最終日。大晦日にもかかわらず最高気温が20°C超えという天気に。2019年137本目のライブにしてライブ納めかつライブ始めになる日。
15:15〜 クリープハイプ [EARTH STAGE]
2019年は写真週刊誌に載ったりしたことをロッキンオン社長の渋谷陽一に
「公私ともに話題を振りまいてくれた」
といじられたクリープハイプがこの日のEARTHのトップバッター。
SEもなしにメンバー4人がステージに現れると、月初のREDLINEに出演した時に金髪になって観客を驚かせた尾崎世界観(ボーカル&ギター)が、
「朝からエゴサしてたら「クリープハイプと感覚ピエロ迷う〜」って言ってる人がいて、こっちは感覚じゃなくて本格でエロやってんだ!」
と挑発的な言葉からいきなり長谷川カオナシがステージ前に出てきてイントロのベースを弾く「HE IS MINE」でスタート。トップバッターとはいえもう15時だが早くも
「セックスしよう!」
の大合唱が響く。
さらに尾崎と小川幸慈のギターのサウンドが会場を揺らす「鬼」、
「1人火ダルマ状態をご覧ください」
と毎回前口上を変えているのが実に見事なカオナシメインボーカルの「火まつり」、季節外れに
「夏のせい 夏のせい」
という歌詞の「ラブホテル」では最後のサビ前のブレイクでいつにも増して真面目なことを言って拍手を促すと、
「そうやって真面目なことを言ってしまうのも…」
とそんなことも冬なのに夏のせいにしてみせる。
ライブならではのイントロのアレンジや同期の華やかなサウンドが曲のポップさをさらに引き出す「イト」からの「イノチミジカシコイセヨオトメ」では
「生まれ変わったら何になろうかな」
というフレーズの後に
「生まれ変わってもクリープハイプをやりたい」
とそのプライドを感じさせる。2019年は様々な夏フェスあたりからこうして歌詞を変えるようになったが、その確信を持つことができた1年になったはずだ。
フェスで聴くのは久しぶりな感じがする「エロ」から配信リリースされたばかりの最新曲「愛す」(ブス)では小川のギターも普段は使わないもの(エレアコ?)に変わる、完全にR&Bに振り切った曲。しかし歌詞は完全にクリープハイプというか、よくこんな歌詞が書けるよなぁと毎回感心してしまうし、それがサウンドがいくら変わってもクリープハイプの曲たらしめている要素なのかもしれない。
「前に進め 前に進め 不規則な生活リズムで」
という歌詞が決してアッパーではない、むしろ聴き入るような曲調であっても新しい年を迎える我々の足を確実に前に進めてくれる「二十九、三十」から最後は華やかに散るための「栞」。少し特殊な生まれ方をした曲ではあるが、それも今ではクリープハイプとしての新しい代表曲であり名曲になっている。2019年はいろんな場所で最後に演奏していた曲であるが、ライブで聴くたびにそれを実感することができる。
2019年、尾崎は「イノチミジカシコイセヨオトメ」の歌詞を変えて歌う部分からして、何か新しいバンドにとっての確信を得たようだ。だからバンドのイメージを変えるような曲を作ることもできるし、各地のライブで気合いを感じさせる音やパフォーマンスを見せてくれた。2019年最後のライブはその極みのような気合いの入ったライブとなった。
1.HE IS MINE
2.鬼
3.火まつり
4.ラブホテル
5.イト
6.イノチミジカシコイセヨオトメ
7.エロ
8.愛す
9.二十九、三十
10.栞
16:35〜 the HIATUS [EARTH STAGE]
例年、細美武士はMONOEYESでも出演していたが、今回はthe HIATUSのみでの出演。ロッキンでは主催者に無理を言っての夜のSOUND OF FORESTへの出演となったが、今回はやはりメインであるEARTH STAGEへの出演。
前年の出演からロッキンにかけては完全にバンドの新モードというか2019年リリースのアルバム「Our Secret Spot」の曲やそのアルバムの収録曲と並べるような2018年の「Monochrome Film Tour」のモードで挑んだために「初見殺しのセトリ」と言われていたが、この日はバンドメンバーたちの激しい音がぶつかり合いながら一つの大きな塊として混ざり合っていく「The Flare」から「The Ivy」という曲でスタートしたあたり、アルバムのツアーも終えたことによってそのモードも少し変わってきているようだ。
「Thirst」では細美が飛び跳ねながら歌うと、「Hunger」からは2019年に獲得した「Our Secret Spot」のモードへ。こうして何万人もの人が一緒にライブを見ていても1人の心の深い部分に向き合うことになる「Regrets」、細美が手を叩きながら歌う華やかかつポップな「Firefly / Life in Technicolor」では曲の締めで伊澤一葉のキーボードと柏倉隆史(ドラム)、ウエノコウジ(ベース)のリズムが少しズレてしまうが、それすらも今のメンバーは「楽しいこと」としてミスったというのではなく笑い合えるようになっている。だから見ている側もミスって残念、というような気分にはならない。むしろその日限りのライブを見れたかのような。
「Silence」という「フェスでこの曲やるのか!」と思うような曲すらも今のこのバンドではできる状態にあるのだが、31日の出演だからこそこの日のライブを忘年会のように捉えながらも、
「今年最後のライブがthe HIATUSで良かった」
と、かつてだったら言えなかったようなことも今なら言えるようになっている。だから「Lone Train Running」からのラストスパートは本当にこちらも楽しいと感じられるようなものだったし、「Insomnia」でも曲の最後で少し演奏がズレる部分があったのだが、やはりそれも笑い合える要素になっている。
「Save me」
と細美の切実な思いを吐き出したこの曲でそう感じられるような日が来るなんて。
そして最後はアッパーな「紺碧の夜に」という最新の形とこれまでのthe HIATUSが混ざり合った、バンドの持ち得るものを全て見せるようなライブになった。
かつてのこのバンドのライブはどこか独特な緊張感を感じたり、細美がフェスのルールに言及するような場面もあった。でも今はステージにも客席にもひたすら笑顔が溢れている。10周年イヤーの最後のライブをこうした形で終わることができて、そんなバンドの姿を見ていることができる。ELLEGARDENも復活したけれど、これからもこのバンドが変化・進化していく様をずっと見ていたいと思う。
リハ.Radio
リハ.Servant
リハ.Silver Birch
1.The Flare
2.The Ivy
3.Thirst
4.Hunger
5.Regrets
6.Firefly / Life in Technicolor
