かつて男女別々に限定ライブをやった時には、女性限定は恵比寿リキッドルームがソールドアウトするのに、男性限定ライブは渋谷eggmanがソールドアウトしないというファンの男女比が実によくわかるような結果となった、Czecho No Republic。
しかしその時の男性限定ライブは女性メンバーのタカハシマイ(ボーカル&キーボード&ギター)は客席にダイブし、武井優心(ボーカル&ベース)をはじめとした男性メンバーたちは上半身裸になり、客席では激しい合唱が起きるという、今まで自分が見てきたチェコのライブの中で最も熱いものだった。
久しぶりの男女別々の限定ライブは今回は初日が男性限定、2日目が女性限定で、渋谷eggmanでの2daysという形に。
しかしながら前回はソールドアウトこそしないものの、ほぼほぼ満員だった客席はかなり寂しめというかかなりゆとりがあるという状況。
そんな中で16:30というかなり早い時間に(この後第二部として公開飲み会という名のトークショーがあるため)場内が暗転すると、流れ始めたのはフィンガー5の「学園天国」。「ヘイ!」というコーラスから早くも男性限定ライブならではの野太い合唱が起こると、最初にステージに現れた砂川一黄(ギター)は学ランを着てサングラスという出で立ちであり、山崎正太郎(ドラム)は口元に黒く×と書かれたマスク着用、紅一点メンバーのタカハシマイはスケバンを彷彿とさせる髪型、武井優心は頬に絆創膏を貼りながら、全員が学ラン姿。
タカハシマイはピシッとツメ部分まで留めているが、武井と砂川は第一ボタンを外し、山崎はボタンを全て外しているという、それぞれの個性が見える学ランの着こなし方である。
すると「Festival」からライブはスタートし、武井は男性しかいない客席に
「手を挙げていこうぜ!」
と「可愛い」と評されることも多いチェコのサウンドであれど煽りながら、
「今日は男しかいないから、おちんちん出してもいいよ!(笑)」
と曲中にいきなり下ネタ。割と限定ライブでなくても下ネタはよく口にするタイプであるが、完全にリミッターが外れている。
前にここで男性限定ライブをやった4年前(そんなに経ったのかという感じがしてしまう)と違うのはギターの八木類が居なくなって4人編成になっているということであるが、当時はどちらかというとキーボードを弾くことが多かったタカハシマイはそれによってエレキギターを弾くことが多くなり、砂川とともにギターを弾きながらコーラスも務める。
「MUSIC」の
「天国があるかないかなんて考えたこともないけど
もしかしてここがそうかなって」
というフレーズはいつもライブで聴くたびに共感してしまうのだが、男性限定となるとまた少しその言葉の持つ意味は変わってくるように聞こえる。
「東京都立、Czecho No Republic学園にようこそ!
ライブ前に急遽、男性限定と言えばヤンキーだ!と思って学ランでライブをすることにした(笑)」
と男子校というのは最初から決まっていたコンセプトではなく、急遽決めたものであることを武井は口にしていたが、それにしてはみんな学ランに違和感がない。本当にこういう学ランを着た高校生いそうだな、とすら思ってしまうほど。
山崎の力強いドラムの連打とともにいつにも増して猛々しいコーラスが響く「Amazing Parade」「Call Her」と初期からの代表曲もいつもとは違う表情を見せるのはチェコの曲が観客も一緒に歌えるコーラスが多いからであり、その一緒に歌う観客が変わることによるものが実に大きいだろう。
どこか歌詞の内容が男性限定ライブに合わせたようにも聞こえる「チキンレース」、その客席の男性だけがサビで定番の振り付けをしている姿が実にシュールな、というか笑えてくる感じすらしてしまう「テレパシー」と続くと、タカハシマイがハンドマイクを持って客席最前列に立って歌う「Everything」はやはりそのタカハシマイの声をもってして会場の雰囲気を優雅に、というかガラッと変えてみせる。翌日の女性限定ライブで曲を変えるならばタカハシマイメインボーカルの曲が増えそうな予感もする。
「ちょっと早いけれど、一足先に夏になろうぜ!」
と言って演奏された「Dream Beach Sunset」は前回の男性限定ライブ時にはまだリリースされたばかりの曲であったが、今やサビでのフラミンゴダンスや武井がハンドマイク、砂川がベースというマルチプレイヤーが顔を揃えるバンドだからこその編成も含めて完全にライブでの定番曲になっている。
「Hey! Hey! Hey!」
というコーラスのフレーズでやはり男ならではの野太い合唱が起こると、
武井「普段のライブからみんなそのくらい頑張ってほしい(笑)
普段はこんな感じで(腕を組んで目を細める)ライブ見てる人たちばっかりだから(笑)」
