これまでの活動で観客を踊らせまくってきた、夜の本気ダンスもまた初のホールワンマンライブ以降はイベントやフェスも含めてライブを行うことができず、ひたすらライブをやって生きてきたバンドが実に半年もライブをできないという状況になっている。
そんな中でメンバーがライブハウスで演奏している姿をリアルタイムで届けるべく有料配信という形で企画されたのが、今回の「High Scene Boogie」である。明らかに近藤真彦「ハイティーン・ブギ」(作詞:松本隆、作曲:山下達郎)を意識したタイトルも実に夜ダンらしいセンスの良さ。
開始時間の19時前になるとステージにセッティングするスタッフたちの様子が映る。それはまさにライブハウスでのライブが始まる直前の光景である。
そして19時を少し過ぎるとおなじみのSE「ロシアのビッグマフ」が流れ始めるのだが、画面に映っているのはステージではなく、最新曲「SMILE SMILE」のMVのようにスマホの画面の中でリズムに合わせて手を叩くメンバーたちの姿。米田貴紀(ボーカル&ギター)の画面と、西田一紀(ギター)、マイケル(ベース)、鈴鹿秋斗(ドラム)の画面に分かれているのだが、腰をくねらせてノリノリな鈴鹿とほぼ直立不動の西田というこの手の叩き方だけでもメンバーのキャラが色濃く分かれているし、このオープニング映像を見るだけで、「ただ曲を演奏するだけではない」というバンド側の強い美意識やこの配信をやる意義を感じさせる。
画面がステージに切り替わるとメンバーが登場し、
「画面の向こうのみなさん、踊れる準備はできてますか!?」
と米田が目の前の観客ではなく画面の向こう側にいるであろう人たちに向かって問いかけると、
「クレイジーに踊ろうぜ!」
と「Crazy Dancer」からスタートするのだが、映像のクリアさにまずはビックリするし、手元までアップになったりするというメンバーそれぞれの美味しい部分をしっかりと捉えたカメラワークも含めて、メンバーはもちろんこのライブを作っているスタッフも「夜の本気ダンスのライブを最高の形でちゃんと届ける」という意識で統一されているのが実によくわかる。
昨年の傑作アルバム「Fetish」のリード曲であり、問答無用のキラーチューンである「Sweet Revolution」はやはりアルバムのツアーを終えても序盤で演奏されていく曲になっていくようだ。サビでの一気に景色が開けていく、視界が晴れやかになっていく感覚は、このバンドがただ4つ打ちのリズムで踊るバンドではなく、ちゃんと「良い曲だな」と思えるような音楽を作ることができるバンドであることの証明である。
一転してポップな「LOVE CONNECTION」では鈴鹿がカメラ目線でドラムを叩くのに加え、マイケルもカメラ目線で何やら叫ぶ。さらには鈴鹿は観客がいないにもかかわらず「オイ!オイ!」とリズムに合わせて叫びまくっているが、それは彼には間違いなく画面の向こうで踊りたいと思っている人たちの姿がイメージできているのだろう。
その鈴鹿はMCでもカメラ目線で
「どっから来たん?名古屋から?大分から?また何にもないところからきてくださって!(笑)
福岡から!福岡のみなさん、住民票移しに行きますね〜!(笑)
レスポンスないのは寂しいですけど、ヤバイTシャツ屋さんのTシャツ着て見てくれてありがとう!(笑)」
と、配信なのにあたかも目の前に観客がいるかのようなMCで笑わせるというあたりはさすが。もしかしたら入念に考えてきていたのかもしれないが。
そんな鈴鹿のMC中には鈴鹿を映すカメラに米田も映り込もうとするという配信ならではのさりげないアピールもある中、
「本当だったら今日はツアーの香川公演のはずだった」
という鈴鹿の言葉は愉快で明るいMCの内側にある悔しさの感情を感じさせもしたが、
「誰かなんか言えよ!スタッフも嘘でも笑ってくれ!(笑)」
とやはりリアクションが全くないことに物足りなさを感じている様子。メンバーは思わず鈴鹿のその姿に笑ってしまっていたが。
そんなこのバンドのライブの楽しみの一つである鈴鹿のMCの変わらぬキレ味に安心しながらもひとしきり笑った後は、新たに導入されたイントロからノンストップで踊らせまくる「本気ダンスタイム」へ。
まだライブ自体は序盤であるが、皮切りとして放たれた「fuckin’ so tired」でスタートし、ハンドマイクで歌う米田がカメラ目線で指差したり、ネクタイを外したかと思ったら、ここでまさかの画面落ちで真っ暗に。このライブはZAIKOという配信システムを使用しており、リアルタイムで視聴者のチャットも見れるのだが、やはりみんな見れていなかったようだ。
