SHELTER 30th Anniversary FINALE!! ZeppがSHELTERになります。 KEYTALK / ハルカミライ Zepp Haneda 2021.11.20 SHELTER 30th Anniversary
下北沢の老舗ライブハウスのSHELTERが30周年を迎えたことにより、04 Limited Sazabysや My Hair is Badという倍率何百倍なんだというバンドがSHELTERでワンマンを行う周年ライブシリーズも行われたが、その周年シリーズを締め括るのが、SHELTERではなくてZepp Hanedaにて開催される、KEYTALKとハルカミライの2マンライブ。なぜZepp、しかも出来たばかりのHanedaで?とも思うけれど、この対バンをSHELTERなんかでやられたらまずチケットが取れないだけに、こうして見たい人全員が見れるという会場で開催してくれるのはありがたい限りである。
検温と消毒を経て場内に入ると、座席にはSHELTER30周年を記念したアーティストのコメントや関係者のインタビューが掲載された冊子が置かれており(コロナ禍以降はこうしたフライヤー類を手に取る機会も減ってしまった)、その30周年の歩みを振り返れるものになっているが、ステージも床がSHELTER同様の市松模様になっており、まさにSHELTERがそのままZeppの規模になったかのようである。
開演前には主催者による挨拶があり、そこにはある意味では下北沢の主であるKOGA RECORDSのKOGA氏もSHELTERを作った1人として紹介される。
・ハルカミライ
the band apartやSPARTA LOCALSというSHELTERに縁のあるバンドたちの曲がBGMとして流れていたのが、新世界リチウムの「喝さい」に変わると、まだ場内が暗転する前に関大地(ギター)と小松謙太(ドラム)、さらには須藤俊(ベース)が登場すると、
「今日は完全にやる!」
と宣言して拍手が起こる中で場内が暗転し、橋本学(ボーカル)もステージに現れ、
「オーイェー!」
と叫ぶと、その瞬間に3人も振りかぶるようにしてバンドの爆音が加わり「君にしか」からスタート。早くも橋本がステージを歩き回りながら歌うと、須藤もぴょんぴょん飛び跳ねながらベースを弾くというハルカミライのライブの空間になり、しかもライブハウスという本拠地であり帰る場所でもあることで、4人の鳴らす音がより一層ダイレクトに響いてくる。もはやこの段階でロックバンドのライブのあまりのカッコ良さを感じさせてくれて、体も心も震えていた。
曲終わりで橋本がブルースハープを吹くと、先月の幕張メッセワンマンの際に披露され、そのライブの来場者にCDが配布された(後に「ドーナツ船 EP」にも収録)「ヨーローホー」で須藤はベースを床に放るようにしてその場をうろつき、関は上手側の壁に背をもたれるようにしてギターを鳴らすのだが、そうしたそれぞれの自由っぷりが青春を感じさせるこの曲の歌詞をより強く際立たせていく。橋本は早くもTシャツを脱いで上半身裸になり、須藤はヘアバンドをステージ脇へ投げるというあまりにも早い戦闘態勢への移行はこのライブへの気合いを感じさせるものである。
ということで、今までなら「君にしか」から繋がる形で演奏されていた「カントリーロード」の間に1曲挟まる形になったのだが、その「カントリーロード」では間奏で関が恒例のアンプの上に立ってのギターソロから大ジャンプをかますのだが、その直後に弦が切れていることと、何故か真後ろにまで来ていることを須藤に指摘されてギターを交換し、その間に橋本と須藤は声だけで
「かじかんだ季節の合間をそっと
春一番は泳いで遠くへ」
のフレーズを歌い、そのハモりっぷりに
橋本「マジ、ハモネプじゃん!」
須藤「これがプロですよ」
と自画自賛。誰からも突っ込まれなかったが、その間に上半身裸になってずっと後ろ向きでポーズを取っていた小松の姿が地味に面白かった。
初めてライブを見る人でも、そんなすでに濃いメンバーによるバンドであることはすぐにわかるのだが、実際に
「俺楽器なんか特に弾けないんだけどさ
心配性なあいつとは6年も経った
