昨年、渋谷CLUB QUATTROで開催された、PK Shampoo、CRYAMY、時速36kmなどの新たなライブハウスシーンを担うバンドたちが居並んだ「ONE NIGHT STAND」というイベントに行った時、トップバッターとして明らかにそうしたバンドたちとは音楽性が全く違うアーティストが出演していた。
その名はMega Shinnosuke。ライブをしている姿からは初々しさを感じたが、それもそのはず、彼はまだその時は10代の少年だった。
配信開始の20時になると画面に映るこれは明らかに渋谷のO-WESTなどが入っているビルの中だ。Mega Shinnosukeはそこで食事を取りながら、慌てて階段を降りていってドアを開ける。
するとその部屋の中ではすでにギター、キーボード、ベース、ドラムというサポートメンバーたちの演奏に合わせて赤いパーカーを着て歌っているMega Shinnosukeの姿が。ムーディーな、USのヒップホップの要素も含んだ「Japan」からスタートすると、すぐさまキラーチューンの「桃源郷とタクシー」へ。画面には歌詞も映し出されているが、まさに桃源郷というばかりに画面には様々なエフェクトが施されており、ただの配信ライブというよりは音楽を中心とした映像作品を見ているかのようで、スタッフやチームのMega Shinnosukeの楽曲や世界観への理解度の高さ、この配信ライブへの意識の高さが伝わってくる。
そのMega Shinnosukeはハンドマイクでカメラを意識しながら歌うという、客席をステージにしてメンバーが円を描くように本人を囲んでいるというフォーメーションもあってのものなのか、昨年11月にBAYCAMPで見た時よりも緊張している感じもなく歌うこと、パフォーマンスすることに向き合っているというような印象だ。
一転してマイクスタンドでの歌唱となったのは「Midnight Routine」、ヒップホップとR&Bを取り入れながらも歌謡曲という軸を感じさせる「blue men.」であるが、まさに夜のバーで演奏が行われているような薄暗い照明。そもそもライブでドラムを務めているのが元tricotのスーパードラマーであるkomaki♂であるという布陣からもわかるように、バンドの演奏力とグルーヴは曲の持つポテンシャルをさらに引き出している。
MCではなぜか
「Mega君!ゲームやろう!」
とスタッフが言うと、初代ファミコンのテニスゲームに興じる2人。MVでもテニスがフィーチャー(かなりシュールな)されていたが、Mega Shinnosuke本人はサッカーボールを持っており、結局なんのスポーツが好きなのかわからないが、あまりスポーツというかアウトドアなイメージがないだけにこの曲がリリースされた時はかなり意外だった。アッパーなギターロックというサウンドの振り幅っぷりもさることながら、英語歌詞部分の発音の良さはどこで習得してきたものなんだろうか。
komaki♂がアウトロでドラムを連打すると、いつの間にかMega Shinnosukeがギターを持ってすぐさま「電車」を歌い始めるというライブならではの繋ぎのアレンジ。まだ数えられるくらいしかライブを行っていないながらもこうしたアレンジを施すことができるのは見事であるし、オルタナ、グランジと言えるような間奏のギターソロは物凄くカッコいい。
そんなカッコいい空気を一瞬にして変えるのは「憂鬱なラブソング」であるのだが、本人やメンバーは普通に演奏しているのに、なぜかステージには長髪の太った外国人男性が乱入。メンバーの側で踊りまくってはスタッフに連れ出されるのだが、曲終わりでその外国人がカメラに向かって
「良い曲だね!」
と言って締めるというわけわからなさ。
しかも次の瞬間にはMega Shinnosukeが犬を連れて散歩しながらのトークという意味不明な展開に。犬を連れているにもかかわらずMega Shinnosuke本人は猫派というのもまた意味不明である。
かと思えば次にステージに画面が切り替わると、Mega Shinnosukeによるギター弾き語りで始まる轟音バラード「本音」という、この男の持ち曲屈指の名曲に繋がるというあまりにも浮き沈みというか、波が激しすぎる展開。でもこれこそがMega Shinnosukeというアーティストのエンターテイメントの形なのかもしれない。現に彼は去年初めてライブを見た時から一貫して自由を謳歌しているミュージシャンの青年というような印象から変わっていない。とはいえこの曲の歌詞はどこか達観と客観と内省を全て抱えた、何にも考えないでやりたいことだけやっているというような人ではないんだな、と思わせるようなものであるのだが。
