毎年9月の終わりに岐阜県中津川市の公園で、太陽光のエネルギーで開催されている、中津川 THE SOLAR BUDOKAN。
今年はコロナの影響でやはり通常開催することは出来ず、先日中野サンプラザで行われた公開事前収録と、開催地である公園での生配信によるハイブリッド開催に。
毎年会場で5〜6ステージくらいの規模で開催されているため、おなじみのアーティストたちの配信ライブをカバーするべく例年の2日間開催から9/26,9/27,10/3,10/4の4日間での開催に。
初日であるこの日の出演者は
シアターブルック
NOTHING BUT THE FUNK (US)
a flood of circle
田島貴男 (ORIGINAL LOVE)
小坂忠 with SOLAR JAM (佐藤タイジ・KenKen・Dr.Kyon・沼澤尚)
PUSHIM with HOME GROWN
奥田民生
怒髪天
という、海外からのアーティストを迎えながらも実にこのフェスらしいラインアップ。
15時前になると画面には昨年までの名場面的な映像がダイジェストで流れる。去年や一昨年に自分が確かにあの場所で見てきたライブも。
15:00〜 シアターブルック
先日の中野サンプラザでの事前収録ライブの冒頭で収録された、主催者の佐藤タイジがトップバッターである自身のバンドを紹介するというオープニング映像の後に中津川の公園でライブを始める映像が映し出された、シアターブルック。
相変わらずの日本人離れしたファンキーな出で立ちの佐藤タイジは白いスーツに身を包み、太陽とこの場所へのラブソングと言ってもいい「ありったけの愛」を見た目通りのソウルフルな声で歌い上げていく。外人パーカッションプレイヤーなど、総勢7人による演奏はこのフェスの平和な雰囲気を象徴するかのようにカラフル。曲中には
「今年も晴れたぜー!中津川ー!」
と太陽に愛された太陽のフェスっぷりを叫ぶ。こうして見ていると本当に今年もこの場所に行って実際にライブを見たかったとも思ってしまうけれど。
一転してダブの要素が強い雨の歌「TEPID RAIN」へ。元よりセッション的な要素の強いライブをやるバンドであるし、個人的にはiLLなどのライブなどでその実力を何度も見てきたドラマー沼澤尚のシンプルだけれども同じメロディなのにフレーズごとに叩き方をガラッと変えるというドラミングはどうやったらこんなことができるんだろうと思う。
その沼澤のドラムソロのイントロを佐藤タイジが紹介してからバンドの演奏に入っていき、佐藤のファルセットボーカルで歌われるのは「How Do You Do Mr.President」。そのタイトルからしてこの曲を歌う対象は明確でしかないが、それが怒りの闘争ソングというよりはあくまで未来を考えるために自分たちは希望を持って生きていこうという曲になっているというのがシアターブルックが音楽で表現したいもの、それはさらにはこのフェスが表明したいものにもなっている。
間奏ではRISING SUN ROCK FES.などでも大活躍していることでおなじみのエマーソン北村のキーボードソロ、さらには佐藤のエレキでのギターソロと、様々な場所で活躍している各メンバーのプレイヤビリティの高さを改めて見せつけてくれる。アウトロでは
「新しい日本の総理大臣もお元気ですか!」
という今の日本の状況ならではの即興フレーズも挟まれ、佐藤タイジのカッティングギターによるイントロが中條卓のうねりまくるベースと沼澤のドラムのリズムとともにファンキーな熱量を画面越しにも伝えてくるセッションに繋がっていく。この演奏だけで圧巻であるし、これはこの会場で聴けたら本当に最高だろうなぁと思ってしまう。
再びダブの要素を強める「曼珠沙華」はこうして聴いていると、フィッシュマンズとともにサカナクションなどの現在のダブを取り入れたバンドへの影響も大きいんじゃないかと思う。それをロックバンドでやるということも含めて。とはいえ佐藤タイジのファルセットボーカルはやはりソウルフルであるし、だからこそダビーなサウンドであっても音に酔うだけではない力強さを感じさせてくれるのだけれど。
ちなみに「曼珠沙華」とは彼岸花の別名でもあるのだが、あの会場に彼岸花は咲いていただろうか。
急に画面がモノクロになって、メンバーの頭上に輝く太陽が映し出されてから沼澤のタイトなドラムと佐藤のボーカルによって始まったのはアニメのタイアップ曲としてこのバンドの存在を広い世代に知らしめた「裏切りの夕焼け」。
