昨年8月。コロナ禍による最初の緊急事態宣言により、まだ関東ではほとんどライブが開催されていなかった頃に東京初期衝動は恵比寿リキッドルームでワンマンライブを開催した。
バンド初のライブ映像作品ともなったそのライブは客席がスタンディング(立ち位置バミりはあり)ということもあり、まだライブが遠くなっていた時期にライブハウスでのライブというものを思い出させてくれたという意味でも、コロナ禍での伝説的なライブと言っていいものであったが、その時期にライブをやらなければいけない理由がバンドにはあった。
ベースのかほの脱退がすでに決まっており、その日がその時の4人でできる最後のワンマンだったのである。(そのライブ後のメンバーの生々しい感覚も映像作品「ぼくたちは何だかすべて忘れてしまうね」に収められている)
その後、バンドはメンバー募集を行い、そこで新ベーシストのあさと出会う。すでに11月に開催されたBAYCAMPにてお披露目的なライブも行っていたが、そのあさかを加えた4人でのまっさらなグルーヴを練り上げていこうというのが今回のツアーである。
とはいえこのツアーも緊急事態宣言の再発令により、このファイナルの東京公演は延期と会場変更があって、この日とこの会場の開催となった。
検温と消毒、さらには来場者フォームへの記入を終えてWWW Xの中に入ると、足元には観客の立ち位置がテープで区切られており、真心ブラザーズや忌野清志郎、クリープハイプなどのメンバーに影響を与えたであろうアーティストの曲が流れる中、BAYCAMPの主催者でもあるP青木による前説。普段のキュウソネコカミなどの時に比べてそこまでは噛んでいなかったが、前説の段階から観客の笑い声がマスクから漏れ聞こえるのはP青木ならではだ。
前説が終わるとおなじみのTommy february6「je t’aime☆je t’aime」がSEとして流れる中でまずは、まれ(ギター)、あさか(ベース)、なお(ドラム)の3人がステージに登場。そのメンバーたちの背負うバンド名とレーベル名が描かれたバックドロップも巨大なものになっており、これから先にさらに大きい会場へ向かうというバンドの意思を感じさせる。
最後にしーなちゃん(ボーカル&ギター)がステージに登場。近年ジムに行って体を鍛えている成果が如実に出ていると思うのは、腕がはっきりと見える衣装になっているからであり、その仕上がった体がよりカリスマ性を感じさせるようになっている。それはTOSHI-LOWがステージに出てきた時のオーラのようなものに近いと言っていいかもしれない。
しーなちゃんもギターに手をすると、あさかのベースとしーなちゃんの歌によって始まったのはこのバンドの始まりを告げた曲である「再生ボタン」。それは今一度このあさかが加入した4人でのバンドの始まりを再生するかのようでもあるし、きっとこの日がこの4人での東京初期衝動を初めて観るという人も多かったはず。なんならライブというもの自体に来るのが本当に久しぶりだという人もいたかもしれない。そんな、僕だけが止まった気がしていたものが、確かに動き出したのだ。
しかしいつもこのバンドのライブに来て最初に驚くのはその爆音っぷりであり、それがライブハウスに来ているからこそ耳にできるものであるということを実感させてくれる。それは8月のリキッドルームの時もそうだったが、こんなご時世であっても、街の中にある小さなライブハウスでパンクロックが鳴らされている。そんな、生きていることと同義であるような実感に包まれて体が震えてしまう。やっぱり、自分はこういうのを求めているんだと。人によっては「うるさい」と思われてしまうかもしれない音楽が好きで仕方がないのだと。
その爆音を早くもバンドの土台として担っているのは新しく加入したあさかのベースである。決して超絶ベーシストというわけではないし、そもそもパンクバンドにそんなベースを弾かれても困るわけだが、すでにメインコーラスも担っているというところも含めて、「あさかの修行ツアー」というツアータイトルであるけれど、ツアー前から修行しまくってきたんだろうなということがわかるし、今そのレベルにいるということはこれから3人と足並みを揃えてさらに成長していけるということである。
「黒髪少女のギブソンのギターは今も響いてる」
と、しーなちゃんが歌詞のギターの種類を「エピフォン」から変えて「BABY DON’T CRY」を歌い出したのはしーなちゃんの隣でギターを弾く黒髪少女のまれのギターがギブソンになっているからであろうし、それもまたライブでのサウンドをさらに轟音へと誘っているのだが、そんな轟音の中から浮かび上がるこの曲のメロディと歌詞は超絶にキャッチーだ。
「君に似合うのは僕くらい」
ってこの曲のメロディに合わせて口にしてしまいたいくらいに。
その東京初期衝動のキャッチーな感覚は女性の怨念すらもそうしたメロディに落とし込んでしまうのがわかるのが「ウチのカレピに手を出すな」。コーラスが多い曲であるがゆえにあさかの今の実力がそのまま反映される曲であるが、もはやこの曲を引っ張っていると言ってもいいレベルである。
