ロッキンオンが主催する若手バンド主体のライブイベント「JAPAN’S NEXT」。渋谷でのサーキットフェスに生まれ変わってからは3回目の開催。毎回チケットは即完となっており、今の若手ロックシーンの活況っぷりをうかがわせる。
渋谷道玄坂エリアのO-EASTをメインステージとし、duo MUSIC EXCHANGE、O-WEST、club asia、O-nest、O-Crest、VUENOS、Gladと8会場を使って次代を担うバンドが次々に出演するというシステムであり、ここで結果を出すことが夏のROCK IN JAPANや冬のCOUNTDOWN JAPANにつながることを考えると出演者にとっては実に大きな30分である。
12:00〜 PELICAN FANCLUB [O-WEST]
O-WESTのトップバッターはPELICAN FANCLUB。昨年のアルバム「Boys just want to be culture」がすごく良い内容だっただけに、ライブを見てみたかったバンド。その前にギターが脱退したが、サポートメンバーを入れずにスリーピースという体制でリスタートを切っている。
SEが流れてメンバーが登場すると、ベースのカミヤマリョウタツのピンク色の髪が目を惹く中、盛り上がるわけでもなく踊れるわけでもない深遠なる世界を描くこのバンドならではのギターロック「Night Diver」からスタートし、エンドウアンリ(ボーカル&ギター)の時には囁くような、時には強く単語を発するようなボーカルにカミヤマのコーラスが絡み合っていく「Telepath Telepath」、タイトルフレーズのリフレインがクセになる「ハイネ」という昨年の傑作アルバムに収録されている曲を続ける。
ギターロックバンドというフォーマットで思い浮かぶサウンドを余すところなく取り込んで自分たちの音楽として鳴らすバンドであり、今では珍しいシューゲイザー的なギターノイズが強い曲が多いのも特徴のバンドであるが、リリースされたばかりの最新EP「Whitenoise e.p.」のリード曲である「ベートーヴェンのホワイトノイズ」はそうしたこのバンドが持つ音楽の要素が強く出ている曲であり、これからもこのバンドのライブにおいては重要な位置を担う曲になりそうだし、スリーピースバンドとして鳴らされる前提で作っている曲なだけに、カミヤマとシミズヒロフミ(ドラム)のグルーヴの強さがギターノイズに負けることなく活かされている。
イベントのトップバッターという立ち位置でありながらエンドウは
「JAPAN’S NEXTって次世代を担う的な意味もあると思うんですけど、俺たちが次世代を担うバンドになります」
と宣言して「Luna Lunatic」「記憶について」という、Radioheadなどの影響が色濃い過去の作品からの曲を演奏したが、これらの曲はそもそもが4人時代に作られた曲であるためにギターがエンドウのみというのは少しサウンドの厚みとしては物足りなく感じてしまう。
しかしそれは本人たちが1番良くわかっているはずだし、それでもサポートを入れず、打ち込みの音すら使わないというのは、今の3人で過去の4人時代を超えていこうという意志の表れでもある。すでに曲や作品のクオリティという意味ではそこはクリアしている。あとはライブでそこを超えることができた時には、エンドウの言葉通りにこのバンドが次代を担うバンドになれているはずだし、すでに独特な立ち位置を獲得しているだけにそこに挑めるポテンシャルは充分持っている。
1.Night Diver
2.Telepath Telepath
3.ハイネ
4.ベートーヴェンのホワイトノイズ
5.Luna Lunatic
6.記憶について
12:30〜 Co shu Nie [duo MUSIC EXCHANGE]
アニメタイアップの楽曲で支持層を広げているスリーピースバンド、Co shu Nie。このイベント初出演にしてキャパ的には2番目に位置付けられているduo MUSIC EXCHANGEへの出演となったのは期待の表れと言えるだろう。
ダークな感じのSEが流れると、独特なオブジェやランプなどが置かれた仄暗いステージにメンバー3人が登場し、中村未来(ボーカル&ギター)が歌い始めたのはアニメ「約束のネバーランド」第2期のエンディングテーマとして起用された「Lamp」。深い闇の中で囁くように中村が歌うメロからサビでは一気に光の射し込む方へ飛翔していく構成は少年少女が閉ざされた場所から生きる場所を探しに行くアニメの内容を1曲で表現している。決して曲の全てをアニメに合わせたものではないだろうけれど、そう感じるのはこのバンドが持つ音楽の要素がアニメのストーリーと見事にシンクロしていたからである。
