この週の月曜日、関東地方には台風15号が直撃した。首都圏の交通網は乱れまくり、それは普段の台風などではほとんど影響を受けないような千葉の鉄道にも多大な影響が出た。
その時点ではまさかこんなことになるなんて思っていなかった。千葉県南部は停電や家屋の倒壊という被害を受け、千葉県は被災地となった。東日本大震災の時も液状化などの被害が出たが、まさか千葉県が被災地になるなんて全然想像したことがなかった。どこか、千葉は大丈夫だろうと思い込んでしまっていたところがあった。
そんな週の週末、まだ南部では停電が続いている地域もある中での氣志團万博の開催には、様々な意見が寄せられた。賛同も、反対も。常に自分たちの地元である千葉県と木更津エリアを背負ってきた氣志團万博は、「千葉県の誇り」という去年までのフェスから、「メンバー含めた主催者や我々参加者の被災地への意識が問われるフェス」になってしまった。氣志團万博に参加するのは3回目だが、このフェスがこうした意味合いを持つことになるなんてことも、これまで全く想像したことすらなかった。
木更津に住んでいる同僚から話を聞いたりはしていたが、やはり会場付近では車の給油や飲食物の購入は控えるような情報も出ている。とはいえ会場は去年までと全然変わらない。薄曇りの空も、荒れている海も。
9:30〜 純烈 [MOSSAY STAGE] (WELCOME ACT)
オープニングアクト的な立ち位置のWELCOME ACTとして今年のこのフェスで最初にパフォーマンスをするのは、純烈。一時期ワイドショーなどでもよく取り上げられていた、俳優を中心としたムード歌謡グループである。
メンバー4人全員が黒の特攻服姿という氣志團スタイルで登場して、本当にムード歌謡のカバーを歌い始める姿は実にシュール。健康ランドなどでの地道な営業が実を結んでいるのか、歌唱力も意外なくらいに高く、俳優のサイドプロジェクト的なグループではないということはすぐにわかる。
LiLiCoの旦那としても知られる小田井涼平とリーダーの酒井一圭による軽快なトークも営業での経験とそこで培った技術を感じさせるが、
「普段の健康ランドのライブと同じように皆様の近くに行って握手したい」
と言うと4人全員がステージから降りて客席に突入し、周りの観客と順番に握手していく。メンバーが客席に突入というとパンク・ラウドバンドのようなパフォーマンスであるが、流れている音楽はムード歌謡であるし、割と見た目はおじさん(全員アラフォーからアラサー)ということもあってか、実にほのぼのとした空気が流れている。
基本的には古き良きムード歌謡をたくさんの人に伝えたいというスタイルであるがゆえにムード歌謡のカバーがメインなのだが、唯一披露されたオリジナル曲「純烈のハッピーバースデー」では主に健康ランドにいるような高齢の方をメインターゲットにしたであろう簡単な振り付けを観客に指導すると、
「皆さん若いから飲み込みと手の動くスピードが速い!」
といつもとは全く違う客層を相手にしているからこそのMCで笑わせつつ、こうしてフェスという舞台に自分たちを呼んでくれた氣志團への感謝を伝えていた。
かつて戦隊モノのメンバーであった酒井一圭と白川裕二郎とまさかこの場所でこんな形で再会することになるなんて全く予期していなかった。しかし彼らは自分たちの新しい生き方を見つけたようだ。ある意味ではこのフェスでライブを見たことを絶対に忘れられないアクトになった。
1.星降る街角
2.ラブユー東京
3.そして神戸
4.小樽のひとよ
5.わたし祈ってます
6.純烈のハッピーバースデー
7.逢わずに愛して
10:15〜 森山直太朗 [YASSAI STAGE] (OPENING CEREMONY ACT)
新作アルバムを出した去年は通常枠で出演していたが、今年はおなじみのOPENING CEREMONY ACTの位置に戻ってきた、森山直太朗。綾小路翔の親友として、このフェスには欠かせない存在である。
自身の曲の方ではなく、ケツメイシの方の「さくら」が流れてYASSAI STAGEの最大の武器とも言える花道の下からせり上がって登場すると、軽く挨拶をしてからアコギを持って「さくら (独唱)」を歌い、その歌声に朝イチから大きな拍手が湧き上がる。
本来ならこの枠はいわゆる「開会宣言」をやるという役なのだが、森山直太朗が
「今、この状況でこのフェスの開幕宣言ができるのはこの男しかいない!」
と綾小路翔を呼び出して開会宣言をバトンタッチ。
すると綾小路翔はまず台風15号の被害に遭った人たちへの言葉を口にして頭を深く下げると、
「やるかやらないか、人生で一番悩んだ。何が正解なのかっていう答えは出ないかもしれない。でも俺が生まれたこの街を愛している。そして音楽を愛している」
とこのフェスを開催することに決めた覚悟を自分の口でしっかり語る。綾小路翔は開催前にインスタで自分の思いを綴っていたが、こうして本人の口から出た言葉をその場でキャッチできるのは伝わり方が全く違う。
つまりは笑いの要素一切なしという綾小路翔の開会宣言だったわけだが、それが今年の氣志團万博は去年までとは全く違う空気や雰囲気を孕んでいることを感じさせた。観客も真面目に綾小路翔の言葉を聞いていたし、そこには笑える要素が入り込む余地がなかった。
1.さくら (独唱)
10:30〜 氣志團 [YASSAI STAGE]
今年は主催者の氣志團は初日のトップバッターと2日目の大トリという形での出演。森山直太朗に変わってオープニングセレモニーアクトを綾小路翔が務めただけに、すぐさまの出番となる。
おなじみのそれぞれのイメージカラーである学ランを着たメンバーたちとともにステージに現れたのは、なんといきなりの東京スカパラダイスオーケストラのホーン隊。このフェスのオープニングテーマ的な曲である「DO YOU REMEMBER ROCK’N’ROLL RADIO?」を
「ジャニーさん」
など2019年に起こった様々な出来事(それは氣志團がこれまでに影響を受けてきたことでもある)を交えた歌詞にして歌うというコラボを見せると、タイトルフレーズを繰り返すことで何も考えずに踊りまくる「Let’s Dance」、
「今にも倒れそうな電波塔と カタチに宿るもの」
「壊して、また元に戻して 終わりまで嘯いて立ってたんだ」
というフレーズが被災地になってしまった千葉の現状とそこから立ち直ろうとする姿に重なる「フォーサイクル」と、完全なるマジなロックバンドとしての氣志團の姿を見せていく。
なので「One Night Carnival」も当然振り付けをダンサーたちも含めて観客も全員で踊るが、一度ブレイクしてからの最後のサビ前の観客による大合唱の後に、
「俺たちはいつだって、この海に、この空に、木更津に、そして!」
と綾小路翔が言うと、
「恋しているのさ お前らに恋してるのさ」
とこうしてこの状況下であっても集まってくれた観客と、自分たちを育ててくれたこの地元に向かって歌う。
メンバーの青春時代の経験(それはつまりこの街で経験してきたこと)を綴ったかのような、森山直太朗が手がけた(親友だからこそ書ける歌詞でもある)、この会場で毎年コラボしたクラブハリエのものが売られている「バームクーヘン」から、氣志團のここに至るまでの躍進の数々がスクリーンに映し出されて少しウルっとしてしまう「今日から俺たちは!!」とロックンロールに突っ走ると、綾小路翔が花道へと歩いて口を開く。
「色々あるけれど、ネガティブなことは全部俺たちのせいにしてくれ。#氣志團で言ってくれて構わない。
いろんな人から、「翔やん、感情的になるなよ」って言われたけど、どうしても感情的になっちまうよ。だってここは俺たちの故郷なんだから!」
と被災地になってしまったこの場所への思いを口にしながら、
「俺たちは俺たちのやり方で千葉の復興を応援していく」
とも宣言。その一つが朝から箱の中に大量のお札が入っていた「マブダチ募金」だろう。それはこのフェスが開催されなかったら集まらなかったものかもしれない。もちろん氣志團が千葉県のためにすることはこれが全てではないはずだ。
そしてラストにメンバー全員が楽器を持って花道に出てきて演奏したのは、そうした氣志團の千葉への不屈の意志を示すかのような「鉄のハート」で、今年の初日の出演は最後までロックバンドとしての氣志團であり続けた。
去年はDA PUMP「U.S.A.」と「One Night Carnival」をマッシュアップするというさすがのエンターテイナーっぷりを見せてきた氣志團が見せた、裏側を覗きようがないくらいの直球勝負。(綾小路翔は自身の名前を「綾小路セイ」と言ってしまい、平泉成のモノマネをする瞬間もあったけれど)
そこにはもしかしたら主催者としてこの状況で笑いを取りに行くのは不謹慎なんじゃないか、という葛藤もあったのかもしれない。もしかしたら2日目のライブは全く違うものになるのかもしれないが、このトップバッターとしての氣志團のモードが今年のこのフェスの空気や状況を象徴していた。そしてそれは氣志團をただひたすらカッコいいロックバンドであると改めて認識させるものになっていた。
1.DO YOU REMEMBER ROCK’N’ROLL RADIO?
