2020年は配信ライブこそ数回行い、ファン投票などに応えるセトリを組んだりして我々を楽しませてくれたBase Ball Bearだが、結果的に出演予定だったCOUNTDOWN JAPANも中止になったことによって、有観客ライブをすることができないという、バンドにとっては初めての1年になってしまった。
そんな2020年の借りを返すように、高校生の時に結成してからバンド20周年を迎えた今年は年明けからガンガン活動していくという意志を示すのがこの日のZepp Tokyoでの1日2回公演となる有観客+配信でのワンマンライブだった。
しかしながら最近の感染拡大を受けて有観客から配信のみに切り替え。出会ってから15年以上経つ中で1年以上目の前でベボベが演奏しているのを観れないということになってしまった。
配信のみになったことによって、スタートは18時。自分は有観客のチケットを1部と2部両方取っていたので、小出祐介(ボーカル&ギター)が昼からワンマンをやることについてどんな憎まれ口を言うのかということも楽しみにしていたのだが、こればかりは仕方がないことであるので、またその時が来た時の楽しみにしておきたい。
18時になると画面に映し出されたのは、「迎春」と書かれた門松。その後ろにはいつもより厳かな服装で金屏風の前に座るメンバー3人。
「ずっとやってきたようなタイトルだけど初めてやる(笑)」
というライブの解説をしながらのトーク。なんだかその3人の楽しそうに会話をしている姿は、ライブで実際に会えなくなってしまった我々の救いと言える。
ステージに移動しても堀之内大介(ドラム)をいじるトークをしてから新年1発目として演奏されたのは、メンバーが「3」にまつわる歌詞のボーカルを繋いでいく「ポラリス」。近年のライブでは欠かせない曲であるが、この曲から始まるというところが今年も、これからも3人で進んでいくというメンバーの意志を感じさせる。
堀之内とメンズのジャケットを纏った関根史織による2サビのボーカルも、小出のギターソロとボーカルも実に瑞々しいというかシャープ極まりない。トークの時のような緩さは演奏時には一切ないし、関根の服装からよりそれを強く感じるのかもしれない。
堀之内によるドラムがすぐさま繋ぐのは小出のカッティングギターによる「すべては君のせいで」。
「ある日突然幽霊にされた」
という小出のリアルな体験談を歌詞に落とし込めるのは今聴いてもハッとさせられるが、薄暗い照明の中で演奏しているメンバーの表情はやはり楽しそうである。観客がいればもっと…とも思うけれども、やはりベボベはこうしてステージに立ち続けてグルーヴを練り上げてきたバンドであると思う。
スリーピースでの爽やかな青春ギターロックバンドとしてのリブートを鳴らした「いまは僕の目を見て」と、序盤は近年リリースの曲が続くが、これらの曲を3人で鳴らしているのを見ていると、初めから3人だったバンドであるかのように違和感が全くない。もちろん4人だった時のことはこれから先も忘れることは絶対にないくらいに自分の記憶の中に残り続けていくが、アウトロでメンバーが向かい合うようにして演奏している姿を見ると、この未来は間違っていなかったんだな、と思う。
MCでは3人がiPadで視聴者のコメントを拾うのだが、小出は隙あるごとに「にゃんこ大戦争」のアプリをやろうとして堀之内に突っ込まれ、さらに小出は堀之内がライブの最後にドラムセットに登ることを予告してまたしても堀之内に突っ込まれながら、この日が成人の日だからということで演奏されたのは「メタモルフォーゼ真っ最中」という懐かしの曲。
成人の日という理由で選んだということに関根と堀之内も驚いていたが、確かに成人というよりは高校生が大人へと変わっていくような曲だ。そのサウンドも含めて、同世代である自分にとってはベボベの曲は青春時代のサウンドトラックであるけれど、それは今も続いている。こうしてメンバーがバンドを続けているからである。
今になって聴くとバンドによってはこうした世の中を予期していたかのようになぜかリンクしているような歌詞に聴こえることもあるのだが、ベボベにおいてはそれはほとんどない。
それでも「short hair」を演奏しているのを見ていると胸の奥の方を締め付けられるように切なくなって泣きそうになってしまう。堀之内はカメラ目線で笑顔を浮かべながらドラムを叩き、小出の
「Oh yeah」
というシャウトもそうした切なさとは無縁であるというのに。それはやはり楽曲の持っている力と言えるだろう。
4人時代の曲を3人だけで演奏すると当然ながらアレンジが変わらざるを得ないのだが、この日それを最も感じたのは「Stairway Generation」のイントロである。もちろん2本のギターを小出が1人でそのまま弾くことはできないのであるが、それでも原曲の形を変えることはなく、今の自分のギターの技術による最適解を見つけようとする。新しい曲を生み出すのはもちろんであるが、過去の曲を演奏していても今のバンドとしての進化を感じることができるし、もはやベテランと言っていいキャリアを重ねてきていても、小出はキーも声量も全く衰えることがないあたりもその進化を後押ししていると言える。
小出のカッティングギターと関根と堀之内のリズムが絡み合ってグルーヴしていく「それって、for 誰?」ではコーラスのたびに関根と堀之内にもカメラが寄っていくという配信ならではのカメラアングルとなり、間奏のソロでは関根がステージ前に出て行ってベースを弾くのだが、普段はスカートのイメージが強いだけに、この日のパンツ姿という衣装がいつも以上にスラっとした印象を与えてくれる。
