3日目。前日は会場に到着してから入場するまでにかなり時間がかかったので早めに会場に着くようにしたのだが、前日までは
アルコール消毒→持ち物検査→ワクチン接種証明 or PCR検査陰性証明→QRチケット照合
というのが入場時の流れだったのが、アルコール消毒を会場に入るタイミングに変更するということによって、入場が一気にスムーズに改善されていた。さすがというか、もはやロッキンオンのその実行力は恐ろしくすら感じる。渋谷陽一は朝礼で
「昨日の参加者の平均年齢が35歳。今日は25歳。若いからみんなデジタルチケット慣れしてる(笑)」
とも言っていたが。
10:20〜 ポルカドットスティングレイ
開催中止になってしまった昨年のこのフェスで初めてEARTH STAGEに立つはずだったポルカドットスティングレイは今回のこのフェスの3日目のトップバッターとして初めてEARTH STAGEに立つことになった。リハからテンション高い歌声を響かせていた雫(ボーカル&ギター)のrockin’on JAPAN誌上でのゲームBGM連載もかなりの長期連載になっている。
本編でメンバーが登場し、金髪ショートという髪型の雫が観客の腕を挙げるように煽ってからバンドがキメを打つと、スクリーンには「#CDJ2122」などのハッシュタグと観客をさらに煽る言葉が次々に映し出されてから、バンドロゴがドンと映し出され、バンドが今年リリースされたEP収録の「青い」をタイトル通りに真っ青な照明に照らされながら鳴らし始める。
すでにSNSでも予告されていた通りに、この日のライブは代表曲的なキラーチューンを連発するものになっており、それは前月のMINE ROCK FESに出演した時とは違う内容であり、2021年最後のライブであるということを考慮したものであろうけれど、実際にバンドがシーンに登場するきっかけとなった「テレキャスター・ストライプ」を早くも演奏するのだが、ウエムラユウキの力強いベースとミツヤスカズマによる正確無比なドラムのリズムに合わせて雫とエジマハルシ(ギター)は少し飛び跳ねるようにギターを弾く。その姿からはこのステージに立ってライブをしていることの喜びを感じさせる。それはかなり前に初めてこのバンドのライブを見た時は感じられなかったものであり、だからこそ演奏が正確なだけに機械がライブをしているような印象を感じていたのだが、それは確実に変わってきている。
JAPAN ONLINE FESでもこのバンドは独特の映像などを使ったライブを見せてきたが、実際のライブでも「ヒミツ」では歌詞と映像をマッチングさせたりという使い方はそうした演出にも凝ってきたこのバンドならではのライブの作り方であるが、雫はステージ上でダンスを踊る戦隊コスプレの人がバンドのマネージャーであることを普通に口にしたりというのもこのライブならではのテンションの高さなのだろうか。
そんなMCからバンドの持つキャッチーなメロディの結晶とも言えるポップサイドの「とげめくスピカ」からダンサブルなサウンドのギターロック「ICHIDAIJI」はしかしギターリフのキャッチーさと雫の伸びやかなボーカルというこのバンドの持ち味も光る曲であるのだが、やはり凝った映像が映し出される「化身」はそんな高い演奏技術を持ったバンドの力を全て注ぎ込まないと鳴らせないような複雑さをポップかつキャッチーに昇華した曲であり、それは言葉数の多い歌詞がスピーディーに流れていく雫のボーカルもそうである。
そんな高難易度の曲の後に演奏されるのが、声優の花澤香菜に提供した曲のセルフカバーである「SHINOBI-NAI」であり、マネージャーによる振り付けを雫自身も歌いながら行うことによって、それが客席にも広がっていくのだが、その振り付けはなかなかにシュールなものである。
そして
「次で最後の曲です!」
と言った後に「えー!」という声が出せない観客が両腕を伸ばすリアクションをするというのも最前エリアのファンにはすでに浸透しているのだが、それを
「フレデリックのライブでやったら健司さんビックリするやろうな(笑)」
と仲の良さを感じさせながら最後に演奏されたのはギターカッティングがリズミカルに鳴らされて始まる「ダイバー」であり、キラーチューン連発的なライブの中でも今年リリースのEP収録曲がそのライブの最後を担っているというところにこのバンドの確かなる進化と、雫がハンドマイクで腕を挙げながら歌う姿と表情からはやはりこのライブが楽しくて仕方がないという感情を感じさせた。
2022年にはこの幕張メッセでのワンマンも控えているが、そこでワンマンができるバンドになったということを、初のEARTH STAGEとなったこの日のライブは示していた。
リハ.お正月
リハ.DENKOUSEKKA
1.青い
2.テレキャスター・ストライプ
3.ヒミツ
4.とげめくスピカ
5.ICHIDAIJI
6.化身
7.SHINOBI-NAI
8.ダイバー
11:35〜 フレデリック
このフェス開催期間中の幕張メッセの最寄駅である海浜幕張駅にはフレデリックが来年開催するツアーのポスターがサカナクションなどとともに貼られまくっていた。それくらいに幕張をジャックしているフレデリックはこのライブ中に重大発表を行うことを予告しており、それがツアーの中でまだ明かされていない会場の発表であろうことは間違いない。
メンバー4人がステージに登場すると、
「45分一本勝負、フレデリック、よろしくお願いします」
と三原健司(ボーカル&ギター)が挨拶し、
「思い出にされるくらいなら二度とあなたに歌わないよ」
と高らかに歌い始め、スクリーンにタイトルとともに次々に歌詞が映し出される「名悪役」からスタートして完全にこの幕張メッセのEARTH STAGEをフレデリックの世界に染め上げていくと、今年リリースされた「ANSWER」収録の、フレデリックのエモーショナルなギターロック曲「TOMOSHI BEAT」と、フェスのセットリストを常に最新の自分たちのものに刷新してきたフレデリックらしいスタートである。
高橋武のドラムのビートの連打によって始まる「KITAKU BEATS」は普段は「遊ぶ?遊ばない?」という口上から始まるのだが、この日は
「幕張!俺たちのCOUNTDOWN JAPANが帰ってきたぞー!」
