新宿LOFTが歌舞伎町に移転してきて20周年ということで様々な記念ライブが行われている今年。先月のa flood of circleの「BUFFALO SOUL」「PARADOX PARADE」の再現ライブもその一環だったが、この日はメレンゲのワンマンライブ「初恋の集い」。
かつてはこの新宿LOFTでもよくライブをやっていたが、そもそもバンドでライブをほとんどやっておらず、この日のライブが年内2本目にして今年最後。すっかりライブを観れるのが珍しいバンドになってしまっている。
平日にもかかわらずLOFTの客席はそれなりに埋まっているが、それは控え目極まりないこのバンドのファンらしくあまり隣や前後の人との距離を詰めないからそう見える部分もあるのかもしれない。やはり女性ファンが多いというのも変わらないが、それなりに男性の姿も見える。総数が少なくなったから男性比率が増したように感じるのかもしれないが。
そんな中で19時を少し過ぎると、LOFTではおなじみのステージに張られた幕が上がると、タケシタツヨシ(ベース)を先頭にメンバーが登場。近年のメレンゲをサポートしている若手ドラマー・小野田尚史(ホタルライトヒルズバンド)とギタリスト・松江潤に加え、この日は初期からメレンゲを支えてきた皆川真人が久しぶりに参加。これは普段クボケンジ(ボーカル&ギター)の弾き語りもサポートしている、相方と言ってもいい山本健太があいみょんやSuperflyだけでなく渋谷すばるのサポートも始めたからというスケジュールによるものなのかもしれないが。
おなじみのハットを被ったクボケンジが高く腕を上げると、小野田のドラムが始まりの合図を鳴らして胸を高鳴らせる「旅人」からスタート。最近かなり音が大きなバンドのライブを見続けてきたからか、メレンゲのバンドとしての音の小ささに少し驚くけれど、それはクボケンジの歌を立てるためのサウンドのバランスである。やはりメロディと歌のバンドだから。
クボがギターを持ちながらもほとんど弾かずに松江に任せ、マイクをスタンドから外して持って歌う、
「水が跳ねて Tシャツがぬれて」
というサビのフレーズの通りにきらめくようなメロディの「午後の海」では4つ打ちのリズムであるにもかかわらず観客は手拍子も一切しないという実にメレンゲのライブらしい光景。しかし髪がかなり短くなり、派手なシャツを着たタケシタは客席に向かって満面の笑みでベースを弾いている。それにつられてのものなのか、盛り上がるというわけではないけれど観客も実に笑顔だ。
久しぶりのライブであることをクボが告げながら、
「来年は早めにこのメンバーたちのスケジュールを抑えてもっとライブをやりたい」
と早くもファンにとっては嬉しくなるようなことを言ってくれる。まだ何も決まっていなさそうなので実際に来年にならないとわからないが。
かつてメレンゲはライブハウスならZepp DiverCity、それ以外の場所では渋谷公会堂など、規模の大きな会場でもワンマンを行なったことがあるのだが、その中でもトップクラスに素晴らしかった日比谷野音でのワンマンの時に夜空の真下で演奏されたのが今も忘れられない「ムーンライト」から、ギターのアルペジオが生活感を感じさせる風景を脳裏に浮かび上がらせる「燃えないゴミ」、
「逆さまの向こうは 違う世界があるのかい?」
など、かつて「純文学ギターロック」と評されたように名フレーズが炸裂しまくる「声」と懐かしい曲が続く。もう15年くらい前にリリースした曲とは思えないくらいにその名曲っぷりは今でも瑞々しく響く。
このLOFTでワンマンをやるのは実に10年ぶりであるという事実にタケシタも
「つい最近だったような気がしていた」
と驚きながらも、
「僕らはLOFT出身なんで!」
とクボは自分たちがこのライブハウスから始まったバンドであることに今でも強い誇りを持っている様子だ。
そんな話をしながらクボがエレキからアコギに持ち替えて演奏されたのはかつてリクエストライブで2位になったほどの人気曲である、クボの大好きなドラえもんをテーマにした「タイムマシーンについて」。クボは演奏前に
