春までの全国のライブハウスを1日2回公演で回るツアーも含めて、ヤバイTシャツ屋さんがコロナ禍の中でトップクラスにライブを行ってきたバンドであることに間違いはないが、そのライブハウスツアーの最中に早くもリリースされたシングル「こうえんデビュー」のツアーは、今やそれぞれが観光大使となったメンバー3人の地元を回るものとなった。
本来ならばしばたの地元の大阪高槻、こやまの地元の京都宇治を経てのツアーファイナルになるはずだったもりもとの浜松であるが、大阪と京都が緊急事態宣言によって延期になったことで、逆にツアーの初日という位置づけに。この日のライブはそんな浜松2daysの2日目。
浜松駅からほぼ直結という凄まじい利便性を誇る浜松アクトシティはどことなくデザインからも年季のようなものも感じさせるホールであり、もりもとも含めて浜松の住民からすれば幼少期からなじみのある会場なのだろう。中に入ると天井が高く、バルコニー席は海外のホール会場のような由緒正しさを感じるような作りだ。
ホールということもあってか、平日にしては早めの18時30分になると、おなじみの「はじまるよ〜」のSEが鳴り、今回の主役のもりもとを先頭にメンバー3人が登場。目を引くのがすでに写真などでも話題になっているように、しばたの髪型がショートからセミロングになっていること。それによって少し大人っぽく感じられるような気もする。
前回のツアーの時と同様、メンバーが楽器を手にして音を鳴らし始めると、曲を演奏するよりも前に今のライブのルール、ガイドラインを説明する。それすらも
「隣の人を気にしながら少し踊るの、OK!」
など、説教臭かったり、観客が必要以上に気を張ることのないような言葉を選んでいるというあたりが実にヤバTらしいのは変わらない。
その説明の最後にはこやまが
「今日のセトリはもりもとが決めました!もりもとが決めた1曲目!」
と、このツアーは地元のメンバーがセトリを決めていることを告げると、1曲目に演奏されたのは「今この曲が1曲目!?」と観客を驚かせた「Tank-top Festival 2019」。これはもりもとなりの先制攻撃と言えるだろうと思うのは、ヤバTはセトリを全公演ガラッと変えるバンドであるが故に前日のこの会場でのライブのセトリもバンドの公式アカウントが公開しているのだが、この曲は演奏されていなかった。そんな曲を1曲目にしてきたということは、前日に来ていた人ですらこの日のライブがどんなセトリになるかわからなくなるということである。それはヤバTのツアーに1回でも行くと、何回でも行きたくなってしまうという理由の一つだ。ちなみに自分は当初は2回だけ行くはずだった前回のツアーのZepp Tokyoでの5days10公演を、1回行ったら行けるだけ行きたくなって結果的にリセールチケットを取って、平日ばかりの中でも5公演行った。それはライブそのものが素晴らしいものだったということは言うまでもない。
すでに前回のツアーでも「こうえんデビュー」の中から唯一演奏されていただけに、バンド自体のあまりのスピード感ゆえにいつがどのツアーかわからなくなってしまうような「Bluetooth Love」では観客がMVのダンスを踊り(ライブでも何回も聴いているし、MVも何回も見ているのに未だに全く振り付けを覚えられない)、親子のタンクトップくんが公園を散歩しているというステージ背面に配された今回のツアーのフラッグからこの曲ではスクリーンが登場し、タンクトップくんがMVに登場する、明らかにmihimaru GTをモチーフにしたであろう架空のユニット「ぷりてぃ〜パーティ」とメンバーの挙動を再現した映像が流れる。
ヤバTのライブは基本的には演出は最低限に、あくまで主役はバンドの鳴らす音であるというスタンスを貫いてきたバンドであるし、それは基本的にはライブハウスでばかりライブをしてきたバンドならではの矜持でもあるのだが、こうした部分はホールならではのものであると思う。
