いわゆる「踊れるロック」というサウンドが大流行していた2010年代前半。その流れに満を持して登場したのが、夜の本気ダンスというバンド名だけでどんな音楽をやっているのかよくわかる、ヤバイTシャツ屋さんとは真逆の名前を持ったバンドだった。
2014年に初のフルアルバム「DANCE TIME」をリリースすると、そのリード曲「WHERE?」が話題となり、その時期に下北沢で行われたオールナイトのライブイベント(VIVA LA ROCKの主催者である鹿野淳がDJ兼バンドへのインタビュアーとして出演していた)で見た、まだド新人だった頃の夜の本気ダンスのライブはお世辞にも良かったとは言えず、アルバムを聴いた時の期待値が高かっただけに少しガッカリしてしまったし、長らくこのバンドにはそういうイメージを持っていた。
しかし2年ちょっと前に出ていたフェスで久しぶりにライブを見てみたらビックリするくらいにライブが良くなっていた。そこに至るまでには西田一紀(ギター)がメンバーに加わったりというバンド内の変化もあったのだが、そうしてライブ力が右肩上がりになっている状態で今月リリースされたアルバム「Fetish」が一聴しただけで過去最高のクオリティのものであると確信できる内容だっただけに、これはこのツアーは見ておいた方がいいんじゃないかということで、リリースのわずか10日後から始まるツアーの初日となるこのZepp Tokyoワンマンに参加することに。
東京がファイナルでなくツアー初日(しかも東京はこの日のみ)というのはかなり珍しいが、それな京都のバンドだからなのだろうか。
18時開演にもかかわらず入場順で呼ばれたのが17時55分くらい、まだその後にも入場待ちの人はいるし物販の列も何故かやたらと長いままだしという状況だったので、これはかなり押すかもしれないと思っていたが、18時10分過ぎくらいには場内は暗転。一応当日券は出ていたが、別にこれもうソールドアウトでいいんじゃない?っていうくらいに後ろまで完全に満員状態。
普段おなじみの「ロシアのビッグマフ」ではなく、最新作「Fetish」の1曲目である「Ain’t no magic」のリミックス的な音楽が流れる中で新たな衣装になったメンバーたちがステージに登場すると、そのままSEを引き継ぐような形で「Ain’t no magic」からスタート。ステージ背面にある「Fetish」のジャケット写真を模した丸い部分に照明による光が妖しく映し出されていき、ライブハウスというよりもダンスフロアという感じの雰囲気に。
「Ain’t no magic」ではハンドマイクで自らがステージ上を踊りながら歌っていた米田貴紀が
「みなさん、踊れる準備はできてますか?」
と観客に問いかけると、「Fetish」のリード曲の一つである「Sweet Revolution」へ。
確かに「Fetish」の曲順においては2曲目なのでこの流れで演奏されてもおかしくないのだが、この曲のMVが公開された時に
「これはなんでシングルとしてリリースしなかったんだろうかというくらいにめちゃくちゃ良い曲だし、これはアルバムも凄いことになってそうだな」
と思った、こうしてこの日のワンマンに来るきっかけになったと言ってもいい曲なだけに、もっとクライマックス的な部分に持ってきた方がいいんじゃないかとも思うが、そうしないというところにバンド側のアルバムへの自信と、リリースされたばかりとはいえそのアルバムを軸にしたライブにするという意識を感じることができる。
「才能は By My Side」
というこれまでの代表曲のタイトルをちりばめた歌詞からもこの曲がバンドにとって一つの集大成的な曲であることが伺える。
そんな最新モードを表す冒頭だったので、その後もそのモードで押していくのかと思いきや、初期の「Afro」が合間に入ってくるのが油断できない。とはいえさすがワンマン。
「手を叩け」
のフレーズの後の手拍子も客席はバッチリ揃っている。
米田がおなじみの
「僕たちが京都から来た、夜の本気ダンスです」