7.Silence
8.Lone Train Running
9.Insomnia
10.紺碧の夜に
17:55〜 フレデリック [EARTH STAGE]
2年連続でのEARTH STAGE出演となる、フレデリック。2019年は夏のROCK IN JAPAN FES.でもメインステージであるGRASS STAGEに出演したことによって、名実ともにロッキンオンのフェスを代表する存在になった。
リハから「リピートします」と言って「リリリピート」を連続で演奏したりとフレデリックらしさを発揮する中、髪を短くして髭が濃くなってワイルドになった赤頭隆児(ギター)が目を引く4人がステージに登場。
すると三原健司(ボーカル&ギター)がハンドマイクを持ってステージを左右に動きながら歌う「飄々とエモーション」でその歌声をEARTHいっぱいに響かせる。コーラス部分では大合唱が起こり、早くもクライマックスのような雰囲気すら漂う。
続く「シンセンス」でも健司はハンドマイクでボーカルに専念し、COSMO STAGEで初出演して以来、狂騒的なダンスロックでEARTH STAGEまで到達したフレデリックだが、もはやそれだけのバンドではないというのが実によくわかるし、それはこの健司のボーカルが持つスケールの大きさあってこそということがよくわかる。
「僕らの音楽に逃げ込んできてください」
と言っての「逃避行」は2019年2月にリリースされた「フレデリズム2」の中でもギターロック要素の強い曲であり、ゆらゆらと体を揺らすような「ナイトステップ」、フレデリックのシュールな部分を強く感じさせる「真っ赤なCAR」とバンドの持つあらゆる要素を詰め込んでいる。
そんな中にあって高橋武の遊びと手数を増したドラムが音源とは違う表情を見せ、それはそのまま曲と曲の繋ぎのスムーズさ、ライブそのもののテンポの良さにつながっているが、10月にリリースされた最新作からの「イマジネーション」はハンドマイクで歌いながら
「音楽が大好きな人!」
「俺は音楽の力を信じている!」
という言葉を観客に投げかけることによってどんどん合唱が大きくなっていく。ロッキンの時には新曲として演奏されていたが、半年足らずでこんなにも成長する曲になるとは。そしてそれは間違いなく年明けに控えるアリーナワンマンを見据えての進化だろう。
遊び切ってから帰るための「KITAKU BEATS」からは三原康司のベースも含めてバンドのグルーヴがさらに疾走感を増す中で「オンリーワンダー」と終盤はさらにアッパーに突き抜けていくと、ライブならではのイントロが追加されて演奏されたのはやはり「オドループ」。健司はインタビューにおいて
「「オドループ」をやらなくても成立するライブを」
と語っていたし、それはバンドが1段階上に行くために間違いなく必要なものであるが、このEARTH STAGEいっぱいの人が一心不乱に踊りまくる姿は本当に圧巻だったし、健司がこのフェス初出演時に
「この曲をEARTH STAGEまで連れて行く」
と言ったことの有言実行だ。だからこそこの曲もより躍動感を感じさせるものになっていた。このステージで鳴ることを喜んでいるかのような。観客の手拍子が響く部分ではバンドも演奏を止めてその音に酔いしれ、赤頭は間奏時に健司の隣に立ってカメラ目線をしてからギターソロを披露した。その姿にはどこかもはやこのステージに立つバンドとしての貫禄すら感じさせた。
2月にはこのバンドにとって最大の挑戦となる横浜アリーナワンマンが控える。ただひたすらに誰かではなくて音楽へのラブソングを歌ってきたフレデリック初の関東でのアリーナワンマン。それはきっと音楽との交歓を感じられる一夜になるはず。大きなワンマンが控えているとフェスには出ないという選択をするバンドも多いけれど、このライブを見たら絶対ワンマンも見たくなる。こうしてワンマンやツアーを回りながらも欠かさずにフェスに出るこのバンドの姿勢は間違っていない。
リハ.リリリピート
リハ.リリリピート
1.飄々とエモーション
2.シンセンス
3.逃避行
4.ナイトステップ
5.真っ赤なCAR
6.イマジネーション
7.KITAKU BEATS
8.オンリーワンダー
9.オドループ
19:35〜 秋山黄色 [MOON STAGE]
2019年の個人的新人王アーティストである、秋山黄色。夏のロッキンも経てこのCOUNTDOWN JAPANにも初出演。
サウンドチェックの時点でメンバーが本番でも演奏する曲の感触を確かめるように演奏すると、前日はamazarashiでも出演した井手上誠(ギター)、Shnkuti(ベース)、片山タカズミ(ドラム)というサポートメンバーに続いて髪がまた少し伸びた感がある金髪の秋山黄色が登場すると、メンバー全員で向かい合ってタイミングを合わせるように音を鳴らす「猿上がりシティーポップ」からスタート。こうしてバンドでライブをやるのは年内最後ということで秋山の時折叫ぶようにするボーカルも気合いに満ち溢れている。
「薄暗い部屋 今日も一人」
と自身の鬱屈した暗い過去を描いた「クラッカー・シャドー」もそうした日々が全てこのステージに繋がっていることを感じさせる。
ロッキンの時と同様に相変わらず曲間で鼻をかんだりするマイペースっぷりには持ち時間をオーバーしないかハラハラしてしまうけれど、アコースティックな音も取り入れた「夕暮れに映して」も情感をたっぷり込めながらもやはりこれまでのこの男の人生そのものが音となり曲になっているということを感じさせると、歌い出しからキーを高くして歌い始めた「とうこうのはて」では間奏部分で
「有限の青春から音と楽だけ盗み出した」
というフレーズに自ら
「なんで盗み出す必要があるんでしょうね?」
とギターを下ろして言及し始めると、
「俺はただ音楽をやりたいだけだった。でも地元のクソみたいな奴ら、忘れられない教師。俺が音楽をやることを邪魔した奴らにもこの景色を見せてやりたい!」
と抱えてきた思いをぶちまけるようにして最後のサビの大合唱を招く。2019年2月にに初めてライブを見てから何度となくこの男のライブの中でも間違いなく1番のハイライトだったし、この4日間のCDJの中でも個人的なハイライトの瞬間だったかもしれない。
ちなみに日によって歌詞が変わるこの日の
「コンビニで安酒買えそう」
の部分は
「氷結とかほろ酔いとかのなんかしらの酒」
になって歌われていた。
次にこのステージに控える横浜銀蠅のTシャツを着た大先輩的な年齢の方すらも飛び跳ねながら一緒に歌っていて、この男の音楽はそうした方々にもちゃんと届いているんだなと思った。それはNHKの尾崎豊のトリビュート的な番組で「シェリー」を自分のものにするようなカバーを披露した時にも証明したことでもあるけれど。