「昔の曲を今歌うと当時とは意味合いがちょっと違ってくる」
と口にしていたが、それは聴いているこちら側もそうだ。クボの歌い方も10年以上前の思いっきり声を張り上げるようなものではなくなり、自分たちが生み出してきた至極の名曲たちの1音1音、1フレーズ1フレーズを慈しむように歌うようになっている。それは弾き語りなどを続けてきていることによって歌唱力がかつてよりはるかに向上していることとも無関係ではないはずである。
薄暗いライブハウスだからこそそこから出た時に眩しい光が射し込んでくるんじゃないか、と思ってしまうような「まぶしい朝」とクボがアコギを弾きながら歌う曲が続く。まるでこの曲がまるまる映画になりそうなくらいに聴いていて情景を頭の中で浮かべることができる曲たち。だからこそそこに聞き手各々の思い入れが重なっていく。
クボがエレキに持ち替えると、消え入りそうに感じる時もあるくらいに儚さを感じるクボのファルセットが微かに響く「アルカディア」からは、決して盛り上がることはないけれどこのバンドの中では楽しさやアッパーさを感じる曲のゾーンへ。
おそらく今でもその身にこのバンドのサウンドやメロディが染みついているのであろう、久しぶりのライブ参加とは思えないくらいにかつてほぼメンバーみたいな形で演奏していた皆川の浮遊感を感じさせるイントロのサウンドが観客に何の曲かを一瞬で理解させ、ため息にも似たリアクションが起こったのは名曲だらけのこのバンドの中でも随一の名曲「きらめく世界」。
「海が見える小さな街 水平線を低空飛行 うみねこが飛んでる」
というイントロのフレーズからしてそれぞれが頭の中に描く景色があると思うのだが、自分の前で見ていた女性はこの曲の演奏中に顔の前に両手を合わせて涙を流していた。彼女にはこの曲を人生のどんな場面で聴いてきて、どんな思いを重ねてきたのだろうか。世間的にはメレンゲはそこまで知られた存在のバンドではないけれど、今でもメレンゲの存在に縋るようにして生きている人がたくさんいるのは間違いなく事実だ。
前半こそ久々のライブゆえか緊張感を解すかのようにMCを多くしていたが、後半はほぼMCなしで曲を連発していく。
キャッチーかつポップというイメージが強い「さらさら’90s」「アンカーリング」という曲たちはアルバム「CAMPFIRE」収録曲であるが、もうリリースが5年前であり、それが今でも最新作のままというのはなんとももどかしい気持ちになってしまう。
クボは
「来年こそは新曲を出せるかと。ちょこちょこ作ってはいるんだけど、歌詞が書けなくなってしまって…。作るからにはこれまでよりいいものを作りたいと思ってるからなかなか形にならなかったりしてるんだけど、ようやく光が見えてきたかなって」
とこの日口にしていたが、もともとメレンゲはリリースペースがそんなに速いバンドではなかった。それがメジャーレーベルにいるからこそタイアップという曲作りのヒントをもらって曲の創作につなげてきたところもあると思うのだが、そうしたこれまでのマイペースと言われるような活動ペースも
「これまでよりもいいものを」
という言葉を聞くと腑に落ちるというか。ただでさえ名曲ばかりを生み出してきたバンドなだけにそのハードルが高いのは間違いない。
そんな一応「最新」の曲に続くように演奏されたのは、皆川の浮遊感のあるサウンドがギターロックバンドとしてだけではないメレンゲの音楽性の幅を見せる「星の屑」。後にメレンゲは「僕らについて」というエレクトロロックな名曲を生み出したのだが、その素養はこの曲の時点ですでにあったと言える。
かと思えばオルタナ・グランジ的な歪んだギターサウンドの「ソト」にガラッと転換してみせるのだが、この曲はかつてメレンゲが渋谷AXでワンマンライブをやった時にクボの親友であるフジファブリックの志村正彦がゲストで登場して一緒に歌った曲である。その日が自分が最後に志村を見た日だったのだが、そうしたことも曲を聴くと思い出すことができる。あの時、まさか数ヶ月後にあんなニュースを聴くことになるなんて全く思ってなかった。それくらいにあの微笑ましい空気や空間がいつまでも続くものだと思っていた。
