モルタルレコード Presents モルタル21周年アニバーサリー 「20周年アニバーサリー公演アンコール企画#1」 〜四星球20周年おめでとう前倒し企画 深谷市民文化会館小ホール 2022.1.29 the dadadadys, the telephones, 四星球
埼玉県熊谷市にある、ライブなども行われているレコード店のモルタルレコードが20周年を迎えたことにより、その20周年を過ぎてもアンコール企画としてイベントライブを主催。
この日は20周年を迎えた四星球に加え、埼玉県出身のthe telephones、tetoから改名したばかりのthe dadadadysという3組でのライブとなる。
会場の深谷市民ホールは、深谷ネギやゆるキャラのふっかちゃん、さらに近年では大河ドラマ「青天を衝け」の主人公である渋沢栄一の記念館があったりする、埼玉県深谷市の深谷駅から徒歩20分(ホームページにはそう書かれていたが、そんなにかからなかった)という場所にある、公園に隣接しているホールであり、この日のチケットは200枚ということからも普段から市内のイベントで使われたりしているのだろうということがわかる小さなホールである。
実際にホールの中に入ってみると、これまでにこの会場でロックバンドのライブが行われたことがあるのだろうかとも思ってしまうくらいの、地方の公民館というような会場であり、この会場でこのバンドたちのライブを見るのは実に新鮮な気持ちにもなる。
・the dadadadys
つい3日前に突如としてtetoが改名と、ライブにサポートとして参加していたyucco(ドラム)の発表。その新バンド名がthe dadadadysであり、まさかこんなに早くライブが見れることになるとは全く思っていなかっただけに、このバンド名としての始まりのライブが見れるというだけでここまで来た意味があると思える。
16時になって場内が暗転してメンバーが登場すると、そもそもが客層的に「誰だ?」という感じなのか、メンバーが音を鳴らすまでほとんどの人が椅子に座ったままだったのだが、サングラスをかけた小池貞利(ボーカル&ギター)が
「the dadadadys!」
と一言挨拶すると、観客は一斉に立ち上がるのだが、サポートギターのうちの1人はヨウヘイギマ(ヤングオオハラ)ではなく、もう1人のギタリストの熊谷太起(ギター)はこの日は椅子に座った状態での演奏。佐藤健一郎(ベース)は髪がかなり伸び、正式メンバーとなったyuccoはこれまでのライブのように上下ともに真っ赤なスーツを着ている。
小池がハンドマイクを手にしてステージを暴れ回るようにして歌い始めたのは、改名とともに解禁された新曲「ROSSOMAN」。小池の弾き語りではすでに演奏されていた曲であるのだが、それがバンドサウンドになったことによってバンド名が変わっても変わらぬ衝動を感じるというのは、小池がステージから落ちるんじゃないかと思うくらいに激しく動き回りながら歌っていることである。サビのたびに打たれるyuccoのキメも、新しい名前になったとはいえtetoとしてライブを一緒にやってきたメンバーだからこそのグルーヴを感じさせる。
そのまま小池がハンドマイクで
「シェケナベイベー!」
と言って演奏されたのは小池がツイストのような動きを見せながら歌うダンスチューンであり、その小池の言葉はそのままこの曲のタイトルになっているのかもしれない。
さらには小池の持つ抒情性とメロディの強さを感じさせる新曲と続くのだが、小池は暴れ回るようにして歌っていたことによってマイクのコードが外れて歌えなくなってしまう。それによってだいぶ歌詞が飛んでいただけに、曲の全貌という意味では掴み切ることができないのだが、その小池のボーカルがなくてもメンバーは演奏を続けていたという面ではもう曲としては完成していると言っていい曲なのかもしれない。
