a flood of circle × SATETSU × 佐々木亮介 Acoustic Night 2020 第一部 千葉LOOK 2020.10.25 a flood of circle, SATETSU, 佐々木亮介
先日、大傑作アルバム「2020」をリリースしたばかりのa flood of circle。フラゲ日には新宿LOFTで爆音試聴会も開催されたが、この日は毎回ツアー初日を行っており、千葉県にゆかりのあるアーティストとして数々の弾き語りライブにも佐々木亮介が出演しているホームと言えるライブハウスの千葉LOOKにて、バンドとSATETSU(亮介と青木テツによるユニット)、弾き語りというフラッド本隊と課外活動大集合の1日に。ちなみにこの日は2回公演であり、参加したのは16時スタートの1回目。
千葉県民にとっては数少ない様々なバンドがライブをしに来てくれるライブハウスである千葉LOOKもやはりコロナの影響を受けており、入り口に貼ってあるスケジュールカードの数はかなり少なくなり、検温と消毒に加えて千葉市のコロナ対策ホームページへの登録という地域性のある対策も講じている。
この会場で行われているツアーの初日は毎回売り切れているだけに、客席に椅子を置いて動員人数を1/4程度の50人くらいにしているというのはやはりいつもとは景色が違って見える。それでも毎回売り切れるクラスであるフラッドがこうしてライブを行うことによって前に進めることも少しはあるんじゃないかとも思う。
第一部の開演時間である16時になると、薄暗いステージの上にまずは黒の革ジャンを着た佐々木亮介が1人で登場。アコースティックだからということもあってか、通常時は「ステージが低すぎて主にドラムは最前列くらいじゃないと見えない」でおなじみの千葉LOOKであるが、この日はステージの奥を少し高くしており、亮介が座るステージ中央は千葉LOOKとは思えないくらいに見やすい。
BGMが止まると亮介は譜面台に譜面をセットしてギターを持ち、
「前座の佐々木亮介です」
とだけ挨拶をすると、言いたいことは歌いながら言うとばかりに、
「佐々木亮介、SATETSU、a flood of circle、全部俺〜」
「しかも2回ライブあるから計6ステージ〜
でもギャラは同じ〜」
とこの日の自身の稼働率の高さを自虐的に歌に乗せて、マスク越しに笑い声を起こす。
そんな、この日ならでは、千葉LOOKならではの弾き語りではオープニングとしておなじみのブルースから、すぐさまソロの「Blanket Song」に繋がっていく。その中にもこの日ならではの歌詞のアレンジを盛り込んでいくというのはさすがであるし、店長と関係の深いこの千葉LOOKで歌えている喜びのようなものがそのしゃがれた攻撃的な歌声にも滲んでいるようだし、コロナ禍でさすがに毎日のようにライブやって打ち上げやって…という生活ではなくなったからか、去年までは不安を感じることも少なくなかった亮介のボーカルはここ最近は実に安定しているといあ言える。
とはいえ、なんでこんな亮介フル稼働のライブをこの日に行うことにしたのかというと、元々はアルバムをリリースした後のツアーの初日をこの日の千葉LOOKで予定していたからだという。
すでに来月には恵比寿リキッドルームにてアルバムリリースライブを行うことも発表されているし、こうしてメンバー全員でライブをするんなら千葉LOOKでもツアー的にできるんじゃ?とも思うけれど、やはりそこはアコースティック編成でないといけないというルールのようなものがあるんだろうか。確かにこのキャパで立ち見でフラッドのライブが行われたら密になってしまうのは察せられるけれど。
「Baby 君のことだよ」「We Alright」というアメリカのR&Bやヒップホップを参照にした、トラップを取り入れている曲もアコギだけの弾き語りとなると途端にブルース、ロックンロールになるというのが亮介ならでは。
あまり普段自分はそうした音楽を聴かないリスナーであるのだが、亮介が作ったそうした曲はよく聴く。それは亮介の声が持っている力はもちろん、なかなか本家の音楽を聴いてもメロディが希薄に感じてしまうけれど、亮介が作るとやはり根底にあるスピッツなどの影響や、フラッドで作っている曲にあるメロディの強さと美しさを感じることができるから。なかなか今は弾き語り以外で聴くことはできないが、今の亮介の創作ペースからするとまたすぐにソロの作品が生まれるような予感もしている。
