近年はクボケンジ(ボーカル&ギター)の弾き語りやソロプロジェクト・初恋のテサキとしての活動も活発化している、メレンゲ。
バンドとしては新曲やリリースこそないけれど、ライブをたまにやるというくらいのペースになりつつあるが、2020年は年明けから始動。「re-creation」というライブタイトルはかつて共作したこともある、いしわたり淳治がメンバーだった、SUPERCARの名曲タイトルを彷彿とさせる。
近年メレンゲのライブとしてはホームになりつつある新代田FEVERはソールドアウトしているために満員。心なしか、見るたびに男性の数が増えているような感じがするのは何の効果なんだろうか。かつては「隠れキリシタン」と言われるくらいに男性ファンは1500人くらいのキャパの会場でも数えられるくらいしかいなかったというのに。
18時を少し過ぎると場内が暗転し、バンドのムードメーカー的な存在でもあるベースのタケシタツヨシを先頭に、サポートメンバーの3人が登場。近年のメレンゲのライブにおいてはおなじみのギター・松江潤、ドラム・小野田尚史(ホタルライトヒルズバンド)に加え、キーボードには初期からメレンゲを支え続けてきた、皆川真人が久しぶりに参加。これはクボケンジの弾き語りライブでも相方的な存在としておなじみである山本健太があいみょんのサポートなどで忙しくなってきたという影響もあるのだろうか。
最後にハットを被ったクボケンジが登場すると、松江のギターがいきなり唸りを上げるような「輝く蛍の輪」でスタート。ポップなバンドというイメージが強いメレンゲの中でもギターロックエッセンスが強い曲であり、タケシタは間奏のブレイク部分で大きくジャンプする。もはや年齢や歴的にはすっかりベテランであるが、見た目からもパフォーマンスからも全くそうした部分は感じさせない。クボケンジのボーカルも近年の中ではトップクラスによく出ている。
皆川のキーボードによるサウンドが懐かしくもある「きらめく世界」へ。メレンゲの代表曲と言っていい曲であるし、出会ってからもう15年くらいずっと聴いてきた曲であるが、やはり今聴いてもとんでもない名曲であるし、演奏している姿を見たいんだけれども、歌詞が脳内に情景を思い浮かぶようなものとクボのボーカルであるがゆえに、目をつぶって曲の世界観に浸りたくなるようですらある。
アニメ版の「ピンポン」の主題歌に起用されたことにより、かつての実写版の主題歌や挿入歌を担当していた「HIGHVISION」期のSUPERCARへのリスペクトが感じられるようなエレクトロサウンドを導入した「”あのヒーローと”僕らについて」は皆川のキーボードを始めとした人力のバンドサウンドが曲に新たな解釈を与える。それは再創造という「re-creation」のライブタイトルによるものであるかのように。クボはサビの
「テレキャス持って 灯りともったら」
のフレーズで自身の弾くテレキャスターを軽く高めに掲げてみせる。
久しぶりのライブであることにクボとタケシタが触れながら、昨年は2本しか行わなかったライブを早くも1本行い、ツアーとして東名阪を回ることを告げる。
クボ「本当はもっといろんなところに行きたいんだけど、人入らんやろうから、とりあえずは東名阪でっていう(笑)
また大きいところでできるように今年はメレンゲを動かしていくんで」
という少し笑わせながらも2人がメレンゲへの意欲をまだまだ持っているままであるということがわかるのが本当に嬉しい。
クボがハンドマイクで歌う「ミュージックシーン」もエレクトロかつハイパーな原曲のイメージよりもはるかにバンドらしいサウンドで演奏されているが、このタイトルの「ミュージックシーン」はいわゆる「音楽シーン」というものではなくて、「音楽が流れているシーン」というくらいの解釈なんじゃないかと思われる。
なぜならばメレンゲがそうしたシーンの流行りや状況を客観的に読むことができるバンドだったら、間違いなくもっとバカ売れしていても(今のback numberとまではいかなくてもそれくらいのポジションで)おかしくないからであり、そのシーンの流れに乗ったりすることができない不器用なバンドであり続けているからである。
「アルカディア」からはストレートというかシンプルなバンドサウンドの曲が続くのだが、ここからまた新たな物語が始まるかのような雰囲気の「CAMPFIRE」、うっすらとした暗闇の中で皆川のピアノが鳴り響く中でクボの
「あなたのことが好きで そう言える僕が好きで
その手のぬくもりで 今日1日が終わればいい」