と健司がこのフェスが開催されている喜び、自分たちがこのステージに立てている喜びを爆発させるものになっている。その喜びを赤頭隆児(ギター)は高く飛び跳ねまくる姿で、三原康司(ベース)はうねりまくるリズムで、高橋は手数を増しまくったドラムの連打で表す。その喜びがビートに乗ってより観客を踊らせてくれるのである。だからこそより遊びきってから帰宅したいと思う。
するとここでガラッと雰囲気が変わるのは揺蕩うような幽玄なサウンドの「峠の幽霊」が演奏されたからであるが、この曲を聴くと思い出すのはやはり2020年2月の横浜アリーナでのワンマンでこの曲が演奏された時。コロナ禍になる前の最後と言っていい、規模が大きな会場でのフルキャパでのライブ。あの時の幽霊が場内を歩くような演出を思い出すとともに、あの時はまさかその直後からライブが次々になくなってしまうなんて全く思っていなかった心境をも思い出す。フレデリックがこの曲をこうして演奏しているのは、あの日の象徴と言えるような曲を演奏することによって、あの日のような光景や世界を取り戻そうとしているんじゃないかとも思う。
すると健司はギターを置いてハンドマイクとなり、カラフルな照明と映像とともに「Wake Me Up」をリズミカルに歌い始める。その繰り返されるタイトルフレーズの歌い方の抑揚のつけ方、感情の入れ方が変化していき、バンドのサウンドも後半になると一気に激しくなっていくというのはコロナ禍の中でもツアーを回ることによってこうして演奏されてきたことでこの曲がライブで進化してきたということだ。
その進化は健司のボーカルにも現れているというのは続く「シンセンス」をステージを左右に歩き回りながら歌う姿からもわかるのだが、飛び跳ねながら演奏する赤頭と康司、やはり細かい手数を増している高橋のドラムによるバンドサウンドもやはり進化している。それがちゃんとわかるようなライブを見せてくれているのが本当に嬉しいし、ライブシーンの最前線で戦い続けているバンドとしての頼もしさも感じさせてくれる。
そして健司がこのフェスへ思いを込めるような言葉を口にして、それを託すように演奏が始まった、ライブならではの疾走感溢れるイントロが追加された曲はもちろん「オドループ」なのだが、健司は
「何億回再生されようが、俺は目の前のあなたに歌いに来たんだ!」
と、1億回再生を突破したこの曲が画面の中ではなくてあくまでこうしたライブの場のための曲であることを口にする。それがさらにこの曲で踊りまくる客席をさらに楽しく踊らせてくれる。いつだって音楽への愛情を自分たちの音楽として示してきたフレデリックがこうしてフェスのステージに立つようになった原点とも言えるこの曲はやはり今の状況でのフェスのフレデリックのライブになくてはならない曲だと思う。できれば来年には大晦日の夜中から元日の朝まで、踊ってない夜が気に入らないってくらいに踊れるような世の中になってくれといたら。
そして健司は現在バンドが新曲を作り続けていることを口にし、それがアルバムへと繋がっていくことを語る。そのアルバムの曲をライブハウス、ホール、アリーナのどこで響かせるのかを考えた結果にたどり着いた答えは、代々木体育館。
正直、あれだけ幕張をジャックしていただけにてっきり幕張メッセでワンマンを行うんだと思っていたのだけれど、あのまさに体育館でしかないような会場をフレデリックの音楽はどう染め上げてくれるのかが今から本当に楽しみだ。その前にはZepp Hanedaでのツアーなども待っている。
そんな重大発表を終えての最後の曲は、和田アキ子に提供して2021年の話題になった曲であり、おそらくは次のアルバムでも重要な位置になる曲であろう「YONA YONA DANCE」のフレデリックバージョン。
「ならば踊らにゃ損 踊らにゃ損です
踊らにゃ損 踊らにゃ損です
君と舞っていたい 舞っていたいだけです」
というサビのフレーズは紛れもなく「オドループ」に通じるものであり、フレデリックがやはり音楽への愛と踊ることの楽しさと素晴らしさを歌い続けているということの証明でもある。
「心踊れない毎日なんて 私気に食わないわ」
こうやってこの音楽が鳴らされている場所があれば、我々の心は踊り続けられる。
フレデリックがこのフェスに初出演したのはまだロッキンオンのフェス自体に初出演だった、COSMO STAGE。その時はまだ「オドループ」がバズったバンドというくらいのイメージを持たれていたけれど、その時のライブは入場規制がかかるくらいに超満員となり、それがEARTH STAGEに、ロッキンのGRASS STAGEに到達するくらいの快進撃の始まりだった。きっとメンバーたちもあの時のCOSMO STAGEの景色を覚えているんじゃないかと思う。だからこそ、
「俺たちのCOUNTDOWN JAPANが帰ってきた」
と言えるくらいにこのフェスへ愛を注いでくれるんじゃないかと。
俺たちのCOUNTDOWN JAPANに、俺たちのフレデリックが帰ってきた瞬間だった。
リハ.リリリピート
リハ.逃避行
1.名悪役
2.KITAKU BEATS
3.TOMOSHI BEAT
4.峠の幽霊
5.Wake Me Up
6.シンセンス
7.オドループ
8.YONA YONA DANCE
12:50〜 Saucy Dog
今回の出演者が出揃った時に1番意外というか、抜擢だなと思ったのはSaucy Dogだった。前日のthe HIATUSやCoccoというベテランはともかくとして、おそらく通常通りのステージ構成だったとしたらGALAXY STAGEへの出演だろうと思っていたからである。そんな特殊な状況とはいえSaucy Dog初のEARTH STAGE出演である。
いつものように、せとゆいか(ドラム)、秋澤和貴(ベース)、石原慎也(ボーカル&ギター)が1人ずつステージに登場して観客に深々と頭を下げると、石原がギターを鳴らしながら「雀ノ欠伸」を歌い始めるのだが、その時点で石原の歌声はこの幕張メッセの巨大な会場にしっかり響き渡る規模のものであることがすぐにわかる。それはその石原の歌を引き立てるようなシンプルなリズムとサウンドということもあるだろうが、ワンマンでは武道館、フェスでもアリーナクラスの規模でライブを重ねてきた2021年の経験が確実に生きている。
