様々なアーティストやフェスのローディーとして活躍している、峰友洋氏が主催するフェス、MINE☆ROCK FESTIVAL。2010年に新木場STUDIO COASTで初開催されてから、渋谷QUATTROを経て、今回は豊洲PITという過去最大キャパでの開催。
当然ながら普段から峰氏がローディーを担当しているバンドが居並び、
NUMBER GIRL
ポルカドットスティングレイ
SPARTA LOCALS
SCOOBIE DO
a flood of circle
クリープハイプ
TENDOUJI
桃野陽介 (Momonoband)
というこのイベントじゃなきゃ集まらないであろう出演者たち。SCOOBIE DO、a flood of circle、桃野陽介(当時はmonobright)は2010年のこのイベントにも出演しており、当時のことを思い出すと、あれからもう11年も経ったのかと思う。
検温と消毒を経て豊洲PITの中に入ると、客席の段より下はマスで仕切られた自由席、段の上は椅子が置かれているという形式で、11時45分くらいになると主催の峰氏による挨拶。ローディーという職業の説明をするのもこのフェスならではであるし、この日のどうしてこの順番に?というタイムテーブルも改めて説明される。
・NUMBER GIRL
そんな挨拶が終わると、峰氏と入れ替わりでNUMBER GIRLのメンバーがしれっとステージに登場し、ギターを肩にかけた向井秀徳(ボーカル&ギター)が、
「主催の峰君とはもう20年以上の付き合いになります」
と思い出を口にすると、田渕ひさ子が右足を上げながらノイジーなギターを鳴らし、アヒトイナザワ(ドラム)のキメ連発のリズムからいきなりの「OMOIDE IN MY HEAD」の爆音オルタナサウンドに会場が飲み込まれていく。正直言って豊洲PITは音響があんまりよろしくない会場であるのだが、そんなことを忘れてしまうくらいに脳内に殺傷力の強いギターの音が突き刺さってくるし、まだ12時前という若干眠さもある時間帯であるが、音でもってぶん殴って起こされるような感覚ですらある。立ち位置的にはトップバッターで出てくるバンドではないけれど、やはり個人的にはフェスのトップバッターはこうした爆音のロックバンドであって欲しいと改めて思う。
「あの子は…透明少女」
と向井が口にすると、田渕がギターを何小節も鳴らし続けてからバンドの演奏になる「透明少女」へと繋がるのだが、先月にぴあフェスに出演した際も思ったのは、本当に一度解散して再結成した、40代後半という年齢のメンバーたちによるバンドなのかというくらいに、まさに「透明少女」というタイトルが今もリアルに感じられるくらいに瑞々しい演奏を見せているということ。それは向井と田渕のギターのみならず、中尾憲太郎(ベース)の高速ダウンピッキングからも確かに感じられるものだ。
向井は再結成にあたって、「ギスギスするのはやめよう。楽しくやりたい」とかつての自分自身を諌めるようなコメントも出していたが、「ZEGEN VS UNDERCOVER」のアヒトの気合いの入ったカウント時の笑顔などはバンドがまさに今そんな状態にいることを示しているし、だけれども丸くなったとかトゲがなくなったという感じでは全くないということを、中尾が後ろを向いてベースを連打する(という表現をドラムじゃないのにしたくなる)「鉄風 鋭くなって」のまさに鋭さしかないバンドサウンドが示している。というよりも元から凄まじかったメンバーたちが、解散後にそれぞれがあらゆる場所で積んできた経験すらもその音に乗っているかのような説得力ですらある。
そんな中でもこのバンドのキャッチーな部分をメロディとギターリフから感じさせてくれるのは「日常に生きる少女」であるが、後半の急激な展開はリリースから20年以上経っても全く古びれることはないというか、解散前をリアルタイムで体験出来なかった世代としてはむしろ新鮮にすら聞こえる。
一転して激しいバンドサウンドと向井による咆哮が轟く「TATTOOあり」、中尾がイントロでを弾くと田渕を指さすようにしてベースを振り下ろす「タッチ」と日本のオルタナの歴史をそのまま鳴らしているかのように駆け抜けていき、もうトップバッターのこの段階で「いや〜、今日来て良かったな〜」と思わせてくれるぐらいのただただひたすら圧倒されるようなバンドサウンドを突き刺してくれると、