弾き語りを終えると青木テツを呼び込み、スタッフも交えていそいそとステージ上の配置替え。ステージの高い部分の下手側に亮介、上手側にテツという配置であるが、SATETSU名義だと2人だけになるのでバンドよりも話さないといけないという気持ちがあるのか、
「元気〜?」
と観客に問いかけたりと、バンドでのライブ時よりも自発的に喋ろうとしているような印象だ。
一時期はSNSに映る姿があまりに痩せ過ぎていてファンを心配させていたテツであるが、体型や顔のラインは少し戻ってきているようで、「お前が元気なのか?」と突っ込む必要はもうないかもしれない。
亮介「佐々木です」(最初は「さっちゃん」ではなかった)
テツ「てっちゃんです。せーの、」
2人「サテツです!」
というあからさまにPerfumeをパクっているであろう挨拶から、テツいわく
「バイ菌騒動」
というコロナ禍も全部まとめてトラブルと言い切る「You’re My Lovely Trouble」からSATETSUのライブはスタート。
2人だけという編成であるためにテツのギターはもちろん、ボーカルとコーラスまでもが重要な役割を果たしているということがバンド編成のライブ以上によくわかるのだが、
亮介「フラッド好きな人でも存在を知らないかもしれないSATETSU(笑)」
となぜかやたらとユニットの存在自体に自虐的なコメントが多いが、
亮介「SATETSUが2020年に生み出した名曲」
と言って、タイトル通りにパンキッシュなバンドサウンドをアコギ2本だけで奏でる「El PUNKINSTA」ではテツがメインボーカルで亮介がコーラスというSATETSUならではの場面も。しかしながら
テツ「本当の名曲。他の人が作った名曲(笑)」
と、SATETSUのライブではおなじみの井上陽水奥田民生の「ありがとう」のカバーを。やはり年齢的には亮介=陽水で、テツ=民生だろうか。やはり原曲よりもパンキッシュかつロックさを感じさせるのはこの2人の声によるものだろう。
亮介「世の中のヤバさを口にする人が多くなってるけど、もともとヤバかったじゃん。
フラッドのアルバムはコロナとか気にしないで作ったけど、SATETSUのアルバムは完全にコロナに向けて刺すつもりで書いてる。またバンドのスケジュールが空いた時にSATETSUの曲も作ろうかな」
と言って最後に演奏されたのは、アニメーションのMVが明確に「対コロナ」を意識して作られた「Peppermint Candy」。最後には亮介もテツも立ち上がってアコギを弾いていたが、
「どんなにイカれた時代でも歌っていようぜ」
「引き合う磁石 誰も引き裂けない魔力で」
という2020年というイカれた年だからこそ生まれたキラーフレーズはロックンローラーとしての亮介をはじめとしたメンバーの生き方、そんな時代でも変わることのないものについて歌っている。それはバンド、メンバーと我々ファンの信頼も含めて。演奏後の
亮介「さっちゃんです」
テツ「てっちゃんです」
2人「SATETSUでした!」
の締めはビックリするくらいに決まらなかったけれど。
そして最後はHISAYOと渡邊一丘を呼び込んでのa flood of circle。亮介はその位置のままでテツの位置に一丘のカホンを置いてテツは上手側に下がるのだが、下手側に向かうHISAYOが自身が飲むビールとともに、亮介が飲む分のビールとレッドアイ用のトマトジュースを持ってきて渡すという亮介への気配りっぷり。これは亮介の存在と作る音楽への信頼感があるからこそだと思われるが、自分が亮介だったらHISAYOのための曲を1曲作りたいくらいに惚れそうになる案件である。
そのHISAYOも下手側で椅子に座ってアコースティックベースを持つという、一丘のカホンも含めての完全アコースティック編成。HISAYOはアコースティックベースをライブで弾くのは初、一丘もまたカホンを知り合いから借りてきたという、バンド初のアコースティックライブ。つまりは15年を迎えようとしているバンドの新しい形、レアな形を初めて見るという体験になるのだが、
「一生懸命練習した成果を見てもらう…」
と発表会のコメントみたいなことを言う亮介であった。
そんなアコースティックでのライブはカホンとアコベのリズムに合わせて観客から手拍子が起こった「象のブルース」でスタート。メンバーのコーラスに合わせて観客も歌うのがおなじみの曲であるが、やはりそれができないというのはアコースティックという形態以上に今までに見てきたライブとは違うということを実感させられる。
まだ1曲しかやっていないにもかかわらず、一丘はカホンに座るのは腰が痛く、叩くのも手が痛いといきなりの満身創痍状態。そもそもカホンは大きい音が出ないから嫌いというあたりはさすがにこの15年近くをこのロックンロールバンドとして生きてきた男である。
