2020年は今や様々なフェスのメインステージに立つ存在となったsumikaが正真正銘のアリーナクラスのバンドになるための1年だった。
実際に4月にはさいたまスーパーアリーナでのワンマンが予定されていたが、コロナの影響によって延期に。本来であればこの期間はその延期となったワンマンを行う(公演日を増やしてチケットを持っている観客全員が振替公演に参加できるようにしていたというのも実にsumika らしい選択だった)はずだったのだが、感染が拡大している状況を受けてライブは中止に。
しかしただ中止になりました、というだけでは終わらないのが雨天でも決行するバンドsumikaである。チケットの払い戻しを行わなかった人を対象に特別グッズを贈るとともに、オンラインライブも開催。画面を通してしか見ることはできないし、その中に観客はいないけれど、sumikaのアリーナライブを見ることができるのである。
配信開始時間の20時を少し過ぎると待機画面から切り替わったのは、ライブタイトル通りにランプが灯る映像。そこからおそらくはステージや会場を飾り付けているであろうアイテムから、さいたまスーパーアリーナ200レベルの客席へ。席の全てにsumikaロゴが取り付けられているのは、我々観客が本来いるべき場所だったその席にバンドのタオルをかけているかのようだ。
するとステージを覆う紗幕に巨大なメンバーの影が。美しいハーモニーが響くとともに紗幕が落ちると、まるで森の中にメンバーが築いた秘密基地のようなセットを前に演奏するメンバーの姿が。
おなじみのゲストメンバー井嶋啓介(ベース)を加えて、進研ゼミのCMタイアップ曲「センス・オブ・ワンダー」からスタートすると、荒井智之(ドラム)はその曲のポップさを演奏する姿でさらに引き出すように満面の笑みでドラムを叩いている。片岡健太(ボーカル&ギター)はどこか固さも感じる表情でもあるが、歌声の伸びやかさはさすがである。やはり目の前に広がる誰もいない空間に少し戸惑いもあったのだろうか。
そんな空気を吹き飛ばすように、
「Daily’s Lamp、はじめます!」
と叫ぶと、黒田隼之介(ギター)がステージ前まで出て行って体を目一杯使って演奏する「ふっかつのじゅもん」でアッパーに攻めていく。見ている人たちはもちろん自分たち自身のテンションとギアを上げていくように。
その黒田と小川貴之(キーボード)のコーラスもよく聞こえるのだが、それは観客の歌声がないということでもある。やはりこの曲は目の前で音を鳴らしているバンドと一緒に大きな声で歌いたいよなぁと思う曲なのである。
しかし片岡は
「配信でも関係ない!でっかい花咲かせに来ました!」
と言ってハンドマイクでステージを歩き回りながら歌う「Flower」へ。メンバー背後に作られた木造のコテージがまさに花のように色とりどりに輝いていく。曲後半ではカメラもステージに上がり、各メンバーを至近距離で映し出していき、片岡はカメラ目線でバッチリ決める。ロックスターというようなタイプではないかもしれないけれど、こうした姿は天性のパフォーマンス能力、コミュニケーション能力であると思うし、大きな会場でたくさんの人に向き合うべき資質を持った人であると思う。
その片岡と井嶋がイントロから足を上げて歌詞の通りにダンスをするように演奏するのは「カルチャーショッカー」と、
「初っ端から楽しくなりすぎてぶっ飛んでる!」
と言うくらいにステージ上も画面越しのこちらもみるみるうちに楽しくなってくる。黒田も小川も笑顔で腕を振りながら演奏したりと、目の前にはいないけれど、こうして演奏している姿を見てくれている人がいるということが頭の中に浮かんでいるように思える。
この前半で早くも放たれた「Lovers」でもやはり各メンバーが飛び跳ねたりしながら演奏し、小川のカメラ目線でのピアノソロも含めて、その姿を見ているだけで涙が出てきてしまうくらいにメンバーは楽しそうだ。