乙一原作、田中麗奈主演映画のタイアップとしてメレンゲの名前をそれまでよりも少し知らしめた名曲「underworld」はライブになるとゆったりとしたメロディから間奏で一気にリズムが速くなるというアレンジがなされる。メレンゲが丁寧に音を紡ぐバンドではあれど、ライブになると別の一面も見せるというのがわかる瞬間である。
そしてクボが改めて来年のメレンゲとしての活動への気持ちを口にすると、きらめくようなギターロックサウンドが松江の存在によって少し形を変えた「チーコ」へ。
「ここはアトムが夢に見た星 昼と夜のオセロの世界」
など名フレーズのオンパレードであるが、
「知ってんのオレだけだっけ?」
というフレーズは普段ならばメレンゲというバンドの良さどころか存在すらも知っているのは自分だけなんじゃないかと思ってしまう時もあるが、ライブになるとそうは思わない。こうしてメレンゲというバンドの良さと存在を知っている人がたくさんいるからである。
そしてラストに演奏されたのはタケシタが手拍子をするとそれに合わせて観客も手拍子をすることによって、この日最大の盛り上がりを見せた(手拍子が1番盛り上がっているように見えるというのが実にメレンゲらしい)「ビスケット」。かつてはタケシタがパントマイム的なアクションをしたりというギミックを見せたこともあったが、この日は演奏のみ。心なしか序盤よりもクボの声が出るようになっていた気もするが、そう感じてしまうほどに「もっとライブをやって欲しいな」と思ってしまうのだった。
アンコールで再び5人で登場すると、クボが翌週に渋谷のさくらホールで行われるイベントに弾き語りで出演し、それは弾き語りには珍しく映像とコラボするものになることを告知すると、
「精一杯歌います!」
と言って演奏されたのはストレートなギターロックの名曲「カッシーニ」。
「ホントの事いうと キミにちょっと分かって欲しい」
というフレーズを聴くたびに、ここにいる人たちはみんなちゃんとメレンゲのことを分かっているよ、と言いたくなるし、メレンゲというバンドの素晴らしさをもっと分かって欲しいと思う。タイミングや運やそうした要素が完璧に噛み合っていたならば、今で言うとback numberくらいの位置にまで行っていてもおかしくないバンドだと今でもずっと思っているから。
最後にクボは1人ずつメンバーを愛称で紹介した。そこからはこの5人の関係性が垣間見れた気がするし、その朗らかな表情を見ていると、やっぱりメレンゲは本当に良いバンドなんだよな、と思わざるを得ない。
冒頭や途中にも書いたとおりに、近年のメレンゲは活動しているのかどうかよくわからないという微妙な状態になっているし、クボは弾き語りだけでなく新たなプロジェクト「初恋のテサキ」も始動させた。
そうした動きを見ていると、新曲ができずにライブも年に数本しかやらないメレンゲは自然消滅してしまってもおかしくないんじゃないかとも思う時もある。
そんな状態であってもメレンゲを続ける理由とは一体どこにあるのだろうか。もちろんずっとメレンゲとして隣にいてくれているタケシタの存在もあるのだろうが、そのタケシタすらも前に話した時に
「もう昔みたいに頻繁な活動はできないだろうけど」
と言っていた。そんな状態であってもメレンゲを続ける理由。それはこうして今でもライブをやれば見に来てくれる、ずっとメレンゲというバンドの存在を忘れずに生きている人たちがいるからなんじゃないだろうか。そんなことを思えた、まさに初恋の集いと呼べるような一夜であった。
1.旅人
2.午後の海
3.ムーンライト
4.燃えないゴミ
5.声
6.タイムマシーンについて
7.まぶしい朝
8.アルカディア
9.きらめく世界
10.さらさら’90s
11.アンカーリング
12.星の屑
13.ソト
14.underworld
15.チーコ
16.ビスケット
encore
17.カッシーニ
文 ソノダマン