昨年から今年にかけてsumikaは様々な場所やテーマでの配信ライブを行ってきたが、それは裏を返せば有観客でのワンマンライブが出来なかったということだ。
春フェスには出演したものの、実に久しぶりのツアーが5月から開始。それすらも延期になってしまった公演もあるが、この日の東京ガーデンシアター2daysの2日目まで開催を迎えることができた。コロナ禍になってもリリースペースは全く落ちないために近年リリースしてきた曲を演奏するだけでもワンマンの曲数を超えてしまうくらいのレベルであるが。
接触確認アプリのCOCOAのインストール、検温と消毒という感染症対策を経て場内に入ると、席が一つずつ空いた形になっている。Zeppとかのライブハウスでも今は席間は空けていないパターンも増えてきたが、そうせざるを得ないあたりにこの会場のキャパの広さを感じるし、そんな会場であっても(意外と有名アーティストでもチケットが売り切れなかったり、余裕で取れることも多い)平日の2daysで即完というあたりに今のsumikaの状況がよくわかる。
ステージには暗幕がかかった状態で19時の開演時間を迎えると、場内が暗転して幕が開き、おなじみの「ピカソからの宅急便」が流れて元気いっぱいにメンバーが登場。もうそれなりの年齢ではあるが、こうした姿はまるでバンドを始めたばかりの学生のようにすら見える。
4人に加えておなじみのゲストベーシストの井嶋啓介と、さらにはサーカス小屋での配信ライブにもコーラスとして参加していた三浦太郎がこのツアーにはギター&コーラスで参加しているという6人編成なのだが、sumikaのライブのステージセットはいつも本当に凄い。それは無観客の配信ライブですらもそうだったのだが、この日もメンバーたちの背面には巨大な木が聳え、まるでその木を目印に行商人たちが集まって店を開いているかのような、中世のヨーロッパの時代のキッチンカーを思わせるような店や、様々な装飾品が並んでいる。sumikaのメンバーもまるでそのバザーに招かれて演奏しに来た楽団であるかのようだ。
そんな、隅々まで見ていたいくらいにセットに目を奪われながらもメンバーが楽器を持つと、片岡健太(ボーカル&ギター)は
「今日のライブは声が出せないとか、マスクをしていなくちゃいけないとかルールや制限があるけれど、その中でそれぞれの楽しみ方を見つけて帰ってください。
…なんて言うわけないだろー!めちゃくちゃ楽しませてやるからなー!」
と、第一声だけで泣きそうになってしまうような言葉を我々に向かって叫んでくれた後に歌い始めたのは今年リリースされたアルバム「AMUSIC」のオープニングであり、
「どこだっていいだろう
なんだっていいだろう
ここから自由だろう」
というフレーズの乗る華やかなサウンドと、小川貴之(キーボード)、黒田隼之介(ギター)、さらには三浦が我々が声が出せないのがわかっているからこそ、思いっきり声を張り上げているように感じるコーラスが片岡の言葉をそのまま証明するように久しぶりにワンマン、ライブに来たという人もたくさんいるであろう客席を客席を瞬時に楽しくしてくれる「Lamp」から、
「晴れのち雨になってもゆく
悪足掻き尽くすまで」
と、この状況下でこうしてライブを、ツアーをやる選択をしたことを歌うかのような「祝祭」という流れは今年リリースしたアルバム「AMUSIC」のオープニングの流れそのものであるが、巨大な木の前に吊るされた和柄の上に描かれた「花鳥風月」というツアータイトルと、その木が桜の木であることを思わせるような照明、小川と荒井智之(ドラム)自身が演奏しなかったり、片手だけで演奏するフレーズ部分で観客に手を振ったりというメンバーの生き生きとした笑顔が、sumikaというバンドに待ち望んだ春がやって来たということを感じさせる。春フェスでも演奏されていた2曲であるが、やはりこうしてワンマンで聴くとまた感触が違うというか、季節としてはもう春は過ぎ去ったはずなのにこの日の方がより春というイメージを強く感じさせるのはそういうことだろう。
しかし「AMUSIC」が16曲収録というボリュームであるだけに、そのリリースを受けてのものという側面もあるであろう今回のツアーの中で果たして「AMUSIC」以前の曲がどれだけ演奏される余白があるだろうか?とも思っていたのだが、もはやその部分だけで胸躍るようなリズミカルなギターリフを黒田が奏で、片岡はハンドマイクで歌唱しながら、
「東京の!」「Flower」