さらには小池がここでギターを持ち、熊谷のマイナーコードによるギターリフからは初期Arctic Monkeysの影響を感じさせるサウンドと、小池の言葉が詰め込まれた新曲と、もう名前も変わり、バンドとしても新しい存在になったことをアピールするかのような新曲の連打っぷり。なかなか経験がないであろうこの市民ホールという場所でのライブということもあってか、あるいは前の曲でコードが抜けてしまったからか、小池はボーカルとしてはかなり歌いづらそうに感じるところも多々あったのだが、それ以上に「これはもしかしたら名前が変わったことによって、tetoの曲はもうやらないのかもしれないな…」という考えも頭をよぎった。それは改名という理由にもなるから。
しかし
「四星球、20周年ってめちゃくちゃ凄いですよね。僕らはまだ3日なんで(笑)
これから20年間続けられるように頑張っていきます!」
という言葉からは刹那的な衝動を炸裂させるというスタイルのバンド故にいつ終わることを選択してもおかしくないとも思っていたこのバンドを小池がずっと続けていく意思を感じられてなんだか嬉しくなったのだが、すると明らかに聴き覚えのあるギターによるイントロが鳴らされると、それはやはり「9月になること」のものであり、間奏でスローダウンすると、正規メンバーとなったyuccoのコーラスと小池のボーカルが重なり合う。その瞬間にこうやって新しいバンドになれたんだなと思ったし、その相手がtetoとともにスペシャ列伝ツアーを違うバンドとして回っていたyuccoだというのも胸が熱くなる。何よりも小池は、the dadadadysは、我々がずっと愛してきたtetoの曲を葬ることはせずにこれからも演奏していくということがわかって本当に安心した。
それは小池とともに佐藤もサビの「メアリー」のフレーズを高速で連呼する「メアリー、無理しないで」から、こうして新しいバンド名になってからも演奏しているのを聴くと、
「拝啓 今まで出会えた人達へ
刹那的な生き方、眩しさなど求めていないから
浅くていいから息をし続けてくれないか」
という歌詞がthe dadadadysというバンド名に至るまでに出会った全ての人たちに向けられているというように感じられる。それはtetoでの活動がこのバンドにしっかり繋がっていて、そこで一緒にいた人たちがいたからこそこうしてこのバンドでライブができているというような。その思いを持っているから、こうしてたくさんあるtetoとしての曲の中からこの曲を演奏しているんじゃないかと思う。
「この後もカッコいいバンドたちが出てくるんで、最後まで楽しんで!」
と先輩たちにバトンを繋ぐと、小池がこれまでもいろんな曲で歌ってきた「友人との思い出」を歌ったと思われるような、歌唱としてはヒップホップのように歌詞を詰め込むようなスタイルの新曲から、最後に小池がアコギを持つと、一度始まった演奏が一回止まってやり直したりしながらも、こちらは軽快なサウンドとリズム、何よりも小池の持つ温かい心という面がわかる歌詞の、tetoのこれまでの曲で言うと「手」に通じるような新曲と、tetoとしても昨年夏にアルバムをリリースしたばかりだというのに、すでにバンドとしての視点はさらにその先に向かっていることを感じさせるように凄まじいまでの(それは薄々予感していたことだけれど)新曲の連発っぷり。
それはyuccoが正式にメンバーになって、メンバーだけでもギター、ベース、ドラムという楽器が揃ったことによって小池の創作本能に火が着いたのかもしれないが、そもそも2人になってからのライブと編成は変わっていないだけに、tetoが持っていた衝動は変わっていないし、ファンそれぞれがそれぞれに特別な思いを抱いているtetoの曲たちをもう演奏しないということはないだろう。
ただ、やはりtetoはあの4人でtetoだったのであり、メンバーが変わるからにはtetoという名前にケジメをつけなければならない。そうしないとこの3人で前に進むことができない。the dadadadysとしての初ライブはそれを改めて実感させてくれるものだったし、バンド名と形が変わっても自分はこれからも小池貞利の作る音楽を聴いて、ライブに行き続けるんだろうなと思った。それくらいに変わらないものが、バンドにも自分の中にも確かにあることを感じていた。
