今月中旬には横浜アリーナでも2daysを行った[Alexandros]のアリーナライブ4daysは日本武道館へと場所を移す。この日はその武道館での2daysの初日であるが、かつて[Champagne]から今のバンド名に変わった初の日本武道館でのワンマンからすでに7年が経過していることに驚く。あの武道館がピークだったのではなく、あれからさらに大きいステージに何度も立ってきたのを見てきただけに、今またこうして武道館で見れるのが感慨深い。
検温と消毒を終えて武道館の中に入ると、やはり全席指定で、1席ずつ空けるというキャパ制限の形に。横浜アリーナの時もそうだったが、このキャパでこの人数で[Alexandros]のライブが見れるというのは実に貴重なものである。
開演前にはステージ背面の巨大スクリーンに物販紹介の可愛らしい動画が映し出されながら、そこには「ALEATORIC ARENA 4DAYS」というタイトルも映し出されている。武道館は規模の割には客席同士もアリーナから2階席まで、あるいはステージまでも距離が近く感じる会場であるため、スクリーンが横浜アリーナの時よりも大きく感じる。
18時になると場内にアナウンスが流れ、スクリーンには物販を紹介映像でのメンバーたちの可愛らしいキャラクターによる、声が出せない観客のための文字による開演前の煽りVTRが流れ、場内が暗転するにつれてその映像は客席を俯瞰から捉えた映像に切り替わり、座席に観客が座っていくと画面にガラスのヒビが入るようにして映像が乱れていき、その間にメンバーが登場してセッション的な演奏へ…というオープニングは変わらないので、その辺りの詳細については横浜アリーナ2日目のレポも見ていただきたい。
(http://rocknrollisnotdead.jp/blog-entry-943.html?sp)
川上洋平(ボーカル&ギター)はメガネをかけてジャケット着用というフォーマルな出で立ちであるが、磯部寛之(ベース)は半袖Tシャツなのに白井眞輝(ギター)はモコモコの完全冬使用のパーカー着用という真逆のスタイルなのは果たして暑いのか寒いのかがよくわからなくなるのだが、セッション的なオープニングの演奏をしながら、そのそれぞれの演奏している姿とともに、ROSE(キーボード)も含めたステージ上のメンバーの名前も映し出されているというメンバー紹介的な意味も兼ねており、それぞれの名前が映し出されるたびに大きな拍手が起こる。
セッションも終盤になるとスクリーンにはこのツアーのライブハウス編のタイトル(でありベストアルバムのタイトル)にも使われていた巨大なトマトが映し出され、それが美しい満月に変化していき、「ムーンソング」から立ち上がっていくというスタートは変わらないというか、そもそもこうしたその曲専用の映像を作っている段階で変えることができないのはわかるのだが、序盤は少し川上の声がキツそうな感じもしていた。
しかしその川上はスピーカーが振動する映像に合わせてリアド(ドラム)のバスドラがダンスミュージックのように強く鳴り響くアレンジの「Run Away」(それでも横浜アリーナの時よりはダンスよりもロックだと感じるのはやはり会場がロックの聖地である武道館だからか)でハンドマイクになって上手側に伸びた花道の方へ進み、通常のメンバーの立ち位置では見切れてしまいそうな席の観客の目の前まで行って歌う。そうした部分は武道館の造りならではの近さを感じられるところであるが、最後のサビの歌い出しで声が出せないというのをわかっていて客席にマイクを向けるというあたりは昂っていた部分もありながら、この曲のファルセットで歌うサビがキツかったというのもあるのかもしれない。
スクリーンには「Fish Tacos Deli」という架空の店舗の看板が光る「Fish Tacos Party」でもハンドマイクで歌う川上はリアドのドラムのライザーの上を這うようにしながらリアドの方を向いて歌ったり、アウトロでは磯部と向き合ってリズムに合わせてステップを踏んで踊ったりするというノリノリっぷり。
「久しぶりの武道館、声出せなかったりだいぶ今までと違うけど、楽しめますか!?」
と川上は観客に問いかけていたが、明らかにこの時点から本人が1番楽しんでいるというのが実によくわかる。