中村がハンドマイクで歌う「葡萄」を始めとして、このバンドの音楽にはピアノのサウンドが重要な役割を果たしており、レコーディングにおいては中村が弾いているのだが、ライブではサポートメンバーを入れるのではなく、ステージに置かれたシンセとPCで同期させていた。
そうなると生演奏するよりもライブ感が損なわれてしまいそうにも思えるのだが、そうはならないのは松本駿介のうねりまくるベースラインと藤田亮介の手数の多さと一打の強さを兼ね備えたドラムによるリズム隊の強さがあってこそ。ある意味では中村の描くダークな世界を音楽で表すために最適なメンバーたちであると言える。
「約束のネバーランド」第1期のエンディングテーマ(人気アニメに2期連続で曲が起用されるのはすごい。しかも「Lamp」と両A面シングルである)として話題を呼んだ「絶体絶命」もまたそのタイトルからしてアニメの前半ストーリーに合わせたかのようなタイトルと内容。アニメは一旦は終わったが、さらなる続編が制作されるということなので、できればこのバンドにまた音楽を担って欲しいし、それがこのバンドの音楽が広がるさらなるキッカケになって欲しい。それくらいにこの「Lamp」「絶体絶命」の2曲は「約束のネバーランド」にハマっていたし、自分がこうしてこの日この時間にこのバンドを見ようと思うキッカケにもなった。
しかし
「こうしたイベントやフェスに出ることは少ない」
と言いながらもライブを見ているとアニメのタイアップをやってるバンドというだけではない、ライブハウスで鍛え上げられてきたバンドであるというのがよくわかるくらいにライブで音源以上に自分たちの真価を発揮できるバンドだったというのは嬉しい誤算と言ってもいいものだったが(ここまでライブ感を感じられるとは予想していなかった)、「永遠のトルテ」の途中で中村のギターの弦が切れてしまうというアクシデントが発生すると、中村が曲間で一旦ステージから掃けて行ってしまう。
その間に髪型の両サイドだけ茶色に染めているという独特なカラーリングをしている松本が、
「10代の頃とか髪を染めたりするの怖くなかったですか?(笑)毛根死んでツルってなりそうで(笑)
だから僕がいずれ両サイドだけ髪がなくなっていたらそういうことだったと思ってください(笑)」
という演奏中のダークな世界観やバンドの雰囲気からは想像できないくらいに面白い関西の兄ちゃん的な場繋ぎMCで爆笑を巻き起こすとその間に中村がステージに戻るのだが、こうしたアクシデントが起きた時にすぐさま対処できるような経験はまだないのだろうな、とも思ったが、だからこそ松本の咄嗟であろうMCは見事だった。
「東京喰種」のアニメタイアップに起用されてバンドの名前を一躍世に広めたメジャーデビューシングル「asphyxia」はイントロが演奏されるだけで歓声が上がり、アニメの影響力の大きさを感じさせるとともに、「約束のネバーランド」同様にダークな内容のものだからこそこのバンドの音楽が求められたのだろうな、とも思う。
そしてラストは「butterfly addiction」から、かつてロッキンオン主催のオーディションRO JACKにこのバンドが参加して入賞に選出された曲である「迷路」。もう8年も前の出来事であるし、メンバーはそのことを口にはしなかったけれども、ロッキンオンのイベントに出れるようになったからこそこの曲を最後に演奏しようという意識は少なからずあったはず。8年も前にロッキンオンのフェスに出たいと思っていたバンドが自分たちだからできる音楽を研ぎ澄ませてこうしてロッキンオンのイベントのステージに立った。もしかしたら、アニメのタイアップよりもメンバーが求めていたのはこの場所であり、まだ立っていないフェスのステージなのかもしれない。
1.Lamp
2.葡萄
3.絶体絶命
4.永遠のトルテ
5.asphyxia
6.butterfly addiction
7.迷路
13:30〜 秋山黄色 [club asia]
Co shu Nieがギターの弦のトラブルもあって時間が押したことによって、O-EASTのネクライトーキーを諦めて早めにclub asiaへ。今年リリースしたミニアルバム「Hello my shoes」が2019年の個人的ベストディスクのTOP3に入るくらいの名盤であり、この日の出演者の中でも楽曲の良さという面ではトップだと思っている(全ての出演者の曲を聴いているわけではないけれど)秋山黄色、ジャパネク初出演。
おなじみのカワイリエ(ベース)、ナガシマタカト(ドラム)に、長い金髪に覆われて目線が見えない秋山黄色(ボーカル&ギター)というスリーピース編成で登場すると、未発表曲ながらライブではおなじみの、シンプルなパンクサウンドで
「君がいれば なにもいらない!」