1.ROSSOMAN
2.新曲
3.新曲
4.新曲
5.9月になること
6.メアリー、無理しないで
7.拝啓
8.新曲
9.新曲
・the telephones
昨年にはよみうりランド内のらんらんホールにて年末恒例のSUPER DISCO HITS!!!を無事に開催した、the telephones。すでに様々なバンドとの対バンライブが発表され続けているけれど、2022年の初ライブは地元である埼玉でのこの日のライブである。
おなじみの「Happiness, Happiness, Happiness」のSEが始まって場内が暗転すると、いつものようにメンバー4人がステージに登場。登場するなり石毛輝(ボーカル&ギター)は、
「四星球20周年おめでとう!モルタルレコード21周年おめでとう!the dadadadys改名初ライブおめでとう!こんなめでたい日に呼んでくれてありがとう!」
とこの日のライブに出演できていることの感謝を口にすると、観客の両手を上げさせて、
「バカみたいに踊ろうぜー!」
と言って、胸元がはだけた白シャツ姿がセクシーなノブがキャッチーなシンセを鳴らすいきなりの「A.B.C.DISCO」からスタートし、椅子席というtelephonesのライブとしても、四星球がメインアクトというライブの趣旨からしてもアウェーと言えるかもしれない状況であるが、そんな空気を一発で持っていくのがtelephonesのライブの強さであり、観客は最初から楽しそうに踊っている。
そのシンセを鳴らしていたノブがカウベルを叩きまくり、観客もそのリズムに合わせて手拍子をするのはライブではおなじみの「Baby, Baby, Baby」であるが、ノブがカウベルを叩きながらも客席に突入していたりしたこの曲も、今はそれをすることはできない。しかしただ大人しくその場にいるだけかというと当然そんなことはなく、ステージ上を歩き回りながら下手の長島涼平(ベース)のところまで行くと、涼平の前に置いてある台に腰掛けながらカウベルを叩き、そのカウベルを叩く腕を自身の両足で挟むように涼平が覆い被さるという絶妙なフォーメーションで観客を早くも笑わせてくれる。さらにはノブはガムテープを頭上に放り投げてスティックを持った腕に通すというパフォーマンスまでも見せて、今できることの最大限を尽くして我々を楽しませてくれるし、それがtelephonesのライブの楽しさにもなっている。
そんなノブと絶妙なコンビネーションを見せた涼平のリズムがtelephonesのグルーヴ、ダンスの核になっていることがわかる「electric girl」でもノブはカウベルを叩きながらステージを歩き回り、世の中がこうした状況になっても、バンド自身がベテランと言えるような存在になってもtelephonesのライブは変わらないんだなと思わせてくれる。そこには変わらないだけではなくて、曲中にライブならではのリズムのアレンジを取り入れながら、進化しながらも変わらないという理想的なバンドの形を見せてくれている。
そんなtelephonesは近年はライブに来てくれる人たちがいち早く聴けるようにとライブ会場限定で新曲をリリースしているのだが、その中から第二弾の会場限定シングルである「Get Stupid」をまずは披露。今や自身の経営するまぜそば屋が埼玉県の中でも屈指の評価を受けるようになった松本誠治(ドラム)が店だけではなくてドラムの腕もしっかり磨いていることを示すように高速かつタイトなリズムを刻む、telephonesらしいダンスロック曲であるが、よみうりランドでのワンマンの時はジャイアンツ球場が近くにあることから「松井」などの巨人の選手の名前を叫びまくっていたアウトロのノブのシャウトはこの日は全く何を言っているのか聞き取れないものになっていた。