「Fish Tacos Deli」の文字が少しずつ崩れていき、その崩れていく様子を音で表すかのような演奏が展開されると、その文字は「Beast」へと変貌し、スクリーンにはこの曲の獰猛なサウンドを演奏するメンバーの姿とともに歌詞が映し出されていくのだが、川上が再び上手側の花道へ行って歌っていた2サビでスクリーンに映し出されている歌詞と歌っている歌詞が思いっきり違っていた。川上は結構歌詞を間違える(横浜アリーナ2日目もアンコールで間違えており、それを磯部に指摘されていた)タイプではあるが、ここまでわかりやすく間違えるというのはそうそうないだけに、歌詞が飛ぶぐらいにテンションが上がっていたのだろう。何故ならばこんなに歌うのが難しい曲を歌っているのに、むしろオープニング時より明らかに声がしっかりと出るようになっているからだ。
「それでも欲望は一杯 でもなるべく争い反対
握手はなくたっていいけど 手と手を取り合いたい」
の部分では「握手」のフレーズでリアドと、「手と手を取り合いたい」のフレーズでは白井と手を取り合おうとするのだが、
「反対の人追い出して
かたや賛成の人引っ張って
わからないでもないかもね
人の性丸出せばそんなもんだし」
「どっちも間違いで正しいよ」
というフレーズはSNSなどで考えが違う人を叩きまくる(それは音楽、ライブ、フェスを愛するものとして苦しさとして味わった)コロナ禍の人間同士の諍いを見事に言語化、歌詞化したものである。
すると電脳世界のような映像がスクリーンに流れてから、川上がしゃがんでエフェクターを操作しながら歌い、演奏されたのはこの手法によってこちらもまたよりダンサブルなアレンジになった「Stimulator」であるが、「基本的に流れは同じ」とは書いたが、そこは2daysのライブなどでは必ずと言っていいくらいにやる曲を変えてくるバンドであるので、この部分も横浜アリーナの2日目は「Girl A」から変更されているものである。
それは早くも川上がジャケットを脱ぎ、さらにはメガネも外してより戦闘モードになった「Kill Me If You Can」もそうであるのだが、抑えるようにして始まってからサビで一気に爆発するというイメージのこの曲が、Aメロから完全に抑えるどころではないリズムの速さになっている。それはリアドの手数の多さによるものであるが、それによってより一層この曲の「やれるもんならやってみろ」というメッセージが強く、ロックに響くものになっているし、こうしてセトリを入れ替えるのは、1公演に全てをかけるファンもいることはもちろん、例えばこのアリーナ4daysに全て行くという熱狂的なファンがいることもわかっており、そんな人たちを驚かせたいというファンサービスもありながらも、全く同じセトリにしないことで自分たちもマンネリしないように、自分で自分に喝を入れているというか、プレッシャーを与えている部分もあるのだろうと思う。このバンドが「こなす」ようなライブをするのを自分は1度も見たことはないけれど。
アンビエント的とも言えるような、曲と曲を繋ぐ演奏から雨が降りだしたかのような映像とともに始まる「Thunder」はサビでは薄暗い中で照明が明滅することによって、まさに雷が鳴っているかのような演出となっていたのだが、これは横浜アリーナほど広くなく、ライブハウスほど狭くもないという武道館だからこそ映える演出と言えるだろう。川上のボーカルはファルセット部分をテンションで押し切るようでもあり、どこかこの曲の新たな歌唱法を試しながら歌っているかのようでもあり。
その雨が降っているかのような映像がそのまま湖の中に雨が降り注ぐようにして我々を水中に誘う「Swan」はリアドが四つ打ちのバスドラとハイハットを刻み、磯部がシェイカーを振り、川上はキーを落としたボーカルで歌うという、横浜アリーナの時に自分が「水深バージョン」と感じた新しいアレンジ。近くに感じる会場だからか、それはより深く感じられるけれど、このアレンジでの演奏は今回のツアーだけだったりするのだろうか。だとするならば是非映像化していただきたいところである。
すると川上がアコギを持って「city」や「spy」、さらには本人出演の「洗濯」をテーマにしたCM曲の新曲も少し口ずさんで拍手を巻き起こすと、
「みんなのその拍手をちゃんと聴きたいから」
と言ってイヤモニを外して、スクリーンには和訳歌詞が映し出される「Travel」を歌い出すと客席からはイヤモニを外した川上にしっかり聞かせようとばかりに手拍子が起こるのだが、川上自身が曲を止めて