2.Let’s Dance
3.フォーサイクル
4.One Night Carnival
5.バームクーヘン
6.今日から俺たちは!!
7.鉄のハート
11:15〜 コロナナモレモモ (マキシマム ザ ホルモン2号店) [MOSSAY STAGE]
今年のロックシーンの中でも話題を呼んだのが、マキシマム ザ ホルモンのフランチャイズ化という前代未聞の企画。その企画によって選ばれたメンバーによる2号店バンドがこのフェスにも出演。
昨年は自身のバンド、オメでたい頭でなによりで出演したボーカルの赤飯は上半身裸で登場すると、1曲目の「ぶっ生き返す!!」で早くも本店のダイスケはんとナヲのパートを声を変えながら1人で歌い分けるという驚愕のボーカルを見せつける。
もはやこのキャパですら収まりきらないくらいの観客をモッシュ・ダイブ・ヘドバンの海に叩き込むのは、登場前のVTRで綾小路翔に「俺のラブメイト」と紹介された、わかざえもん(ベース)とオマキ(ドラム)の女性によるリズム隊、そして見た目もボーカルもギターもマキシマムザ亮君に寄せまくっているくらいにリスペクトを感じさせるタクマ。
しかしただ単にホルモンが好きなメンバーたちでホルモンの曲を演奏するのではコピバンになってしまうものだが、それをこのバンドの音楽として昇華しているのはDJ DANGER × DEERによるデジタルサウンドという本店にはない要素。
選曲は実にわかりやすいというかホルモンの代表曲にして王道的なものだが、「シミ」では赤飯が歌声を使い分けながらサビでメンバーが暴発したかのように暴れながら演奏する。企画バンドではあるけれど、ホルモンのメンバーがホルモンの曲を演奏するために選んだメンバーであるだけに演奏力だけでなくパフォーマンス力も備えている。
「ポアだ!ポアだ!ポア!」
の大合唱が響く「「F」」では空を飛ぶフリーザのごとくにダイバーたちが転がっていくと、オマキによるMCは本店をリスペクトしまくっているがゆえに本店と同じものになってしまっていたが、ラストの「恋のメガラバ」では客席にダンスと笑顔を溢れさせた。これはただの企画バンドでも、コピバンでも生み出せない、このバンドだから作れるものだった。
ホルモンの本店があまりに凄すぎるが故に、少し物足りない部分も感じてしまうのは事実であるが、まだまだ始まったばかりのバンドである。メンバーは夜まで様々な出演者のライブを客席で見ていたが、そうした経験などがこのバンドをさらに独自性あるものにしていくはず。
しかし、これまでの人生においては悔しいことがたくさんあった赤飯のボーカリストとしての凄さはこのバンドのボーカルになったことで今までよりもはるかに多くの人に知られていくことになるはず。
1.ぶっ生き返す!!
2.包丁・ハサミ・カッター・ナイフ・ドス・キリ
3.シミ
4.「F」
5.恋のメガラバ
11:50〜 東京スカパラダイスオーケストラ [YASSAI STAGE]
登場前のVTRでは綾小路翔に
「サマソニにミスチルの桜井さんを呼んでたのに、なんで今日は呼んでくれないんですか」
といじられていた、東京スカパラダイスオーケストラ。このフェスにおいてもおなじみの存在である。
揃いのグレーのスーツでメンバーが登場して、谷中敦が冒頭からマイクを持って歌う「Are You Ready To Ska?」からスタートすると、百戦錬磨のスカで観客を踊らせまくっていく。
谷中はもちろん、ほかのメンバーも広いステージを動き回りながら演奏する様は活動30周年のバンドとは全く思えないものであるが、それはCMのタイアップ曲である「Paradise Has No Border」の、GAMO(サックス)が
「そっちは盛り上がってるかー!」
と言って客席上手に加藤隆志(ギター)、川上つよし(ベース)、さらにはホーン隊も全員で移動して演奏すると、
「そっちはどうだー!」
と今度は下手側にダッシュして移動するというバイタリティによって極まる。
するとその「Paradise Has No Border」の後半で氣志團の綾小路翔と早乙女光を招き、綾小路翔はメロディに合わせて
「コラボをさせろ コラボをさせろ〜」
と歌う。フィーチャリングシリーズに呼ばれない限りは歌わないというのがこのフェスにおけるスカパラのライブではおなじみになっているが、そんな氣志團が参加したスカパラのトリビュートアルバム収録の「砂の丘 〜Shadow on the Hill〜」を綾小路翔がギターというこのフェスにおいてはレアな形で演奏されるのだが、そもそもトリビュートアルバムに誘われた時に
「スカパラといえばインストだから、インストの曲を選んだら他の参加アーティストがみんなボーカル曲を選んでて、インストで参加したのが俺たちだけだった(笑)」
という理由でこの形のコラボになった。宮本浩次、桜井和寿と大物ボーカリストとのコラボが続いているが、果たして綾小路翔はゲストボーカルとして参加する時が来るのだろうか。毎年言っていることだけど。
2人がステージから去ると、茂木欣一(ドラム)によるおなじみの前口上から、自身がボーカルを取る「メモリー・バンド」(トリビュートのキュウソネコカミバージョンも素晴らしかった)から、再び谷中や大森はじめ(パーカッション)らが花道に歩きだしてから歌う「Glorious」、そしてラストはおなじみの「ペドラーズ」で最後まで踊らせまくり、世界中の最前線で戦い続けるバンドの姿を見せた。
最近、フェスではボーカルコラボが多く行われている。それくらいにスカパラが出ているフェスにコラボしてきたバンドも出ているということであるが、このフェスはそうしたアーティストがほとんど出ていない。だからこそ氣志團との毎年のやり取り含めたコラボを見ることができる。このフェスで見るスカパラのライブは他のフェスとはまた少し違うけれど、終演後に谷中が様々な出演者たちと一緒に写真を撮っている姿を見ると、それも変わりつつあるのかなと思う。
1.Are You Ready To Ska?