「福岡県博多区からやってきました、NUMBER GIRLです」
と改めて挨拶すると、最後に最大の轟音かつ爆音で向井が
「おーい!!おーい!!」
と叫びまくる「I don’t know」を叩きつけ、向井が1人ずつメンバーを紹介すると、向井はマスクを着用し、アヒトはスマホで客席の様子を撮影してからステージを去って行った。
2010年に新木場STUDIO COASTでこのMINE☆ROCK FESTIVALが開催された時、トップバッターは向井率いるZAZEN BOYSだった。あの時、11年後にこのイベントが開催されて、NUMBER GIRLがトップバッターを務めるなんていう未来は1ミリも想像していなかったけれど、今自分はNUMBER GIRLがガンガンライブをやっていて、それを見ることができる世界線で生きている。
1.OMOIDE IN MY HEAD
2.透明少女
3.ZAGEN VS UNDERCOVER
4.鉄風 鋭くなって
5.日常に生きる少女
6.TATTOOあり
7.タッチ
8.I don’t know
・ポルカドットスティングレイ
リハから「DENKOUSEKKA」を演奏して客席を飛び跳ねさせていた、ポルカドットスティングレイ。あまりそういうイメージはないが、確かに雫(ボーカル&ギター)の話す言葉を聞いていると、NUMBER GIRLに続く福岡のバンドであることを感じさせる。
本編でメンバー4人が登場すると、紫色のTシャツに金髪ショートという出で立ちの雫が伸びやかな歌唱を見せ、エジマハルシ(ギター)がタッピングを連発する「化身」で始まり、そのギターが難しいというのもあるのだが、ずっと下を向いて演奏しているのはもったいないな〜と思っていると、「sp813」では前を向いて左右に移動しながらギターを弾く姿が見れて一安心するのだが、雫自身も言っていたように、シングル曲でもアルバムのリード曲でもない曲が続くという、初めてライブを見る人も多いであろうイベントのオープニングにしてはかなり攻めた選曲であり、しかも曲自体も本人が言うようにわかりやすいというよりはむしろ難しいタイプの曲である。
だからこそその後にはこのバンドのポップかつキャッチーなサイドを見せる「トゲめくスピカ」(NHKみんなのうたの曲)を演奏するという流れになるのだが、コロナ禍を経てしばらく見ないうちに「全てはお客さんのために」というこのバンドの姿勢というか、その姿勢の示した方は少し変わったのかもしれないとも思う。
さらには「FICTION」と、近年リリースの曲が続くが、それらはこのバンドのテクニカルな部分、演奏技術の高さを改めて感じさせてくれる。ウエムラユウキのスラップを多用したベースも、ミツヤスカズマの正確無比なドラムもリズム隊ももの凄くきっちりしている。
この日、名古屋でライブをやっているという声優の花澤香菜に曲提供をしており、本人よりも自分たちがライブで先にその曲をやりまくるというセルフカバーの新曲「SHINOBI-NAI」での雫のキュートさを増したボーカルも含めて、名前や代表曲くらいは知っているという人からしたらビックリするくらいの攻めっぷりである。それは絶賛ツアー中であるだけにそのツアーで培ったものをこうしたイベントでも発揮するということなのかもしれない。このバンドのライブではおなじみの戦隊ヒーローのような出で立ちをした振り付けマンが提供曲の新曲にも関わらず振り付けを踊るとそれが客席にも広がっていき、さらに最後には雫自身もその振り付けを踊りながら歌う。
さらには最新EP収録の「ダイバー」では雫がハンドマイクとなり、声は出せないけれど観客の腕を上げるように煽りまくるという、今私たちがやりたいことはこれであり、やりたい曲、聴かせたい曲はこれであるということを鳴らす音と曲でもって示すというのは、このバンドのイメージがかなり変わるものである。
しかしながらラストにはやはりエジマのギターリフからしてキャッチーな「ICHIDAIJI」を大きな声で
「1,2,3,4!」
