1部に続いてのヤバイTシャツ屋さんの「You need the Tank-top」ツアーのZepp Tokyo 5daysの4日目。リセールに申し込んで当たった公演もあるが、元々アルバムを買った時に申し込んでいた公演がこのライブである。
自分もそうであるが、やはりフォロワーの顧客さん達も1つ観たら「もっと観たい!」となっている人がたくさんいるらしく、すでに何公演も観ている人もたくさんいるだろう。Zepp Tokyoだけでもこれが8公演目なのだから。
検温と消毒を経てZepp Tokyoの中に入ると、やはり土曜日の夜ということもあってか、今まで観てきた中でも席が埋まるのが早いイメージ。それくらい楽しみにしてきた、1部でもこやまが口にしていたが、
「月曜日から金曜日まで頑張ってきて土曜日にライブに来ている」
ということなのだろう。
前日までは平日ということもあって2部のスタートは20時30分だったが、土曜日のこの2部は19時30分という通常のライブに近い時間に場内が暗転して、おなじみの「はじまるよ〜」のSEが流れるとメンバー3人が手を叩きながらステージに登場。衣装は1部と変わりなく、しばたは道重さゆみTシャツではなく紫色のツアーTシャツを着用。
こやまの疲労一切なしのテンション高いライブのルール説明の時点ですでに観客の腕が上がりまくり、その場で飛び跳ねている人も多数。やはり2部制とはいえ、なかなか平日の夕方や夜遅い時間にライブに来ることが難しい、このツアーにようやく参加することができた人がたくさんいて、その人たちの待っていたという感情が爆発しているのが声が出せなくても伝わってくる。それはヤバTの演奏する姿や音から伝わってくるものと全く同じものだ。
そんな土曜日の夜の1曲目に演奏されたのは「NO MONEY DANCE」。1部では最後に演奏された曲である。だからこそ1部を見ていた側としては紛れもなく「あの続き」というライブが始まったんだなと思ってしまう。他の日の1部のラスト2部のスタートを全て把握しているわけではないけれど、しばたとこやまの
「yeah!!!!!」
のフレーズでのピースを目の横で作る仕草は何度見ても楽しくなってくる。
この2部では序盤に演奏されることによって、演奏後のこやまの
「Zepp Tokyo 5daysの4日目2部、開催おめでとうー!ありがとうー!」
というこのライブの開催宣言とも祝したものとも捉えることができる「ハッピーウェディング前ソング」では最後の
「イェー!!!」
と歌う部分でしばたがここまでに観てきた3公演よりもさらに声を張り上げる。もう普通なら声がひっくり返ってもおかしくないくらいのキーの高さと声量であるが、そうはならない喉の強さ(そもそもこの日2回目のこの曲の歌唱である)と、音源に忠実に上手く歌うというよりも、今この瞬間に自身の中にある衝動を声にしているような。それこそがヤバTのライブの中にある、観ていて感情が揺さぶられるエモーションである。
1部ではやらなかったが、2部ではこれまでに観た中でもほとんどこの位置で演奏されている、
「かわいいあの子が放課後に俺の上履き食べてた」
というこやまの上履き味の思い出がパンクなサウンドに乗って蘇る「sweet memories」ではこやまがステージ中央前に出てギターソロを弾くのを真後ろでしばたが覗くように見、逆にその後のしばたのベースソロではこやまが真後ろに立ってその姿を見るという実にヤバTらしいソロ回しが展開され、サウンド自体は完全にパンクなのに見ていて本当に微笑ましい気持ちになる。
やはり「Bluetooth Love」はリリースされたばかりとは思えないくらいにライブで繰り返し演奏されているし、それによってさらに代表曲として育っていくであろうという感覚になる。1部よりも多くの人が振り付けをマスターしていたような気がするのも印象的だが、平日にライブに来れない分、MVを見まくって覚えたんだろうかという想像をしてしまう。