という必殺フレーズのボーカルが観客の心の切ない部分を撃ち抜くバラード「すみか」。曲を聴くたび、ライブを見るたびに改めて感じるのが、メレンゲの曲の名フレーズのあまりの多さに恐れ入る。たまに歌詞の詩集というものを出版しているアーティストもいるが、メレンゲこそそれをするべきバンドである。
ドロドロした昼ドラの主題歌になったことによって歌謡曲的な要素が最も強い曲である「楽園」も主に皆川のキーボードと松江のギターによってバンド感、ロック感が強い形にリクリエイトされている中、クボは年明けならではの正月に兵庫の実家に帰ったという話に。同様に埼玉の実家に帰ったタケシタも含めて、地元に友達が全くいないので、実家に帰ってもやることがないとバンドメンバーとしてのシンクロっぷりを感じさせながら、
クボ「今、木下理樹が大阪にいるんですけど、せっかく実家に帰るから会おうかっていう話になって。だいぶ病んでるみたいだから、移ったら嫌だなぁとか思いながら。誰とも会ってないみたいやし。
でも1月2日に会おうって言ったら「その日は家族の予定がある」って断られて(笑)だから会ってないっていう(笑)」
と、かつてすぐ近くの下北沢などで凌ぎを削っていた戦友であるART-SCHOOLの木下理樹との友情を感じさせるのだが、昨年のアジカン、ELLEGARDEN、ストレイテナーによる「NANA-IRO ELECTRIC TOUR」でもアジカンはART-SCHOOLの曲をカバーしていた。今、木下がどんな状態なのかは全くわからないが、こうしてメレンゲのことを忘れていない人もたくさんいるし、ART-SCHOOLのことを忘れていないどころか、大切に思っている人もたくさんいる。どちらも、きっと自身が思っている以上にたくさんの人に深く愛されている。
そんな地元の話をしたからこその、ライブならではの途中からリズムのテンポが急激に加速する「underworld」は
「公園滑り台の上 少しも怖くないよ」
という、各々が思い浮かべるであろう景色が、この日はクボの過ごしたであろう情景を脳内に思い浮かべる形に。
「もう会えなくても大丈夫さ」
という最後のフレーズも、全く会うことがないという地元の友達に向けられているかのよう。
こうしてライブで演奏されるのが実に意外であった「願い事」から、日比谷野音でこの曲を演奏した時の夜空の美しさが今でも忘れられない「ムーンライト」はこの日は客席中央の頭上でミラーボールが光るという形でその美しい輝きを見せると、
タケシタ「デカいところでやるって言っても、バンド始めた頃は渋谷公会堂でやりたいとか、日比谷野音でやりたいとか色々あったけど、だいたいやってきたじゃないですか。夢っていうと武道館とかだけど、今から武道館っていうのはなぁ(笑)」
と、この日の客入りを知らなかったというタケシタが満員の客席を見て改めて感慨深く話すと、
クボ「俺は地元でライブをやりたいかな。地元に友達いないから人呼べないし、俺がミュージシャンだって知ってる人もいないかもしれないけど(笑)」
タケシタ「じゃあそれを目標にしましょう。そのためにも、お客さんも我々も新曲を書いてくれるのを楽しみにしてますから」
とクボが改めて自身の地元である兵庫県宝塚市でライブをやりたいということを口にしたが、そこには盟友であるフジファブリックが山内総一郎の地元である大阪の大きな会場でライブをやったり、クボが志村正彦の地元である富士吉田でライブをしたりということも少なからず刺激になっているのだろう。その地域にどんな規模の会場があるのかはわからないけれど、いつかそれが果たされる日が来るならば絶対にこの目で見てみたいと思う。
そこからは後半戦、いわゆるクボの言う「キツいゾーン」。それはクボのボーカルがハイトーンかつ張り上げるような部分が多い曲だからであるのだが(そもそもそういう曲を作ったのはクボ自身である)、この日はクボの声が本当によく出ていた。バンドサウンドであったり、ダンスミュージックであったりとアレンジの多彩なメレンゲの音楽であるが、やはり真ん中にあるのはクボの歌であるだけに、声が出ているかどうかというのはライブの印象をかなり変える。
この日のクボのボーカルのファルセットまで含めてしっかり声が出ている調子の良さはライブの出来そのものをさらに何段階も上に引き上げていたが、「クラシック」では
「極東の先の新代田FEVERへと」
と歌詞を変えて「今、ここ」でしかない瞬間を作り上げ、観客のコーラスの大合唱を実に嬉しそうにクボは聞いていた。
ハイパーなエレクトロサウンドと牧歌的な歌詞がこれからもバンドが旅を続けていくということを示唆する「バンドワゴン」から、クボが最もキツそうな(前にこの会場でワンマンをやった時に本人も言っていた)「エース」では