まだ夕焼けと言うには少し早い時間なだけに、このモノクロという画面のエフェクトを施したんじゃないかと思われるが、音源ではもっと爆音ロックンロールというイメージが強かったこのバンドにとっての代表曲も、隙間を意識したアレンジで演奏されている。というか参加しているメンバーや編成が変わったり、時期が変わることによってライブでの姿も変わっていくのだろう。
「無事に開催できてホッとしています。この状況でこれだけできるっていうのを実証できたんじゃないかと思います。オンラインライブをソーラーでやるのって多分世界初なんじゃないかと思います」
という佐藤の手応えを祝福するように照らす太陽。それはライブ開始時よりもさらに強く輝きを放っていた。
そしてイントロのギターソロを少しミスってやり直すという生配信だからこそ、ライブだからこその場面もあってから演奏されたのは「夢とトラウマ」。
このバンドの懐の広さを示すかのような、どっしりとした演奏と、先程までのファルセットとは対照的に低く抑えてから一気にサビで開放するかのような佐藤のボーカルによるバラード。しかも佐藤の鳴らすエレキギターまでもが歌っているかのようですらある。存在自体が太陽そのもののような男は今年もやはりこの太陽のフェスを自身の存在と音楽によってより輝かせたのだった。
1.ありったけの愛
2.TEPID RAIN
3.How Do You Do Mr.President
4.曼珠沙華
5.裏切りの夕焼け
6.夢とトラウマ
15:50〜 NOTHING BUT THE FUNK (US)
名前の通りのアメリカのファンクバンド、NOTHING BUT THE FUNK。ギター、ベース、ドラム、パーカッション、キーボード、トロンボーン、サックスという7人のメンバーによる、それぞれのリモートでの演奏。
基本的に反復していくリズムにパーカッションが変化をつけ、その上にキーボードとトロンボーン、サックス、ギターが順番にメロディを乗せていくという演奏。
何というかファンクでありながらも、アルコールを摂取しながら体を揺らしたくなるような(中津川の会場はそれが実に気持ちいい)、オーガニックなサウンドではあるが、こうした海外のバンドを招聘できるというあたりに佐藤タイジの人脈の広さと行動力の強さを感じざるを得ない。来年以降はこうしたバンドもあの会場で見れるのだろうか。
そしてこのバンドでもドラムを叩いているのはシアターブルックの沼澤尚だった。海外のバンドの中に入って演奏しているって凄すぎる。
16:10〜 a flood of circle
佐藤タイジと沼澤尚によるトークライブを挟んで、中津川での生ライブに登場したのは、このフェスではおなじみの存在である、a flood of circle。
すでにステージにはメンバーがスタンバイ。佐々木亮介(ボーカル&ギター)は黒の革ジャン、青木テツ(ギター)も黒シャツ、HISAYO(ベース)と渡邊一丘(ドラム)も服装は黒で統一される中で、
「おはようございます、a flood of circleです!」
と亮介が挨拶してから演奏が始まったのは「Summertime Blues II」。このフェスは9月の野外(しかも絶対晴れる)ということもあって、夏の終わりであり、最後の夏を感じられるフェス。そこに最初に鳴らされる夏ソングにしては爽やかさは全くない、あまりにも濃いブルース。しかしそこにはこのフェスに込められた思いはこのフェスの理念と一致している。
「忌野清志郎より婆ちゃんに教わったんだ
「核などいらねー」 彼女の心はそれきり変わっちゃいない1945年夏」
というフレーズはその象徴であるし、フラッドは原発事故が起きた直後からそうした姿勢を表明してきた。その思いはこうして夏にこの曲を聴くとまだ全然色褪せていないと思う。
おなじみ「Dancing Zombiez」ではHISAYOが軽やかにステップを踏みながらベースを弾く中、テツは観客はいなくてもギターを高く掲げて、アウトロで亮介はステージを降りて芝生部分を歩き出しながらギターを弾く。何というか、このフェスの持つホームな空気感がそのパフォーマンスを助長してくれているかのような。
そしてMVが公開されたばかりの新曲「Beast Mode」へ。すでに1月のワンマンから披露されていた曲ではあるが、演奏シーンをメインにしたMVはファンからも実に好評だった。それがフラッドのカッコ良さを最もわかりやすく伝えるものであることをファンはみんなわかっているからである。亮介は先日のユニゾンの配信フェスに出演した時に比べると少し喉の調子は良くなさそうではあるのだが。