と、ここまでは今回のツアーでもおなじみの曲が連発されたのだが、一転して次に演奏されたのは初期の代表曲の一つである「喜志駅周辺何もない」。
普段はタイトルフレーズなど、会場や地域に合わせたおもしろコール&レスポンスが行われてもりもとのツッコミが入ってさらなる盛り上がりへ…という流れになる曲なのだが、観客が声を出すことはできないこのご時世では「コール&レスポンスなしver.」として演奏される。
なのにコール&レスポンス部分をカットすることなく演奏したことにより、コールはすれどレスポンスは一切返って来ず、もりもとのドラムの音だけが響いてこやまとしばたは冷めた表情をしているという超シュールなものになり、ついつい笑ってしまう。
しかしそれだけでは終わらずに、なんと最後のサビのフレーズを瑛人の「香水」のサビに差し替えるという驚愕のアレンジまで施してしまう。こんなに完璧にハマるくらいに入れ替わるという発見をしてしまったヤバTはやっぱり凄すぎるし、その凄さが笑えるもの、楽しいものになっているのがヤバTである。カッコいいパンクバンドでありながらも稀代のエンターテイナーであり続ける。いや、バンドという存在がエンターテイメントであるということを示すかのような。
曲終わりでこやまは
「ありがとう!」「ありがとう!」
と何回も口にしたのだが、微妙に「ありがとう」っぽくないなと思っていたら、「ありがとう」っぽく「瑛人」と言っていたというくらいに今でも瑛人にハマっており、瑛人の横でギターを弾いている人の名前やら、「すっからかん」という瑛人が1月にリリースしたアルバムのタイトルなど、普通の人ならまず知らないような瑛人情報を提供してくれるというのがさすが瑛人にハマっているだけはある。
個人的には「みんなが思っているイメージ以上に実は言葉の人」という意味でヤバTと瑛人には少し通じるものがあるとも思うのだが、ヤバTもそれを感じているからこそハマっているのだろうか。
するといきなりしばたが「たかつき観光大使」の襷を肩にかけて「凄い人」感をアピールするのだが、もりもとは「浜松やらまいか大使」、こやまは「宇治観光大使」になっているので、メンバー全員がそれぞれの故郷の観光大使になっていることに。大阪府高槻市は最近は古墳が有名であるために「埋めること」を得意としているしばたは
「ポッカリ空いた心の穴」
を埋めに来たとしっかりと落としてみせるのはさすがである。
そんな故郷を愛するバンドであるヤバTが
「故郷の曲をやります!」
と言ったので、てっきり「どすえ」や「天王寺に住んでる女の子」というあたりをやるのかなと思ったら、演奏されたのは「ZIKKA」という我々の予想の斜めどころかあらぬ方向のさらに上を行くような選曲。
とはいえこの曲がこのツアーで演奏されるとは、と思うし、そんな曲が演奏されたというのはヤバTがこうしたまさかやるとは思わないようなレア曲を常に演奏できる状態にあるということであるし、その曲が「こんなにラウドな曲だっけ!?」と思うくらいの迫力を獲得しているのは65公演目というこの1年のライブの経験値によるものである。
1部ではもりもとの生誕1万日を祝して演奏された「げんきもりもり!モーリーファンタジー」は2部では特にそうした前フリもなく演奏されたが、1部2部ともにセトリに入るということはこの日ならではの要素なのだろう。
1部では自身が歌わずにギターを弾く部分では下手側の袖に消えていきそうになるという演奏しながらのボケをかましたこやまはこの2部では上手側の袖に向かって消えていく。
この曲の大事な要素の1つであるもりもとの語りパートではやはりこやまとしばたは座って無表情で演奏。それはもりもとへの無関心っぷりを示すようでいながらも、何回も見ていたらもりもとの存在を際立たせるためのパフォーマンスなんじゃないかとも思えるようになってきた。
