今年も1年の締めは幕張メッセにてCOUNTDOWN JAPAN。かれこれ今年で15年くらい連続でここで年末を過ごしている。
この日は前日に幕張メッセイベントホールにてミュージカルステーションの特番があった影響からかASTRO ARENAが使用できず。そのため他の日よりも1ステージ少ないが、紅白に出演するようなアーティストはこの日が出演日になるため、メインであるEARTH STAGEはもちろん、セカンドステージであるGALAXY STAGEにもアリーナクラスでライブをやっているようなアーティストが居並んでいる。
12:00〜 ゴールデンボンバー [GALAXY STAGE]
昨年まではEARTH STAGEのトップバッターとしておなじみだった、ゴールデンボンバー。今年はついにEARTH STAGEからGALAXY STAGEに移ることに。
このGALAXY STAGEではトップバッター出演前にロッキンオンジャパン編集長の山崎洋一郎による前説があるのだが、その前説でこのフェスの規模の拡大っぷりや、GALAXY STAGEのPAと照明ブースを分けたことによって観客が客席に入りやすくなった改善を行ったことを話すと、令和になった今年にそれに即した曲をすぐさまリリースしたこのバンド(?)について、
「このフェスは令和になってもずっと続きます。これからもこのフェスを支えてくれ、ゴールデンボンバー!」
と、意外なくらいに高い評価をしていることを感じさせた。
4人がステージに現れると、エアバンドだからこそ自由に動きまくりながら鬼龍院翔が歌う「酔わせてモヒート」からスタートし、喜矢武豊がダンボールでできたショルダーキーボードを弾こうとする「令和」ではモニターに歌詞が映し出されるというこの曲ならではの演出がなされるが、鬼龍院翔は
「来年になったらこの曲はやらないだろうから、今日が最後になるかもしれない。だって来年以降にやっても絶対「あんな曲あったな」ってなるじゃん!(笑)」
といきなりの封印宣言。
ゴールデンボンバーのライブでは喜矢武豊と樽美酒研二がMCでネタ振りしたものをそのライブで使うというパターンなのだが、この日は喜矢武豊は
「今年は僕の大好きなタピオカが流行ったんで、来年もタピオカに流行っていて欲しい」
と言い、樽美酒研二も
「タピオカチャレンジというのが流行りましたね。谷間にタピオカを挟んで飲むっていう。僕も後でタピオカチャレンジしたいと思います〜!」
と言うと、「抱きしめてシュバルツ」では喜矢武豊がタピオカの一気食いから、歌広場淳が流す流しタピオカを顔面で受け止めまくり、樽美酒研二は胸ではなく尻にタピオカを挟んで独特の器具を駆使して一気飲み。樽美酒研二はTバック一丁というかなり際どい出で立ちだったが、そこは前日からカメラリハを入念に行っているだけに映してはいけない部分は絶対に映らないようになっている。
するとこの日はニューアルバム「もう紅白に出してくれない」の発売日ということで、みんなに「#ゴールデンボンバーのアルバムよき」でツイートしてもらってトレンド入りを狙うために、アルバムを再生しようとするのだが、再生ボタンを押そうとした樽美酒研二のコードが抜けていたということでやり直すという事態に。しかもそのアルバムは650倍速で再生されたために一瞬で終わったのだが、これで全員アルバムを聴いたことになるのでアルバムについてツイートする権利があるということに無理矢理持っていく。
そのアルバムに入る曲からは「首が痛い」を披露するのだが、途中で鬼龍院翔の母親から
「あんた紅白にも出れないんだから年末くらいは帰ってきなさいよ。親戚の子も「お年玉くれないからケチだケチだ」ってみんな言ってるわよ」
という電話が入り、「首が痛い」が「耳が痛い」に歌詞が変わるというのは実に上手いし、鬼龍院翔の作詞能力、発想力の高さを改めて感じさせる。
それは歌詞だけでなくサウンド面も同様だ。エアバンドであるだけにどんな曲をやっても成立するという特性を最大限に活かすように、「令和」はダンスミュージック、ライブでの演者と観客という視点を歌った「かまってちょうだい///」はアイドル的なポップソング、意味不明な名前を叫びまくる「まさし」はラウドロックと、もしかしたらフェスに出演しているどのアーティストよりもサウンドの幅が広いかもしれない。そしてパフォーマンスのみに力を注ぐのではなく、どんな曲、どんなサウンドであっても曲のクオリティは非常に高い。1回聴いたらだいたいの曲は覚えてしまうくらいに。
そんなライブの最後はやはり「女々しくて」で会場全体でジャンプしまくり。それはお決まりではあるけれど、みんなが聴きたい曲をフェスでちゃんとやってくれるのはありがたいし、やっぱり楽しい。
アルバムタイトルにもしているように、本人たちは紅白歌合戦にもう呼ばれないことを悔しがっている(のかネタにしているのか)ようだが、山崎洋一郎の口ぶりからすると、ロッキンオンはこのバンドを本当に評価しているし、大切な存在だと思っているはず。ここ数年は夏も冬もずっとフェスの開幕をこのバンドに任せてきたから。紅白にはもう居場所はないかもしれないけれど、かつて「ロックシーンの創造主か、破壊者か」と評されたこのバンドは、今やもうロッキンオンのフェスになくてはならない存在になっている。まだまだ音楽と存在を必要とされている場所がある。
1.酔わせてモヒート
2.令和
3.抱きしめてシュバルツ
4.首が痛い
5.かまってちょうだい///
6.まさし
7.女々しくて
13:15〜 ヤバイTシャツ屋さん [EARTH STAGE]
