自粛期間というか、ライブができない期間であっても、佐々木亮介は止まると死んでしまう魚のようにa flood of circle、THE KEBABS、SHIKABANEという全く違うアウトプットでの配信ライブを次々に開催。(THE KEBABSはライブハウスでライブも敢行した)
そんな中で「通常のチケットを売ってのライブ」という意味では実に久しぶりとなるのが、a flood of circleの昨年のアルバム「CENTER OF THE EARTH」の特典CDから、大々的に結成とかを発表することなくヌルッとスタートした、フラッドのギタリストである青木テツとのユニット、SATETSUでのワンマンライブ。
会場の下北沢SHELTERはフラッドが数え切れないくらいにライブをやってきた会場であるし、バンドは支援の一環として、SHELTERのドネーションTシャツを販売している。そういう意味でも自分は全く不要不急と思わないので、生配信があるにもかかわらずチケットを買って現地で見ることに。
ちなみにこのライブは18:30からの1回目がフラッドのFC会員限定であり、20:30からの2回目が一般チケット。会社帰りの自分が参加したのはもちろん2回目の会。
下北沢SHELTERに着いた時にはちょうど亮介とテツがステージに出てきた瞬間というギリギリっぷりだったのだが、客席には観客数ピッタリの数の椅子が置かれており、これまでにライブを見てきた下北沢SHELTERとはやはり全く景色が違う。最後に来たのが2月だったけれど、あの時は半年後にこんなことになっているなんて全く想像だにしていなかった。最前列の椅子もステージとはかなり距離が空いているというソーシャルディスタンスの保ち方。もともとのキャパ的に考えても40〜50人くらいで最大限という感じだろうか。先日訪れた新代田FEVERの時よりは人が入る仕様になっているが。
黒のRUDE GALLERYのシャツを着てサングラスをかけた亮介とテツが椅子に座ると、
亮介「1回目のライブで飲みすぎてもう帰りたくなってる〜」
とアコギを爪弾きながらすでに酔っ払っていることを告白。それでもステージドリンクはレッドアイというアルコールを摂取し続ける姿勢はやはり亮介らしい。
そのまま1曲目は亮介の弾き語りではおなじみの、その日その場所ならではの歌詞による即興ブルース。
「大好きな下北沢SHELTER」
というライブハウス愛あるからこその単語も出てくるが、むしろこの日は「Make Money」リリースパーティーという意味合いの方が強いかもしれない。
その「Make Money」は自粛期間中にリモートで作られたSATETSUのアルバムであり、そのタイトル曲「Make Money」は当然アルバムの収録曲であるが、
「「AKIRA」みたいな世界になった諦めないでいれるかどうか」
という歌い出しの歌詞からしてこの状況、この世界情勢だからこそ生まれたアルバムであることを改めて感じさせる。
アルバムはバンドサウンドであるが、ライブでは亮介とテツのアコギと2人のボーカルという弾き語り編成。アルバムリリース時の配信トーク番組でも
「ライブじゃできない(笑)」
と言っていたが、そんな曲をライブでやるためのユニットがSATETSUであり、そのための形態が2人での弾き語りという形なのだろう。
「Make Money」というタイトルだけを見るとがめつく感じてしまうけれど、この下北沢SHELTERを始め、経営ができないライブハウスへの支援を自分たちなりのやり方で行っているバンド、人間であるだけに、このアルバムによってメイクしたマネーは自分たちだけでなく、音楽やライブという文化を愛する人たちへ向けられたものになるはずだ。
亮介「さっちゃんです」
テツ「てっちゃんです」
2人「せーの、2人合わせてSATETSUです」
という、まるでPerfumeのライブでの挨拶のような衝撃的にキャラに合わない自己紹介ができるのもこのユニットでのライブだからだろうか。
髪を短めにしたことによって、さらにサングラス着用となるとやや渋みを感じるような出で立ちになっている亮介がサングラスを外すと、「Make Money」収録曲がメインになるのかと思いきや、ここで演奏されたのはフラッドの「スーパーハッピーデイ」。アコギ2本だけとは思えぬほどにドライブしていくロックンロール。間奏では亮介が
「ギター、俺!」
と言って立ち上がると、テツも続くように
「ギター、俺!」
と言って立ち上がって2人とも立ち上がってギターソロを弾く。
ちなみにこのフラッドのライブでもよく行われる「ギター、俺!」の元ネタは亮介いわく、今年惜しくも亡くなってしまった、日本プロ野球界の至宝、野村克也の選手兼監督時代の