と、我々が声を出して「Flower」という部分を歌うことができないのをわかっているからこそ、
「あなたの分まで我々が全力で歌いますから!」
と、そのコーラスには我々の思いをゲストもメンバー全員が乗せてくれている。
それは片岡と黒田が勢いよくステージ左右に展開していってギターを弾くという、2daysの疲れを全く感じさせないどころか、そうして声を出せないけれど目の前にいる人の存在そのものが力になっているかのような「ふっかつのじゅもん」もそうだ。一緒に声を出してこの曲のコーラス部分を歌うのがどれだけ楽しいかはコロナ禍になる前に見てきたライブによって良く知っているけれど、一緒に歌うことができなくてもこうしてバンドが目の前でこの曲を演奏してくれているだけで本当に楽しい。そのステージ上も客席も、どこからどこまで一様に楽しそうな表情をしているのを、画面越しじゃなくて自分自身の目で見て、目の前で鳴らしている音が広がって震えている様を自分自身の耳で感じることができているからだ。
「sumikaのライブに初めて来たよって方?」
と片岡が尋ねるとそこまで数は多くはない人の拍手が起こり、
「いつも言ってることですが、sumikaのライブにいらっしゃいませ!」
と温かく家に迎え入れる。きっとこれから何度も招くことになるのだろうし、それは他の人たちが何度もsumikaのライブに来ている人たちだからだ。
季節が春から初夏に変わったかのように青を基調とした照明が元々の曲の持つイントロから感じられる壮大さ、雄大さをさらに押し広げるのは「イコール」。今や大型フェスのメインステージのトリを務めるような立ち位置のバンドになっているが、この曲は夜よりもどこまでも広がるような青空の下でも演奏されるのを見たいと思わせてくれる。去年はその機会が残念ながらなかったけれど、今年はメンバーも思い入れの強いひたちなかのステージでそれが見れるはずだ。
アコギを持った片岡が曲間のわずかな瞬間に小川の方を指さすと、その小川がキーボードを弾きながらボーカルを務める「わすれもの」へ。どうしてもそのキーボードのフレーズからは槇原敬之のヒット曲を連想してしまうところもあるけれど、もともとはボーカル(と、とんねるずや関根勤も絶賛したモノマネ芸)だった小川はやはりこうした大きな会場で歌ってもしっかりとした歌唱力を持っているということがわかる。とはいえちょっと引き攣るようなところもあったのは今やバンドシーン屈指のボーカリストかつフロントマンになった片岡の後にメインボーカルとして歌う緊張もあったのかもしれないが。
とはいえ小川が歌うこの曲が、曲を作ることももちろんできる小川作曲ではなくて、作曲が黒田、作詞が片岡というコンビで生まれたというのが実に面白い。黒田は明確に小川に歌って欲しい曲を作ったともインタビューで言っていたが、その片岡とは少し違う素朴さ-それはライブ中のパフォーマンスも含めて小川の人柄から感じるものである-を持った曲だからだろうか。
さらにはドラムの荒井が作曲した、タイトル通りにジャマイカンなダンスナンバーの「Jamaica Dynamite」と、sumikaの4人それぞれの音楽的な素養の高さをこれでもかとばかりに感じさせてくれる曲が続く。ハンドマイクで歌うこの曲の作詞家の片岡(どんなイメージで作詞したのか)は三浦らのタイトルコーラス部分で誰よりもノリノリで踊りまくっている。こうしてこの曲をライブで演奏する機会がようやくやってきたことで解放されている部分も間違いなくあるのだろう。sumikaの4人のプレイヤーとしてだけではない持ち味をフルに発揮できる曲なのだから。
そして片岡はこうしてこの状況下で何か言われたり批判されることも厭わずにこの会場にライブを見に来てくれた人たちへの感謝を告げつつ、
「あなたがライブに行ったことで何かを言われたり、批判されたりするいわれはない。sumikaが開催したからそれに行っただけって言ってくれて構わない。何か言われるとしたら俺たちだけでいい」
とも言った。いや、そうさせたくないんだ。ここまでひたすらに「みんな」ではなくて「あなた」に向かって話して、音楽を鳴らしてくれているバンドだからこそ、バンドが傷つけられるのを見たくないし、全力でそうならないようにしたいんだ。片岡は開催自体が批判されまくったJAPAN JAMでメインステージのトリとして出演した際に、
「今日ここに来なかった人も正解だと思う。でもここに来てくれたあなたを傷つけたり攻撃する人がいたら俺は許せない。そんな時に真っ先にあなたを守れるバンドでありたい」