と叫ぶように歌う「スライムライフ」からスタート。サウンドチェックの時から少し感じていたが、2月のO-Crestでの主催ライブの時と比べて音作りが少し変化したように思える。マイクのリバーブの強さにそれが顕著に感じられたのだが、澄んだ少年っぽさもありながら陰の部分も含んだ、「宇都宮の若いフリーター」という秋山黄色のプロフィールそのもののような声がより一層映えるようなサウンドになっており、ライブでその声の良さがもっと伝わるような予感がする。
個人的には配信リリースされた最新曲「クソフラペチーノ」がパンクサウンドの曲であるだけに、この曲は追いやられてしまいそうな予感もしていたが、こうして持ち時間の短いイベントでも演奏されるということはお蔵入りにはならなそうで一安心である。
耳から離れなく中毒性の高いギターリフと、NUMBER GIRLの影響を強く感じさせる重いリズムが響く「やさぐれカイドー」では秋山黄色がサビだけではなくメロディから叫ぶようにして歌う部分が増え、ライブを重ねてきたことによって会得・体得してきたものが反映されているように感じる。
「薄暗い 部屋 今日も一人」
という引きこもり的な歌詞が秋山黄色の人間性を強く感じさせるが、
「明日になったら変わるから 世界もそれなり笑ってよ」
とサビではその状況から抜け出そうと外の世界の光に手を伸ばす「クラッカー・シャドー」もやはりメロディは実にキャッチーだし、ギターリフは一度聴いたら忘れられないくらいの中毒性を持っている。すでにライブでは演奏されてきていたが、アルバム後の配信でこうしてクオリティの高い曲がリリースされると秋山黄色というアーティストの曲の平均値が物凄く上がるし、同時にハードルもさらに上がるのだが、それすらもこれからもやすやすと飛び越えていきそうな予感がしている。
「サーキットって被りによってはキツいところは本当にキツいじゃないですか。前に神戸のサーキットに出たことがあるんですけど、本当にガラガラで…。でも今日はこんなに人が来てくれて嬉しいです。来年はO-EASTで会いましょう」
とかつて悔しい思いもしたサーキットイベントで満員(入場規制もかかっていた)にできたことの喜びと、これからの自信を語ると、パンクな最新曲「クソフラペチーノ」ではカワイリエが「もっと盛り上がろう!」と言わんばかりにベースを弾かない部分で客席を見ながら指をぐるぐると回すが、
「スタバに行ったって コーヒー飲んだって
お洒落な事とかできないんだ 僕だしな」
というお洒落や流行りに乗りたくてもそういう人生を歩むことができない自分にとってこの曲のこのフレーズほど共感できるものはない。パッと見では秋山黄色はそこに馴染めそうな出で立ちではあるが、
「顔だけならいいけど心もだ」
と歌っているだけにやはり変わろうとしても変われないものがあるのだろう。
そして
「いろんなアーティストが出てるから早く移動して他の人を見たい人もいるだろうけど、渾身の「猿上がりシティー・ポップ」で移動できなくさせてやる!この曲を聴いて移動できるもんならしてみろ!」
と「クソフラペチーノ」の歌詞とは裏腹に強い自信を感じさせた「猿上がりシティー・ポップ」はかつてないほどに秋山黄色のボーカルの伸びやかさを感じさせ、もっと大きな場所、それこそ初出演が決まっているROCK IN JAPANの大きなステージで鳴る日が来るんだろうな、という予感を感じざるを得なかった。
この日、客席にはロッキンオンジャパン総編集長の山崎洋一郎がいた。かつてチャットモンチーや9mm Parabellum Bulletがデビューした時に山崎洋一郎が新人紹介のページで記事を書いていて、自分はそれを見てそれらのバンドをデビューした時からずっと見ることができた。ロッキンオンジャパンでは様々なライターの方が記事を書いているけれど、自分が1番好きになる、というか自分に1番合うアーティストを紹介したりインタビューしたりしているのが山崎洋一郎なだけに、その山崎洋一郎が今自分が最も推している存在と言える秋山黄色のライブを見ているというのが実に嬉しかった。
ましてや山崎洋一郎は今はもうほとんど新人を紹介するということはしておらず、そこは若手のライターの方に任せて、古くから付き合いのあるアーティストのインタビューを主としている。そんな山崎洋一郎が目をかけているということは、これからロッキンオンのフェスやイベントで秋山黄色のライブがたくさん見れるだろうし、誌面でもフィーチャーしてくれるはず。で、それは無理なゴリ押しとかじゃなくて、そうすべき曲を作ってライブをしているからだ。初めて出るロッキンでこの男がどんな景色を見せてくれるのか。それまであと1ヶ月もないが、今月はまた渋谷でFINLANDSというこれまた自分が注目しているバンドとの2マンを見ることができる。これからもっと楽しくなるし、忙しくなるだろうな。
リハ.Drown in Twinkle