2.スキャラバン
3.DOWN BEAT STOMP
4.Paradise Has No Border w/ 綾小路翔、早乙女光
5.砂の丘 〜Shadow on the Hill〜 w/ 綾小路翔、早乙女光
6.メモリー・バンド
7.Glorious
8.ペドラーズ
12:35〜 ROTTENGRAFFTY [MOSSAY STAGE]
20周年の記念イヤーにこのフェスに初出演のROTTENGRAFFTY。紹介VTRでは
「10-FEETが盗難の被害に遭った時にNOBUYAが角材を持ってきたという噂があるくらいの京都のヤンキー」
と綾小路翔に言われていたが、いざメンバーが出てくるとパート毎に氣志團のメンバーのイメージカラーに合わせたスーツを着ており、HIROSHI(ドラム)は歯が抜けているようなメイク、侑威地(ベース)はサングラス着用、そしてNOBUYAはVTRでいじられたとおりに角材を持っており、顔にはコントのヤンキーキャラのような傷が書かれている。
レペゼン京都のバンドであることを初出演のこのフェスで強く植え付けるような「響く都」からスタートすると、もう完全に夏休みは終わっているが、野外でこの曲を聴くとまだ夏休みなんじゃないかと思えてくるような「夏休み」ではコーラス部分でNOBUYAが角材を持ったままで手を左右に振る姿が実にシュールだ。
髪色もあってかモロにヤンキーのようなドクロ柄のスカーフを口につけた(パワプロに出てくるヤンキー高校のキャラみたい)KAZUOMIが煽りまくる「D.A.N.C.E」ではNAOKIが観客全員を座らせてから一斉にジャンプさせてさらなる盛り上がりを生み出す。
「俺らヤンキーちゃうからな!(笑)」
と言いながら「零戦SOUNDSYSTEM」「This World」と歌モノというよりはラウドなタイプのキラーチューンを続けたのはラウドバンドが多く出演するこの日の流れを意識したものだったのかもしれないが、ラストの「金色グラフティー」ではNAOKIが
「お前の見ている世界は」
の曲入りのフレーズを
「俺のとこ来ないか?」
の氣志團バージョンに変えて大歓声が上がったし、このバンドの器用さとあらゆる面での技術の高さを感じさせるものになった。
演奏が終わったのでメンバーがステージから去るのかと思いきや、袖から出てきたのは京都の極道を取り締まるために出てきた、警察の格好をした綾小路翔と早乙女光。
「黄色い人(HIROSHI)だけは吉本新喜劇の人みたいだ(笑)」
とメンバーたちに尋問をすると、袖で見ていたマキシマム ザ ホルモンの上ちゃんまでもステージに呼び込むという珍しい形でのコラボを見せた。
初出演ではありながら、この氣志團のフェスだからこそのスタイルができるというノリの良さ、ライブ後にメンバー全員で氣志團と写真を撮ったり(普段そういうのに参加しないKAZUOMIもノリノリで参加していた)という調和性を見ていると、今回が初出演だけどこのバンドはこれからこのフェスと長い付き合いをしていくバンドになるような予感がしている。
1.響く都
2.夏休み
3.D.A.N.C.E
4.零戦SOUNDSYSTEM
5.This World
6.金色グラフティー
13:10〜 PUFFY [YASSAI STAGE]
氣志團にとっては所属レーベルであるソニーの先輩にあたる、PUFFY。吉村由美は毎年このフェスに遊びにきていて様々なアーティストのライブを見て楽しんでいたらしいが、氣志團のライブを見ていた形跡がないとのこと。
ギター・オカモトコウキ(OKAMOTO’S)、新井弘毅(THE KEBABS)、ドラム・岡本啓佑(黒猫チェルシー)、キーボード・皆川真人という強力なバックバンドに続いて水色の爽やかな浴衣姿の吉村由美と大貫亜美の2人がステージに登場すると、奥田民生が手がけ、「脱力系お姉さん」と評されたこのグループのイメージ通りのゆるい空気が広がっていく。
スピッツの草野マサムネが提供した「愛のしるし」ではMVでも2人が踊っていたダンスを踊りながら歌い、それは客席にも広がっていく。
ロックなサウンドの「マイストーリー」では新井がステージ前まで出て行って強烈なギターソロを決めたりと、そもそもがロックミュージシャンたちに曲を提供されてきたPUFFYにとってライブにおけるバンドの演奏というのは重要なファクターになっていることがよくわかる。
2人によるMCは緩すぎて全く内容がないが、
「誠心誠意歌います」
という吉村由美の言葉からはこのステージに立っている確かな意味を感じさせるし、大ヒット曲「これが私の生きる道」の色褪せなさはもちろん、チバユウスケ(The Birthday)が手がけた「誰かが」の、
「誰かが倒れたら 起こせばいい それだけでいい」
「誰かが泣いてたら 抱きしめよう それだけでいい」
というフレーズは千葉が置かれている今の状況とリンクし過ぎていて、まるでこの日のために選んだ曲であるかのようですらあった。PUFFYはそういったことを口にするタイプではないけれど、間違いなくそういう意識はあったはずだ。
これも大ヒットシングルである「サーキットの娘」では曲のコーラス部分で氣志團の「スウィンギン・ニッポン!」のコーラスにバンドの演奏が変化し、さらにはONE PIECEのタイアップ曲であった、氣志團ときただにひろしの「ウィーキャン!」にまで変化するというこの日ならではのメドレーになっていく。「スウィンギン・ニッポン!」に変わった時に特攻服を着た氣志團ファンの方々が一斉に反応を示したのは実に面白かった。
そしてラストは「渚にまつわるエトセトラ」から「アジアの純真」という大ヒット曲2連発。みんなが聴きたいPUFFYの曲をちゃんと全部やってくれるのは本当にポップグループとしての役割を全うしていると思うし、小学生や中学生の頃に大ヒットしていた曲たちをこうして目の前で歌っているのを聴けるというのは実に感慨深い。聴いていると曲がリリースされた当時のことやその頃に周りにいた人のことが頭をよぎる。リアルタイムでPUFFYが大ヒットしたのを見ていたからこうして曲をずっと覚えている。それは実に幸せなことなのかもしれない。
1.海へと
2.愛のしるし
3.マイストーリー
4.これが私の生きる道
5.誰かが
6.サーキットの娘 〜 スウィンギン・ニッポン! 〜 ウィーキャン!
