もはやコロナの影響がどうのとか毎回のごとく説明するのも嫌になるのだが、実際にTHE BAWDIESはツアーを回っている最中に公演延期になるという形でスケジュールに影響が出ているのだから触れないわけにはいかないだろう。
昨年11月にメンバーも自信に満ち溢れた最新アルバム「Section #11」をリリースし、日本全国を回るロングツアーを敢行中だった、THE BAWDIES。アルバムの内容そのままに素晴らしかったツアー前半戦の渋谷CLUB QUATTROと高崎CLUB FLEEZEでのワンマンを見れていたのは今になると本当に良かったとしか言えない。
本来ならば4月に長いツアーを終え、アルバムを提げた、去年までとは違うセトリを持って夏フェスを行脚していたであろうタイミングである。ツアー延期以降はかつて行われた日本武道館ワンマンだったり、CDの初回盤の特典映像だったり、あるいはメンバーのリモートトークを配信したりしてきたが、今回は初のライブ配信。しかもメンバーがライブをする会場はかつてのバンドのホームとも言える、新宿RED CLOTHである。
配信時間の20時を少し過ぎると、このライブのために編集されたであろうオープニング映像が流れ、そのまま画面はRED CLOTHのステージへ。普段ならばSEが鳴ってメンバーがステージに登場して…というテンションが高まるスタートではなく、すでに去年から新調したキャメルカラーのスーツに身を包んだメンバーがスタンバイしているというのは配信ライブならではだろうか。
JIM(ギター)がデビュー当初のアー写のようなマッシュヘアになっているのが目を惹くが、ROY(ボーカル&ベース)も髪色は金のままだが髪型がセンター分けになっているのはこれまでの変遷の中でもかなり珍しい。
いつものようにメンバーが一斉に音出しをしてから最初に演奏されたのは、「Section #11」のオープニングナンバーである「DON’T SAY NO」。やはり結果的にツアーがまだ終わっていないからこそ、初の配信ライブと言えどもアルバムの流れと地続きのものであることがわかるし、この日は本来のRED CLOTHならば客席として使用している部分をソーシャルディスタンスの観点からかステージとしてROYが1番前、そのちょっと後ろにTAXMAN(ギター&ボーカル)とJIM、さらにその後ろの本来のステージ部分にMARCY(ドラム)という、フロント3人が真横に並ばない形のフォーメーションになっているのだが、それでもサビのROYとTAXMANのボーカルの掛け合いの息のぴったりさは変わらない。
さらに軽快なサビが本来ならば観客の大合唱を誘う「LET’S GO BACK」と続くのだが、2サビ終わりの間奏ではちょっと演奏が「あれ?」と思うヨレ方をし、たまらずJIMがMARCYに向かって指差したりするのだが、そうしたライブだからこその出来事も含めてメンバーは本当に楽しそうな顔をしている。ライブでは常に笑顔を見せてくれるJIMはステージ以外では決して明るいキャラではないだけに、こうしてみんなでロックンロールを鳴らせているのが楽しくて仕方がないのだろう。ROYもこの序盤から思いっきりシャウトをかまし、画面越しに見ていても、「ああ、やっぱりTHE BAWDIESのライブは最高だな」と思うし、
「みなさんも一緒に歌ってくださいね!」
と言われるまでもなく、声が出るのはもちろん、体も動いてしまう。
「急がないと乗り遅れますよ!」
というおなじみの口上の後には早くも序盤で「IT’S TOO LATE」が演奏されるのだが、メンバーそれぞれを近距離で写す固定カメラはもちろん、カメラマンが動きながら撮影している画面と目まぐるしく画面に映る部分が変わっていくのは配信ライブならでは。自分の見たいところを自分の目で見れないというのは物足りないところではあるが、逆に普段はここまで演奏中のメンバーに寄った映像はなかなか見ることができない。
「5ヶ月ぶりのライブです!皆さん、見えてますよ!鼻を膨らませているあなた、見えてますよ!」
とROYはのっけからテンション高く喋りまくるのだが、そこはひたすら転がり続けてきたロックンロールバンドゆえか、5ヶ月という未だかつてないスパンが空いたことによって、MCの感覚は少し失われているのか、それとも
「昔RED CLOTHでやっていた、インディーズデビューする前は2人とかしかお客さんいなくて、無観客みたいなもんだった」
という無観客ライブならではのMCへのリアクションの無さによるものか。JIMからもTAXMANからも
「無観客のMCは向いてない」
とバッサリ一刀両断されてしまっていたが。
