前日には東京ドームにて史上最大規模の男性限定ライブを行った、UVERworld。その翌日に横浜アリーナで開催されるワンマンはリリースされたばかりのニューアルバム「UNSER」を携えたものであると同時に、ボーカルであるTAKUYA∞の生誕祭。毎年恒例であるらしいが、強固な世界観とファンとの繋がりを持つバンド故に初めてワンマンに参加するのは少しいつもとは違う緊張感がある。
客席は真ん中を軸に北と東が男性限定、西と南は女性限定という風にスタンディングエリアもスタンド席もはっきりと分かれているのが面白いが、男性側が赤いTシャツ、女性側が白いTシャツと色で分かれているのも面白い。開演前からスタンディングエリアでは「男!男!」「女!女!」とそれぞれまるで運動会のエール交換のような、異様な盛り上がりっぷりを見せている。
ステージのスクリーンには時刻のカウントがされており、そのカウントが開演時間の19時に近づくにつれて客席からの歓声が大きくなると、60秒前からはメンバーの名前などが映し出された映像とともに観客の凄まじい声量でのカウントダウンが。
カウントが0になるとSEが大音量で鳴り響き、オープニング映像が映し出される。もう慣れろと言われてもいちいち驚いてしまう歓声の大きさの中で最初にステージに現れたのは真太郎(ドラム)。セットに座ると暗闇の中でドラムを叩き始めるのだが、スティックの先が光るという特注スタイルだ。
その真太郎のドラムの音に合わせて他のメンバーがステージ下から飛び上がって登場し、ステージからは無数のレーザー光線が飛び交う中、この日が誕生日のTAKUYA∞の口笛がイントロの役割も担う「7th Trigger」からスタート。するとTAKUYA∞はいきなりステージから降りて客席に突入していきながら歌う。
思わず「早っ!」と思ってしまったが、男性サイドと女性サイドには仕切りがあり、その仕切りを通路のようにしてTAKUYA∞は客席内を進んでいく。その姿を見て男性サイドの前方ブロックの観客たちは次々にTAKUYA∞の方に向かってダイブをしていく。アリーナを見ると中央ブロックも後方ブロックも男性サイドはダイバーの嵐。なんだかまるでBRAHMANのライブを見ているかのようだ。
今月リリースされたばかりのアルバム「UNSER」から先陣を切って演奏されたのは、アルバムあるリリース直前にシングルリリースされた「ROB THE FRONTIER」。アルバムの中では最もストレートかギターロック然とした曲であるが、ステージ背面の両サイドのスクリーンにはメンバーの演奏する姿が映し出され、真ん中のスクリーンにはこのバンドの持つメッセージや姿勢を最大限に伝えるための、曲の歌詞をメインにした映像が流れている。それだけに実に視界が忙しい。メンバーの姿も見たいし、でも映像も見たいしと。しかもTAKUYA∞はずっと客席の中で歌っているから、メンバーの演奏する姿とは同時に視界に捉えられない。
一気にビートがダンスモードになり、
「to be or not to be」
というコーラスパートのみならず全編に渡って大合唱となった「ナノ・セカンド」ではもはやTAKUYA∞の声よりも客席の合唱の方が大きいんじゃないかと思うレベル。「こんなに凄いのか…」と初めてワンマンを見るだけに圧倒されてしまうほどに。
前日、前々日と東京ドームでライブをやっているにもかかわらず、喉にも肉体にも疲労は全く見えないどころか、むしろ誕生日という要素があるからかより躍動しているようにすら見えるTAKUYA∞が
「俺の生誕祭だからいろんな曲を選ばせてもらいました!次は昨日はやらなかった曲!なんだと思う?