昨年に続いて2年連続のEARTH STAGE出演となる、ヤバイTシャツ屋さん。去年もそうだったが28日を出演日にしたのは明確に31日に他の予定を入れるためであろう。
メンバー自身の声出しも含めたサウンドチェックで曲を演奏するあたりがお得な感じがする中、「はじまるよ〜」というおなじみの脱力SEで3人がステージに登場。どんなライブでも全く出で立ちが変わらないメンバーたちであるが、セトリは各ライブでかなり順番を変える。なのでこの日も2019年は最後にやることも多かった「かわE」からスタートするという変化を見せる。もはやこの曲はこのバンドの、というよりも現在のロックシーンのアンセムと言っていい曲だろう。2サビでこやまたくや(ボーカル&ギター)としばたありぼぼ(ベース&ボーカル)が体を左右に振りながら歌うのが実にかわE超えてかわF。
「Tank-top of the world」「無線LANばり便利」とタンクトップという言葉に託したパンクロックモードに。
「無線LAN有線LANよりばり便利〜」
というフレーズを4万人くらいの人が大合唱しているのもシュールであるし、それは本当にバリ便利であることを全員がわかっているからこそである。
大合唱が起きた「あつまれ!パーティーピーポー」というキラーチューンを最初でも最後でもなくこの位置で演奏できるようになっているというのも実に強いが、それはそのままこの曲に頼らなくて良いくらいのセトリが組めるようになったことの証明。実際に最近はこの曲をフェスではやらない時もあるくらいだ。
2019年を振り返るMCでは
こやま「今年印象に残ったことはある?」
しばた「ダメよ〜、ダメダメ!」
こやま「日本エレキテル連合は2014年や!」
もりもと「江南スタイルですかね!」
こやま「それは2012年や!」
とこやまのやたら詳しいツッコミが炸裂。さすがにちょっとスベり気味だったけれど、MCは最低限に、という形であろう。
そのままもりもとの元号発表するような感じでの「DANCE ON TANSU」ではしばたのベースラインが何万人もの観客を踊らせる。このしばたの常にブレることのないボーカルも含めた安定感はヤバTのライブにおいては実に重要な土台になっている。
「Tank-top Festival 2019」でパンクかつラウドなバンドとしてこのEARTH STAGEに立っているというバンドの精神を強く感じさせたが、タイトル的にこの曲はもしかしたら2019年でやらなくなってしまったりするのだろうか…とも考えてしまう。直前に見たゴールデンボンバーが「令和」封印発言をしていただけに。
男女ツインボーカルというこのバンドの強みと改めて向かい合った「鬼POP〜」のアウトロでこやまとしばたが向き合って演奏しながらちょっとだけ真顔になったりするという細かいネタ的なところも実に好きだな〜と思っていると、今年リリースのシングルから「癒着☆NIGHT」へ。「癒着」という本来は良くないイメージの単語を男女のラブソングに使うというのはこのバンドならではの新しい歌詞の発明であるが、しばたがイントロで自身の頭を叩いて手拍子を煽るのが実に可愛らしく見える。
するとこやまは今年も出れなかった紅白歌合戦について、
「無理や、みたいに言う人もいるけれど、俺たちは紅白に出るまでテレビでは演奏しないって決めてしまった。紅白に出るっていうのが夢やから。でもテレビには憧れるけど、出れなくてもこうやってライブをやるのが本当に楽しい」
と笑顔で胸の内を語った。確かに、ヤバTが紅白に出ることによって、ヤバTの存在を知らない年配の方々とかが「面白いバンドだな」って思ってくれるかもしれないし、「面白いバンド」というイメージしか持ってない人たちが「カッコいいバンドだな」って思ってくれるようになるかもしれない。でもこうして今年もこのステージに立つヤバTのライブが見れるだけでも本当に幸せだと思うし、年中ライブをやって生きているヤバTが最も輝くことができるのはライブの現場だと思っている。
そして紅白に出れないからこそNHKまで届くように、と演奏された「案外わるないNHK」をフェスという場で演奏してしまうのがさすがヤバTであるのだが、その後に「ヤバみ」大合唱というかコールが起きた「ハッピーウェディング前ソング」とキラーチューンを畳み掛ける流れは定番ではありながらも、昨年のこのステージで見せたライブとは全く違う空気に包まれていた。
去年のこのステージでは紅白に出れなかったことよりも、同じ時間に違うステージに出演したねごとが解散発表をしたため、朝から
「ねごとが解散するからヤバT蹴ってねごと見に行く」
というツイートが多く流れていた。こやまはそう言われてしまったことに悔しさを募らせていたし、ライブ中にギターの音が出なくなるというトラブルもあっただけに、ヤバTが原動力にしていた「悔しさ」という感情が強く出るものになった。
それはそれでこのバンドの本質を示すものにもなっていたのだが、この日のライブはヤバTが本来持っている楽しさもしっかりと見せてくれるものになった。リベンジということは考えてなかったかもしれないけれど、ちゃんとこのEARTH STAGEでヤバTらしいライブができたのだ。
しかしそれだけでは終わらなかった。
「あと3分ある!間に合うかな〜?」と言いながらさらに「喜志駅周辺何もない」を高速バージョンで演奏した。本来は面白いコール&レスポンスを交える曲でもあるのだが、時間の関係上それはなしで原曲通りのバージョンに。
春のJAPAN JAMでも同じように時間ギリッギリ(残り4秒くらいまでやっていた)まで演奏していたが、それはヤバTが「1曲でも多く曲を演奏するのが一番のファンサービスになる」ということをわかっているからである。