「代打、俺!」
とのこと。後に野村克也の弟子である古田敦也も同じように選手兼監督時代に「代打、俺!」をすることになるのだが、そのことを知ってか知らずか亮介はなぜか自身を
「ID野球の申し子」
と称する。しかし本当はどちらかというとサッカー少年であり、野球に詳しいのはヤクルトスワローズだけ、しかもそれはもはや芸能界1のヤクルトファンと言ってもいいくらいの位置を獲得しているクリープハイプの尾崎世界観が教えてくれるからだという。あまり仲が良いイメージはないけれど、確かにフラッドとクリープハイプはこの下北沢のライブハウスシーンで凌ぎを削ってきた同志と言ってもいいかもしれない。
テツ「今日もう7杯目くらいじゃないですか?めちゃ飲んでる」
亮介「SHELTERの(レッドアイの)割合がどのくらいなのかわからないけど、だいたいビールが半分くらいだとするならばまだ3杯目くらい(笑)」
という、サンドイッチマンの「ゼロキロカロリー」のような理論で自身がまだあんまり飲んでないことを主張する亮介。とはいえやはり顔色はかなり酒を飲んでいる人のものになっているようだ。
なので、
亮介「今日は気を失うまで飲みたい!」
とさらに酒を飲むという宣言をしてから歌い始めたのはこのユニットのお披露目となった、「CENTER OF THE EARTH」の特典CDに収録の「LALILA (あるいは気を失うまで)」。英語と日本語の折衷という歌詞も含めて、「Make Money」の収録曲とは肌触りが少し違うのは、この曲が収録された特典CDの時は「Make Money」の音源のバンドサウンドとは異なり、SATETSUは弾き語りという形態で活動していくという意識が強かったからではないかと察せられる。その方向性が変わったというか、変わらざるを得なかったのはやはりコロナ禍という限られた制作環境によるものだと思われるが。
亮介「今、CDの特典っていっぱいあるじゃん?ライブDVDとか、握手券とか…」
テツ「握手券!?(やるの!?みたいな驚きのリアクション)」
亮介「あとはサイン会とか、ハイタッチ会とか。でも俺は音楽しかやりたくないなって。だから特典に音楽っていうかCDを作ろうと思ってSATETSUを始めた」
と「CENTER OF THE EARTH」に特典CDをつけた理由、それはイコールSATETSUを始めた理由を語るのだが、他のCDを販売する方法を決して非難したりすることはせず、ただあくまで自身がロックンローラーとしてどういう形でCDを作っていきたいのかということをしっかり口にする。そこには亮介の心配になるくらいの止まらなさと創作意欲の源泉を伺い知ることができるし、やっぱり自分はこの男のことを心からカッコいいと思うと同時に、ずっとこうして見続けてきたのは生み出してきた音楽や曲にこうした精神性が宿っているからだと思う。
ちなみに7月が誕生日だったテツはスタッフからいただいたというシャインマスカットをステージ上でのもぐもぐタイム的に摂取している。なぜかやたらと豪勢に見えるのはその名前によるところだろうか。
そうしたロックやバンドや音楽への真っ直ぐな思いや愛情、無骨そうに見える中にある温もりや優しさという意味では同じ系譜にいるとすら思っているバンド、エレファントカシマシの大ヒット曲「風に吹かれて」のカバーでは、それまではツインボーカルと言っていいくらいに明確に歌い分けられていた2人のボーカルは亮介1人に。
本人がドラマに出演したりと、最も世の中にエレカシと宮本浩次という男を浸透させた、明確に広い場所に出て行くことを意識した時代のエレカシの曲であるが、元より持っていた宮本のメロディメーカーっぷりが開花してポップさを増しながらも、やはりエレカシはいつの時代においてもロックバンドだと思えるのは、亮介のしゃがれた声でこの曲が歌われていたから。エレカシは30年を超えてもバリバリ現役として今なお最前線で瑞々しさや生命力を感じさせながら、アリーナに立ったりしている。まだフラッドはその半分くらい。不動のメンバーであるバンドのエレカシと違って、これまでに数え切れないくらいにメンバー(サポート含む)は入れ替わってきた。それでもこのまま転がり続けてさえいれば、いつかフラッドもエレカシが見ているような景色が見れるバンドになるのだろうか。宮本のメロディを歌う亮介の声を聞いていたら、そんなことを考えていた。自分がそれを1%たりとも諦めていないことも。
「次会えたなら何をしようか」
という、こうして直接会うことが以前よりも難しくなってしまった世の中だからこそ伸びやかなメロディがさらに真っ直ぐに突き刺さってくる「You’re My Lovely Trouble」から、タイトル通りに荒々しいパンクさをアコギのみで再現する「El PUNKISTA」では再び亮介とテツが立ち上がってギターソロを弾く。この状況下だからこそ生まれたアルバム、生まれた曲ではあろうけれど、今までと同じような客席の状態で聴くことができたらまたちょっと違う景色が見れそうな。
