昨年の突然の北浦和KYARAの営業終了発表。かつてthe telephonesの石毛輝が働いていたライブハウスであり、今でもたくさんのバンドがライブを行う、埼玉のライブハウス。
それを受けて、KEYTALKやキュウソネコカミというキャパ的にはまずここではやらないであろうバンドも最後とばかりにライブを行う中、the telephonesもKYARAでの最後のライブを急遽(発表されたのは1週間くらい前)開催。
the telephones
BRAHMAN
cinema staff
TENDOUJI
フレンズ
というあまりにも豪華な出演者は「KYARAが壊れる日」とも言われるくらい。
2階のカフェではクロークと物販が行われており、クロークの受付をthe telephonesのノブが行い、telephonesとKYARAのコラボTシャツが販売されるなど、バンドにとって特別な場所であるということがわかるし、そんな日をワンマンではなくフェスと言ってもいいくらいの豪華なイベント形式にしたのは、活動休止前最後のライブをさいたまスーパーアリーナでのフェスにしたtelephonesらしい。
・フレンズ
平日にもかかわらず18時という早い開演時間を少し過ぎた頃、場内が暗転してSEが流れる中で登場したのは、フレンズ。ベースがtelephonesとのダブルヘッダーである長島涼平だからこそのトップバッターなのだろうか。
こんなに寒い季節であっても、この曲を聴けば陽が照りつける海に車で行きたくなるような「Love,ya!」からスタートすると、ひろせひろせと、髪をかなりショートにしてカジュアルな出で立ちのおかもとえみの2人は
「西口じゃなくて東口」
など歌詞を北浦和KYARAバージョンに変えながら見事な掛け合いを見せる。関口塁(ドラム)は淡々と、しかし力強くリズムを刻む中、涼平はたびたび前に出てきてベースを弾くが、いつものように満面の笑顔でギターを弾く三浦太郎はステージがかなり狭そうである。
「Love,ya!」からの流れ的にバンドの始まりを強く意識させられるような「DIVER」、さらに三浦とひろせがにゃんこスター的なダンスを踊る「夜にダンス」と夜らしい曲が続く中でおかもとはステージが狭いにもかかわらずひろせの周りをグルグル回ったりという、ひろせも驚く自由さを見せる。
メンバー紹介においてはいつもと違って涼平を最後に紹介するというのはtelephonesのホームであるKYARAならではであるが、
「telephonesありがとう!」
とひろせが言った時に涼平も袖にいるtelephonesのメンバーに頭を下げるのを見ると、「あなたもtelephonesだから!」とツッコミを入れたくなる。
そんないつにも増していじられる涼平が「行けますかー!」と普段は絶対やらないような煽りを見せると、2019年にリリースした「HEARTS GIRL」で始まりだけではないバンドの最新系を見せながら、「塩と砂糖」ではその抜群にポップなメロディに客席も踊りまくり。この日の出演者の中でJ-POPの要素を感じさせるのはこのバンドだけであるが、そのキャッチーなメロディを持ってしてアウェー感を感じさせない。
するとひろせが
「フレンズは今年で5周年になります。telephonesに比べたらはるかに歴史は浅いですけど、フレンズは俺とえみそんが曲を作って、それを涼平が「いいね!バンドでやらない?」って言ってくれて始まったんです。だからフレンズは涼平さんがいなかったら結成してなかったし、そんな涼平さんが育ったKYARAがなくてもフレンズはありませんでした」
と改めて涼平とKYARAに感謝を告げる。同じステージに立っているバンドメンバーに対して臆面もなくそうした言葉を言えるのが本当に良い関係性のバンドだなと思うし、ラストの「地球を越えても」ではtelephonesのノブがアウトロで登場してキメに合わせてひろせとおかもととともに踊るというコラボを見せたのだが、
「忘れてしまっても 地球を越えても
また会おうね また会おうねばいばい」
というフレーズはKYARAへの惜別のメッセージとして響いたし、この日のことは決して忘れはしないよな、と思った。
かつて、このKYARAでthe telephonesとThe Mirrazが「ゼウスツアー」という2マンで対バンしたことがある。その頃は両バンドともに人気絶頂でチケットが取れなかった。だからこそこの日にその時のライブのTシャツを着た人がいるとめちゃくちゃ羨ましいのだが、あの頃はまさか塁と涼平が一緒にバンドをやることになるなんて全く想像ができなかった。でも形は違えど、2人はこうしてまたKYARAのステージに立っている。それを見れたのは実に幸せなことだと思う。
1.Love,ya!