「Section #11」収録の、タイトル通りのロックンロールナンバー「SHE’S MY ROCK’N’ROLL」から、アルバムの中でも最もノイジーかつラウドなサウンドの「HIGHER」はさらにその成分が強くなっているかのような感じすらする。自身の喉をアンプのように調整することができるというROYのボーカルも歪みがさらに強く出ているかのような。
「楽しいね〜」
と曲終わりでJIMが何気なく口に出すと、ROYが「DON’T STOP ROLLIN’」と名付けたこの日のライブタイトルについて説明するも、無観客だからなのか、メンバー以外のスタッフがあんまりピンときていないのか、どことなくスベり気味。
それでも、
「止まることなく転がり続ける」
というタイトルはTHE BAWDIESがずっと口にしてきたことであるし、それを改めて配信ライブであっても自分たちの姿勢として強く打ち出していこうという思いはあったはず。
さらにはステージに立つのは久しぶりであるというこのRED CLOTHの会場を
「ホーム、実家」
と称し、同じくこのライブハウスで切磋琢磨してきたロックンロールバンドである毛皮のマリーズ、OKAMOTO’Sという盟友たちの名前も口にする。そういう当時の話を聞くとその時代にTHE BAWDIESのライブを見てみたかったと思ってしまうけれど。
そんな思い出深いRED CLOTHはかつてインディーズ時代に「I BEG YOU」をリリースした時のリリースライブの会場でもあるということで、その「I BEG YOU」も演奏されるのだが、イントロでROY、TAXMAN、JIMが中央に集まって楽器のネックを下げたり上げたりするパフォーマンスも距離感を意識してなのか、少し抑え気味。それでもJIMは間奏部分ではMARCYのドラムセットが乗っている台の上に乗ってギターを弾いていたが。
ROYのベースのイントロで始まる、暖かい空気を持った「I’M IN LOVE WITH YOU」もまたおそらくはこのRED CLOTHで何度となく演奏されてきた曲なんだろうな、と思うが、一転して時系列が最新のものに戻されるのはTAXMANメインボーカルの「EASY GIRL」なのだが、TAXMANがサビを歌おうとするとROYがTAXMANの真後ろに移動してカメラに映ろうとする(しかも完全カメラ目線)という爆笑のパフォーマンスに。これは間違いなく配信ライブという形だからこそ見れるものであるが、こうしたROYの無邪気さを感じさせる悪戯心はリアルで会うことができない寂しさを忘れさせてくれるかのようなエンタメ精神に満ちている。ただ単に本人が目立ちたいだけという気もしなくもないが。
するとここでROYが急に、
「我々、ステージに出る前にいつも円陣を組むんですよ。MARCYさんが「ロックン!」って言ったらみんなで「ロール!」って言って気合いを入れるんですけど、この円陣をいつやり始めたか知ってますか?」
と何故かいきなりクイズを出す。JIMとTAXMANは不正解だったが、MARCYは
「どうせ覚えてないから」
という理由で解答権すら与えてもらえず。ちなみに正解は2009年の6月に神戸VARIT.で行われな、THE NEATBEATSとandymoriとの対バンの時とのこと。
さらにはアルバムリリースツアーがまだ終わってないにもかかわらず、バンドは新たな曲が次々にできてきているという。
「「Section #11」が本当に素晴らしいアルバムだと思っているので、この勢いを止めたくない」
ということであるが、その姿勢はまさに「DON’T STOP ROLLIN’」そのものである。
そんな出来上がっている新曲の中からこの日披露されたのは、まだタイトル未定なだけにこの配信ライブのコメント欄にタイトルを募集した曲。(MARCYは「提灯」という仮タイトルを発表していたが、100%それはないだろう)
ストレートなエイトビートのロックンロールナンバーで、「ヤーヤーヤー」というサビでのコーラスは実にキャッチー。もしかしたら次のシングル曲はこの曲かもしれないと思うほどに。
ちなみに自分が聴いた感じではサビのフレーズが「GOIN’ NOW」というものだったので、意味合いを含めてもそれがタイトルでいいんじゃないかと思うのだがどうだろうか。
そうして新曲をいきなり演奏して我々視聴者をビックリさせると、そのままおなじみの劇場という名の小芝居もないままに「HOT DOG」に突入していく。こんなにすんなりと演奏に入る「HOT DOG」を見るのはいつぶりだろうか。JIMは飛び跳ねながらギターを弾き、TAXMANはラスサビ前でMARCYの横に移動してカメラ目線で指を差す。初めての配信ライブとは思えないくらいに見事なカメラの熟知っぷりである。