続けてこちらも「Beast Mode」と同じく新作アルバム「2020」に収録される新曲「ヴァイタル・サインズ」。亮介はギターを置いてハンドマイクでステージを歩き回りながら歌うのだが、やはり最後にはステージを飛び出して芝生エリアへ。もしこの会場に観客がいたら、その人たちの上を歩いていく姿が見えたのだろうか。そんな光景を来年は必ず見たい。
「ただいま、中津川。a flood of circleです」
と亮介が挨拶すると、
「帰ってきたぜ。ギリギリ。ギリギリ雨も降ってない。そもそも結構ロクでもない世の中じゃないですか。でも俺たちの可能性を信じて」
と亮介が語ってから歌い始めたサビは「Honey Moon Song」。
正直、新宿育ちを明言しているフラッドにとって中津川は地元でもなんでもない。でも、他のフェスには毎年出れるかどうかわからないような状況と規模であるフラッドを毎年呼んでくれて、大事な位置を任せてくれる。だからこそ「ただいま」と言えるような場所になった。
亮介が歌っている時にカメラは会場の周りを上空から映した。フラッドが愛し、フラッドを愛してくれているこの会場を。フラッドにとってそんな場所がある、それがこんなに素晴らしい場所であるということが本当に心から嬉しい。これからも毎年この場所で、涙流れるまで笑わせてくれ。
さらにこの雄大な会場にとってのテーマソングであるかのように演奏された「New Tribe」では亮介が汗を流しながら歌っているのを至近距離のカメラが捉える。テツは頭を振ったり、ステージを激しく動きながらギターを弾く。
「生まれ変わるのさ 今日ここで変わるのさ」
「ここ」は紛れもなくこの会場のこと。ここでフラッドのライブを見る度に、まだまだフラッドは行ける、もっともっと行けるって思わせてくれる。
「あるんだかないんだかわからないようなルールもありますけど、やるしかないんじゃないかって思ってます。
本当ならいろんなバンドがこの会場に来るはずだったと思うんだけど、友達のバンドの曲をやります」
と亮介が言った時は、先日もやったユニゾンの「フルカラープログラム」かと思った。でも、
「アニキみたいなバンドの曲です」
と聞いた時に「アニキ?」と思ったのは、ユニゾンはフラッドにとっては決してそういうバンドではないから。ではアニキとは?と思っていたら、演奏されたのは今月リリースされたトリビュートアルバムに収録された、9mm Parabellum Bulletの「Black Market Blues」。
そのユニゾンではなくて9mmという選曲もまたこの会場だからだろう。去年、亮介はフラッド以外に9mm卓郎、バクホン将司、NCIS村松拓によるSHIKABANEでも出演した。
夏のSHIKABANEの配信ライブの際にも去年のこのフェスでのライブが楽しすぎて最終的には駐車場でみんなで飲んでいたということを話していた。そんな、卓郎との思い出が刻み込まれている場所でもある。そんな場所でテツは9mmの滝のようにステージから芝生エリアに降りてギターを弾きまくっていた。
さらには亮介とテツのツインボーカルと言ってもいいような形での「Lucky Lucky」と続いていくと、やはりバンドの演奏も亮介のボーカルもどんどん調子が良くなっていくような感覚があったが、フラッドがこんなにたくさん曲が演奏できるような時間をもらえるようなフェスもこのフェスくらいだろう。その持ち時間の長さはこのフェスの持ち味でもあるのだが、やはり好きなバンドのライブを少しでも長く、たくさんの曲を聴けるというのは素直に嬉しいところだ。
「止まるなよ」
と亮介が自分たちと参加者に伝えるように口にしてから演奏されたのは、まさにロックンロールバンドとして転がり続けていく意志を示した「Boy」。間奏では亮介がギターソロを弾き、サビではカメラを指差してから歌う。やっぱりこの曲はなんだか気合いを入れ直してくれる感覚があるというか。それは1月の渋谷QUATTROでのワンマンの時のこの曲が鬼気迫るくらいに素晴らしかったというのをまだ頭が記憶しているからかもしれない。
「まだまだ行こうぜ!俺たちとあんたらの明日に捧げる!」
と言って演奏されたのはおなじみの「シーガル」であるが、亮介はマイクスタンドをステージの前まで持って出ると、HISAYOとテツも亮介に合わせてステージから降りて芝生部分まで歩いていく。しかしながらテツのギターの鋭さはここでさらに増していた。本人も自身に近づくカメラに目線を合わせながら頭を振ってギターを弾く。バンドに加わってからの歴史は1番浅いけれど、テツも間違いなくこの場所がバンドにとって大事な場所であることを頭でなく体で理解している。
