この日はa flood of circleと夜の本気ダンスの有料配信ライブを2本見たが、さらに夜の21時からはBenthamの無料配信ライブ。有料や無料という判断はそれぞれの立ち位置や状況などによって違うが、ひとまずは久しぶりのライブハウスに立ってのライブ、それを「バンドの名前は知っている」「存在が気になってはいる」という人に少しでも見てもらえたら、という意味ではBenthamが無料配信という形を選んだのは実に納得できるところである。
会場は自分自身もBenthamのライブを見たことがある会場である、新代田FEVER。ステージに現れたメンバーはやはり自粛期間を経たからか、小関竜矢(ボーカル&ギター)の髪が伸びたように感じるし、須田原生(ギター)もうっすらと髭が生えているように見える。短めの金髪で常にライブキッズ感溢れる辻怜次(ベース)と、秋山黄色のサポートを務めることもある鈴木敬(ドラム)はほとんど見た目のイメージに変化がないが。
メンバーが楽器を手にすると、昨年リリースのベストアルバムに新曲として収録された、タイトル通りにメンバーのコーラスが楽しい空気を醸し出すとびきりポップな「FUN」からスタート。ポップかつキャッチーで踊れるロックバンドであるBenthamのど真ん中と言っていいような曲であるが、いきなり自分たちの1番新しい姿を見せるところから始めるというのがリリースペースがかなり速いこのバンドらしいし、久しぶりのライブらしさを感じさせる。自分たちの新しい曲をライブハウスで鳴らしたくてうずうずしているというか。
この梅雨の時期にぴったりというか、雨の曲であってもじめっとしているわけではなく、むしろ思い浮かぶのはライブハウスで汗を飛び散らせて演奏することによってずぶ濡れになっているメンバーの姿、というのが雨の曲のイメージを一新してくれる「激しい雨」、ライブ定番曲であり、画面の向こう側で見ている人も須田、辻、鈴木に合わせてアウトロの「あーあーあ」のコーラスを歌っていたであろう「クレイジーガール」と続くと、久しぶりのライブであってもそのハイトーンボイスに一点の曇りもない小関が
「久しぶりのライブハウスでのライブ。でもすぐ時間はなくなっちゃうぜ」
と言うと、その言葉を歌詞で実証するかのような「タイムオーバー」では、なんと須田がギターではなくピアノを弾くという新しいアレンジへ。画面越しだとステージの全体像がわからないだけに、ステージにピアノが置いてあることも気付かなくてビックリしたが、ギターの歪みではなくピアノの流麗なコードによって時間が過ぎ去っていく切なさをさらに倍増させるアレンジになっていたし、ライブではあまり実感できる機会がなかったが、須田の器用さと、普段のレコーディングや曲作りでもこうして須田がアレンジ面で大きな貢献を果たしているであろうことがわかる。
さらには小関がギターを下ろしてハンドマイクを握ったかと思いきや、本来はBentham流のパンクと言ってもいい曲である「TONIGHT」のフレーズをゆったりとしたリズムとムーディーなサウンドのアレンジで生まれ変わらせる。
昨今の世界の音楽の傾向からすると、そうしたアレンジではR&Bの要素が濃くなるパターンが多いし、日本にもそうしたバンドは数多くいるのだが、BenthamのこのアレンジはR&Bというよりはジャズの成分を強く感じさせる。バーで酒を飲みながら演奏されているような感じというか。そういう意味では彼らの影響源でもあるであろう、the band apartのミドル〜バラードの曲のアレンジに近い。聴いている側が体を揺らしたくなる心地良さも含めて。
一転してストレートなギターロックの「初恋ディストーション」ではステージを照らす照明の青さに合わせるかのような蒼さを感じさせる演奏に。この「TONIGHT」から「初恋ディストーション」という流れを聴いていると、Benthamというバンドが実に器用な、そして高い演奏力とアレンジ力を持ったバンドであることがよくわかる。