さらに会場限定シングルの第一弾である「Caribbean」でノブが軽快なステップを見せながら南国の風を吹かせるかのようなサウンドと、誠治のラジオDJ的なボーカルは「Get Stupid」と真逆に、telephonesの新しい要素、新しい一面を見せてくれるのだが、その誠治の歌唱時に石毛が涼平の背後に立って同じようにステップを刻んだかと思いきや、最後に涼平が逆方向に動くというフェイントをかけて石毛がツッコミを入れるという構図も本当に楽しい。今の世の中の日常やSNSを見ている時にも感じてしまうギスギスした空気を忘れさせてくれるとともに、見ている人の心を音とパフォーマンスで浄化してくれているかのようだ。
するとここで石毛が改めて冒頭に口にしたように、この日のライブがめでたいことが重なっていることを口にするのだが、その際にノブが片膝をつくようにして水を飲んでおり、石毛に
「普通に飲めないんですか?」
と言われると、
「プロですから」
と返すのだが、その返しこそがノブなりのプロたる所以である。
そんなノブが歌い出しで舞うような姿を見せると、一気にディスコ感が強くなるシンセを奏でて、ここが埼玉県内であるということを改めて実感する「SAITAMA DANCE MIRROR BALLERS!!!」で観客を踊らせて飛び跳ねさせまくる。もう12年も前にリリースされたアルバムに収録されている曲であるが、こうした音楽をやっているバンドは全く現れていないというところにtelephonesが唯一無二のバンドであることを改めて感じるし、埼玉への愛をこんなに曲にしているバンドもいないことも実感させてくれる。
涼平と誠治がリズムで曲間を繋いでいると、ノブはマイクを持って観客に自由にその場で踊ることを促すのだが、深谷だからという理由でこの日は深谷ネギを千切りにするアクションを観客に伝授し、その姿がノブにしっかり見えるように客電が点けられる中でそれが展開される。思わず観客も笑ってしまうのだが、後に出てきた四星球の北島はその光景を
「革命的ですよ!踊ると言いながら腕しか動いてないんですから!心で踊ってるんですよ!」
と最大限の賛辞で評していた。ノブがそこまで考えているがわからないが(間違いなく考えてない)、そのダンスによって、コーラスパートで観客が左右に腕を振ってから飛び上がるという楽しみ方をすることもできるこの日の「Don’t Stop The Move, Keep On Dancing!!!」はこの日だけの忘れられないものになっていた。
するとここで埼玉県のバンドとして、
石毛「モルタルレコードに音源を置いてもらうことはステータスっていうか、箔がつくくらい大きなことだった」
涼平「Hawaiian6の1stアルバムが出た時に、ライブ会場以外だと関東ではモルタルくらいでしか販売してなかったから買いに行った。これ同世代の人ならわかると思うんだけど」
と、バンドとしてもリスナーとしても長い付き合いであるモルタルレコードとの思い出を口にすると、さらには実は同い年バンドである四星球との思い出を語ろうとするのだが、何故かなかなか出て来ずに、
誠治「そんな感じなんならもう話さない方がいい!(笑)」
と言われるくらいにグダグダに。
石毛「俺たちはライブ前に演奏の打ち合わせとかはするんだけど、こういうMCの打ち合わせは全くしないんだよね(笑)」
というこの緩さは変わることはないけれど、
石毛「1番直近で言うと、俺たちの去年末のよみうりランドでのライブが遊園地の中だったから、遊園地っぽいオブジェとか作ってステージに置きたいね、っていう話をしていたんだけど、その時に「まさやんに作ってもらおう」っていう話になって。4メートルくらいの観覧車とかも段ボールで作ってくれたんだけど、徳島のグラインドハウスっていうライブハウスの床を使って作ってくれたんだって」
