細美武士(ボーカル&ギター)がELLEGARDENで各地のフェスに加えてNANA-IRO ELECTRIC TOURも回りながら、いったいどうやって並行しているのかと思うようなタイミングで11月に新作EP「Interstate 46」をリリースした、MONOEYES。
そのリリースツアーのファイナルとなるのが豊洲PIT2daysの2日目となるこの日。前日を含めてすでにツアーに参加した人の絶賛っぷりを見ていると否が応でも期待は高まる。
18時50分頃、まだ開演よりはかなり早いにもかかわらず、照明が当たるステージに細美武士が登場。その理由はライブの諸注意を含めた前説をするためとのことだが、前日にダイブをして怪我をしてしまった人がいたらしく、「危ないこと」や「やってはいけないこと」を事細かに説明する。
「人の上にブーツで立っていいのは俺とTOSHI-LOWだけ」
というTOSHI-LOW愛には笑いも起きていたが、どうやら今回のツアーでは毎回前説をしているらしい。しかしさすが細美武士、前説と言えども観客の集中力の高さが凄まじい。
そんな前説を終えた19時過ぎ、場内が暗転するとおなじみのスターウォーズのテーマ曲が流れてメンバー4人が登場し、メンバーの後ろから点のようであり光線のような照明が真っ暗だった場内を淡く照らす中、前作アルバム「Dim The Lights」のオープニングナンバーである「Leaving Without Us」からスタート。この曲のサウンドがそう感じさせるのかもしれないが、短いながらもツアーを経てきたからか、パンクというよりも重厚という印象を聴いていて感じる。最初は暴れるでもはしゃぐでもなくじっくりと音に向き合いながらも、観客の「ついに始まった!」という期待感で場内は満ちていく。細美のボーカルの伸びやかさは2daysの2日目とは思えないし、もっと言うと飲酒しながら歌っているとも思えない。
そんなオープニングではあったが、一瀬正和のドラムがタイトル通りに一気に走り出すかのような「Run Run」からはMONOEYESのパンクな面が強く表出し、客席からはダイバーが続出。戸高賢史もサビ前ではギターを抱えて大きくジャンプする姿が本当に映えるし、これはART-SCHOOLでギターを弾く彼の姿からは想像できないものである。
しかしながらスコット・マーフィーはベースを立てて弾いたりしながらもかなりアンプを含めた音に気を使っている印象で、何度もローディーを呼んで点検してもらっていた。確かにちょっとベース出てないような?と思うようなタイミングもあったけれど、「Free Throw」あたりからは安定してきたようなイメージ。とはいえ、他のメンバーが全くそれに動じずに演奏を続けるあたりはさすが百戦錬磨のバンドマンたちだなと思うし、このバンドでもそうしたアクシデントやトラブルを何度となく経験してきたのかもしれない。
サビで一気に開放感に包まれる「Get Up」で飛び跳ねさせまくると、細美武士が
「今日がツアーファイナル。俺たちの最高到達点になるのは間違い無いけれど、それが伝わるかどうか。今日終われば明日休みだ〜なんて思ってる奴は1人もいない。4人ともただただ終わってしまうのが寂しいって思ってる」
とツアーを経てきたからこその自信と寂しさを両方感じさせる挨拶的なMCをすると、リリースされたばかりの「Interstate 46」へ。オレンジ色の照明がメンバーを照らし出す中、まるでロードムービーのような景色が脳内に広がっていく。それはこのバンドでこうしたツアーを繰り返してきたことによって見えたものなのかもしれないが、アメリカの実在する道路がテーマになっている曲でありながらも、この4人がバンドワゴンに乗って次の街へ向かうような姿が想像できる。「A Mirage In The Sun」から「Dim The Lights」へと至った変化に顕著なように、MONOEYESはリリースを重ねるごとに音や歌や歌詞からそうした景色を想起できるバンドになってきている。
「スコットが決めるぜー!」
と細美がスコットを指差すと、スコットがメインボーカルを務めるパンクな「Roxette」でさらに客席に火をつけ、さらにスコットのバンドであるALLiSTER「Somewhere On Fullerton」まで続く。ツアーでは毎回演奏されている曲だし、細美がコーラスをしたりともはやMONOEYESの曲みたいに感じるけれど、こうしてMONOEYESのライブでこの曲を聴くたびに、日本にツアーに来てはいろんなバンドと一緒に各地を回っていたとはいえ、母国のアメリカでも成功を収めたバンドと言える存在のALLiSTERのメンバーが日本で、日本人と一緒にバンドをやっているということが現実なんだろうかと思えてくる。
でも確かに今スコットはこうして我々の目の前で歌っている。しかも今や誰もが認める素晴らしいボーカリストである細美と比べても全く遜色ないボーカリストとして。年齢を重ねて前髪は少し薄くなってきているけれど、このバンドのパンクさを最も体現しているのはこのスコットだよな、とこの2曲を聴いていると強く思う。