そのホールならではというのはバンドの鳴らす音にも確かに現れている。ライブハウスとはまた違う、反響の大きいホールならではのサウンド。はじめてのホールワンマンであるが故に、そこに合わせた音作りをするのはバンドにとっても新しい挑戦だったはずだが、そうした響きの違いも含めて今までとは違う聞こえ方や感触を感じさせてくれる。ライブハウスでも席があることが多くなっているご時世であるし、実際にヤバTもZepp Tokyoをそうしたやり方で行ったが、まさかやるとは思わなかった「ヤバTのホールワンマン」を見れているという事実を実感させてくれる。
もりもとの曲紹介による「ウェイウェイ大学生」ではしばたのボーカル部分でこやまが歌うしばたと向かい合うような位置に移動し、その際に客席の方を振り向く表情が面白くて仕方がないし、ずっと自身の目の前に立たれていたしばたは
「邪魔や!」
と言ってさらに笑わせてくれるのだが、間奏部分で観客を一斉に座らせるという、かつてのフェスなどではかなりの時間を要していたパフォーマンスも椅子ありのホールであるが故に観客がすぐに座れる「メロコアバンドのアルバムの3曲目くらいによく収録されている感じの曲」という初期曲が続く流れは今ではワンマンだからこそと言えるが、こうした流れで聴くことによって、1stアルバムリリース時でのヤバTがストレートなメロコアバンドであるということを今になって改めて実感させてくれる。
「ベースボーカルの声ばり高い」
のフレーズはしばたの声が当時よりさらに高くなっているが故にさらに強い説得力を放っているというか、ヤバTがよりそういうバンドになってきていることを感じさせてくれる。
前述のようにライブハウスでのツアー時でもヤバTは自分たちの演奏をライブのメインとしながらも、ライブだからこそのニヤリとする演出を導入してくれていたが、この日も「Tank-top of the world」ではタンクトップくん親子のフラッグに筋肉の照明が映し出されるという、まさに
「Go to rizap!」
な演出が。このご時世故にライザップをはじめとしたジムの経営も非常に厳しくなっているらしいが、こやまが名前を呼ぶことによって、もりもとが1人でコーラスをしたりするなど、この日の主役をフィーチャーしながら、もりもとのドラムを叩くだけではないバンドへの貢献度の高さを強く感じさせる。
前半のメロコア路線を最大限に引き継ぐのは、ステージ背面のスクリーンに「ネットに繋がらなくて困っているタンクトップくん×2」が映し出された「無線LANばり便利」であるが、もうこの段階ですでに自分は感動していた。
それはこうして他県からライブを見に行くという、ちょっと前までは当たり前の行為であってもこんな状況の世の中ではまるで犯罪者かのような捉えられ方をされてしまう中でも、自分がこの瞬間を心から楽しいと思えていることに気づいたからである。それはバンドの鳴らす音がそう感じさせてくれたことだ。
一気に序盤を駆け抜けるというあたりがヤバTのライブのテンポの良さを示しているが、MCではこやまが
「俺らが浜松に来るといつも天気めちゃ悪くて。前は台風直撃して新幹線に閉じ込められたまま誕生日を迎えることになった(笑)
昨日めちゃ天気良かったから今回は大丈夫やって思ったら、今日めちゃ雨降ってた(笑)浜松に歓迎されてないんかな?(笑)」
ともりもとの地元である浜松との天気の相性の悪さを口にすると、もりもとは
「浜松では月曜日だけ給食に白飯を持参しなければいけない日がある」
という浜松で育った人にしかわからないネタを話す。しかしその持参日はもうなくなるらしく、
「やっと意味わからんことに気づいたんちゃう?(笑)」
ともりもとには厳しいこやまであったのだが、
「浜松と言えば?」
ともりもとに振ると、
「バイクじゃないですかね」