でもJAPAN JAMの時の本当に間に合うかどうかの切羽詰まった感じよりも、この日はそのチキンレースっぷりをどこか楽しんでいるかのようにも見えた。だからやはりこの日のヤバTのライブは「楽しい」と心から感じるものだったし、2019年もたくさんライブを見てきたヤバTのライブの年内最後をそう感じることができたのは本当に幸せだった。演奏が終わって、時間ギリギリゆえに走って捌けていく姿は無邪気なように見えてどのバンドよりもカッコ良かった。
リハ.とりあえず噛む
リハ.Universal Serial Bus
1.かわE
2.Tank-top of the world
3.無線LANばり便利
4.KOKYAKU満足度1位
5.あつまれ!パーティーピーポー
6.DANCE ON TANSU
7.Tank-top Festival 2019
8.鬼POP激キャッチー最強ハイパーウルトラミュージック
9.癒着☆NIGHT
10.案外わるないNHK
11.ヤバみ
12.ハッピーウェディング前ソング
13.喜志駅周辺何もない
14:30〜 King Gnu [EARTH STAGE]
2019年に最も飛躍したと言っていいバンド、King Gnu。この後にはなんと紅白歌合戦にも出演というとんでもない状況にまで達している。このフェスにおいてもGALAXY STAGEを飛び越えてメインのEARTH STAGEへ進出。
SEが鳴り始めてメンバー4人がステージに登場すると、スクリーンにはバンドロゴが大きく映し出され、常田大希(ボーカル&ギター&キーボード)によるギターのリフが鳴らされるとともに、新井和輝(ベース)と相変わらず髪色が派手な勢喜遊(ドラム)のリズム隊による強靭なグルーヴがこの広いEARTH STAGEをすぐに支配していく。ハイトーンな井口理(ボーカル&キーボード)は最初のサビを歌い切ると、右腕を高く挙げる。それは自身とバンドの状態が良いこと、自分たちがこの1番広いステージに立てていて、その客席を満員にしていることへの手応えを感じさせる。
今年リリースのアルバム「Sympa」の中からはライブでは定番となっているアッパーな「Sorrows」、逆にフェスでやるような感じがあまりしなかった「It’s a small world」という選曲は持ち時間が50分あるこのステージへの出演となったからだろうけれど、その後に井口が歌い上げるタイプの「傘」、そしてキーボードのフレーズとともに歌い出しで大歓声が上がった今年を代表する曲と言える「白日」と続く。かなり予想しづらいというか、フェスでここまでこうしたタイプの曲を(しかもこの規模のステージで)連発するようなバンドはそうはいない。春のフェスではこの「白日」が終わって抜けていく人もたくさんいたが、今は全くそんなことはない。
「Prayer X」もまたそうしたタイプの曲であるのだが、井口は
「みんなで歌いましょう!」
と演奏前に呼びかけていた。でもあまりにも歌うのが難しすぎる曲であるがゆえに大合唱と言えるくらいまでにはならない。やはりこのバンドの曲は井口でないと歌いこなすことはできないのである。
とはいえ常田が拡声器を持ってステージを歩き回りながら歌い、演奏している新井の口元にも拡声器を当てたりする「Slumberland」でも
「歌え!」
と観客にコーラス部分を任せようとするあたり、このバンドは明確に歌、声というもので観客とコミュニケーションを取ろうとしている。その常田のこのライブだけでなく時代そのものもアジテートするような姿からはどこか孤高というか、こちら側からコミュニケーションを取りにくいようなオーラすら発しているが、そうした見えない壁のようなものをこのバンドは自分たちから率先して壊そうとしている。
そうしてアッパーに振り切れていくかと思いきや、常田がキーボードを弾いて井口が歌うという編成のバラード「The Hole」と続くあたりはやはり既存のバンドのライブの流れとこのバンドは全く違うと思わせる。バズリズムライブの時はかなり喉を酷使するような歌い方というか叫ぶかのようですらあった井口もただただひたすらに「上手いな」「美しいな」と思わせるように自身の美声を響かせていく。
そして勢喜遊の手数と強さを兼ね備えた、このバンドの強みはやはりこのリズム隊だよなぁと思うドラムソロを経てから、ラストはアッパーに「Flash!!」へ、という流れなのだが、このバンドは井口という喋りが面白いメンバーがいて、持ち時間が長いにもかかわらずほぼMCをしない。だからこそ決して短い曲ばかりではない(むしろこのステージに立っているアーティストの中では長い曲が多い方だと思う)のにもかかわらず、こうして多くの曲を演奏することができる。
その最後に10曲目として演奏された、すでにCMでオンエアされている「Teenager Forever」は来るべき2020年代の最初のアンセムになりそうな予感に満ちていた。
正直、自分はこのバンドがまさか紅白まで行くとは思っていなかった。しかしこうしてライブを見ているとそれは当たり前のようにすら思えてくるし、自分たちが真ん中に寄っていくのではなくて、自分たちがいる場所を真ん中にするというこのバンドの戦い方はロックバンドとして実に頼もしく見える。果たして2020年、このバンドはどこまで行くんだろうか。
リハ.Tokyo Rendez-Vous
1.飛行艇
2.Sorrows
3.It’s a small world
4.傘
5.白日
6.Prayer X
7.Slumberland
8.The hole
9.Flash!!