「いつだって僕らは生まれ変われる」
というフレーズが「re-creation」というタイトルのライブのテーマソングのように響く。それを気づいてながらも歌い切るクボの姿を見ていると、我々の人生だってちょっとやそっとのことがあっても何回だってやり直せるんじゃないかと思える。
そして観客の手拍子が完璧に揃って鳴らされる近年のライブ定番曲になっているポップな「ビスケット」を演奏すると、
クボ「今日、雪が降ったらしくて。5年くらい前に渋谷公会堂でやった時にもめちゃくちゃ雪が降って。帰れなくなった人もあの時はいたんじゃないかと。僕は帰れなくなりました(笑)
雪が降るとあの日のことを思い出します」
と言って演奏されたのは「ユキノミチ」。クボの言う通りにこの日東京では朝から昼にかけて雪が降った。自分も雪が降っているのを見た時にあの日の渋谷公会堂から駅までがユキノミチになっていたことを思い出した。
この日の最後の曲がこの曲で、この日雪が降ったのは偶然なんだろうか。珍しいことをすると「雨が降る」「雪が降る」と言われることがあるが、そう考えるとメレンゲがライブをするから雪が降った、というようにも捉えられる。でももしかしたらこの日の雪はメレンゲが、この曲が呼び寄せたものだったのかもしれない。
「恥ずかしいやりとりに 切なさが加速して飛び散る
すぐ会えたりするんだろうか……
キミもたぶん 同じかなぁ……同じかなぁ…」
というサビのフレーズが歌われた後にまさに切なさが加速するようにノイジーになる松江のギター。かつてとはメンバーもバンドの状況も全く違うけれど、このバンドがCOUNTDOWN JAPAN 06/07のGALAXY STAGEに出演した時に最後に演奏されたのもこの曲だったことを思い出す。この日は足跡が見えないくらいに雪が積もることはなかったけれど、確かに雪が降る季節にまた我々はメレンゲのライブを見ることができていた。
アンコールで再びメンバーが登場すると、クボによるメンバー紹介。松江とはツアーで酒を飲む約束をしたが、そもそもクボが酒を飲まないので、同じく酒を飲まない小野田とともにこのツアーで酒を飲もうという約束をし、皆川とはかつて近所に住んでいた際に2人でパチンコに行ったりしていたという話を語る。2人とも調子が良い時に切り上げられないから結局スってしまうということ。
そしてアンコールとして演奏したのは、メレンゲのライブの最後の曲としておなじみである「火の鳥」。それは不死鳥のように何度でも蘇って、これからツアーを回るバンドそのものの曲であるかのようだった。だからこそクボは最後に
「ツアー、行ってきます。また3月に!」
と3月のツアーファイナルでの再会を約束した。タケシタはピックを客席に投げるのに失敗しまくっていた。
個人的な持論として、ライブはやればやるほど良くなるというのがある。だから年間100本以上ライブをやるようなバンドはライブでこそ本領を発揮すると思っている。
しかし年に数本しかライブをやらないメレンゲは今も見ていて、本当に良いライブをやるな、と思う。そこにはどんな力が働いているのかはわからないが、出会ってから15年くらい。ロッキンのPARK STAGEやCDJのGALAXY STAGEに出たり、Zeppでライブができていた頃に比べたらやはり細々と続けているというイメージは拭えない。
そうして活動ペースが落ちたり、規模が縮小したりすると自然と離れていく人がいる。それはしょうがない。自分もそうなってしまったバンドがたくさんいるから。
でもメレンゲは今でも離れることは全くない。それは楽曲の良さは今でも全く色褪せることはないし、前述のとおりに素晴らしいライブを見せてくれるから。また大きい会場でライブを見ることができたら幸せだとも思うけれど、もう見れなくなってしまうバンドが年々増えていくだけに、こうしてずっとバンドを続けてくれているだけでも我々は幸せなのかもしれない。どんなに機会が少なくても、こうして会えて、メレンゲの曲を今でもライブで聴けるのだから。だからまた、3月に再会のテーマを。
1.輝く蛍の輪
2.きらめく世界
3.”あのヒーローと”僕らについて
4.ミュージックシーン
5.アルカディア
6.CAMPFIRE
7.すみか
8.楽園
9.underworld
10.願い事
11.ムーンライト
12.旅人
13.クラシック
14.バンドワゴン
15.エース
16.ビスケット
17.ユキノミチ
encore
18.火の鳥
文 ソノダマン