と我々に言ってくれた。そうして「守れるバンドでありたい」と言ってくれたバンドのことを我々も守りたい。だからこそ、sumikaというバンドの名前を汚したり、メンバーの顔に泥を塗るようなことは絶対にしたくないんだ。その言葉がこの状況下でもライブに行く支えになっているから。
すると片岡がいったん観客を座らせて誰から先に話すか決めていないメンバー紹介も兼ねたそれぞれの一言ずつのMCタイムへ。オープニングからずっと「誰がツッコむんだろうか」と思っていた、あまりに髪を切り過ぎてイメージがかなり変わった三浦太郎の髪型にもここでようやくツッコみが入る。
観客を座らせたのは座ったままの状態でじっくり聴ける曲を、ということだろうとは思っていたが、
「アルバムに入っている曲じゃないけど」
と言ってから演奏された「溶けた体温、蕩けた魔法」から、「AMUSIC」収録の「願い」「本音」とバラード曲3連発。
sumikaは年齢的には中堅と言っていいくらいの位置になっているが、世間の認知としてはまだまだ若手と見られているバンドでもある。そんな若手バンドの中でここまでライブでバラード曲を連発できる存在はそうそういないし、それがただのライブにおける箸休め的な曲ではなく、全てどう聴いても名曲でしかないものになっている。
そう思える最大の要素はやはり片岡の歌唱力である。バラードという感情移入ができないと退屈なものにさえなる可能性を持っている曲でも全くそうはならず、誰もが没入できる感情を込めることができる歌を歌うことができる。特に全国高校サッカーというタイアップ曲でありながらもシングルリリース時に衝撃的だった、片岡のアカペラと言っていい形で歌われる
「生きていれば辛いことの方が多いよ
楽しいのは一瞬だけど それでもいいよ」
という残酷なくらいにリアルなフレーズでの、声だけでこの会場を包み込み、ライブというまさに楽しい一瞬を我々が今バンドとともに作っていること。そんなことが滲み出てきてくる。ここまでバラードに説得力を持たせることができるバンドのボーカリストがほかに何人いるだろうか。
後半戦からは観客も再び立ち上がり、さらにアッパーに、かつハードになっていく。ハードというのはサウンドもそうであるが、そこに乗る歌詞もそうであるというのが後半のスタートを切る「惰星のマーチ」。荒井と井嶋のリズムもグルーヴィーに絡み合っていくために、観客も自由に体を揺らせるが、そこに乗る歌詞は今の社会や世の中への警鐘を含んでいるし、それすらもポップミュージックにしてしまう手腕はさすがと言わざるを得ない。
ステージが、バンドのサウンドがさらにカラフルに染まっていく「フィクション」はもはや名曲しかないこのバンドにとって最大クラスの代表曲と言ってもいいだろうし、
「いつになれば終わるんだ」
のフレーズで黒田が両腕をこれでもかっていうくらいに目一杯伸ばして手拍子をする姿は彼の常に100%以上のものを見せようとしている姿勢を示していると言えるだろう。
するとメンバーの背面に聳えていた巨大な木が上にスライドしてその姿を消すという、あんなデカイの移動させられるの!?と驚きながら、その木があった背面には開演前には写真撮影ブースに飾ってあったこのツアーのフラッグが出現してステージの景色をガラッと変える中で演奏されたのは「絶叫セレナーデ」。その勇壮なコーラスを我々が歌えないのは残念ではあるが、それでもやはりメンバーたちが思いっきりコーラスを歌っている姿はこの曲の持つお祭り感を強く感じさせてくれる。
お祭り=フェス。この曲は片岡が
「ロッキンのGRASS STAGEで演奏するために作った」
と明確に鳴らしたい景色があることをインタビューで口にしていた。今年こそはそのステージでsumikaがこの曲を鳴らすのを見れると思っていた。それは今年も叶わなかった。この翌日にロッキンは今年も中止になってしまった。2年前に初めてGRASS STAGEに立った時にあれだけ夢だったとメンバーが口にしていた場所。きっとでもメンバーはもうこの日には知っていたんじゃないかと思う。そうした悔しさも悲しさも、あらゆる感情がこの日のライブには乗っていたように見えたから。もちろんそれはどんな時でもsumikaのライブにあるものであるが、その強度が違っていたように感じていた。最後の
「待っていたくねえ」
のフレーズでの高らかかつ伸びやかな叫びがより一層そう感じさせたのだ。