と、まさやんの心意気に観客が拍手をせざるを得ないエピソードを明かすと、そのよみうりランドのライブ内でも演奏されていた最新曲「Yellow Panda」では当日に実際にステージに置かれていた、黄色いパンダとサーカス小屋の段ボール製のオブジェを持って四星球のメンバーがステージに登場して、観客と一緒に腕を左右に振る。その姿からは今まではそんなに近しい感じはしていなかった両バンドの絆を感じさせるとともに、四星球のメンバーの人間性と、それを繋ぐこの曲の持つ幸せな空気のポテンシャルを強く感じさせてくれた。どこか雰囲気的には「Odoru 〜朝が来ても〜」に近いものがあるようにも感じていた。
そしてここからの終盤は怒涛のディスコメドレーへ。明らかに客席の温度がイントロから上昇していく「Monkey Discooooooo」では間奏で石毛が
「今年もやるぞー!」
と意気込んでサーカス小屋のオブジェをジャンプして飛び越えてステージ前に出てきておなじみのブリッジギターを披露し、さらには「I Hate DISCOOOOOOO!!!」と、ディスコシリーズの中でもアッパーな曲を連発して、席指定のライブとは思えないくらいに観客を踊らせまくる。声を出して一緒に歌うことはできないけれど、それでもやっぱりtelephonesのライブは楽しいし、それを今はメンバーそれぞれの高い演奏技術やパフォーマンス力によって感じさせてくれる。もうなんなら持ち時間の長さも相まって、普通にtelephonesのワンマンを見ているかのようですらある。
そして、
「この状況なんだから、DISCOするしかないだろー!」
と石毛が熱い思いを叫ぶと、まさに今ディスコをするための「Do the DISCO」と、この日の終盤は怒涛のアッパーなディスコシリーズの連発。音楽には人を健康にさせるような効能はないけれど、それでも気持ちを今の世の中の空気感に負けないようにしてくれる力は確かにある。そしてそれはtelephonesのような楽しくなれる音楽にこそ強く備わっているものだ。そう考えると、telephonesの音楽は今こそ今まで以上に世の中に広く鳴り響くべきものなんじゃないかと思う。
そして最後はこの日の出演者とモルタルレコード、さらには翌日に還暦の誕生日を迎えるUK PROJECTの遠藤社長(四星球が大好きらしい)、そして何よりもこの状況の中でライブに来てくれることを選んだ観客に向けて愛とディスコを送るべく演奏された「Love&DISCO」がやはりこのままもうライブそのものが終わるかのような大団円的な雰囲気を描き出す。ノブはシャツを脱ぎ捨てて上半身裸になり、声が出せない観客の代わりにというくらいに大きな声でタイトルフレーズを叫んでいた。そこには今年もtelephonesのライブはやっぱり楽しいものであり、それはこれから先もどんな状況であっても続いていくという強く、頼もしい実感が確かにあった。すでにリリースされている新曲からしても、今年リリースされるとされているアルバムにも、それを持ってのライブにも本当に期待しかない。こんな状況の中であっても今年が楽しい年になりそうな予感があるのは、やっぱり自分にとってはtelephonesがいてくれるからだ。観客からの拍手の大きな音は、それが確かに伝わっていたことを示していた。
演奏が終わると、最後にステージに残った誠治が丁寧に観客に頭を下げていたのだが、四星球の北島が言うには、誠治が袖に捌けた時にはもう袖には誰も居なくなっていたらしい。それもまた実に誠治らしいというか、telephonesらしいというか。
1.A.B.C.DISCO
2.Baby, Baby, Baby
3.electric girl
4.Get Stupid
5.Caribbean
6.SAITAMA DANCE MIRROR BALLERS!!!
7.Don’t Stop The Move, Keep On Dancing!!!
8.Yellow Panda
9.Monkey Discooooooo
10.I Hate DISCOOOOOOO!!!