「やっぱりこの曲に手拍子いらない(笑)
お前が言ったんだろって感じですけど、みんなのその振動を耳で感じたい(笑)」
と言って手拍子を止めさせるのだが、スクリーンには歌詞が映し出されているだけに、スタッフからしたらなんでこの曲の途中で止めるんだ、とさぞや焦ったことであろう。
曲を繋ぎまくってきたが故にここに来て最初のMC。川上が磯部が半袖Tシャツなのがわかるくらいに自身もジャケットをすぐに脱いだのに対し、白井の出で立ちを
「スノボ帰りですか?」
と突っ込む。白井も実は暑かったらしいが、全く脱ごうとせず、結果的にそのまま最後までやり切ったのはある意味凄いと言える。
そしてこの日の前日に誕生日を迎えたことによって祝われたリアドは[Champagne]が[Alexandros]に変わった瞬間である初武道館ライブを客席で見ていただけに、こうして今はメンバーとしてステージに立っているのが信じられないという。
その初武道館時にすでにバンドをサポートしていたROSEはしかし、改名発表の瞬間は袖にいたためにバンド名を聴き取れなかったというが、そんなROSEのMCはどこかマイナスイオンが出ており、武道館でのMCとは思えないくらいにマイペースというのは磯部の弁であるが、人によっては「魔物がいる」ということもある武道館の圧のようなものをこのバンドは全く感じていない。もうこれで3回目の武道館ライブという経験もあるけれど、このバンドの持つオーラがそうした武道館の圧を抑え込んでいるかのようだ。川上としてはこの日の雨予報を吹き飛ばしたのが信じられない奇跡ということであるが。
そんなMCから、このツアーではおなじみの、浅井健一になり切ったかのような白井が
「武道館に何の関係もない曲だけど」
とBlanky Jet City「赤いタンバリン」を歌うのだが、その際にROSEがまさに赤いタンバリンを振っているというのが、
「あの娘のことが 好きなのは
赤いタンバリンを上手に撃つから」
という歌詞そのもののようですらある。そして白井はライブハウス編よりもはるかに歌が上手くなっているし、歌う様も堂々としてきている。これはこれから先に白井歌唱の第二弾があったりするのだろうか。
今回のツアーの中でもレア度は随一と言える「city」のカップリング曲である「You Drive Me Crazy Girl But I Don’t Like You」ではしかし、やはり観客はサビではメロディ、リズム、磯部と白井のコーラスに合わせて腕を上げたりするというあたりはこの曲まで完璧にチェックしている人が多い証拠である。
さらには
「武道館のかわい子ちゃんに捧げます!」
と言ってアリーナ席の若い女性の顔がスクリーンにアップで映る(これはスタッフの洞察力によるものだ)「Dracula La」では磯部が歌えないのはわかっていても、ステージの客席に1番近い部分にマイクスタンドを移動させ、自身も下手に伸びる花道を走って行って、その先にあるマイクスタンドに向かってコーラスをする。白井はその間に上手側の、見切れていそうな席に座る人たちの方をじっくり見ながら演奏し、さらには磯部と入れ替わるように上手側の花道へ歩いて行って、そこでコーラスをしながらギターを弾く。
つまりコーラス部分では声が出せない我々の代わりにメンバーが大きな声でコーラスを務めるのだが、何回も書いてきたように、やはりこの曲のコーラスは誰も観客が声を出していなくても聴こえてきているような感覚になる。武道館ならではの声が上から降ってくるというような。声はなくても脳内に焼き付いているあの大合唱がそんなことを思わせてくれる中で、
「不安を取り除いてくれ、リアド!」
と歌うと、リアドがバスドラを連打して手数を増やして、音で会話するかのように答える。やはりこの曲をライブで聴くのはどんな状況であっても本当に楽しい。完全にあなた([Alexandros]の虜になっているのである)
川上が再度ハンドマイクになり、下手の花道に進んでその位置に近い観客たちに手を振ったりする「月色ホライズン」の爽やかなサウンドに乗って歌われる
「飛行機の窓から世界を眺めた
昨日が明日と背中合わせて」
というフレーズを聞いていると、この日そうして飛行機の窓から世界を眺めながらこの会場まで来た人もたくさんいるんだろうなと思っていた。