どっか抜けてて優し過ぎるあいつと
生意気で2個下のあいつとつるんでる」
という「QUATTRO YOUTH」の歌詞はその3人それぞれのことを歌ったものであり、その際には橋本、関、須藤が広いステージの上でぎゅっと固まるのがその4人の絆を感じさせるのだが、そこから離れた瞬間に関が須藤の後ろまで走り出すと、シールドが首に絡まってそれ以上進めなくなるのが首輪で繋がれた犬のようにすら見えてそれもまた笑えてきてしまう。メンバーがこのライブを本当に楽しみにしてきて、実際にこの上なく楽しんでいるというのが見ていてよくわかる。
小松のビートだけが鳴らされるAメロで関も須藤も飛び跳ねまくる「PEAK’D YELLOW」では橋本が歌いながらも客席真ん中のあたりにいるスーツ姿の男性を見つけて、
「そこのスーツの兄ちゃん、よく来たな!最高じゃねぇか!そんなあんたのための歌だ!」
と、爽快な気分にしてくれるショートチューンのパンクソング「ファイト!!」をその観客に贈るように、しかしステージ上はいつものように自由極まりなく鳴らす。その男性は仕事を終えてダッシュでこの羽田空港の近くまで来たんだろうか、そこまでしても見たくなるのがハルカミライのライブだもんな、と勝手に感情移入していたのは、自分自身が仕事で色々あるとこの曲を聴いては脳内であいつのことをぶっ飛ばすような気分になれるからだ。
パンクという音楽そのものも、ハルカミライというバンドの存在もとかく10代くらいの若い人のためと思われているイメージが強いだろうけれど、実は社会人である20代半ば以上の世代が生きていくための音楽でありバンドでもある。
須藤が曲中でベースをアンプの上において水を飲む、つまりはベースの音をあえて鳴らさないというパフォーマンスの「俺たちが呼んでいる」も、関が小松のバスドラの上に座るどころか、その上に寝転ぶようにすることで全然ギターが弾けていないし、小松も叩きづらそうな「春のテーマ」も、「上手く演奏する」ということが目的ならば決して褒められるようなものではない。
でも「ハルカミライのライブ」としてはこれ以上ないくらいに正解でしかないパフォーマンスだ。それは音源を聴くだけでは決して見れないし聴くことができない、ライブだからこそ目にすることができるものであり、ハルカミライだからこそ成立するような、ハルカミライでしかないものだからだ。きっとメンバーたちは無意識でそれをやっているんだろうけれど、だからこそそれが観ている我々の衝動を湧き上がらせてくれるのだ。
この日は持ち時間を70分も貰っているものの、まだ半分にも満たないここまでですでに残りのHPは2くらいしかないという出し切りっぷりであるが、そんなライブをやっているがゆえに、
橋本「最前列にいるKEYTALKのファンの女の子が引いてる(笑)タトゥーとか怖い?でも関とかちょっと菅田将暉に似てない?(笑)夜だけ入れ替わったら小松菜奈を奪えるかもよ!(笑)」
須藤「小松も居酒屋でバイトしてる時にお客さんにキスマイの玉森に似てるって言われたもんな(笑)」
橋本「しかも「玉森さんですか?」って言われて「そうです!」って言ったっていう(笑)
「モニタリングの撮影かと思った」って(笑)」
と、確かに橋本の赤い髪色やタトゥーも含めて初めて見る人はイカついイメージを抱くかもしれないが、それでも
「あなたが知らないあの曲もこの曲も、全部あなたのための歌だ!」
と初めてライブを見る人、全く自分たちのことを知らない人のことも全て肯定してみせる。その女性はその後にも橋本から
「姉ちゃん、下向いてないでこっち見てくれよ」
と言われていたけれど、そうした言葉を「このボーカルめちゃ絡んでくるな」と思っていただろうか。それとも「私に向き合ってくれている」と思っていただろうか。それは彼女のみぞ知るところであるが、橋本の、ハルカミライの思いや優しさが伝わってくれたらいいなと心から思う。
そんな、初めて見る人にとっては知らない曲でも、ハルカミライのファンにとっては大事な曲なのが、橋本がマイクをスタンドに固定して歌うことによって、激しさだけではないそのボーカルの凄さと、ハルカミライの音楽のメロディの美しさを感じさせる「Mayday」からの流れであり、続く「ウルトラマリン」の