11.Do the DISCO
12.Love&DISCO
・四星球
そしていよいよこの日のトリにして、20周年のアニバーサリーイヤーを迎えた四星球。コロナ禍になってから最もライブをやりまくってきたバンドはヤバイTシャツ屋さんかこのバンドなんじゃないかとも思っているが、その両者は今年にヤバTのツアーで対バンをしていたりと、やはり今年も早くも精力的にライブを行ってきている。
しかし、時間になって暗転した場内に流れ始めたのは、the telephonesの石毛輝の
「え?また俺たち?」
という声と、「Happiness, Happiness, Happiness」のSE。それは2020年の秋のBAYCAMPでもやった、telephonesのコスプレをするメンバーというネタの本人も巻き込んだフリであり、実際にモリス=誠治、U太=涼平、まさやん=石毛、北島康雄=ノブというパートに合わせた役割で、それぞれカツラを被ったり髭をつけたりして登場したのだが、サングラスをかけるなどして石毛になり切ったまさやんが登場時から実に濁った裏声で何かと「ディスコ!」と叫びまくるのだが、何故かノブ役の北島も裏声で叫びまくり、まさやんに
「お前は声高くないねん!」
と濁った高い声で突っ込まれる。
そんな出オチになってもおかしくないようなネタを出オチでは終わらせないようにするのは、「ディスコの段ボーラーDISゆき」として、濁った裏声でまさやんが歌い続ける「鋼鉄の段ボーラーまさゆき」なのだが、ノブのシンセすらも台から段ボールで作ったのをすぐに北島が破壊してしまい、まさやんも石毛のマネをした歌い方は喉の消耗が激しすぎるということですぐに断念してしまう。そうなると実はtelephonesとしての石毛の歌唱は日頃の鍛錬によって出されているものであるということもわかる…のかもしれない。サビでは観客の体を左右に向けたり、その場で回らせたりするのだが、自分が何をしているのかわからなくなった人はネギを千切りにするというtelephonesのノブのパフォーマンスも引き継ぐ形に。
そんな裏声を断念したまさやんが曲終わりでサングラスを外すと、そのままバンド最大のキラーチューンと言える「クラーク博士と僕」に突入していく…かと思いきや北島が
「サングラス取る時にカッコつけてたやろ!間近で見てしまったから笑って曲に入れへん!もう一回曲終わりからやって!」
とまさやんのカッコつけたサングラスの外し方に笑ってしまい、結局3回くらいそのやり取りを繰り返すというハマりっぷりに。
そうしてようやく始まった「クラーク博士と僕」では北島がもっとカッコつけてサングラスを外しながら、U太は飛び跳ねまくり、まさやんはギターを手の平に立ててバランスを取ったかと思いきや、さらには足の甲にまで乗せてバランスを取るというまるで曲芸師かのようなパフォーマンスを見せて拍手を浴びる。段ボーラーっぷりといい、バク転をマスターした身体能力といい、実はこのまさやんこそがこのバンド最大の天才なんじゃないかとすら思えてくる。北島のフラフープパフォーマンスも変わらずに炸裂している。
そして「絶対音感彼氏」では曲中にくじ引きで引き当てた布袋寅泰の「スリル」をバンドが演奏してしまうという、このバンドのパフォーマンス力や発想力だけではない、音楽家としての能力の高さを、まさやんとU太が足を上げながら演奏するという布袋寅泰のライブ時のパフォーマンスを真似しながらの形で示してくれるのだが、北島は段ボール製の布袋寅泰モデルの幾何学模様のギターを持って、誇張しすぎた布袋寅泰のモノマネ歌唱によって何を歌っているのか全くわからないくらいになってしまう。この会場にガチの布袋ファンがいないことを願わざるを得ないが、すんなり元の曲に戻るというスムーズなアレンジと演奏力の高さは本当に見事としか言いようがない。
そんなコミックバンドとしての本領が発揮されるネタの連発から一転して、3月に発売することが決定しているが、まだ収録内容が全て発表されていない20周年ベストアルバム「トップ・オブ・ザ・ワースト」に収録されるという、森高千里「私がオバさんになっても」への自主的なアンサーソング「君はオバさんにならない」は笑いなしの北島のマジ歌唱という、このバンドの持つキャッチーなメロディという要素のみ(発想力という点では他の曲と同様だが)を研ぎ澄ませたかのような曲とパフォーマンス。なので曲のメッセージも相まって、どこか切なくも感じてしまう。