7.渚にまつわるエトセトラ
8.アジアの純真
13:55〜 BiSH [MOSSAY STAGE]
紹介VTRでは綾小路翔に
「もはやアイドルではないですよね」
とその特異な立ち位置を賞賛されていたものの、
「BiSHは電車移動なんで車を買って欲しいです」
とセントチヒロ・チッチが綾小路翔におねだりをし、
「そういうところはアイドルみたいなこと言うんだね(笑)」
といじられていた、BiSH。もはやこのフェスだけではなく、あらゆるフェスというものにおいてはおなじみの存在になってきている。
メンバーが登場すると、揃いの衣装かと思いきや、ハシヤスメ・アツコだけはこの日の会場で販売されている氣志團のロゴが入っているセットアップを着ているのに加え、トレードマークのメガネがサングラスになっているという氣志團仕様で氣志團への愛を示す。
そんな中で「星が瞬く夜に」でスタートすると、以前にフェスで見た時と明らかに違っているのは、バンドを従えた編成になっていること。これはライブ毎にさまざまな理由によって編成が変わっているのかもしれないけれど、今や「楽器を持たないパンクバンド」とすら呼ばれるようになっているくらいのこのグループの音楽性には間違いなくバンドが入った方が良い。
以前に見た時はそうしたバンド不在ということでメンバーによるカラオケ的なライブだったのだが、ロックバンドのライブに慣れすぎているからか、自分はどうしてもそうしたライブに飽きてしまう。しかしこのバンド編成での音の生の伝わり方と迫力は飽きるような暇を全く与えない。
またこのグループは過激なMVや歌詞が注目を浴びたりもしており、「NON TiE-UP」では
「おっぱい舐めてろ チンコシコってろ」
という歌詞がある(自分はあからさまにそうした狙ったような歌詞は好きじゃなかったりする)のだが、それを家族連れも多いこのフェスでやって大丈夫なんだろうかといらぬ心配をしてしまう。
あ、その後にそう来るのか、と思うようななかなか普通なら思いつかないようなダンスも面白いが、セントチヒロ・チッチは
「さっき(オープニングセレモニーでの開会宣言で)、翔さんは私たちのことを「仲間」って言ってくれた。それが本当に嬉しかった」
と言っていたが、その言葉の裏には独自の路線を突き進んできたがゆえに今までの活動でそう言ってくれる存在がほとんどいなかったであろうことを感じさせて、少しウルっとしてしまった。
そしてラストはきらめくような美しいサウンドの「プロミスザスター」から、この日の客席に歌詞が書かれたTシャツを着ている人がたくさんいた「beautifulさ」でメンバーの華麗なマイクリレーとダンスを見せた。
今やこのグループは名だたるバンドが居並ぶようなロックフェスでもメインステージに立つような存在になってきているが、こうしてバンドセットでそうしたフェスに出ればもっとフェスで勝てるような存在になると思うし、自分みたいなやつがライブを見たり曲を聞いたりするきっかけになるとも思う。ちなみにメンバーはこの後、様々なアーティストのライブを普通に客席で楽しんでいた。
1.星が瞬く夜に
2.DiSTANCE
3.GiANT KiLLERS
4.NON TiE-UP
5.プロミスザスター
6.beautifulさ
14:30〜 SiM [YASSAI STAGE]
5年連続出演。ラウドバンドも多く出演するこのフェスにおける首魁的な存在のSiMがこの日に出演することによってより一層この日のラウドなイメージが強くなる。
紹介VTRでは悪魔的なイメージを出しているこのバンドを
「本当に良い子の集まり」
と営業妨害かのように紹介するが、MAHはそれでも
「全部ぶっ潰す!」
とキャラを貫き通す。
いざメンバーが登場してライブが始まると、「Faster Than The Clock」でいきなり巨大な左回りのサークルを出現させ、このバンドの存在をほとんど知らないであろう参加者の驚いている顔が実に面白い。
スクリーンに映像が映し出された今年リリースの「DiAMOND」の曲タイトル通りの重くて硬い演奏の後はMAHが花道まで出てきて、
「5年連続で房総半島にまで来ていると、何にもないこの場所が自分にとって大事な場所の一つになっている。このフェスがなかったら房総半島に来ることはなかったかもしれないし、台風が起こった時にこんなに心配するようになっていなかったかもしれない」
とこのフェスの常連バンドだからこその千葉の現状に触れてから「Blah Blah Blah」を大合唱させようとするのだが、肝心のMAHが演奏するメンバーとあまりに離れてしまったためにタイミングが合わず、曲の入りをやり直すという珍しい場面も。
MAHに合わせて観客がモンキーダンスを踊る「GUNSHOTS」ではSHOW-HATEもカメラ目線で笑顔でギターを弾くと、
「フェスで激しい曲しかやらないバンドになりたくないからバラードもやる。いろんな曲を聴きたかったらワンマンに来い。ライブハウスに来い」
と言って花道の最先端にマイクスタンドを置いたMAHがバラード曲である「The Sound Of Breath」を熱唱。バンドにとって花道があるこのステージというのはどう使えばいいのかわからない部分もあるだろうけれど、5回目の出演という慣れの部分もあるのか、あるいはハンドマイクボーカルという編成によるものか、SiMは実にこの花道の使い方が上手い。最後にはSHOW-HATEも花道を歩いてギターを弾いていた。
そして
「我々も川崎でフェスを開催してるんですけど、氣志團がこのフェスに毎回我々を呼んでくれてるのに、SiMはフェスに氣志團を呼んでくれないってスタッフが言っているという噂を耳にしました(笑)」
と笑わせながら、
「1週間延期にすればいいじゃん、っていう人もいるだろうけど、このステージを作り始めたら、1週間そのまま置いてはおけないんですよ。一回バラさないといけない。それにも多大な費用と労力がかかる。
それに、食料が、電気が、水が足りてない!っていう声もあるけど、それって氣志團がやる仕事じゃないだろ!」
とこの海の対岸でフェスを開催している立場だからこその意見を表明する。それは決して被災地や被災者を軽視しているわけじゃない。ただずっと出続けているからこそ、きっとメンバーは今年もここに来るのを楽しみにしていたはず。だからこそ、
「でも俺たちはどっちでも良かった。開催でも、中止でも。でもこの日は氣志團のために捧げた1日だから、どうしようと氣志團のために使おうと思った」
とも言った。もしかしたらいつかDEAD POP FESTiVALにもこういう選択を迫られるような時が来るかもしれない。その時にはきっと氣志團の存在がSiMにとって最も頼もしいものになるはずだ。
そして、
「「KiLLiNG ME」知ってる人!?…この曲を知らない人がいるっていうのは信じられない!」
と言いつつ、
「今日が今年唯一のライブだっていうやつだっているだろ!負けんじゃねーぞ!」
と音楽の力を信じているからこそのありったけの想いを曲に込め、最後には「f.a.i.t.h」でウォールオブデスを出現させた。
綾小路翔はSiMのことをバンド界の蝶野正洋と評していたが、怖そうに見えて実は優しいというSiMの人間性はヒールプロレスラーでありながら子供たちやファンには優しい蝶野正洋と実に似通っており、その評は的を得ている。
そんなSiMは毎年このフェスに出るたびに、
「ほんっとに何にもないところだな!」
と言っていた。そんな何にもないところが特別な場所になった。それはこのフェスが続いてきて、積み重ねてきたものがあるからこそそう思える場所になった。それは自分にとってもそうだ。ここで今年もSiMのライブを見れて本当に良かったと思っている。
1.Faster Than The Clock
2.DiAMOND
3.Blah Blah Blah
4.GUNSHOTS
5.The Sound Of Breath
6.KiLLiNG ME
7.f.a.i.t.h
15:15〜 森山良子 [MOSSAY STAGE]
今年、このフェスの最終出演者として発表されたのが森山良子だった。それは参加者に驚きを与えたが、奇しくも森山直太朗との森山ファミリーがついに居並ぶフェスを作ってしまったのだ。
紹介VTRでは綾小路翔が
「今まで見てきた中で一番歌が上手い人」
と評していたが、実際にステージに出てきた森山良子は髪型をリーゼント風にするという氣志團万博ならではの出で立ちで観客に衝撃を与える。御歳71歳である。