リハ.猿上がりシティー・ポップ
リハ.やさぐれカイドー
1.スライムライフ
2.やさぐれカイドー
3.クラッカー・シャドー
4.クソフラペチーノ
5.猿上がりシティー・ポップ
14:00〜 SIX LOUNGE [O-EAST]
これが3回目の開催となるJAPAN’S NEXTにおいて、第1回の開催時もメインであるO-EASTに出演、その時はまだ抜擢感があったが、今や様々な巨大フェスに出演しまくっているだけにこの中のメンツでは頭一つ抜け出し、O-EASTで当然という存在になりつつあるSIX LOUNGE。
メンバー3人が登場するとおなじみの革ジャン姿のヤマグチユウモリ(ボーカル&ギター)が叫ぶようにして挨拶すると、「僕を撃て」でスタートし、「LULU」とロックンロールに加速していくのだが、O-EASTですら入場規制がかかるくらいの超満員っぷりで、しかもみんなこのバンドの曲をしっかり知っているというあたりに今このバンドが若いロックファンに求められている存在であるということを改めて感じさせる。
なのでナガマツシンタロウ(ドラム)による、
「ねぇねぇそこの女の子(男の子)
ロックンロールは大好きかい?」
というフレーズにはここに集まった全ての人が胸を張って「イエス」と答えるであろう。何がどうなってそうなったのかわからないが、イワオリク(ベース)のマイクスタンドが物凄く低い位置になっており、いつも以上に屈んだり、あるいはステージ上で膝立ちになってコーラスをしていたのはちょっと面白かった。
ショートチューン「ピアシング」でパンキッシュな部分も見せると、
「前回は出してもらえなかったから、嫌われたのかと思っていた(笑)」
とステージ上でのロックンロールバンドとしての堂々とした姿とは裏腹に少し気弱なところをユウモリが感じさせると、最新シングル曲「天使のスーツケース」で激しいロックンロールだけではないこのバンドの持つメロディの良さをしっかりと大きな会場に響かせていた。ロックンロールバンド自体は小さなライブハウスに行けばたくさんいるけれど、そこから飛び抜けるような存在になるのは実に難しい。そんな中でこのバンドがここまで来れたのはロックンロールが好きな人以外にも響くようなメロディを描く力を持っているからだ、ということがよくわかるし、それはこれからさらに発揮されるような曲が生み出されていく予感がする。
その「天使のスーツケース」のカップリングに収録されている「DO DO IN THE BOOM BOOM」も続けて演奏されたが、シングルリリース前には同じくカップリングに収録されることになった「Lonely Lovely Man」をよく演奏していた。リリースペースがやたらと速いバンド(9月にも早くもシングルが出る)だし、ライブで新曲をやることも多いだけに、30分くらいのイベントでのライブであってもセトリが毎回変わる。だからこそマンネリ感は全くない。そこもまたこのバンドが既存のロックンロールバンドたちと違う部分と言えるかもしれない。
そしてラストは「ふたりでこのまま」から「メリールー」という甘さを含んだロックンロール・ラブソング。とりわけ「メリールー」のラストの
「ねぇ、わたし大人になりたくない…」
というフレーズを歌うユウモリの太いながらも艶やかさを感じさせるボーカルの伸びっぷりは少女が発する言葉というシチュエーションにこの上ない説得力を与えていたし、きっとこの曲の少女に自分を重ねる若い女性ファンもたくさんいるのだろうな、と思った。
このイベントに出るバンドには器用だったり、世界の流行りに敏感なバンドも多い。そうした要素を持っていることによって若手シーンの中から飛び出したり、流れに上手い具合に乗れたりするバンドもいるかもしれないが、そうした流行りに合わせる器用さを一切持ち合わせていない、ひたすらにロックンロールであろうとするだけでここまで来たSIX LOUNGEの姿を見ていると、やはり自分たちの信じる音楽を迷いなく鳴らし続けるバンドが1番強いんじゃないか、と思える。
1.僕を撃て
2.LULU
3.トラッシュ
4.ピアシング
5.天使のスーツケース
6.DO DO IN THE BOOM BOOM
7.ふたりでこのまま
8.メリールー
14:30〜 Suspended 4th [O-nest]
SIX LOUNGEが終わってから階段を駆け上がってO-nestの中に辿り着くとすでに超満員。しかもサーキット型イベントというとだいたいどんな感じのライブなのか様子を見てみる、的な人も多いので客席は大人しめになることが多い(ましてやダイブ禁止のロッキンオンのイベントなだけに)のだが、客席の治安がやたら悪いというか、全く大人しくない歓声が上がりまくっている。
