UNISON SQUARE GARDEN TOUR 2019 「Bee side Sea side 〜B-side Collection Album〜」 高崎芸術劇場 大劇場 2019.11.24 UNISON SQUARE GARDEN
今年15周年を迎えたアニバーサリーイヤーのUNISON SQUARE GARDENの動きはかつてないほどに忙しない。夏フェスにも出演しまくりながらも夏には大阪の野外で大規模な記念碑的ワンマンを行い、その後にはトリビュートアルバムに参加した面々を招いてのトリビュートバージョンライブも行ったり。
そんな15周年にリリースしたのがトリビュートアルバムに加え、ベストアルバムではなくカップリング集というのが実にユニゾンらしいけれど、そんなカップリング集のリリースツアーは今月半ばの埼玉は大宮からスタートし、関東も細かく回るホールツアー。東京の大きな会場でドカンと一発やって、というのではなくファンそれぞれが住んでいる街のホールへ赴いてというのが実にユニゾンらしいスタイル。この日の高崎芸術劇場は関東では大宮に続く2ヶ所目で、まだツアー前半。
会場の高崎芸術劇場は駅の近くに新しくオープンしたホールであり、実にキレイな客席や外装。天井が非常に高いだけにキャパ以上に広く見え、これから様々なアーティストがライブを行う予定が入っている。
日曜日としても早めの17時30分開演というのは群馬以外から来る人が終電を心配しなくていいようにというバンドサイドの配慮であると思われるが、ちょうどそのくらいの時間になると場内が暗転して、おなじみのSEであるイズミカワソラの「絵の具」が流れてメンバー3人がステージに現れる。
コートを着てダボっとしたスウェットのようなものを履いた鈴木貴雄(ドラム)、まだオープンして2ヶ月という新しくキレイなホールなのに穴の空いたジーンズという良い意味でいつもと全く変わらない田淵智也(ベース)、そしていつもながらカジュアルフォーマルな斎藤宏介(ボーカル&ギター)の3人が揃ってそれぞれが楽器を手に取ると、SEを切り裂くような斎藤のギターが鳴り、「リトルタイムストップ」からスタートするという意外な展開。
いや、そもそもメンバー本人たちが
「カップリング曲は基本的にライブではやらない」
ということを公言してきたバンドなだけに、カップリング集のツアーというのはこの機会でないと演奏されないであろう曲ばかり。だからこそいわゆるライブ定番という曲は一部を除いてほとんどないだけに、どんな曲順を組むのか、そもそもどんな曲を演奏するのかもツアー初見だと全くわからないだけにどんな曲がどんな順番で演奏されても新鮮であり意外であると言える。
ピンク色の照明がメンバーを照らすことでよりポップな空気が増していく「セク × カラ × シソンズール」では田淵が早くもベースを弾きながら広いステージを左右に動き回っていき、アウトロでは鈴木が立ち上がってドラムを連打しまくる。客席が日比谷野音のようにそこそこの角度でステージに向かって低くなっていくという設計であるだけにそうしたメンバーの姿も実に見やすい。
「こんばんは、UNISON SQUARE GARDENです!」
と斎藤が挨拶すると、加えて
「今日は本当にカップリング曲しかやらないんで、覚悟してください!」
と改めて宣言することによって、本当に貴重なライブに参加することができているという気持ちが増していく。
その斎藤が実に丁寧に歌を紡いでいる印象があった「flat song」から、「over driver」からは一気にアッパーに振り切れていき、座席がないとここがホールであるということを忘れてしまいそうだ。そのまま曲間を繋ぐように銃声の効果音が放たれての「ピストルギャラクシー」と続くと、ほとんどの観客は腕を上げていた。アルバムとしてコンパイルされたものがリリースされたのは大きいと思うが、観客がみんなカップリングという立ち位置の曲を知っていて、聴き込んでいることによって客席の景色は普段のライブの時と全く変わらない熱量を放っている。まるでこれらの曲たちがカップリングではなくシングルのタイトル曲やアルバムのリード曲としてリリースされてきたかのようだ。