客席ではタオルが振り回される(しかも秋山黄色の物販のタオルを回している人の多いこと)、ヤケクソ感すら感じる逆噴射型パンクナンバー「クソフラペチーノ」と2019年にリリースしてきた曲たちの集大成的なセトリの最後に
「初めて見てくれた人も、ようやく見てくれた人も、いつも見に来てくれている人も本当にありがとう!よいお年を!」
とデビューしてからこのフェスまで怒涛の日々となった2019年の演奏されたのは、同じく2019年に復活したNUMBER GIRLの影響を強く感じさせる、秋山黄色というアーティストの登場を告げた重いリフを主体にした「やさぐれカイドー」。感情を爆発させるように叫ぶようにして歌う箇所が多かった姿は、この男がライブでこそ自身の持っているものをさらけ出せる、つまりライブでより真価を発揮するアーティストであるということを示していた。やはり走って逃げるようにステージから去っていくというのは時間ギリギリだったロッキンと同様。
2019年の自分にとっての最も大きなエポックメイキングな出来事はこの秋山黄色というアーティストに出会えたことだった。O-Crestなどの小さいライブハウスで見ることができた1年は、2020年以降にさらに大きな会場でライブをする姿を見る時にきっと感慨を感じるようになるはず。
もう一度どこかで会えたらいいなって、きっと今年の年末はもっと凄い景色が見えるステージで会える。
リハ.とうこうのはて
リハ.夕暮れに映して
リハ.クラッカー・シャドー
1.猿上がりシティーポップ
2.クラッカー・シャドー
3.夕暮れに映して
4.とうこうのはて
5.クソフラペチーノ
6.やさぐれカイドー
20:20〜 CAPSULE / 中田ヤスタカ [ASTRO ARENA]
ASTRO ARENAのステージには巨大なDJブースがそびえている。ゲストDJも多数出演するステージとはいえバンドの出演がメインとなってきているステージでもあるのだが、CAPSULEが出演するとなるとこのステージがかつてのDJ BOOTHであるかのように感じる。
その巨大DJブースはそのままLEDビジョンも兼ねており、そこに映像が映し出されると中田ヤスタカもブースに登場してバキバキのエレクトロサウンドが流れ始め、名義的にはCAPSULEと中田ヤスタカの連名ではあるのだが、黒いセクシーな衣装を着たこしじまとしこも早くもグループのフラッグを持って登場。
よって最初からこしじまが歌う「MORE! MORE! MORE!」からスタートするのだが、全曲CAPSULEのキラーチューンばかり。それは10年以上前にリリースされた曲であり、サウンドやリズムの流行の移り変わりが早いダンスミュージックにあってもCAPSULEのサウンドが全く古びていないのはそもそもの曲のクオリティの高さもあるだろうけれど、中田ヤスタカの曲の繋ぎなどのアレンジによる部分も大きいだろう。
なのでひたすらノンストップのダンスフロアとなり、こしじまが煽りながら客席は踊りまくる。インスト曲の「World of Fantasy」も含めてみんなが音にダイレクトに反応して踊っているかのような。
夏のロッキンのLAKE STAGEのトリの際にはこしじま以外にも様々なボーカリストが出演していたが、そうしたライブの内容は完全にフェス側も中田ヤスタカに一任しているのだろう。
しかしながら今回はまだASTRO ARENAがDJブースだった時代からこのフェスを支え続けてきたCAPSULEの強さと革新性を改めて感じさせるようなものになった。
そしてバンドマン界隈では年齢を重ねても若さを失わないというか、見た目が変わらない人もたくさんいるのだが、中田ヤスタカもこしじまとしこもとっくに30歳を超えているのに全く見た目が変わらないあたり、バンドマンでなくとも最前線で戦っているミュージシャンは若く見え続けるということだろうか。
1.MORE! MORE! MORE!
2.Starry Sky
3.JUMPER
4.World of Fantasy
5.FLASH BACK
21:05〜 teto [COSMO STAGE]
3年連続出演となる、teto。昨年のライブ時には小池貞利(ボーカル&ギター)に指を差されていじられたことも良い思い出。
メンバー全員が登場してのサウンドチェックはもはやリハという範疇ですらないというか、余分に曲を演奏していい時間として捉えているとしか思えないくらいに小池はマイクスタンドを振り回し、山崎陸(ギター)も佐藤健一郎(ベース)も福田裕介(ドラム)を音を確かめるという意識は全くないだろう。ただステージに立っている以上はひたすらに自分たちらしく音を鳴らして演奏するだけというか。
だから「9月になること」も「Pain Pain Pain」も「リハでやったから本編で聴けなかった」という感じは全くない。むしろこうして聴けて良かったというような感じしかない。
本編では久しぶりにNirvanaの「Sliver」のSEでオルタナ魂を感じさせながらメンバーが登場すると、「高層ビルと人工衛星」からスタートし、2019年にリリースしたフルアルバム「超現実至上主義宣言」収録の「蜩」、さらに「拝啓」ともう落ち着いてマイクスタンドの前に立って歌うことが全くできない小池はステージから落ちそうになったり、あるいは佐藤のマイクスタンドで歌ったりと、自身の中にある衝動を全てこのステージで爆発させているかのよう。それでも普段のライブのように客席に飛び込んだりしないあたりは少し安心するというか、ちゃんとフェスのルールを守っているが故にこれからもこのフェスで見ることができるんだなと思えるというか。
「僕の地元は風俗とかないような、夜になると真っ暗になるような街なんですけど、東京に来てから「お兄さん、おっぱいどうですか?」って黒いスーツを着た人に声をかけられたりするわけですよ。断っちゃうんですけど、そうやってみんな生きるために必死なんだろうなって。その黒いスーツを着てる人も家に帰れば家族がいたりして。僕はそういう人に向けて歌いたいというか。
今年の紅白歌合戦のテーマが「すべての歌は応援歌だ」らしいですが、2019年現在、tetoには応援歌はありません!でも自分が好き勝手やった結果として誰かの背中を押すことになっていればと思います!」
と言って小池がアコギに持ち替えて演奏されたのは「忘れた」。応援歌ではなくてもtetoがこうして衝動を炸裂させるようなライブを見せてくれることで、自分の中にあるそうした感情も浄化されていくというか。だから自分も結果としてtetoの音楽に背中を押されているんだと思う。
そして
「CDJ、出るのは3回目だけど、大晦日に出るのは初めてです。終わることばっかりだから終わらないことを歌うんだよ!」
と言ってこのバンドが2019年の最後に演奏することに選んだのは
「きっともう一度だけ僕等も新しい時間があるのさ」