間奏ではこの日もメンバー紹介を兼ねたソロ回しが行われるのだが、川上がそれぞれを紹介する際にまずはリアドを
「昨日誕生日を迎えた、[Alexandros]では1番若いけど、1番しっかりしている男」
と称してドラムソロを鳴らし、磯部を
「大学の時に出会ってからもう20年くらい。腐れ縁です!」
と紹介すると、磯部は
「あー、そうだ。今でも本当に楽しいよ。いつもありがとう」
と爽やかに返す。そこにはきっとこの2人の間だけにある強い信頼感があるんだろうな、と思わせるには充分な言葉だった。
「高校生の頃からの親友」
と白井は紹介を受けると、いつになくブルージーなギターソロで応えるのだが、やはりそれは途中からメタル〜ハードロックな速弾きに変わり、バンド全体がそれに合わせた演奏になるというのもルーツにはMETALLICAなどがあるこの男ならではである。
サポートメンバーとはいえROSEのこともしっかり紹介するのだが、その際の川上の紹介が
「タンバリン奏者」
となっていても、やはりソロの演奏自体はキーボードを弾くと、最後に自身を紹介した川上は、ギターを持っていない曲だからということもあり、バンドの演奏に合わせてバシッとポーズを決める。それだけで溢れ出るオーラとカリスマは、やはりこのバンドがここまで凄いバンドとなったのは、この男の存在によるものが本当に大きいのだと思う。見た目のカッコ良さももちろん、男が惚れるカッコ良さをずっと感じているから、こうして毎回ライブに来ているのだ。
そうしたメンバー紹介を経て「月色ホライズン」のサビへと戻ると、「あ、そういえばこの曲の途中だったんだ」と我に返るのは横浜アリーナの時と同様だが、バンドのアウトロのキーが下がっていくというアレンジでそのままROSEの美しいピアノに繋がると、アリーナ席の観客の姿が映し出される「Philosophy」へ。その姿は本来ならばNHKの「18祭」のために作られた合唱曲であるこの曲を歌う姿を捉えるためのものだったはずだが、今はこの曲のコーラスをみんなで歌うことはできない。そしてこの曲からはまだ「Dracula La」のような、脳内に大合唱が聞こえてこないのは、まだこの会場でこの曲の合唱を聴いたことがないからだ。いつかまた立つであろうこの会場でのライブの時には、その合唱を焼き付けられますように。
その「Philosophy」のサビのメロディをリプライズ的にROSEがキーボードで弾くと、そのフレーズが徐々に変化していく。それは「This Is Teenage」のものであるだけに、もはやROSEが完全にこのバンドにはなくてはならない存在であることがわかるのだが、そのROSEを含め、リアドも磯部と白井とともにこの曲のコーラスの
「Come on!」
のフレーズを歌うのだが、スクリーンに映し出されたメンバーの表情は本当に笑顔でしかない。「This Is Teenage」というタイトルのとおりに、この曲を演奏している時のメンバーの精神は出会った頃のティーンエイジャーの頃のままなのかもしれないし、それがリアドとROSEにも伝わっていて、2人も同じようにティーンエイジャーの頃にバンドを始めたような笑顔を見せてくれるのかもしれない。そんな表情を見ると、これからも毎回ライブでこの曲を聴きたくなる。
そしてジャカジャカと刻むギターのイントロから「Starrrrrrr」へ。リズムに合わせた観客の手拍子が武道館いっぱいに響くが、やはりこの場所で聴くこの曲は格別だ。それは過去2回の武道館でのライブでこの曲が演奏された光景をまだ覚えているからであるが、その時にも確かそうだったんじゃないか、というくらいにステージから星空がきらめくような照明が光るのだが、過去2回とは違うのは最後のサビやアウトロのコーラスなどを我々が歌うことができないということ。それでも、やはり脳内には聴こえている。あの時のこの曲での大合唱が残っている。そう思えるような曲だからこそ、数え切れないくらいにライブで聴いても全く飽きることはない。むしろ聴くたびに、性懲りもなく立ち上がって、この続きを生き抜いていきたいと思う。
そうした演出らしい演出がないことによって「風になって」はサウンドとしてもそうした曲であるが、ロックバンドの演奏だけというこのバンドのライブの最も軸の部分にあるストレートなカッコ良さを感じさせてくれる。この中盤以降の流れは横浜アリーナで見た時と同じものであるが、全く飽きることはない。何度見ても、何度聴いてもこちらの気持ちを昂らせてくれるし、ステージにのみ視線が集中していく。