2.DIVER
3.夜にダンス
4.HEARTS GIRL
5.塩と砂糖
6.地球を越えても
・TENDOUJI
この中では最もthe telephonesとの関係性が浅いように感じる、TENDOUJI。しかしそれはこのバンドの音楽をtelephonesのメンバーが気に入っているという証拠であろう。
実はライブを見るのが初めてなので、ベースのヨシダタカマサが中央の立ち位置ということにも少しビックリするが、いざライブがスタートすると、音源を聴いた限りではThe Drumsなどの2000年代後半のUSインディーバンドを彷彿とさせる(全英語歌詞であるのも含めて)というイメージだったが、「Kids in the Dark」の音が鳴らされると、その音からはパンクさを強く感じる。もちろんそれはメンバーもルーツとしては持っているんだろうけど、それがそのままライブにおける熱量の高さに還元されていく。
ノイジーなギターと超キャッチーなコーラスの「Killing Heads」は紛れもなくこのバンドの現状のキラーチューンと言っていい曲であるが、そうしたキャッチーなメロディがきっと頭の中に染み込んでいるようなバンドなのだと思うし、すらっとした体型のモリタナオヒコと恰幅の良い長髪のアサノケンジという見た目が対称的な両サイドのギタリストが曲によってボーカルをチェンジすることによって曲の雰囲気をガラッと変えることができるのもこのバンドの強みの一つだろう。telephonesのメンバーがずっと袖でライブを見ていたことからも、このバンドの音楽やメンバーのことを気に入っているというのがよくわかる。
「バンドとしては超後輩なんだけど、年齢的にはthe telephonesとは同じくらいで。だからそのヴェルディ川崎(2019年のtelephonesの夏フェスグッズ)のユニフォームのやつとかもうめちゃわかる(笑)」
とアサノがtelephonesとの関係性を話すと、武田修宏を筆頭に柱谷やビスマルクなど、ヴェルディ川崎に所属していた選手の名前が次々に上がり、石毛輝も袖から選手の名前を叫んだりしている。きっと音楽以外にそういった同世代ならではの話ができるのもtelephonesのメンバーからしたら楽しくて仕方ないはず。
シューゲイザーやグランジの影響を感じさせるようなノイジーなギターサウンドの曲はバラードというよりもサイケデリックな空気に浸らせ、アサノとモリタは頭をブンブン振りながら演奏する「Peace Bomb」からは再び一気にアッパーに突っ走る。曲を聴いていたりライブを見ているとついつい楽しくなってきてしまうのはその音楽性によるところも大きいが、メンバーの親しみやすいキャラクターによるところもあるはず。
「次のBRAHMANがここをぶっ壊してくれるんで!(笑)」
と笑わせていたが、telephones同様にこのバンドもBRAHMANから影響を受けているはず。ピースフルな雰囲気でありながらもそうしたパンクな部分を強く感じさせるからこそ、このメンツの中でも一切アウェー感がなかった。これからもっといろんな場所で会えそうな予感がしている。
初めてこのバンドの曲を聴いた時、少しビックリした。それは彼らが千葉県の松戸市出身であるということは知っていたから。松戸からこんな洋楽的な要素が強いバンドが出てくるの!?という驚きだったのだが、千葉県の中でも決して治安が良いとは言えないイメージがついている場所であるだけに、県外からも食べに来る人がたくさんいる、松戸のつけ麺屋のとみ田よりも有名になって、松戸のイメージを良くして欲しいと思う。
1.Kids in the Dark
2.Killng Heads
3.D.T.A
4.Something
5.COCO
6.Peace Bomb
7.Happy Man
8.THE DAY
9.GROUPEEEE
・BRAHMAN
去年のthe telephonesの「行ったことがない場所へ行くツアー」の追加公演だった釜石でのライブに対バンとして出演し、アンコールでは4人全員が唇サングラスをかけるというはっちゃけっぷりを見せていた、BRAHMAN。