というフレーズでサビが締められる「夢見心地で」。僕らにも新しい時間がある。2020年代がやってくることに期待を持ちたくなるような、肯定的に捉えられるような2019年のtetoにとってのラストライブだった。去り際に山崎は思いっきり水を被りながらステージを歩いていた。
リハ.9月になること
リハ.Pain Pain Pain
1.高層ビルと人工衛星
2.蜩
3.拝啓
4.忘れた
5.夢見心地で
22:05〜 コレサワ [COSMO STAGE]
アー写がクマのイラストということで実際にライブを見てみないとどんな人かわからないというミステリアスさを持ったシンガーソングライター、コレサワ。この日出演したクリープハイプの尾崎世界観の弾き語りイベントなどにも出演して徐々に知名度が上がってきているだけに、COSMO STAGEはほぼほぼ満員になっている。
ギター、ベース、ドラム、キーボードと全員が女性のバンドを従えてピンクのドレス的な衣装をヒラヒラさせるコレサワが登場し、ハンドマイクを持って歌う「センチメンタルに刺された」からスタート。スクリーンにはバンドメンバーの顔は映るけれど、コレサワの顔は映らないために近くまでいかないと顔をしっかりとは把握できないのだが、何というか至って普通の顔というか。それだけに顔を出さないというのはかつてのBEAT CRUSADERSのように自分なりの信念のようなものがあるからなのだろう。
出で立ちとともに気になるのがその独特の視点で切り取ったフレーズが連なる歌詞であるが、
「あたしの好きなバンドはなぜかちっともちっとも売れない
君の好きなバンドはどれもすっごくすっごく売れてる」
という歌詞が世の中のインディーズ好きの女子たちの共感を呼ぶであろう「君のバンド」のフレーズを男子、女子、さらには共感を覚えてはいないであろうおっさんのみに合唱させるというのも面白いが、おっさんの合唱が非常に大きく聞こえるというのはファン層を表しているとも思うし、コレサワが客席にいる人たちの顔をよく見ているということである。
そうした合唱の手法や歌声からしても自分はどうしても大森靖子が頭をよぎってしまうのだが、やはりコレサワをコレサワたらしめているのはやはり歌詞。男女の切ないすれ違いの景色を切り取った「たばこ」はその最たるものであるが、やはり自分は歌詞を面白いし凄いなと思えども、女性視点(一人称的に男性視点の曲もあるのかもしれないけれど)のラブソングや失恋ソングに共感したり、涙を流したりすることはできない。それはそういう人生を歩んできていないからであるが、共感したり涙を流す人がいるだろうということは理解できる。
そして最後の
「すべての元カレに捧げる曲!」
と言って演奏された「SSW」も含めて、バンドの演奏とグルーヴまでも合わせてコレサワのライブになっている。名義こそソロであるが、完全にバンドとしてのライブを見ていた。楽しかったことも悔しかったことも、このメンバーでいろんな経験を積んできたんだろうな。
1.センチメンタルに刺された
2.あたしを彼女にしたいなら
3.君のバンド
4.シンデレラ
5.たばこ
6.SSW
22:35〜 POLYSICS [MOON STAGE]
2019年の年越し直前アクトにして、毎年このスロットである「他の出演者とほとんど被ってないアクト」は今回はこのフェスに全て出演している皆勤賞バンド、POLYSICSである。
黄色いツナギを着た4人がステージに現れると、最初はSEとして流れていた10月リリースの最新アルバム「In The Sync」のオープニング曲である「Broken Mac」をバンドに切り替えて演奏し、そのままハヤシヒロユキ(ボーカル&ギター)が独特の振り付けで踊り、それが客席にも広がっていく「Digital Coffee」へ。
おなじみ「トイス!」の挨拶の後には「In The Sync」から「Piko」「Kami-Saba」と新曲を連発。これが実にハヤシらしいというか、インタビューでも最初はポップなものを作ってみては?とスタッフに言われたものの、完全に煮詰まってしまい、結果的に好き勝手にシンセを触りまくっていたらスランプから抜け出して曲になったという成り立ちも含めて自分たち(というかハヤシ)がやりたいことしかやっていない。
でもそれこそがPOLYSICSであるというか、「ウルトラ怪獣」をテーマにアルバムを1枚作ってしまったこともあるこのバンドらしさなのである。だから20周年を超えても攻め続けることしかできないのだ。
しかしここに来てバンドは新たな岐路に立たされている。前作「That’s Fantastic!」のレコーディングから加入した、ナカムラリョウ(ギター&シンセ)が2020年のツアーをもって脱退することが発表されたからである。つまりフェスという場でこの編成でのライブが見れるのはこの日が最後である。
ナカムラが加入して以降、ギターを弾くメンバーが増えたことによってライブにロック感が増した。それはこの日も大合唱て手拍子とジャンプを巻き起こした「Let’s ダバダバ」以降の代表曲連発の流れからも感じるものであったが、最後にハヤシがトレードマークのバイザーを外して頭を振りながらギターを弾き、「Sun Electric」で通常のマイクとヴォコーダーを通したマイクを使い分けながら歌う姿を見て、これからもPOLYSICSは絶対に大丈夫だと思った。
夏のロッキンのLAKE STAGEではかなり厳しい動員であったが、この日完全にMOON STAGEを満員にしていた客席の姿はこの編成での活動が終わってしまうのを惜しむとともに、このバンドの未来に期待を抱いているようだった。
そもそもPOLYSICSはカヨが脱退してからずっと3人で活動を続けていて、それが当たり前になったタイミングでナカムラリョウが加入した。誰もが「今になってメンバー入るの!?」と驚いたし、それは1ミリも守りに入ることなく、もっと面白いことを、もっと新しいことを求め続けてきたこのバンドの姿勢そのものだった。思えばヤノが入った時だってそうだった。何度となく危機を迎えながらも、このフェスに初回から今に至るまで、夏のロッキンも第二回開催から今に至るまでずっとステージに立ち続けてきたバンドなのだ。かつてGRASS STAGEのトップバッターとしてロッキンに出演した際(カヨが脱退した後の最初のライブだった)、
「僕らのフェスの顔、POLYSICS!」
と渋谷陽一は紹介した。出るステージが小さくなっても、ロッキンオンのフェスの歴史を作り、今でも支え続けているのはずっと変わらない。そうした感傷的なことは一切口にしないバンドだけれど、音やパフォーマンスからはそれが滲み出ている。
1.Broken Mac
2.Digital Coffee
3.Piko
4.Kami-Saba
5.Let’s ダバダバ
6.Young OH! OH!