その歌声を聴いていると緊張を全く感じさせないな、と思ったのだが、しかし続く「ナイトクロージング」で石原は思いっきり
「歌詞間違えちゃった!」
と曲中に叫ぶ。しかも
「もう1回やり直してもいい!?」
と言うのだが、冷静な秋澤とせとはここからまたやり直したら持ち時間を確実にオーバーしてしまうということをわかっているのだろう、演奏を止めることなくそのまま突き進んでいく。
それは最新曲「あぁ、もう。」でもわかりやすいくらいに思いっきり歌詞を飛ばしたりと、確かに石原は割とそうなりがちなボーカリストではあるし、そうしたシーンを今までにも見ているのだが、さすがに2曲連続でそうなるというのは相当に緊張していたのだろうか。
しかしせとはフェスのタイトルに入っている「2122」を理解していなかったりと、見るからに天然そうな石原だけではなく、実はこのバンドはみんな天然なんじゃないかとすら思えてくる。そんなエピソードはrockin’on JAPANの酒飲みコーナーである「爆飲会」でも語られていたけれど。
そんな中で演奏された「シンデレラボーイ」は自分は共感することは全くないようなタイプの歌詞の曲ではあるが、そのメロディの美しさはまさにこの規模の会場で鳴らされるべきバラードである。であるし、自分は共感できる歌詞ではないけれど、この曲を自分自身に重ねて聴いている人もたくさんいるんだろうなということもわかる。
するとまさにタイトル通りに雷鳴の映像がスクリーンに流れる中で演奏された「雷に打たれて」で再び石原が歌詞を飛ばすという、もはや微笑ましく思えてくるような場面から、石原がステージ上手の前に出てきてギターを掻き鳴らす「ゴーストバスター」から「バンドワゴンに乗って」と後半はアッパーな曲を続けることによってリズム隊2人の演奏も一気に激しさと強さを増すと、石原は
「俺もみんなと同じ普通の人間だから、みんなと同じことで悩んだりするし、死にたいと思うことだってあるし。でもみんなと同じだからこそ書ける歌詞があるんじゃないかって。上京してきた時に書いた曲だけど、みんながそういう時に聴いてもらえたらっていう曲」
と言って「東京」を演奏する。スクリーンには夜の東京を描いたような映像が映し出され、それが曲が進むにつれて朝になっていく。それはそのままライブシーンの、フェスシーンの夜明けを描いているかのようだったし、難しい言葉みたいなものを使わずに描かれている歌詞だからこそ、石原が口にしたようにこの曲に普遍性を宿らせている。きっと地方から東京に出てきてこの曲を聴いて、それが自分のための歌になるという人もたくさん出てくるはずだ。
そんなライブの最後に演奏されたのは、
「今年の嫌なことに!」
と、2021年のネガティブなことに別れを告げて新しい1年へ向かい出そうというメッセージを込めて演奏されたであろう「グッバイ」。タイトルフレーズで秋澤とせとのコーラスが石原の歌に重なっていく。それが一点の淀みもなく幕張メッセの中に響き渡っていくのを聞いていて、石原が
「いつかここでワンマンができるようなバンドになりたい!」
という野望も叶う日が来るんじゃないかと思えたし、来年もまたこのフェスでこのステージに立っているんじゃないかと思えた。大抜擢だと思ったこのステージは、今のこのバンドにしっかり見合うものだったのだ。ステージから去る時にせとは涙を拭っていたように見えたが、それもまた来年以降のこのステージ、この場所に繋がるものになるんじゃないかと思っていた。
リハ.いつか (ちょっと)
リハ.メトロノウム
リハ.煙
リハ.BLUE
リハ.真昼の月
1.雀ノ欠伸
2.ナイトクロージング
3.あぁ、もう。
4.シンデレラボーイ
5.雷に打たれて
6.ゴーストバスター
7.バンドワゴンに乗って
8.東京
9.グッバイ
14:05〜 SUPER BEAVER
すでに2年前の1920の時点でEARTH STAGEに出演しているが、コロナ禍の中でも東名阪のアリーナツアーを行ってきたことによって、より一層このEARTH STAGEでしかないな、という存在感の強さを放ち始めるようになった、SUPER BEAVER。この日、たくさんの人がこのバンドのTシャツなどを着ていたことからも今のこのバンドの求心力の強さがよくわかる。
メンバー4人がステージに登場すると、上杉研太(ベース)が早くもステージ前に出てきて両手で観客を煽っている中で渋谷龍太(ボーカル)はMERRY ROCKの時と同様に髪を結いた状態でステージに登場し、
「まずはあなたのお手を拝借」
と言って柳沢亮太(ギター)、上杉、藤原広明(ドラム)とともに観客の両手を頭の頭上に挙げて手拍子を始めた瞬間に渋谷が歌い始める「美しい日」からスタートし、サビでは柳沢が
「幕張、手を見せてくれー!」
と言って観客の手をさらに高く挙げさせる。そのたくさんの人の手が見える光景が、観客が飛び跳ねることで伝わる振動が、この日を「美しい日」であると感じさせてくれる。
渋谷が結いていた髪を解いて長い髪をなびかせると、
「いつだっていつだって始まりは、青い春」
と言って、再び観客の腕が上がる「青い春」で観客が合唱できないならばとメンバーの大きな声でのコーラスが重なっていく。
すると渋谷は
「2021年も大変お世話になりました!来年もお世話になります!そしてたくさんお世話しますので、よろしくお願いします!」
と頼もしい言葉を口にしてから、2021年にリリースされたシングル曲「名前を呼ぶよ」の
「名前を呼んでよ 会いに行くよ
命の意味だ 僕らの意味だ」
というフレーズがそのままそのMCの言葉に重なっていく。それは渋谷の言葉がバンドのメッセージそのものであり、意思表示でもあり、それがそのまま音楽として鳴っているバンドであるということがよくわかるのだ。
さらに東京からほど近いこの幕張で美しく曲が、音が輝くように鳴らされた「東京流星群」ではやはり観客が歌えないからこそ、メンバーそれぞれがより大きな声でタイトルフレーズを歌う。2021年に80本以上のライブを行い、12月だけで14本目にして年内最後のライブであるだけに、バンド初期からの代表曲であるこの曲がここで鳴らされる意味を強く感じる。
しかしそんな観客が歌うことができない状況であっても渋谷は
「今まで通りの楽しみ方ができないっていうんであれば、できるようになるまでライブやり続けて待ちます!