その歓声を受けていたのが、名古屋の4人組バンド、Suspended 4th。すでにライブハウス界隈では話題を呼んでいるバンドであるが、あらゆるロックのカッコいい部分のみを超絶技巧の演奏テクニックでもって自分たちの中に取り込み、ライブで爆発させるというスタイルはすでに演奏が始まっていた「INVERSION」から炸裂しており、同じ場所で昼と夜が切り替わるMVからもわかるように、曲最後には一気にまるでOasisかのような壮大なメロディによる
「Don’t lend me bend my fire
Don’t lend me bend my feeling」
というフレーズをワシヤマカズキ(ボーカル&ギター)が「歌え!」と煽ることによって大合唱が起こり、その歌声がバンドの演奏と絡み合ってさらなるグルーヴを生み出している。
タイトルからもわかるとおりに、ワイルドな風貌の他のメンバーとは全く異なる黒髪にメガネという出で立ちのサワダセイヤのギターリフがクセになる「ストラトキャスター・シーサイド」は現在の日本のロックシーンのど真ん中で響いても全くおかしくないダンスロックチューン。
まだまだ序盤であるが、
「あと15分か。あと2曲だな(笑)」
とワシヤマがボソッと呟くと、
「1曲が長すぎだろ!(笑)」
というツッコミが客席から飛ぶという、バンドとファンによる愉快犯的な共犯関係がすでに出来上がっている。
そんな中で演奏された、雨が降るこの時期だからこそという「Rainy, Rainbow later」ではややレイドバックした、サーフミュージックなどの要素も取り込みながら、ステージ真ん中で激しく体を揺さぶりながらベースを弾くフクダヒロム、見た目からして存在感がありすぎる濃さを持つ(ハーフ)ルワブ・デニスのドラムと、メンバーそれぞれのフリーキーなセッション的なソロも展開される。メンバー同士が顔を見合わせてタイミングを計りながら演奏していただけに、フレーズも尺もあらかじめ決めているのではなくその場の雰囲気やバンドのノリで展開しているのは間違いないが、ワシヤマは
「俺たちに決まりやルールはない。MCもセトリも決まってない。だからお前らに俺たちがついていくんじゃなくて、俺たちは好きなようにやるから、お前らがついてこい!そして来年はO-EASTで待ってるぜ」
と自分たちのスタイルを示し、最後に演奏されたのもこうした持ち時間の短いイベントではまず普通はやらないであろう新曲。その新曲の放つ、炎が噴き上がるかのような音のぶつかり合いによる迫力。初めてライブを見てこんなにも体の奥底から震えるような感覚は一体いつ以来だろうか。JAPANのNEXTを担うのはこのバンドなのかもしれない。
このバンドは先月のパンク・ラウドの祭典的なフェス、SATANIC CARNIVALにも出演していたが、そこでPIZZA OF DEATHと契約したことを発表した。PIZZA OF DEATHはHi-STANDARDの横山健が設立したレーベルであり、近年はWANIMAがPIZZAからデビューしたりと、パンクのレーベルというイメージが強い。
しかしSuspended 4thはパンクの要素を含んではいるけれど、決してパンクバンドではない。PIZZA OF DEATHはパンクだけのレーベルではないけれど、このバンドと契約した理由は、音楽とライブがカッコいいというのはもちろんのこと、かつてのハイスタやWANIMAがそうであったように、聴いた人やライブを見た人が「こんなカッコいいバンドやりたい!」と思えるようなバンドであるということ。きっとこれからこのバンドに憧れてバンドを始めるような人がたくさん出てくる。こんなバンドがいるんだから、まだまだバンドという存在は死なない。
1.INVERSION
2.ストラトキャスター・シーサイド
3.Rainy, Rainbow later
4.新曲
15:00〜 ドミコ [O-WEST]
前回のこのイベントではclub asiaを満員にした、ドミコ。今回はO-WESTと規模を拡大。今や様々な有名バンドから対バンに誘われるようになっており、バンドマンからの評価も高いが、O-WESTすらも完全に満員になっていて、バンドをやっている人だからわかるというわけではないところにしっかり足を踏み入れている。
ステージ上手にさかしたひかる(ボーカル&ギター)、下手にさかしたの方を向くように長谷川啓太のドラムという立ち位置で、間にはおなじみの「Domico」という鮮やかな電飾が置かれている中、いきなり新曲の「What’s Up Summer」からスタート。電飾の効果もあってか、タイトルとおりにどことなく夏っぽさを感じさせる。