そしてアコギを持って「涙そうそう」を歌い始めると、その美しい声に聞き惚れるし、ワンコーラス歌い終わると自然と拍手が巻き起こる。それくらいに会場の空気を変えるような歌声である。ギターやバンジョーなど、マルチプレイヤーとしてバンドを支える高田漣やソングライタードラマーとして名高い坂田学などのバンドメンバーたちも歌声に負けないくらいの超凄腕揃いである。
すると急に森山良子が
「オーライ!オムラーイス!」
という綾小路翔のコール&レスポンスを完コピして歌声とのギャップでさらに客席を戸惑わせると、森山良子のいとこであるムッシュかまやつのコスプレをした、モッシュかまやつこと綾小路翔がシャンパンを持って登場して、森山良子の持つグラスにシャンパンを注ぐ。
これはどうなるんだ?という空気が客席に広がると、森山良子はシャンパンを飲み干しながらオペラの椿姫の「乾杯の歌」を歌うのだが、イメージとしては酒を飲みながら歌うという感じは全くなかったし、それは声が出なくなってしまうような危惧もあったりするのだが、そんな影響は全くなしで軽やかにステージを歩き回り、シャンパンを飲みながら歌う。曲にちなんでいきなり観客と乾杯をし始めたのはびっくりしたけれど。
再び綾小路翔のコール&レスポンスをするくらいにクセになってしまった森山良子が「聖者の行進」をその歌声を存分に活かしたフリーキーなスタイルで歌い、バンドもしっかりとそれについていくのだが、スクリーンにはステージ裏でダラダラしている息子の森山直太朗の姿が映し出される。その直太朗は母親が歌い始めるとダッシュしてステージに登場し、2人でデュエットするという、まぁなんかしらやるだろうとは思っていたけれど実際にこうして2人が歌っているのを見るとあまりの歌の上手さに驚くというか、もはやそれを通り越して感嘆の声しか出ないレベル。
そして息子の森山直太朗とバンドメンバーを送り出すと、再びアコギを持って歌い始めたのは「ざわわ…」こと「さとうきび畑」。この会場にはさとうきびではないけれど、南国っぽい植物が群生している。スクリーンにそれが映し出され、聞こえてくるのは森山良子の歌声と柔らかなアコギの音色。それは夏の終わりを感じさせるにはあまりに美しすぎる光景だった。
このフェスには去年の和田アキ子など、数々の素晴らしいシンガーたちが出演してきた。それら全てを見てきた綾小路翔が
「1番歌が上手い」
という森山良子は、息子である直太朗ですらも、自分より歌が上手い人がいると悔しいと思ってしまうらしい。71歳にして今でもそういう感情を持っていて、自分の歌声とパフォーマンスを磨き続けている。その姿を見ていると、歳を取ったからもう無理、といろんなことを諦めてしまうことの理由に年齢を持ち出すのが申し訳なく感じてしまう。それくらいに素晴らしい歌声だった。
1.涙そうそう
2.乾杯の歌 (椿姫)
3.聖者の行進 w/ 森山直太朗
4.さとうきび畑
15:55〜 元祖万博 ウルフルズ #ヤッサ
なぜかやたらと長い名前になっている、ウルフルズ。その理由はかつてウルフルズが「万博」と題した「ヤッサ」というイベントを行っていたからで、それを示すための今回の名義である。ウルフルズはかつてリアルな意味での万博が開催された大阪のバンドである。
ホーン隊も加わった大所帯編成で、トータス松本がグレーのスーツを着て登場すると、1曲目からそのトータスのソウルフルなボーカルが響き渡る「バンザイ 〜好きでよかった〜」で観客も両手を挙げてバンザイをする。こうしてここでウルフルズに会えたことを祝福するかのように。
実は氣志團はブレイク前にこのバンドの「事件だッ!」のMVに出演しており、ウルフルズのメンバーが来ると信じてひたすら歩き続ける姿を撮影したらしいのだが、本人が出演しないタイプのMVだったらしく、その時には本人たちと会えなかったらしい。
そんな普段はフェスではほとんど演奏されることのない思い出の曲を演奏してくれるというあたりにウルフルズが自分たちを追いかけ続けてきてくれた(紹介VTRでも「近い立ち位置にいる」と評されていた)氣志團への愛情を感じさせる。
ウルフルズはウルフルケイスケがソロ活動専念により休業したことによって3人になったのだが、サポートギターとして桜井秀俊(真心ブラザーズ)が参加し、最新作からはソウル度がより濃くなり、今のバンドの方向性を感じさせる濃厚なラブソング「センチメンタルフィーバー 〜あなたが好きだから〜」を披露し、ジョン・B・チョッパー(ベース)も歌うというこのメンバーだからこそのウルフルズ、ということを強く感じさせる。
さらには大阪への愛を大阪弁や大阪の地名を交えて歌う「大阪ストラット」では「アクアライン」などのこの地域の地名をふんだんに取り入れた木更津バージョンにして演奏するというこの日、この場所だからこそのアレンジを見せると、「笑えれば」へ。
「とにかく笑えれば 最後に笑えれば」
というサビのフレーズは、賛否両論渦巻く中で開催という道を選んだこのフェスや氣志團のメンバーたちが、フェスが終わった後に笑っていて欲しいという願いを込めて演奏されているかのように思えた。
そしてラストはバンド最大のヒット曲である「ガッツだぜ!!」でトータスが氣志團のメンバーを呼び込むと、法被を着てサイリウムを振るという氣志團メンバーがオタ芸要員としてステージに登場。すると氣志團メンバーとトータスが花道に進んで歌うのだが、最後のサビ前にトータスが倒れ、氣志團メンバーが
「ガッツだぜ!ガッツだぜ!」
と励まして立ち直らせ、さらには「One Night Carnival」を挟んでくるというサービス精神っぷり。それは「近い立ち位置にいる」という両者の関係性を象徴しているかのようだった。
ウルフルズは今年、夏フェスにいくつか出ていたが、ロッキンに出演した際は「ガッツだぜ!!」をやらなかったらしい。それをこの日はやったのは、こうした氣志團メンバーとのコラボというのがあったと思うけれど、この状況であるために千葉で生きる人々にガッツを与えるかのようだった。だからこそ、千葉で生きてきたものとして、この日の「ガッツだぜ!!」は今までライブで聴いてきた中で最も感動してしまったし、ウルフルズが今年こうしてこのフェスに出てくれて本当に良かったと思った。
1.バンザイ 〜好きでよかった〜
2.事件だッ!
3.センチメンタルフィーバー 〜あなたが好きだから〜
4.大阪ストラット
5.笑えれば
6.ガッツだぜ!! 〜 One Night Carnival〜 w/ 氣志團
16:40〜 HEY-SMITH [MOSSAY STAGE]
この日はいわゆるTRIPLE AXEという、SiM、coldrain、HEY-SMITHの3組が揃い踏みした日になったのだが、その中でもこのフェス初出演になるのがこのHEY-SMITH。
紹介VTRでは昨年の10-FEETが警察官の服を着て氣志團のメンバーと寸劇をやっていたのを、
「ああいうことを無茶振りされるのかなぁ」
と不安がっていたが、綾小路翔は
「あれは10-FEETがやるって言い出したやつにこっちが乗っかっただけ(笑)」
と説明。
なので特に寸劇めいたものや無茶振り的なものは何もなく、メンバーが登場すると満、イイカワケン、かなすのホーン隊3人の音が高らかに鳴る「Endless Sorrow」からスタートするのだが、Yuji(ベース&ボーカル)の歌声も、ホーン隊の表情もいつにも増して心を込めているように見える。そこにはもちろん今の千葉の状況というのもあるのだろうし、初めて来た場所でのライブということもあるのだろう。
基本的にこのバンドはみんなで歌って踊って暴れられるというスカパンク。スカパラもそうだが、スカという音楽にはどうしたって陽性なエネルギーが宿っている。だからこそ猪狩秀平(ボーカル&ギター)も、
「自粛が似合わないバンド、HEY-SMITHです!俺たちは音楽で元気を与えにきました!でもまずはお前たちが元気になることやぞ!ライブハウスやフェスに来たりして、人が人の上を転がっていくようなことばっかり経験しているお前たちは普通の人たちよりも強い!だからお前たちがまず元気になって、その元気を他の人たちに分けてやってくれ!」
とMCでもポジティブなメッセージを放ち続けている。今年は自身も病気になってステージに立てなかったり、今のメンバーになる前には解散説すらも出たことがあるバンドだ。それを乗り越えてきたバンドの言葉に説得力がないわけがないし、「Don’t Worry My Friend」はそのメッセージをそのまま曲にしたかのようであり、まだまだ不安なことはたくさんあるけれど、演奏しているメンバーの姿を見ているとそれすらも大丈夫なんじゃないだろうか、と思えてくる。