演奏が終わると亮介は珍しく頭を下げてから空を見上げた。ステージから去るという概念のない、画面が切り替わるという配信だからこその気恥ずかしさみたいなものがあったのかもしれないけど、その表情を見ていたら、自分は行くことはできなかったけれど、今年もフラッドが中津川に行くことができて、あの場所でライブをすることができて本当に良かったと思えた。
ライブ前にはトークライブをしていた佐藤タイジも
「行けー!亮介ー!」
と言って送り出してくれていた。それくらいに主催者とフラッドの信頼関係が出来上がっているということだ。主催者側もフラッドがどんなライブをやってくれるバンドかわかっているからこそ、毎年呼んでくれてはステージのトリという大事な位置を任せてくれたりする。
自分は2年前に初めてこのフェスに参加したが、その時に参加した最大の動機が「フラッドがトリをやるから」というものだった。なかなか他のフェスではそんな位置でライブをやらせてはくれないから。(もちろん普段の規模的にそういう位置に及んでいないことも理解はしている)
そうした主催者の気持ちやこのフェス、この場所の持つ空気、太陽光発電による音の良さがフラッドのライブをさらに素晴らしいものに引き立ててくれる。2年前に見たトリのライブが「来年からも絶対来よう」って思えるようなものだったから、よりこのフェスが自分にとって特別なものになった。このフェスにとってもフラッドがそんな存在であるならば、ずっとフラッドを見てきた者にとってはこんなに嬉しいことはない。
1.Summertime Blues II
2.Dancing Zombiez
3.Beast Mode
4.ヴァイタル・サインズ
5.Honey Moon Song
6.New Tribe
7.Black Market Blues (9mmのカバー)
8.Lucky Lucky
9.Boy
10.シーガル
17:00〜 田島貴男
ORIGINAL LOVEのボーカリストというか、今やORIGINAL LOVEは田島貴男のソロユニットとなっているだけに、個人名義とユニット名義の境界線がよくわからなかったのだが、中津川ではなくてどこかのライブハウスのステージに1人で立つ田島貴男の姿を見て、1人だとソロ名義になるんだなと理解した。
基本的にはORIGINAL LOVEの曲を弾き語りという形なのだが、田島貴男のボーカルは大人の男の渋味の極みと言っていいものであり、聴いていてうっとりはすれど、全く眠くならないのは田島貴男がボイスパーカッションを入れたり、ギターをループさせたり、ドラムのキックの音を入れたりと、本来ならそれはサポートメンバー入れてやるやつじゃないですかね、というくらいの演奏を全て1人でやりながら歌うという達人的なパフォーマンスをしているからだ。その辺りは佐藤タイジとも通じるライブにおけるバイタリティであるが、やはり最前線で戦い続けているベテランの経験や技術は凄まじいものがある。
田島貴男はORIGINAL LOVEのボーカルとしてデビューしながら、同時期に「渋谷系」として活躍していたピチカート・ファイヴ(野宮真貴と小西康陽らによるユニット)にも在籍したことがあるため、ピチカート・ファイヴの「誘惑について」もレパートリーに加わるという贅沢さ。
そして大ヒット曲「接吻」ももちろん歌われるのだが、原曲にも増してさらに渋〜くなっている。何というか、この曲は中津川の自然の中というよりこうした薄暗いムーディーな空間で歌われる方が似合っているというか。まさに長く甘い時間になっている。
かと思えば「bless You!」ではアコギのボディをパーカッションのように叩きまくるという、弾き語りという範疇をはるかに超えるパフォーマンス。歌とメロディとリズム。音楽を構成する要素を1人だけで全て鳴らすことができる。これはもうさながら1人バンドである。
そのタイトル曲になった「bless You!」も含めて、ORIGINAL LOVEとして昨年アルバム「bless You!」をリリースし、Suchmosら若手バンドからも対バンに誘われたりとリスペクトを受けているのだが、他に「プライマル」などのヒット曲もあるにもかかわらず、新作の曲をセトリに入れて、1人だけで勝負できるというアーティストもそうそういない。ましてやベテランになればなるほどセトリは固定化されていくだけに。だからこそ「ゼロセット」という新作の曲がクライマックスに入れることができる。
そしてラストはフェスらしいお祭り感に溢れた「フィエスタ」。それまではムーディーな雰囲気でもあったが、この曲は非常に情熱的なアコギの音色とボーカル。歌い終わると田島貴男は
「ソーラーパワー!最高!」.