(観客の声を聞いて)違うな!それは最近やってる!次の曲はこれだ!」
と言ってダイバーにまみれながら歌い始めたのは14年前にリリースされたデビューシングル曲「D-TechnoLife」。近年の曲のサウンドに比べるとやはりストレートというか実にシンプルな構成に感じてしまうが、それを演奏するバンドは当時とは比べものにならないくらいにたくましくなっているのだろうし、この当時からロックにデジタルサウンドを取り入れるという異質な形でデビューしたバンドであるということがわかる。
このバンドは曲と曲の繋ぎなどが実にスムーズな、ライブのテンポが良いバンドなのだが、最初のMCを担うのは真太郎。改めてTAKUYA∞の誕生日であることを告げると、さらにこのライブがアジア各国で生中継されていることを発表。するとTAKUYA∞をはじめとしたメンバーたちが各国の挨拶をカメラに向かってし始めたのが実に演奏時との緊張と緩和を感じさせる。
彰の重たいギターリフが印象的な「EDENへ」からは最新モードへ。EDMサウンドを大胆に取り入れた「ODD FUTURE」ではTAKUYA∞がDA PUMP「U.S.A.」のようなダンスを踊るような一幕も。
そこまでは先行リリースされたシングル曲であるが、その後からはアルバム収録曲も披露されていく。「stay on」では彰、克哉(ギター)、信人(ベース)、誠果(サックス)の4人が一斉にパーカッションを叩き始めるという、Franz Ferdinandのライブかのようなアレンジもなされ、
「生きる意味なんてあるわけないじゃん」
「生まれた意味なんてあるわけないじゃん 作るしかないじゃん」
というTAKUYA∞の生き方の最新系を綴ったとも言える「境界」ではそのTAKUYA∞がステージ端まで走っていったりしながら高速ボイスパーカッションも披露。ただでさえ通常のマイクとヴォコーダーを噛ませたマイクの2本を使い分けているというのに実に器用だ。何よりも凄まじい運動量だ。
そしてまだリリースされて2週間くらいしか経っていないにもかかわらず、観客はアルバム収録曲を完璧に歌いこなせている。それはスクリーンに歌詞が出ているからというのもあるだろうけれど、それでもこんなに合唱が起きるというのは、このバンドのファンがリリースされてからもう何回も何回もアルバムを聴いていて、曲を覚えているということ。他のバンドで言うならリリース直後のツアー初日と言っていいくらいのスケジュール感であるが、それでこんなにもバンドの演奏も観客のリアクションも仕上がっていることはほとんど、というか全くないだろう。
TAKUYA∞がステージ最前の花道的な位置に出て行って曲紹介をするも、なんらかのトラブルがあったのか、始まらない。花道の下からドラムセットが見えたので、そのドラムセットが上がっていかないとか、なんらかのメカニカルトラブルがあったのかと思いきや、なんと信人がトイレに行っていたので始められなかったという。そんなことあるのか。
なので少しペースを乱されたようなTAKUYA∞は少し前日の男祭りのことを口にしてから、ドラムが迫り上がってきて真太郎は前に出てきてそのドラムに座り、メンバーもそのドラムセットに寄って演奏するというかなりミニマルな形でバンドの最新の姿という「Making it Drive」へ。「UNSER」はアメリカにも行って制作されたことがインタビューでも語られているが、この曲をはじめとしてアルバムの中で重要なエッセンスになっているのは現行のアメリカをはじめとした世界のポップミュージックのスタンダードになりつつあるヒップホップだ。それはTAKUYA∞のラップもそうだし、そもそものサウンドにおいてもそう。これまでもEDMなどを自分たちの音楽に取り込んでは進化を果たしてきたバンドであるが、「UNSER」はそれをさらに急スピードで成し遂げたものになっている。
何よりもそうしたバンドサウンドの抜本的な変化を果たしたアルバムというのはファンからしたら賛否両論というか、時にはファンが離れて行ったり入れ替わったりする要素になりがちなのだが、このバンドには全くそうなりそうな気配がない。なぜなら昔の曲も新しい曲も等しく大合唱が起こっているからである。バンドが変化し、進化していることをファンも一緒に楽しんだり喜んでいるかのような。
「誕生日は祝ってくれる人たちをどれだけ喜ばせられるか」
という、祝ってもらう立場のTAKUYA∞が逆に観客に尽くすことを宣言すると、その通りにレア曲枠として演奏された「counting song-H」は新作曲の後に演奏されたからこそより一層10年前の曲らしいストレートさを感じさせるが、それを今の曲と並列に演奏できているのは信人と真太郎のリズムの強さあってこそだろうし、それはこうしたアリーナや前日までのドームという規模でもバンドの音で会場を支配するための最も大事なポイントでもある。
TAKUYA∞は前日の男祭りの後に恒例のランニングをしようとしたら1200人ものファンがついてきて一緒に10km走ったことを明かすと、