とカウントしてスタートし、そのエジマがステージ端の方まで歩いて行って笑顔でギターを弾くという姿を見せてくれる。正直、自分は何年か前に初めてこのバンドのライブを見た時にはライブを見ても「人間らしさ」をあまり感じられずにいたのだが、その部分は間違いなく変化している。それはこうしたイベントやフェス、ライブハウスから武道館に至るまで様々な会場でライブを行ってきた経験によるものだろうけれど、最後には振り付けマンのみならず、雫の宣言通りに
「バンド初期からずっと私たちについてくれている」
という峰氏までもステージに招き、しかもそれがバンドのトートバッグを持たせるというローディーとも主催者とも全く関係ない使い方をしていたのが面白かった。
リハ.DENKOUSEKKA
1.化身
2.sp813
3.トゲめくスピカ
4.FICTION
5.SHINOBI-NAI
6.ダイバー
7.ICHIDAIJI
・SPARTA LOCALS
かつては日比谷野音などの大きな会場でもライブをやっていた、2000年代中期〜後期にかけて人気を誇っていたバンドである。しかし2009年に渋谷AXでのワンマンを最後に「大往生」と評した解散をし、それぞれが別々に、というか解散時のオリジナルメンバーだった3人は安部コウセイ(ボーカル&ギター)が解散後に結成したバンド、HINTOで活動を共にしてきたのだが、そうしたこともあってか、オリジナルメンバーの中山昭仁(ドラム)が復活する形で2016年に再結成。
かつてはワンマンにも行っていたし、フェスやイベントも含めて何度となくライブを見ていたが、再結成してからライブを観るのは初めて。つまりは12〜13年ぶりにライブを観るということである。まさかまたこうしてスパルタのライブを見れる日が来るなんて。
4人がステージに登場すると、コウセイの出で立ちも顔も、伊東真一(ギター)の長髪も全く変わらないが、安部光広(ベース、コウセイの弟)と中山は少し大人びたというか、年齢を重ねたのが感じられるが、かつて見ていたSPARTA LOCALSのままである。
しかしながらビックリするのは、いきなり伊東がノイズバンドかと思うくらいに強烈なギターサウンドを鳴らし始めたこと。それはシングル「トーキョーバレリーナ」のカップリング曲である「CHAOS」であるが、キャッチーで踊れるけどどこか歪で、というスパルタらしさに、HINTOで鳴らし続けてきた爆音ロックンロールのエッセンスが加わっている。だからこそか、コウセイは地元の先輩を倣ってか、
「福岡県博多区から来ました、SPARTA LOCALSです」
と挨拶したのだろうかとも思う。
その爆音ロックンロールなスパルタらしさは再結成後にリリースされたアルバム「underground」のタイトル曲の「アンダーグラウンド」からも存分に感じられるが、光広のベースがかつてのイメージよりもうねりまくっているというのも今ならではの要素だと思われるが、コウセイの癖の強い、モノマネしたくなるような声質のボーカルは全く変わらないし、それがやはり「スパルタが本当に今活動しているんだな」と思わせてくれる。
で、スパルタと言えば曲中に設けられている、合いの手的なボーカル、コーラスをコウセイ以外のメンバーが歌い、それを観客も一緒に歌うというのがライブの楽しさの一つでもあったのだが、悲しいかな今は観客が声を出せないだけに、そうしたコーラスを一緒に歌うことができない。これはスパルタのライブの楽しみ方としては実にもったいないというか、本当はもっと楽しいんだぞ、とよりコロナが憎く感じてしまう。
しかしながら、ライブを見ているとコウセイのボーカルも、長髪をブンブン振り乱しながらギターを弾く伊東の姿も全く変わらないけれど、かつてとは違う部分も見えてくる。それは「黄金WAVE」の間奏で、コウセイが光広の方を見つめて演奏しながら笑顔を浮かべていたこと。特に解散前はコウセイは実に尖っていたというか、ささくれだっているように見えた。それがもしかしたら楽しかったはずのバンドがそうではなくなってしまって終わらざるを得なくなってしまったのかもしれないが、今は4人が「SPARTA LOCALSであること」を全身で受け入れて、それを楽しめているように見える。そんな姿が見れただけで感動してしまっていた。