「この曲、今年何回演奏したかわからん。でも、野外でこうやって演奏するのは今日が今年で最後かもしれん」
と言って演奏されたのは爽やかなサウンドとYujiのボーカルによる「Summer Breeze」。曲を聴きながら海の方を見たら、夕陽が海を照らしていた。その景色を見ていたら、色々迷うことや悩むことはあるし、どんな発言ですら誰かを傷つけたり怒らせたりしてしまうような今の状況であっても、こうしてここに来て、ヘイスミのライブを見れて良かったと思えた。もしこのフェスが中止になっていたら、この曲は予告がないまま今年の夏を終えていただろうし、この景色を見れなかったから。今まで自分が参加してきたこのフェスはいつも雨だったから、こんなに美しい景色が見れる場所だっていうことを知らなかった。
そして「We sing our song」からさらにペースを上げると、猪狩の
「バイバーイ」
という言葉とともに演奏された「come back my dog」では巨大なサークルピットが出現し、スカパンクバンドであるだけにラウドロックとはまた少し違う、というか音楽性はTRIPLE AXEの他の2組とは全く違うけれど、同じ景色を描くことができるという意味ではやはりこのバンドもラウドロックと言っていいバンドだ。本人たちはそういうジャンルや括りなんか一切気にしていないだろうけれど。
1.Endless Sorrow
2.Dandadan
3.Radio
4.2nd Youth
5.Don’t Worry My Friend
6.Like A Gentleman
7.Summer Breeze
8.We sing our song
9.I Will Follow Him
10.come back my dog
17:15〜 DA PUMP [YASSAI STAGE]
去年は氣志團が「U.S.A.」をアレンジし、出演していないのに曲はこのフェスで鳴っていた、DA PUMP。ISSAは綾小路翔とかねてから親交があり、
「ようやくですよ。どうせ「U.S.A.」がヒットしたから呼んだんでしょ?(笑)」
とあまりにも素直過ぎる発言を紹介VTRでしていた。それに対する綾小路翔の返答は
「その通りです(笑)」
氣志團のメンバー同様にそれぞれの色で分かれた衣装を着たメンバーが登場すると(ISSAはやはり夏の野外でもニット帽を被っている)、いきなりの「U.S.A.」からスタートし、メンバーに合わせて観客もいいね!ダンスを踊りまくる。その部分以外のダンスも含めて、そのあまりの浸透っぷりに、一時期は音楽の面では全く名前を聞かなくなったこのグループが再びメインストリームに戻ってきたんだな、ということを感じさせた。
メンバーのキレのあるダンスが素晴らしい「ごきげんだぜっ! 〜Nothing But Something〜」から、かつてはKENのラップが一斉を風靡した「if…」では現メンバーのKIMIがラップをする形に変わっているが、PUFFYと同じようにかつて中学生の頃にみんなが聞いていて、みんなが歌っていた曲をこうしてライブという場で聞けているのは実に嬉しいことだし、みんなが知っているであろう曲をちゃんと聞かせてくれるDA PUMPはフェスという場で自分たちに何が求められているのかをよくわかっている。
そして「if…」の時にカメラがメンバーの後ろから客席を映していた。客席の後ろに見えていたのは真っ赤な夕焼け。メンバーはこの景色を見ながらパフォーマンスしているのか、と思うとともに、この景色を捉えて、その美しさに気づかせてくれたカメラスタッフも見事である。
メンバー紹介もありながら、「Do it! 宙にジャンプ」、明らかに「U.S.A.」の第2弾的な感じを狙ったであろうEDMトラックの「P.A.R.T.Y. 〜ユニバース・フェスティバル〜」ではわかりやすいメンバーのダンス指導もあって、初めて聴いたであろう人たちも踊りまくっていた。
メンバーのKENZOはフランスのストリートダンスの大会で優勝しているし、そうしたダンスの凄さもさることながら、ISSAの歌の上手さと一切の衰えのなさは凄い。ちゃんとこれだけ広大な会場の端の方まで声が届いているし、年齢を経て声量や高音が出なくなるということも全くない。周りのメンバーは自身より若い人たちばかりだが、そうしたメンバーの存在が良い刺激になっているのだろう。
そのISSAがかつて主演していた映画(相手役は同じ沖縄出身のSPEEDの上原多香子だった)の主題歌だった「We can’t stop the music」でさらに懐かしい気持ちにさせると、最後はこの日2回目、
「最後にみんなでもう1回踊りましょう!」
と言っての「U.S.A.」というまさか過ぎる内容。当然1回目よりさらに踊りまくっていた客席はDA PUMPのライブのエネルギーによってそうなっていたところもあったはずだ。
前にDA PUMPのISSA以外のメンバーたちが
「ISSAさんをまたデカいステージに立たせてあげたい」
と言っていたのを見たことがある。こうしてその言葉通りにISSAは、DA PUMPはデカいステージに戻ってきた。いや、昔はこんなフェスがなかった。昔だったら立てない場所に今のDA PUMPは立っている。DA PUMPと聞くとやはりKEN、SHINOBU、YUKINARIの3人の顔が今のメンバーよりも先に出てきてしまうけれど、みんな元気でやっているのだろうか、って少し気になった。
1.U.S.A.
2.ごきげんだぜっ! 〜Nothing But Something〜
3.if…
4.Do it! 宙にジャンプ
5.P.A.R.T.Y. 〜ユニバース・フェスティバル〜
6.We can’t stop the music
7.U.S.A.
18:00〜 King Gnu [MOSSAI STAGE]
紹介VTRで綾小路翔が、
「最近飲みに行くとKing Gnuのライブの話か、全裸監督の話ばっかりしている(笑)」
と評したのはKing Gnu。今年は様々なフェスに出まくっているが、このフェスにも初出演。
すっかり暗くなってきた袖ヶ浦。ステージには「King Gnu」と書かれたオブジェが発光しているが、これがしっかりと色が変わるのまで確認できるのは夜ならではである。
メンバーが登場し、常田大希(ボーカル&ギター)が
「King Gnu始めるぞ!」
と言って拡声器を持って「Slumberland」からスタートするのだが、勢喜遊のドラムの凄まじさはもちろんだが、新井和輝も初っ端からステージ前まで出てきて、高くベースを掲げながら弾く。
綾小路翔が言っていたこのバンドのライブのことばかり口にしているというのはこのリズム隊の強さがあってこそである。
このMOSSAI STAGEは持ち時間が30分と非常に短いので、セトリ自体はラブシャの時から「Prayer X」を削ったものになっていたのだが、それにしても超満員。純烈のメンバーすらも
「King Gnuが大好きなんでライブが観れるのが楽しみ」
と言っていたが、そうしたたくさんの人の期待を全て自分たちのエネルギーに変換しているかのようなライブを見せている。「Vinyl」などでは常田の気だるいボーカルと井口理のハイトーンなボーカルの絡みっぷりも実に見事にハマっている。
春フェスあたりではとりあえず「白日」を聴きたいというような観客も多かったが、今やそれが終わってもステージを移動する人はほとんどいないし、むしろ凄いのはその後に演奏された「飛空艇」のファイナルファンタジーに出てくる飛空艇団のテーマソングかのような重厚なグルーヴ。これはリズム隊がそのどっしりとしたサウンドを支えていないと成立しない曲であり、この曲にこそライブにおけるこのバンドの強さが見える。
持ち時間が短いがゆえにMCも挟まずにあっという間に最後の曲となったのはバンドサイドが明確にこうしたフェスに攻め込んで行くつもりで作ったであろう「Flash!!」。井口は間奏で痙攣したかのような動きで踊りまくっていたが、そうしたコミカルな部分はこのフェスが持つ空気とよく似合っているだけに、今後このフェスで彼がどんなパフォーマンスをするようになるのかも楽しみなところだ。
綾小路翔は
「来年以降確実にこの規模ではもう見れなくなる」
と評していた。それは誰しもが間違いなくそう思っていることであるが、そんなバンドをして「神獣」というキャッチコピーをつけるあたりが実にこのフェスらしい。ヌーの群れの中の王様というバンドだもんな。
1.Slumberland
2.Sorrow
3.Vinyl
4.白日
5.飛空艇
6.Flash!!