「fuckin’が放送禁止用語だから落ちたんじゃないか」
というこの状況を楽しむかのような返しはさすが夜ダンのファンの方々だと思うが。
なので画面が復活した時はすでに「BIAS」の後半であり、せっかくの本気ダンスタイムであったのに曲と曲同士の繋ぎが見れないという実にもったいないことに。時間的にないとは思うが、もしかしたらその間にもう1曲挟んでいた可能性も0ではないし。
しかしながらその「BIAS」から「Movin’」に至るまでの新たな曲と曲のセッション的な繋ぎにすぐに見入ってしまうのはこのバンドがそうした「ライブだからこそ見せることができるもの」を追求してきたからこそだ。
基本的にライブができない期間すなわちメンバー4人でスタジオに入ったり、一緒に演奏することができない期間だったわけだが、リモートなどでセッションを繰り返していたのか、全くライブにおける力や演奏が鈍ったりすることはないし、それは音源ではCreepy NutsのR-指定が担っているラップ部分をドラムを叩きながらこなしてみせるというところも。アルバムリリースとそのツアーを経てこのパフォーマンスは完全にバンドの新たな武器になったし、鈴鹿がただ面白い人というわけではないということを自身の能力で証明している。
(ちなみにこの日のツイッターのトレンドには「夜の本気ダンス」と「Creepy Nuts」が並んでランクインしており、メンバーは「トレンドで「Movin’」できてるやん!」と喜んでいた)
するとアッパーかつハイスピードな本気ダンスタイムからは一転してミドルテンポの「Dance in the rain」へ。ホールワンマンでも演奏していた曲であるが、この日を初めとして全国的に日本はすっかり梅雨という雨の季節に合わせた選曲でもあったんだろうか。
ミドル〜バラードというテンポなのに体が揺れる、あるいは踊れるというのはこのバンドだからこそのリズムやサウンドであるし、落ち着いたフレーズから後半は一気にシューゲイズ的な轟音ノイズを響かせる西田のギターがそこを担っている部分も大きいはず。
すると曲間ではその西田もMCをするのだが、
鈴鹿「お前の声量は空調の音の大きさと変わらない(笑)」
西田「PAのせいちゃうか」
鈴鹿「スタッフのせいにすな!(笑)」
とやはり笑えるやり取りになってしまうのは西田のあまりにマイペースな人柄によるものだろう。
鈴鹿は鈴鹿で
「今日は無観客やし、リハくらいの感じで汗かかないかなと思ったらもうズブの濡れですよ」
とやはりライブとなると自分たちが意識せずともスイッチが入るのか、ステージ上はこれまでのライブと全く変わらないようだが、一方で自身の服装を
「いつでもフレデリックに入れるような服を着ている」
と、共にライブハウスで切磋琢磨してきた仲間の名前も口に出して笑わせる。
そうして笑わせながらも最後には
「君たちがいたらもっと楽しいよ!」
と画面の向こう側にいる我々へのメッセージをくれるんだからズルい。
そうしてひとしきり喋り終わると「WHERE?」でさらに自宅をダンスフロアに変えていくのだが、演奏中に短い時間とはいえ2回も画面が落ちてしまい、タイトル通りにバンドはどこへ?という形になってしまったのは少し残念というか、この辺りは配信ライブの課題とも言えるだろう。それが有料チケット制ならばなおさら。
この日夜ダンの前に見たa flood of circleの配信ライブもそうだったが、バンド側に一切悪いところはないというのがまた辛い。その一瞬の連続を逃さずに見たいのだ。例え画面越しであったとしても、自分は見逃したから巻き戻して見たりするのではなく、その瞬間しか見れないという集中力を持ってライブを見ていたい。
バンドにとっては最大のキラーチューンと言える「TAKE MY HAND」の演奏では画面は復活し、間奏の西田のギターソロでは西田が背中を米田の背中に預けて演奏。ソーシャルディスタンスを保つことが大事とされているし、ライブじゃなければ本人たちもそれを意識していたかもしれないが、こうしてライブをやっている時間はそうした意識がなくなってしまう。それは数え切れないくらいにそうしたパフォーマンスをやってきて、久しぶりではあるけれど体に染みついているからだ。それは直るようなものではないし、これからもライブハウスで生きていくロックバンドである以上は直す必要もないと自分は思っている。
だからこそ米田も最後に
「きっと届いてますよね。ライブハウスに戻って自分のスイッチを押された気分。どうやって歌ってたっけ?って思っていたけど、体が覚えていた」