タカハシマイ「でもなんかチェコのお客さんってイメージ的になよっとしてる感じがあるけど(笑)」
武井「失礼だろ(笑)」
と、昨年夫婦になったことを発表した2人の軽快なやり取りは変わらないし、かといって他のメンバーが入れないというようなわけでもない。つまりは結婚したからといってバンドの何かが変わったということはないのである。
タカハシマイがメインボーカルの、昨年リリースのシングル収録の「Hi Ho」からはそれまでの「熱さ」を強く感じさせたような流れからはモードチェンジし、じっくりとこのバンドの柔らかさや優しさを感じさせるような曲が続く。
それは
「さっき夏の曲をやったけど、みんなに一足早く春が来ますように」
と言って演奏された、会場のすぐ近くの代々木公園を春風が吹くような季節に聴きながら歩くのが似合いそうな「Spring」、配信限定リリースされている「Baby Baby Baby Baby」という流れで続いていく。
するといきなり武井と砂川が芝居臭い口調で話始める。
武井「昨日めちゃカッコいいバンド見つけたんだよ」
砂川「俺も俺も!どうせお前は知らないだろうけど、ビートルズっていうバンド!」
武井「俺はブルーハーツっていうバンドを見つけたぜ!めちゃカッコいいけど、どうやら簡単に演奏できるらしいからやってみようぜ」
という寸劇の後に始まったのはなんとブルーハーツ「キスしてほしい (トゥー・トゥー・トゥー)」のカバー。これまでにも様々なバンドがカバーしている名曲であるし、個人的にはスカパンクバンドのPOTSHOTによる、コーラス部分をホーン隊の演奏が担うカバーがお気に入りなのであるが、果たしてチェコはどんな形で?と思っていると、なんとタカハシマイがボーカルというアレンジ。第二部のトークショーでゲストのラブレターズが
「あんなにキレイなブルーハーツは聞いたことがない」
と評していたが、まさにその通りにパンクでありながらもチェコの曲として昇華されていたし、初期のブルーハーツの曲が持つロマンチックさが最大限に引き出された形に。武井に
「ずっとエイトビートで」
と説明されていた山崎のドラムも単なるエイトビートではなくて合間合間に細かなアレンジが加えられているのはさすが。なんとか音源化してくれないだろうか。そして翌日もこの曲をやるのだろうか。
そんなサプライズの後には「ネバーランド」からクライマックスへと向かっていく。まさにこのライブそのものが「ネバーランド」であるかのようにメンバーも満面の笑みで演奏すると、ある意味ではチェコのバンドとしてのイメージを決定づけた曲とも言える「No Way」、デジタルな打ち込みサウンドを使い、ファンタジックでありながらもバンドとしての熱量が込められた「Forever Dreaming」とキラーチューンを畳み掛けると、
武井「本当は明日発表されるんだけど、6月10日にフルアルバムが出ます!タイトルは?」
タカハシマイ「オニヤンマ」
武井「なんでそれ?(笑)まだタイトルは決まってません(笑)」
砂川「なんで聞いたんだよ(笑)そしてなんでオニヤンマが出てきたんだよ(笑)」
という絶妙に嘘なのかわからないくらいの自然な流れでアルバムの告知をし、さらには10周年にちなんで、来月から10日に1曲ずつ新曲を配信していくという2020年のアクティブなバンドの活動について発表すると、
「いつまでもこういう気持ちを忘れないように」
と言って最後に演奏されたのは「好奇心」。近年の曲では最もバンドの代表曲となっているが、こうして限定ライブをしたりトークショーをしたり、コンセプトを決めたライブをしたり、バンドとしての枠に囚われないような試み(演技など)をしたりというチェコの活動形態は紛れもなく好奇心の赴くままに行われている。ただ曲が良いからというだけでなく、今のチェコのバンドのモードをそのまま曲にしたという意味でもやはりこの曲はバンドの代表曲であり、こうして最後に演奏されるべき曲なのである。
アンコールでは学ランを脱いで白シャツのみになった砂川が先に1人で登場して、観客の手拍子をかつての笑っていいとも!の司会時のタモリのように操るというおなじみのパフォーマンスの後に全員がステージに戻ると、砂川をヤンキーらしくオールバックにさせたり、裸にしようとしたりという砂川いじりから、3月に配信される新曲「摩訶不思議」を披露。
4つ打ちのダンサブルなリズムと、その上を華麗に泳ぐからこそリズム以上に踊らせるタカハシマイのキーボードのサウンド。途中ではパンクらしいアレンジになるあたり、ブルーハーツのカバーを今やることにしたのは決して突発的なものではなく、バンドの今のモードを反映したものとも言っていいだろう。