するとなぜか今度は何故かMega Shinnosukeのテレビショッピングというコーナーへ。海外のTVショッピングをそのまま模したものであるのだが、完全に新たな物販であるスウェットの紹介。付け髭までつけて怪しげなTVショッピングのナビゲーターを務めるというこの男に果たして「やらないこと」はあるのだろうかというくらいに面白いことをなんでもやるという感じだ。値段は5000円という特段安くはないものであるが。
で、それがただの合間の映像かと思っていたら、その格好とスタジオのセットでマイクを持って「Sweet Dream」を歌うという、このままこの曲のMVになっていてもいいんじゃないかという映像に繋がっていく。このセンスの高さからして、彼にはよっぽど優れたブレーンがついているのだろうか。
ライブハウスに画面が戻ると、歌詞の通りにファンキーなサウンドの「O.W.A.」を抜群のグルーヴで鳴らし、Mega Shinnosukeも衣装をGジャンにチェンジしているのだが、本来のライブハウスのステージにスクリーンが設置され、Mega Shinnosukeはその前に立ち、まるでMVの実写版のように映像の前に立って歌う。まさかここまで仕込んでくるとは。配信ライブに強いと言えるかもしれないが、これは今後に行われていくであろうこの男のライブにも間違いなく持ち込まれていく演出だろう。最後にはギタリストが床に倒れながらギターを弾きまくるという、もはやサポートという枠を超えた、このメンバーでMega Shinnosukeというバンドを作り出しているかのよう。
「ありがとう、最後に最高のロックンロールを」
と言って演奏されたのはシンプルなロックサウンド、でもメロディはやはりポップかつキャッチーな「明日もこの世は回るから」。その曲を最も生かすために必要なものはなんなのか。曲によっては映像や演出なのかもしれないが、この曲に関してはそうしたものは必要ない、ギターを弾きながら感情を込めて歌うMega Shinnosukeとバンドメンバー。それだけあればいい曲であるということがわかっている。その足し引きの感覚が本人もスタッフも本当に素晴らしいと思った。
演奏が終わると
「お疲れ様でした〜」
と言ってメンバーよりも先にステージを去って行ったMega Shinnosukeを他所に、メンバーたちはお互いを労うように肘を合わせてからステージを去って行った。その様はまさにバンドそのものだった。
その後はライブ中に使われた映像のメイキングシーンとともにメンバーやスタッフなどの名前が記載されたエンドロールが流れ、最後にはMega Shinnosukeによる手書きのメッセージが。それは歌詞に表れている言語感覚とは違う、
「元気で過ごしましょう!」
というストレートに視聴者の健康と、その先に待っているはずのライブでの再会を願うものになっていた。その日が来る時が来るのなら、是非目撃したい。
正直、2ヶ月前にBAYCAMPでライブを見た時はまだまだ本人にライブの経験値が足りないな、と思ってしまった。それはあのフェスが常にライブをやって生きているバンドたちが集まるフェスだからということもあっただろうけれど、あれからもライブができない状況が続いているというのに、Mega Shinnosukeは明らかに進化を果たしていた。何というか、歌っている姿があの時よりもはるかに堂々としていて、自分の音楽を鳴らすことの自信を感じられたのだ。
自分はライブを始めた当時の米津玄師のように、まだまだこれからライブを重ねていって経験を積んでいくことでさらにライブアーティストに成長していくと思っていたのだが、どうやらMega Shinnosukeは早くも自分だけのライブのやり方を見つけたようだ。
しかし、Mega Shinnosukeを始めとしたこうしたセンスを持ちながら1番成長、進化できる年齢にいるアーティストたちがライブをすることができない。そんなあまりにももったいない世の中であることが本当に悔しい。明日、この世がコロナがない世界に回ったりしてくれないだろうか。
1.Japan
2.桃源郷とタクシー
3.Midnight Routine
4.blue men.
5.Sports
6.電車
7.憂鬱なラブソング
8.Sweet Dream
9.O.W.A.
10.明日もこの世は回るから
文 ソノダマン