歌えないっていうんなら、歌えるようになるまでライブやり続けて待ちます!」
と、あくまで自分たちが音楽を、ライブを止めるつもりがないこと、だからこそライブをやり続けてその日が来ることを待つことを口にする。それは「何も出来なかった一年」からライブができるようになった2021年を駆け抜けてきたことによってより思いを強くしたところもあるのだろう。
そんな渋谷の思いはやはり
「楽しい予感のする方へ」
という「予感」の歌詞と重なっていく。
「歌えないけど!」
と言いながらもマイクを客席に向けるというのは、自分たちがステージ上でやることは決して変わることはないというバンドの姿勢そのものだと言えるだろう。
「喋りたいなぁ…」
と渋谷がギターをチューニングしている柳沢の音をうるさそうに制すると、
「音楽やライブハウスに力があるんじゃなくて、音楽をやってる人やライブハウスをやっている人と音楽を聴いてるあなたに力がある。
助けてもらうのも支えてもらうのもカッコ悪くない。助けてもらいっぱなし、支えてもらいっぱなしなのがカッコ悪いだけ。今年もいろんな人に助けてもらいました。支えてもらいました。それをまた来年何倍にもして返しに行きます」
と自身の、バンドの生き様を口にすると、やはりそれはその直後に演奏された「人として」の持つメッセージと重なっていく。
「人としてかっこよく生きていたいじゃないか」
という歌詞はその「貰ったものを何倍にもして返しに行く」というバンドの生き方そのものだ。そんなバンドが我々観客1人1人、あなたから貰いっぱなしであると口にしてくれている。こちらからしたらビーバーの音楽やライブ、そしてその言葉に支えられて、生きる力を貰ったりしているけれど、そんなあなたがいるからこそこうしてステージに立つ意味があるとも。そう言ってくれるバンドの名前に、生き様に泥を塗らないためにも、我々1人1人もかっこよく生きていかなければいけないと思う。
そんなライブの最後に演奏されたのは、2021年にリリースされたアルバムのタイトル曲である「アイラヴユー」。
「アイラヴユーが歌いたい 愛してる 愛してる
ぎこちなくてもいいさ とにかく届けばいい
照れながらでもいいさ 顔がほころぶなら」
というフレーズが、
「あなたに今1番歌いたい歌」
という言葉の芯として強く響いてくる。それはやはりメンバー1人1人の声にその思いがこもっていて、それが重なっているのが聴いていてわかるから。まだフェスの折り返しの時間とは思えないくらいに強い大団円感を感じさせたというのは、いずれロッキンオンのフェスのメインステージのトリを務めるのを見れる日が来るのかもしれないと思った。
人であるということということは自分自身音楽を聴く上で、ライブを見る上でトップクラスに重要なことだと思っている。ライブを見ていて感動するのも、またライブを見たいと思うのもそこに人間らしさ、その音を鳴らしている人のカッコよさが感じられるアーティストであることがほとんどであるから。それを2021年1番感じさせてくれたのはこのSUPER BEAVERのライブだったと言っていいのかもしれない。
1.美しい日
2.青い春
3.名前を呼ぶよ
4.東京流星群
5.予感
6.人として
7.アイラヴユー
15:20〜 NUMBER GIRL
サウンドチェックから凄まじい轟音で「水色革命」を演奏すると、向井秀徳(ボーカル&ギター)は
「では皆さま、また来年お会いしましょう」
と言って捌けていく。思わず「サウンドチェックだけしに来たんかい」とみんな心の中でツッコミを入れていたであろうNUMBER GIRL、このフェス初開催時の0304の時から向井はZAZEN BOYSとソロで出演し続けてきたが、2年前に再結成した時に続いての出演である。
メンバー全員がマスクをして登場してそれを外すと、向井が
「幕張。時には女とまぐわり」
というZAZEN BOYSがこのEARTH STAGEに立っていた頃からのこの決まり文句を発して拍手が起こると、
「ヤバイ さらにやばい バリヤバ」
と歌い始める「ZEGEN VS UNDERCOVER」でスタートするのだが、今年何回かNUMBER GIRLのライブを見ている身といえどもその轟音っぷりに衝撃を受けてしまう。きっとこれは何回ライブを見ても慣れることはないだろう。それくらいに鳴らしている音が違いすぎる。
その音の違いは向井はもちろん、田渕ひさ子のギター、中尾憲太郎のベース、アヒト・イナザワのドラムという楽器の一つ一つが凄まじいのであるが、それが重なることによってさらに凄まじい一つの音塊になっている。
それは田渕と中尾がピョンピョン飛び跳ねながらイントロを鳴らす「EIGHT BEATER」、アヒトのドラムが狂い咲くように凄まじい手数で鳴らされまくる「CIBICCOさん」と続いていくのだが、きっとこのバンドのライブはこうした轟音ゆえに音響が本当に大事だと思われるのだが、スピーカーを場内に増設するという、経費を可能な限りに削減しながらも音響の進化を図ったこのフェスだからこそ、その凄まじい音の一つ一つをしっかり聴き分けることができる。それだけに今回もこのステージに立つこのバンドのライブが見れて心から感謝である。
すると突如として向井が、
「あなたもいつかは透明少女になれる!」
と言ってから「透明少女」を演奏したので、え?なれるの?とも思ってしまいながらも、やはりアヒトの激しいドラムの連打っぷりは否が応でも体が反応して動いてしまう。それは前の列の椅子に体が当たってしまうくらいに反応してしまうのだが、立っていてもそうなるのにNUMBER GIRLのワンマンでは基本的に立ってはいけないという現状のルールは苦行としか思えない。