7.シーラカンス イズ アンドロイド
8.Sun Electric
23:30〜 キュウソネコカミ [EARTH STAGE]
いよいよ各ステージでは年越しを担うアクトの時間に。メインステージであるEARTH STAGEの年越しを担うのはキュウソネコカミ。もはやEARTHおなじみとなったバンドであるが、このバンドがネズミ年に突入する瞬間を任されたのである。
サウンドチェックでステージに現れたメンバーたちが「良いDJ」を演奏すると、一旦捌ける際にヤマサキセイヤ(ボーカル&ギター)が
「年越し失敗したら笑ってや(笑)普通に演奏してるときにカウントが0になる、みたいな。それは四星球しか許されん(笑)」
と昨年MOON STAGEで年越しを務めた四星球のステージを例に出しながら笑わせると、本番ではメンバーが登場するより前にスクリーンにマスコットキャラのネズミ君やアー写のメンバーのイラストの映像が映る。前年の年越しを務めたサンボマスターの時も山口隆の煽り映像が使われていたが、キュウソはメンバーもスタッフも、さらにはフェスのスタッフも含めて忙しい中で本当に入念な準備をしてきて臨んでいるんだろうなということがよくわかる。
その映像はメンバーが登場してライブが始まってもいかんなく使用される。「ビビった」でアッパーにスタートすると、サウンドも歌詞もクセになる「メンヘラちゃん」、歌詞が映し出されるのが曲の特殊さ(こんな歌詞を書く人は他にいない)を強く伝える役割を担う「KENKO不KENKO」、iPhoneの着信音をヨコタシンノスケのシンセの音が鳴らすと大歓声が起きた「ファントムバイブレーション」と続くとセイヤは
「2020年がネズミ年やからキュウソが年越しになったんやろ、って言われることもあったけど、それだけではこのステージの年越しはできないだろう。みんなが連れてきてくれたんやで」
と11月の新木場STUDIO COASTでの対バンツアー(対バンはマカロニえんぴつ)の際にも言ったファンへの感謝を今本当に年越しを務めるステージに立った感慨を感じさせながら語る。
これはその新木場の時のレポでも書いたことであるが、自分は毎回ツアーに参加しているファンであるけれども、キュウソを連れてきたという意識は全くない。キュウソというバンドがあまりに凄すぎるから、それに必死に着いてきたという感じだった。それでもメンバーがこうして「連れてきてくれた」と言ってくれるのならば、一緒にここまで来ることができたんだな、と思うことができる。
「DQNなりたい、40代で死にたい」ではダイブ禁止のフェスなだけに客席に突入したりはしないけれど、その代わりに「ヤンキー怖い」コールの時に世界中のあらゆる言語での「ヤンキー怖い」がスクリーンに映る。絶対にヤンキーという文化がないであろう国の方々がそれぞれの国の景色を背景に「ヤンキー怖い」の口の動きをしているのは実にシュールである。
しかしEARTH STAGEは完全に満員、年越し前のテンションの高さからか、合唱の声も実に大きく、観客のコーラスを聞いたセイヤはそのあまりの声量の大きさに驚き、メンバーに
「お前らもイヤモニ外してみ!エグいで!」
とその歓声を存分に堪能していた。
そうして演出満載の中でいよいよ年越しの瞬間が迫ってくる。紛れもなく2010年代を生きてきたバンドであるキュウソが2010年代の最後に演奏することを選んだのは「ハッピーポンコツ」。キュウソのライブにおけるテーマソングと言ってもいい曲であるが、そうしたポンコツな人たちに支えられてキュウソはこの錚々たるアーティストたちが務めてきたEARTH STAGEの年越しという位置を担うバンドになった。そういう意味でも実にキュウソらしい選曲であった。ヨコタが曲中のカウントを自身のマイクをソゴウタイスケ(ドラム)に向けてカウントさせたり、サビ前にカワクボタクロウ(ベース)がポーズを決めたりするメンバー同士の微笑ましいやり取りも含めて。
そして60秒前になるとカウントダウンが始まる。毎年そうだが観客のカウントがやや走ったりする中で0を迎えると金テープが客席に発射される。そんな新しい年、新しい年代を迎えた祝祭感の中で演奏されたのは歌詞を「yeah」に変え、スクリーンにも新年バージョンのバンドのアー写などが映し出されるというこの日限りであろう形で演奏された「家」。スタッフもメンバーもこのライブ前に
「任されたからにはキュウソなりの年越しをやります」
と宣言していたが、やはりこのバンドの発想力は並大抵のものではなかったと改めて感心してしまう。
年越しをしたということは時間はもう深夜ということで、観客の目を覚ますために演奏された「MEGA SHAKE IT!!」から、こうしてキュウソという推しのバンドで年越しができるという尊さを
「わっしょい わっしょい」
のフレーズの大合唱が感じさせてくれる「推しのいる生活」と年越しアクトだからこその持ち時間の長さによってまだまだ曲が続く中でセイヤは、
「周りのバンド、後輩も先輩たちも「武道館でやりたい」とか「あのステージに立ちたい」とかって夢を言ってるのを見ても、俺は言えなかった。叶わなくてバカにされるんじゃないかってビビってたから。でも、このステージで年越しができた今なら言える。
俺の夢はキュウソネコカミを一生続けることです」
と、その覚悟を口にする。確かに、キュウソはバンドとして明確な夢を口にしていなかった。「来年は大きいステージで」とフェスで口にすることはあったが、それは夢ではなくて次の目標だった。だからこそこうして夢を語る姿は本当にウルッとしてしまったし、その言葉の後に新曲の「冷めない夢」を演奏している際に、スクリーンにRO JACKに応募した時からこのフェスのMOON STAGEに初出演した時、ロッキンのまだ小さかったPARK STAGEに初出演した時…ロッキン、CDJ、JAPAN JAMというロッキンオンの主催するフェスに出演してきたすべての映像が順番に映し出されていく。誰も客がいないライブハウスで撮った映像からどんどん、でも確実に1つずつステージを大きくしてきた軌跡。
「夢」を語った後にこの映像を見て泣くなという方が無理な話だ。自分もこの映像に映し出されたライブをほぼすべてこの目で見てきたから。とはいえJAPAN JAM BEACHでセイヤがT.M.Revolutionの「HOT LIMIT」のMVの衣装を着ていた姿は泣きながらも笑えてしまうけれど。
2019年のロッキンでGRASS STAGEの大トリを務めたDragon Ashが登場前に2000年から2018年までの全ての年のライブ映像が流れるという演出を使っていたが、基本的にロッキンオンはフェスでこうしたことはほとんどやらない。でもこの日のキュウソのライブではそれを上回るレベルの演出を使った。
それはこの日の朝礼で渋谷陽一が紹介していた映像作家の力によるものもあっただろうけれど、ロッキンオンのスタッフたちもずっと自分たちのフェスに出続けてきてくれたキュウソの姿を見てきた。だからこそこうして出来る限り最高にして最大の映像を作ってキュウソのライブに挑んだのだ。それくらいに今のキュウソはロッキンオンにフェスを託されている。
そんな感動的なら瞬間の後であっても自分たちの変わらぬ姿勢を打ち出す「5RATS」、スクリーンに歌詞が映し出されて令和バージョンとなった「ギリ昭和」、間奏部分でオカザワカズマがネズミくんギターに持ち替えると同時に、年越しバージョンということで王様のようなスタイルになったネズミくんも登場した「KMTR645」…特にリリースをしているわけでもないのに年中ツアーを回り、しかも猛者たちと対バンを繰り広げてきた、生粋のライブバンドであるだけにフェスにしてはかなりの長丁場の持ち時間であっても全く勢いが衰えることはない。むしろもっとたくさん曲を聴きたいというまるでこのバンドのワンマンに来ているかのような気にすらなる。
しかしそんなライブもいよいよ終わりが近づいてくる。ロックバンドであり続けてきたバンドのことをそのまま音と歌詞に託した「The band」では色とりどりの風船が客席に飛んでいって大団円…かと思いきや、
「持ち時間がまだあるからもう1曲!」
と言ってバンドの始まりの曲と言ってもいい「キュウソネコカミ」を演奏した。
「ロキノン系にはなれそうもない」
という歌詞があるこの曲がロキノンのフェスの象徴と言えるようなステージで鳴らされている。それはこのバンドが誰に何を言われようとも信じて進んできた道が正しかったことの何よりの証明だった。
本人たちも言っていた通り、センセーショナルなシーンへの登場の仕方とは裏腹に、キュウソは一歩ずつ確実に階段を上がってきたバンドである。だからこそロッキンのフェスでもCDJでEARTHに立ったにもかかわらずロッキンではPARK STAGEだった時には
「GRASSに行けなかったのが本当に悔しい!」
と正直にその思いを口にしていた。そういう姿を見てきたからこそこの日のライブは実に感慨深かったし、満たされることはないだろうけれど、そうした悔しい思いをしてきたこれまでが少しは報われたのかもしれないとも思った。かつてイベントホール2daysに挑んだ幕張メッセでのライブも決まった2020年の子年、このバンドがこのライブをきっかけにシーンの主役になる1年になるのだろうか。
リハ.良いDJ
1.ビビった
2.メンヘラちゃん
3.KENKO不KENKO
4.ファントムバイブレーション
5.DQNなりたい、40代で死にたい
6.ハッピーポンコツ
-カウントダウン-
7.家
8.MEGA SHAKE IT!!