名曲「夢ステーション」のカップリング曲だった「sugar」という、表題曲やらないでそっちやるの!?という捻くれっぷりもまたスパルタらしさであるが、そんな中にコウセイがハンドマイクとなり、ジャケットのポケットに手を突っ込んだままで歌う再結成後の「Leaky drive」が演奏されたりと、もはや新曲とか定番曲とかレア曲とかいう概念すらも再結成したことによってゼロに戻ったような感すらあるのだが、ひたすら曲を連発していくというスタイルも昔とは少し変わったと感じるところだ。昔はそれなりにコウセイがMCをしたりもしていたから。
そうして伊東が頭を振り乱しながらオリエンタルなギターサウンドを鳴らす「THE CLUB」から、これぞスパルタというようなコウセイとメンバー3人のボーカルの掛け合いが展開される「ピース」で、本当にあの頃に見ていたスパルタそのものがまたこうやって自分の目の前にいてくれているという感覚にさせてくれる。
同じ解散から再結成という道を辿ってこのライブに出演しているNUMBER GIRLとは少し感情の置き所が違うのは、スパルタは解散前に何度もライブを見ていて、しかもそれを当時の友人や同級生と一緒に観に行っていたという、自分の青春の記憶と結びついているバンドだからだ。
だからこうして「ピース」なんかを聴いていると、当時一緒にライブを観に行っていた人たちが今何をしているんだろうか、元気でいるんだろうか、スパルタが再結成して、こうして活動していることを知っているんだろうか、ということまで浮かんでくる。自分にとってそれくらい大事なバンドだったということに、12〜13年経って初めて気付いた。気付いたのが遅すぎたけれども、気付いたからこそこれからまたこの先で取り返しに行くこともできる。
そして中山のカウントから、最後に演奏されたのはかつてCDTVのオープニングテーマに起用されたことによってバンドの存在を多くの人に知らしめ、ブレイクのきっかけとなった「トーキョーバレリーナ」。
「マイノリティー マイノリティー」
のフレーズをみんなで歌えないのはやっぱりキツいし寂しい。でもその分、観客はみんな腕を上げていた。その上がったたくさんの腕の数を見て、解散前でも豊洲PITなんか埋まらないバンドだっただろうし、今こうして活動しても知ってる人なんか全然いないんじゃないかとすら思ってしまっていたのが愚かな考えだったことに気付かされた。今でもスパルタのことを覚えている、大事に思っている、ライブを観たいと思っている人がたくさんいる。それが可視化されたのがこの日の光景だった。それがわかったから、全然そんなバンドじゃないのになんだか泣けてきてしまった。メンバーはいたって普通にステージから去って行ったけれど、それはそうだ。もう再結成してから5年も経って、そうした自分が抱えるようなセンチメンタリズムは通り越しているのだろうから。
でもやっぱり、スパルタは変なバンドだ。コウセイの声の癖の強さも、そのサウンドも、いきなり曲が終わったりするところも。つまりはバンドもそれを好きな我々も今でもまだマイノリティーなままだということだ。
「君たちはトーキョーのバレリーナ」
とコウセイは歌詞を変えて歌っていたが、だからこそこれから先はまた死ぬまで一緒に、踊ろうぜ。
1.CHAOS
2.アンダーグラウンド
3.I LOVE YOU
4.UFOバンザイ
5.黄金WAVE
6.sugar
7.Leaky drive
8.THE CLUB
9.ピース
10.トーキョーバレリーナ
・SCOOBIE DO
2010年に新木場STUDIO COASTでこのイベントが開催された時はトリを務めたのがこのSCOOBIE DOである。その日はZAZEN BOYSやサンボマスターという明らかに知名度も動員力もあるバンドがいたにもかかわらず、トリにふさわしい素晴らしいライブを見せてくれ、他のバンドのファンにもLIVE CHAMPとしての力を存分に見せつける機会となった。
それから11年経ち、出演バンドも入れ替わってきた中でもSCOOBIE DOは全く変わらない。メンバーも変わらないし、メンバーの出で立ちも変わらない。なんならリハで山下達郎の「RIDE ON TIME」を演奏し、コヤマシュウ(ボーカル)が
「この後に本物のSCOOBIE DOが出てくるんで!凄いバンドなんで、みんな大歓声で迎えてやってくれよ!」
とコロナ禍で歓声が上げられない&リハは別人というそのセリフも全く変わることはない。