さかしたがギターをその場でループさせて何層にも重ねることによって音の厚みを生み出し、たった2人というロックバンドにおける最少編成であることを「制限」ではなく「自由」として描く、「わからない」からのサイケデリックの海を遊泳するかのようなサウンド。横を向いているがゆえに表情はほとんど見えないけれど、長谷川は汗を飛び散らせながら手数の多いドラムでドミコのリズムを担う。
短い持ち時間のライブであるがゆえにMCも一切なし、曲間でもさかしたがギターをループさせて次の曲につなげるだけに、常にバンドの音に浸っていられるし、テンポが実に良い。規模が大きくなってもさかしたの飄々とした空気も全く変わらないが、そんな中で一つ前回のこのイベントや、対バンの時とは違うな、と思ったのは、さかしたのボーカルの強さ。最初にこのバンドのライブを見た時(もう5年前のことだ)は、正直言って何を歌っているのかほとんどわからなかった。そもそも歌詞に強いメッセージを込めたりするというよりも語感や響きを重視しているタイプだと思うけれど(「ペーパーロールスター」なんかは明確に言いたいことがあることを感じるけど)、今はちゃんと歌詞が聞き取れるような歌い方になってきている。だからこの規模にちゃんと見合うように感じるし、それはきっとこれから先、もっと大きなステージに立ってもステージがバンドに比してデカく感じるということはないはず。
そしてラストの「ペーパーロールスター」はサイケデリックとかよりも素直にカッコいいロックバンドだな、と思えたし、それまではあまり動かずにステージを見ていた観客たちが音に合わせて体を動かしていた。決してわかりやすいバンドではないと思うけれど、ライブを見ればわかるものを確かにこのバンドは鳴らしている。
1.What’s Up Summer
2.わからない
3.こんなのおかしくない?
4.ロースト・ビーチ・ベイベー
5.バニラクリームベリーサワー
6.united pancake
7.ペーパーロールスター
15:30〜 2 [duo MUSIC EXCHANGE]
このイベント3回連続出演、つまりは皆勤賞のバンド、2。前回同様にduo MUSIC EXCHANGEへの出演となったが、この間にはボーカル&ギターの古舘佑太郎が映画やドラマなど様々なメディアに出るようになり、バンドへの風向きも変わってきているように感じる。
黒シャツの古舘、同じく黒のジャケットを素肌に着ているワイルドな赤坂真之介(ベース)、髪色とともに服もやはり黒のyucco(ドラム)、1人だけ色彩豊かな服を着て、髪をばっさりと短くした加藤綾太(ギター)の4人がステージに登場すると、4月にリリースされた最新アルバム「生と詩」収録の、古舘による言葉遊びが面白い「ニヒリズム」から4人が抱える衝動を全てステージの上で炸裂させるかのような熱量を放出しまくるギターロックというスタイルはこれまでと変わらないのだが、バンドのグルーヴの強さが目に見えて増している。
それは忙しいスケジュールの中でもバンドの活動ペースだけは落とさずにライブをやり続けてきたからこそのものであるし、それぞれのメンバーと目を合わせながら激しいドラムを叩きまくるyuccoの存在感はさらに大きくなっており、古舘はもちろん、銀杏BOYZのサポートメンバーである加藤の存在がフィーチャーされがちではあるけれど、この4人でのバンドであることの意味と向き合った曲を生み出してきたからこそというのもあるだろう。
しかしこのバンドは1曲1曲が短いということもあるが、まるでメロコアバンドのごときテンポの良さ。ライブだと音源よりも曲のテンポそのものが速くなっているし、喋るよりもひたすらに曲を演奏するというスタイルは古舘がこのバンドの前にやっていたThe SALOVERSの時から変わらない生き急ぎっぷり。きっと古舘はこのやり方しかできないのであろうけれど、それが変わっていないのは嬉しくもある。
そのテンポの良さがあるからこそ、最新作も含めてリリースされている3枚のアルバム全てから満遍なく曲が演奏されるという、30分という持ち時間の短さとは思えないベスト的な満足度の高さ。まだ自分はこのバンドになってからワンマンを見れていないのだが、ワンマンだとどんな感じになるのかというのも気になる。
一切のMCこそないが、
「友達の彼女を奪いたい!」
と脳内の悪魔のささやきを曲にしてしまった「ルシファー」から、ラストは機材車でツアーするバンドのことを歌った「フォーピース」。この曲ができたからこそ、よりこのバンドのグルーヴが増し、ライブがさらに良くなったと感じた。バンドのことそのものを歌った曲というのは得てして名曲になりがちであるが、この曲もやはりそうである。幼馴染によるバンドだったThe SALOVERSとは違う、それぞれがかつてバンドで挫折するような経験をしてきたメンバーが集まったこのバンドだからこそこの曲ができたのは非常に大きいし、このバンドのテーマソングと言ってもいいような曲だ。目に見えないものじゃないと、分かり合えない4人だから。
