昔、蓮沼というライブイベントが日比谷野外音楽堂で行われていて、当時の若手バンドが無料で見ることができるという、今振り返ると「無料でいいのか!?」と思うようなものだったのだが、そのイベントに出演していただけに野音でワンマンをやるのが初めてであるというのが意外なストレイテナー。
そのストレイテナーの初の野音ワンマンは通常のバンド編成とアコースティック編成の二部構成という野音ならではの特別なものに。それだけにチケットは即完。武道館や幕張メッセなどのもっと広い会場でもライブをやっているバンドであるが、今も根強いファンがたくさんいるというのがよくわかる。
17時30分前に会場に入るとすでに空は暗くなっていて、陽が落ちるのが早くなった時期であることを感じさせるのだが、かねてから90%くらいの降水確率であったにもかかわらず雨はほぼ降らず。さらにはステージには「STRAIGHTENER」というバンドの英語表記と「Fessy」というこの日のライブタイトルを掛け合わせた巨大な電飾が飾られており、これまでに見てきたテナーのライブとは全く違うものになる予感がこの時点でしている。
17時45分という開演時間がちょっと早いのはアコースティックとの二部構成であるからであろうが、その時間に会場が暗転すると流れ始めたテーマパークのBGMのような賑々しいSEに満員の観客がざわつく中でメンバー4人がステージに登場。もともとドラムという椅子に座って演奏する楽器の担当である金髪のナカヤマシンペイはもちろん、ホリエアツシ(ボーカル&ギター&キーボード)、大山純(ギター)、日向秀和(ベース)も椅子に座る。当然ながらそうなると観客も全員野音備え付けの木製の椅子(今年から新しくなった)に座ったままで鑑賞するというアコースティックならではのスタイル。
そうして最初に演奏されたのは「彩雲」。ホリエと大山がアコギを弾くのはアコースティックならではであるが、シンペイは通常のドラムセットのままという形。だいたいバンドがアコースティックでライブをやるとなるとドラムはカホンを叩いたりするものだが、ドラムセットがそのままであることによって通常のバージョンとはガラッとリズムの土台からアレンジを変えている。それは高い演奏力と様々なサウンドを取り入れる柔軟性を持つテナーならではのものであると思うし、雨は降らないまでも曇天という雲に覆われた天気のこの日の幕開けには最適な選曲だ。間奏では日向が座ったままではあるが観客を煽る仕草を見せて拍手と歓声が巻き起こる。
なので「YOU and I」もアコースティックではあるけれどバンド感を感じさせるような形で演奏されたのだが、それを終えると
日向「晴れたのは大山のおかげ」
大山「まぁ…そうだね(笑)」
ホリエ「でも俺はOJが入ってから初めて行った宮古島が土砂降りだったのを今も忘れていない(笑)」
シンペイ「あれが土砂降りだったせいでOJは禁煙をやめてタバコを吸ってた(笑)」
とアコースティックという編成ゆえのリラックス感があるのか、いきなり笑わせまくるのだがフェスやイベントなどの短い持ち時間では日向や大山が喋る姿はまず見ることができないだけにワンマンならではの光景であるし、今のテナーが愉快なおじさん4人組であるということもよくわかる。
そんな朗らかな空気の中で久しぶりの曲と言って演奏された「TOWER」は確かに実に意外な、というかアコースティックがなかったらまずセトリには入ってこなかったであろう曲。
逆に音源では秦基博とのコラボ曲である「灯り」はフェスなどでも演奏されることもある曲であるが、まるで最初からこのアコースティックアレンジの曲であったかのようなハマりっぷり。
そのアコースティックというアレンジだからこそ見えてくるのはこのバンドの持つメロディの美しさ。ついつい普段だと演奏やサウンドの方に焦点が当たりがちであるが、このバンドが形が変わりながら、サウンドも変化しながらも今でもたくさんの人に支持されている最大の理由はホリエのメロディメーカーっぷりであり、それを最大限に活かすことができるメンバーの存在である。
日向が
「OJのギターフレーズ10選に間違いなく入ってくる曲」
というくらいに気に入っていると大山のハードルを上げまくったのは「WISH I COULD FORGET」であるが、キーボードを弾きながら歌うホリエが歌い出しでミスってやり直すという大山の緊張感が乗り移ったかのような展開に。その大山はアコースティックと言いながらもエレキに持ち替えて弾くが、それは普段のサウンドとは異なる、丁寧に音を紡ぐような演奏。その大山のギターからももはやアコースティックという感じですらない編成になっているはずなのにアコースティックとしか感じられないアレンジを施しているのは素晴らしい。