そんな感情を軽やかさで飛び越えてみせるのは禁断の関係をsumika流のポップなストーリーに落とし込んだ「Traveling」。「Summer Vacation」の続編とでも言うような、片岡がハンドマイクでステージ上を歩き回りながら歌う曲であるが、
「聞く?黙る?どっちがマシ?」
というフレーズ部分の打ち込みとボイスエフェクトを駆使したサウンドからはこの曲の孕む狂気の部分を感じるし、ライブで聞くとそれがより飛び出す絵本のようなリアリティを持って迫ってくる。
さらに加速するかのような、ギターロックバンドとしてのsumikaを感じさせてくれるようなスピード感に溢れたサウンドとボーカルの「Late Show」では観客たちが本当に楽しそうにそれぞれの腕を伸ばして踊っている。小川のキーボードも黒田のギターも癖になるキャッチーなフレーズを満面の笑みで奏でられている。
照明が一気に真っ赤になり、燃え上っている感情を示すかのような「ライラ」での
「水を被って
アンチ招いて
這いつくばって
したいことだけ
死ぬまでやって
そこまでやって
じゃなきゃ
ライラないな
意味がない」
というバンドの意思を表明するかのようなフレーズを歌う片岡の声の強さ。それが小川とのツインボーカルになる曲後半においてそれは片岡だけのものじゃなくてバンド全員が共有する感情になる。春フェスでも演奏されていたのはこの曲が「AMUSIC」の中でもライブ映えする曲であることをわかっているからだろう。
そしてステージ背面には再び巨大な木が戻ってくると片岡が、
「このメンバーたちの共通点は、失敗を知っていること、です。このバンドはそれぞれ他のバンドで活動していた人が集まったバンドで。俺は失敗をしたとは思ってないけれど、前にやっていたバンドは結果を出せなかったという意味では失敗と言われても仕方がない。生まれて初めて本気で走っていたバンドだった。そんな本気は1回しかないと思っていた。
でもこのバンドで2回目の本気ってあるんだなって思うことができた。2回目だから言える。このライブがあなたにとって最後のライブになってもいいって。あなたが音楽以外に大事なものが見つかったんなら、音楽がなくても幸せになれたのならば、それでいい。
でももしまた必要だな、欲しいなって思ったらまたいつでも来て欲しい。そのためにドアはずっと開けておくから」
と、実にsumikaらしい、押し付けっぽいことも強い口調になることもない、片岡特有の一字一句を全て聞き取れるゆっくりとした喋り方で自分たちが音楽を鳴らしていく意味を語る。その横では小川も黒田も頷きながら客席を見ている。
なぜそこまでっていうくらいに片岡は、sumikaはそうして我々が明日からも前を向いて歩いていける言葉をかけてくれる。それはメンバー自身が我々と同じような人間だからだ。音楽があって、ライブがあるからどんなに失敗だと言われるような経験をしても、ここまで前を向いて歩いてきた。その歩く道を選んだのが音楽の道だったのが我々との違いだ。だから我々が心の奥で求めている言葉や求めているバンドの姿がわかるのだ。音楽が決して不要なものではない、音楽があるから生きていけるということも。そうした意思や姿勢がそのままsumikaというバンドの音楽になっている。だから心から楽しいし、心から沁みるのだ。
そうした思いを乗せて歌われたのは片岡のボーカルを思いっきり前面に出した「明日晴れるさ」。この週は1週間ずっと雨予報だった。でもこのライブの翌日は夕方から晴れ間が顔を出した。それはsumikaがこの曲に乗せた願いが叶ったのかもしれない。出来ることなら、未だ雲に覆われている音楽シーンのこの先や未来もsumikaの音楽で、この曲で晴れ渡らせて欲しいのだ。
そして最後に演奏されたのは「センス・オブ・ワンダー」という今のsumikaの王道中の王道の曲であるが、実際にこうして演奏されるのを聴くまではどの曲を最後に演奏するのだろうか?と思っていた。それくらいに今のsumikaにはライブの最後を担うことができる力を持った曲がたくさんある。そんな中でのこの曲は
「進め
1001行目の自分へ
泣けるような未来へ行く
諦めかけていた運命の向こうへ
進め それが全てさ
進め スタート切れば
自分の好きな自分になる」
と最後に歌う。諦めかけていても、信じていればこういう日を迎えることができる。音楽を、ライブを好きな自分でいていいんだと思える。やはりsumikaは自分の心を、その音楽と鳴らしている姿で晴れやかにしてくれる。