10.Teenager Forever
15:15〜 マカロニえんぴつ [GALAXY STAGE]
2回目の出演にして早くもGALAXY STAGEに進出した、マカロニえんぴつ。このバンドにとっても2019年は間違いなく飛躍の年となっている。
SEが鳴ってメンバーがステージに登場すると、はっとり(ボーカル&ギター)の第一声は
「ジャパーン!」
という叫び。これは名前を拝借するくらいにリスペクトしている奥田民生を意識してのものだろう。このフェスのレジェンドの意志が若いバンドに確実に受け継がれている。
ライブはバンド名への自虐的な歌詞も入り混じる「トリコになれ」でこの広いステージに集まった観客を全て自分たちのトリコにしようとしているかのような。最後の一音が鳴らされた瞬間に高野賢也(ベース)は右手の親指をグッと突き出す。さすがにイベントなどで横浜アリーナなどの大きなステージもすでに経験しているだけに、緊張は全く感じられない。
長谷川大喜の軽やかかつポップなイントロのキーボードのサウンドに歓声が起きた「レモンパイ」はこの曲がちゃんと認知されているんだな、と感じざるを得なかったし、大きなステージの数が多い照明が黄色くメンバーを照らすことによってより一層レモンらしさを強く感じさせ、ギターの田辺由明が作曲した、ビートルズの影響を強く感じさせる「恋のマジカルミステリー」は作曲者だからこそか、田辺が実に良い笑顔を浮かべてフライングVを鳴らしていたのが印象的だ。
はっとりが
「King Gnu終わってからこっち来たのかな?(笑)」
と言っていたように、ライブ開始直後は「やっぱりまだGALAXYは早かったのかも…」と思ってしまうような入り具合だったが、気がついたら完全に超満員になっている。みんなKing Gnuからこのバンドへ、というスケジュールを組んでいたようだ。
問答無用の名曲「ミスター・ブルースカイ」で年末という1年を振り返らざるを得ないタイミングだからこそ、
「泣いているのは君のせいじゃないから」
というフレーズは今年あった様々なことを思い出させてよりセンチメンタルな気分にさせられるし、「ブルーベリー・ナイツ」を演奏している時の紫色の照明もそれに拍車をかける。
はっとりが足元のエフェクターを操作してノイジーなギターサウンドを作り出しながら、それが長谷川のキーボードのポップな音と混じり合って独特のマカロックになっていく「stay with me」の後はテンションが上がっているからかテンポも実に速くなっている「洗濯機と君とラヂオ」で踊らせると、
「今年はただ一言、出会ってくれてありがとうございます!」
と、やはりバンドが今年出会った人が多いことを自覚していること、その結果としてこのステージに立てていることを告げると、
「正解を示せるバンドではないし、いつも正しいことだけを言うバンドでもない。でもそのままでいいと思ってもらえるような存在になれたら」
と自分たちの不器用な部分を語るが、その言葉通りのバンドだからこそ、はっとりがいつもMCで言うように各々が好きなように楽しむことができるバンドである。盛り上がってもいいし、歌ってもいいし、じっと見ていてもいい。それはライブを見に来ている誰をも居心地悪くしないということである。
そうしたバンドの芯を語るMCをした後に演奏されたのは「ヤングアダルト」。今年リリースされたこの曲がこうしてフェスの、今年のこのバンドのライブの締めを担う曲になっている。そう考えるとやはり2019年はこのバンドにとって最大の飛躍の年だったと言えるだろうし、MCの通りに不器用なバンドだとしても、「僕らは美しい」と思える。この曲は2019年だけでなくこれからもこのバンドにとってきっと大事な曲になっていく。
こうして初めてGALAXY STAGEでライブを見ると、曲の力そのものでここまで来たバンドであるし、その曲の力を伝えるためのはっとりのボーカルの上手さと声量の大きさに惚れ惚れしてしまう。
ロッキンオンも、去年までGALAXYの番人だったNothing’s Carved In Stoneでも、GALAXY昇格は確実と思われていたHump Backでもなく、このバンドをGALAXY STAGEに上げた。それはこのバンドに大いなる可能性を感じているからだ。そしてその期待は必ず上回る形で返してくれるはずだ。
1.トリコになれ
2.レモンパイ
3.恋のマジカルミステリー
4.ミスター・ブルースカイ
5.ブルーベリー・ナイツ
6.stay with me
7.洗濯機と君とラヂオ
8.ヤングアダルト
その後、COSMO STAGEでパスピエを
リハ.チャイナタウン
1.マッカメッカ
2.グラフィティー
まで見る。こうしてスクリーンがあるフェスのステージで見ると、本当に顔をちゃんと映すようになったんだなぁと思うし、物凄く高度かつ複雑なことをやっているのにもかかわらずポップな形でアウトプットされるこのバンドの構造や演奏技術はもちろん、大胡田なつきのボーカルも経験や年数を重ねてよりレベルアップしている。もうかつて立っていたGALAXY STAGEは遠くなってしまったかもしれないけれど、バンドは止まることなく確かに進化をし続けている。
16:20〜 宮本浩次 [GALAXY STAGE]
夏のROCK IN JAPANには横山健らを引き連れた特別編成で出演した、宮本浩次。エレファントカシマシとしてこのフェスを創設時から支え続けてきた存在であるが、今年はエレカシとしての出演はなく、ソロのみ。