そんな中で演奏された新曲「排水管」はすでにいろんなライブで披露されている曲であるが、個人的には後期NUMBER GIRLからZAZEN BOYSへ向かう道中の曲というイメージだ。それこそ再結成したのは「透明少女」のようなギターロック曲を演奏するためだと思っていただけに、新曲がそうしたタイプでは全くないというのは少し驚きである。
再び向井が咆哮するように歌う「TATTOOあり」から、
「あった!あったよ!」
と言い始めるので、何があったんだ?と思っていたら
「チューニング合ったよ!」
と言い出すので、客席は完全に「………」というリアクションしか取りようがなくなってからの「タッチ」と、ギター、ベース、ドラムという楽器はこんなにも凶器のようなハガネの振動を鳴らすことができるものなのかと改めて驚いてしまうのだが、それは間違いなくこの4人じゃないとそうまでは感じられないものだ。だからこそ一度解散という道を選ばざるを得なかったこともわかるというか。
そうして向井が
「おーい!おーい!」
と叫びまくってバンドサウンドは激しさと重さと鋭さの極致を見せるかのような「I don’t know」を演奏するとおもむろにそれぞれがマスクをつけ、向井がメンバーを1人ずつ紹介し、この日何度目かわからないくらいに言っていた
「福岡県博多市からやってきました、NUMBER GIRLでした」
とバンド紹介をしてステージを去っていったのだが、持ち時間間違えていたんじゃないのかというくらいに巻いて終わっていた。まさか「OMOIDE IN MY HEAD」も「鉄風鋭くなって」もやらずに終わるとは思わなかった。
この日、自分の座席の前の列はNUMBER GIRLが解散する前には生まれていないかもしれないくらいの年齢のSUPER BEAVERのTシャツを着た女性2人組だった。その2人がNUMBER GIRLのライブを見た後に「全然曲知らなかったけどカッコよかった」と言っているのを見るだけで泣きそうになった。それは好きなバンドと知らないバンドが同じステージに立つフェスじゃなきゃ見れないものだから。休憩時間にしていた人も多いだろうけれど、NUMBER GIRLを見てくれてありがとうと思うし、やっぱりロックバンドのカッコよさに惹かれる人はこのバンドのカッコよさがライブを見てすぐにわかるんだなとも思った。
リハ.水色革命
1.ZEGEN VS UNDERCOVER
2.EIGHT BEATER
3.CIBICCOさん
4.透明少女
5.排水管
6.TATTOOあり
7.タッチ
8.I don’t know
16:35〜 BiSH
この年末に突如として飛び込んできた、BiSHの2023年で解散というニュースはYahoo!ニュースなどでもトップニュースとして報じられていた。それくらいの存在であり、この日の翌日には紅白歌合戦にも出演した。そんなBiSHのライブとしては2021年最後のステージである。
中止になった昨年もEARTH STAGE出演予定だったが、2年前の出演時はGALAXY STAGEへの出演だったため、今回が初のEARTH STAGEであり、そのステージには時間前からバンドメンバーがスタンバイしている。
そこに黒を基調とした衣装を着たメンバーが登場すると、セントチヒロ・チッチが
「BiSHです」
とだけ挨拶して、「オーケストラ」からスタートし、独特な振り付けを踊りながら歌い始める。
序盤から「BiSH -星が瞬く夜に-」など代表曲も連発されるのだが、自分が今までに見る機会があったライブはバンド編成じゃなかったりしたのでライブとしての物足りなさも感じたりしたことがあったのだが、この日は生バンドの演奏がそもそもの楽曲の持つロックさをより強く感じさせてくれる。
今やA_oやソロとしても活躍するアイナ・ジ・エンドとセントチヒロ・チッチの歌唱力の高さはそれぞれのソロなどでも聴いてわかっていたことであるが、かつて氣志團万博などでライブを見た時などに比べると「こんなに歌上手くなったのか…」と思うくらいにそれぞれの歌唱力が向上しているのがよくわかる。特にアユニ・Dはこの日NUMBER GIRLで出演していた田渕ひさ子らとPEDROとして活動してきた成果がBiSHのボーカルとしても確実に還元されていることがわかるくらいにシンガーとして進化している。rockin’on JAPANのインタビューでは1番最後に加入しただけに、いつも全く自信がないというか、「自分がこのグループにいる意味とは」ということに悩むくらいにネガティブなことをいつも話しているイメージが強いのだが、ステージで歌う姿からはそんなことを全く感じさせない。
そうした歌唱力の進化はもちろん、歌としての表現力もそれぞれ増しているように感じたのは、歌割りの中でもモモコグミカンパニー、ハシヤスメ・アツコのアイナやチッチに比べたら歌う頻度が高いわけではない2人の声も「この人が歌っているんだな」というのがよくわかるようになったからだ。それは何と形容すればいいのかわからないような髪型になっているリンリンの叫び声もそうで、この6人それぞれの声がBiSHを形成しているということがよくわかるし、解散の理由なんか自分には全くわからないけれど、もう誰か1人でもいなくなるんならばそれはグループの終わりと同義になるんだろうなということもわかる。
正直、今までは歌唱力に関してはそこまでは…というイメージはこの日のライブを見てかなり変わった。その歌唱力の向上がこのEARTH STAGEに立つべくして立っているんだなということもよくわかるし、何よりも「誰が歌っているかわからない」という自分が大人数アイドルが得意ではない理由がBiSHには通用しないなということもよくわかる。
とはいえ「I have no idea.」に出てくる下ネタ歌詞や振り付けはやはりちょっとスッと受け入れられないところもあるけれど。