なぜかコーラを飲むと
「美味いー!よっしゃー!」
となぜかレッドブルのCMみたいに急にテンションがメーター振り切れるテツの様子に亮介は
「大丈夫?(笑)俺がテツの親だったら心配でしょうがないっていうか、そのコーラなんかヤバいもん入ってるんじゃない?(笑)」
と心配していたが、そうしてMCをする度にスタッフがいそいそと動き回り、歌い始めるまでは会場の扉を開けて換気をし、いわゆる三密を回避するような対策が取られていた。入り口では検温、マスク必須、アルコール消毒と、ここまでやってももしかしたら今の状況でライブハウスに行くということを怖がる人もいるかもしれないが、コーラを飲んでテンションが上がったテツは
「こうして来てくれた君たちの勇気に感謝」
と言っていた。感謝するのはこちらばかりであるし、こうしてライブをやってくれるのならばいくらでも行く。こうしてライブハウスで亮介の歌やテツのギターをマイクを通してダイレクトに聞いていると本当に自分は生きていて、こうしてライブを見れているんだなと思うし、行かなくて後悔することは多々あれど、こうして実際にライブを観て後悔することはないとフラッドというバンドのメンバーやそこに関わる人たちを心から信用しているからだ。
軽快なアコギの演奏によるフラッドの「I Love You」はそうした亮介とテツの我々観客や配信を見てくれているファン、ライブハウスを経営している人たちへ向けた曲であるかのように感じられたし、
「未来を疑ったままで ブルースを歌えるの?」
「未来は君のもんなのさ ブルースを歌えるよ」
というフレーズはこんな状況だからこそ違った意味合いを持って響く。
世界でも日本でも状況はより悪くなっているかもしれない。でもこうしてまた目の前で亮介が歌ってテツがギターを弾いている姿を見れるくらいには前進することができている。そう思えば、未来は我々のもんなのさって少しでも希望を持てるかのような。他とは少し違うタイプのフラッド屈指の名曲だと思っているこの曲は、いつだって聴き手にそんな力を与えてくれる。
すると急にテツがトイレタイムということで、亮介1人の時間に。そんな中でもテツを待とうとするのではなく歌おうと譜面台をパラパラとめくると、1人でアコギを弾きながら歌い始めたのは、フィッシュマンズの「いかれたbaby」。
これは正直かなり意外な選曲というか、亮介は世界中のありとあらゆる音楽を聴いており、日本では実はスピッツの影響を強く受けているロックンローラーでもあるけれど、フィッシュマンズの佐藤伸治とは声の質がまるで正反対であるだけに。
細くて柔らかいというイメージの歌声と、ダブの要素が強いサウンドのフィッシュマンズというフラッドとは真逆の音楽であっても、亮介が歌うとそれはロックンロールになり、ブルースになる。過去に弾き語りやバンドでも披露してカバー曲からもそれは何度となく感じてきたことではあるのだが、この曲はその中でもトップレベルにそれを感じることができる。
ライブが詰め込まれていないスケジュールという要素もあるのか、今までは喉の調子が良くない日もたまにあった亮介であるが、最近の配信でもこの日のライブでも実に良く声が出ている。だからこそその独特の声の魅力とともに、歌そのものの巧さも感じることができる。なかなかたくさんの人にそれをわかってもらえることは難しいけれど、こうした弾き語りでのカバーを見て貰えば気付く人だってたくさんいると思う。
テツがトイレから帰ってくると、亮介が「Aマイナーね」とコードを教えてテツのギターも重なり、フィッシュマンズの曲がアコギ2本という形でありながらロックンロールになっていく。
最近のフラッドメンバーの動向として、HISAYOは少女漫画ばかり読みながらこのライブの配信を見てくれていることをテツが告げるのだが、渡邊一丘は何をしているかわからず、この配信も多分見ていないだろうということ。
亮介は最近はこのSATETSUのデザインも担当している、かつてはミッシェル・ガン・エレファントのデザインも担当していた中島氏と仲良くしていることを語るが、そのきっかけとなったのがThe ピーズのはるさんこと大木温之とともに岩手に弾き語りに行った時に出会ったというエピソードがなんだか実に亮介らしいし、そうした音楽を通じたすべての出会いや経験が作る音楽に昇華されているという亮介の表現者としての業のようなものを感じさせてくれるエピソード。
