前日にようやく久々のライブハウスでのライブを見ることができたが、まだすべてのアーティストや会場で有観客ライブができるわけではない。
この日、本来ならば忘れらんねえよはツアーファイナルとして赤坂BLITZでワンマンライブを行う予定だった。もともと、忘れらんねえよはこの赤坂BLITZで毎年行われている「スペシャ列伝ツアー」に出演したいが故に自分たちの対バンツアーのタイトルを「ツレ伝」と命名したり、5年前にはバンドの企画の一環としてこの赤坂BLITZで無観客ワンマンをしたり(今思うとあまりにも時代を先取りし過ぎていた企画だった)、赤坂BLITZというライブハウスと、そこでライブをするということに憧れを抱き続けてきたバンドである。そんなバンドの、最後の赤坂BLITZでのライブ。赤坂BLITZは赤坂の再開発構想によって、営業を終了してしまうことが発表されているから。
この日は祝日ということで本来予定されていたのと同様の18時に画面が赤坂BLITZのステージのものに切り替わると、ロマンチック☆安田(ギター、爆弾ジョニー)、イガラシ(ベース、ヒトリエ)、富田貴之(ドラム、THEラブ人間)のサポートメンバー3人がステージに現れるが、柴田がなかなかステージに出てこずに、「?」と思っていると、突如として画面が楽屋にいる柴田の姿に切り替わり、
「みなさんSTAY HOMEっていうことで、楽屋から弾き語りで」
と言ってアコギで「夜間飛行」を弾き語り始める。Bメロで思いっきり歌詞を間違えていたが、柴田の声は画面越し、しかも楽屋からであってもしっかり響いてくる。ハイトーン部分も良く出ているし、ツアーが全て延期になってしまっている状況であっても柴田自身がこのライブに合わせて状態や体調を整えて臨んできているのがよくわかる。
歌い終わって立ち上がると、
「ブリッツに出るアーティストしか見れないところをちょっと見せます!」
と言って、楽屋からステージに向かうまでの赤坂BLITZの内部を移動しながら映してくれるのだが、なぜか紹介するメインは男子トイレの場所ばかり。こうして見るとステージ裏にもトイレの数が多い会場なんだな、と思う。まるっきり必要のない情報であるが。
そして柴田がすでにずっと待機していたサポートメンバーたちが待つステージに登場すると、「バンドやろうぜ」から演奏がスタート。
「今夜も自宅で音楽聴いている」
と、STAY HOME仕様の歌詞にアレンジされているが、個人的には忘れらんねえよ屈指の名曲だと思っているこの曲を演奏している際の安田がバンダナを巻いてサングラスをかけて髭がかなり生えているというタチの悪い長渕剛ファンみたいな出で立ちになっており、なんだかその姿だけで見ていて笑えてしまう。
「いつかカタついたら みんなでビールでも飲もう」
自分は忘れらんねえよ主催の「つぼ八で飲み会」という企画に参加したことがある(マジでファンがメンバーと飲めるというだけの企画だった)のだが、このコロナ禍がカタついたらまたあの頃みたいにみんなでビールでも飲めたら…と、状況が変わると歌詞の持つ意味、そこから感じる意味も変わってくる。
柴田によるメンバー紹介でアップになると、イガラシがトレードマークの長い髪を結いていることがわかるが、柴田は近年のおなじみである、自身を
「ボーカル、菅田将暉!」
と紹介するが、菅田将暉のアルバムに曲を提供し、忘れらんねえよのアルバム「週刊青春」付属の書籍での対談でもびっくりするくらいのハモリっぷりを見せていただけに、自身をそう紹介するのもあながち的外れではないのかもしれない、とすら思えてくる。
ライブ序盤ではおなじみの時事ネタを使ったコール&レスポンスはこの日はリアルタイムのチャットを使ってのレスポンスを求めるのだが、
「DASH!」「村!」
という内容になったのはTOKIOの長瀬智也がジャニーズ事務所を退所するというニュースが出たからであろう。