telephonesのライブに出てくれただけでなく、そこまでしてくれたのはかつてこの北浦和KYARAに石毛輝がBRAHMANのコピーバンドで出演したことがあったりというtelephonesからの愛を受け取ってくれているからであろう。
しかしながらこのライブの開催と同時に出演者が発表されたときに1番驚きの声が上がっていたのがこのBRAHMANであり、それはなかなか都心近辺でこのキャパでは見れないからである。だからこそTENDOUJIのアサノも言ったように閉店するよりも前に「KYARAが壊れる」とまで言われていた。
おなじみのSEが鳴るとメンバーがステージに登場し、本当にBRAHMANがKYARAに立っている…という感慨に浸る間もなくいきなりの「SEE OFF」で早くもダイバーが続出。基本的に客席とステージに距離が全くないライブハウスなだけに、押し戻されるかあるいはステージに着地してステージダイブして客席に戻っていくということになるのだが、さすがBRAHMANのTシャツを着た猛者の方々たち、そうした方式のライブに実に慣れている。だからか客席はめちゃくちゃ激しいにもかかわらず、何故か怪我人が出たりという心配を全くすることがない。
TOSHI-LOWに合わせて観客も手拍子をする「BEYOND THE MOUNTAIN」と持ち時間が長くないというのもあるだろうけれど、飛ばしっぷりが凄いな、と思っていたら後ろから髪の量が非常に多い人と金髪の人が勢いよくモッシュピットに突っ込んで行った。それはtelephonesの石毛輝と長島涼平であり、涼平は途中で離脱していたが、石毛は他の観客と同様にダイブをしている。もはや主催者でも出演者でもなく完全に1人のファンである。
「おら壊しちまえ!壊しちまえ!」
とTOSHI-LOWがライブハウスを壊すことを煽りまくっての「不倶戴天」ではTOSHI-LOWの立てた中指が
「赦すってことだ」
のフレーズで2本指のピースサインに変わり、腕まくりをして自身の腕の筋肉を見せつけるかのようにして「雷同」へという怒涛の展開。
「AFTER-SENSATION」と日本語歌詞の曲が続いてもやはりダイブの嵐は収まらず、ハードコアなイントロからキャッチーなTOSHI-LOWの歌メロに展開するという実にBRAHMANらしい「Z」では再び石毛がダイブするのだが、そのままステージまで転がっていってMAKOTOのマイクでコーラスまでしてしまう。これが予定していたことなのか偶然の産物なのかはわからないが、これは演者でありながら観客であり、かつコーラスを完璧に覚えているという石毛だからこそできることである。その後は普通にステージ袖からライブを見ていた。
「警醒」でTOSHI-LOWが客席に突入すると、おなじみのTOSHI-LOW目掛けてダイブする人が続出。時には振り払ったりどついたりするのだが、その顔はいつにも増して楽しそうな笑顔である。初めてのライブハウスであっても普段の自分たちの変わらぬライブができているという要素もあるのだろうか。
そうした BRAHMANの激しさは怒りの感情によるものも大きいのだが、広い会場でのライブではスクリーンに福島第1原発で働く人たちの姿や証言の映像が流れる「鼎の問」では社会的に弱者という立場になってしまった人たちに寄り添うこのバンドなりの優しさを感じることができる。それはKOHKIのギターの音からも確かに感じる要素であるからこそ、映像がなくてもライブを見ていて感動してしまう。この曲に込められた想いの重さや大きさのようなものが音からこの上なく発せられているからだと思うけれど。
TOSHI-LOWが客席からステージに戻ると恒例のMC。
「ガキの頃に初めてライブハウスに行く時は、それは怖かった。トイレの場所がどこにあるのかとかドリンクチケットのシステムとかもわからねぇ。そういうところにはいわゆる古参みたいな人もいるけれど怖くて聞けねぇ。