これまたアコースティックだからこそセトリに入ってきたのであろう曲「FREE ROAD」ではステージサイドからシャボン玉が舞う。まさかテナーのライブでこんな演出が見れる日が来るとは全く思っていなかったが、完全に夜と言っていい暗さの中でのこの演出だっただけに、まだ序盤であるにもかかわらずまるで最後の曲かのような雰囲気すら漂っていた。
そしてアコースティック最後の曲は「Farewell Dear Deadman」。これもアコースティックならではの選曲と言えるが、かつてこのバンドがアコースティックアルバム「SOFT」をリリースした時はこの曲がアコースティック編成のテーマ曲であるかのようだった。それだけにアコースティックをやるなら演奏されるだろうと思っていた曲であるのだが、日向が先導するまでもなく客席から発生したリズムに合わせた手拍子は普段のテナーのライブではあまり感じられることのない多幸感を感じさせた。それは野音という場所の都内とは思えない牧歌的な空気感とアコースティックというサウンドと編成だからこそのものでもあるだけに、これからも定期的にこのスタイルでのライブを見たいと思った。
アコースティックが終わるとメンバーがいったんステージから掃けてセットチェンジが行われ、SEとしてリリースされたばかりの新作ミニアルバム「Blank Map」のオープニングナンバーの「STNR Rock and Roll」の神聖なサウンドが流れる。新しいSEとして作られたであろう曲であるが、このいつもとは違う雰囲気のライブであるだけに新しいスタートという感じが強く漂ってくる。
当然ながらメンバーも普通に立っての演奏なので、アコースティックではずっと座って見ていた観客も一斉に立ち上がり、「BRAND-NEW EVERYTHING」からスタート。実に意外な1曲目であるが、この選曲からもこの日からがまた新しいスタートであるというバンドの意思が伝わってくる。
ホリエがギターをかき鳴らしながら歌い始めた「シーグラス」はフェスなどでは後半に演奏されることが多いだけにこの序盤で早くも演奏されるというのは驚かされてばかりの展開になるわけだが、海というよりは森と言えるようなこの野音であっても野外という空気や景色でこの曲が演奏されることによって、過ぎ去っていった今年の夏の記憶が脳内に呼び起こされていく。その記憶のページにはもちろん各地で見たこのバンドのライブも、この曲を演奏している光景もある。それが自分の中のエモーションを呼び起こしていくのである。
その夏フェスで再びセトリに入るようになった「DONKEY BUGGIE DODO」はフェスではセッション的なイントロから1曲目に演奏されていたが、この日はそのイントロアレンジはないけれどその代わりに間奏でセッション的な演奏が繰り広げられる。ステージの端までスムーズなステップを踏みながらギターを弾く大山と、かつてキッズに最もベースを持たせる男と称されていたゴリゴリのベースを弾く日向がシンペイのドラムセットの前に集まって顔を合わせながら演奏する。そのメンバーの呼吸と成長を続けている演奏技術が曲をさらに進化させている。
ホリエの歌声も野音の自然に溶け込んでいくかのような柔らかさを見せていたのだが、一転してやさぐれたというか尖ったような歌い方になったのは「Tornado Surfer」。今ではこうした歌い方をするような曲は作らないであろうだけに、ホリエは表情を変えるかのように歌声を変えていた。それはともするとこの曲を歌うために演じているようでもあるのだがそこに違和感は全くない。今もテナーはその尖った部分もちゃんと持ち合わせているからである。
ホリエ「野音でワンマンやるのは初めてで、野外ワンマン自体も初めてなんですけど…日比谷公園といえばオクトーバー・フェストですよね」
シンペイ「何それ?」
ホリエ「デッカいジョッキのビールで1500円くらい取られる飲食フェス。まぁぼったくりですよ(笑)」
日向「オクトーバー・フェストの歌みたいなのがあるんだよね。リズムが「ヅンタカヅンタカヅンタカヅンタカ」みたいな(笑)」
ホリエ「日比谷公園が入るの無料だからこそいいですよね。後楽園とかだと入るだけでお金かかりますからね(笑)」
シンペイ「日比谷公園も後楽園もディスり過ぎ!(笑)」
大山「君たちは一体なんの話をしているんだ!(笑)」
という4人の役割分担が完璧にできているMCは笑わずにはいられないのだが、そんなやり取りの後に「A LONG TO NOWHERE」という曲を演奏するのだから実にズルいというかMCからの演奏のギャップが凄まじい。
それは
「勇気ある人の歌」