9.推しのいる生活
10.冷めない夢
11.5RATS
12.ギリ昭和
13.KMTR645
14.The band
15.キュウソネコカミ
24:45〜 さユり [COSMO STAGE]
年越し後の喧騒の後のCOSMO STAGEに登場するのは、さユり。もちろんお互いに2020年初ライブとなる。
前年はステージに紗幕がかけられてそこに映像が投影されていたのだが、今回はそうした演出はなし。ロッキンのSOUND OF FORESTに出演した時の弾き語りでもなく、バックバンドを従えた編成。かつてのガスマスクバンドではなくて全員が素顔のままでステージに立っている。
ただ何よりも違うのは、さユりがトレードマークだったポンチョではなく白いワンピース的な衣装を着てステージに立っていること。再出発を図った証ということか。
年越し後の深夜という時間にもかかわらず次々と人がステージ内になだれ込んできてすぐに満員になる中で「平行線」を歌い始めてスタート。前年のこのステージではなかなか声が厳しい感じもあったが、ずいぶん声に伸びが戻ってきているような印象だ。
RADWIMPSの野田洋次郎が手掛けた「フラレガイガール」では「涙」というワードに呼応するかのように雨が降るかのような映像演出もあり、デビュー曲「ミカヅキ」とバンドサウンドで演奏することによって曲が持つ切なさのようなものが際立つ。
そうして代表曲の後に演奏されたのはリリースされたばかりの最新シングル「航海の唄」。2年前にリリースされたアルバムのタイトルも「ミカヅキの航海」というタイトルだっただけに紛れもなくその先を提示する曲になっている。人気アニメのタイアップや世界同時配信など、この曲で再びシーンに攻めていこうという意志を感じられる。
そんなライブの最後に演奏されたのは
「このCOUNTDOWN JAPANに初めて出た時に作った曲」
という「十億年」。前年にこのステージに出演した時も同じことを言ってこの曲を演奏していたが、こうして何年も演奏することによってそれは本当のことなんだとわかるし、そうした曲があるということは実に良いことだ。
こうして毎年このフェスで見れてこの曲が聴けると思えるし、さユり自身もこのフェスのことを特別なものと思ってくれているだろうから。
オリコンデイリーチャートで1位を記録した「ミカヅキの航海」からはや2年以上。それまでのリリースペースからするとかなり空いている。それは事務所からの離脱など、様々な要素があったと思われるが、これからパラレルシンガーではなくて、リアルなシンガーとしてのさユりの新たな挑戦が始まる。
1.平行線
2.フラレガイガール
3.ミカヅキ
4.航海の唄
5.十億年
25:15〜 LAMP IN TERREN [MOON STAGE]
かつてRO JACK枠で優勝してこのフェスのステージに出演してからデビューを果たした、LAMP IN TERREN。ロッキンオンのフェスでももはやおなじみの存在であるが、今回は年明け後のMOON STAGEに登場。
4人がステージに揃うと、松本大(ボーカル&ギター)の儚い声が響く「BABY STEP」からスタート。ラブシャでは松本が弾き語りで歌っていた曲であったが、こうしてバンドで演奏されることによって松本の歌からバンドの曲にイメージが変換されていく。それは音源で聴くだけではなくて目の前で歌っているライブだからこそ。
それが一気にハードな音像に変化する「ほむらの果て」では中原健仁(ベース)、川口大喜(ドラム)のリズム隊のサウンドが一気に力強く引っ張っていく。ストレートかつ繊細なギターロックバンドというパブリックイメージを覆すかのような。
「Water Lily」「ホワイトライクミー」というあたりは松本が弾き語りでも歌っていた曲であり、直近のタームの代表曲と言える曲たちであるが、過去の代表曲的な曲ではなくこうした曲を積極的にセトリに入れてくるというのは今のバンドが生み出している曲に自信を持っているからだろう。
松本がギターを下ろして指揮棒を振りながら歌う、ダンスミュージックの要素を取り入れた「地球儀」は大屋真太郎というギタリストがいるからこそだろう。年明け後だからこその幻想的な空気も感じさせてくれる。
すると松本がMCを始めるのだが、30分の持ち時間を35分だと間違えていたことによって中原からツッコミが入り、
「マジか、じゃあもう行かなくちゃ」
と早めながら、
「嫌われる覚悟ができた。でもそれでもいい。こっちから追いかけていくから。俺は…愛されたいんです」
と核心だけを話したのだが、それはまだ現状に全く満足できないということであろう。それはメンバーもそうだし、ずっと見ているファンの人たちもそう思っているはず。
そうして最後に演奏されたのは「ほむらの果て」同様に最新曲である「いつものこと」。淡々とした曲のように感じるが、それは人生そのものを描いた曲だからと言っていいだろう。
このフェスのオープニングアクトで見た時からもうかなりの年数が経っているが、実に幅広いというか様々な表情を見せてくれるバンドになったと思う。
そしてそんなバンドの姿を、同じ事務所の先輩であるTHE ORAL CIGARETTESの山中拓也とあきらかにあきらはずっと袖で座って見ていた。兄のようにじっと演奏している姿を見守る山中と、ファンのように腕を挙げたりして盛り上がったりしていた。きっと自分たちのいるくらいの場所まで早く上がってきて欲しいと思っているのだろう。自分たちの出番はとっくに終わっているのにずっと後輩の姿を見ている。本当に優しい人たちだと思う。
1.BABY STEP
2.ほむらの果て
3.Water Lily
4.ホワイトライクミー
5.地球儀
6.いつものこと
25:50〜 ずっと真夜中でいいのに。 [GALAXY STAGE]
昨年突如としてシーンに現れた、ACAね(ボーカル)を中心としたユニット、ずっと真夜中でいいのに。。すでに夏と秋のワンマンではそのあまりに凄まじいライブに圧倒されてきたが、それをついにフェスという今までライブを見たことがない人がたくさんいる場所で見せる時が来たのだ。
ワンマンとは違い、ステージには紗幕が張られてメンバーの姿はよく見えないようになっている。だからスクリーンにもメンバーの姿はハッキリとは映らない。さらにワンマンではOpen Reel Ensembleのメンバーを擁してもいるが、この日はギター、ベース、ドラム、キーボードという最小限編成。
ACAねの
「潜、潜、潜…(ひそ、ひそ、ひそ)」
という小さな声の後にすぐさまハミングするかのようにして始まったのは「勘が冴えて悔しいわ」。凄腕メンバーたちによるバンドのアッパーな演奏とともに放たれるリズミカルなACAねのボーカル。ACAねによる呪術的な非言語ボーカルから始まる「ヒューマノイド」と、フェスであってもそのライブの力は全く変わらない。深夜の時間帯とはいえGALAXY STAGEは超満員。普通の時間だったら入場規制がかかって入れないかもしれないくらいの状況である。