18:35〜 Dragon Ash [YASSAI STAGE]
今年で3年連続出演となる、Dragon Ash。ロッキンやライジングサンでは大トリという重要な位置を担っていたが、この日はトリ前。綾小路翔が
「Dragon Ashがいなかったら日本の音楽シーンは全然違うものになっていた」
と評していたが、この日出演していたラウドバンドたちもDragon Ashがいなかったらこうして出てくることはなかったかもしれない、と思うくらいに日本の音楽シーンに革命を起こしたバンドである。
この日もThe BONEZのTSUYOSHIをサポートベースに迎えて、ラテンミュージックの要素がフェスという場によく似合う「Ambitious」からスタートすると、ゴリゴリのサウンドがキングオブミクスチャーロック感を感じさせてくれる「Mix It Up」、さらにはhideのカバーの「ROCKET DIVE」も演奏されて、あっという間にダイバー続出のdiver’s areaにこのフェスの客席は姿を変えていく。kjは
「万博、開催できてよかったよねぇー!」
「千葉ー!」
と叫ぶのだが、そうした言葉の一つ一つが、そして何があっても前に進み続けることを選んだ意志がそのまま出ているサウンドが、我々観客にこれ以上ないような力を与えてくれる。
最新曲「Fly Over」でその進み続けるバンドの意志を改めて示すと、「Jump」で飛び跳ねさせまくり、
「氣志團がやるって言ったんだ。板の上に乗ってる俺たちはあいつらを信じてステージに立って音を鳴らすだけ」
とこうしてここで歌っている理由を語り、「百合の咲く場所で」では上半身裸になったkjが客席に突入。自身めがけて客席を転がってくるダイバーたちと拳を合わせながら、最後はステージにどうやって戻ればいいのかわからなくなっていたのは面白かった。
そしてラストはやはり「Fantasista」。待ってましたとばかりに大合唱が起きる中でkjはThe BONEZやSiMのTシャツを着てダイブする観客を
「最高!そのままこっち来い!」
と褒め称えながら煽り、笑顔でダイバーたちの姿を見ていた。
ロッキンの時もそうだったが、今のDragon Ashのライブやkjの言葉は本当に強い力を与えてくれる。それは彼ら自身が何よりも音楽に救われながらこうしてバンドを続けてきていて、その姿と鳴らし続ける音楽に我々が救われているからである。
紹介VTRの最後に綾小路翔は
「早く帰って来い」
と言っていた。それは間違いなくKenKenに向けられたものである。それには批判的な意見もあるかもしれないけれど、彼らは仲間であり友達だ。それは何があっても揺らぐことはないのだろうし、自分の友達と呼べる人が同じことをやってしまったとしたらどう思うだろうか、ということを考えていた。誰しもが許してくれるわけではないけれど、やっぱり早く帰ってきて欲しいよなぁ。
1.Ambitious
2.Mix It Up
3.ROCKET DIVE
4.Fly Over
5.Jump
6.百合の咲く場所で
7.Fantasista
19:20〜 coldrain [MOSSAI STAGE]
3年連続でこのMOSSAI STAGEへの出演となったが、今年は初めてのトリとなるcoldrain。しかし未だにメインステージのYASSAI STAGEに届かない理由を、
「笑いの要素が足りないから」
と綾小路翔に言われていただけに、このトリという場でどんな戦いを見せるのか。
笑いが足りないとは言われたものの、このバンドのメンバーはハロウィンライブなどではかなり思い切った格好をしたりしているし、去年はライブ後に学ランを着て写真を撮っていたりと、なかなかノリが良いメンバーたちなのだが、この日は至って普通というか、そう言われたからこそ逆に音楽でねじ伏せると言ってもいいくらいにいつもと同じ出で立ちで登場。
Masatoがデスヴォイスとボーカルを巧みに使い分ける「ENVY」からスタートすると、「FEED THE FIRE」とこれぞこの国のラウドロックのど真ん中的な曲が続くのだが、Masatoは
「試されてる。今年どうだったかで来年向こうのステージに行けるかが決まる」
とやはりYASSAI STAGEをだいぶ意識している様子。
そんな中で、去年まではひたすらに激しい曲を連発してきたが、今年はリリースされたばかりの新作アルバム「THE SIDE EFFECTS」からダークな歌モノの「COEXIST」を演奏。Masatoはトリだからこそこのフェスでやっと歌モノができたと語っていたが、そういう曲でこそラウドロック界随一の歌の上手さを持つMasatoのボーカルの魅力を感じられる。
しかしそのあとは
「今日はSiMとかHEY-SMITHとかがやってたけど、何個かのサークルじゃなくて、今日1番デカいサークルを見せてくれー!」
と言うと「F.T.T.T」「24-7」と連発して激しいサークルモッシュが発生。このステージの客席中央はほとんどサークルゾーンになっており、これは来年以降間違いなく映像で使われそうだし、ただ激しく暴れるんじゃなくてメンバーも回っている人たちもみんな笑顔だ。やっぱりこうして音楽でむちゃくちゃできるのが楽しいのだ。
「今日のSiMみたいに俺たちも向こうのステージでガタガタになりたいんだよ。だから宣言します。来年はこのステージでお前たちと会うことはありません。来年はYASSAI STAGEで会おうぜー!」
と言うとまさにそうした大逆転劇、革命を起こすように「REVOLUTION」、そして大合唱が轟いた「THE REVERATION」という、よく間違えられるからあえてタイトルが紛らわしい曲を作った2連発で、結果的に笑いの要素は一切なし、ひたすらに自分たちの最も強い部分を見せるといういつもの、そして最強のcoldrainのライブだった。
ただ、YASSAI STAGEに行くには笑いだけじゃなくて、圧倒的な動員力が求められる。このステージの何十倍も大きなステージだから。そういう意味で言うとこの日ならコロナナモレモモ(これはちょっと飛び道具だが)やKing Gnu、翌日のヤバイTシャツ屋さんというバンドたちの方がYASSAI STAGEに近い存在だ。
しかしこの日のそうそうたるラウド勢の中で最後に出てきて、こんなに「やっぱりラウドロックってめちゃくちゃカッコいいな」って思えるライブができるバンドは他にいない。何よりも来年もこのフェスでライブが見たいから、Masatoの言う通りに来年はYASSAI STAGEで会えますように。
1.ENVY
2.FEED THE FIRE
3.COEXIST
4.F.T.T.T
5.24-7
6.REVOLUTION
7.THE REVELATION
20:00〜 木梨憲武 [YASSAI STAGE]
この日のトリはとんねるずの木梨憲武。そもそも「フェスで何をやるのか」というところからして全くわからないし、
「ギリギリで行かない可能性もある。そしたら代わりにB’zの松本さんに行ってもらいます(笑)」
と紹介VTRで言っていたように、何もかもが未知数。とはいえあえて主催者である氣志團がトップバッターで出たくらいに大事な初日のファイナルアクトである。
ステージに照明が当たると、そこにはハットを被ってピアノの前に座った木梨憲武が。ヴォコーダーで声を加工しながら、矢野顕子のモノマネの「矢のり顕子」として弾き語り…かと思いきや明らかに指の動きが音と合っておらず、後ろにいるバックバンドが演奏していることがこの時点でわかる。
それは「ざわ山良子」としてひたすら
「ざわわ…ざわわ…」
を連呼しまくる「ざわそうそう」のアコギ弾き語りでもそうなのだが、そもそもアコギ自体に弦が張っていないことを自らカミングアウトして爆笑を巻き起こす。
そうしたオープニングだったので、今日はひたすらミュージシャンに憑依しまくるモノマネ的なライブなのかな?と思っていると、総勢100人くらいのダンサーがいきなりステージになだれ込み、大人数の豪華なバックバンドによる演奏の中を木梨憲武が歌うミュージカル的な「Laughing days」で一気にフェスらしい祝祭感に溢れるが、そもそもこの曲はなんの曲なんだろうか?という疑問が浮かぶ中、木梨憲武は