ああ、sumikaはいつも目の前にいてくれる人たちに向き合い続けてきたし、ライブに行くたびにその姿勢に勇気や安心感をもらってきたけれど、そもそもがこうしてバンドで音を鳴らす、演奏するのが楽しくて仕方がない人たちなんだな、ということが見ていて伝わり過ぎるくらいに伝わってくる。観客が一緒にコーラスをしたり歌うことはできないけれど、もしかしたらリハーサルとかスタジオでメンバーだけで演奏している時もこうして笑顔が溢れているのかもしれないと思うくらいに。そんな感覚を、ずっとずっと離さぬように。
ここで緊張感から解き放たれたかのように片岡は息を大きく吐きながら、
「生で観たいからってチケットを払い戻しした人も間違ってないし、配信ライブを見たいから払い戻しをしないでこうして生配信を見てくれる人も正解ですと言い切りたいです」
と、どんな選択をした人も絶対に否定しない、傷つけないように言葉を選びながら話す。きっとそれは配信ではなくて実際に観客を目の前にしていたとしてもそうだろうし、片岡の言葉には嫌味が1ミリも感じられない。本当に心の底からそう思っていて、それをしっかり伝えたい。だから近年のバンドの中では他に類を見ないくらいにゆっくり喋る。それは武道館でワンマンを見た時にも感じてこうしてレポにも書いたことだけれど、あれからさらに大きくなって、いろんな人に存在や曲を知ってもらえる存在になっても全く変わることはない。それはこれからも変わらないということでもある。
それまでの楽しい雰囲気からグッと歌と音をしっかりと聴かせるように丁寧な歌と演奏にシフトするのは「イコール」。
この曲もメンバーによる、観客も一緒に歌えるコーラスパートがある(というか小川という片岡以外に歌えるメンバーもいるだけに、こうしたコーラスワークはsumikaの大きな武器である)けれど、この曲は画面の向こうで一緒に歌うというよりはメンバーの声をしっかり聴いていたいと思わせる。片岡のボーカル以外にもそこには確かに歌声が宿っているからである。
荒井のパーカッション的なイントロに片岡のアコギが絡んでいくのはどこか妖しさも含んだムーディーな「Strawberry Fields」。間奏には井嶋も含めた各メンバーのソロ回しも挟まれるが、こうした前半とは全くタイプの異なる曲もすべからく「ポップな曲」であると感じられるあたりはsumikaというバンドだからこそ持ち得るマジックだろうし、
「ラードに塗した好奇心
揚げて狂うように狂うようにステップ」
という一聴して聞き取れた歌詞と実際には字面が異なる歌詞もまたsumikaらしさと言っていいだろう。
アルバムのリリースも3月に決まっているが、そこに向けてsumikaは近年次々にシングルをリリースしてきた。そのどれもが全て勝負の一手と言えるくらいのクオリティの曲ばかりであるが、そんな中でも必殺のバラードと言える「願い」がここで演奏される。ミラーボールがメンバーの頭上で輝くのが美しいが、でもあくまで主役は片岡の歌とメロディ。ここではメンバーの演奏もソロなどの主張のない、それに寄り添うというかそれを引き立てるものになっている。何がこの曲にとって1番大事かということを全員がよくわかった上で制作と演奏に向かっているのがよくわかる。
また2020年はライブがなくなってしまう中でも医療従事者へDress Farmというこれまでに継続して行ってきたプロジェクトで支援を行なってきたのだが、そのDress Farmで制作された「晩春風花」では片岡がハンドマイクで、でもステージを動き回ることなく歌唱に徹すると、天井からは桜を思わせる花弁が歌詞に合わせて降り注ぐ。実際に会場の客席で見ていたらそれを手にすることができたんだろうか。そう思うと少し寂しいけれど、この配信ライブは「配信だから」というわけではない「本来この会場でやろうとしていたことを全部やっているライブ」であるということがわかってくる。
久しぶりのライブということで、ここでメンバーそれぞれの自己紹介へ。ゲストメンバーの井嶋も忘れずに紹介するあたりもまたやはり実にsumikaらしいが、それを終えるとメンバーがステージ中央に集まって切り株の上に座るという形の4人でのアコースティック編成へ。