でも何回もライブを観に行ってると、そういう古参みたいな人が覚えてくれる。ボウズ、また来たのかって。そのうちそこで仲良くなったやつと「お前もあのバンド好きなのか」って話したり、「俺はベースできる。お前はギターができるから、ドラムは○○っていうやつを誘ってバンドをやろう」っていう話になったりする。
そんな、青春時代の甘酸っぱいライブハウスの思い出。そういうもんが、ここには全くない。初めて来たから思い入れとか本当にない。明日で営業が終わるとかマジでどうでもいい(笑)」
と掴みで笑わせながらも、
「でも歳を取ると気持ちがわかるようになる。俺にも地元のライブハウスみたいな場所があって。そこで最後にライブをやらせてもらえるならどんなライブをやろうか、誰を呼ぼうかって。こうして俺たちを北浦和っていう初めての場所に連れてきてくれた。このライブハウスは明日で終わるかもしれないけど、ずっと終わらないものがある」
とtelephonesが自分たちをここに呼んでくれたことに理解を示し、この場所への優しい言葉を伝えた。その後に演奏された「今夜」の
「ああ今夜 終わらないで」
というフレーズはこの会場にいた全ての人の気持ちを代弁しているかのようだった。
そして最後に演奏されたのは「真善美」。先に演奏を終えたメンバーたちがステージを去る中、
「さあ 幕が開くとは
終わりが来ることだ
一度きりの意味を
お前が問う番だ」
というフレーズをTOSHI-LOWが歌い、マイクをドスンと落としてステージを去っていく。始まりがあれば終わりが必ず来る。それはライブハウスだけではなくこの世のあらゆることに言えることであるが、一度きりのこの北浦和でのライブでBRAHMANはその意味を確かに示してくれたのだった。
バンドの持つイメージからするとBRAHMANとtelephonesはかなり遠い感じがする。強い影響を受けていても音楽性としては直系の先輩後輩という感じでもない。
しかしバンドが持つパンクな精神性、メンバーの心優しい部分などは確かにこの2組の繋がりを感じさせる。telephonesとライブをやる時はtelephonesのTシャツを着てステージに立つMAKOTOの姿を見ていても、本当にtelephonesは愛されているし、優しい先輩だと思う。
1.SEE OFF
2.BEYOND THE MOUNTAIN
3.不倶戴天
4.雷同
5.AFTER-SENSATION
6.Z w/ 石毛輝
7.警醒
8.鼎の問
9.今夜
10.真善美
・cinema staff
このKYARAに出るようなイメージはないし、telephonesとガッツリ一緒にやるようなイメージもそんなにない、cinema staff。まさかのBRAHMANの後という順番での出演。
薄暗いステージの中にメンバー4人が登場すると、BRAHMANのパンクなサウンドとはまた違う、ポストロックなどの複雑な構成の演奏の轟音が鳴り響く「シャドウ」からスタート。そうした決してわかりやすくはない楽曲をあくまでキャッチーに響かせることができるのは名前の通りに瑞々しい飯田瑞規(ボーカル&ギター)の歌声によるところが大きい。ステージが薄暗いので金髪の色もより鮮やかに映る。
ライブを見るのは少し久しぶりなのだが、昨年9月には2枚組36曲収録という大ボリュームのベストアルバムがリリースされたこともあり、それ以外にも数々のライブ代表曲的なものを持つバンドなだけにいったいこの日はどんなセトリを組むのだろうかと思っていると、イントロの激しいサウンドに三島想平(ベース)特有のロマンチックな歌詞が乗る「西南西の虹」、昨年リリースのEP収録の、タイトルに合わせてか青い照明がメンバーを照らす「OCEAN」と、ベストに入っている代表曲と最新の曲を組み合わせた内容に。
激しく体を動かしながら、時には客席最前の柵に足をかけてギターを弾く辻友貴も本人がやっている飲み屋兼レコードショップで会うと年齢を感じさせるが、こうしてステージで暴れている姿を見るとやはりどこか幼く感じるのは変わらない。
すると飯田は
「TOSHI-LOWさんも言ってましたけど、僕らもKYARAに出るのは初めてなんで、なんの思い入れもありません(笑)」
と言って笑わせると、