と紹介された「Braver」もそうであるが、決して速い曲ではないけれどその分シンペイの力強い一打一打からは速さとはまた違った重さや強さを感じさせるし、それは経験を積んだ今だからこそできることなのだろう。
ホリエがキーボードを弾きながら歌う「覚星」は
「野外だから星が見えると思って…」
というロマンチックな理由による選曲であるが、曇天ゆえにメンバーは星が見えないと思っていたのだがわずかに光る星が確かに空に輝いていた。まるでこの曲を演奏する瞬間のためであるかのように。
日向が
「ここ喋るところだっけ?あ、まだ違う?」
とやたらと喋りたそうな空気を出すと「まだ違うから」と照明スタッフからの圧力のごとくにステージが真っ暗になって客席から笑いが起きたのを一閃するかのように
「オイ!オイ!」
と猛々しいコールが起きた「TRAVELING GARGOIL」はそうした面白い部分を見せるようになっても、ギターロックバンドとしてのストレイテナーのカッコよさは少しも失われていないということを示してくれる。
1曲の中で静と動の鮮やかなコントラストを見せてくれる「冬の太陽」ではステージ上のミラーボールが輝きながら回りだすとその周りに飾り付けられた電飾が綺麗に輝く。夜の野外だからこその演出であるが、そうした一つ一つが忘れられない瞬間の積み重ねになっていく。バンドがこの日この曲をセトリに入れた意味や意志がしっかりと感じられる。
イントロで歓声が上がったのは実に久しぶりの「TODAY」。原曲は日向のバキバキのベースからしてスピード感を強く感じさせるものであったが、その強度はそのままにスピード感というよりもこれもまた重さと強さを感じさせる、リアレンジされた「STOUT」バージョンともまた違う印象を与えるアレンジになっている。ストレイテナーは割とそうして過去の曲に新しいアレンジを施して演奏することが多いバンドであるが、そうすることによって過去の曲ではなく今の曲になっていく。
この日の前日、バンドは大阪でアジカン、ELLEGARDENとの「NANA-IRO ELECTRIC TOUR」の初日公演を行なっていた。その目まぐるしいスケジュールにシンペイが嘆きながらもホリエは
「アジカンやエルレと下北沢で凌ぎを削っていたのは今思うとほんの2〜3年のことで。でもその2〜3年は本当に一瞬だったように感じる。そうした一瞬の積み重ねが人生になっていくんだろうなって」
と回想したが、またこの3組で集まってライブができるのはELLEGARDENが復活したからというのはもちろんだが、アジカンとテナーがずっと最前線を走ってきたバンドであり続けたからである。もし2組が休止したり、規模が小さくなりながら細々と活動するようになっていたらNANA-IROツアーはできなかったかもしれない。そう思うと止まらずに続けてきたことに心から感謝したくなる。
かと思いきや、
シンペイ「これがブルーハーツがかつて見た景色であり、Nothing’s Carved In Stoneが先月見た景色か〜」
日向「村松拓は今日「見に行く〜」って言ってたけど、あいつ今日千葉LOOKでabstract mashのライブなんだよね(笑)」
ホリエ「今日のライブがアコースティックと通常のライブの2部構成なんだよって言ったら、(村松の声真似で)「行きたい行きたい!」って言ってたのに(笑)多分あいつ今頃楽屋で気付いてるよ(笑)」
と日向のもう一つのバンドメンバーである村松拓いじりでやはり爆笑を巻き起こしながら、リリースされたばかりの「Blank Map」のリード曲であり、MVが話題を呼んでいる「吉祥寺」へ。
バンドを始めた頃に住んでいた街を回想するような内容の曲であるが、かつては中世ヨーロッパの世界観を想起させたりというフィクション的な歌詞の曲が多かったストレイテナーがこうした歌詞を書くようになるなんて全く思っていなかった。でもこれは今のテナーだからこそ作れる曲だ。そのフレーズの一つ一つはリアルそのものであり、もう20年近く前のことを綴っているはずなのについ先日の思い出を歌詞にしているかのよう。きっとホリエとシンペイ(まだ当時はテナーは2人組バンドだった)もそういう意識があるんじゃないかと思う。
そしてこれまたリリース時に歌詞が話題になった、ストレートなラブソング「月に読む手紙」は夜の野外だからこそと言っていい曲であるし、ホリエが
「野音は始まる時は明るくて、ライブが進むにつれて暗くなっていくから…」
と言っていただけに暗くなったこの時間を想定して後半に演奏されたのであろう。ただこの日は最初から暗かったけれど。
そして微かに同期のサウンドが流れる中で
「最後の曲です!」
とホリエが口にするとリアクションが実に薄くて
「え?そんなもんなの?(笑)」