と答えるのだが、バイクと聞いたこやまとしばたはバイク川崎バイクのBKBネタを始めてしまい、浜松から遠ざかってしまいながらも、ヤバTのバイクソング「原付 〜法定速度の範囲で〜」で3人が原付に乗って大学に通っていた青春の風景を蘇らせてみせる。確かにもりもとは見た目のイメージ的には3人の中で最もバイクがよく似合う。
さらにもりもとが選んだレア曲「天王寺経由してなんば」ではサビでしばたがベースを弾かずに両腕を交互に上げ下げするという謎のノリ方を観客に提示すると、
「ちゃんとベース弾けや!(笑)」
とこやまに怒られながらも観客もそのノリ方をマネするのだが、次のサビではもりもとが足だけバスドラを踏みながら同じように両腕を交互に上下させ、
「ドラムはいなくなるな!(笑)」
とやはり突っ込まれる。そんな姿を見ているだけで楽し過ぎて思わず笑ってしまう。
初期のレア曲の後には3年前にリリースされたアルバムからのレア曲「小ボケにマジレスするボーイ & ガール」へ。いきなりのサビ始まりで歓喜する観客は激しいツービートのメロコアっぷりに頭を振り乱し、
「黙っとれ!座っとれ!そこで止まっとれ!」
の部分ではここがホールであるということを忘れてしまうかのように飛び跳ねまくる。やはり楽しさはどんな会場であっても変わらない。それはサンリオピューロランドなどでもライブをやってきたヤバTが証明してきたことだ。
ピアノなどの壮大な同期の音が鳴るバラードは「肩have a good day -2018ver.-」であるが、そのJ-POPど真ん中で流れていてもおかしくないメロディに乗せて歌われるのは恋愛でも失恋でもなく肩幅について。野球ファンにとっては中日ドラゴンズの与田剛監督のとんでもない肩幅の広さのテーマソングとしても認知されている曲であるが、このバージョンのアレンジを日本の音楽界の巨匠である亀田誠治が担っているというのも、最後の
「肩幅の広さを気にせずに心の広さを大切にすることに決めました」
の歌詞を敢えて感極まったような表情で歌うこやまの姿も全てが面白い。
「こうえんデビュー」の1曲目に収録されている「くそ現代っ子ごみかす20代」はこのツアーでようやくライブ初披露となる曲であるが、今やタイアップ曲を次々に世に送り出しているヤバTがこうしたタイトルの曲をシングルの1曲目に入れてくるというのが「やりたいことをひたすらにやっているだけ」というバンドのスタンスを示しているし、サビでのしばたの超ハイトーンボーカルはそのやりたいことを突き詰めまくってきた結果として会得した、ヤバTだからこその技術と経験の結晶でもある。ステージ背面のタンクトップくんも色とりどりの照明を受けてカラフルに光る。
するとここでこやまが浜松のゆるキャラである出世大名家康くんとコラボした、この浜松でのライブの限定Tシャツとタオルがめちゃくちゃ在庫が余りまくっていることを明かし、もりもとは
「次から俺のグッズなくなるかも」
とショックを受けていたのだが、その出世大名家康くんの口癖をクイズに出すも、
「浜松は日本一良いとこじゃ。」
という、口癖と言っていいのかわからないレベルの難問をもりもとは答えることはできず。
逆にしばたは「もりもとクイズ」として、
「もりもとが初めて出来た彼女とアコースティックライブで演奏した曲は?」
と問うとこやまが
「チャットモンチーの「染まるよ」」
と即答。
もりもと「いつまでも側にはいれなかった」
しばた「もりもとはタバコ吸うからな(笑)」
と、曲のフレーズに合わせた言葉が出てくるあたり、3人のチャットモンチーへの愛が伝わってくる。そこにはサウンドこそ違えど、スリーピースバンドとして目標や参考にしてきた部分もあるのかもしれない。
声が出せないがゆえに「キッス!」も「入籍!」も観客が歌うことができない「ハッピーウェディング前ソング」はそれでもこやまのイントロのギターの音だけでも泣けてくるくらいにあらゆる場所でこの曲が演奏されたときの記憶や情景が焼き付いているのだが、前回のツアー時と同様に