「サヨナラHR打って見せてよ」
というフレーズを聴くたびに、2001年9月26日に当時近鉄バファローズだった北川博敏がオリックスの大久保勝信から放った、代打満塁逆転サヨナラ優勝決定ホームランや、同じく2001年の7月9日に千葉ロッテのフランク・ボーリックがダイエーのロドニー・ペドラザから放った、「ボーリックナイト」としてファンの伝説となっている逆転満塁サヨナラホームランの映像が脳内に蘇るのだが、田淵にはサヨナラHRという歌詞を書いた時に思い描いた景色というのはあるのだろうか。あまり歌詞の詳細を解説しない(本人も「僕の歌詞はそこまで意味を重視していない」と発言している)タイプであるが、野球ファンとしては見逃せないフレーズであるだけに、いつかそこの部分について聞いてみたいところである。
「僕は君になりたい」からは少し聴かせるタイプというか、「スノウループ」も含めて緩急で言うと「緩」の部分にあたる曲のゾーンになると思われるが、これまでのワンマンでもユニゾンは中盤にはそうしたゾーンを設けてきたし、アルバムにも1曲はそこを担うための曲が収録されてきたが、カップリング曲限定という縛りのあるライブですらもそうした流れを作れるというのはユニゾンがカップリングに様々なタイプの、しかもタイトル曲やアルバム曲に引けを取らないような曲ばかりを入れてきたということの証明でもある。そもそもインタビューを読むと「カップリングを作ろう」として作ることはほとんどなく、アルバムを作る時のバランスを考慮してアルバムに入れられなかった曲をカップリングという位置に入れるというパターンが多いだけにそのクオリティの高さも納得である。もしかしたらアルバムに収録されていた曲もあったかもしれないし、逆にアルバムではなくカップリングに収録されていた曲もあるかもしれないのだから。
鈴木の暴れ馬のようなドラムの連打による「ここで会ったがけもの道」、なんなら一応OADという立ち位置でアニメのタイアップになっているし、シングル曲としてリリースされていたとしても全く違和感を感じないくらいにキャッチーな「ノンフィクションコンパス」と再び客席は盛り上がりを増していく中、斎藤は
「ここは良い会場ですね。新しくて。でもこの会場について触れるのはやめておけと言われたので(笑)」
とこの高崎芸術劇場について多くを語らず。それはこの会場が建設される際に市の職員と証明設備を作る会社の間で談合があり、数名の逮捕者が出ていることに起因していると思われる。さらに、
「友達に連れてこられたっていう人は知らない曲ばっかりじゃない?(笑)そういう人のために、カップリング曲の人気投票をやって31曲中30位だった大人気曲をやります(笑)」
と自虐的に言ってから演奏された、打ち込みのピアノの音も使った「三月物語」ではステージ背面にカップリング集のジャケットに使用されている、クレーターまでしっかり見える鮮やかな満月が登場し、さらにその周りには夜空にきらめくような星のような電飾が。人気投票における票数の割れ方がどの程度だったのかはわからないが、演出がほとんどないユニゾンのライブにおいてこうした曲のイメージに合わせた演出が施されて演奏されるのを見るとその人気も少なからず変わってくるはずである。斎藤のタッピングギターが見れるという意味においてもこの曲はこのツアーくらいでは毎回演奏されて欲しい曲である。
続く「三日月の夜の真ん中」もそのままの演出によって演奏されると、アウトロからワンマンではおなじみの鈴木のドラムソロに突入。派手にぶっ叩きまくるというよりは笑いが起きるくらいにハイハットのみを軽く叩いたりと、ドラムソロでも毎回これだけ変化をつけられる鈴木の引き出しは凄まじいものがある。田淵がTHE KEBABS、斎藤はベーシストの須藤優との「XII X」というバンドを始動させるなど、それぞれのユニゾン以外の場所での活動が本格的に形になってきている(斎藤はソロでライブをやったりしていたけれど)中で、鈴木がひたすらユニゾンのメンバーのみとして背骨を太く強くしているのは実に心強いし、ファンとしても安心する人もいるんじゃないだろうか。もしかしたらユニゾン以外の時間は大好きなゲームをしまくりたいというのもあるかもしれないけど…。