「1番綺麗な君を見てた 1番小さなこの世界で」
というサビのフレーズで普段は拳を突き上げることが多い観客が人差し指を上に突き出す様は本当に美しいものに見える。1番綺麗な光景であるかのように。
そしてその橋本の歌の素晴らしさとバンドの持つメロディの美しさは「predawn」で一度極まる。
「待ち侘びてた 春が来ること
幻じゃないと 君が教えてくれた」
というCメロ部分で関と須藤がマイクスタンドを中央にグッと近づけて、小松も含めてステージ中央でそれぞれが向かい合うようにして声を重ねていく。決して演奏技術がめちゃくちゃ高いバンドではないけれど、このバンドがこんなにもとてつもないライブができるのは、何も言わなくても意識が統一されているこの4人が一つのバンドのメンバーとして一緒に音を鳴らしているからだ。それがわかる瞬間であった。
「ドーナツ船 EP」の先行曲である「光インザファミリー」で再び橋本がハンドマイクになってステージを歩き回りながら歌うと、「ラララ」のキャッチーなコーラスでは観客が一緒に歌えない代わりに揃って腕を掲げる姿が、この曲がすでにライブにおいて定着しているということを感じさせるし、家族を歌った曲ということもあるが、この曲をライブで聴いているとパンクであるのにどこか包み込まれるような感覚になる。それは橋本が以前インタビューで言っていた、
「殴るんじゃなくて抱きしめるのが俺にとってのパンク」
ということなのだろうし、それを自分たちの音楽でなし得ている。そこにこそこのバンドがこれだけ支持されている理由があるとも思っている。
ここまでは「ファイト!!」のみだった、ハルカミライのライブではおなじみのショートチューンもこの日は
須藤「俺の実家の犬の曲」
と言ってライブでおなじみの「Tough to be a Hugh」を、
橋本「俺の実家の犬の曲」
と言って4人の魂の合唱が響く「エース」、さらにはダンサブルな小松のドラムが異彩を放つ「フュージョン」とショートチューンを畳み掛けるようにして駆け抜けていく。この曲の「オーイェー」のコール&レスポンスは少しでも早くまた我々が歌えるようになればいいのになと思う。きっとバンドもその光景を想像して作った曲だろうから。
そんなショートチューンも含めているとはいえ、対バンライブですでに15曲も演奏しており、「世界を終わらせて」からはクライマックスへと突入していくのだが、
「来世もその次も巡り会えないのなら
お願い続きを投げ出して神様」
というCメロで照明が白く明滅してメンバーを照らす様は本当に神秘的で美しい。もはやCメロ職人バンドというくらいに「predawn」も含めて本当に曲の大事な部分を担っている。だからこそその後のサビで観客が一層高く、より楽しそうに飛び跳ねることができるのだ。
そして「僕らは街を光らせた」では橋本が曲中に
「高校生の時に親友が教えてくれたバンド 今日一緒にライブができている。昨日「明日対バンするんだ」って連絡したら、「そんな日が来るなんて」って言ってた。俺もそう思ってたよ」
とKEYTALKを学生時代から聴いていて、友人との大切な思い出のバンドであることを口にする。だからこそのこの日の気合いの入り様だったということであるし、その言葉は
「もし俺のこと 選ぶやつがいるならば
どうか どうか 負けずに追って来い」
というフレーズにも繋がる。バンドをやっていなくても、追っているわけじゃなくても、メンバーよりも年上でも、このバンドの音楽に、ライブによって生きているっていう感覚を感じさせてもらっている。だからこそ、
「音楽を聴いて優しくなれるやつがロックスターだぜ」
という言葉を聴いて、ハルカミライ自身のことであると思えるのだし、
「俺たち強く生きてかなきゃね」
というフレーズによって、このバンドの音楽とライブで強くなって生きていけると思える。これさえあれば無敵なんだって思えるのだ。
橋本がそうしてKEYTALKを人生の中で大切なバンドだと思っているからこそ、「アストロビスタ」でも
「眠れない夜に私 KEYTALKを聴くのさ」
と歌詞を変え、さらには