「俺たちのファン、速いやつがめちゃ多い。アーティストのファン対抗駅伝みたいなことやったら絶対俺たちが優勝できる!」
と言って「Q.E.D」「PRAYING RUN」と繋いでいくのだが、アリーナを見ていてもUVERworldのファンは実にフィジカル的に強そうな人が多いけれど、それはもしかしたらTAKUYA∞の影響なのかもしれない。TAKUYA∞の姿や発言やこの曲を聴いて走ろうと思ったり体を鍛えたりするようになった人もいるだろうし、多少なりともそういうことをしている自分でももっと走ろうとすら思える。なかなかライブを見ていてそう思わせるようなバンドはいない。
それこそ、
「全部やって確かめりゃいいだろう」
という「PRAYING RUN」の歌詞はこうして走っているTAKUYA∞以外の人が歌ってもただ単に説教くさい曲に聴こえてしまう。こうした歌詞の強さは合わないというタイプの人もいるだろうし、それはsyrup16gやART-SCHOOLのようなバンドの歌詞が合わないような人とは全く逆のベクトルで。でもそこに説得力を感じさせる、そうした合わないようなタイプの人間にも共感はできなくても理解させるためにはやはりやって確かめるしかないのである。
どこかこの横浜の地の夜の景色を感じさせるような「conneQt」はこの日唯一と言ってもいいくらいの聴かせるタイプのラブソング。しかしやはりスクリーンに歌詞が映し出されると、その歌詞はいわゆる普通のラブソングとは全く構造が違うというか、TAKUYA∞が曲の男性サイドでしかないように感じるラブソングとなるのがこのバンドならではと言えるだろうか。
するとTAKUYA∞が一旦ステージを捌け、彰、克哉、信人、誠果の4人がステージから降りてアリーナの通路を通って後方ブロック前にあるサブステージへ。そこでインスト曲をメドレー的に演奏するのだが、ステージが上昇する中でメンバーのソロ回しもふんだんに行われる。
とりわけ信人のスラップはこうしたソロでないとなかなか意識的に見ることはできないし、様々な曲の間奏で前に出てきてサックスを吹く誠果の存在がUVERworldをUVERworldたらしめている大きな要素になっていることにもこういう機会だからこそ気づくことができる。スカバンドでもない限り、サックスのメンバーがいるバンドは全くいない。
メンバーがステージに戻り、真太郎もそれまでの花道のドラムから元のドラムに戻ると、後半に向けてさらに客席を着火させるのは「Touch Off」。大きな話題を読んだアニメのオープニングテーマとしても流れていた曲であるが、自分はこの曲はテンポ感からしてもそこまで激しいノリになる曲ではないと思っていた。
しかし蓋を開けてみればダイバーの嵐。バンドの演奏も音源よりもはるかにアグレッシブになっている。それはライブを重ねてきて進化したからこそなんだろうし、
「No No…」
というコーラスフレーズの大合唱は物凄い破壊力を誇るようになっている。
そのダイバー連発な激しさをさらに頭で考えることなく体で反応させる「Don’t Think, Feel」から、英語歌詞の歌い出しから大合唱となり、再び狂騒的なEDMサウンドで客席を揺らしまくる「IMPACT」へ。この曲では女性サイドに向かって歌うTAKUYA∞のボーカルは全く勢いが衰えないどころか、むしろここに来てさらに叫ぶかのように声量を増している。そのランニングしたりというフィジカルの強さはライブという場所においての体力に直結している。本能的でありながらも合理的というか。
そのTAKUYA∞は思わず客席の間を走り抜けてサブステージまでたどり着いてしまうのだが、全く予定外なことをしてしまったために白いヴォコーダーマイクを持たずに「AFTER LIFE」を歌うことに。それをすぐさまカバーするスタッフの仕事も素晴らしいというか、TAKUYA∞が客席に突入する時もスタッフがTAKUYA∞に張り付いてダイバーがぶつからないように守っていた。
そしてTAKUYA∞は前日の東京ドームでのこの曲の合唱が忘れられない、と言って演奏された「φ choir」では歌い出しからTAKUYA∞のボーカルをかき消すくらいの大合唱が響き渡る。
自分は昔、このバンドの曲を全く聴こうと思ったことがなかった。それこそデビューしてまだ間もない頃に大学の学祭にライブをしに来た時も見に行かなかった。なんだか、当時の自分にとってのリアルなバンドじゃないような気がしていたというか、物凄く雑に言ってしまうと、当時はチャラいバンドに見えていたのだ。
そんなイメージを持っていたこのバンドに向き合うきっかけになったのがこの曲だった。この曲がリリースされたあたりから、このバンドはロック系の雑誌に取り上げられるようになり、そうした雑誌の主催するようなフェスにも出るようになった。そうして聴く機会が生まれたこの曲の歌詞は金言だらけだ。観客が合唱するだけでなく、メンバーがマイクを通さずに口ずさんでいるのもよくわかるし、