これはさすがにカップリングならではだろう、というくらいに展開がガラッと変わりまくる「サンタクロースは渋滞中」から、前述のカップリング曲の人気投票で1位に輝いたことでMVが製作された「スノウリバース」と、この日は日中は季節を忘れるくらいに暑かったとはいえ、冬に突入していることを実感させるような季節感を感じさせる曲が続く。
アルバムには夏らしい曲もあるし、シングルには春らしい曲もあるとはいえ、ユニゾンはフェスシーズンに合わせてその時期らしい曲をリリースするようなことはしないバンドなだけに偶然そうなっているのだろうけれど、カップリングには冬らしい曲が多い。それが今回のツアーの日程と完全に合致しているのは偶然にしては出来過ぎているが、そうした曲がより一層染み入る季節になってきているのは確かだ。
そして「シグナルABC」からは終盤戦へ。何回も言うけれどこれはシングル曲でもなければアルバムのリード曲でもないのにそれらと全く遜色ない盛り上がりっぷりである。それはカップリング曲の中ではトップクラスにハードな音像の「ラディアルナイトチェイサー」においてもそうであるが、タイトル通りに夜を思わせる暗いステージの中ではしゃぎまわる田淵は靴紐が暗闇の中で輝いているのが面白いんだけれども、これは意識してのものなのだろうか。
そして「I wanna believe、夜を行く」で突き抜けるようなポップさを見せながら、ラストの「Micro Paradiso!」では田淵の暴れっぷりが極まっていく。間奏のブレイク部分で斎藤と鈴木が音を止めても1人だけステージ上をジャンプするようにしながら移動する田淵。なので微かなベースの音と、それを上回る田淵の足音のみが場内に響き渡るのだが、斎藤はその間に水を飲んだりと田淵に放置プレイを課し、ひたすらステージを飛び回った田淵は最終的にかなりの疲労を感じさせて座り込むと、演奏を再開した時には倒れ込みながらベースを弾き、近づいてきた斎藤の顔を両足で挟むという爆笑のパフォーマンスを見せる。本人たちには笑わせてやろうという意識はきっとないと思うし、演奏自体は全くおざなりになってはいないのだけれど見ていて笑えてしまう。そうして演奏する姿だけで笑顔にさせてくれるようなバンドはそうそういないよな、とも思う。
アンコールでは斎藤がTシャツに着替えて登場すると、シンプルに研ぎ澄まされたサウンドの「5分後のスターダスト」でアンコールであっても全く弛緩しないようなシリアスな空気感だな…と思ったのも束の間、
「田淵の股間をあんなに近い距離で見たのは初めてです(笑)」(田淵、股間を強調するかのようにガニ股になる)
と本編最後のあのパフォーマンスが偶然の産物というか意図していなかったものであることを告げると、
「僕らは今年結成15周年を迎えて。15年の中で初めて、今年は祝ってくれっていうムードでこうして活動をしてきて。来年、16年目に普通のロックバンドに戻った時にこの経験はきっと生きてくると思います。今日はありがとうございました、また来年会いましょう」
と、やはり今年の活動スタンスが特別なものであること、来年からは去年までの活動の仕方に戻っていくことを告げ、鈴木がヘッドホンをつけてから同期のサウンドも使って演奏された「さわれない歌」のポップなサウンドで会場全体が一気に明るくなって終わるのかと思いきや、
「ラスト!」
と言ってさらに演奏されたのは「ラブソングは突然に 〜What is the name of that mystery?〜」で、鈴木はドラムを叩きながらコートを脱ぎ(この慣れた感じも鈴木だからこそだ)、サビに入る直前にはスティックで客席の方を指す。田淵も同様に客席の方を指差すことによって、客席はまるで自分に向かって演奏している、と思わせられる。ユニゾンのライブでは最後に「君の瞳に恋してない」や「mix juiceのいうとおり」という締めにこれ以上ないくらいにふさわしい曲たちが演奏されてきたが、やはりカップリングにもそうした曲がある。しかもカップリング集にはこの日演奏されていない曲もまだたくさんある。田淵は