おなじみの白シャツに黒スーツという出で立ちの宮本浩次とともにステージに現れたのは、蔦谷好位置(キーボード)、TOKIE(ベース)、椎野恭一(ドラム)、名越由貴夫(ギター)というバンドメンバーたち。横山健ほどのインパクトではないけれど、これも凄まじい面々である。というかこのメンバーでバンドを組んだらとんでもないスーパーバンドになるくらいの。
そんなバンドで最初に演奏されたのは「Do you remember?」というパンクと言ってもいいようなビートの曲。それをパンクなイメージのない(TOKIEこそ初期RIZEのメンバーであるが)このバンドで演奏しているというのも凄いのだが、途中で宮本が
「ストップ、ストップ。ギター、聞こえない」
と名越のギターにトラブルが発生したことにより、そこからやり直すのではなくもう1回最初からやり直すということに。観客側はビックリしていたが、宮本もバンドも実に当たり前かのように最初から演奏しているあたりはすでに会話しなくても分かり合える関係性を築き上げてるということである。宮本はステージを動き回りながらTOKIEと肩を組んだりするという自由っぷり。
夏はエレカシ曲も交えて、というまだ持ち曲が少ないからこそのセトリを組んでいたが、この日は高橋一生に提供した「きみに会いたい」のセルフカバーも含めて、本人がCMに出演したことなども含めて間違いなく2019年の話題の一つとなった、ソロ宮本浩次としてのこれまでを総括するかのような内容に。
TOKIEと蔦谷が
「Hi, Hi, Hi!」
というコーラスまでも力強く担当する「going my way」はロック、「解き放て、我らが新時代」はラップ、「冬の花」は歌謡曲と、エレカシではできないことにこのソロで挑んでいるということが実によくわかる曲のサウンドの振り幅。それら全てが宮本という稀代のシンガーが歌うことによって宮本の曲になっていく。ここまで幅が広いととっ散らかった感じになってしまってもおかしくないのに、全くそんなことはない。それは改めて宮本というシンガーの凄さを感じさせてくれる。
その宮本はメンバー紹介もしながら、ジャケットを脱いだだけではなく、トレードマークの白シャツのボタン部分すら引きちぎるくらいに、歌に最大限の力を込めて歌っている。ステージの動き回り方といい、全く年齢を感じさせない生命力に満ち溢れているのはエレカシのライブを見ている時とメンバーが変わっても全く変わらない。
そんなライブの最後に演奏されたのは、エレカシの「悲しみの果て」。原曲に忠実な、このメンバーのエレカシへのリスペクトを強く感じさせるようなアレンジ。エレカシはこのフェス創設時からずっと出演し続けてきたし、ライブでは毎回この曲を演奏してきた。もしかしたらこのフェスの歴史において最も数多く演奏されてきた曲なのかもしれないし、様々な浮き沈みを経てきたバンドがこの曲を演奏する姿を見て自分はいつも力を貰ってきた。それはこの曲にメンバーの生きてきた日々や感じてきたことが全て乗っかっているかのような音で鳴らされてきたから。エレカシとしてではないけれど、今年もこの曲をこのフェスで聴けて本当に嬉しかった。
1.Do you remember?
2.きみに会いたい
3.going my way
4.解き放て、我らが新時代
5.冬の花
6.昇る太陽
7.悲しみの果て
17:00〜 奥田民生 [COSMO STAGE]
このフェスが生まれた年から毎年なんらかの形で出演し続けてきた、奥田民生。今年はソロでの出演となる。
ステージにはギターやキーボードなどの機材が設置されている中でいつもと変わらぬサングラスにシャツというラフな出で立ちの奥田民生がステージに登場すると、
「リアル髭ダンディズムです」
とこの日出演しているOfficial髭男dismをもじった自己紹介でいきなり笑わせながら「イージュー☆ライダー」でスタートし、
「僕らの自由を 僕らの青春を」
というサビのフレーズでは奥田民生がマイクから離れると客席から大合唱が起こる。誰しもが知る名曲の力を実感することができる。
テーブルの上に酒を置き、曲間にはそれを飲みながらという実にリラックスした雰囲気というか、持ち時間30分のステージだけにリラックスし過ぎて時間をオーバーしないかが不安にすらなってしまうが、アコギのジャカジャカとしたイントロで歓声が上がる「マシマロ」では
「髭ダンディズムでも気にしない」
とここでも無理矢理気味に歌詞に髭男のフレーズを入れて笑いを誘う。
しかしながら昔のこのフェス(ソロ名義でもバンド編成でメインステージに出ていた)出演時はかなりコアな曲を多く演奏していたが、「恋のかけら」「俺のギター」という選曲も含めて今はそういうモードではないようだ。わかりやすくなったというよりはよりベテランになって「フェスに来るような人が聴きたい曲」をやるようになったというか。
とはいえその自身のベテランっぷりに関しては、
「今日は多分俺が1番年上だけど、他の日には横浜銀蠅や佐野元春さんもいて。あの歳になるまでずっと続けていたいですね」
と自身がベテランであることを認めながらも、自分よりさらに年上である先輩たちに今でも刺激を受けていることを語り、さらにはシャツの下に着ているのがカーリングシトーンズ(奥田民生、寺岡呼人、浜崎貴司、斉藤和義、YO-KING、トータス松本による同世代ユニット)のTシャツであり、
「来年はこちらをよろしくお願いします!」
と言っていたあたり、来年はこのユニットでロッキンオンのフェスに出演するのだろうか、とも思わせる。