「毎年年末はやり切り 幸せで泣くって決めたし
年とっても愛だの夢だの言えそうな仲間も出来たし」
という仲間にはきっとこうして毎回ライブに来て大合唱してくれるようなファンのことも含まれているのだろう。
そんなことすら感じさせてくれたこのバンドが
「人はしてもらえた事はすぐ忘れがち
してあげた事だけは忘れずに悲しくなり」
と歌っている。こうしてしてもらえた事は忘れないようにしていたいと思うし、この景色を見れただけでも、
「この世界はまだ汚れて見えるけど
やっぱり僕は産まれてこれて 幸せだと思ってるよ」
というフレーズは何よりもリアルに響く。かつて10代の頃の自分がリアルに感じられなかったバンドは、あれから10年以上経って今の自分のリアルを歌うようになっている。
そして、
「最後はこの曲で終わりたい!」
と言ってスクリーンに歌詞が映し出され、TAKUYA∞がマイクスタンドを使って歌い始めたのは「MONDO PIECE」。すると一斉に観客たちが肩を組んで大合唱を始めた。映像で見たことはあったけれど、本当にこうなのか、と思っていたら、自分の両サイドの人たちも自分の肩に手を回してきた。
自分はいわゆる安い一体感みたいなものがあんまり好きじゃない。自分がやりたいと思ったらやるし、やりたくなかったらやらないというスタンスでライブを楽しむようにしている。だからこの日も周りが合唱する中でそれを大人しく見ていただけだったし、UVERworldのグッズを身に纏ってすらいない。ましてや開演前の客席の雰囲気は少し「自分には合わないかもしれない」とすら思っていた。
そんな、周りとは少し温度差があるような自分のようなやつにもUVERworldの赤いTシャツを着た若い男性たちは肩を組んでくれた。一緒に歌おうとばかりに。自分はそれを全く嫌には思わなかった。こうして全く知らない人と肩を組んで歌うなんていつ以来だろう。昔、the telephonesのディファ有明でのワンマンの時くらいだろうか。
かつて、UVERworldはいわゆるロック村という場所にはじかれていたバンドだった。そこに属せなかったからこそ今の位置にいるとも言えるのだが、ROCKIN’ ON JAPANで初めて編集長の山崎洋一郎にインタビューされた時にTAKUYA∞は涙を流した。弾かれてはいたけれど憧れた場所にようやく認めてもらえたのが嬉しかったのだと。
そんな、かつてロック村に受け入れられなかったバンドのファンたちはどんな人でも受け入れてくれるような人たちだった。こうしてライブに来ている人はどんな人であれ仲間だと言われているような気がした。その寛容さや優しさは間違いなくステージ上のメンバーたちが持っているものがファンにも伝わったもの。だから自分もその時だけは肩を組んで笑顔で合唱したくなった。普段見に行くライブとは全く違う楽しみ方や感動を味わうことができた。TAKUYA∞が新たに歳を重ねた日という特別なライブは、自分にとっても間違いなく特別な1日になったし、自分もそんな風に優しさを隣にいる人に分け与えられるような人間になりたいとすら思えた。
ライブが終わると1人ずつマイクを手にして順番に喋る。
TAKUYA∞「ボクシングのパッキャオが前に500人と一緒に走ったって言ってたから1200人でも大丈夫かと思ったら警察が来た(笑)大丈夫じゃなかった(笑)また捕まるかと思った(笑)」
とかつての自身の触れられたくなさそうな過去すらも笑いに変えることができる強さを見せると、彰は客席の間まで行って自撮り。そして最後に残った真太郎は来年はまた全国をくまなく回るツアーに出ることを宣言した。そこにはライブをして生きてきたこのバンドのアイデンティティが滲み出ていた。
フェスで見た時に、歌も演奏も素晴らしいバンドであり、音に自分たちの持つ感情を込められることも含めて、立つべくしてドーム規模に立っているバンドであることはわかっていた。
でもワンマンに来たことによって、そこだけではないこのバンドの凄さを見ることができた。それは観客の思いの強さと熱量の高さ。歌うのも暴れるのも肩を組むのも安っぽい一体感なんかじゃない。このバンドに自分たちの人生を重ねているから。
その客席のカッコよさ、優しさ、温かさこそが、このバンドが自分たちだけの道を進み続けることによって手に入れた最も大きな財産なのかもしれない。
1.7th Trigger
2.ROB THE FRONTIER
3.激動
4.ナノ・セカンド
5.D-technoLife
6.EDENへ
7.ODD FUTURE
8.stay on
9.境界
10.Making it Drive
11.counting song-H
12.Q.E.D
13.PRAYING RUN
14.conneQt
15.和音
16.Massive
17.Touch Off
18.Don’t Think, Feel
19.零HERE 〜SE〜
20.IMPACT
21.AFTER LIFE
22.φ choir
23.MONDO PIECE
文 ソノダマン