本番では大歓声ではなく盛大な拍手に迎えられて登場すると、タイトなオカモト”MOBY”タクヤのドラム、うねりまくるナガイケジョーのベース、キレ味抜群のマツキタイジロウのギターと、コヤマシュウのソウルフルなボーカルはもちろんとして、コロナ禍でライブが減ったということを1ミリ足りとも感じさせない音と、コヤマ、マツキ、ナガイケが縦一列に並んでEXILE的なパフォーマンスをする「真夜中のダンスホール」からスタートすると、
「人生いついかなる時でもアウェイ」
というこのバンドの長い歴史で数え切れないくらいそう感じることがあったであろう「アウェイ」では早くもメンバーそれぞれのソロが挟まれるのだが、ナガイケのベースソロ時にいきなり音が出なくなってしまうと、すぐさま袖からローディーとして峰氏がステージに駆けつけて修復するという、このイベントのためにあえて音を出なくしたんじゃないかというパフォーマンス。これにはコヤマもナガイケもその後に袖の峰氏を指差して感謝の気持ちを送っていたのだが、そうした瞬間もあったからか、この日の客席はバンドにとっては全くアウェイではなく、むしろホームと言えるような盛り上がりに感じていたはずだ。
開演前の挨拶で峰氏も口にしていた通り、SCOOBIE DOは観客を飛び上がらせたり動かしたりという、そうしたくなるような圧倒的なパフォーマンス力を持っているが故に、「What’s Goin’ On」で飛び上がると床のマス目からはみ出してしまいそうにもなるのだが、曲中の
「この世は才能次第」(マツキ)
「この世はセンス次第」(MOBY)
とメンバーの長所を指していく部分で、普段は「顔次第」と全く見た目が老けないイケメンのナガイケを指すところを
「この世は峰次第」
とステージ袖を指すあたり、バンドの長い歴史を一緒に歩んできた峰氏への感謝とリスペクトを感じさせる。
そんな中で昨年リリースされた曲が「Alive Song」であるが、コヤマのソウルフルかつスィートな歌の力が前面に押し出されたこの曲で歌われているのはズバリ生きるということ。それは昨年からのコロナ禍によって、メンバーたち自身で運営しているこのバンド自体の生命も危ぶまれたからこそだと思うけれど、そうした人生の経験がそのまま歌詞と音に乗っかっているだけに、特に
「生きることに取り憑かれていよう」
という締めのフレーズの説得力は抜群である。コヤマが何度も観客に
「またやろうなー!」
と呼びかけるのも、生きていればこそまたライブで会えるということを示している。
「峰友洋と出会った頃の曲を、最新バージョンで!」
と言って演奏されたのは、
「あこがれに手を振ろうぜ
強がりはもうやめた
あこがれに手を振ろうぜ
この瞬間をつなげようぜ」
というサビでコヤマに合わせて観客も腕を左右に振る「Get Up」であるが、やはり最新バージョンということで、バンドの演奏はさらにタイトに、しかし力強さを増している。
そしてここからは一気に駆け抜けるべく、おなじみの
「君たちのタイム&ソウル&マネーに感謝します」
というコヤマの言葉もコロナ禍になったことによってより重たさをも感じさせるのだが、
「ローディー峰友洋を愛し、ローディー峰友洋に愛されているバンド!」
と自分たちを評すると、その言葉に恥じないくらいに「新しい夜明け」からはさらに演奏のキレもパフォーマンスのキレも増していき、観客もより激しく踊りまくる。
特にメンバーがその場をくるくると回りながら演奏する「Back On」は完全にベテランという立ち位置となりながらも未だにその体力や運動量、体のキレがフレッシュさを保っていることを感じさせてくれ、そして最後に演奏された「夕焼けのメロディー」の色褪せぬ名曲感も含めて、どんなに配信技術が進化したり、音楽の聴き方が変化していっても、こうして現場で凄いやつが1番強いということを示してくれている。だからこそここまでこのバンドが続いているということも。
今では個人的にはメジャーリーグ中継の解説として接することの方が増えているMOBY(大のシカゴ・カブスファンであり、メジャーリーグ専門誌に連載を持つくらいのマニア)がカメラを取り出して客席を撮影しているのが、数え切れないくらいにライブをやってきても、どんなライブも特別なライブであり、100%以上を出して向き合ってきたこのバンドのスタンスを感じさせてくれた。今回はトリではなかったけれど、今でもこの出演者の中でもトリを充分務められるバンドだ。