曲と曲との繋ぎ的な演奏をしながらも、ここでステージにはROSEのバンドメイトであるTHE LED SNAILのMULLONがサポートギターとして登場して、川上はハンドマイクに。それは「閃光」を演奏する時だけの編成であるのだが、川上はハンドマイクになったことによって歌いやすくなったというのが横浜アリーナの時の印象であったが、もはや歌いやすくなったどころではないくらいに完全にこの曲の持つ力を音源、さらには映画のエンディング以上に引き出せるように、わずか2週間足らずでさらに進化を果たした。それが日本武道館という、この曲がど真ん中で鳴らされるべき会場で鳴らされている。3回目の武道館の最大のハイライトであり、きっとこれから先にこの日のことを思い返すことがあった時に真っ先に浮かぶのはきっとこの曲の瞬間だろう。「武道館で最初に鳴らされた「閃光」」を見ることができた瞬間なのだから。
すると川上はそのままハンドマイクで、デジタルなサウンドが武道館内に響く。横浜アリーナの時はこのタイミングで演奏されたのは川上と白井のギターリフがアリーナに轟いた「Mosquito Bite」であり、さすがにそこは変わることはないだろうと思っていた部分がまさかの変更。
そのデジタルなサウンドが鳴る中でフライングVに持ち替えた白井はモコモコのパーカーのフードを被り、立ち位置とは逆サイドの下手花道へと表情一つ変えずに駆け出していき、そこでフライングVを掻き鳴らすのは「Kick & Spin」。磯部もベースをフライングVに持ち替え、川上は客席に向かって広げたバンドのロゴタオルを頭に被ったりしている。そんなこの曲でしか見れない景色は間奏での川上の
「あ!ば!れ!ろ!」
の声に合わせて一気にメタル的に激しさを増した演奏で白井&磯部のフライングVブラザーズが並んでその楽器を見せつけるようにこれでもかと弾きまくる。その横で頭を振りまくっていた川上は自身を寄りで撮影するカメラマンに目線を合わせて指を差したり、サビで客席にカメラを向けさせたりという、さまざまなフェスでもおなじみのロックスターっぷりを見せるが、それは
「笑われたなら
笑い返せば良い
そんな事を「君」は教えてくれた」
というこの曲のメッセージとバンドの姿勢あってこそだ。そんなバンドが「君」と歌うのは目の前にいてくれる人のこと。だからこそ川上は
「[Alexandros]のファンは世界一だと思ってる。愛してます!」
と言った。自分がその中の一人であれていること、こんなにもカッコいいバンドがそう言ってくれていることが本当に嬉しかった。
そんな武道館での一大パーティーも終わりが近づいていることがわかる。それは画面にはまさに今、このライブの光景が、それをそのまま思い出の写真にするような静止画としてスクリーンに映し出される「PARTY IS OVER」が演奏されたからだ。
「Wait a minute
Wait a minute」
というメンバーのコーラス部分の歌詞がスクリーンに映し出される中、その後のサビでは川上が左右に振る腕に合わせて観客も腕を左右に振る。アウトロになるにつれてスモークでステージが見えなくなっていく中でも、それはこのパーティーは終わってしまうさよならの光景にして、またこうして会えるという再会の約束の光景でもあった。
「PARTY IS OVER」
の文字がスクリーンに映し出されてメンバーがステージを去ると、アンコールを求める観客の手拍子が鳴る間にその文字が
「PARTY IS NOT OVER」
に変わり、さらなる強く大きい手拍子を求める映像によって、武道館中を手拍子が包むと、再びメンバーが登場し、この日最も色とりどりの鮮やかな色の照明がメンバーと武道館内部を照らす「あまりにも素敵な夜だから」のムーディーなリズムとサウンドが軽やかに踊るようにして歌う川上だけでなく、観客の体をも揺らしていく。川上はやはりステージが見切れていそうな席の人にまで手を振ったりと、見えづらくても逆にラッキーなんじゃないかというくらいにその位置で見ていた人たちに向き合うのだが、そうした光景も含めて、やはりこの日もあまりにも素敵な夜だった。
MCをほとんど挟まずに曲と曲を繋げるスタイルであるが故に、
「[Alexandros]はあまり喋るのが似合わないから…」