ACAねがいつものように歌声とは全く違うボソッとした喋り方で挨拶すると、紗幕越しにギターを弾きながら歌うポップな「脳裏上のクラッカー」から、ステージに置いてあるソファーに座りながら歌っているのがわかる「蹴っ飛ばした毛布」と、そもそもこういうフェスに出るのがフジロック以来なだけにどんな内容のセトリになるのかが予想できないところだったが、基本的にMVが公開されている曲ばかりという実にわかりやすい選曲に。ちなみにスクリーンにはなんのこっちゃわからないような映像が映し出されているのだが、それはメンバーたちがツアーを回ったりレコーディングをしている時のオフショット的な映像であるというのがけん玉をしたり(ワンマンではメンバーがけん玉をするシーンもある)という部分などからわかる。
Aメロとサビを別々に聴くと違う曲なんじゃないかと思うくらいに激しく展開する「マイノリティ脈絡」で改めて初めてライブを見る人たちにもずとまよのライブでの演奏の凄さを感じさせると、村山☆潤(FLOWER FLOWERでもこのフェスに出演)が調子はずれなピアニカでイントロと「お正月」っぽいフレーズを吹き、間奏でスクリーンに簡単なプロフィール(by ACAね)も映し出されるメンバー紹介も兼ねた「正義」ではACAねが思いっきり声を張り上げるように歌い、演奏だけではなくその声も含めてこのユニットがバケモノ的な技術とライブの地力を持った存在であるということがわかる。さすがにワンマンのようにACAねがステージを走り回るように歌ったり、メンバーがステージで踊りまくるというパフォーマンスこそなかったけれど。
そして最後に演奏されたのは村山☆潤のピアノの音が鳴っただけで歓声が上がった、このバンドの登場をシーンに知らしめた「秒針を噛む」。ワンマンで見せたような圧倒的なロングトーンのACAねの声の張り上げや大合唱こそなかったものの、秋ツアーのファイナルで「CDJでたくさんの人に衝撃を与えるはず」とレポに書いたのはやはり間違いではなかった。終わった後に客席はなかなか見ないくらいにざわついていたから。しかもこの完成度がこのユニットで本格的にライブを始めてからまだ1年だっていうんだから、ずとまよの怪物っぷりがよくわかるだろう。やはり衝撃的なロッキンオンのフェスデビューとなった。もしかしたら今年の年末はEARTH STAGEで会えるのかもしれない。
しかしこうしてフェスでステージに紗幕を張っていたのは、顔出しをしていないということを知らない人が写真を撮ったりすることを懸念した防止策的な面もあるだろう。(フジロックでも紗幕を張っていたと聞く)
それは裏返せば紗幕を張らないワンマンでは来てくれる観客のことを心から信頼しているということでもあるが、その方式でないとフェスには出れないのなら、amazarashiのようにロッキンオンのフェスに出るのはCDJだけになるのかもしれない。ロッキンやJAPAN JAMはトリ以外の時間帯で紗幕を張るには明るすぎるから。(そもそも次の幕張メッセでのワンマン2daysはJAPAN JAMの開催日と丸かぶりしているけれど)
1.勘が冴えて悔しいわ
2.ヒューマノイド
3.脳裏上のクラッカー
4.蹴っ飛ばした毛布
5.マイノリティ脈絡
6.正義
7.秒針を噛む
27:00〜 androp [GALAXY STAGE]
深夜3時。いくら年越しの狂騒のテンションであろうと、この時間になると飲食ブースやステージの最後方エリアには脱落者が出てくる。力尽きて寝てしまっているような人たちが。それはもう時間的に仕方がないことだとも言えるが、熱いライブはまだまだ続く。
GALAXY STAGEにはもはやこのステージの番人と言っていいandropが登場。前年もこの年越し後の深夜という時間帯の出演だった。確かにロッキンをはじめとして各地の野外フェスでも何度となく夜の時間帯を任されてきて、その時間との親和性を証明しているバンドであるが。
実はバンドでのライブを見るのは久しぶり(内澤崇仁(ボーカル&ギター)の弾き語りは見たりしている)なのだが、サポートキーボードを加えた5人編成になっているのにまず驚く。なので佐藤拓也(ギター)も以前はギターに加えてキーボードを自身の横に置いていたがギターに専念できるようになっている。
「起きてる?」
と内澤が開口一番問いかけると、いきなり大合唱を煽る「Voice」で始まり、全く寝かせる気がないというのがすぐにわかる。さらに「Yeah! Yeah! Yeah!」で飛び跳ねさせ、深夜とは思えないテンションでGALAXYの中はこの時間としてはかなり異例なくらいにほぼほぼ埋まっていた。それはずっとこのフェスに出演し続けてきたこのバンドへの信頼によるところも大きいだろう。
するとちょうど1年前にリリースされたアルバム「daily」収録の「Hikari」からはこの時間帯に似つかわしい落ち着いたサウンドに変化していくのだが、冒頭の代表曲2曲も含めてキーボードのメンバーがいることによって抜本的にライブのサウンドがダンスミュージックに寄る形にリデザインされている。特にかつての爽やかイケメン的な見た目がかなりワイルドになった伊藤彬彦のドラムはキーボードがいることを前提にしたリズムになっている。もともと演奏力は実に高いメンバーたちであるし、前田恭介(ベース)はシンベを弾いたりと器用な表現力と引き出しを持っているバンドであったが、それは経験を増してさらに広がっている感がある。
「Blue Nude」という近年の曲ではR&Bなどのブラックミュージックのエッセンスをバンドに注入したりしながら、かと思えば懐かしの「Radio」という曲まで実に多岐に渡る選曲。これは普段からライブを観に行っているような人でも全ての曲を予想して当てるのは難しいだろうと思っていると、
「明けましておめでとうございます。でもこういう瞬間にも世界には辛い思いをしている人もいるということを忘れないようにしたいと思います」
と実に内澤らしい、見えない人のことすらも気遣う優しさを見せるMCから、タイトルからも
「今日はサタデーナイト」
という歌詞の「サタデーナイト」のリフレインからもベイ・シティ・ローラーズの世界的ヒット曲が思い浮かんでしまう「Saturday Night Apollo」、内澤がアコギに持ち替え、シンプルなサウンドにストレートなラブソング的な歌詞が乗る、2019年リリースにして映画のタイアップとして世の中に再びこのバンドの名前と音楽を広めた「Koi」で内澤の繊細なハイトーンボイスに浸らせると、最後に演奏されたのは元はCreepy Nutsとのコラボ曲であり、リリース時にはアー写のはっちゃけっぷりから「andropがパリピっぽくなった」と言われることもあった「SOS!」のビルボードライブバージョン。
これがもうもともとこの形で演奏されるのを想定していたんじゃないかと思うくらいに気品すら感じる演奏が実によく似合うアレンジに。そしてそれは今のこのバンドの方向性とも一致したものになっている。この曲をビルボード東京で聴けたらそれは最高だっただろうなぁと思うし、アッパーに始まって徐々に落ち着いていくという流れは時間帯もあって一見眠たくなりそうなものだが、全くそうはならなかった。やはりこの時期、この時間でも、ハッシュタグはウェイ!なのであった。
1.Voice
2.Yeah! Yeah! Yeah!