黒田がアコギ、荒井がカホン、小川がピアニカという形で演奏されたのは「アネモネ」。
「「普段こんなことしないからね?」
特別な事をしてたいの?」
というフレーズがまさに特別であるこの編成のことであるかのように響くが、メロディはそのままにバラードと言ってもいいように丸裸に衣服を脱いだ曲を聴いていると、もしかしたらsumikaの曲はすべからくそうした名バラードになるようなポテンシャルを持っているんじゃないかとすら思う。それはやはりメロディが強くて美しいというのがどの曲にも通じることだからである。
メンバーが視聴者から寄せられたリアルタイムのコメントに目を通しながら雑談する様は本人たちが言う通りに「高校の軽音楽部」のような雰囲気であるが、
「メンバー4人で大事な人の結婚式に行った時にこの曲が流れていて」
というエピソードの後に演奏された「ここから見える景色」は高校の軽音楽部のバンドでは絶対に描けない、大切な人と暮らす何気ない日常が平熱で綴られるような曲。こうして聴くとsumikaにはそうして結婚式で流れていていいような曲がたくさんあるなぁと思う。それだけ「幸せ」という感情に寄り添ってくれるバンドであり音楽であるということだ。
メンバーが元の位置と編成に戻ると、ランプの灯が薄っすらと灯る中で小川のピアノと片岡の歌のみという形で演奏されたのは「溶けた体温、蕩けた魔法」。その薄赤い照明に照らされながら演奏する2人を見ていると、まるでスキマスイッチのような、この2人によるボーカルユニットを長い年月やってきたかのようである。片岡が手振りを交えて歌う姿も含めて、そのボーカルの力や奥深さをじっくりと感じることができる。
「後半戦、ぶっ飛ばしていきますよ!」
と言いながらもイントロが合わずにやり直しとなり、さらに荒井がちょっとしたおふざけも挟みながらも、そうしたやり取りすらも楽しんでいるように見えるのは昨年の夏にリリースされたシングル曲「絶叫セレナーデ」。
そういえばこの曲を配信とはいえこうしてライブで演奏しているのを見るのは初めてだ。片岡がハンドマイクで飛び跳ねたりぐるっと回ったりしながら歌うという姿も。そう思うと、本来ならば去年の夏フェスのメインステージで鳴らされるのを至る場所で見ることができたはずなんだよなと思ってしまう。間奏の黒田のギターソロを間近で座って眺める片岡の姿はどこか可愛らしさすら感じるが、今年の夏はその姿を画面越しではなくてこの目で見ることができますように。
「Daily’s Lampにさらなるマジックを!」
と言って片岡がステージ上を歩き回りながら歌う「MAGIC」の華やかなサウンドがこの後半にさらにステージ上を輝かせていく。その姿はもはや大きなステージで上演されているミュージカルのようですらある。やはりこの曲が演奏すると心までもが、パッとなってグッてなるのである。
昨年リリースの「Harmonize e.p.」収録曲ということでやはりこうしてライブで聴くのは初めての「ライラ」は東洋風のイントロからsumikaなりのラウドロックへと展開していく、今までにはなかったタイプの曲。それでもやはり耳障りはキャッチーかつポップというあたりにsumikaでしか作れない曲という感じがする。手拍子から片岡と小川のツインボーカル的な掛け合いに至るまで、実に展開の激しい曲でもあるが、どうやったらこういう曲にしようと思うんだろうか。
目下最新シングル曲である「Late Show」では片岡が歌い出したかと思ったらまたしてもやり直すということになってしまう。久しぶりのライブとはここまでプレッシャーを与えるのかとも思うけれど、いざちゃんと曲が始まれば全くそうしたブランクや初めて演奏する曲という慣れなさを感じさせないあたりは、今はそこまでライブハウスバンドというイメージはなくなってきたけれど、やはりかつては曲ができたらライブハウスで演奏し、という形で歩んできたバンドなのだと思うし、それを思い出させるようなロックサウンドである。自分がsumikaを初めて見たのも10組以上が出演していた、ライブハウスでのイベントだった。