と言いながらも、やはり喋りたいのであろう川上は
「楽観的なことはあんまり言いたくないけど、少しずつ元の形に戻ってきているのを感じる。だから次に皆さんと会う時には、99%、声を出せるんじゃないかと思っているし、そういう希望を持ち続けていたい」
と口にしたが、翌日も来る人からしたらまぁ声を出すのは無理だろうし、すでに発表されている12月のZepp Tokyoでの2daysやCOUNTDOWN JAPANでもそれは変わらないだろう。川上の言葉は文脈的には「次のツアーの際には」という意味だっただろうから、そうしてツッコミを入れるのは野暮だろう。その川上の希望を込めた言葉が、また[Alexandros]のライブでみんなで歌えるまでは頑張れるという目標になる人もたくさんいるのだから。
そして川上がまさに鳥が羽ばたくような腕の仕草をも見せ、磯部はむしろその角度にいる人にしか姿が見えないくらいに自分サイドの下手の見切れ気味の席の人に近づいて音を鳴らす「ワタリドリ」へ。最初に武道館に立った時はまだこの曲はなかった。つまり、[Alexandros]はこの曲がなくても武道館まで来れたということだが、そこから先のさらに良い景色が見える場所までバンドも我々も連れていってくれたのはこの曲だ。メンバーの音も観客の体も飛び跳ねまくる解放感とともに、どこかそんな慈しみも感じていたが、サビこそ川上が全て歌ったものの、最後には川上がコロナ禍になる前と全く同じように
「イェー!」
のコール&レスポンスを観客に投げかけた。もちろん観客の声は聞こえないけれど、川上の言っていたとおりに、この曲でまた観客の声が聞こえる日がすぐそこまで来ている、それを言葉だけでなく音と鳴らす姿で示していたかのようだ。
そして横浜アリーナの時と同様に最後に演奏されたのは珍しく白井のタッピングによって始まる新曲。すでに歌詞がスクリーンに映し出されているというあたりはほぼ完成形と言っていい曲なんだろうと思うけれど、炎だけでなく火花まで噴き上がるという演出によるこのアリーナツアーでの最後に新曲を持ってくるというのがこの曲への自信と、[Alexandros]が前を、上だけを見て進み続けるという意志が伝わってくる。
「泣きたくなるほどなるほどに」
というサビのメロディは今でも強く頭に残り続けて離れそうにないけれど、それと同じくらいに残るのが
「今すぐにRock The World」
という締めの歌詞。この時代にロックバンドとして世界を塗り替えようとしている。このバンドのそんな気概を本当に愛しているが、川上は最後にギターを掲げて
「愛してるぜ、武道館!」
と言った。本当にそう思っているからこそ、これから先何回でもこうやってここで見たい。日の丸自体には何の感情も持っていないけれど、その真下でこのバンドがこんなに素晴らしいライブを見せてくれているということだけは誇りに思っている。最後に暗くなったステージを控えめに去っていく白井の姿を見ていて、より強くそう思った。
前述のように、12月にはZepp Tokyoでの最後のライブとなる2daysワンマンが控えている。何度となくこのバンドのライブを見てきた場所だ。個人的に思い入れが強すぎるライブハウスも今年でなくなってしまう。その会場で最後に見るライブがこのバンドのワンマンだったとしたら、それはこの上ないあの場所への別れの花道になるし、きっとまた一生忘れられない[Alexandros]のライブになる。この武道館も、これからもそういう[Alexandros]の一生忘れられないライブが見れる場所であり続けますように。
1.ムーンソング
2.Run Away
3.Fish Tacos Party
4.Beast
5.Stimulator
6.Kill Me If You Can
7.Thunder
8.Swan
9.Travel
10.赤いタンバリン
11.You Drive Me Crazy Girl But I Don’t Like You
12.Dracula La
13.月色ホライズン
14.Philosophy
15.This Is Teenage
16.Starrrrrrr
17.風になって
18.閃光
19.Kick & Spin
20.PARTY IS OVER
encore
21.あまりにも素敵な夜だから
22.ワタリドリ
23.新曲
文 ソノダマン