「リハ一切してません(笑)ぶっつけ本番で上手くいったダンサーの皆さんに拍手を!」
とステージに100人も動員しながらもこれが完全に出たとこ勝負だったことを明かす。
そのダンサーとともに踊りまくり、木梨憲武は西城秀樹のモノマネも交えた「YOUNG MAN」と一見完全に節操がないというか、流れ的にはとっ散らかりまくっているように見えるが、去年は森山直太朗が西城秀樹のコスプレをしていたように、いなくなってしまった人のことを忘れないように歌い継いでいくという意思が少なからずあった選曲だと思われる。
すると急にヒロミ、カンニング竹山という完全なる友人たちをステージに招き、3人がアコギを持ってアリスになり切って歌う「チャンピオン」と、木梨憲武でしかできないような世界に突入していく。
とはいえこうしたフェスには慣れていない木梨憲武は、自身が57歳であるという年齢に触れながら、
「今日50代の人いる?いたら叫んでみて?(怒号が聞こえる)絶対嘘!こんなにいるわけないし、50代は1日ずっと野外にいて最後にこんな声出ない!(笑)
そんなジジイたちに捧げる歌を作りました!」
というまさかのオリジナル曲「GG Stand Up!!」は加齢を重ねた大人の悲哀を面白おかしく綴るという木梨憲武ワールド炸裂の歌詞であるが、スクリーンにはなんと
「木梨憲武、ユニバーサルミュージックと契約決定!」
というドラマ仕立ての映像が流れ、この年齢にしてメジャーレーベルからミュージシャンとしてソロデビューすることを発表。
「普通、ミュージシャンはみんな曲をリリースしてから、体を整えてツアーとかライブに出たりすると思うんだけど、我々は急にやってみるっていう(笑)」
というこの一連の流れの解説は爆笑モノであるが、木梨憲武は歌が上手い。それはとんねるず時代の曲からもわかることでもあるのだが、歌うことや音楽が好きで、自身の表現としてそれをやりたいと思っているのだろう。未だに衰えないその創作意欲には改めて最敬礼である。
そんなオリジナル曲としてここで演奏されたのは「1人に向けたラブソング」である「I LOVE YOU!だもんで」なのだが、サビが
「成美さん LOVE」
という、嫁である安田成美への愛をひたすらに歌うというとんでもない曲であり、
「財布から2〜3万円くらいなら抜いてもバレない」
「9万円のバッグを買ったら90万円だった」
などの夫婦の生活を綴った歌詞で爆笑を巻き起こすのだが、もう結婚して何十年も経つのにこうしてたくさんの人の前で夫婦愛を口にできるというのはなんとも微笑ましく感じる。
「せっかくだから、とんねるずの曲もやろうと思って。貴明(石橋貴明)も誘おうと思ったんだけど忙しそうだったから、貴明のパートを今日はこの男に歌ってもらおうと思います!」
と言って呼び込まれたのはもちろん、とんねるずの大ファンである綾小路翔。
とんねるずには大ヒット曲がたくさんあるのだが、そんな中でこの日披露されたのは若き日のとんねるずが上層部などへの怒りを歌詞にした「一番偉い人へ」。それはどこか、この千葉が見舞われてしまった災害への対応のことを歌っているようにすら聞こえた。
「そしてやっぱり最後はこの曲!」
と言ってバンドが演奏を始めたのは「One Night Carnival」。ビッグバンド的なサウンドがいつのまにかロックンロールな演奏に変わっている?と思ったらステージには氣志團のメンバーが。さらに綾小路翔が手招きすると、ヒロミやカンニング竹山のみならず、BiSHのハシヤスメやモモコに混じってマキシマム ザ ホルモンのナヲ、純烈のメンバー、森山直太朗と森山良子、PUFFY、さらには出演日が翌日であるゴールデンボンバーの鬼龍院翔までもステージに登場してみんなで「One Night Carnival」を踊るのだが、そんな豪華なメンバーの中で最も目立っていたのは、胸に「ゴールデンボンバー」と書いた紙を貼って主張し、1人だけ横に伸びた花道を走っていって「女々しくて」のダンスを踊っていた鬼龍院翔だった。
最後にはそんな豪華な面々が花道の最先端に集結し、みんなで花火を見ようとスタンバイするのだが、カウントダウンをしても全く花火は上がらず、木梨憲武は
「満月が綺麗だな〜。みんなで満月を眺める会ですよ、これは(笑)」
と見事にフォロー。結局、花火は上がらなかったけれど、本当に綺麗な満月だった。去年までは天気が悪くて月すら見えなかっただけに、この景色がより一層愛おしく感じた。
1.ラーメンたべたい
2.ざわそうそう
3.Laughing days
4.YOUNG MAN
5.チャンピオン w/ ヒロミ、カンニング竹山
6.GG Stand Up!!
7.I LOVE YOU!だもんで
8.一番偉い人へ w/ 綾小路翔
9.One Night Carnival w/ 氣志團 etc.
木梨憲武とTRIPLE AXEのバンドが同じ日に出るようなフェスはほかにない。氣志團万博はそうして普段なら絶対に混じり合わないような人たちが混ざり合うようなキッカケを作ってきたフェスだった。
しかし今年はこのフェスによって分断が起きてしまった。開催に賛成する人と、反対する人。もし台風がなかったら、あるいは開催からもっとズレたタイミングだったら…。そう考えると本当になぜこのタイミングで、なぜこのフェスがそうなってしまったのか、と思わざるを得ないけれど、どちらの立場の人も千葉のためにそうした意見を言っているということだけは確かだし、この日の出演者たちはみんは千葉のために音を鳴らしてパフォーマンスをしていた。
でもこれは自分の意見でしかないけれど、中止にしても前に進むことはないと思う。もちろん会場に電気が通らない、水もない、車が通る道がないというのならそれは無理だ。
しかしこの会場や袖ヶ浦駅には電気も水も物資を運ぶ道も、我々や出演者が会場に行くための道がちゃんと開通していた。それに氣志團万博を中止にしたからといって被災地に電気が通るわけではない。もし中止にして停電を解消できるんなら氣志團は間違いなくそうしている。でも現実、それは別の話だ。
この日、氣志團による「マブダチ募金」の箱には朝からたくさんの紙幣であふれていた。早乙女光は募金箱を持って会場内を歩き、仙台貨物のイガグリ千葉は出演していないのにずっと募金ブースに立ち続けていた。(翌日は打首獄門同好会のメンバーもそうしていたらしい)
それはこのフェスが中止になっていたらできない支援の仕方だし、利便性や利益を考えたらほかにもっといい場所がたくさんあるにもかかわらず、氣志團はずっと徒歩圏内に店が1軒もないようなこの場所で、地元の飲食店ブースを作ったりして氣志團万博を続けてきた。ここは氣志團にとって他に変えようのない故郷だから。そんな氣志團が地元のことを考えないわけがない。きっとこの募金もそうだし、フェスが終わったら氣志團は復興のために誰よりも尽力してくれるはず。その想いだけはいろんな人に少しだけでも届いて欲しい。
自分は千葉県民であり、そして音楽ファンだ。どんなに美味しいものを食べたりするよりも(できれば食べたいけれど)、どんなに広くて綺麗な家に住むよりも(できれば住みたいけれど)、ロッキンやラブシャやこのフェスを楽しみにして1年間を生きている。
音楽はなくても生きていけるものかもしれないし、空腹を満たしたり暑さを和らげることはできないものだ。でもきっと氣志團のファンの方々にしてみたらこの氣志團万博が楽しみでキツイことがたくさんある1年間を生きている人もたくさんいるはずだし、このフェスに来れば会える氣志團仲間という人もいるはず。そう思えるフェスだから、こうして自分も毎年こんなになんにもないところまで足を運んでいる。
今年開催して良かったのか、成功だったのかはまだわからない。でもいつか「やっぱりあの時にやって良かったよね」と思えるように。それを確かめるためにまた来年もここに来ようと思う。
文 ソノダマン