と汗にまみれながら笑顔で口にしてからステージを去っていった。来年は田島貴男本人もそのソーラーパワーを中津川の会場で体感したいはずだ。
1.ラヴァーマン
2.グッディガール
3.誘惑について
4.ミリオン・シークレッツ・オブ・ジャズ
5.フランケンシュタイン
6.接吻
7.bless You!
8.ゼロセット
9.フィエスタ
18:00〜 小坂忠 with SOLAR JAM
中津川THE SOLAR BUDOKANと言えば、セッションライブも目玉の一つ。毎年様々な凄腕アーティスト同士がその日にしか見れないようなセッションを見せてくれる。
残念ながら今年はそれを生で体感することはできないのだが、かつて細野晴臣や松本隆という日本のポップミュージックの礎を築いたレジェンドミュージシャンである、小坂忠をこの中津川に招聘し(フジロックとかにも出演したことがある)、そのバンドメンバーとしてシアターブルックの佐藤タイジ(ギター)と沼澤尚(ドラム)、さらにはこのフェスにはDragon Ashのメンバーとしても出演したこともあるKenKen(ベース)、ブルーハーツの曲などでもピアノを弾いていたDr.Kyon(キーボード)という超豪華かつ凄腕のバンドメンバーが集結。
サングラスをかけて短髪でギターを弾きながら歌う小坂忠の姿はそこらの街で会っても気づかないような出で立ちだが(牧師でもあるからだろうか)、歌っている姿からはやはりレジェンドだからこそのオーラのようなものを感じる。
RIZEやDragon Ashなどでは複雑かつ高速のベースを弾いていたKenKenも曲に合わせてじっくりとリズムを刻んでいたが、やはりこのメンバーに混ざって演奏することには緊張感があったと後で佐藤タイジもコメントしていた。
どこか癖になるようなフレーズが連呼される「Hot or Cold」など、ポップでありながらもどこかひねっているという一筋縄ではいかないあたりはさすがティン・パン・アレーの面々と活動してきたミュージシャンであるし、そんな小坂忠をバンドメンバーたちの演奏がしっかりと支える。
曲の間奏ではそれぞれのメンバーのソロ回しという実に贅沢な時間も挟まれるのだが、小坂忠はDr.Kyonを紹介する時に「ドラム!」と間違えて紹介していたのはやむを得ないところではあるのか。
それにしてももうすっかり暗くなった夜のこの中津川の雰囲気は実に神秘的である。去年もSHIKABANEが夜にライブをやっていたが、その緩いトークとは裏腹にどこかの神殿でライブをやっているような神聖さがあったが、それは画面上からでもしっかり伝わってくる。この会場で夜にライブをするというのは出演者にとっても参加者にとっても本当に特別な体験になるはずだ。
近年はゴスペルとしての活動にシフトしているという小坂忠であるが、やはりこうして実際にライブをするのは実に久しぶりということであったのだが、ブランクがありながらもしっかり声が出ていた理由をライブ後のトークで
「君たちの演奏が僕の声を出させてくれたんだよ」
と言っていた。上手い演奏者はただ上手いというだけではなくて、歌い手の声を引き出すことができるということを改めて実感させてくれた。それはこれまでに錚々たる面々の演奏で歌ってきた経歴を持つ小坂忠だからこそ説得力のあるものだ。
何よりも久しぶりに見るKenKenのベースを弾く姿。いろいろあったし、こうしてステージに立っていることを快く思わない人もいるかもしれない。
だけどそのベーシストとしての実力はやはり他の誰であっても真似できないもの。そうした存在だからこそ佐藤タイジはこうしてKenKenに手を差し伸べているのだし(それがDragon Ashとの別離に繋がってもしまったところもあるのだけど)、やはりKenKenがこうしてベースを弾いている姿を見れるのは嬉しい。来年以降はリアルなライブでまたあの超絶ベースプレイを見ることができたら。