3.Hikari
4.Blue Nude
5.Radio
6.Saturday Night Apollo
7.Koi
8.SOS! (Billboard Live ver.)
28:10〜 忘れらんねえよ [GALAXY STAGE]
基本的にロッキンオンのフェスはメインステージのトリという、その日に1番動員力があったりするバンドを置く位置以外の重要な位置、それこそ年越しアクトとかは2年連続で同じアーティストを起用することはほとんどない。
そんな中で前年に続いてこのフェスの大トリを務めるのは、忘れらんねえよ。おそらくというか間違いなく2年連続の大トリというのはフェスが始まって以来初めてのことであろう。もはやこのフェスのクローザー、大魔神的な存在である。
サウンドチェックで柴田隆浩(ボーカル&ギター)が菅田将暉「まちがいさがし」、キュウソネコカミ「ビビった」をかなりうる覚えの歌詞で歌う中、本編は「バンドやろうぜ」からスタート。この日のバンドメンバーはギター・ロマンチック安田(爆弾ジョニー)、ベース・イガラシ(ヒトリエ)、ドラム・タイチ(爆弾ジョニー)というおなじみの布陣。
早朝4時に鳴り響くツービートパンク「この街には君がいない」、柴田が好きな女性に彼氏ができたことを公表するとなぜか客席から拍手が巻き起こった「俺よ届け」と柴田の抱える思いを真っ直ぐに観客に突き刺していくと、「ばかばっか」でのおなじみのビール一気飲みパフォーマンスでは夏のロッキンの時の柴田の母親に加えて父親までもがビールを持ってくる係としてステージに登場。2人ともかなりの年齢だと思われるのに、この時間に起きていてステージに上がるのが凄いし、忘れらんねえよの使えるものを総動員するという感じも凄い。
さらに「踊れ引きこもり」では曲途中の西野カナみたいになるパートでスペシャルゲストとしてMOON STAGEの年越しを担当した、オメでたい頭でなによりのボーカルの赤飯が登場して見事に女性ボーカルパートを歌いこなす。その後に柴田とキスするのはもはやおなじみになりつつあるが、その横でDragon AshのATSUSHIのようなダンスを踊る(髪型や服装も寄せている感じがある)タイチも地味に面白い。
どちらかというとバラードの枠に入るような「世界であんたはいちばん綺麗だ」も柴田の情念が込められることによってこの時間でも全く眠くならないが、それは「だっせー恋ばっかしやがって」も含めてこの日のライブに通底していた感覚だった。どこか我々も柴田の失恋した(勝手に)心境を共有しているというか。そうして完全にこの広いGALAXY STAGEは忘れらんねえよの世界に飲み込まれていた。
そして「忘れらんねえよ」では客席の照明が落ちている中で観客が掲げるスマホライトの光が実に美しい景色を描き出すと、ラストはやはりメジャーデビュー曲である「Cから始まるABC」で、残された俺たちは幕張で飲みました、になるのだった。
アンコールでは柴田が口を開く。
「俺は好きな人の前になると上手く喋れなかったりするようなやつのために歌いたい。昔そうだったやつとか、友達がそうだっていうやつとか」
と自身の音楽が向かう先について話す。アルバムが出たばかりだというのにその告知みたいな話はしない。話したことが1番伝えたいことだから。そしてその後に演奏された「なつみ」も含めて、その思いは忘れらんねえよの音楽を最も純化させている。これまでに身の丈に合わないこともやってきたかもしれないけれど、今は忘れらんねえよの芯の部分だけが残っている。
そして最後に演奏されたのは
「明日には名曲が幕張に生まれんだ」
と歌詞を変えて歌われた、「この高鳴りをなんと呼ぶ」。最後に全員でジャンプするのも含めて、忘れらんねえよがトリで良かったと思えるライブだったし、忘れらんねえよだからできるライブだった。
忘れらんねえよはこの2年連続のGALAXYの大トリという枠もそうだが、ロッキンでもLAKE STAGEのトリをやったりと、ここに来てロッキンオンのフェスの本当に大事な部分を任されてきている。
それは面白いパフォーマンスだけではなくて、音楽とそれを鳴らす姿でこのフェスの歴史に確かな足跡を残してきたから。昔、ロッキンに初出演が決まった時も柴田は本当に嬉しそうに話していたが、今やロッキンオンのフェスを担う存在になった。
1.バンドやろうぜ
2.この街には君がいない
3.俺よ届け
4.ばかばっか
5.踊れひきこもり w/赤飯
6.世界であんたはいちばん綺麗だ
7.だっせー恋ばっかしやがって
8.忘れらんねえよ
9.Cから始まるABC
encore
10.なつみ
11.この高鳴りをなんと呼ぶ
もうこれで15回目くらいのCDJ参加。他にどうやって年末を過ごせばいいのかわからなくなるくらいにずっとここで年末と年越しを過ごしている。でももう4日間ですら短く感じてしまうくらいになってしまったから、一年中こうやって過ごせるチケットみたいなものがあればどんな値段であろうと絶対手に入れるのに。
文 ソノダマン