一転して青と緑の混じった照明のみでまるで水の中にいるような雰囲気を演出してみせる「Two Little Fishes」では細美はもちろん、他のメンバーもコーラス部分でマイクの前に立つことすらしない。できるだけ観客の目の前まで行って観客の大合唱する声を聞こうとする。それはこの広い豊洲PITにもしっかりと響いていた。細美は基本的に広い会場よりも小さい会場でのライブを好むタイプだし、そこには人生において貫いてきた美学があるけれど、こうした光景を見ているとたくさんの人が入れる会場だからこそより一層感動するという感覚も間違いなくあると思う。
スコットがペットボトルの水を水鉄砲のように客席に放水しまくると(いつ見てもこれは実はすごい名人芸なんじゃないかと思う)、細美に振られて3人それぞれがMC。戸高と一瀬は入りからスベりまくっていたが、ツアー中に殺人鬼になった戸高に殺されそうになる夢を見たというスコットは、
「昨日も夢を見たんだけど、豊洲PITの夢だった。俺が寝坊して急いで豊洲PITに行ったらもうリハが始まっていて、俺がいないのに誰かがベースを弾いてると思ったら、ラコスバーガーのラッコさんだった(笑)
細美に「最近スコットのベースがクソだから」って言われて、
「No〜!!!」
って叫んで目が覚めた(笑)戸高に殺されるよりも怖かった(笑)」
と夢ネタで爆笑を巻き起こす。ここまで完璧に日本語を話すことができる(フェス会場などで会った時も日本語で会話してくれる)ようになるまでどれだけスコットは努力をしてきたんだろうか。この男が日本をここまで愛してくれなかったらMONOEYESがこうしてバンドになることもなかったかもしれない。
細美は次に演奏する曲が、ファイナルにしてこのツアーで初めて演奏する曲であることを告げると、
「お前らが聴きたい曲かどうかわからんけど(笑)」
と言いながら「Reasons」を演奏。細美の
「行こうぜー!」
というサビ前の叫びがエコーによって反響しながら、「When I Was A King」では一瀬のツービートが疾走感を与える中、スコットが観客に手拍子を煽ったり、間奏でグルグルとその場を回りながらベースを弾いたり…。ベースは地味な楽器というイメージはこのバンドには全く似つかわしくないものである。それは続く新作収録曲の「Gone」をベースのスコットが歌うことも含めて。
さらにこの日最初の日本語歌詞曲である「明日公園で」ではスコットがベースを銃のようにして戸高に接近してぶっ放すというおなじみのパフォーマンス。スコットと戸高は立ち位置を入れ替えながらサビ前では細美も含めて楽器を抱えて高くジャンプ。それによって歌の入りが聞こえなくなったりもするのだが、そんなことはどうでもよくなるくらいにただただその姿がカッコいい。こんな姿を見ることができるのはロックバンドのライブだけだからである。
細美が全力でのパフォーマンスゆえに息を切らしながらも、
「次にやる曲は新作の3曲目に入ってる、お前たちみたいな負け犬のための曲。なんで負け犬の曲なの?と思った人たちは帰ってからアップルミュージックとかで歌詞見ながら聴いてください」
と言って演奏された「Borderland」はリリース時からファンの評判が非常に良かった曲。ヒップホップ的なリズムのメロからサビで一気に飛翔するという展開のドラマチックさもそうだが、細美武士は昔、the pillowsの山中さわおとの対談において、
「シングルを出すときにどの曲をタイトル曲にするべきかの判断が自分ではつかない」
と言っていた。それはELLEGARDENの「The Autumn Song」や「Alternative Plan」を指して言った言葉であるが、この曲も普通ならカップリングの3曲目という立ち位置にするような曲ではないだろう。いくらMONOEYESがカップリング曲もライブで普通に演奏するバンドとはいえ。
そこから今日決めるのはもう何回目だろうかと思う、スコットが決める「Borders & Walls」がどこかカントリーっぽさを含んだパンクとして聴こえるのはスコットが広大なアメリカはシカゴにて生まれ育ったというバックグラウンドがあるからだろうか。この「Borderland」→「Borders & Walls」という流れはこれからの定番になっていきそうな予感もあるが。
そしてこのバンドの始まりの曲である「My Instant Song」で細美が
「飛べー!」
と言うと観客が一斉に飛び跳ねながら、やはりコーラス部分ではメンバーが歌わずに観客のみの大合唱に。歌っている観客も、それを聞いているメンバーも本当に良い笑顔だ。そこには両者の確かな信頼関係がある。だからこそ「グラニート」の
「そういう世界があるなら行ってみたいと思った」
というフレーズはいつだって「今、ここ」がそういう世界そのものであることを実感させてくれる。
そして、
「今年MONOEYES最後のライブ。ありがとうございました」
と言って演奏されたのは、最後のライブでありながらもこれから先もこのバンドでさらに突き進んでいくという強い意志が感じられる選曲となった「3,2,1 Go」。前日はこの本編最後に演奏されたのは「Remember Me」だったらしく、それも聞きたかったけれど、そうして最後に演奏する曲を変えるとライブ自体の印象もガラッと変わる。この日はファイナルだけれども確かにこのバンドが来年行うであろうツアーに続いていくことを感じさせるものになったのだ。