「カップリング集のDVDに入っている、ファンクラブ限定ライブの映像と、今回のツアーに来てライブを見ればカップリング集のライブバージョンは全て網羅できる」
と言っていたが、カップリング曲だけでもそうしてセトリやライブの内容に変化をつけられるような曲ばかりを作ってきたこと、何よりもこのご時世においても今でもシングルをリリースし続けられるということにユニゾンの凄さを改めて感じさせられた。演奏が終わってからステージを去る時の鈴木の胸を叩く仕草はいつもと全く変わらない自信と確信に満ち溢れているように見えた。
自分は例えばチャットモンチーでも1番好きなアルバムはカップリング集である「表情」だし、アジカンの「フィードバックファイル」やPlastic Treeの「B面画報」などもオリジナルアルバムと同じように聴いてもらいたいと思うくらいにカップリングが良いバンドが好きなタイプである。(それこそOasisもB面集の「The Masterplan」リリース時は「Oasisの真髄はB面にあり」と言われていた)
ユニゾンも間違いなくカップリングに名曲ばかりを生み出してきたバンドであるが、カップリング集となるとどこかコアファンのためのコレクターズアイテムという側面も強い。ライトなファンはベストは買ってもカップリング集をわざわざ買わないだろうし、コアなファンはシングルをだいたい全て持っていて「コレクション」という意味がなければわざわざすでに持っている曲しか入っていないCDを買う必要がないからである。
だからカップリング集のツアーとなるとだいたい通常のツアーよりも小さい規模のものになりがちなのだが、ユニゾンはいつも通りというかむしろいつも以上と言ってもいい規模の場所でツアーを行っている。これはなかなかすごいことである。
ましてやカップリング曲のみのライブとなると、カップリング集がリリースされたことで初めてその曲に触れたという人もそれなりにいるはず。だから普段のライブとは違って
「この曲でユニゾンと出会った」
というような曲が演奏されるということはほぼないと言っていい。
だからこそ曲への思い入れという点ではずっと追ってきたコアなファンのみが「ついにあの曲が聴ける!」と思うような機会になりがちなものであり、実際にそうなりそうだからカップリング以外にも代表曲的な曲くらいは演奏するというのがベターなパターンなのだが、ユニゾンはマジでカップリング曲しか演奏しなかった。
でもこの日の観客はみんなそれを望んでいたし、カップリング曲を聴き込んでカップリング曲が演奏されるのを歓迎し、このもしかしたらこれから先2度とないかもしれないこの機会を噛み締めるかのように楽しんでいた。その姿やリアクションが、ユニゾンはカップリング曲でも名曲しかないということの証明になっていた。
田淵は
「このツアーでしかライブでやらない曲もたくさんあると思う」
という旨の発言をカップリング集のリリース時にしていたが、こうしてライブでアレンジされ、進化した姿のものを聴いていると、「いや、むしろこうやってライブでできるんだからこれからもやれるじゃん!」と思ってしまう。それだけにこのツアーが終わった時に田淵のその姿勢が観客のリアクションによって変化していて欲しいし、来月の千葉の時には自分がカップリング曲の中で1番好きな、この日演奏されなかった曲も聴きたいところなのだが…。
1.リトルタイムストップ
2.セク × カラ × シソンズール
3.flat song
4.over driver
5.ピストルギャラクシー
6.ギャクテンサヨナラ
7.僕は君になりたい
8.スノウループ
9.ここで会ったがけもの道
10.ノンフィクションコンパス
11.三月物語
12.三日月の夜の真ん中
13.サンタクロースは渋滞中
14.スノウリバース
15.シグナルABC
16.ラディアルナイトチェイサー
17.I wanna believe、夜を行く
18.Micro Paradiso!
encore
19.5分後のスターダスト
20.さわれない歌
21.ラブソングは突然に 〜What is the name of that mystery?〜
文 ソノダマン