「音楽が元気を与えてくれる 音楽を聴いて元気になれる!」
とKEYTALKの音楽、ライブのことを言っているであろうことを口にする。それは我々からしたらハルカミライの音楽やライブも間違いなくそうだ。もはやおなじみになった曲中に「宇宙飛行士」のフレーズを歌うのを聴きながら、意外にも感じる今回のこの2マンの最大の共通点はそこなんじゃないかと感じていた。
曲終わりで4人が向かい合って何やら喋っていると、
「下北沢SHELTER、30周年本当におめでとう。俺たちにもホームって言えるライブハウスがある。最後にやる曲を変えて、そのライブハウスの曲やるわ。今日は本当にありがとう」
と言って演奏されたのは八王子のライブハウスとその街のことを歌った「ヨーロービル、朝」。もともと予定されていた曲がなんだったのかというのも実に気になるところであるが、幕張メッセの時もこの曲が最後に演奏されていたし、やはりこの曲での爆音を鳴らしながら白と黒に明滅するバンドの姿から感じるカタルシスは他の何物にも変えがたいというか、変えることはできない。マスクの内側からついつい歌詞に合わせて口が動いてしまうのもそうした感覚からだろうし(声はもちろん出していない)、だからこそ、モッシュやダイブがもしできないままだとしても、せめてみんなでハルカミライの曲をまた一緒に歌えたらいいなと思うくらいに、そうやってこのバンドの曲を歌うことによって精神が解放されてきたんだよなと震えて涙が出るくらいのカッコよさを感じながらも思っていた。その、このバンドの、パンクのカッコよさがわかるような人間でいれて本当に良かったと思った。
どうしたって集大成的な感じでもあった幕張メッセのワンマンを見ているだけに、あのボリュームと比べたら普通なら対バンライブだと物足りなくなりそうに感じるものであるが、ハルカミライにはそんなことは一切ない。むしろもっともっとライブを観たいと思ってしまうし、バンド側も止まることなくこうしてライブをし、また小さなライブハウスを回るツアーに出ている。それくらいに生きることとライブをすることがイコールになっている。だからこそ、幕張メッセのライブを観た後でもこの日のライブがそれをさらに更新していたようにすら感じる。きっとこれからもそうやって新たに観たライブがこれまでのライブを更新していくのだろう。それはいつだってそのまま日本のパンクシーンの、ロックシーンの、ライブシーンの伝説であり事件になっていく。このバンドが続いていく限り。
1.君にしか
2.ヨーローホー
3.カントリーロード
4.QUATTRO YOUTH
5.PEAK’D YELLOW
6.ファイト!!
7.俺達が呼んでいる
8.春のテーマ
9.Mayday
10.ウルトラマリン
11.predawn
12.光インザファミリー
13.Tough to be a Hugh
14.エース
15.フュージョン
16.世界を終わらせて
17.僕らは街を光らせた
18.アストロビスタ
19.ヨーロービル、朝
・KEYTALK
各世代によって「下北沢のバンド」というイメージはそれぞれあるだろう。「BUMP OF CHICKENのライブを下北沢で見ていた」という人もいるだろうし、「下北沢にてを開催しているTHEラブ人間が下北沢の主」という人もいるだろうけれど、今の下北沢のバンドと言えば街ぐるみでバンドをPRしてくれている、KEYTALKであると言っていいだろう。そんなKEYTALKが下北沢SHELTERの30周年イベントの締めというのは実によくわかる話である。
おなじみの「物販」のSEで登場してきたのは、「え?誰?」と思うような、カッパのような髪型で赤いTシャツを着た男。それはなんとハルカミライの関大地と同じツンツンヘアにチェ・ゲバラの顔がプリントされた赤いTシャツに膝が出たダメージジーンズを着た小野武正(ギター)。少し髪が伸びたとはいえ、巨匠(ボーカル&ギター)と首藤義勝(ベース&ボーカル)と八木優樹(ドラム)がカジュアルな出で立ちであるだけに、より一層その姿が異質なものに見えてしまう。