「telephonesのみなさん、本当に優しくて良い先輩なんですけど…でもBRAHMANの後じゃないでしょ(笑)
今日はパーティーだって聞いてきたのにこんなの試練じゃん(笑)」
とBRAHMANの次という誰もがやりづらい順番であることへの不満を漏らしていたが、だからこそこの日のライブが気合いが入ったものであったのは間違いない。先輩だからとか、レジェンドバンドだからといって諦めるのではなく、同じステージに立っているからには自分たちが1番カッコいいバンドなんだっていうことを証明したい。ベストに収録された、
「telephonesとKYARAに捧げます」
という新たな旅立ちを歌った「新世界」、
「全部、全部出すから。受け取ってください」
と言って演奏された「first song (at the terminal)」という選曲には終わっていくものと新たに始めようとするものへのリスペクトが最大限に込められているような熱量で鳴らされていた。
それは三島のハープによって始まる組曲的な展開の「海について」の随所にも感じられた。マイクを通さずに客席に向かって叫び続けていた辻、強さだけでなく手数も増しているように感じた久野洋平のドラム。telephonesはcinema staffならBRAHMANの後でも物足りなさを一切感じないライブができるとわかっていると同時に、そうした状況でこそより自分たちの持っている力を発揮できるバンドであると分かっていてこの順番にしたかのような。
演奏を終えるとさっきまで叫びまくりながらギターを弾いていた辻が足元のエフェクターを操作して残響音を作り出す。それはこのバンドがこの日ここに立った意味を感じさせるには充分すぎるくらいの余韻となっていた。
素晴らしいライブをするバンドだというのはわかっていたつもりだった。ライブをやり続けて生きてきたバンドだから。でも久しぶりにライブを見たらこれまでよりさらに進化した姿が見れた。9mm Parabellum BulletとPeople In The Boxに続く残響レコードの三男的な立ち位置でシーンに登場したこのバンドももはや若手という立場ではない。だからこそ変わらない形で続いてきたことが本当に頼もしく(もちろんいろんなことがあっただろうけれど)感じられるし、そうして続いてきたからこその強さが間違いなくある。
この日はtelephonesのイベントに出演する立場だったが、4月にバンドが地元の岐阜で主催するイベントにはtelephonesが出演することをフライング発表した。果たしてそこではどんな共演になるのだろうか。
1.シャドウ
2.西南西の虹
3.OCEAN
4.新世界
5.first song (at the terminal)
6.海について
・the telephones
そしていよいよthe telephonesがホームである北浦和KYARAの最後のステージへ。サウンドチェックで石毛輝(ボーカル&ギター)がBRAHMANの曲のフレーズを弾いたりするのもこの日ならではだろう。
おなじみのアフロカツラをつけた4人がステージに現れると、
「今日はThank You KYARA、この場所のために音を鳴らすぜー!」
と石毛が挨拶し、いきなりの「urban disco」からスタート。この日は会場のクローク受付もやっていたノブ(シンセ)は早くも客席に突入し、長丁場となった1日だがそうした疲労よりもとにかく楽しさが上回っているとばかりに観客も踊りまくり、
「I am DISCO!」
を叫びまくる。もしかしたら、シーンに革命を起こしたと言ってもいい、サカナクションの山口一郎をして「発明」と言わしめたこのフレーズも最初に叫ばれたのはKYARAだったんだろうか、とこの会場での最後のライブだからこその感慨のようなものも頭によぎる。
telephonesがディスコパンクバンドであることを示した最初期の曲と言っていいかもしれない「Da Da Da」から、
「せっかくのこういう日なんで、普段はやらない曲を。1stデモに入っていた曲です」