リハ.RIDE ON TIME
1.真夜中のダンスホール
2.アウェイ
3.What’s Goin’ On
4.Alive Song
5.Get Up
6.新しい夜明け
7.Back on
8.夕焼けのメロディー
・a flood of circle
SCOOBIE DO同様に11年前の新木場でのこのイベントに出演している、a flood of circle。しかしながら当時はまだ若手という立ち位置と扱いであり、今とはメンバーも違っていた。それでも自分が峰氏の存在をしっかりと認識したのは、フラッドのライブでいつもハットを被ったスタッフがステージ袖にいたからである。
リハでは黒の革ジャンを着ていた佐々木亮介(ボーカル&ギター)が本番では赤の革ジャンに変えて登場すると、すでに手には缶ビールが握られており、その握った手を上に伸ばして拍手を浴びる。この日は観客もドリンクでアルコールを飲むことが可能だったのだが、ようやくフラッドのライブらしい景色が少しだけであるが戻ってきたような感じがこの登場から感じられる。
フラッドは現在絶賛ツアー中であり、自分もすでに千葉と水戸の2本に参加しているのだが、やはり最初はそのツアーでもおなじみの「Beast Mode」で幕を開ける。しかしながら亮介だけならず、明らかに青木テツ(ギター)のコーラスの声量がめちゃくちゃデカい。そもそもそのギターのサウンドも、HISAYO(ベース)と渡邊一丘(ドラム)のリズム隊もフラッドはロックンロールバンドとしての爆音でしかないのだが、音響的な問題ではなく、明らかに気合いというか精神的な問題でコーラスが大きい。そもそもテツはバンド主催フェスでもそうであるように、対バンライブで他のバンドのライブを観た後の方が圧倒的に燃えるタイプであるが、フラッドと近いところにいるSCOOBIE DOや、NUMBER GIRLというレジェンドバンドのライブを目の前で見て燃えないわけがないというのが如実に現れている。そもそもリハでステージに出てきた時から叫びまくっていたし。
そんな気合いはこちらもツアーでもおなじみのUNISON SQUARE GARDENの田淵智也プロデュースによる「ミッドナイト・クローラー」にも現れ、HISAYOのステップを踏むかのような軽やかな動きでの華やかなベースもより顕著になるが、もしこのイベントが昔のようにモッシュ&ダイブがOKだったらこの曲でそういう景色が見れていたのだろうかと思えるくらいにこちらの衝動を昂らせてくれる。
すると亮介が
「峰さんの好きな曲やりまーす」
と言って演奏したのは季節外れの「春の嵐」。テツはステージ上手側に歩き出して行って強烈なギターを弾きまくるのだが、やはりコーラスが非常に大きい。それくらいに演奏で、音楽で自身が受けた衝動を逆に自分がステージから返そうとしている。
11年前に出演した時もこの曲をやっていたことをよく覚えているが、あの頃はまだギターがサポートの曽根巧だった。その記憶を最高な今で更新するかのようであるし、ずっと一緒にライブを作ってきた主催者が好きな曲をわかっていて、それをこうして普段のライブでやっていなくてもこの場で演奏することができる。我々の愛するロックンロールバンドの逞しさと頼もしさに心が震えてくる。
さらにまた
「峰さんの好きな曲やりまーす」
と言うと、バンドでの演奏が始まる前に亮介はマイクスタンドよりも前に出て「Honey Moon Song」の歌い出しをアカペラでマイクすら通さずに歌い始める。それがこの広い豊洲PITでもしっかり聞こえてくる。こんなに素晴らしい声を持つボーカリストであるからこそ、こうしたその声が隅々まで届くような会場でワンマンができるようになって欲しいと心から思う。実際にこうしたことをこの規模でできるロックバンドのボーカリストがほかにどのくらいいるだろうか。
こうして好きな曲という「春の嵐」と「Honey Moon Song」が続くと、峰氏がわかりやすいくらいにメロディの強い曲、フラッドの中でも素直に「良い曲だな」と思える曲が好きだということがよくわかるのだが、だからこそブルース色の強い「Black Eye Blues」を亮介は