そのコール&レスポンス(無観客であるがゆえにレスポンスを発するのは安田と富田だけであるが)の勢いそのままに雪崩れ込んだ「戦う時はひとりだ」ではラスサビを
「マイナビバイトで〜」
と、この曲のCM歌詞バージョンである「マイナビバイトの歌」に変えて歌う。
赤坂BLITZはネーミングライツをマイナビが購入したことによって、実は今の名称は「マイナビBLITZ赤坂」になっているのであるが、そうした偶発的というか運命的な出来事も含めてやはり忘れらんねえよにとってはここはどこよりも思い出深い場所であるのだろう。
「5年前にここでやった無観客ライブでドラムが抜けた」
「最後だから最高のライブやって気持ちよく帰る」
とBLITZでの思い出と想いを口にするが、それは視聴者やメンバーにではなくて柴田が赤坂BLITZに向かって語りかけているという設定であるらしい。
ツービートの疾走感溢れるパンク曲「北極星」では間奏部分で柴田が安田に
「ギターソロぶちかませ!客席誰もいないけど!」
と言ってステージ前に出て行ってギターソロを弾くのを促すと、直後に急に照明が全部落ちて真っ暗に。暗闇に紛れてメンバーの背後にはスクリーンが降りてきており、そこには柴田の両親の姿が。近年のライブでは実際にステージに出てくることもある両親であるが、配信ライブということでオンライン出演で柴田と赤坂BLITZにメッセージを送る。思いっきりカンペをガン見しながら喋っているのがわかるくらいに下を向きながら喋っていたが。
MCなどでは振られても全く喋ることのないイガラシの高音コーラスも冴える「喜ばせたいんです」はこういう状況だからこそファンへのメッセージという意味合いを強く持って響いてきたが、直後のMCでは
安田「「バンドやろうぜ」の間奏でチャットのコメント見たら「テンポ速いな」って書いてあった(笑)」
と、ついつい走り気味になってしまうのは久しぶりの、メンバー全員が楽しみにしていたライブだからこそであるということをメンバー自身は無意識だとしても見ているファン側はよくわかっている。
柴田「意義あることとか言いたいけど何もない!それよりも客がいなかろうが楽しいことをしたい!」
と柴田がこの日のライブをあくまで楽しいもの、それはつまり普段の忘れらんねえよのライブと変わらないものを見せるという意識を改めて口にすると、おなじみのフラワーカンパニーズリスペクトの「ヨサホイ」コールから「ばかばっか」に突入すると、普段は観客の上を歩くなりしてビール飲み場に向かっていく間奏部分では
「ロックンローラーは客席に足を着けたらダメだから!」
という理由で竹馬に乗ってPA席のあたりにいる完全防護服に身を包んだP青木(BAYCAMPの主催者でもある)の元へ行ってビールを受け取って一気飲みをするという、無観客だからこそのパフォーマンスに。ちなみにこのためだけに柴田は竹馬を猛練習したらしく、歌声同様の安定感を見せていた。
そんな忘れらんねえよならではの飛び道具的なパフォーマンスの流れから一転してストレートなメロディの「花火」へ。こうしてすっかり夏になったこの時期にこの曲を聴くと、今年は花火を夏フェスなどの野外ライブで見ることができないんだよなぁと思ってしまう。去年のロッキンでは忘れらんねえよがトリとして出演し、ライブ後に花火が上がる瞬間を見ていただけに。
「俺は熊本出身なんだけど、大雨降ったりして。みんな一生懸命生きてるのに。クッソ悔しいなと思って。熊本のために作った曲があって。熊本っていうか九州のために歌いたい」
と言って演奏されたのはひたすらにメロディを研ぎ澄ませ、それを前面に押し出した「うつくしいひと」。なのだが最後のいいところで音が止まってしまう。
それは続く、5年前の無観客ライブの時に脱退したドラムの酒田に向けて作られた「別れの歌」の最後の
「じゃあな」
のフレーズで画面が止まってしまうというのは実にもったいないところであった。それまでも音や画面がぶつ切りになってしまうような場面もあったけれど、この辺りは配信ライブの課題とも言えるだろうし、こうした場面があるとやっぱり会場の客席から一点の淀みもない形で見たかったと思ってしまう。