「こうえんデビューツアー、開催おめでとう!ありがとうー!」
と、このライブへの開催を祝う形で演奏されていた。延期になった高槻と宇治でもその言葉が聞けるようにと心から願っている。
「こうえんデビュー」収録の、「めちゃくちゃ良い曲なのになんでこの曲にこの歌詞やテーマを?」という「肩have a good day」や「君はクプアス」に連なる最新曲は閏年をテーマにした「2月29日」。
こうしたタイプの曲で歌詞の内容と全く見合わないようにこやまがB’zのバラード曲かというくらいにめちゃくちゃ壮大っぽい感じで歌い上げたり、ギターを弾いたりするシュールさが個人的にはツボで仕方ないのだが、しばたもそのこやまを称えるような仕草をするのがまた実に面白く、歌詞の内容と演奏しているメンバーとそれを見ている我々の全てにギャップが発生している。それこそがヤバTのライブとバンドそのものを示していると言っていいかもしれない。こやまがAメロ、もりもとがBメロ、しばたがサビを歌うというマイクリレーっぷりも全員が演奏しながらボーカルを取れるヤバTならではだ。
タイトル通りに「かいけつゾロリ」のテーマ曲として生まれた最新曲「ZORORI ROCK!!!」は「こんなにもパンクなサウンドに幼少期から触れることができるなんて」と今の子供達を羨ましく思ってしまう(自分が子供の頃にアニメのテーマ曲をロックバンドがやるなんてことが全くなかったから)のだが、だからこそヤバTの音楽を幼少期から聴いていてロックバンドを聴くようになったという人もこれからたくさん現れるはずだし、背面のタンクトップくんに影などを駆使してゾロリのキャラクターたちを浮かび上がらせるというささやかながらも曲にこれ以上ないくらいに合わせた演出ができるヤバTチームの凄さたるや。
「なんかもりもとは「染まるよ」が好きだからか、セトリを決めると切ない曲が多い」
と、こやまとしばたも評していたが、まさかこの流れで「かかとローラー」がワンマンの後半のセトリに組み込まれるとは全く予想していなかった。何回聴いてもニヤリとしてしまう歌詞の面白さと、世界中を見渡してもあの靴をテーマに(そもそも日本以外にあるのか)歌詞を書ける人はこやましかいないだろう。
「地域のコミュニティー大切に
子供を守り安全な暮らしを」
とさりげなく大切なメッセージを込めているあたりも含めて。
さらにヤバTの切なさの極みと言える「ゆとりロック」までもが放たれるというのはもりもとの選曲ならではだと思われるし、「ゆとり」という一言でまとめられて揶揄されてきた世代としての体験はこやまだけではなく、もりもとも、もちろんしばたも共通して持っている悔しさであるということがわかるが、
「野心がない、協調性がない 括られる世代
でもそんな自分がかわいい
ゆとりのストーリーを全部肯定して
全員が足並み揃えてゴール
いつまで続くか いつまでやれるか
分からんものに 全力かけて
俺らが あんたらが かきまわす番や
ゆるりと」
という曲ラストのフレーズはこれ以上ないくらいにゆとりと括られた世代がその世代だからこそのやり方で音楽を鳴らしていく意味を示している。その音や歌詞にこやまの、メンバーの感情が乗っているから聴いていて感動してしまうのだ。こうしてヤバTのワンマンに来ている人たちはそうしたヤバTの持つ熱さをわかっている人たちだ。
その熱さはやはりテンポが音源よりも速くなった「ヤバみ」へと繋がっていくのだが、こやまはここで
「こういう状況じゃなかったらホールツアーをやろうとは思わなかった。俺らはモッシュとかダイブとかでぐちゃぐちゃになってるのが好きやし、それが見たくてライブハウスでやってきたけど、ライブハウスでも距離を取って見ないといけないから、それならホールでもできるなって。やってみたら音の響きも良いし、やって良かったなって思いました」
と、今回ライブハウスではなくてホールを選んだことの意図を改めて口にする。