と言って演奏されたのは後に1stフルアルバムの「JAPAN」にも収録された「mushroom planet」。石毛のハイトーンではないスタイルのボーカルが浮遊感漂うサウンドとともに、こうしてこの場所でこの曲を聴いているのが夢心地のような感覚にさせてくれる。
ここまでは初期の曲ばかり。それはこの北浦和の地で生まれ、演奏され、育ってきた曲たち。そんなこの場所で何度となく鳴らされてきたであろう曲たちもこの日がここで演奏されるのは最後。たまに「曲は子供のようなもの」というアーティストの発言を読むことがあるけれど、telephonesにとっては長男と言っていいような曲たち。それが10年以上経って、メンバーたちとともに成長した姿を最後にこの場所に見せている。
そうした北浦和での思い出話はきっと話し始めたら止まることはない。だからこそ石毛も
「4人中3人が北浦和KYARAで働いていたバンドです」
と切り出すと、このメンバーが集まった経緯(一時期ノブが失踪していたということも含めて)を話し始めるのだが、そんな中でいきなりKYARAの安藤店長がステージに乱入。
「これまでの功績を称えてメンバーにプレゼントがあります」
と言ってプレゼンターとして呼び込まれたのは、何故か茄子の着ぐるみを着てクチビルサングラスをかけたTOSHI-LOW。そのプレゼントとはテキーラであり、メンバーとTOSHI-LOWはそれを一気飲み。とてもライブ中とは思えないようなそんなやり取りも最後の日だからこそ。その後にノブが普通のことしか言えなくなるくらいにキツかったらしいが、「思い入れがない」と言っていたTOSHI-LOWがこんなことまでしてくれている。今までは思い入れがなかったかもしれないけれど、この日のことはきっと想像を絶するくらいに様々な経験をしてきたTOSHI-LOWにとってもこれから大切な思い出になるはず。
すると「I and I」とさらに初期曲が続く。サビで一気に視界が開けるようなキャッチーな展開はtelephonesが初期の頃から実はメロディメーカーなバンドだったことを示しているが、途中から石毛がステージ袖を見ながら歌っているな、と思っていたら、telephonesと同じようにこの北浦和KYARAをホームにしてきたメロディックバンド・RIDDLEのTakahiroがステージに登場して涼平のかわりにコーラスを務める。もともと音源でもこのTakahiroがコーラスを入れていたパートであるため、この北浦和KYARA最後の日に完全再現となったわけだが、
「”have a nice day”
it is better of next day」
というフレーズはまるでこの日に演奏されることを予見していたかのようだった。
そして終盤はディスコ祭りに。「I Hate DISCOOOOOOO!!!」ではテンションが上がった観客がダイブをすると、ステージ前まで出てきた涼平がそれを押し返すのかと思いきや、そのまま涼平自身もうねりまくるベースソロという1番の見せ場で客席にベースを弾いたまま飛び込んでいく。フレンズの時からそうだったが、堪えきれないものが確かに涼平の中にあったのかもしれない。
さらに「Monkey Discooooooo」ではステージ袖でライブを見ていたcinema staffの辻が走り出してきてそのままダイブ。もうこの日は本当にそんな空気だった。ダイブこそしなくてもフレンズのひろせひろせや三浦太郎もずっと袖にいてライブを見ていたし、なんなら三浦太郎はメンバーの楽器やマイクの位置を調整したりというローディー的な役割を自ら担っていた。フレンズになる前からずっと一緒にライブをやってきた仲間だからこそ。元からフレンズのメンバーは絶対にみんな優しいのが見るだけでわかるが、こうしたさりげない場面を見るとより一層そう感じるし、もっとフレンズのことを好きになる。
そしてラストはKYARAに愛を込めた「Love & DISCO」。これまでに何度となく感動を貰いながら踊ってきたこの曲はもうtelephonesの曲であり、telephonesのことを好きなみんなの曲である。だからこそ曲自身が意思を持っているかのように、いろんなライブ会場や対バン相手の前で演奏されるごとに違う表情を見せてきた。