そんな中で「Gokko」はテツがメインボーカルの曲であるが、1人で歌うとテツのボーカリストとしての巧さもまたよくわかる。亮介ほどの記名性があるような声ではないけれど、普通にバンドのメインボーカルを張っていてもおかしくないくらいだし、そんな人物がギター&コーラスに加えて最近は作曲もするようになってきているというあたりに「フラッドというバンドはやはりとんでもないバンドなんじゃないだろうか」と思えてならない。
そして胸のポケットに刺繍が施された、SATETSUの新しいTシャツの宣伝をすると、「Make Money」のリード曲として唸るくらいに芸術的なMVも制作された「Peppermint Candy」へ。
「I wanna be next to you」
というフレーズの亮介とテツの掛け合い。それはお互いがこれからもお互いの隣にい続けたいという意味合いのようにも聞こえてくるが、
「どんなにイカれた時代でも 歌っていようぜ」
この明らかに今の世界の情勢だからこそ書かれたような歌詞。でもこれは佐々木亮介という男がこれまでも歌ってきたり、持っていた理念である。
コロナ禍でも震災の後でも、どんなに気が滅入るようなニュースがあった時でも。歌えたり笑えるということは生きているということ。歌えたり笑えたりできる場所があったり、人がいるということ。ゲリラ的なリリースの方法と一筆書きのようなラフな音。それでもというか、それだからこそこの音楽は佐々木亮介と青木テツの芯のようなもので出てきている。それはそのまま我々リスナーやライブに足を運んでいる人への生の肯定だ。
そしてラストに演奏されたのはSATETSUの曲でなく、フラッドの「GO」だった。もともとはサッカーの企画によって生まれた曲であるけれど、
「もし次の1歩目に意味なんかなくても
知らねえよ 俺にはもうこれしかないんだ」
というフレーズは誰に何を言われようともこうして歌うこと、音楽をやるしかないということを感じさせるし、それはこうしてライブを観に来る我々もそうだ。こんなに気持ちを昂らせてくれるものも、日々を生きていく目標になることも、ライブや音楽しかない。そして
「目を開けて見る夢をアンタが見せたんだ
どうしてくれんだよ」
と歌われるフレーズは我々がフラッドに抱く思いそのものだ。どんなにメンバーが入れ替わろうと、芯の部分が全く変わらないから、フラッドというロックンロールバンドに夢を見ている。そしてそれはきっと死ぬまで終わりそうもないという意味での、どうしてくれんだよ。ちゃんと我々を武道館なりに連れて行ってくれないと、もうそれしか責任を取ってもらう方法はない。
歌い終わりに亮介は
「レッツゴー、ロックンロール!
レッツゴー、シェルター!
レッツゴー、ライブハウス!」
と叫んだ。それは自分が愛するもの、信じて生きてきたものが止まることがないように、という願いが込められているようだった。
フラッドもTHE KEBABSもSHIKABANEも配信ライブを観たけれど、やっぱり弾き語りという形態であっても、亮介の歌声は生で、目の前でマイクを通して歌うのを聴くのが1番体も心も震える。バンドでのライブだったならばきっとそのサウンドを含めてそう思うのだろうけれど、声だけでそう感じられるようなボーカリストが他にどれだけいるのだろうか。
それはずっとフラッドを見てきて、完全にわかっているつもりだったけれど、年にフラッドのライブを何十本も観るのが当たり前になっていたから、わかり過ぎてしまっていた、というか慣れてしまっていた。それが久しぶりにこうやって生で亮介が歌っているのを聴いているだけで震えたり、感動するような感覚があることを思い出させてくれたのだ。
こうしてSATETSU名義でライブはできるようになったけれど、恒例の対バンツアーや主催フェス(それらが毎年恒例になっているというのがとんでもないスケジュールなのだが)は今年はなくなってしまった。
そんなフラッドはすでにアルバム「2020」をリリースすることを発表している。タイトルからして間違いなく今年、この状況だからこそ生まれたアルバムになるだろうけれど、その曲たちをこうしてライブハウスで聴けるような世の中に少しでも早く戻りますように。フラッドの音楽や亮介の歌声やテツのギターは、悲観的なことを全く感じさせないから、こうして我々を前向きに進ませてくれる。そう 何度だって走り続けるだけ。
1.下北沢SHELTERのブルース
2.Make Money
3.スーパーハッピーデイ
4.LALILA (あるいは気を失うまで)
5.風に吹かれて
6.You’re My Lovely Trouble
7.El PUNKISTA
8.I Love You
9.いかれたbaby
10.Gokko
11.Peppermint Candy
12.GO
文 ソノダマン