そんな配信ライブの問題点も浮き彫りになりながらも、配信ライブだからこそという点を忘れらんねえよがうまく使っていたのは、視聴している人の顔をZOOMの画面を使って映し出すことによって、確かにこのライブを今見ている人がたくさんいるということを示してくれたこと。柴田は
「俺らのファンはZOOMなんか使ったことない。パソコンすら持ってない」
とやたら自分のファンを低く見積っていたが。
そうして視聴者も見守る中で披露されたのは、ワンマンではおなじみになりつつあるメドレー。バンドによっては代表曲的な曲をメドレーにして一気に演奏することもあるが、忘れらんねえよはむしろ逆の方法論でメドレーを捉えており、普段はライブでやらないタイプの曲をメドレーにすることによって演奏するという形。
なので基本的にはワンコーラスずつ演奏して次の曲へ、という形になるのだが、メドレーとしているだけあって曲と曲は繋がるような形になっている。
その中でも白眉は「みんなもともと精子」だろう。なんじゃそりゃ的なタイトルではあるが、忘れらんねえよだからこそ書ける、究極のポジティブというか開き直りソング。忘れらんねえよにかかればネイマールも犬も同じ存在になってしまう。この曲が映画の主題歌に選ばれたことに本人もビックリしていたが、絶対に柴田じゃないと書けない(というか普通の人なら書こうともしない)曲という意味ではそうしてスポットライトが当たるのは実に嬉しいところだ。
「STAY HOMEのための曲!星野源の「うちで踊ろう」はこの曲のパクリ!」
と言って安田に思いっきり突っ込まれていた「踊れ引きこもり」では
「忘れらんねえよはテクノバンドなんで!」
という意味不明な理由によって、間奏部分でリモートでオメでたい頭で何よりのボーカルの赤飯が登場。回線の問題なのか、赤飯側は柴田の言っていることがほとんど聞こえないという状態であっても、西野カナ的なパートをファルセットで歌いこなす赤飯はやはり凄い。さすが2号店でマキシマム ザ ホルモンの曲を1人でダイスケはんとナヲのパートを歌い分けることができるボーカリストである。
その赤飯とのトークでは
「手越祐也のYouTubeがめちゃ面白い」
と語り、普段どういう生活をしているのかが気になってしまう柴田が曲の最後ではなぜかスタッフに追い回されて客席を走り回ることに。これもまた客席が無人の無観客の配信ライブだからできることと言えるだろうか。
柴田「EXILEのHIROさんの自伝小説を見たらめちゃ面白かった」
安田「手越祐也とEXILEとか、柴田さんバリバリにウェイ系じゃないですか(笑)」
と、柴田のアンテナの広さにびっくりしながらも、「だっせー恋ばっかしやがって」からはラストスパートに突入。
「俺よ届け」、そして
「名曲がその部屋に生まれんだ」
と歌詞を変えて歌われた「この高鳴りを何と呼ぶ」と、情けない男の抱く感情をストレートに曲に乗せた、しかもその曲がキャッチーなメロディであるという忘れらんねえよの芯と言っていいような曲で締めたのは、年明け後のZepp DiverCityでのワンマンや、その前のCDJでのトリを務めたライブにおいての、
「もう売れるとかなんとか、正直どうだっていい。俺はただ、女の子と上手く話せなかったりするような、そういうやつのヒーローになりたい」
というMCそのものと言える曲である。きっと忘れらんねえよのこうした曲に救われている人もたくさんいる。それは決して大多数ではないだろうし、世の中の主流という人ではないかもしれない。でも確実に存在している人たち。そういう人たちを救えるのは、忘れらんねえよのような存在の音楽であり、メッセージだ。
本編はこれで終わりだが、柴田がアンコールを求める声をチャットで打ってくれたらアンコールをやる、的な感じでアピールすると、やはりアンコールでメンバーが再び登場。