1.People get ready
2.Everyday Angel
3.Hot or Cold
4.Birthday
5.機関車
6.ほうろう
7.ゆうがたラブ
8.I believe in you
19:40〜 奥田民生
奥田民生は9月13日に行われた中野サンプラザでの事前収録ライブを放送しているので、リアルで観に行ったその日のライブレポを読んでいただきたい。
http://rocknrollisnotdead.jp/blog-entry-783.html?sp
20:30〜 怒髪天
4日間に渡って配信されるこのフェスの初日のトリは怒髪天。このフェスではおなじみの存在である。
すでに真っ暗な中津川の会場のステージに4人が登場すると、増子直純(ボーカル)はステージの前の芝生エリアでカメラに向かって「オトナノススメ」のコーラス部分の手を振る仕草を視聴者にアピール。そこまで配信でのライブをやりまくっているわけではないはずだが、このカメラなどを意識したパフォーマンスはさすがである。
とはいえ、
「オトナはサイコー!」
と言えるような大人に自分はなれているのだろうか、とも思う。大人になってよかったことと言えば酒が飲めるようになったくらいのものであるだけに。でも、
「青春続行!」
と言いながらステージに立って歌い続けているバンドの姿を見ていると、そういう大人になりたいなとも思う。
怒髪天はもう結成35年を超えている大ベテランバンドである。売れなかった期間も長かったし、メンバーが家庭を持ったりと、その間にはいろいろなことがあったはず。
そんなバンドが
「ロックバンドが理想や
夢歌わずにどうする
どんなクサい台詞でも
ロックに乗せりゃ叫べる!
ロックバンドが本気で
信じてないでどうする
こんな腐った世界を
いつかきっと 変えられると」
と近作リリースの作品収録の「HONKAI」で歌っている。これまでに何度となく壁にぶち当たってきたであろう、ロックに何ができるかを自問自答することがいくらでもあったであろうバンドがこう歌うことの説得力たるや。それは画面越しでも確かに伝わってくる。ロックにはまだできることがあって、それを信じているということが。
「夜のこの公園は虫くらいしかいないかと思ったら虫すらもいない(笑)」
という増子の挨拶的なMCを経て、50歳を超えても聴き手にエネルギーを与えるような曲や、あるいはその人生経験が滲み出るようなバラードなど、代表曲から今年リリースの「チャリーズ・エンジェル」収録曲までバンドの歴史や持ち味を全て詰め込むようなセットリスト。それはこのフェスのトリという持ち時間の長さがあればこそ表現できるものであるが、ライブが進むにつれて夜の中津川には雨が降ってくる。それがこのバンドの大人の滋味をさらに際立たせるような演出かのようだ。増子のリーゼントの髪型は雨が降っても乱れることはないし、上原子友康(ギター)、清水泰次(ベース)、坂詰克彦(ドラム)の演奏中の笑顔が崩れることもない。
「民生さんとかが同じ日だから会えるかなと思ったら民生さんは事前収録だった(笑)
会場に来てるのは俺たちとかウエノコウジとかフラッドみたいな呼べばすぐ来るような奴らばかり(笑)」
と笑わせてくれるのはさすがであるが、
「また酒の歌を作ってしまいました!(笑)」
と言って演奏されたのは最新作「チャリーズ・エンジェル」収録の「ポポポ!」。
「緊急事態だ!アルコール消毒だ」
というこのご時世なりに酒を飲むという行動をユーモラスに描くというのは実に怒髪天らしいけれども、上原子のギターリフも、坂詰のドラムパターンもどこかそれまでの曲に比べると若さというか、完全にスタイルが完成していると言ってもいい怒髪天なりに新しいサウンドに挑戦しているのがわかるというか。新作を精力的にリリースし続けていることも含めて、まだまだ音楽でやりたいことがたくさんあるのだろう。