アンコールでは細美が上半身裸で登場して、
「一瀬がどうしてもこの曲やりたいって言うから」
と言ってこのバンドのデビューEPに収録されている「What I Left Today」を勢いよく演奏。細美は来年アルバムを出すことを改めて告げると、
「新しい作品を出して曲が増えると昔の曲はやらなくなっていく」
と語っていたが、この曲などはどんなに曲が増えてもこうしてずっとライブで聴いていたい曲だと思える。
細美はいつまで経ってもライブ中に観客の歓声に耳を傾けて、それを拾うというのがやめられない男であるが、この日も今日が誕生日であるという観客の声を拾うと、
「お前以外にもいると思うし、昨日や明日が誕生日だっていうやつもいるだろう。前後半年は受け付けます。おめでとう!」
と結局ここにいる人全員の誕生日を祝うと、最後は派手に、ということで「End Of The Story」でぶち上がるようにしてライブを終えたのだった。
しかしそれでもアンコールを求める声は止まず、
「ちゃんと楽屋まで聞こえたぞ!」
と言って再びメンバーがステージへ。今年最後だからということでメンバーから一言ずつ話をすることになると、一瀬は
「去年、この人(細美)が昔やってたバンドが復活して。ようやく現役のバンドとして比べられるようになった。今までは昔の姿としか比べられなかったから。それが嬉しいし、俺たちもっとカッコいいと思えるバンドになるから」
とELLEGARDENの復活を妬んだり不安に思ったりするのではなく、祝福と感謝を告げ、スコットは
「僕はずっとアメリカのシカゴにいて。みーちゃんがソロをやるから手伝ってくれって言われて日本に来て。最初は不安しかなかった。スタジオに入るまで、一瀬にも戸高にも会ったことがなかったから。それが今ではこんなにカッコいいライブができて、良い曲が作れるバンドになってる。みーちゃん、ありがとう」
と自分をこのバンドのメンバーにしてくれた細美に感謝を告げる。今年最後のライブということもあったからか、この日1番ステージから発せられていたのは、このバンドをやっていることの楽しさと喜びだった。そして細美は、
「次のアルバムには日本語の曲も多く入れたいと思っていて。今でも日本語で歌詞を書く時に思い出す景色があるんだけど、中学生の頃に学校に通うために乗っていた電車から見える景色で。電車に乗り遅れたら1時間経たないと次の電車が来ないっていうど田舎だったから、中学生の頃は遅刻しまいと急いで乗ってて。高校生になったら3時間目に行って4時間目に帰る、みたいになってたけど、まだ遅刻したくなかった頃(笑)
その電車は川を3本くらい渡るんだけど、川縁に座りながら、
「この川を超えたら向こうは知らない街なんだな。どんな場所なんだろうな」
って想像していて。この年になってもずっと同じことを思っている」
と、自身の次なるアルバムへの展望と、変わらぬ自身の視界に映るものを口にしながら、最後に演奏されたのはその言葉通りにあまりにストレートかつ細美の無垢さを感じる日本語歌詞の「ボストーク」。この曲の持つ純粋さ、ストレートさはもしかしたら最も次のアルバムにつながる要素になるんじゃないか、と思いながら細美が笑顔で歌う姿を見ていた。
笑顔でピックを客席にばら撒きながら(一瀬は勝手に他のメンバーのピックを投げていた)ステージを去って行く姿を見て、もしかしたら細美が1番笑って演奏している姿を見れるのはMONOEYESなのかもしれないと思った。the HIATUSよりもELLEGARDENよりも、何もかもがラフなままでステージに立って演奏している。
the HIATUSのライブで笑顔が見れるようになったのもMONOEYESを始めたからだと思っているし、ELLEGARDENをまた始めたことにもMONOEYESの存在は無関係ではないと思っている。まだCDJでthe HIATUSを見ることができるけれど、3バンドともツアーを観に行くことができた今年の終わりが最も忘年会的な雰囲気の強いMONOEYESで本当に良かったと思っているし、こういう世界があるのなら、行ってみたいと思っている。また来年、アルバムのツアーで。
1.Leaving Without Us
2.Run Run
3.Like We’ve Never Lost
4.Free Throw
5.Get Up
6.Interstate 46
7.Roxette
8.Somewhere On Fullerton
9.Two Little Fishes
10.Reasons
11.When I Was A King
12.Gone
13.明日公園で
14.Borderland
15.Borders & Walls
16.My Instant Song
17.グラニート
18.3,2,1 Go
encore
19.What I Left Today
20.End Of The Story
encore2
21.ボストーク
文 ソノダマン