そんな武正の姿に戸惑いながらも、今年アルバム「ACTION!」をリリースし、先日ツアーファイナルのZepp Tokyoでの2daysを終えたばかりということで、そのアルバムの1曲目に収録されている、実にKEYTALKらしいお祭りソング「宴はヨイヨイ恋しぐれ」でスタートするというのは新たなKEYTALKのライブの定番の形になるのだろうか。すでに曲中の合いの手も観客は完璧にこなしているが、やはりこうしたKEYTALKの曲も観客が一緒に声を出してこそと思うだけに、早くそういうライブが戻ってきて欲しいと思う。未だにどんなタイトルなんだ、とも思うけれど。
関コスプレの武正と巨匠がステージ前のお立ち台に立ってギターを弾き、義勝のボーカルが響くのは一気にKEYTALKの歴史を感じさせるような「sympathy」であり、ここも観客の腕が上がる一体感は抜群である。特にその演奏は久しぶりとはいえツアーを巡ってきてのこの日であるというライブバンドっぷりを遺憾なく発揮している。
早くもここで義勝のスラップベースが炸裂し、コスプレ効果なのか、明らかに間奏のギターソロをいつにも増して武正が弾き倒しまくっている「MATSURI-BAYASHI」が演奏されたので、これはこの後の展開はどうなるのだろうか?と思ってしまう。それくらいにすんなりとこの曲が演奏された印象であるが、もちろんサビでは振り付けを観客が完璧に踊り、飛び跳ねまくるというお祭りバンドのお祭りソングとしての熱狂に満ちていく。
もう今日はあなたが喋る以外にないでしょうという出で立ちの武正が、SHELTERの30周年とKEYTALK自身のメジャーデビュー8周年を自分の口で祝うと、
「果たして腹がちゃんと収まるのか」
という関とは違う自身の腹の肉を自虐的に口にすると、ここまでのお祭りムードが一気に妖しい空気へと変わる、義勝のハイトーンボーカルによる「暁のザナドゥ」へ。2018年リリースのアルバム「Rainbow」のリード曲としてMVも制作された曲であるし、KEYTALKの新たな一面を見せた曲でもあっただけに、リリース後のフェスなどでも当然演奏されるのかと思っていたら全然セトリに入らなかっただけに、こうしてこの日聴けたのは実に嬉しいところである。
そんな「暁のザナドゥ」が持つ妖しさはそのまま「DE’DEVIL DANCER」へと繋がっていくのだが、こうしたサウンドの曲のサビは義勝の繊細さを感じさせるボーカルが実によく似合っているし、八木の細かいドラムの刻みが曲に躍動感を与え、観客を躍らせているのがよくわかるくらいにやはりKEYTALKは演奏が上手いバンドであるということが、こうして様々なタイプの曲を聴いているとよくわかる。
とはいえこの日にこうした曲が聴けるというのは個人的にはかなり意外であった。それはKEYTALKは2マンライブだと相手の音楽性に合わせるというセトリを組むバンドであり、実際にヤバTとのリキッドルームやTOTALFATとの千葉LOOKではダイバー続出のパンクなKEYTALKの強さを見せつけるものであったし、この日がやはりパンクバンドのハルカミライであり、武正がコスプレをしているからこそ、そうした曲を連発するのかとも思っていた。
しかしながら「ACTION!」収録の、タイトルフレーズが登場するサビが実にキャッチーな「大脱走」がツアーから引き続きセトリに残っていたりと、どうやらその自分の予想は外れたようだ、というか、バンド側がどうやら違うコンセプトというか思いを持ってこのライブに臨んでいるというのはこの時点でも伝わってくる。
かと思えば義勝がツーステを踏むようにして軽やかにかつ力強くベースを鳴らし、巨匠は最後のサビで八木のドラム台から高くジャンプする「太陽系リフレイン」でバンドの持つパンクさを感じさせてくれたりと、目まぐるしく曲ごとにサウンドを変化させていくというのは、そのままKEYTALKというバンドの持つ幅の広さを示すものになっている。こうした曲では武正のギターもより好きに弾きまくれるとばかりに生き生きとしている。
その武正はこの関コスプレを作るのに楽屋で30〜40分費やしたということを語り、ハルカミライの楽屋で八木にも手伝ってもらって髪を立てたのだが、それをKEYTALKの楽屋に戻って巨匠と義勝に見せたところ、「笑ったら負けだと思った」という巨匠はほぼ無視で、義勝は「楽屋にカッパが入ってきたかと思った」という実に冷たいリアクションだったようだが、ライブが始まって、立てた髪もペシャンコになってきたことにより、巨匠からは