「皆さん、年越しはどうしていたんですか?やっぱり家で過ごしてました?僕らも大阪でイベントには出たんですけど、カウントダウンする時に会場にいることはできなくて」
という、今の状況ならではの年越しの瞬間の過ごし方を口にしてから演奏されたのは、除夜の鐘がエイトビートだったらということと、108つの煩悩を掛け合わせた「ワンハッドレッドエイトビート」なのだが、
「もっと面白くなってみんなを笑わせたい!」
と願っていた北島がいきなり声がエフェクトがかかって変わると、悪魔に取り憑かれてしまうのだが、その悪魔が
「え?この身体、ヤバTのこやま君じゃないの?」
と間違えて北島に取り憑いてしまい、
「やすおってどういう字?徳川家康の康に、英雄の雄?」
とやたらと北島の名前を良い言い方にしながら、
「the telephonesのMCがグダグダだったのも、the dadadadysが最後の曲でやり直したのも俺のせいだ〜!」
と、実に規模の小さい悪事を働いていたのだが、まさやんが即興で考えて歌った
「悪魔、出て行け〜」
という曲をバンドで演奏することで悪魔を祓って北島が戻ってくるという茶番じみたパフォーマンスも、何よりも観客を楽しませようという気持ちによるものだ。時々「今なんの曲やってる時間だっけ?」と思ってしまうくらいに脱線しているようにも感じてしまうけれども。
「the telephonesとやるのはやっぱり楽しいです!同い年ですしね。誠治さんだけ年上ですけど…っていうか誰やのそれ!?(モリスの誠治コスプレが1番誰だかわからないことに触れる)
でもずっと一緒にライブやっていきたいバンドです!
the dadadadysもtetoの時の曲もやってくれていたしね。tetoの曲も好きだけど、新曲がめちゃくちゃ好きだと思った。俺たちが20周年でthe dadadadysが0周年だから、25周年で5周年、30周年で10周年。わかりやすいね。そういう記念の時にはtetoの曲もまたいっぱいやって欲しいね。小池くんとバンドやるのはまぁ大変だと思うけど(笑)バンドしかない人だからね」
と、この日の出演者たちに触れるのだが、その言葉にはそのバンドを知っていないとわからないような愛情が確かにこもっていたし、それが自分たちだけならず、そうした仲間のロックバンドたちとともにこの状況のさらに先を目指すように鳴らされたショートチューン「夜明け」から「Mr.COSMO」では間奏部分でU太が観客への感謝をストレートに口にしながら、宇宙人を呼ぶと北島が段ボール製のバニラの求人のトラックに乗ってステージに戻ってくる。当然そのバニラの求人の曲のリズムに合わせて手拍子するのだが、
「皆さんが盛り上がってる曲はこんな曲ですよ!?東京方面に帰る方はこのトラックに乗れば帰れます!(笑)」
というやはり徹底的と言えるくらいに、ありとあらゆるネタを総動員して我々を笑わせてくれる。
そんなネタを連発しまくっているのに、
「思ってるよりもまだ時間が残ってる」
という理由で演奏された新曲「輪廻輪廻」はタイトルは紛れもなくブルーハーツ「リンダリンダ」から取っているだろうけれど、そのタイトルのとおりに生まれ変わりというテーマを四星球らしいユーモアを交えて歌った曲であり、どちらかというとバラードと言ってもいいタイプの曲だ。きっと歌詞をじっくり読めばこのバンドの歌詞や言い回しの秀逸さを感じることができるだろうけれど、以前に同じように「リンダリンダ」をモチーフにしたであろう「リンパリンパ」という曲もライブでやっていたが、音源化される気配がないためにこの曲の行く末も不安になったりしてしまう。
不屈のエンタメ魂をストレートかつ熱いメッセージと演奏に乗せ、それに反応するかのように照明がメンバーの姿を輝かせる「レッツエンターテイメント」で音楽とそれを含めたエンタメの力を信じてステージに立ち続けていることを感じさせると、