そんな曲も、間違いなくこの場所があったからこそ生まれたもの。この曲がリリースされた時、telephonesはすでにいろんなフェスに出るようなバンドになっていたが、主戦場にしていたのは北浦和KYARAをはじめとした小さなライブハウスだった。(ライブハウスが主戦場なのはずっと変わっていない)
だからこそ、この日の「Love & DISCO」は曲自体が「産んでくれて、育ててくれてありがとう」と言っているかのように感動的かつ幸福な景色を描いていた。それはこの日出演したバンドやKYARAに関わった人たち、集まってくれた人たちの愛によって作られたもの。演奏が終わった時、本当に終わるんだなと一気に寂しい気持ちになった。それは自分の中でも確かにこの場所が大事な場所だったということを実感した瞬間だった。珍しく涼平がコーラスに詰まる瞬間があったのはやはりこみ上げるものがあったのだろうか。
アンコールでは石毛が1組ずつこの日出演したバンドへの感謝の言葉とともに改めてKYARAへの感謝を告げる。有名になりたいとか売れたいとかでなく、ただただ音楽をやるのが楽しいと思えた原点である場所。そんな場所だからこそ、最後の曲はこの場所で生まれ、地上波のテレビ番組のテーマ曲にまで育った「sick rocks」だった。石毛も涼平も、さらには安藤店長も客席に飛び込む。そんな全員が本当に笑顔だった。決して悲しい別れじゃない、最後まで楽しい1日だったのは紛れもなくKYARAでtelephonesがライブをやったからこそだった。
ライブが終わると、終演SEとして流れたのは
「暗い夜明け KYARAの5階
消えることのないアナーキズム」
という移転する前のKYARAとそこで野心を燃やしていた若き日のtelephonesのことを描いた「Odoru 〜朝が来ても〜」。もう23時に迫ろうかというくらいの時間だったが、翌日が仕事じゃなければずっとこの空気に浸っていたかった。朝が来ても踊っていたかった。2階で酒を酌み交わしていたTENDOUJIのメンバーの姿を見ながらそんなことを思っていた。
昨年末にthe telephonesが本格的な活動再開を宣言した直後にホームである北浦和KYARAが営業を終える。それはKYARAがこのタイミングを待っていたかのようであるが、仮にtelephonesが休止したままの状態であったとしても、KYARAが最後の日だとしたらtelephonesはこの日に合わせて活動再開をしてこうしてライブをやっていたであろう。telephonesのメンバーはそういう人たちだ。
でもtelephonesは今のままのtelephonesとしてこの北浦和のステージに立った。それは活動を再開したバンドというだけでなく、今この時代を生きているバンドが自分たちの生まれた場所に別れを告げるために必要な時間だった。
世代的にもKYARAでライブをしたバンドのほとんどが楽屋にあるスーパーファミコンで遊んでいるMCを聞くのが好きだったし、近年はミイラズが毎年のようにここでワンマンをやっていたし、それを見るためにこのKYARAに来ていた。
そうしたらthe telephonesやYap!!!という石毛輝のバンドをここで見ることができるようになった。それは石毛輝と彼の作る音楽のファンとして本当に幸せな時間だった。
「踊ろう いつまでも 朝が来ても
いつか夢の続きは訪れるさ」
上手くいかないことばっかりだったとしても、いつかまた夢の続きが見れるような日がくる。それは北浦和KYARAにとってもそうだし、telephonesにとってもそうだし、我々にとってもそう。この日、この北浦和KYARAにいることができて本当に幸せだった。
1.urban disco
2.Da Da Da
3.mushroom planet
4.I and I w/ Takahiro (RIDDLE)
5.I Hate DISCOOOOOOO!!!
6.Monkey Discooooooo
7.Love & DISCO
encore
8.sick rocks
文 ソノダマン