コメントが映し出されるモニターを置いてあるのは打首獄門同好会のパクりという身も蓋もないことを口にしながら、エモーショナルな「なつみ」を演奏。もはやアンコールの定番と言っていい曲であるが、個人名を冠した曲はある意味では作り手における十字架とも言える。果たしてこれから先この曲はこの重要な位置を担う曲であり続けるのか。いや、忘れらんねえよならきっと歌えなくなる曲なんてないような気がする。
そしてラストはやはり「忘れらんねえよ」。再び視聴者の顔をZOOMでスクリーンに映し出すと、曲に合わせて手を振ることを促すのだが、恥ずかしさからか、あるいはタイムラグ故かなかなか手を振ってくれない視聴者たちに柴田が
「恥ずかしがってんじゃねぇ!」
と言ったりしていたが、曲が始まると柴田はそのZOOMで映し出された視聴者の方を向く。それはつまりマイクスタンドに背を向けるという行為であり、当然ながらその時間は歌がマイクを通って聞こえることはないし、ZOOMで映っている人たちも画面しか見えていないだけに、柴田が前を向いていないと柴田の顔は見えない。それをきっとわかっていながらも、柴田はスクリーンの方を向いた。このライブを観てくれている人たちの顔をしっかりと見るように。
いつものような観客の大合唱はない。というかすることはできない。なのになぜか感動してしまっていた。それは無観客という形でありながらも、観客(というかファン)にしっかり向き合う柴田の姿を見ることができたからだ。
最後にスクリーンに映る視聴者とともに写真撮影をすると、
柴田「ありがとうBLITZー!」
安田「バイバイBLITZ」
とそれぞれ口にしてから、最後のBLITZのステージを去っていった。
柴田はもちろん、安田もイガラシもBLITZには少なからず思い入れがあるはず。その2人がこうしてBLITZがなくなる前にステージに立てたのは嬉しくもあるけれど、我々はこのまま実際にライブを観てBLITZにお別れを言うことはできないのだろうか。この場所に新しく生まれてからの期間の間にも、数え切れないくらいにたくさんのライブを見てきた会場。できることならなくなってしまう前にもう一度だけでいいからここでライブが見たい。
赤坂駅の改札を通って階段を上がって、整理番号を呼ばれるまで広場で待つ。広いロッカーで汗にまみれたTシャツを着替えて、ライブ終わりの人くらいしかいない広場で余韻に浸る。そんな経験をしてきたBLITZに、ちゃんとその場に行ってお別れが言いたい。それすらもできないのならば、コロナをより強く憎んでしまいそうな気すらしてしまう。
ライブ後にはスクリーンに12月に中野サンプラザにて初のホールワンマンを開催することが発表された。ある意味ではサブカルの聖地とも言われる中野が初のホールワンマンというのも実に忘れらんねえよらしい。
中野サンプラザも数年前から駅前の再開発計画によってなくなってしまうという話が出ている。(なんやかんやでその話が出てからもう5年くらい経っているけれど)
それだけに、忘れらんねえよが中野サンプラザのステージに立つ姿を見れるのはこれが最初で最後になるかもしれない。だからこそ、どうか12月には無事にライブができるような世の中になっていて、なんの心配もなく中野サンプラザでライブが見れますように。こうして配信ライブを見てしまうと、やっぱり実際に客席でライブを見たくなってしまうから。そう思えるということは、やっぱり忘れらんねえよはライブバンドなのだ。
1.夜間飛行 (弾き語り)
2.バンドやろうぜ
3.戦う時はひとりだ
4.北極星
5.喜ばせたいんです
6.ばかばっか
7.花火
8.うつくしいひと
9.別れの歌
10.メドレー
紙がない 〜 明日とかどうでもいい 〜 タイトルコールを見てた 〜 いいひとどまり 〜 みんなもともと精子
11.踊れ引きこもり
12.だっせー恋ばっかしやがって
13.俺よ届け
14.この高鳴りを何と呼ぶ
encore
15.なつみ
16.忘れらんねえよ
文 ソノダマン