「ドラゴンボールの悟空みたいな髪型になってる」
と言われるように、もはや違うキャラになってきつつあるくらいに髪型は関ではなくなってきている。
ちなみにハルカミライの須藤と小松はかつてKEYTALKが八王子のライブハウスでライブをした時にスタッフとしてすでに会ったことがあり、当時一緒に撮った写真を須藤に見せてもらったところ、須藤がめちゃくちゃイケメンだったとのこと。
そうして関っぽくなくなったことで、パンクさよりもKEYTALKらしいポップさを感じる「Love me」の多幸感を感じさせるサウンドがより強く会場を包み、メンバーも観客もぴょんぴょん飛び跳ねまくる。ライブではおなじみの曲であるが、この曲を聴いている時の空気はKEYTALKのライブでこの曲が演奏されている時しか感じられないものだと思うだけに、新しい曲が増えてもこうしてライブで聴き続けていたいと思う。
その「Love me」から続くことによって、イントロやAメロはもしかしたらこの曲から連なる系譜なのかもしれないと思う、KEYTALKの代名詞的な曲の一つである「MABOROSHI SUMMER」ではやはりサビで観客がダンスを踊るというKEYTALKのライブならではの光景が繰り広げられ、自身も両腕を上げてダンスを踊るようにする義勝も実に楽しそうであるし、サビでの巨匠のボーカルの安定感も抜群である。
一転してポップな流れから気合いを入れ直すようにイントロから巨匠、武正、義勝の3人が激しい演奏を展開するのは「fiction escape」では飛び跳ねながら手拍子をするというKEYTALKのポップサイドとロックサイドがこの曲の時期からしっかり融合していたことを感じさせるし、やはりこうして今となっては初期と言える頃の曲が多く演奏されているというのはツアーとはまた違う、SHELTERの30周年という自分たちにとっても重要なタイミングのライブであることを感じさせる。それこそこの時期の曲はSHELTERでも何回も演奏してきた、SHELTERで育ってきた曲であろうから。
そんな初期曲たちに混じってこの後半に演奏された「ラグエモーション」は義勝と巨匠のボーカルのスイッチングやセンチメンタルで甘酸っぱい歌詞も含めて、「ACTION!」の中でも屈指のキャッチーな曲であると思っているし、それがこうしてツアーを終えても演奏されているというのは実に嬉しいところであり、KEYTALKがこれまでのセトリを更新するような曲を生み出し続けているということだ。てっきり「ACTION!」からは「サンライズ」や「Orion」というあたりの曲が演奏されるんじゃないかとも思っていたし、夏にイベントでは「Orion」を演奏したりしていたのだが、やはりそこは予想通りにはいかないバンドである。
改めて下北沢SHELTERの30周年を武正が祝いながら、初めて憧れのSHELTERに出演した深夜イベントのライブの後に当時の店長に
「うん、the band apartですね」
と言われるくらいにthe band apartでしかない曲ばかりだったということだが、この日の選曲はそう言われたバンドがどういう音楽的な幅を広げて下北沢を代表するバンドとしてSHELTERの周年を祝う存在になったのかということを示すようなものであった。
この日の床がSHELTERの市松模様になっていることに、自分たちが武道館でワンマンをやった時にも同じように床を市松模様にしたことを懐かしみながら、武正の「ぺーい」を観客が腕を上げて返すという仕様のコール&レスポンスが展開されると、KEYTALKの名を下北沢からより広い場所へと知らしめた「MONSTER DANCE」で観客も武正も、袖にいたKOGA氏も(振り付けちゃんと覚えてないけれど)踊りまくるのだが、この曲での八木のコーラスがいつにも増して野太い、気合いが漲っているものになっていたのが、彼なりのこのライブへの思いの強さを感じさせる。もちろんこの曲をはじめとしてKEYTALKのダンスの部分を最も担っているのが彼のドラムであるということもしっかりわかるライブであった。