The SALOVERS時代から映画に出たりしていてその演技力には定評があったとはいえ、今や古舘は注目の若手俳優的な立ち位置になるくらいの存在になっている。
そうなるとそっちの方に活動をシフトして…となっても良さそうなものであるが、古舘は決してバンドを諦めることをしなかった。このバンドも、The SALOVERSも、正当な評価を得られているなんて全く思ってないし、古舘にはバンドじゃないと表現できないものがあることがわかっている。だからこれからもバンドで音を鳴らすのだろうし、そうしてきたからこそ、古舘は今年の夏、実に7年ぶりにロッキンに帰ってくる。The SALOVERSとして2回立ったSeaside STAGEはもうなくなってしまったけれど、あのフェスに出ることで映画やドラマを通して古舘佑太郎の存在を知った人が古舘の音楽に触れるキッカケになってくれたら、と心から思う。
1.ニヒリズム
2.PSYCHOLOGIST
3.Family
4.ケプラー
5.急行電車
6.DAY BY DAY
7.SとF
8.ルシファー
9.フォーピース
16:00〜 ハンブレッダーズ [O-EAST]
前回のO-WESTから一気にメインのO-EASTにジャンプアップ、しかもメインエリアはすでに入れず、2階席に案内されるというくらいの状態が注目度の高さを感じさせる、ハンブレッダーズ。
相変わらず会場の外を歩いていても絶対気づかないだろうな、というくらいに素朴な出で立ちのメンバーたちが登場すると、青春時代のロックとの原体験を曲にした、「ネバーエンディング思春期」をコピーに掲げるこのバンドのテーマソング的な「DAY DREAM BEAT」からスタートし、ツイッターがバズりまくっていることも納得な言葉遣いの面白いムツムロアキラの歌詞とメロディメーカーっぷりがわかる「口笛を吹くように」「フェイクファー」とサウンドはシンプルであるがこのバンドでしか歌えないギターロックが続く。
「インスタで風景とかを上げてたんですけど、この前、ベースのでらしの顔を撮ってアップしたら今までついたことないくらいのリアクションが来て、今までは何だったんだ、って思いました(笑)」
とメンバーいじりを見せたが「常識の範疇」、さらにはこのバンドが誰に向かって音楽を鳴らしているのかというのを示すような「弱者のための騒音を」と続くことによって、そのメンバーたちが見た目に反して演奏が実に頼もしくなっていることがわかる。シンプルなギターロックであれど、でらしのベースはひなっちらを彷彿とさせるうねりを見せるし、ドラムの木島もそのうねりに合わせながらもギターロックバンドとしての疾走感を生み出している。
そして先日、正式メンバーからサポートメンバーに立ち位置が変わった吉野エクスプロージョンはサポートになったからといって一歩引いたり気を抜いたりするようなことは一切なく、メガネが吹っ飛ぶくらいの激しさでギターを弾きまくる。確かに形は変わったかもしれないけれど、その姿からは今でもこの4人でハンブレッダーズであるということが変わらないというのを感じさせる。
「僕には好きな言葉があって。甲本ヒロトさん(ザ・クロマニヨンズ)の
「やりたいことにくっついてくる、やらなきゃいけないことを克服できるパワーが大人になったら備わってくる。だからやりたいことは子供の頃から変わってない」
っていう哲学的な言葉なんですけど。
俺たちもギターの吉野が会社員っていう生き方を選んで、サポートメンバーになって。形は変わったけれど、続けなくちゃ見えないものがあるって思ってこれからもバンドを続けていきます」
とムツムロがこれからの自分たちの進む道に迷いがないことを語ると、大阪から東京に車で移動してくるときに見える夜景を曲にしたという「銀河高速」を最後に演奏した。2の「フォーピース」もそうたが、この曲も「バンドをやること」をそのまま音楽にしている。その音楽は今や弱者だけではなく、もっとたくさんの人のところまで届こうとしている。
そしてムツムロは今年、夏のロッキンに初めて出演できることを本当に嬉しそうに語っていた。しかもかつてチャットモンチーなど、様々なバンドが担った最終日のWING TENTのトリ。GRASS STAGEでは20年連続出演のDragon Ashがトリを務め、同じ時間には初出演のこのバンドがトリを務める。これまでフェスを担い続けてきたバンドと、これからフェスを担うであろうバンド。こういうバンドがいるからこそ、これからもフェスは続いていく。
1.DAY DREAM BEAT
2.口笛を吹くように
3.フェイクファー
4.常識の範疇
5.弱者のための騒音を
6.銀河高速
16:30〜 FINLANDS [duo MUSIC EXCHANGE]