そして怒髪天の酒の曲と言えばこれ!という「酒燃料爆進曲」では増子がステージを降りてスタッフや関係者、さらには出演者がライブを見ているエリアまで進んで行って、翌日に出演するウエノコウジの手を取ってカメラに映すという怒髪天だからこそできるパフォーマンス。やはりライブをしている側も、それを見ている側も本当に楽しそうである。
そんなライブの最後に演奏されたのは「雪割り桜」。
「一度折れた枝の先に 青いツボミ顔だした
例えそれが どんな小さな一歩だって構わない」
というフレーズはこうしてオンラインという形であってもフェスを開催することを選んだこのフェスの、そして日比谷野音で有観客ライブを開催した怒髪天の小さな、でも確かなライブをやるということへの一歩を肯定するかのようであり、
「雪割り桜 春を待たずに 咲き誇る魁の花
雪割り桜 冬の時代に 俺達は咲いた花」
というフレーズはそんな状況でも生きていくこと、音楽をやっていくことを諦めない自身の生き様そのもののようだ。
この曲は2012年リリースの「Tabby Road」収録曲であり、もしかしたら震災の経験が歌詞になっているのかもしれない。でもその歌詞が今この時代に確かなリアリティを持って響いている。それはきっとこれから先にどんな困難があってもそうして響くはず。35年間、同じメンバーで活動し続けてきた怒髪天の音楽はこの時代を生きる全ての人にとっての人生賛歌だ。
1.オトナノススメ
2.スキモノマニア
3.HONKAI
4.セイノワ
5.欠けたパーツの唄
6.クソったれのテーマ
7.孤独のエール
8.孤独くらぶ
9.ポポポ!
10.酒燃料爆進曲
11.雪割り桜
ライブ後にはこのフェスのMCでおなじみのジョー横溝、主催者の佐藤タイジに加え、翌日のトップバッターであるウエノコウジと武藤昭平、さらにはライブを終えたばかりの怒髪天・増子を迎えての酒を飲みながらのトークライブ。
かつてthe HIATUSでこのフェスの2日目に出演した際に、自身が大ファンである広島カープの優勝を控えたウエノコウジは会場楽屋内に巨大スクリーンを用意してもらって試合を見ていたら、Dragon Ashのkj(実はカープ好きらしい)らも合流してカープの優勝の瞬間を見届け、ウエノコウジが出演者たちによって胴上げされると、フェスが終わった後に打ち上げで開封するはずだった佐藤タイジの高級シャンパンをTOSHI-LOWが開けてシャンパンファイトをしたという話を筆頭に、
佐藤タイジ「明日、ROVOが出るんやけど、ROVOの山本精一が自粛期間中に京都のライブハウスでライブやったんやけど、それが無観客、無配信のライブだった」
ウエノコウジ「見た人誰もいないじゃん!(笑)」
という話から、ファミリー層がメインであるこのフェスにどうしたら若い人が来てくれたり、見てくれたりしてくれるだろうかという話題になると、
増子「でももうフラッドとかも俺たちの子供でもおかしくない年よ?亮介が子供だったら…いいね〜(笑)」
ウエノコウジ「亮介は子供でいいんだ(笑)」
増子「亮介はいい子だよ、本当に。あと9mmの卓郎。あの2人は本当にいい子。あの2人が子供だったらいいよね〜(笑)」
となぜか亮介と卓郎をべた褒めするのだが、
増子「もうデカいフェスはバーターの都合で決まるようなのばっかりだから!」
ウエノコウジ「それはどのフェスですか!?」
増子「ロッ…言わせるんじゃないよ!どれだけ大きいものを敵に回さなきゃいけないんだよ!(笑)
ま、あのフェスは入り口的なフェスでね。このフェスは108段くらい階段を登った人が来るフェスだから」
と、爆笑に次ぐ爆笑で更けていく中津川の夜。結局11時くらいまでずっと喋っていたが、
「15時からライブだから14時までは飲める」
と言っていたウエノコウジは翌日のトップバッターを無事に務められるのだろうか。
文 ソノダマン