しかしながらそんな曲の後にアユニは少したどたどしくも、
「音楽を作るのも演奏するのも人。音楽が私を尊敬する人と繋げてくれた」
という、どこかこの日のSUPER BEAVERのMCにも通じるようなことを口にする。それがそのままアユニ自身が作詞した「スーパーヒーローミュージック」へと繋がっていくことも含めて。田渕ひさ子と一緒にバンドをやれるというPEDROの経験がこの言葉であり、この曲の
「そうだ 痛みも乗り越えてきたんだ
過去があって今があるさ
素晴らしき人生、ぶちかましていくのさ」
という歌詞にも現れている。どうやらアユニは、BiSHは自分が思っていたよりもはるかにカッコいい人であり、グループだったようだ。
そんなライブの最後は「beautifulさ」でメンバーは満面の笑みを浮かべながら歌い、踊る。この歌詞を書いたのがリンリンであるというところに彼女の作家性を強く感じさせるが、この曲を歌っている姿からは解散を発表しているグループの切実さや哀愁のようなものは全く感じなかったし、メンバーもそのことは全く口にしなかった。それはまだ2年間活動していくから、今はもっと楽しんでいこうぜ、と言っているようであった。ああ、きっと2022年の夏にはロッキンのGRASS STAGEに初めて立っているんだろうなと思っていた。
1.オーケストラ
2.スパーク
3.BiSH -星が瞬く夜に-
4.MONSTERS
5.SMACK baby SMACK
6.in case…
7.I have no idea.
8.スーパーヒーローミュージック
9.beautifulさ
17:50〜 クリープハイプ
尾崎世界観(ボーカル&ギター)がワンフレーズだけ歌う(「憂、燦々」や「バイト バイト バイト」)という、セトリに記載するかどうか微妙なラインだとしてもリハで曲を演奏しまくっていたクリープハイプは今、いろんな曲をライブでやりたくて仕方ないんだろうなと思うし、それもよくわかるくらいにそのリハの段階で尾崎の声が絶好調なのがよくわかる。気合いに満ちているのである。
いつものようにSEもなしで薄暗いステージに4人が登場して拍手で迎えられると、小川幸慈のギターが不穏さを感じさせ、
「危険日でも遊んであげるから」
という尾崎のボーカルとその部分の轟音になる演奏が危険さを際立たせる「キケンナアソビ」からスタートし、黒と金の髪色の配分が何とも言えない感じになってきた長谷川カオナシ(ベース)メインボーカルの「月の逆襲」は夏頃のイベントやフェスで演奏された時には「とんでもないレア曲をライブでやるようになった」とファンを驚かせたものだが、逆に最近は毎回セトリに入るようになって定番感すら出てきている。キャッチーな同期のサウンドも流れる曲であるが、小川はアウトロでは意外なくらいにステップを踏みながらギターを弾きまくるという姿もまたおなじみになりつつある。
フェスのというかライブの衣装とは思えないくらいに地味な出で立ち(ほぼ無地のロンT)の尾崎が、
「もう一周回って衣装を普通っぽいのにしようと思って最近ライブに出てるんだけど、さっき出番前にカオナシから
「尾崎さん、そろそろステージ衣装に着替えた方がよくないですか?」
って言われた(笑)お前は衣装頑張ってるけど、そろそろこういう領域に来いよ(笑)」
と自身の衣装をネタにするという緩いMCで笑わせると、尾崎が曲中の歌詞をフリースタイルラップのようにして口に出してからカオナシがキーボードを弾くのは2021年リリースの最新アルバム「夜にしがみついて、朝で溶かして」収録の「ナイトオンザプラネット」。R&Bやヒップホップ要素の強い、尾崎もハンドマイクで歌う曲であるが、この曲が生まれた背景は2020年に予定されていたが中止になった自分たちのライブをやるはずだった日に浮かんできたとのことで、だからこそこうした聞き手やバンド自身を包み込むようなメロウさになっているのだろう。
カオナシがベースに戻ると、グルーヴィーなイントロを奏で始め、そこに小泉拓のドラムのリズムが重なっていくというライブならではのイントロのアレンジから「イト」が始まり、華やかな同期のサウンドもあって観客は楽しそうに踊ると、
「人肌恋しい季節なんで、セックスの歌を」
と尾崎が言って、カオナシがステージ前に出てくると今度は重いベースを響かせて「HE IS MINE」へと突入していき、尾崎は
「声に出さない方がエロいから、無音でお願いします」
と言うと、おなじみの「セックスしよう」のフレーズは観客は叫ばない無音バージョンへ。それでもやはり誰しもが心の中で叫んでいるのか、このフレーズ部分を経た後にはステージも客席もさらなる爆発力を感じさせてくれる。
そういう意味では中盤に「HE IS MINE」が演奏されたのもそうした爆発力を見せた流れを作るからかもしれないと思うのは、尾崎が
「スマホの写真を整理していたら、俺はいつも同じような顔をしているなって。ライブ中に撮ってもらった中から盛れてる写真を選んで使ってるから毎回似たような顔になるんだけど、こんな顔(思いっきり歪ませた顔)を見せられるのは歌ってる時だけだなって思います」
と、テレビの中でもおなじみと言えるような存在になりながらも、ライブという場だからこそ見せることができる表情があるということを口にしてから「イノチミジカシコイセヨオトメ」を演奏したからで、「HE IS MINE」での爆発力とこのMCの後にこの曲が演奏されたからこそ、
「明日には笑えるやろか
明日には変われるやろか」
というフレーズが2022年は今年よりも笑える年になるようにと思わせてくれる。最後の尾崎の張り上げるようにして歌うボーカルなど本当に迫力が凄まじいし、そうして声が抜群に出ているからこそ、曲に込めた感情を最大限に引き出すことができている。クリープハイプのライブが今になってさらにどんどん良くなっていることを感じられる。