「HOT DOG」が「動のロックンロールバンド」としてのTHE BAWDIESの代表曲であるとするならば、「静のロックンロールバンド」としての代表曲であるのが「LEMONADE」。それまでとは違って暗めの照明がこの曲の持つ雰囲気を引き立てているし、天井から吊された電球の灯りがさらにそれを強く感じさせる演出になっている。
ここで再びTAXMANメインボーカルの「RAINY DAY」へ。7月といえどまだまだ関東も毎日のように雨が降る日が続いているからこその選曲なのだろうか?とも思うけれども、先程のTAXMANボーカル曲「EASY GIRL」ではTAXMANの真後ろに回ってカメラに映ろうとしていたROYはこの曲の時は堂々と真ん中に立ってベースを弾きながらコーラスを務める。同じTAXMANボーカルの曲でもこうもステージ上の景色が違うのは実に面白いというか、ROYの悪ノリを期待してしまっている自分がいるというのもまた事実である。
ライブではおなじみのイントロアレンジが追加された「KEEP YOU HAPPY」では演奏するメンバーの笑顔が本当に眩しく輝いて見える。この曲のMVを見るといつも、ロックンロールで楽しむことに年代や性別や国籍は一切関係ないんだよな、と思うし、その思いはリリース当時よりも今の方がさらに強くなっている。メンバーはそうしたシリアスな空気になるようなことは言わないけれど、誰も拒んだり否定したりしないというのは間違いなくTHE BAWDIESの軸にあるものだと思う。
曲終わりでは改めてROYがメンバーを紹介するのだが、TAXMANは紹介された時にカメラに向かって親指をグッと突き出すという慣れない行為も行ったものの、やはり観客からのリアクションがないことによって、
「お前1人だとこんなもんだからな!普段からお客さんに助けられてる!」
とROYの空回り気味なMCをいじる。しかしそのROYはすぐさま真面目にツアーが延期になってまだ終わっていないことに対して
「ポジティブに言えばアルバムをもっと伝え続けることができる」
と実にTHE BAWDIESらしい前の向き方を示す。きっとメンバーも落ち込んだり先が見えないことに対して悲しんだりすることもあっただろうけれど、それをプラスの力に変換して、それを我々に届けてくれる。いつもそうやってパワーを貰ってきたからこそ、THE BAWDIESのライブに行くのがやめられないのである。
そのアルバムの軸を担う、リズミカルなコーラスとキャッチーなメロディの「SKIPPIN’ STONES」ではセッション的なイントロが追加され、目の前にはいないけれど確かに画面の向こうに存在している観客にサビのコーラスをコール&レスポンス風にして煽る。それにはついつい家の中であっても声が出てしまう。
アルバムのキャッチーな部分の象徴が「SKIPPIN’ STONES」であるとするならば、ソウル汁とブルースの象徴であるのが「BLUES GOD」。アルバムリリースのかなり前から新曲としてライブで披露されて練り上げられてきた曲であるが、曲が始まる前にはROYが思いっきり
「YEAH!」
とコール&レスポンスを煽る。もはや普段のライブと全く変わらない熱さである。
そして「JUST BE COOL」で物理的にも精神的にも飛び跳ねさせまくったことによって、そろそろ終盤かな?と思っていると、
「5ヶ月ぶりなんですから、まだまだ離しませんよ!」
とROYが言っているにもかかわらず、ROY以外のメンバーはステージからいなくなり、照明も暗くなる。
するとROYが椅子に座ってその前にはピアノが…MV公開時にも話題になった「STARS」である。レコーディングではROYはピアノを弾いていないものの、ツアーではROYによるピアノ弾き語りという形で披露され、さらにはCOUNTDOWN JAPANでは1曲目に演奏されて観客に驚きを与えた曲。歌っている際には画面には日本語訳歌詞が映し出されるという配信ライブならではの演出もあったが、ロマンチックでありながらもこの世界の情勢であるために鬱々としてしまいそうになる我々を鼓舞するメッセージであるかのよう。アルバムがリリースされて、ツアーで弾き語りを聴いた時はこんな聞こえ方をするなんて全く想像していなかった。
「STARS」が終わるや否や、いつの間にかステージに戻っていたMARCYがドラムを叩き始めるとそのビートに合わせて他のメンバーも合流。「DON’T STOP ROLLIN’」というライブタイトルに最も相応しい曲である「KEEP ON ROCKIN’」でギター2人のサウンドはさらに鋭さを増すのだが、通常のライブと全く同じようにROYはコール&レスポンスを求め、心の目で画面の向こうが見えているということで
「足りない!足りない!」