東京初期衝動は8月のリキッドルームを始め、昨年春からの自粛期間中も「出来る限りやれるんならライブをやる」というスタンスで活動してきたし、それは今も変わらないが、そんな1年の活動で得たものやバンドとしての意思の共有がメンバー感でできているということがライブを見ているとよくわかる。つまりはコロナ禍であっても停滞しないどころか、その伸び代しかなかったバンドの器をしっかり伸ばしてきた1年間だったのだ。
そんな中でギターを下ろしたしーなちゃんが客席のサブカル男子を指さすようにしてハンドマイクで歌い、超パンクバージョンの「バニラの求人」の大合唱が起きるのが「高円寺ブス集合」であるが、当然観客は声を出すことができないので歌うことはできないのだが、もし歌うことができたとしても観客の声は全く聞こえないであろうというくらいのサウンドの轟音っぷりとメンバーの絶叫っぷり。間違いなく日本で1番うるさい「バニラの求人」である。
そのまましーなちゃんがステージを左右に動き回りながら歌い、なんならサビで客席を煽るようにさえするのが「黒ギャルのケツは煮卵に似てる」であるが、むしろサビよりも
「東京初期衝動大好き!」
と「峯田和伸」から歌詞を変えて叫んだ部分こそが観客が最も一緒に歌いたいところだったであろう。ステージを歩き回りながら歌うしーなちゃんの表情もこれまで見てきた中で1番楽しそうだ。
そんなお祭り的な狂乱さの空気を少し変えるのが昨年2020にリリースされたEP「LOVE&POP」収録の「愛のむきだし」。パンクとは違う、しっかりと構築されたギターのリフが印象的な曲であるが、このEPのレコーディングをしーなちゃんは「めちゃくちゃキツかった」とTwitterで言っていた。今まではできなかったことややろうとしなかったことに挑んだからだろう。
でもこの日、メンバーの演奏力やバンドのグルーヴが向上したことによって、今まで以上にこの曲をモノにしているという感覚があった。それによって曲の真価が引き出されており、「改めてこうして聴くと凄く良い曲だな」と思えた。そうしてこの曲をモノに出来たことはバンドのこれからの、パンクに止まらないさらなる広がりにつながっていくはずだ。
しーなちゃんの弾き語りのように始まってからバンドに突入していく様が銀杏BOYZ「人間」「光」にも通じる、メンバーの音が重なることによってバンドになるというカタルシスをロマンチックなメロディと歌詞との融合で感じさせてくれる「中央線」、
「ここでつまづくなよ、東京初期衝動!」
と、新たなスタートを切ったバンド自身に自らエールを送り、この4人でこれからさらに駆け抜けていく意思を感じさせてくれる「STAND BY ME」と、フェスとかの持ち時間だったらこれで終わってもおかしくないくらいに前半からバンドのキラーチューンを次々に連発していく。
そうした構成に出来る様になったのは、かねてから制作していることが伝えられていた新曲の存在があるからだ。この日会場内の壁にしーなちゃんによる手書きの、普段からこうして書いているんだろうなということがわかる歌詞が貼られていた(まだタイトルは書かれていなかった)のだが、最初に演奏された曲はストレートなエイトビートのロックンロール。決してパンクとまではいかないそのサウンドが新たなこのバンドのスタンダードなスタイルとなりそうな予感がしている。
その新曲に続く「流星」ではWWW Xの天井にぶら下がるミラーボールが美しく光り輝く。歌詞のロマンチックさも含めてピッタリな演出であるし、しーなちゃんの歌唱もメンバーのコーラスも勢いよくというよりは丁寧というのがライブにおけるこの曲の印象だ。
するとさらなる新曲が。この曲が「愛のむきだし」を経たバンドが作った曲というのが一聴しただけでわかるような構築感を感じさせてくれる曲で、どうしたってバンドにとって新章突入という感じを受ける。バンドの進化と経験がちゃんと曲として音として表れているというか。
「君で埋まる写真フォルダ 足りない君とギガファイル」
という現代の写真を撮るというフォーマットを活写したかのような歌詞も実に見事であり、その歌詞を会場でいち早く見れたことは嬉しい。
次に演奏された爆裂パンク曲「兆楽」はとてもじゃないが歌詞を活字にして載せることができないようなタイプの曲であるが、この新曲を聴いて歌詞を読んでいるとしーなちゃんの詩人としての才覚を確かに感じることができる。
そして薄暗いステージと会場を真っ白な光が後方から映し出す様が神聖な瞬間として目に飛び込んでくるのは「ロックン・ロール」。これでもかというくらいに轟音ギターがかき鳴らされる中で、
「ロックンロールは鳴り止まないって
誰かが言ってた 誰かが言ってた」
と、同じようにベーシストが脱退してもバンドを続ける、ロックンロールを鳴り止ませていない神聖かまってちゃんの名曲タイトルを引用しながら、
「ロックンロールを鳴らしているとき
きみを待ってる ここで待ってる いつかきっと」