すると「夜にしがみついて、朝で溶かして」収録の、これまでに生み出してきた曲のフレーズが巧みに歌詞の中に取り入れられた「一生に一度愛してるよ」はタイトル通りに一生に一度しか使えない手法かもしれないが、「ナイトオンザプラネット」がアルバムに先駆けてライブで披露されていたことを考えると、この曲のビックリするくらいにストレートなギターロックサウンドは実に新鮮である。
それはその次に演奏された先行配信曲「しょうもな」に連なるものでもあるのだが、新しいサウンドを取り入れながらも、自分たちの音楽の中心はここであるというのをしっかり確認した上でこうした曲、そしてアルバムになっているかのようだ。だからこそクリープハイプらしいサウンドであってもマンネリ感は全くないし、何よりもこうしてライブを見ていて本当にカッコいいロックバンドだなと思う。
そして、
「今年1年を一言で簡単にまとめたくない。悔しかったり、落ち込むこともたくさんあった1年だったけど、みんなそれぞれいろんなことがあった1年だと思う。だからこそ一言でまとめることなんてできないと思う」
と言って演奏されたのは
「簡単なあらすじなんかにまとまってたまるか」
というフレーズがその尾崎の言葉に重なっていく「栞」。小川もカオナシもイントロからステージ前に出てきて、小泉の連打するパンク的と言ってもいいようなビートの上をドライブするようなサウンドを鳴らす。それが別れの情景を描いたこの曲の切なさを加速させていく。
「桜散る桜散る お別れの時間がきて
「ちょっといたい もっといたい ずっといたいのにな」」
もうクリープハイプのライブも終わる。この日のフェスも終わりが近づいてきている。その寂しく感じる気持ちはまさにこの曲のこの歌詞の通りだった。
それでも、どこか終わった後にまた前を向いて歩いていく感覚になれるような。それは尾崎が最後に観客に投げキスをしてステージを去っていくくらいにやり切ったという清々しさを感じていたからかもしれない。
リハ.憂、燦々
リハ.手と手
リハ.大丈夫
リハ.欠伸
リハ.バイト バイト バイト
1.キケンナアソビ
2.月の逆襲
3.ナイトオンザプラネット
4.イト
5.HE IS MINE
6.イノチミジカシコイセヨオトメ
7.一生に一度愛してるよ
8.しょうもな
9.栞
19:05〜 sumika
インタビューでもMCでもずっとロッキンオンのフェスへの強い思い入れと愛情を口にしてきたsumikaは春のJAPAN JAMで初めてロッキンオンのフェスのメインステージのトリを務め、そこでフェスへの思いと、そこへ足を運んでいる我々観客への思いを口にした。そのsumikaがこのCDJでも初めてメインステージのトリを務める。
サウンドチェックで片岡健太(ボーカル&ギター)が川崎鷹也「魔法の絨毯」を
「良い曲ですよね〜」
と言いながら歌ったりというリラックスした雰囲気も感じながらも、本編でゲストメンバーの須藤優(ベース)も含めた5人でステージに登場すると、
「sumika、はじめまーす!」
と言ってカラフルかつポップな「Lovers」の演奏でスタート。観客が歌うことができないサビのコーラス部分を思いっきり歌う黒田隼之介(ギター)、小川貴之(キーボード)、荒井智之(ドラム)も弾けんばかりの笑顔だ。みんながこのステージに立てていることの喜びを感じているし、それがこの曲の祝祭感をさらに強いものにしている。まだライブは始まったばかりだが最後の手拍子の光景も含めて、この幸福な空気を、ずっとずっと離さぬようにしたいと思う。
すると片岡は早くもギターを置いてハンドマイクを持ってステージを動きながら歌うのは「絶叫セレナーデ」であるが、照明からしても曲の歌詞やサウンドからしても夏の曲でしかないこの曲をこうして冬のフェスで演奏しているのは、この曲が夏のロッキンのGRASS STAGEで演奏されるために作られた曲だからである。そのロッキンオンのフェスのために作られた曲をロッキンオンのフェスでやらないわけにはいかないし、そこには確実に来年の夏はこの曲をひたちなかで演奏できますようにという思いも込めている。その時にはサビのコーラスを我々が歌えるようになっていますように、とも思う。
「みんな最後だからって疲れてない?疲れてそうな感じするなぁ。でもそんな疲れを回復できる曲が俺たちにはあった気がするな〜」
と片岡が前振りして演奏されたのはもちろん「ふっかつのじゅもん」であり、小川が客席を指差して「ヘイ!」のコーラスを声が出せないながらも腕を上げる観客に向かって笑顔でマルを両手で作ったりする姿は何ら変わることはないのだが、そうしてアッパーに振り切るだけではなく、その小川らメンバーのコーラスも重なってより雄大に、この規模に相応しいスケールのメロディを持った「イコール」を響かせていく。
そんな中で片岡以外のメンバーが一度ステージを去り、ステージにはDJ卓とMop of HeadのGeorgeが登場すると、さいたまスーパーアリーナのワンマンのアンコールで突如として演奏されて観客を驚愕させた「BABEL」がこのタイミングで演奏される。すでにこの曲が収録されたEP「SOUND VILLAGE」もリリースされたことにより、ある程度心の準備はできているとはいえ、やはりこの流れで演奏されると驚いてしまうし、片岡の怒りの感情を強く含んだ歌詞と歌唱は先ほどまでの祝祭感あふれる空気を一変させる。それによって新しいsumikaの一面を見せることができるというのはこの曲の思惑通りだろう。