3回連続出演。Glad→club asia→duo MUSIC EXCHANGEと回を重ねるごとにステージが一気に大きくなっている、FINLANDS。この間には長い年月、塩入冬湖(ボーカル&ギター)とともにバンドを続けてきたコシミズカヨ(ベース)が結婚のために脱退し、塩入1人に。以降はサポートメンバーを加えて変わらぬペースで活動を続けている。
16時半になると、すでにステージにスタンバイしていたメンバーたちはこのバンドの専用衣装というべきファーのついた北欧の国の人が着るようなコートを着用し、塩入とSAWAI(ギター)による印象的なギターリフが引っ張る、タイトルとは裏腹に全くバラードではないソリッドなロックンロール「バラード」からスタートし、まるでロックバンドをやるために持って生まれてきたかのような、塩入のハスキーかつ攻撃的な声が強く広く響き渡る。
昨年リリースの傑作フルアルバム「BI」収録の「electro」から「ウィークエンド」と、様々な曲調の曲があるこのバンドの持ち曲の中でも、短い時間のライブだからこそのアッパーなロックンロールを連発し、塩入は時にはステージ上を動き回りながら、歌う際には独特の一点をジッと見つめながら歌うというスタイル。
時には客席から「可愛い〜」という声が女性から上がるくらいに塩入は整った顔立ちをしているが、その姿はどこか怖さのようなものも感じさせる。
3月にリリースされた最新シングル「UTOPIA」からはタイトル曲ではなく、この日のセトリの中では最も聴かせるタイプの「衛星」を演奏。「UTOPIA」もそうだが、この「衛星」も、バンドを離れても塩入の1番の親友であるコシミズとの関係性を歌っている。だからこそ
「わたしの衛星は今晩も
何も知らないで迷っている
遠く遠く離れたらば綺麗だ
そう言ってくれる
なんて愉快だろう
衛星を離れていこう
衛星を離れていこう」
という違う道を選んだ2人のこれからへ贈る言葉のような歌詞で締められる。1人になってもFINLANDSはロックバンドであるから、そこにはこうして生き様のようなものが刻まれる。
それは同じく「UTOPIA」収録の「call end」も同様で、今までは塩入のボーカルとバンドのサウンドが同じレベルで鳴っていたように感じていたが、この日はバンドのサウンド以上に塩入のボーカルが強く聞こえた。だからといってバンドのサウンドが控え目になったというわけでは全くなく、それ以上の歌の力を塩入が獲得しているということ。それは技術とかではなく精神によるものだと思うし、そこからはこれからもFINLANDSというバンドの存在を自分が続けることによって守っていくという意志を感じる。
「今度、ライブ映像作品が出ます。それのリリースライブを9月に恵比寿リキッドルームでやりますので、30分で足りないっていう人は是非そちらで。映像作品の見所は、SAWAIさんが前に出てギターを弾いた時に「ウォー!」っていう男性ファンの方の野太い声が上がるところです(笑)
では最後の曲を。このあたりは治安が悪いところなんで、みんな寄るのはローソンだけにして直帰してください(笑)」
と言って最後に演奏されたのは塩入のハスキーな声がさらに迫力を増した「クレーター」。きっと万人が受け入れるような声ではないというのは初めて聞いた時から変わらないが、それでもこんな声で歌える人は他にいないと思うし、その声がFINLANDSというバンドのかっこよさの最もわかりやすいところでもあると思う。
ハンブレッダーズ同様に、FINLANDSもまた今年初めて夏のロッキンに出演する。塩入もそのことにMCで触れていたが、何よりも気になるのはあの灼熱のひたちなかをこの衣装を着てライブをするのか、ということ。かつてはPOLYSICSのメンバーがライブ中に熱中症で倒れ、翌年以降にトレードマークのツナギを夏仕様に変更したということもあったが、このバンドはロッキン初陣をどんな形で迎えるのだろうか。
1.バラード
2.electro
3.ウィークエンド
4.衛星
5.call end
6.クレーター
まだこの後もイベントは続くが、FINLANDS終わりで次のライブを見るために渋谷を後に。まだまだ見たいバンドがたくさんいただけにもったいないとも思うけれど、それは仕方ない。
でもこうしてまだまだ有名とは言えないような、日々ライブハウスで凌ぎを削っているアーティストたちがたくさんいて、そうしたアーティストたちが良い音楽を作って良いライブをしているのを見れるからこそ、日本のロックシーンは本当に面白いと思うし、こうしてライブに行くのがやめられないな、と思うのである。
入場規制は怖いし、ほかのどんなフェスやイベントよりも忙しないけれど、このJAPAN’S NEXTは若手アーティストチェックの場としてもう欠かせないものになっている。
文 ソノダマン