実際にこの2部ではもりもとが語り始めるともりもとに向かって手を振る観客がたくさんいたのだが、そうした観客のリアクションの違いもまたセトリやMCと同じようにライブの内容を変える一つの要素である。そんな景色が見えるからこそ、CDを買って最初に聴いた時は笑ってしまったこの曲でさえ、ライブで聴くと泣いてしまう人がいるということもわかるような。
そもそもここまで3人が3人ともキャラが立ちまくっているメンバーのバンドというのもそうそういないだろう。とかく曲だけ聴くとこやまの天才っぷりが突出してもおかしくないのだが、ライブでは最もステージ上を楽しそうに動き回りながら抜群の歌唱力とゴリゴリなベースを弾くしばた、ライブでの「早送りしてるんじゃないかと思うくらいにテンポが速くなっているリズム」を支え、こうしてテーマ曲までできてしまうもりもと。
こやまはこの2人をバンドに誘った理由を「サークルの中で1番言うことを聞く後輩だから」的に言っていたが、その当時からもしかしたらこの3人ならここまで凄いバンドになれるという予感めいたものがあったのだろうか。だとしたらそれを見抜いていたこやまも、その通りの存在になったしばたともりもとも本当に凄まじいのだが。
ここまではパンクやラウドというサウンドでヤバTらしさを発揮するような展開であったが、同期の音も使って少ししんみりとした空気にさせるのは「You need the Tank-top」収録の「珪藻土マットが僕に教えてくれたこと」。つまりは珪藻土マットは水を吸収してしまうから洗うことができないという、誰も歌ったことがないというか歌う必要がない曲をこんなに名曲じみた曲に乗せるという方向でのヤバTらしさを発揮した曲である。
しばたが歌うパートでは観客が腕を左右に振り、こやまはその姿を見ながらステージ中央で自分の胸を叩いたりしながらギターを弾くという、いかにも名曲バラードを演奏していますという雰囲気を醸し出すのだが、歌っている内容がこれなのでそんな姿すらもついつい笑ってしまう。
そして観客が手拍子をしながら、こやまがいつまで経っても「新曲」と紹介する「癒着☆NIGHT」へと至るのだが、
「今夜はめちゃくちゃにしたりたいねん」
と歌う通りに歌唱も演奏もさらにテンション高く、間奏のこやまのギターソロ突入時にはしばたが「ギター!」と叫んでからこやまが颯爽とステージ中央に出て行ってソロを決める。そんな細かい部分もそのライブごと、あるいは曲の順番が変わるにつれて変わっていく。だからどんなに同じ曲を聴いても(この曲は見た公演全てでやっている)全く飽きることがない。今回はどうなるんだろう?と思うし、そもそもこの曲が本当に演奏されるかどうかもこうして曲が始まらないとわからないのである。
こやま「最近何が流行ってんの?」
としばたに問いかけると、ほとんどの人が知らないお笑い芸人のネタを再現して「何これ?」という空気にした後、2歳ながらYouTubeで歌を歌ってCDデビューも果たしているという、ののちゃんの「犬のおまわりさん」の歌唱をしばたが全力モノマネするのだが、こやまは
「俺もCDデビューしてるから負けてられへん」
と、何故だかライバル心を剥き出しにし、
しばた「(ののちゃんのモノマネで)ののは「おもちゃのチャチャチャ」が好きです。こやまさんは何が好きですか?」
こやま「マキシマム ザ ホルモンの「シミ」です!」
とガチ回答するという相変わらずの果てしないアンテナの広さを感じさせながらも、あくまで自分たちの生きる場所はYouTubeではなくてライブハウスであるということを示すように「Give me the Tank-top」へ。
去年1年間で世間から非難されることもあった、でもそういう場所で生きてきたし、これからも生きていくんだというライブハウスへの思いによって作られたこの曲がライブハウスで鳴らされている。禁止されていなければ、みんなで歌ってぐちゃぐちゃになるような、ヤバTがタンクトップ(=パンクロック)であるということを改めて自分たちで定義するような曲。今はまだ腕を上げて飛び跳ねることしかできないけれど、この曲は間違いなくこのツアーのテーマソングと言っていい曲だ。ツアーのエンドロールというものがあればその時に流れるべきというような。