そんなライブの最後は下北沢SHELTERでやっていた頃の気持ちを思い出すような、イントロから巨匠、武正、義勝の3人が激しく頭を振るようにして演奏し、巨匠のボーカルも上手さというよりも衝動を剥き出しにするかのようなものだった「夕映えの街、今」。
その姿は間違いなくパンクそのものであったし、今ではなかなかこうした曲を普段からセトリに入れるのは難しいかもしれないけれど、このバンドのこうした部分がたくさんのロックファンに伝わったらいいなと思うようなカッコ良さであった。それをKEYTALKはどんなに巨大な存在になっても変わらずに持ち続けている。
アンコールでは巨匠と八木がこの日のイベントTシャツに着替えて登場するも、髪型が乱れた武正は関コスプレのままで、
「SHELTER30周年ですけど、僕らも今日がメジャーデビュー8周年記念日ということで、メジャーデビュー曲をやります!」
と言って演奏されたのはもちろん「コースター」。まだバンアパ、インディーズ感も感じさせるサウンドでもあるのだが、ある意味ではKEYTALKのキャッチーで踊れるロックというメジャーでの方向性を決定づけた曲だ。そのイメージに翻弄されたりした時もあったかもしれないけれど、今こうしてKEYTALKは変わることなくメジャーシーンの最前線を走り続けている。それは自分たちの歩みによって、自分たちの活動を正解にしたのである。そうした曲をちゃんと演奏する意味がある日に演奏することができるというライブバンドさもまたKEYTALKの変わらない部分である。
しかしそうした記念日に記念碑的な曲を演奏してもなお終わらず、巨匠が
「下北沢SHELTERでよく演奏していた曲!」
と言ってさらに「アワーワールド」を演奏して武正に合わせるようにして客席は腕を上下に振りまくる笑顔のダンスフロアと化して大団円を迎えた。ああ、やはりSHELTERの周年のフィナーレを担うべきバンドだよなぁと思いながらその光景を見ていたら、楽しいのはもちろん、なんだか感動してしまったのは、レーベルオーナーKOGA氏(武正がこの日何度もモノマネをしていた)の自伝本でKEYTALKと下北沢の繋がりと今に至るまでの活動の裏側にあったあれやこれやを読んだからかもしれない。
正直、ハルカミライは2マンで先に出てくるのを誰よりも避けたいバンドだ。先に出てきてライブをやったらその日の全てをかっさらっていってしまうという、若くしてあまりにも強すぎるジョーカー的なバンドとすら言える。
そんなバンドの後だったからこそ、楽しみでもあり不安でもあったのだが、KEYTALKはKEYTALKのやり方で、不安が杞憂だったことを見事に示してみせた。それはバンドの持っている力量はもちろん、ファンと一緒に作ってきたライブという空間があるからこそ、そう思えたんじゃないかと思う。
ライブが終わるとハルカミライのメンバー、さらにはこの日会場に来ていた下北沢SHELTERのスタッフたちを呼んで写真撮影するのだが、同じ出で立ちをした武正と関が肩を組んでいると、
「ツーマンツアーやりたいね」
と、意外なくらいのハモりっぷりを見せ、橋本も須藤も笑顔でそれに応じる。それはやはり、この2組が音楽で、ライブで人を元気にしたいという思いを持ったバンドだからなんじゃないかと思う。最後に
「下北沢SHELTERでまた会いましょう!」
と主催者が言った時、人が多すぎるとステージ見づらい、トイレが客席の1番奥だから人をかきわけないと行けない、最前だとスピーカーが近すぎて耳が痛くなるという思いを何回もしたことがある下北沢SHELTERが愛おしくなった。
1.宴はヨイヨイ恋しぐれ
2.sympathy
3.MATSURI-BAYASHI
4.暁のザナドゥ
5.DE’DEVIL DANCER
6.大脱走
7.太陽系リフレイン
8.Love me
9.MABOROSHI SUMMER
10.fiction escape
11.ラグエモーション
12.MONSTER DANCE
13.夕映えの街、今
encore
14.コースター
15.アワーワールド
文 ソノダマン