MCではやはりiPadを操作しながら、前日に放送された「モヤモヤさまぁ〜ず」にて新曲がエンディングテーマとしてオンエアされたことの喜びを語る。やはりメンバーもさまぁ〜ずから強い影響を受けているようだが、小出はかつてバンドのサポートギターをやってくれたフルカワユタカ(DOPING PANDA)の影響も強く受けており、その新曲のMVのラストシーンでメンバー3人でレインボーブリッジの夜景を観に行くということも小出がいきなり2人に言い出したというあたりにもその影響が出ているらしい。
その新曲「ドライブ」は関根と堀之内の猛プッシュによってシングルになったらしく、2人は曲の手応えを一聴して感じていたらしい。そうした意見を小出主導ではなくメンバー間で全員で決めているというあたりに今のベボベの3人の関係性の深さや信頼の強さを感じさせる。
実際に演奏する際には小出は8カポという1〜7フレットを捨てたギターにしているというセッティングにスタッフからの笑いが起こるが、メンバーの言うように近年の曲の中では淡々としていると言っていいくらいにシンプルな展開の曲。だが
「生きている音がする」
というサビの歌詞は会えない期間が長いからこそより強く、深く響く。メンバーが生きているから音を鳴らすことができるし、我々も生きているからその音を聴くことができている。正直、今のベボベからこんな曲が出てくるとは思っていなかった。それくらいに過去や青春期ではなく「今」を感じさせる曲であるが、この曲にたどり着くまでにこのバンドと重ねてきた年月があってこその「今」でもあるとも思う。きっとこの日目の前でこの曲が鳴らされているのを観ていたら涙を堪えることが出来なかっただろうなと思う。それくらいに会心の、でもメンバーの中からスッと出てきた曲。
しかし「ドライブ」のアウトロで8カポならではのハイトーンなギターを弾いていたその直後に小出が朗々と歌い始めたのはタイトルからして夜中に1人で部屋の中にいるような、まさしくなかなか夜にどこかへ出かけることができない状況にシンクロするかのような「新呼吸」。
隙間が多いギターサウンドを堀之内のクラッシュを連打するドラムが埋めながら、
「新しい朝が来れば僕は変われるかな」
という僅かな希望を感じさせるフレーズで部屋に光が射し込むようにステージが明るくなり、ギターのサウンドも大きくなっていく。同タイトルのコンセプトの強いアルバムの根幹を担う大名曲であり、その強度はもうリリースから10年経っても全く損なわれていないし、アウトロに追加された、ゆっくりと立ち上がって新しい世界と対峙するようなセッション的な演奏がやはりバンドの進化を感じさせた。
そんな曲の後だからこそ、次に演奏されるのは
「さぁ、変わってく
さよなら旧い自分」
「深呼吸ひとつ合図にして
駆け出してく」
と歌う「changes」でなければならなかったのだ。ステージを左右に動き回りながら、時には堀之内の方を向いてリズムを合わせる関根の姿には年数を経るたびに頼もしさを感じるようになっている。それは昔よく言われていた「可愛い」というものではなく、「カッコいい」バンドマンとしての姿だ。
あっという間に最後の曲になってしまった短さは元々は1日2部という構成の予定だったこともあるのだろうが、やはりメンバーもこうしてライブハウスで爆音で演奏する気持ち良さと喜びを感じていたようだ。
そんな最後にセッション的なイントロを追加してから演奏されたのは「祭りのあと」。堀之内がマイクを通さずにカウントを叫んでから小出と関根が向かい合うように音を鳴らす。サビ前では小出が無観客でありながらも
「カモン!」
と叫ぶ。それはこのライブを見ている人が間違いなくいるのをわかっているような。そしてこれまでにこの曲が描き出してきた熱狂の空間が脳内に浮かんできているかのような。2コーラス目でリズムに合わせて画面の前で手拍子をしていたのは絶対に自分だけではないはずだが、最後に最高沸点を迎えるような白熱した演奏を見せながら、小出の予告通りにやはり堀之内は最後にドラムセットに立ち上がってジャンプしてキメを打つと、小出が
「ありがとうございました!」
と言ってその瞬間に終了。そのスパッとした潔さはロックバンドとしての、というよりは20時以降に外出しないように、という要請を守るための、社会人としての節度によるものだったのかもしれない。このライブが配信のみになった時にも思ったが、昔と変わらないようでいて、もう堀之内と関根には守らないといけない存在がいるのだから。
小出も言っていたように、状況は長引いている。次にまたライブを見れるのがいつになるかまたしてもわからなくなってしまった。それでも人前に出れなくても、ベボベは確実に進化しているし、なんだかバンドが終わったり止まったりしてしまうような不安は全く感じない。それくらいに去年から見せてくれた配信ライブが素晴らしいものだったし、「ドライブ」のMVでの3人の自然体でお互いを尊重し合っているような姿がよりその想いを強くしてくれたのだ。
実際に会えなくても、音源を聴いて画面に映るメンバーの姿を見るだけで確かにベボベというバンドの存在に救われている。それは出会った頃、まだお互いに10代の夕方ジェネレーションだった頃よりも今の方がより強くそう感じている。これからも、生きている音がすることの実感をお互いに確かめ合うことができますように。
1.ポラリス
2.すべては君のせいで
3.いまは僕の目を見て
4.メタモルフォーゼ真っ最中
5.short hair
6.Stairway Generation
7.「それって、for 誰?」
8.ドライブ
9.新呼吸
10.changes
11.祭りのあと
文 ソノダマン