「今日深谷でライブやって、明日は厚木でライブやって、そしたら徳島に帰ってまた次の旅の準備をします」
という過酷な行程のライブによる自分たちの生き様を口にしてから、
「たくさん笑っていただけましたかね?」
と言って演奏されたのは「妖怪泣き笑い」で、最後のサビ前には客電が全部点いた中で観客を座らせてから一斉にジャンプさせるのだが、椅子がある会場なのに誰も椅子に座らずにその場でしゃがんでいるということを北島が指摘して笑いを起こすのだが、それはたとえ椅子があってもこのライブがライブハウスと同じような熱気を放っていて、観客全員(自分も含めて)が椅子に座るという選択肢が頭の中からなくなっているくらいに夢中になっていたからだ。それは、
「たくさん笑えば 涙が出るなら
たくさん泣いたら 笑えるのかな」
という人間にとっての真理を歌っているこのバンドのこの歌詞そのものだ。音楽も笑いも、
「科学じゃ解明不可能だ
化学じゃ解明不可能だ」
というものであるという意味では、妖怪の類いと同じなのかもしれない、と思っていた。
そして最後はまさに
「薬草でも 雑草でも 脱走しておいで
約束でも ヤケクソでも 脱走しておいで」
という歌詞の通りにヤケクソ気味のストレートなパンクサウンドで再会を約束するような「薬草」を演奏すると、最後にホワイトボードが登場し、この日使った布袋寅泰のギターやバニラの求人などの小道具の一部を貼り付けていくと「モルタル」という文字になるという、見事な伏線回収っぷり。笑いの後には感動が待っているという意味で、四星球は本当に強い、強すぎるライブバンドだ。
もう完全に撤収みたいな空気が会場に漂っていて、実際にステージ背後の暗幕が外されてコンクリートの壁が剥き出しになっていたのだが、その状態で再びメンバーがステージに登場すると、北島は
「普段こういうことしないんですけど」
とモルタルレコードの記念Tシャツに着替えている。確かに北島がこうしてイベントやライブTシャツを着ている姿はほとんど見たことがないのだが、
「初めてモルタルレコードのライブイベントに呼んでいただいたのは1stミニアルバムの「フーテンの花」をリリースした時だと記憶しております。その時はバックドロップシンデレラも一緒だったはずです。残り時間ちょっとしかないので、その中に入ってる、1分半の曲を最後にやります!」
と言って、石毛輝や小池貞利がステージ袖で見守っている姿が見えるくらいに暗幕が取り払われた中で演奏された「Teen」の
「大人の真似して大人になったんだ
大人のフリして大人になっちゃった」
は、直前のMCを聞いてからだと、リリース当時から年齢的にはもう大人であった四星球とバックドロップシンデレラがより大人になるまでバンドを続けていて、自分たちのスタイルと武器を信じて磨き続けてきたからこそ、あの頃よりもはるかにたくさんの人に求められる存在になり、だからこそ
「今が1番楽しいです!」
という言葉が一切の嘘も虚飾もなく響くんだろうなと思った。
「3月に出るアルバムが、モルタルレコードの年間チャートで1位になるように20周年頑張っていきます!the telephonesのファンの方も、the dadadadysのファンの方も、今日居合わせたからには今年1年、我々四星球をよろしくお願いします!」
と、あくまで控えめというか押し付けがましくないのは全く変わらないけれど、アラバキでも20周年イベントが行われるなど、今年はいろんな場所でこのバンドがたくさんの人に祝福されるはずだし、そこで初めて出会うような人たちも今年1年だけじゃなくて、これから先もずっと四星球のライブで笑わされて泣かされていくんだろうと思う。パッと見は完全に面白いおじさんたちにしか見えないけれど、ライブが終わった後にはどんなバンドよりもカッコいいロックバンドに見える。やはり四星球は今のライブシーンの中で最強のライブバンドの一つだった。
1.鋼鉄の段ボーラーまさゆき
2.クラーク博士と僕
3.絶対音感彼氏 〜 スリル
4.君はオバさんにならない
5.ワンハンドレッドエイトビート
6.夜明け
7.Mr.COSMO
8.輪廻輪廻
9.レッツエンターテイメント
10.妖怪泣き笑い
11.薬草
encore
12.Teen
文 ソノダマン