というサビのフレーズの通りに、東京初期衝動はどんな世の中の状況でもライブハウスでロックンロールを鳴らしている。そうやって、ロックンロールを必要としている君(我々)のことを待っているのだ。で、世の中にはきっとロックンロールを必要としているけれど、まだ出会ってない人がもっとたくさんいる。その人たちがここに来る日まで東京初期衝動はロックンロールを鳴らし続ける。それはつまり、やっぱりロックンロールは鳴り止まないということだ。
本編ここまでで、全然1時間も経っていない。1曲が短いし曲と曲の間隔がほとんどないというのもあるが、このバンドには基本的にMCがないから。アー写がメンバーのプリクラだったりと、自分も初めてライブを見る前はキャピキャピしていそうなイメージを持っていたし、そうした感じがライブやMCにも出ているのかもしれないと思っていたが、実際はそんなことは全くない、ひたすらにストイック極まりないライブをするバンドだ。
だからこそ中弛みすることは全くないし、集中力を持続した状態のままでライブが終わる。何よりもバンド自身がライブに必要なのは音楽だけ、曲だけだということをわかっているのだろう。
するとメンバーの前に再びP青木がステージに登場。アンコールをやらないわけではないというが、告知があるということでメンバーの代わりに5月にEPがリリースされること、そのリリースに伴う全国ツアーが開催されることを発表するのだが、全公演ライブタイトルが違うということが昔の銀杏BOYZのツアーを彷彿とさせる。初日が千葉LOOKというのも嬉しいが、ライブタイトルに「アル中」というタイトルが入っていたことから、千葉はPK Shampooとの対バンであることは間違いないだろう。
P青木による告知が終わると、メンバーがアンコールのために登場。再び女子の怨念を性急かつ轟音パンクに乗せて叫ぶ「Because あいらぶゆー」から、今一度バンドにとっての「初期衝動」を歌うバンドタイトル曲の「東京初期衝動」でメンバーも叫びまくるのだが、しーなちゃんに乗せられるようにして、あさかが叫びまくっていたのが完全にバンドに溶けこんでいた、このバンドの持つ初期衝動の一部になっていたように思えた。
てっきりその「東京初期衝動」で終わりかと思っていたのだが、まだメンバーは楽器を下ろさず、さらに披露されたのはまたしても新曲。今回の新曲群の中で唯一タイトルが公開されている「さまらぶ♡」で、「グイグイ」と夏の野外でビールを飲むかのようなコールは明らかに夏フェスの野外ステージで演奏するのを想定しているのだろう。もし2020年も夏フェスが普通に開催されていたら、このバンドをどこの夏フェスのステージで見れたんだろうかと思ってしまうが、サビでのコーラスはアイドルポップ的な要素も感じさせる。これまたこれまでの曲にはなかった新境地であるし、パンクさというよりも東京初期衝動ならではの形でポップさを強く引き出すものになっている。ツアーもあるけれど、今年の夏は野外フェスでこのバンドのライブを見て、この曲を聴きたい。そう思わせるには充分過ぎるくらいに、夏の到来に期待したくなるような曲だった。
演奏が終わってメンバーがステージを去ると、それでもなおアンコールを求める拍手は鳴り止まず。流石にもうないだろうと思っていたのだが、しーなちゃんはまたしてもステージへ。普段は終演BGMとして流れる森田童子「ぼくたちの失敗」を自身で歌い、観客にも歌わせようとするのだが当然観客は歌うことはできず、しーなちゃんが少し歌って終わりに。
しかし最後にしーなちゃんが客席に投げ込んだピックは、これからこのバンドがもっと遠いところまで行くんだろうなと思うくらいに遠くまで飛んでいた。
前までにライブで見た時、しーなちゃんは何か我々には見えないものとステージ上で闘っているように見えた。その闘っていたものはプレッシャーだったのか、舐められたくないという思いだったのか、メンバーが変わらざるを得ない状況だったのか。それは自分にはわからない。
けれどもこの日のしーなちゃんの歌う姿、ステージに立っている姿からは、そうした戦いから解放されているように見えた。この4人でこうしてバンドをやっていて、ライブをやっていることを心から楽しんでいるように見えた。
だからこそ新曲が今までよりもさらに「その先」を感じさせてくれたのだろうけれど、その新曲もそうだが、それよりもさらにバンドが新境地に達したと思ったのが、そのしーなちゃんの解放された姿だった。
「どこまで行けるか どこまでやれるのか」
と「STAND BY ME」で押し寄せる期待とプレッシャーの両方を感じていることを歌っていたが、今の東京初期衝動は
「夜空のむこうまで 君だけのものさ」
というくらいに、どこまでも飛んでいけそうな気がしている。
1.再生ボタン
2.BABY DON’T CRY
3.ウチのカレピに手を出すな
4.高円寺ブス集合
5.黒ギャルのケツは煮卵に似てる
6.愛のむきだし
7.中央線
8.STAND BY ME
9.新曲
10.流星
11.新曲
12.兆楽
13.ロックン・ロール
encore
14.Because あいらぶゆー
15.東京初期衝動
16.さまらぶ♡ (新曲)
文 ソノダマン