ラスト2曲という流れを加速させるように超高速バージョンでの演奏となる「ヤバみ」も今聴くとそのスピードの中に潜む
「夜通しで飲んでHighやで」
というフレーズにハッとする。そうすることが出来なくなってしまっていることに。それでもしばたのゴリゴリのベースが、もりもとの「オイ!オイ!」というコロナ禍になる前と全く変わらない煽りがそのスピードによって我々の歩みをさらに前に進ませてくれるよう。
そしてこの日最後に演奏されたのは、自分は4公演目にしてこのツアーで初めて聴いた「あつまれ!パーティーピーポー」。ちょっと前まではヤバTの代名詞的な曲であるこの曲すらも、やれる曲数と時間が少ないとはいえ、今ではやらなくても成立するくらいに他にキラーチューンが増えまくっている。
しかしZeppの天井からぶら下がるミラーボールが輝く下で踊りまくれるというのはライブハウスでこの曲を聴かないと絶対に出来ない経験であるし、この日は土曜日の夜ということもあって、パリピではなくても平日はちゃんと働いてこの週末のライブに辿り着いたという事実が、楽しいのに泣けてくるという、自分の感情を不安定にしてくる。そう思えるくらいに久しぶりに聴いたこの曲を演奏する今のヤバTはこれまでで最もカッコよかった。何というか、この曲が持っている意味がさらに広がっているというか。それはこのツアーや「You need the Tank-top」の曲たちによってもたらされたものだ。最後にはこやまとしばたがやはりドラム台から楽器を抱えて大きくジャンプした。その最高到達点は携帯のロック画面にしておきたいくらいに、ロックバンドのライブに来ないと見ることができない、この世で1番カッコいい人間の姿であった。
演奏が終わると3人がステージ前に出てきて最後の挨拶。5daysの10公演中、8公演が終わったという事実にこやま自身も笑いながら、もりもとが上手側まで来るともりもとに向かって上手側の観客たちが手を振る。本当に愛されているな、と思う。
そして元の、ぐちゃぐちゃになれるライブハウスへの帰還を約束しながら、
「また辛くなったり、疲れたと思ったらライブハウスに来てください。俺たちはいつでもこうしてライブをやってるから」
とこやまは言った。それは日々平日に働いている社会人の観客、学校に行っている学生の観客が、こうして休みの日にライブハウスに来ることを生きがいにして生活を乗り越えていることをわかっているかのようだった。ライブハウスだけでなく、そうした人々の人生や生活すらも今のヤバTは背負っている。でもそれは重荷ではなく、バンドの原動力になっているはずだ。みんながヤバTを、タンクトップを必要としているのを自分たちの目で見てきたのだから。
前日もライブハウスに行って、その2日前にもライブハウスに行って。ちょっと前までは当たり前だった、毎日のようにライブハウスに行くということも、今ではなかなかできない状況になってしまった。
でもヤバTがこうしてZeppで5days10公演というライブをやってくれるから、その感覚をこの状況でも感じることができる。こうして毎日ライブハウスに行って、楽しかったと思うことが次の日からの生きる力になっていく。そうやってこれまで生きてこれたということを思い出させてくれたヤバTには本当に感謝しかない。これからも我々にその日々や感覚と、タンクトップを与えてくれ。
1.NO MONEY DANCE
2.ハッピーウェディング前ソング
3.sweet memories
4.Bluetooth Love
5.喜志駅周辺何もない
6.ZIKKA
7.げんきもりもり!モーリーファンタジー
8.珪藻土マットが僕に教えてくれたこと
9.癒着☆NIGHT
10.Give me the Tank-top
11.ヤバみ
12.あつまれ!パーティーピーポー
文 ソノダマン