「峰さんが好きじゃない曲」
と言ったのだろう。
その「Black Eye Blues」は亮介がハンドマイクで歌う曲であるが、この日はその片手には缶ビールが握られている。まだ客席に突入して観客の上を練り歩くというパフォーマンスはできないけれど、少しずつでもそれに戻れるような微かな希望を今は感じている。亮介は駄々をこねる子供のように曲後半で急にステージ上に倒れ込んで歌っていたけれど。
すると亮介は
「このイベント最高じゃん。わけわかんないことばかりだもん。ディズニーランド行ってシンデレラ城の前で写真撮るみたいなわかりやすいことは、わかりやすいのが好きな人たちに任せておけばいい。ローディーがやってるイベントってのがもうわけわかんないじゃん」
と亮介なりの言葉でこのイベント、ひいては峰氏への愛情を口にしていたが、まさか亮介の例えで「ディズニーランドのシンデレラ城」というものが出てくるとは全く想像していなかった。亮介はディズニーランドに行ったりするのだろうか。だとしたらどんな楽しみ方をするのだろうか。
そして再びギターを持った亮介がテツとHISAYOを一丘のドラムセットの前に集めて全員が向かい合って音を鳴らす。それはファンにはおなじみの「プシケ」であるが、今やワンマンでも毎回演奏されるわけではなくなったこの曲をこうしたイベントで演奏する理由。それは初めてフラッドのライブを見る人への先制パンチ的な挨拶という意味を込めたメンバー紹介と、この日この場所にバンドを呼んでくれた主催者へのフラッドなりの礼の尽くし方ということなのかもしれない。最後の
「足掻いて足掻いて足掻いていけ」
のフレーズを思いっきり溜めるようにしてからいつも以上に何度も連呼していた亮介の姿を見てそんなことを思っていた。
亮介がギターを鳴らしながら両腕を高く掲げる。それは主催の峰氏もこれまでに数え切れないくらいに聴いては明日へと足を進めてきたであろう「シーガル」の始まりの合図であり、ライブのクライマックスへの合図とも言える。ここまでに見せてきたメンバーの気合いが全て乗っかったかのような渾身の演奏に観客も飛び跳ねながら応える。フラッドはそうして今をずっと更新してきたのだ。
そうして更新してきたからこそ、「シーガル」で終わるのではなく、最後に「ベストライド」を演奏し、まさに俺たちのベストが今であることを間奏で亮介とHISAYOが並んでステージ前に出てきて演奏し、観客による手拍子とともに示す。そうやってベストを更新してきたのをずっと観てきたからこそ、フラッドのワンマンの会場の規模のベストも更新したい。広ければいいってものじゃないけれど、こういう普段よりはるかに広い会場でこうしたパフォーマンスをしてくれるのを見ると、やっぱりその景色が見たくなるんだ。
11年前にこのイベントに出た時、亮介は自分たちの楽屋が通路の1番奥に椅子が置かれているだけだということを笑い話として口にしていた。もちろんまだ当時は最も若手だったし、他の出演者からしてもそれは仕方なかったかもしれないけれど、やっぱり少し悔しかった。先輩方にも負けないようなライブをやっているのに、と思っていた。
それから11年経って、今のメンバーに固まり、フラッドは若手という立ち位置のバンドでもなくなった。そうした理由がなくなった今だからこそ言える。やっぱりフラッドは他の先輩バンドやレジェンドと並んでも全く負けることないくらいにカッコいいバンドだと。やっぱりフラッドを観に来て良かったと心から思えた。
リハ.JUMP (忌野清志郎)
リハ.Dancing Zombiez
1.Beast Mode
2.ミッドナイト・クローラー
3.春の嵐
4.Honey Moon Song
5.Black Eye Blues
6.プシケ
7.シーガル
8.ベストライド
まだ3組残っていたが、この後に他のライブを観に行くためにここで会場から離脱。もちろん最後までいたかったけれど、途中まででも峰氏の愛されっぷりと、峰氏に自分の好きなバンドが支えられているということが実によくわかるイベントだった。
絶対に他のイベントでは集まらない出演者のイベントなので、何年かに1回でいいから、またこうしてこのイベントでそのバンドたちが集まる姿を見れたらと思う。
文 ソノダマン