そして「ヒット曲!」と言ってギターを弾きながら歌い始めた「さすらい」では本人はサビをほとんど歌わずに観客に歌を任せる。時にはユニコーンやサンフジンズなどバンドで出演した年もあったけれど、間違いなくこのフェス、さらにはロッキンオンのフェスの歴史を作っできた名曲をこうしてたくさんの人が一緒に歌っている。袖でライブを見ていたロッキンオン社長の渋谷陽一に(袖から客席に手を振っていた)
「もう1曲やっていい?」
と確認してから演奏された「CUSTOM」の最後のフレーズは
「届いてる?」
と問いかけるものであるが、聞かなくても間違いなく奥田民生の音楽はこのフェスに届いてる。
1.イージュー☆ライダー
2.マシマロ
3.恋のかけら
4.俺のギター
5.さすらい
6.CUSTOM
17:30〜 赤い公園 [MOON STAGE]
2017年にボーカルの佐藤千明が脱退し、翌年に元アイドルネッサンスの石野理子が加入という激動の数年間を過ごしてきた、赤い公園。新体制後は慎重に各地のフェスに出て行くという感じだったが、今やかつて同様にあらゆるフェスに名を連ねるようになった。
それぞれが鮮やかな衣装に身を包んで登場すると、2019年リリースの新体制後音源からの「消えない」でスタートするのだが、佐藤のパワフルさとはかなり対極にいると言っていい石野の透明感あるボーカルはバンドのイメージを一新させている。そういえば石野が入ってからライブを見るのは初めてだな、と実感する。
この体制になってからは小さいライブハウスを回るツアーを繰り返すというデビュー当時のような活動を繰り広げているのもバンドが新しく生まれ変わったからこそであるが、そこでは早くもさらなる新曲を多数披露しており、この日も津野米咲(ギター)のオルタナ魂と独特の言葉遊び的な言語感覚による歌詞の「ジャンキー」、一転してロマンチックかつ少し青春性も感じさせる情景を描くミドルテンポの「夜の公園」とまだ音源にはなっていない曲も披露される。特に「夜の公園」は石野の少女と大人の女性の狭間にいるようなボーカルによってこのバンドの持つポップな部分を浮き上がらせている。きっとこの声で歌うボーカリストがいることによってこうした新曲群が次々に生まれてきているということもあるのだろう。
その間に挟まれた「Highway Cabriolet」もサビでは合いの手的な手拍子が客席で起こるなど、2019年リリース作品であるにもかかわらずしっかりとファンに浸透している。
そんな中でさらなる新曲として披露されたのはアニメのタイアップが決定している「絶対零度」。オルタナとポップさの融合というこのバンドのど真ん中的な曲であるが、ここまでは全て新体制後の曲であり、まさに新しいバンドとしての出演と言っていい。この4人で作った曲に自信があるんだろうし、その今の赤い公園の姿をこうしたフェスでもしっかり見てもらいたいんだろう。
とはいえさすがにそれだけではなく、前体制時のキラーチューンである「KOIKI」も演奏。やはりボーカルが変わったことによって曲の表情もだいぶ変わって感じるが、歌詞のとおりにこのバンドが小粋であることに変わりはないし、お立ち台に立ってギターソロを決める津野だけでなく、デビュー時は無邪気な少女というイメージが強かった藤本ひかり(ベース)も歌川菜穂(ドラム)のリズム隊の石野を支えるような演奏も実に頼もしく感じるし、石野がメンバーよりもだいぶ若いからこそ3人が大人の女性になったということを感じることができる。
そんな以前の赤い公園のテーマ的な曲の後に最後に演奏されたのは今の赤い公園のテーマ曲と言っていいような「凛々爛々」。演奏している姿は凛としていながらも、爛々と輝いていた。今、こうしてバンドをやれていることを心から楽しんでいるかのような。
デビュー時にいきなりさいたまスーパーアリーナでのイベントのオープニングアクト(メジャーデビュー数日後というタイミングだった)でライブを見た時の赤い公園は本当に衝撃的だった。まだ超無名にもかかわらずその場の空気を完全にかっさらっていっていた。(4人でパラパラを踊ったりという若さゆえっぽいこともしていたけど)
今はもう若手と言える立場ではないけれど、このバンドの音楽に触れたことのある人なら津野の鬼才っぷりはわかるはずだし、それはSMAPへの提供曲以外にももっと広いところで鳴るべきもののはず。どうしてもライブを見ていると「バンドを続けるということ」と向き合わざるを得ないけれど、かつての編成しか知らない人が見ても間違いなくカッコいいと思えるようなバンドであり続けている。
1.消えない
2.ジャンキー
3.Highway Cabriolet
4.夜の公園
5.絶対零度
6.KOIKI
7.凛々爛々
18:15〜 あいみょん [EARTH STAGE]
前年は急激な大ブレイクの渦中の真っ只中でGALAXY STAGEを超満員にした、あいみょん。(次の出番だった電気グルーヴの連載で少し波紋を呼んだけれど)
今年は初のEARTH STAGEに出演となる。
ラブシャでのセクシーな出で立ちに比べると冬らしい厚手の衣装で登場すると、アコギを弾きながら「生きていたんだよな」のポエトリーリーディング的な弾き語りでスタート。すでにバンドメンバーもスタンバイしていただけに、サビあるいは2コーラス目あたりでバンドサウンドに切り替わるのかと思いきや、そのまま1曲弾き語りで歌い切る。その歌とアコギという形だからこそこの曲の切実な部分がより際だって聴こえる。