と挨拶をすると、
「Zepp Tokyo〜!」
と声を張り上げたのはこのバンド最大の飛び道具的存在のドラマー・鈴鹿秋斗。この日の物販が先行販売の開始時間からずっと大行列だったことに触れ、
「物販にたくさん並んでいただいてありがとうございます。並び過ぎてて人が足りてないんじゃないかみたいな意見もいただきましたが、普段お前らそんなに俺らの物販並ばんやないか!(笑)
いつもの感じで待ってんねんこっちは!(笑)
でも終わった後にみんなが汗かいても並ばずにTシャツ買えるように増員します!」
と宣言。確かにフェスなどでもこのバンドの物販がそこまで並んでいるイメージは全くないが、ツアー初日で今日から新グッズ発売やそのデザインの良さなどの要素もあるとはいえ、そこまで物販にたくさんの人が並ぶようになったのはこのバンドが
「このバンドのグッズを身につけたい」
と思わせるような存在になっているからだとも思う。
そうしたファンの人たちの雰囲気もまたワンマンに来ないとなかなかわからない部分であるが、満員なのに意外なくらいに始まっても前に押し寄せて圧縮したりせずに、各々が踊りやすいような場所にいて、しかもバンドの音楽のタイプ的には「楽しければいい」的な人もいそうですらあるのに、そういう人は全然いなかった。みんな踊れる曲は踊り、そうでない曲は集中力高く演奏するメンバーの姿を見て音に浸っている。それもまた「Fetish」というアルバムの良さをみんなわかっているからこそそれを最大限に堪能したいという意識の現れだと思う。そういうバンドはその場限りで消費されることなく、長く愛されていく存在になっていくはずだ。
そんな鈴鹿のMCを経ると、先行シングルの「Magical Feelin’」からはポップなダンスナンバーが続く。この曲のインタビューで米田はSUPERCARの曲を意識していたということを話していたが、聴いていてもそんな感じは全くしない。それはそうした影響を受けた音楽もこの4人のフィルターを通せば夜の本気ダンスの音楽になるということだろう。
そしてライブを見ているとこのバンドは西田、マイケル(ベース)、鈴鹿という米田以外の3人全員がコーラスをするバンドということがわかるのだが、高音=西田、中音=鈴鹿、中〜低音=マイケルという各々の声質を活かした役割分担がしっかりできていて、「Oh Love」というポップな曲ではその3人のコーラスが絡むことで美しいハーモニーを生み出していた。
観客による曲間の
「鈴鹿さーん!」
という声援に
「はーい!」
と待ってましたと言わんばかりに鈴鹿が勢いよく返事すると、
「もっと俺のこと呼んで!なんなら他のライブでも俺のこと呼んで!(笑)
フレデリックのライブで「鈴鹿さーん!」って呼んでくれたら後ろの方から「はーい!」って返事するから!(笑)
2度とフレデリックのライブ見せてもらえなくなるかもしれないけど(笑)」
と止まらぬ舌好調っぷりの後にはシングル曲であるにもかかわらずそこまでライブで演奏されることは多くないという(終わった後に近くにいた人たちがそう言っていた)「SHINY」から、このバンドの長い尺のライブではおなじみの、MCはおろか曲間すらも一切なし、ライブならではのアウトロとイントロをダンサブルに繋ぐアレンジが施された「本気ダンスタイム」へ。
その冒頭の「BIAS」のイントロからアレンジが施されまくっているのでもはや曲が始まる前から踊らざるを得ないのだが、米田がギターを置いてハンドマイク状態となってネクタイを外して本気ダンスモードになった「fuckn’ so tired」といういわゆるフェスやイベントでもおなじみの代表曲的な曲をノンストップで演奏するのがこの「本気ダンスタイム」だと思っていたのだが、このパートの中に「NAVYBLUE GIRL」と「Take it back」という最新作の曲が入っているというのがバンドサイドがこの「本気ダンスタイム」というパートを最新のものに更新していこうという気概を感じるし、そもそもリリースされたばかりの曲たちをこうしてライブでのアレンジを追加するということはこのツアーが始まる前からメンバーたちが曲を練り上げていたことの証でもある。