アンコールでは暗いままの場内にほのかに灯りがともり、ステージの上の木の周りも夜になったかのような景色に。キッチンカーもどこか夜祭りの屋台であるかのように荷台から暖かい光を放っている中でその雰囲気に合わせるかのように演奏されたのは「AMUSIC」後に早くも放たれた最新シングル収録の「ナイトウォーカー」。そのステージセットの変化が一聴した時に感じたムーディーさをより強く引き出している。
さらにはその「ナイトウォーカー」との両A面シングルであり、対極と言っていい
「シェケラララ シェケラララ」
というサビのコーラスがどこまでも我々をハッピーな気分にさせてくれる「Shake & Shake」。片岡が
「嫌いじゃない」
のフレーズを
「むしろ大好きだぜ、東京!」
と変えて叫び、女性コーラスが務めるようなキーの高さを見事に再現する三浦太郎の持ち前のキーの高さはもしかしたら今後のsumikaのライブには欠かせないものになっていくのかもしれないし、Bメロのビートが打ち込みになる部分ではわずかな隙を狙って荒井がドラムセットから飛び出してきて黒田側のステージ最前で手を叩く。慌てて戻るところも含めて本当に楽しいし、観客も本当に楽しそうに踊っていた。フェスで、あのステージでこの曲が演奏されていたら、間違いなくそれは祝祭と呼べるような瞬間になっていたんだろうな、と思う。
そして片岡は最後に
「正直、去年は諦めかけていた。この景色はもう見れないんじゃないかって。でも自分が好きな自分に戻してくれたのは、他でもないあなたでした」
と言った。きっと音楽に救われているという人は自分自身を愛せない人もたくさんいる。なんならロックの名言には「I hate myself, and I want to die」というものもあったりする。それは片岡もメンバーもそうした経験があるはずだ。
でも音楽をやっている、バンドをやっている自分ならば好きになれる。それは我々もそうだ。音楽が好きな、ライブに来ている自分ならば最大限に自分で肯定してやることができる。それは自分にもちゃんと感情があって、それが他の何よりも音楽によって動くということがわかっているからだ。
そんな中でオープニングと同様に「花鳥風月」という幕が吊るされ、淡いピンク色の照明が季節が一巡りしてまた春がやってきたかのような感覚に陥らせてくれる「晩春風花」は、これまでに何度も辛い選択を余儀なくされてきたsumikaというバンドにようやく春が到来したことをその音でもって告げていた。
「もう離さないからな!」
と片岡が叫び、キメの一音でメンバーが顔を見合わせながら鳴らす姿だけで、涙が出てきそうだった。
演奏が終わると片岡が丁寧に井嶋と三浦のゲストメンバーを紹介して見送ってから、自分たち4人はステージの端から端まで歩いて頭を下げて、最後にマイクを通さずに4人で
「ありがとうございました!」
とはっきり聞こえる声で言った。しかしそれでもまだ言い足りなかったのか、片岡は最後に1人ステージに残って再びマイクを通さず、もう明日以降に声が涸れていてもいいというくらいの声で
「愛してます!」
と言った。声を出すことができれば、その言葉をダイレクトに返すことができたのに、と思いながら拍手をしていた。それはきっとここにいた人全員が同じ気持ちだったはずだ。
音楽は、ライブは本当に必要のないものなんだろうか。もしかしたらそう思ってる人もいるかもしれない。音楽がなくても満たされているような人であれば。
でもこの状況下でも初めてsumikaのライブを見に行きたいと思った人が何人もいて、この状況下でもsumikaのライブが今見たいと思っている人がたくさんいる。そんな人たちが確かにいることをここに来ると実感することができる。そうした光景を見ると、やはり片岡が言ったように、音楽もライブも不要不急なんかじゃないと思える。音楽がなかったらどうしようもないくらいに暗い、辛い毎日を過ごしているかもしれない人たちが、こんなにも泣いたり笑ったりできるのだから。それを実感させてくれるバンドであるsumikaに会える機会がこれ以上なくなりませんように。
1.Lamp
2.祝祭
3.Flower
4.ふっかつのじゅもん
5.イコール
6.わすれもの
7.Jamaica Dynamite
8.溶けた体温、蕩けた魔法
9.願い
10.本音
11.惰星のマーチ
12.フィクション
13.絶叫セレナーデ
14.Traveling
15.Late Show
16.ライラ
17.明日晴れるさ
18.センス・オブ・ワンダー
encore
19.ナイトウォーカー
20.Shake & Shake
21.晩春風花
文 ソノダマン