タイトルからはかつてバンドが担当したこともある「ドラゴンボール」の何十年も前の初期のテーマ曲を彷彿とさせるな、と思っていたら、最後の最後に演奏されたのはそのドラゴンボールの主題歌としてこのバンドの存在を広く世に知らしめた「Oh Yeah!!!!!!!」。
5年前に日比谷野音でワンマンをやった際にアンコールで演奏され、その時までは武井はベースを弾きながら歌うという形だったのが、その日に曲中にベースを置いてハンドマイクで歌う(その時のテンションでそうしたことがのちに語られている)という形で演奏したことにより、それからはずっと武井はハンドマイクで歌うという形で演奏されている。
10周年ということを聞いた後だからか、そうした自分が見てきたこのバンドの歴史(それこそこのバンドを結成する前に武井がThe Mirrazのサポートベーシストだった頃からも含めて)を思い返してしまったし、紛れもなく自分と同世代であるメンバーが学ランを着ている姿からは、もしメンバーがクラスメイトとして学ランを着ていたら音楽好きとして友達になっていただろうか、なんていうことを考えていた。
でもそんなことを思いながらも、おそらくこのバンドのライブで演奏されたこの曲においてこんなに大きな声で歌ったことはあるだろうか、というくらいに大きな声で歌っていた。それはこの日ここにいた人全員がそうだったと思う。
そうしてライブは終わったが、第二部のトークショーにも参加。eggmanがプロデュースしている、近くに店を構えるカフェがフランクフルトなどの酒のつまみを販売し、チケット代1500円で2ドリンク付きなので実質ほぼタダみたいな料金設定の中、キングオブコントの決勝に進出した経験もある芸人、ラブレターズをゲストに迎えた、公開打ち上げのような内容。
ライブについて話すのはもちろんだが、観客の名前や出身地、チェコの好きな曲を当てるゲームに本気で挑むメンバーたち。とりわけ、
「明日世界が滅亡するなら何をする?」
という問いに対しての観客の
「こっそり明日の女性限定ライブに忍び込む」
という回答はメンバーを感嘆させていた。
およそ1時間半ほど、メンバーも酒を飲みながら、観客も好きなタイミングで酒を飲んだり食べ物を食べたり、トイレに行ったりできるという雰囲気はよく
「自由に楽しんで!」
と口にするこのバンドのライブの空気そのものだった。おそらく第一部に参加していた観客のほとんどが第二部にも参加していたし、そこもやはり男性限定だからこその一部のメンバーの変態性が暴かれるという一幕もあった。
最後には酒を飲みすぎて明らかに酔っ払っていた山崎が観客1人1人にうまい棒の詰め合わせから1本1本手渡ししていたのだが、途中でうまい棒がなくなってしまい、自分に渡されたのは詰め合わせが入っていた袋だけであった。
かつてZeppや日比谷野音を即完させ、COUNTDOWN JAPANではGALAXY STAGEの年越しを担うなど、武道館すらも間違いなく視界に捉えていた時期からしたらかなり落ち着いてきた。
しかしこうしてワンマンを見たり、酒を飲んでいるからこそのメンバーの素が見れるトークショーなどを見ていると、本当に良い曲がたくさんあって、面白いことをやっているバンドだと思うし、男性限定という空気だからこそ、おしゃれだとか可愛いだとかではない、カッコいいロックバンドであるということを改めて確かめることができる。
だからこそアルバムはもちろん、これからもこうしてこのバンドだからこその活動を見せて欲しいし、それによっていろんな楽しみ方をしたい。今やいろんなバンドが男性限定とかのライブを行っているが、こんなにもそうした限定ライブを行っても波風が立たないアーティストはいないと思うし、自分が男性限定ライブの楽しさを知ることができたのはこのバンドの前回の男性限定ライブに来たからだ。
パンクやロックンロールなど、ゴリゴリなバンドのライブによく行く自分が見ても本当にカッコいいな、と思えるライブをやっているバンドであるからこそ、今一度もっとたくさんの人にライブを見てもらいたいし、できることなら自分のような男のロックファンにこそ見てもらいたいと思う。
負けない意思を持って、ほら前を向いてやってかなくちゃ。
1.Festival
2.MUSIC
3.Amazing Parade
4.Call Her
5.チキンレース
6.テレパシー
7.Everything
8.Dream Beach Sunset
9.Hi Ho
10.Spring
11.Baby Baby Baby Baby
12.キスしてほしい (トゥー・トゥー・トゥー)
13.ネバーランド
14.No Way
15.Forever Dreaming
16.好奇心
encore
17.摩訶不思議
18.Oh Yeah!!!!!!!
文 ソノダマン