名前くらいは知ってる、くらいの感じの人にとっては「KEYTALKの後輩的な4つ打ちダンスバンド」というイメージがあるかもしれないが、ここまでの40分くらいを見ているだけでそんなイメージは吹き飛ばされるであろう。
するとここでMCを入れ、配信ライブならではの視聴者のコメントをメンバーがチェックし、
「夜の本気ダンスの配信が終わってから見に来ましたっていう人もいるね。今日は夕方にa flood of circleも配信ライブやってたしね」
と言っていたあたり、交流のあるバンド同士で配信時間が被らないように21時からという遅めに開始するというこのバンドならではの配慮をしたんじゃないかという感じもする。
さらにはこの配信ライブの前にあらかじめ募集していたリクエスト曲を演奏するコーナーへ。「3曲の中から1番聴きたい1曲を選ぶ」という形でのリクエストで選ばれたのは「アナログマン」。やはりこういう時は普段からライブに行っている人が選ぶであろうがゆえに初期曲になりがちだよなぁと思ったが、まだデビューから日が浅いようなイメージが今もあるBenthamがもうシーンに登場してから6年も経っていて、こうしてデビュー当時から演奏している曲を「初期の曲」と思えるくらいの歴史を重ねてきたんだよな、と思わされた。確かに「アナログマン」はかつてサーキットフェスやショーケース的なライブでよく演奏されていたことを思い出しながら。
そして小気味いいタイトルフレーズのコーラスが一気にスピード感を上げていく「Cry Cry Cry」でクライマックスに突入すると、小関が
「コロナによっていろんなことが改めてわかって。いろんな価値観とか意見があるのはわかるけど、俺はこの4人で音楽をやることや、ライブハウスっていう場所は何があっても譲ることはできないと思っている」
と語る。
コロナによって、世の中にはライブハウスや音楽が必要じゃなかったり、なくなってもいいと思っている人が少なからずいるということを知ってしまった。でもそれ以上に、ライブハウスや音楽で生きてきた(それはアーティストやスタッフだけではなくてライブハウスに行くのが楽しみで日々を生きてきた我々もである)人がたくさんいることを知っている。
どんなに叩かれたり、後ろ指を差されようとも、小関と同じように自分もそこだけは譲れないと思っているし、Benthamはいわゆるモッシュやダイブで汗まみれになるというタイプのライブバンドではないけれど、間違いなくライブハウスという場所で生きてきたという意味でライブバンドである。(小関はBenthamを組む前から音楽スタジオなどで働いていたという)
そんな音楽やライブハウスへの想いをありったけ込めて最後に演奏したのはやはりバンドの最大の代名詞的な曲である「パブリック」。なぜならばこの曲はライブハウスで演奏され続けてきたことによってライブならではのアレンジを施されて音源から進化し、それがベストアルバムでの最新バージョンへと繋がった曲だからである。
その2019バージョンにはMVにもこのバンドのファンがクラウドファンディングでエキストラとして参加している。その人たちがこの配信ライブを見ていて、小関の言葉に共感していたのならば、このライブを見ていたものとして実に嬉しく思うし、やっぱりライブハウスで生きてきたバンドをライブハウスで見たいのだ。連れ去ってしまってくれよ。
ライブ後にはもはやそうなるのが決まりきった感もある、須田がやたらとスベッたような空気になるメンバーコメント。そのコメント自体はライブの前に収録されたのだろうけれど、やっぱりライブがあるという嬉しさがあるのか、メンバーの表情は実に楽しそうだった。いつまでその姿をこの目で直接見れないんだろうかという不安を忘れてしまうくらいに。
1. FUN
2.激しい雨
3.クレイジーガール
4.タイムオーバー (ピアノver.)
5.TONIGHT
6.初恋ディストーション
7.アナログマン
8.Cry Cry Cry
9.パブリック
文 ソノダマン