はこの流れで聴くことによってシリアスさよりも楽しさを感じられるというのは曲順の妙であるが、この曲で音に合わせて高く飛び跳ねていると、どこまでも行けそうな気分になってくる。何歳になってもこうしてライブハウスで楽しいと思える瞬間を積み重ねていきたいと思うし、その時にはこうしたライブハウスへの愛で生まれた曲を聴いていたいと思う。
そんなライブハウスでの「楽しい」という感情をさらに増幅してくれるのがこちらも新作からの「NO MONEY DANCE」。この曲のコーラス部分をみんなで歌えたら本当にどんなに楽しいだろうかとも思うけれど、今はしばたともりもとが歌う声がハッキリと聞き取れるというのを楽しみたいと思うし、「イェー」の部分で目のあたりでピースサインをするこやまの姿は収入ゼロになった歌を歌っているとは思えないくらいに可愛らしさを感じてしまう。
するとここでこの日会場に入っていたカメラについて種明かし。この日のライブが4月にCSテレ朝チャンネルで放送されるということでの収録だったらしいが、ステージ裏でのドキュメント的なものも流れるらしく、バンドが揉めているという小芝居的なものも収録したという。そこがオンエアされるかどうかはまだわからないが、その放送を
「あの伝説のライブが蘇る!」
「君たちは伝説の目撃者になる!」
というあまりにも使い古され過ぎた言葉で修飾しまくるのが、よくこんなに次々に出てくるなと感心してしまう。
嬉しいニュースはこれだけではなく、すでに発表されてはいるが、バンド初のアニメタイアップとして新曲が「かいけつゾロリ」のエンディングテーマに起用されることをライブのステージからも改めて発表。
さらにはNHKで放送されているラジオ番組がゴールデンに進出と、「かいけつゾロリ」もNHKで放送されることから、これまでよりもさらなるNHKとの癒着っぷり、密着っぷりに、今年こそやっぱり紅白に出たいという目標を改めて口にする。
それはバンドが目標にしているならばいつかはそれを見てみたい。だけれどテレビに出るよりも、こうしてライブハウスでライブを観れることの方が自分は嬉しい。でもそうして紅白に出ることによってヤバTを知るであろう人や、カッコよさに気づく人もたくさんいるんだろうと思う。そしてその目標を叶えた先でバンドがどこを目指すのか。我々顧客をどこに連れて行ってくれるのか。そう考えるとやっぱりヤバTに紅白に出て欲しいと素直に思う。
そんなNHKへの祈りにも似た感情を託すのはNHKに媚びまくった「案外わるないNHK」なのだが、テレ朝チャンネルが収録に入っている日にNHKに向けた曲をやるというのが実にヤバTらしいパンクスピリットである。
まさかこのツアーでこの曲を聴けるとは思わなかったが、しばたのゴリゴリのベース含め、やっぱりヤバTのパンクかつラウドな曲がNHKで流れるというのは国営放送が我々の愛するバンドに飲み込まれるという実に痛快なことであると思う。
そんな癒着っぷりを客席の手拍子が実に美しく映る「癒着☆NIGHT」で確信を持って響かせる。こやまはいつまでこの曲を演奏するときに「新曲」と紹介するのだろうか、とも思うけれど、それはもはや「神曲」と言っているのかもしれない。それくらいにヤバTに、この曲にめちゃくちゃにされたいのだ。
そんなこの日の最後に演奏されたのは「かわE」。2日前に見た時はやらなかった。やらなくてもライブは成立するけれど、やっぱりこの曲をライブで聴くのは本当にテンションが上がるし、嬉しいことだ。客席からもこの曲を聴けた喜びが溢れていたし、サビでこやまとしばたが体を左右に振りながら演奏して歌う姿はいつ見ても可愛らしく感じる。でもそれ以上にやはりヤバTはかっこE越してかっこFやんけ、と思うけれど、最後にこやまとしばたが楽器を抱えてドラム台からもりもとのキメに合わせて高くジャンプする瞬間の姿は、かっこFすらも越していた。
演奏が終わるとこの日もこやまは
「もしかしたら今日初めてライブハウスに来たっていう人もいるかもしれないけど、本当のライブハウスっていうのはもっと凄くてもっと楽しいところだから。
今は声出したりとかぐちゃぐちゃになったりはできないけど、また必ずそういうライブハウスで会いましょう。みんなで一緒に頑張りましょう!」
と、ライブハウスを背負う覚悟を口にした。すると客席から話している途中ながらも大きな拍手が起きた。ヤバTがそうして背負うことを選んだ「ライブハウスという場所と文化」はもうヤバTだけの思いではなくなっている。こうしてこんな状況でもライブハウスにライブを観に来る我々や、ライブハウスがあることによって生活している全ての人の思いがこやまの言葉やヤバTが演奏している姿に乗っかっている。
Zepp Tokyo 5days、10公演。ツアー全部含めたら70公演。規模が大きいバンドであるほどに動きにくい状況なのに、オリコン1位を取ったくらいに巨大な存在になったヤバTが誰よりも早く覚悟を決めて、誰よりも多くのライブを行ってきた。それはヤバTというバンドをさらに強く、逞しくもしたけれど、どうかこのツアーがファイナルの沖縄まで関わった全ての人が健康なままで駆け抜けられますように。
1.ハッピーウエディング前ソング
2.Bluetooth Love
3.sweet memories
4.KOKYAKU満足度1位
5.鬼POP激キャッチー最強ハイパーウルトラミュージック
6.泡 Our Music
7.原付 〜法定速度の範囲で〜
8.Give me the Tank-top
9.NO MONEY DANCE
10.案外わるないNHK
11.癒着☆NIGHT
12.かわE
文 ソノダマン