するとバンドとともに演奏されたのは早くも「マリーゴールド」。春フェスや夏フェスでは最後に演奏されていた曲だけれど、マリーゴールドの咲く季節を通り過ぎて、2019年も名曲をリリースし続けてきただけにライブの作り方をガラッと変えることができるし、この日間違いなくEARTH STAGE最多動員を記録しながらも、「マリーゴールド」が聴けたからもういいやと移動して行く人が全くいないというあたりにこの曲は代表曲ではあれどこの曲だけを知っているのではなく、みんなが他の曲もちゃんと知っているということがわかる。
山本健太(ex.オトナモード)のキーボードが妖しい空気を生み出す、R&Bなどの要素も取り入れた「愛を伝えたいだとか」、2019年の夏をこんなにも予測不能な展開の曲が彩ったという事実が実に痛快な「真夏の夜の匂いがする」、2019年のあいみょんにとって一つのマイルストーンであった日本武道館ワンマン(まだあれから1年経ってないというところに横浜アリーナすらもツアースケジュールに入っていたあいみょんのペースの凄まじさを感じる)の時に弾き語りで披露されたのが今でも脳裏に強く残る「ハルノヒ」と、2019年最後のライブらしく今年の活動を総括するような選曲だ。夏フェス時には「ハルノヒ」はやっていなかったためにより強くそう感じる。
ハンドクラップとともに体を揺らすのが心地良い「満月の夜なら」、ドラマ主題歌として多くの人に届いた「今夜このまま」。全てシングル曲であり、まるで出ていないのにベストアルバムをリリースした後のようなライブであるが、それはそのまま今の日本の音楽シーンのベストアルバム的なライブになりつつある空気を纏っているのが本当に凄い。
アルバム「瞬間的シックスセンス」リリース以降、フェスなどに加えて全国のホールやアリーナを回ってきただけに、ソロであるのにバンド感が強いあいみょんのライブはさらにバンド感が増しているし、前年のGALAXY STAGEの何倍もの巨大なキャパであってもそれを丸ごと飲み込んでしまうかのような歌声の伸びやかさ。MCは最小限にしてすぐに曲を演奏するというテンポの良さはそのままこの名曲たちをたくさん聴けるというライブの構造になっている。
あいみょんが年内最後のライブであり、1年を「楽しかった」と振り返りながら演奏されたのは最新シングル曲にして映画のタイアップ曲である「空の青さを知る人よ」。「真夏の夜の匂いがする」の一筋縄ではいかない展開に比べると実に正統派なポップソングであるが、やはりいわゆるJ-POPというところにストンと落とし込めるかというとちょっと違うというか、それがあいみょんの独自性を感じさせる所以なんだと思う。
おそらくこの時間になるまでにたくさんのロックを聴いてきた人の前で鳴らす「君はロックを聴かない」は、こうしたフェスでは周りに何万人もロックが好きな人がいるのに、現実の生活範囲になると本当に聴かない人ばかりという我々ロックフェスに来ている観客へのテーマソングのように響き、最後に演奏されたのはバンドの演奏のテンポが音源よりもさらに速くなる「貴方解剖純愛歌 〜死ね〜」。あいみょんはサビ前で声を張り上げるようにするとサビの
「ねぇ」「死ね」
のフレーズ部分ではマイクから離れる。観客にその部分を歌ってもらうために。まだブレイクするはるか前に生み出したこの曲が、5万人もの人の大合唱によって歌われるということを当時のあいみょんは想像していたのだろうか。そしてその規模はこれからもさらに大きくなっていく。もう底や果てが全く見えない。2010年代の終わりに日本を代表するミュージシャンとなったあいみょんは、2020年代をどう彩り、作り上げていくんだろうか。
1.生きていたんだよな (弾き語り)
2.マリーゴールド
3.愛を伝えたいだとか
4.真夏の夜の匂いがする
5.ハルノヒ
6.満月の夜なら
7.今夜このまま
8.空の青さを知る人よ
9.君はロックを聴かない
10.貴方解剖純愛歌 〜死ね〜
19:30〜 [ALEXANDROS] [EARTH STAGE]
このステージでは2年前に年越しアクトを務めているし、前年もトリ。このフェスにおいて最も巨大な存在の一組である[ALEXANDROS]がこの豪華メンバーが居並ぶ初日のメインステージのトリである。ちなみにEARTH STAGEのトリが[ALEXANDROS]でGALAXY STAGEのトリがフジファブリックというのは前年の2日目と全く同じ被り方。本当に翌年は勘弁していただきたいものである。
場内が暗転すると「Run Away」のダンサブルなアレンジのSEが流れ、ステージ中央のスクリーンにもその「Run Away」のタイトルが映し出される。先日、BIGMAMAからの脱退を発表したサポートドラマーのリアドを含めてメンバーの出で立ちは実にフォーマル。きっと年末のテレビの音楽番組にこのバンドが出た時もこういう服装なんだろうなと想像してしまう。
SEの通りにライブのオープニングならではのダンサブルなアレンジが施された「Run Away」からスタートし、白井眞輝(ギター)のきらめくようなギターの音を浴びながら川上洋平(ボーカル&ギター)はハンドマイクで早くもステージ左右に伸びた通路を歩きながら歌う。そのボーカルはいつにも増して気合いが入っているように感じられるが、それはこのライブが年内最後のライブであるという要素もあるだろう。
スクリーンの「Run Away」の「R」が小文字の「r」に変化したことによって、その映像とともにスムーズに曲と曲を繋ぐようなアレンジがなされ、川上がギターをかき鳴らし始めたのは「Starrrrrrr」。観客は飛び跳ねながら、ラストサビ前ではかなりハイトーンなキーであるにもかかわらず男女問わず大きな合唱が起きる。