この「本気ダンスタイム」はそもそもはDOPING PANDAがライブでやっていた「無限大ダンスタイム」を引き継いだものであると思われるが、自分たちの前の世代のダンスロックバンドの偉大な先輩の意志を継いで行こうという意志もこのバンドが日本のロックの横軸だけでなく縦軸も自分たちの活動によって伝えて行こうとしていることの形の一つである。
その「本気ダンスタイム」が終わると曲間にわずかな沈黙が訪れ、観客から
「鈴鹿さーん!」
という声がやはり上がると、
「次はそういう雰囲気の曲じゃないねん(笑)」
と鈴鹿がそれでも声援には対応するという律儀さを見せてから演奏されたのは「Music For Life」、さらに米田が
「ラブソングです」
と言って演奏された、「Fetish」の中でも踊らせるというよりも聴かせるタイプの曲たち。そうした曲を聴いていると「Fetish」が今までのこのバンドの作品の中で1番良いなと思えるのは「踊れる」とか「楽しい」という要素よりもメロディの振り切れっぷりだと実感する。(個人的にはそれの現状の最高峰が「Sweet Revolution」だと思っている)
鈴鹿だけでなくマイケルとさらには独特のクールな色気を振りまきながらギターを弾く西田の喋る姿を見ることができるのはワンマンならではであるが、他にこんなにゆっくり、かつテンションが全く変わらずに喋るバンドマンがいるだろうかと思うくらいにマイペースな西田が「筆舌に尽くしがたい」というフレーズをラジオで連呼していることについて鈴鹿が、
「お前の担任の先生どんな感じやったん!?」
と西田の成長過程に疑問を呈す場面もあったが、「Crazy Dancer」からはまさに会場はクレイジーなダンスフロアと化していく。
マイケルによる最後のサビ前の
「踊れ東京!」
という言葉の前から踊りまくる景色を描いた「WHERE?」はやはりこのバンドきってのキラーチューンであるが、やはり西田のギターのキレ味は前任者によるものだった音源とはまるで別次元だし、それは音の炎が燃え盛っているかのようにロックに振り切れた「MONSTER」にも遺憾無く発揮されていて、明らかに前半とはバンドのグルーヴが全然違う。同じライブの中でもそれが育っているのが目に見えてわかる。
そんなライブにトドメとばかりに放たれたのはドラマ主題歌としてこのバンドの存在をお茶の間にも浸透させた「TAKE MY HAND」。鈴鹿の手数の多いドラムとマイケルのうねるベースラインはこの2人が面白い人たちというだけではなく、このバンドのダンスの部分を担っている人たちであるということを何よりも雄弁に語ると、最後に演奏されたのは「Fetish」の最後を飾る曲である「Forever young」。その瑞々しいメロディはまさにヤングな雰囲気に満ちているが、かつて「ヤングアダルト」というタイトルの作品をリリースしたことのあるこのバンドが放つ「Forever young」は踊っていればそこにいる人は全員ヤングなままだと言っているかのようだった。
アンコールでは鈴鹿のみツアーTシャツに着替えて登場し、やはり物販のスタッフを増員してこの後も物販を展開することを告げると、
米田「この僕らの後ろの穴はなんだかわかりますか?これは「Fetish」のジャケットを模しているんです。僕らが穴の中を覗き込んでいるっていう」
マイケル「後ろからデカい俺たちが演奏してる俺たちを覗いてるんちゃうの?(笑)」
米田「いや、それはない…(笑)その穴の中がなんなのかはみなさんに委ねます」
と今回のセットの意図を明かし、さらには米田が
「自分の人生の中でも最高だと思える作品ができました」
と「Fetish」の手応えを語る。まだツアー初日であるし、その真価はこれからさらに発揮されていくのだろうけれど、自分が「今までの夜ダンの中で最も良い作品」と思ったことはやはりメンバーも同じ思いを持っていた。それくらいに今までのアルバムとは違う、これぞ決定打的なアルバムだと思うし、その思いはライブを見てより強くなった。