特にフィジカル的に盛り上がるようなタイプのロックバンドがライブハウスでは収まりきらないくらいの規模や存在になった時に、キャパを広げてホールやアリーナという席がある会場でライブをすることを選ぶのは当然のことでもあるけれど、やはりそれを歓迎しないファンも中にはいる。モッシュやダイブをする楽しみができないなら行かないという人もいる。それはその人なりのライブの楽しみ方であるし、バンドの選択も、それを歓迎できない人の選択も間違いないではない。
でも今は状況的に誰もがそうしたフィジカル的なライブをすることができない。だからこそ重要になるのはそうした楽しみ方がなくても成立する、満足できるライブを作れるかどうかであるが、その最大の要素はやはり曲と演奏である。その点においてはヤバTは間違いなくそれだけで勝負できるバンドであるし、ライブハウスに椅子を置いて指定席で行った前回のツアーでそこに確信を持てているはず。そして何よりもそうしたフィジカル的に楽しむバンドがこうした形でライブをやっているというのは、いつかまた必ずああいう楽しみができる日を取り戻すための戦いでもある。それを我々観客側もルールを守ってライブを楽しむことによって、バンドと一緒に目指していけるのだ。そう思うと、この状況になったことでバンドと顧客(ファン)の絆はより一層深まったとも言える。みんなで同じところを目指して生きているのだから。
そんな真面目なことも言いながらも、しばたと2人で「ラッスンゴレライ」を完コピしているという息の合いっぷりに胸を叩いて「さすがバンド」とアピールし、それはファンを巻き込んだ「ファミリー」バージョンへと展開していく。
さらにはもりもとにこれからの抱負を聞くと、なかなか出てこないもりもとに変わって、
「酒、タバコ、女」
という、両親が見に来ている前で最低な発言をしてみせるこやま。結果的に抱負としては
「浜松駅近くにある商業施設ザザシティ前で開催されている「やらまいかフェスティバル」に出たい」
ということになり、だからこそ「癒着☆NIGHT」の冒頭の、顧客からも毎回「いつまで言ってんねん」と突っ込まれ続けている「新曲」という導入もこの日は
「やらまいか」
へと変化。まさかこういう形で「新曲」じゃなくなるとは思わなかったけれど、こやまが間奏でスッとステージ前に出てきてギターソロを決める姿はより一層華麗になってきている。
すると、
「もりもとの夢が叶った日やから、どうしてもこの曲やりたいって!」
と言って演奏されたのはなんと「サークルバンドに光を」。「Galaxy of the Tank-top」に収録された、ヤバTの持つ熱さが初めてストレートな形で表現された曲。ROCK IN JAPAN FES.で初めてメインステージであるGRASS STAGEに辿り着いた時にも演奏された記念碑的な曲であるが、この曲をこうして演奏している姿を見ると、ヤバTを突き動かしている最大の原動力が今でもかつて味わった悔しさであるということがよくわかる。
「忘れたらあかん気持ちを忘れずに 大事にしまって行けるとこまで」
という歌詞の通りにきっとこれからもヤバTはそれを忘れることなく活動していくのだろうし、音からその感情が溢れ出しているからこそ、客席では涙を拭うような仕草をしている人も見受けられた。それは我々もまた日々いろんな悔しさを抱えたりしながら生きているからであり、ヤバTが抱えてきた悔しさとそれがリンクして、自分のことを歌ってくれているように感じられるからだ。
いよいよライブも最終盤というところで、前回のツアーではこの状況でもライブハウスを回る意思を示すためのツアーのテーマソング的な形で演奏されていた「Give me the Tank-top」はやはりこの曲を演奏する時はより一層バンドの音が鋭く、そして輝きを放っているように聴こえる。それくらいに込めたものがこの曲にはあるのだ。
「脳と体が求めている Tank-top を!