とその感覚がこれから先も消えるものではないということを語ると、
「僕らが先にライブハウスに戻ってこれた。あとはみなさんを待つだけ。いつになるかはわからないけれど」
とライブハウスという場所への思いを口にする。
思えば自分がこのバンドのライブを初めて見たのも下北沢のCLUB Queという小さいライブハウスだった。今やホールにまで歩みを進めたバンドだけれど、やっぱり今でもいるべき場所はライブハウスであるし、きっと彼らはそこで育ってこれたことを誇りに思っている。だから配信ライブをこうしてライブハウスのステージで演奏するということを選んだのだろう。また少しでも早くライブハウスで踊れるように。米田のこの言葉は今まで見てきたこのバンドのライブで最も感動したし、その言葉に応えるように叫んだ鈴鹿の姿は本当に頼もしく感じた。
そんな久しぶりのライブハウスで最後に演奏されたのは最新曲である「SMILE SMILE」。リモートで作ったということを本人たちも語っていたが、この曲の最大のポイントはやはりホーンのサウンドだろう。EDM以降、ダンスロックバンドも同期のサウンドをライブで使うことが当たり前になったが、このバンドはあくまでもギター、ベース、ドラムの音だけで我々を踊らせてきた。
この後の楽屋トークでも鈴鹿は
「これまでは同期を使うことを拒絶していた」
と話していたが、そう思っていたバンドがこの曲で自分たちが鳴らす以外の音を取り入れたのは紛れもなく曲がその音を呼んだからである。タイトルの通りに、ライブに行けなかったりして寂しい思いをしている人たちがこの曲を聴いて少しでも笑顔になれるように。そのために最もふさわしいサウンドはどういうものか。そうした試行錯誤や自問の果てに解いた縛り。それはきっとこの先のこのバンドの音楽をもっと自由に、もっと我々の想像の斜め上をいくものに進化させていくはず。
この状況じゃなかったら生まれなかった曲かもしれない、と考えると、今のこの状況を少しだけプラスに捉えられるような。演奏終了後のメンバーの爽やかな、やり切ったような顔が一層希望を感じさせてくれたのだった。
本来ならばライブ後には楽屋トークが予定されていたし、最初は「楽屋移動中」という待機画面になっていた。しかし再び画面にはライブハウスのステージと、そこに戻ってきたメンバーが。
「画面落ちちゃって見れなかったみたいだから、アンコールじゃないけどもう1回やります。ちゃんと写ってない時も演奏してたからね(笑)」
と言って、本編演奏中は不完全な形での配信になってしまった「fuckin’ so tired」を再び演奏。本編よりさらに米田は軽やかに踊りまくりながら歌っていたが、その不完全な形になったことをスタッフがちゃんとわかっていて、それをカバーするようにこうしてすぐにもう1回演奏することができる。メンバーだけでなく、スタッフも含めて夜ダンは本当に良いチームになっている。
そして楽屋トークでは本文中に書いたようにライブの舞台裏も語られながら、メンバーがリアルタイムでの視聴者のチャットを見てコメントをしていた。
それが終わるとメンバーの姿が引いていって、あたかもメンバーがスマホの画面の中にいたかのような演出に。「映画みたいだった」というコメントもあったが、こんなにフィジカルに訴えかけてくるような映画は他にないだろう。
「何があろうとも音楽に人間性は関係ない」ということを、アーティストが逮捕されたりした時などによく聞く。それはその通りで、どんなに犯罪を犯したりしても音楽や曲自体の価値は変わらないし、名曲と言われていた曲がそうしたことがあってもいきなり駄曲にはならない。
でも逆に「人間性は音楽に出る」と自分は思っている。歌詞や音は作った人のパーソナリティや経験から生まれてくるものだからである。夜ダンの音楽がただ何も考えずに踊るだけのものではなく、そこに人間らしさや暖かさのようなものを感じる(特に「SMILE SMILE」という最新曲にそれは最も顕著に現れている)のは、メンバーの優しさが音や言葉になっているから。
そんなことが画面越しから伝わってくるような配信ライブだった。次こそはメンバーだけではなく、我々もライブハウスで踊れる準備をして。
1.Crazy Dancer
2.Sweet Revolution
3.LOVE CONNECTION
4.fuckin’ so tired
5.BIAS
6.Movin’
7.Dance in the rain
8.WHERE?
9.TAKE MY HAND
10.SMILE SMILE
encore
11.fuckin’ so tired
文 ソノダマン