再びメンバーがステージに現れると、逆に片岡はギターを置いてハンドマイクとなってステージを歩き回りながら歌う「Traveling」が演奏されるのだが、片岡はステージサイドのカメラに目線を合わせて指を差しながら歌ったり、上手側のステージの最前まで出ていくと足を客席側に投げ出すようにして座ったりと、完全にこのロッキンオンのフェスのステージを把握しているからこそできるパフォーマンスを見せる。それはステージが大きければ大きいほど映えるものだと言っていいだろう。
そんな中で片岡がアコギを手にして歌い始めたのは美しいメロディのバラード曲「願い」。持ち時間は長めとはいえ、フェスのセトリにこうしたバラード曲を持ってくることができる若手バンドというのもそうそういないけれど、こうした曲を作ることができて、それを真っ直ぐに響かせることができるボーカリストであるというのがこのフェスのメインステージのトリに繋がっているところも間違いなくあるはずだ。
そんな曲を感動的に響かせた後に片岡は口を開く。
「贔屓目なしに、今年こうやってこのフェスが開催できなかったら、ロッキンオンは潰れちゃうんじゃないかと思った。
去年のこのフェスは開催直前に中止。春のJAPAN JAMは開催できたけど、みんなは音楽を守りたいっていう意思を持って参加してくれたのにマスコミの人たちは揚げ足を取るような面白おかしく報道をして。
そして夏のロッキンもいろんな人が万全の状態で開催できるように準備をしてきて、直前になって中止。
俺には夢があります。おじいちゃんになっても自分のステージやって、終わったらハム焼き食べて、美味しいお酒飲んで、メロン食べて、いろんなアーティストのライブ見て。そのフェスはロッキンオンのフェスだってずっと思ってる。高校生の時からのその夢が潰えて欲しくない。来年春、夏、冬にロッキンオンのフェスが開催できたら、それは今年こうやって足を運んでくれたあなたのおかげです」
自分自身、初めてロッキンに参加してから、このフェスも含めて「ずっとここに来ていたい」と思い続けて、こうして毎年参加し続けてきた。それと全くと言っていいくらいに、あなたは自分なのかと思ってしまうくらいに、片岡は自分と、ここにいたたくさんの人たちと同じようにロッキンオンのフェスを愛してくれている。もしかしたらバンドをやっていなかったら片岡は自分のように毎年ロッキンオンのフェスに観客として参加するような人生だったんじゃないかと思う。こんなにロッキンオンのフェスを背負ってくれているバンドが、そのフェスのトリにふさわしいバンドになった。だからこそその言葉からはこの上ないくらいに強い説得力を感じることができるのだ。
2022年にJAPAN JAM、ロッキン、CDJが開催されて、それが2021年のJAPAN JAMとCDJに参加した我々のおかげだとしたらこれ以上ないくらいに嬉しいことだ。自分たちが参加することで、自分たちの愛する場所を守ることができたのだから。
でもそれは自分たちだけの力じゃない。ステージに立つことで外部からいろんなことを言われることを覚悟した上でこのフェスを守り続けてくれたアーティストがいるからこそだ。それを2021年にロッキンオンのフェスで最も強く感じさせてくれたのがsumikaだった。
そんなフェスへの思いを最大限に幸福なサウンドで昇華してみせるのが2021年にリリースされたキラーチューン「Shake & Shake」で、手拍子が響く中で片岡はフェスの愛を体いっぱいに受けながら軽やかに舞うようにして歌い、曲中の打ち込みのサウンドになる部分では荒井も立ち上がって手を叩く。そして片岡は最後に
「なんだかんだ言って嫌いじゃないぜ」
というフレーズの後に、
「むしろ愛してるぜ、COUNTDOWN JAPAN!」
と叫ぶ。そんなバンドを、我々も心から愛している。
そんな感動的な本編が終わると、アンコールで再びメンバーが登場し、片岡はギターを鳴らしながら「ファンファーレ」を歌い始めるのだが、最後のサビ前のボーカルだけになる
「傷の海も 悩む森もいとわない
毒をのんで」
のフレーズを思いっきり感情を込めて、珍しく叫ぶようにして歌うと、それがそのまま最後のサビの歌唱にも繋がっていく。上手く歌おうというのでも、丁寧に歌おうというわけでもない。ただひたすらに自分たちの今抱えているものを音に込める。何度もライブで聴いてきたけれど、こんな「ファンファーレ」は初めてだった。言葉だけではなく、自分たちの曲に、音楽に自分たちの思いを込めることができている。それこそがsumikaがこれだけたくさんの人の前に、ロッキンオンのフェスのメインステージにトリとして立つことができるようになった理由だと思った。
「さあ 夜を越えて闇を抜けて
迎えに行こう」
というフレーズが、2022年には希望と喜びのみを持って響きますように。
昔、渋谷のNHKホールの近くに渋谷AXというライブハウスがあった。rockin’onはそのライブハウスで毎月「JAPAN CIRCUIT」という対バンライブを開催していたのだが、そのイベントに行った時に渋谷AXの広い敷地内でインディーズバンドのスタッフがよくフライヤーや音源を配っていた。
その時に貰ったCDを聴いて、その直後に出たシングルを買ったバンドがいた。熱い思いをストレートに鳴らすというイメージの、ロッキンオンのイベントにまだ全然出れるような存在ではなかったそのバンド、banbiのボーカルは今、sumikaのボーカルとしてロッキンオンのフェスを背負う存在になった。我々が愛するフェスを、場所を誰よりも守ろうとしてくれるバンドになった。もしかしたらあの頃は、同じように客席からステージを見ていた存在だったのかもしれないと思っていた。
リハ.魔法の絨毯
リハ.ソーダ
リハ.MAGIC
1.Lovers
2.絶叫セレナーデ
3.ふっかつのじゅもん
4.イコール
5.BABEL
6.Traveling
7.願い
8.Shake & Shake
encore
9.ファンファーレ
文 ソノダマン