うるさくてくそ速い音楽を もっと浴びるように 着るように 聴く」
「We need (the) Tank-top
やっぱ俺らまだ逃れられませんわ
ほらまた帰っといで 激しく飛び込め
いつだって 優しく包み込む Tank-top again」
というフレーズはこうしてヤバTがこの状況でも止まらずに活動する意思そのものであり、我々がこうしてヤバTのライブに来る意思そのものでもある。そんな意思が会場中に放たれまくっている。だからどこか他の曲とはまた違った空気が感じられるのである。
そんな感動的な流れの中になぜか挟まれるのが「ネコ飼いたい」であるのだが、曲中のタイトルフレーズを合唱するパートでは会場が暗くなり、こやまが観客にスマホライトを振るように呼びかけると実に美しい光の景色が広がるというのはある意味では感動的なものではあるのだが、その合唱パートはアカペラになって観客の合唱が響くという形なのだが、今は当然観客が歌うことはできないだけに、アカペラでメンバー3人だけが歌っているという意味不明なくらいにシュールな光景となり、こやまも
「なんやこれ!」「なんや俺らだけって!」
とセルフツッコミを入れまくることによって客席は思わず笑い声が漏れてしまうくらいに爆笑に包まれる。
そうして笑わせながらも、
「今日ここに来た人も、来るのをやめた人も、なんかモヤモヤしながら来た人も、みんな正解。でもせっかくこうやって来たからには、今だけはいろんなことを全部忘れて、心の底から楽しんで帰って欲しい!」
と言って最後に演奏されたのは「あつまれ!パーティーピーポー」。一緒に歌ったり、叫んだりすることはできない。でもこうして目の前でこの曲が演奏されていて、それに合わせて手を振ったり拳を掲げたりしている間は、この瞬間が他のどんなことよりも楽しくて幸せなものに感じられる。酒飲めへんけど、踊ることはできる。ずっとこうしてこの感覚だけを感じることが出来ていればいいのに、と思うくらいに。
こやまが去り際に
「アンコール、アンコール」
と言って手を叩きながら帰っていったので、そのまま観客たちが手を叩きながら待っていると、メンバーは浜松の法被を纏って少し恥ずかしげに、でも妙に似合ってる姿で登場。
在庫が余りまくっているという自身のプロデュースTシャツに着替えたもりもとはかつて吹奏楽部の発表演奏の際にトランペットとしてこのステージに立っているという、ここが思い出の場所であることを改めて告げるのだが、
「トランペットが下手で、自分以外の部員も全員女子だったから友達もいなかった」
と当時を回想すると、こやまが
「それ凄くない?普通は「友達いないけどトランペットは上手い」か「トランペットは下手だけど友達は多い」のどっちかやろ!(笑)」
とツッコミを入れ、
もりもと「でも楽器の搬送とかは人一倍頑張ってました!ティンパニとかのデカい楽器を率先して運んでた」
こやま「もりもとは良い子やからな。会ったことない人にもみんなに「もりもとは良い子やから」って言ってるもん」
と、もりもとの過去と人物像についてどんどん深く掘り下げていく形に。確かにもりもとはメンバーで1番真っ直ぐな人間だ。こやまとしばたに比べると感情を隠したり、面白いことに忍ばせるということができないような。だからこそ作ったセトリに「ゆとりロック」や「サークルバンドに光を」が入ってくるのだろう。
そんなもりもとが学生時代のリベンジとして、
「特別ゲストを連れて来ました!吹奏楽部の部員たちです!」
と言うとこやまとしばたは少し驚くが、
「すいません、嘘です。友達いないんで」
と、もりもとなりの冗談だったようで、
しばた「確かにさっき友達いないって言ってたもんな!もりもとが伏線張ってた(笑)」
と言いながら、もりもとはトランペットを持ってくる。
そうしてトランペットを持ってステージ前に出てくると、こやまがアコギ、しばたはボーカルのみという形になり、こやまが奏で始めたのは自身が大好きな瑛人の「香水」であり、しばたが普通に歌い始め、
瑛人=しばた
瑛人の横でギター弾いてるじゅんちゃん=こやま
MVのコンテンポラリーダンスを踊る人=もりもと