「これからもいろんな提案はします。でも選んだあなたが正解です。なんで行くの?とか、なんで行かないの?って周りに言われると思いますが、選ぶのはあなたです」
と、片岡は、というかsumikaは最後まで姿勢が全くブレない。どの選択が正しいとも、自分たちが正しいとも言わない。強制することもしない。ただあなたに考えて決めてもらう。それはsumikaの音楽の持つメッセージそのものであるが、
「やめない やめないんだよ まだ
足が進みたがってる」
という「雨天決行」のサビのフレーズは、それでもバンドは進み続けることだけは絶対にやめないという意志を示すかのようであった。
「2020年に見つけたこと、2021年に伝えたいこと。それを置いて帰ります」
と言って最後に演奏されたのは高校サッカーのタイアップとなった「本音」。
「願い」しかり、こうしたバラードを恐れることなくシングルとしてリリースできることにsumikaの芯の強さ、ブレない軸を感じさせるが、高校サッカーという若者へ向けたはずのこの曲には
「生きていれば 辛いことの方が多いよ
楽しいのは一瞬だけど それでもいいよ」
というフレーズがある。片岡にのみスポットが当たる中で小川のピアノと歌だけという形で歌われるフレーズ。
それは残酷なほどにリアルな言葉だけど、学生を通り過ぎた我々はそれが事実であることを知っている。このフレーズがあるからこそ、この曲は、sumikaというバンドは若者だけに向けて歌っているのではなく、生きとし生けるあらゆる世代に向けて歌っているバンドなのだということがわかる。
また、それは順風満帆に見えて、かつては「さぁここから!」というタイミングで片岡の喉の不調に見舞われて活動を一時的に休止していたという経験を持つsumikaが歌うからこそリアルなものとして感じることができるのだ。過去最高レベルにあらゆる、sumikaのことを知らない人までが耳にする機会を得た曲であるが、そうしたタイミングでsumikaだからこそ歌える、sumikaだからこそ響く曲を世に出せる。その経験は去年は立てなかったアリーナよりもさらに広いところへこのバンドを連れて行くことになるはずだ。
演奏が終わると井嶋を先に送り出し、メンバー4人はステージ前に出てきて並んで挨拶して、ステージ後ろの家の中へと、
「住処に帰ります」
と言って去って行った。それまでは映されなかった客席までカメラが引いていくと、そこには大きな「また会いましょう」の文字が。それを信じて待つしかないし、ライブが終わった後には見る前よりもはるかに希望や光を感じることができる。それはリアルライブでもオンラインライブでも変わらない。それこそがsumikaの音楽が持っている力だから。
でも、やっぱりオンラインでもこれだけ良いと思えるライブを見ると、実際にこの目で見てみたかったと思ってしまう。それはきっとオンラインよりももっと楽しくて、もっと感動的なsumikaの初アリーナワンマンとして記憶に残るものになっていただろうから。
2019年に「Chime」のリリースツアーで千葉県は市川市文化会館でのワンマンを見た時の最後に片岡は
「絶対に、絶対に、ぜーったいに、味方です!」
と来てくれた人に向かって言っていた。今、これだけ考え方や姿勢によって人々が分断されている中ですら、片岡とsumikaの人への向かい方はその言葉を口にした時と全く変わっていないだろう。そんな人たちが等しく「sumikaのライブ最高だったな」ってライブ会場で思えるような日が少しでも早く来ますように。その日まで、やめないんだよ。
1.センス・オブ・ワンダー
2.ふっかつのじゅもん
3.Flower
4.カルチャーショッカー
5.Lovers
6.イコール
7.Strawberry Fields
8.願い
9.晩春風花
10.アネモネ (アコースティックver.)
11.ここから見える景色 (アコースティックver.)
12.溶けた体温、蕩けた魔法
13.絶叫セレナーデ
14.MAGIC
15.ライラ
16.Late Show
17.雨天決行
18.本音
文 ソノダマン