その合唱はこの曲を演奏するバンドによって生み出されたものであるが、そのバンドから観客へ伝わり、さらに観客からバンドへ返されることによってさらにバンドの演奏が強くたくましいものになるという最高の相乗効果を生み出している。
そんな中で久しぶりにフェスでお目見えとなったアッパーな「Stimulator」から再び川上がハンドマイクで歩き回りながら時にはカメラ目線をしながらも歌う「Kick & Spin」では白井と磯部寛之(ベース)も左右に走って展開していく。それでも演奏が全くブレたりすることがないというのもこのバンドの一枚岩感を強く感じさせる。
すでにキラーチューンとなっている2019年リリースの「月色ホライズン」でそれまでのバンドの演奏の獰猛さというよりはメロディの美しさをしっかりと堪能させるかのよう。
かと思えば最近はアンコールで演奏されるのがおなじみになりつつあった「Dracula La」をここで早くも演奏し、
「幕張に奪われたい」
と歌詞を変えながら川上は歌い、コーラスパートでは大合唱が響く。やはりその川上の姿からは気合いを強く感じるし、
「今日はもうワンマンかっていうくらいに曲をやります!」
と自分たちがこの日の出演者の中で最も長い時間ライブができることへの喜びをも強く感じさせる。
なので最近はフェスではあんまり演奏されていなかった、川上のアコギが聴かせるというのとは全く違う情熱的な雰囲気を醸し出す「Waitress, Waitress!」という選曲もありつつ、
「まだ発売されてない新曲なんですけど、みんなで歌うところがあるんでみんなに歌って欲しいです」
と言って珍しく観客にコーラスの練習をさせてから演奏されたのは、先日のNHKの「18祭」で若者たちとともに生み出して演奏された「Philosophy」。これまでにも数々のバンドがこの企画をきっかけにして名曲を生み出してきたが、この曲も間違いなくその系譜に入るべき曲。スクリーンには歌詞が映し出され、練習したコーラスパートでは大合唱が起きたが、自分は[ALEXANDROS]が18祭に出るというのが少し意外だった。あんまり若者について口にしたりしないバンドだし、そもそもエールを送るというよりは「1番俺たちがカッコいいんだから俺たちの背中を見てろ」というタイプのバンドであるだけに。いや、そのスタンスは変わっていないけれど、でも18祭があったからこそこの曲が生まれて、それが結果的にファン全員で歌える曲になったというのは紛れもない事実だ。
さらには
「フェスでは1回もやったことがない」
と言って、かつてのこのフェスでは歌い出しの数フレーズだけ川上が歌ったりしたこともあった「12/26以降の年末ソング」というこの日だからこその曲まで披露されるというファンにとっては実に嬉しいサプライズ。
「あと少しで今年も終わるけど ああ何か 忘れてないか
愛想笑いで頑張った自分を 少し褒めてあげよう」
というフレーズはこの日までに仕事や学校などをなんとかやり抜いてこの場所までたどり着いた人のためのテーマソングだと言えるし、このバンドのカッコよさだけは忘れていない。
そしてスクリーンにはオリジナルの映像が映し出される中で川上が小粋なステップを踏みながら演奏されたのは「あまりにも素敵な夜だから」。「Aoyama」や「Feel Like」に連なる、[ALEXANDROS]の洗練サイドの曲であるが、それはこの曲で早くも極まったようにすら感じるし、この日のここに至るまでのライブの素晴らしさからしても、本当にあまりに素敵な夜になっているという点ではライブで演奏されてこそさらに本領を発揮する曲なのかもしれない。
しかしそんなライブももう終わりの時を迎える。決して良いことばかりではなかったというか、バンドの状況だけを見たら最も激動の1年だったと言ってもいいような2019年の最後に演奏する曲に選んだのはやはり「ワタリドリ」だった。あまりに高過ぎるキーにもかかわらず大合唱が起きる中(この曲を軽く歌いこなす川上のボーカルって本当に凄いと思う)、
「大それた四重奏を 奏で終わる日まで」
というフレーズはそれでもこのバンドには後ろ向きな感覚は似合わない。ただただ来年への希望と期待を感じさせるように響いていた。
演奏が終わるとスクリーンには来年がバンド10周年であること、ドラマ主題歌やツアーなど10周年らしい派手な動きがすでに決まっていることが告知された。やはり止まる気なんてさらさらない。サトヤスがいない状況だとしても、もっと前へ。もっと上へ。その飽くなき向上心こそが[ALEXANDROS]が[ALEXANDROS]たる理由である。
この超豪華な面々の中で[ALEXANDROS]がトリである理由。この規模でトリをやるには動員や売り上げだけではなく、大きな場所でより発揮できるライブ力、観客の熱量を自分たちのものに変える力が必要だとこのバンドのライブを見るとよくわかる。そこはすでにスタジアムワンマンを経験しているからという差なのかもしれないけれど、やはりこのバンドを押し除けてトリまでいくのは相当に高い壁だ。このバンドはそうした自分たちの前にそびえる高い壁すらも歓迎すべきものとして乗り越えてきた。そう考えると持ちすぎなくらいにあらゆる武器を持ち合わせているこのバンドが最も強いのは1ミリもブレることのないバンドとしての意志や精神力なのかもしれない。
1.Run Away
2.Starrrrrrr
3.Stimulator
4.Kick & Spin
5.月色ホライズン
6.Dracula La
7.Waitress, Waitress!
8.Philosophy
9.12/26以降の年末ソング
10.あまりにも素敵な夜だから
11.ワタリドリ
文 ソノダマン