という瑛人ごっこが始まり、全く曲に入っていかない。しばたが完全に「香水」の歌唱をマスターしていて、歌が止まらないというのもあるが。
そんなやり取りの後にようやく演奏されたのはもともとアルバムに入れるはずの曲が諸般の都合により収録できなくなったことを歌うという、曲が使えなくなったことすらも新たな曲のネタになるというヤバTの創造性が最大限に発揮された「大人の事情」。しばたに合わせてステップを踏みながらトランペットを吹いたもりもとのリベンジも完遂されたが、初日の「げんきもりもり!モーリーファンタジー」ではない曲でもりもとが故郷に錦を飾ることになるとは。
そして頭空っぽにして楽しむための「NO MONEY DANCE」ではタンクトップくんが税が重過ぎて持ち上げられないという可愛らしい映像も使われながら、ここへ来てさらに「楽しい」という気持ちを更新していく。それはこやまとしばたのピースする姿も含めてであるが、この曲のコーラスを我々が歌うことができるのはいつになるのだろうか。その景色が見れるまでは、全てを諦めるわけにはいかないと思える。その時にきっと初めてこの曲は本当の完成形を見せてくれるはずだから。
そして最後には今回の浜松限定グッズでコラボした出世大名家康くんがステージに登場し、当然演奏されたのはその家康くんのかわいさを讃えるかのような「かわE」。しかしながらステージ中央に家康くんがいるためにその後ろでドラムを叩く、この日の主役のはずのもりもとの姿は全く見えなくなる、という点も含めて、たのC越えてたのDだったのだった。
演奏を終えて家康くんがステージから去るとこやまは
「また2時間やってもうた」
と、本来は1時間半の予定だったワンマンが非常に長くなったことを反省していたが、体感時間としては2時間もやったようには感じないくらいに、本当にあっという間だった。
「楽しい時間ほどあっという間に過ぎる」ということをヤバTのライブは体感させてくれるわけだが、こやまは観客への感謝と健康を口にし、もりもとはまた浜松でライブができるようにという意思を口にしてステージを去っていった。
こんなライブ見せられたら、宇治も高槻も行きたくなってしまうし、どうかその頃には関西の人じゃなくてもそのライブに行くことでとやかく言われたり、行くことに罪悪感を感じるようなことがないように、と思いながら終演後BGMとして流れていたJETの「Are You Gonna Be My Girl」を聴いていた。
ホールでのライブというのは会場の作りや椅子、雰囲気なども含めてライブハウスよりもじっくり見るというものになりやすいし、そうした見方ができるからこそ感じられるものもある。
でもヤバTのホールライブが終わった時の、会場の暑さと熱さ、観客の汗の匂いは完全にライブハウスと変わらないものだった。自分たちのライブをそのままやる、やり方を貫くことによって、それがそのままホールでも全く変わらないライブになる。ヤバTはヤバTのまま、ライブハウスバンドのままでホールでライブができるバンドになった。それはこれから先の活動においてもきっと物凄く大きな経験と財産になっていくはず。本当に、たのもC越えてたのもDやんけ。
1.Tank-top Festival 2019
2.Bluetooth Love
3.ウェイウェイ大学生
4.メロコアバンドのアルバムの3曲目くらいによく収録されている感じの曲
5.Tank-top of the world
6.無線LANばり便利
7.原付 〜法定速度の範囲で〜
8.天王寺経由してなんば
9.小ボケにマジレスするボーイ & ガール
10.肩have a good day -2018ver.-
11.くそ現代っ子ごみかす20代
12.ハッピーウェディング前ソング
13.2月29日
14.ZORORI ROCK!!!
15.かかとローラー
16.ゆとりロック
17.ヤバみ
18.癒着☆NIGHT
19.サークルバンドに光を
20.Give me the Tank-top
21.ネコ飼いたい
22.あつまれ!パーティーピーポー
encore
23.大人の事情
24.NO MONEY DANCE
25.かわE
文 ソノダマン