そんな「Fetish」の中でまだやってない曲があると紹介されたのは、Creepy NutsのR-指定をフィーチャーした「Movin’」。しかしこの日はCreepy Nutsが他の場所でライブがあるために来れないということで代わりにラップをしたのはなんと鈴鹿。当然ドラムを叩きながらR-指定の高速ラップを担ったのだが、ヒップホップの要素を過去最大に取り入れたこの曲のリズムをキープしながらということを考えれば大健闘のラップだったと言っていいだろう。
そして最後に演奏されたのはやはり「戦争」。最後のサビ前には観客を全員座らせてから一斉にジャンプさせるというおなじみのパフォーマンスもあったが、これをやると観客の盛り上がりもステージ上のメンバーの熱量もさらに上がったように見えるのが不思議。西田は頭を横にブンブン振りながらギターを弾いていたが、
「マジで マジで 来ないで 戦争」
というアホみたいにわかりやすすぎる、裏側にある意味なんかを深読みする必要もないくらいの歌詞は年々この国においてもリアルさを増してきてしまっている。つまりこの曲にはメンバーの確かな意志が宿っているということ。
演奏が終わると「Fetish」の掛け声で写真撮影が行われ、鈴鹿は西田のギターピックを勝手に客席に投げ込みまくると、
「ツアー行ってきます!もっと楽しみたい人は旅行がてら他のとこにも来たらええやん!みんなも明日から日常行ってらっしゃい!」
と最後まで独自のセンスを存分に発揮してステージを去っていった。こういう楽しい日があるなら翌日からの日常も頑張れるなと思った。
自分が持っていた初期のこのバンドのイメージは「ドラムの人が面白いダンスバンド」というものだった。しかし今はもうそれとは別バンドだ。もちろん西田の加入というのはバンドをガラッと変えただろうが、それだけではないはず。ちょっと前までは鈴鹿もバンド以外の仕事をしていた。そんな生活から100%音楽のことを考えていられるような生活に変わった。それは技術はもちろん精神的にも大きな変化だったはずだし、そうした生活を選んだということはそのまま音楽で生きていくという宣言でもある。そんなバンド内の意識の変化がこのバンドが変わった1番の要因だと思うし、「Fetish」とこのワンマンはそのバンドの変化が過去最高に如実に見えていた。つまりこのバンドは「面白くて踊りまくれるライブバンド」にしっかりと進化していた。
しかし大きなフェスでは万単位のキャパのステージすらも入場規制がかかるくらいの存在であることを考えると、まだまだ売り上げやワンマンの動員がそこと開きがあるように感じてしまう。鈴鹿が
「大ヒット曲はないけど、1枚のアルバムとライブで踊らせてみせる!」
と言ったように、ドラマ主題歌になった「TAKE MY HAND」もそのタイアップの大きさに見合うような売り上げを得ることはできなかった。
でもこれからそんな状況は変わっていきそうな予感がしている。なぜならそこから脱するために最も大事なものをこのバンドは「Fetish」でついに手に入れたからである。
1.Ain’t no magic
2.Sweet Revolution
3.Afro
4.Magical Feelin’
5.Oh Love
6.SHINY
-本気ダンスタイム-
7.BIAS
8.fuckn’ so tired
9.NAVYBLUE GIRL
10.escape with you
11.Take it back
12.Music For Life
13.Eternal Sunshine
14.Crazy Dancer
15.WHERE?
16.MONSTER (Rougelike life)
17.TAKE MY HAND
18.Forever young
encore
19.Movin’
20.戦争
文 ソノダマン