と言われていたが、きっとみんなもう最後の曲だなんて全く思っていなかったがゆえにリアクションが取れなかったのだろう。曲数的にももっとやるだろうと思っていたからだが、よくよく考えればアコースティックと合わせるともう20曲目である。だからこそホリエに煽られたあとの「えー!!」は「もっといろんな曲が聞きたい!」という観客の感情が乗っかっていた。
そうして最後に演奏されたのはやはりリリース時からずっとこのバンドのアンセムであり続けてきた「Melodic Storm」。数え切れないくらいにライブで聴いてきた曲であるが、野音で聴く、そして最後にコーラスを大合唱するこの曲は格別な気持ち良さだった。演奏が終わると4人はいつものように肩を組んで一礼してからステージを後にした。ハードスケジュールであるが、いや、だからこそやり切ったかのような清々しい笑顔の4人であった。
とはいえアンコールで再びメンバーが登場。ホリエとシンペイはこの日のライブTシャツに着替えながら、
ホリエ「そろそろ野音の音止めの時間が迫ってきております」
シンペイ「それでも曲を予定より1曲増やしました」
ホリエ「時間オーバーして「ストレイテナーさんはもう野音ダメです」って言われたくないからね。またやりたい」
とこれからも野音でライブをやる意志があることを口にすると、最後に軽く4人から一言ずつ挨拶があったのだが、大山はステージセットを
「これすごいでしょ?終わった後に明かりつけるからみんな写真撮っていってね」
と言った。なかなかライブ会場の写真を撮るのを禁止にしているライブも多いが、来れなかった人にもこのセットの素晴らしさを見て欲しいというバンド側からの配慮であろう。
その大山のギターフレーズによる「秋の曲」と紹介された「Sunny Suicide」の雄大なサウンドスケープとホリエの伸びやかな歌声が実に気持ち良く響き渡ると、最後に演奏されたのは「Blank Map」の先行曲としてリリースされた「スパイラル」。
「いつかまたぼくの歌を聴いてくれ」
という締めのフレーズにも明らかな通り、この曲はバンドからファンへの感謝を込めた曲だ。でもここにいる人たちは「いつかまた」ではなくてすぐにまたこのバンドの音楽を聴きにくるだろう。この日のライブとは全く違う世界観を提示することになるという「Blank Map」のリリースツアーももうすぐ始まってバンドは再び次の時計台を目指して旅に出て行く。
演奏が終わってメンバーが去ると大山の予告通りに明るくなったステージを観客みんなが撮影していた。つまりは終わってからすぐに帰る観客が全くいなかった。それは写真を撮るというのもあっただろうけど、ライブの余韻がもたらしたものでもあったはずだ。
昔、ストレイテナーはロッキンオン・ジャパンのライブレポに
「この世代のギターロックバンドとしてはトップクラスに無愛想なバンド」
と書かれていた。当時はそれくらいメンバーは喋らなかったし、そこには若手特有の「舐められたくない」という感情があったはず。それは盟友と言っていいACIDMANやthe band apartもそうだった。(その2組には当時から喋る担当のメンバーがいたけれど)
その頃のライブから今のライブに一気にタイムリープしてきたら、きっと同じバンドとは思えないだろう。それはバンドが変わったと言っていいことであるが、いろんな人と出会っていろんな経験をして(このバンドにとっても東日本大震災は非常に大きいものだったと思う)、少しずつ変わってきた。
でも変わってもバンドが持つカッコいいロックバンドという部分は全く失われていないし、そこにさらに楽しさや面白さを感じられるようになった。自分は「TITLE」がリリースされた後に初めてこのバンドのライブを見たのだが、その当時はこのバンドのライブでこんなに笑うようになるなんて全く想像していなかった。でも今は今でやっぱり楽しい。そう感じさせてくれるようになるのだから、年齢を重ねるのも悪いことじゃないな、と思える。
だから、すぐにまた君の歌を聴かせてくれ。
アコースティック
1.彩雲
2.YOU and I
3.TOWER
4.灯り
5.WISH I COULD FORGET
6.FREE ROAD
7.Farewell Dear Deadman
1.BRAND-NEW EVERYTHING
2.シーグラス
3.DONKEY BUGGIE DODO
4.Tornado Surfer
5.A LONG WAY TO NOWHERE
6.Braver
7.覚星
8.TRAVELING GARGOIL
9.冬の太陽
10.TODAY
11.吉祥寺
12.月に読む手紙
13.Melodic Storm
encore
14.Sunny Suicide
15.スパイラル
文 ソノダマン