といったん演奏をストップしてもう1回やり直そうとするも、ROYがまだ喋っているのにメンバーが演奏する音をどんどん大きくしていくというのはツアー中に新たに加わったメンバーの中での悪ノリである。
そうして画面の向こう側から(普段は逆に観客の声がメインになるためにあまり聞こえないROY以外のメンバーのコーラスもよく聞こえる)の大合唱を受け取ると、JIMは会場のドリンクカウンターに登ったり、その上に倒れ込むようにしてギターを弾きまくる。完全にロックンロールと楽しさのリミットが外れてしまっている。それは自分たちの目の中に直接映っていることではなかったけれど、THE BAWDIESというバンドがどれだけカッコいいことか、そして4人でステージに立って音を出すことによって無敵であると改めて感じさせてくれる瞬間だった。
演奏が終わると恒例のTAXMANのわっしょいで締めとなるのだが、このライブのリハをやっている時にTAXMANがわっしょいのやり方を忘れていたということをROYに暴露される。
そのTAXMANは大将としておなじみの法被を見に纏い、黒ラベルの缶ビールを良い音を響かせるように開けると、ROYのちょっかいを受けながらも忘れることなくわっしょいを完遂させた。11月のZepp DiverCityでの振替公演ではみんなで一緒にまたわっしょいができるように。きっとみんなそう思っていたはずだ。
今となってはTHE BAWDIESのライブは観客の存在が欠かせないものになっている。それは我々がTHE BAWDIESからロックンロールの力を貰い、それをロックンロールやバンドへの愛としてバンドへ返す。その返したものでバンドはさらに力を増幅させることができるという幸福な循環によって成り立つライブをしてきたからだ。
しかしこうして会場からのレスポンスが全くない無観客でのライブを見ることによって、THE BAWDIESを初めて見た時のことを思い出していた。
ROYも
「昔は喋らなかった。MCはTAXMANに任せていたから」
と今の姿からは想像できないようなことを言っていたが、実際にメジャーデビュー時に初めてライブを見た時のROYはもっとオラついていたというか尖っていた。それは舐められてたまるかという彼なりのロックンロールさやパンクさの現れだったのかもしれないが、リリースを重ね、ライブを重ねるごとにそうした部分はなくなり、今の面白いおじさん的なキャラになっていった。
それは当時はまだTHE BAWDIES目当てでライブを見に来ていた人はキャパの1/10くらいだったかもしれないが、そうした状況であってもライブのカッコよさと素晴らしさは充分伝わっていたし、それ以降急速に人気を集めるようになって、THE BAWDIESはたくさんの人に愛されるようなバンドになった。それがステージからでもちゃんとわかるようになったからこそ、オラついたりする必要はなくなった。逆に愛してくれている人たちへの愛をしっかりと伝えられるようなバンドになった。そうしてTHE BAWDIESのライブは楽しいロックンロールパーティーになっていった。
このコロナによって、今までと同じようなライブの形式ができなくなるかもしれないとも言われている。同じようにやろうとしている、新しい形を探すのではなく戻ろうとしている人たちは淘汰されていく、ということすら言っている人もいる。
でもやっぱり観客の感覚を空けてとか、これからは配信ライブがビジネスの中心にとかじゃない、これまでと同じ形でライブが見たいのだ。そこにこそ宿る熱狂や熱量を数え切れないくらいに味わってきたし、それを求めてわざわざ時間や金をかけてライブハウスに行っていたのだから。
THE BAWDIESのライブの熱狂も紛れもなくそうしたものであった。転がり続けてきたロックンロール、THE BAWDIESが転がし続けてきたロックンロール。それは彼らが影響を受けたルーツミュージックが鳴らされていた頃から変わっていないはずだ。それを受け継いできたTHE BAWDIESはロックンロールを進化させながらも、受け継がれてきたものの素晴らしさを教えてくれた。だからこそ、どうかこれまでと同じ形で、これからもTHE BAWDIESのライブが見れますように。
1.DON’T SAY NO
2.LET’S GO BACK
3.IT’S TOO LATE
4.SHE’S MY ROCK’N’ROLL
5.HIGHER
6.I BEG YOU
7.I’M IN LOVE WITH YOU
8.EASY GIRL
9.新曲
10.HOT DOG
11.LEMONADE
12.RAINY DAY
13.KEEP YOU HAPPY
14.SKIPPIN’ STONES
15.BLUES GOD
16.JUST BE COOL
17.STARS
18.KEEP ON ROCKIN’
文 ソノダマン