しかしながら次の曲は「2020」のリード曲である激しいリズムとアコギの応酬である「Beast Mode」ということで、当然のように一丘もカホンを激しく叩かないといけないのだが、やはりアコースティックになるとどこかサウンドはスパニッシュというか、情熱的に感じられるようになるのが面白い。1月の渋谷クアトロで観客の声を収録したコーラスも亮介以外の全員でカバーしている。それは「2020」の内容にも大きい要素となっている部分だ。
一丘が休めるという新作からの「Super Star」はその言葉通りにしっかりとメロディを聴かせる曲であるが、アコースティックだからこそその亮介の歌うメロディの美しさが改めてわかる。結局はなんで我々がこんなにフラッドにずっと夢中になれているのかというと、曲が良いからという点に尽きるだろうし、それはテツ加入後のセルフタイトルアルバム「a flood of circle」、そして最新作の「2020」でさらなる進化を果たしている。そんな中でもそのメロディの部分に、さらには今の世の中や音楽シーンの状況だからこそより深く突き刺さる歌詞に焦点を当てたこの曲はこれからも長くライブで聴くことができる曲になりそうだ。
「コロナよりもブラックホールが観測されたことの方が俺にとってはデカい。だってまだまだ未知のものがたくさんあるってことじゃん。
それから人間の喉には未知の臓器があったってことがオランダで発見されたんだって」
と、亮介が未知のウイルスに怯えるよりも、未知のワクワクすることへの期待を口にすると一丘が
「あ!俺もそれ見た!」
と同調するのだが、テツが「完全に歌に入ろうとしてる今のタイミングでリアクションするんですか?」みたいな感じで驚いていたのが面白かった。
そんな未知のものへの期待を口にしてから亮介が思いっきり喉を開くようにして歌い始めたのは、人類が月に行ったことをラブソングに昇華したロマンチックな「Honey Moon Song」。
千葉LOOK備え付けの、位置的にはテツの頭上にあたるミラーボールがサビで輝くと、2メロでは座ってベースを弾く姿をじっくり見れるのが実に新鮮なHISAYOが高音コーラスを重ねる姿までもしっかり見ることができる。そのHISAYOのコーラスもまた新作の「2020」でさらに進化した形で聴くことができるが、こうして聴くとやはり女性のコーラスというのは他のメンバーではカバーすることができない要素であると思う。
そんなHISAYOのバンド加入10年を記念したワンマンライブが12月に「Love Is Like A Rock”n”roll」の再現ライブという形で行われることを告知するが、タイトルについている「Beer! Beer! Beer!」の方がHISAYOにとってはメインであるらしい。「Love Is〜」には収録されていない曲であるのに。
そんな中で最後に演奏されたのは、リズムに合わせて観客が手を叩く「ベストライド」。最後のサビ前、普段ならば観客が大声で歌うフレーズすらも、聞こえてくるのは亮介が歌う声だけだ。この合唱が終わった最後のサビではさらに速く疾走するかのような演奏に合わせて観客が一気に押し寄せる。そうしてファンと一緒になってフラッドは何度もこの曲で今を、記録を塗り替えてきた。この状況ではそれはできないけれど、フラッドは確かにまたこれまでの自分たちを塗り替えている。それは「2020」というアルバムを出したことによって。こんなにも「聴かれて欲しいアルバム」はなかなか他にない。聴けば絶対にフラッドのカッコ良さがわかってもらえると思っているから。
アンコールに応えて4人で再びステージに現れると、
「本当に、元気でいて。それだけ!」
と亮介が言って「New Tribe」をアコースティックで演奏。その編成ゆえにMVのような、新天地を目指す楽団らしさをより強く感じさせるサウンドになっていたが、そこには亮介がこの日何度か言っていたように、
「今日からまた新しく始まる」
という意思があってこそ。なぜならば本来ならばこの日から新しいツアーが始まる、新たなフラッドの旅が始まる日だったから。それは予定していたものとは違う形になってしまったけれど、アコースティックというバンドの新しい形を見れることにもなった。それもまた、バンドにとっての新たな始まりの一つである。
SATETSUはまだ自粛ムードの強かった8月に下北沢でもリアルライブを行っているし、亮介はそれからも弾き語りでライブをし、先日はフラッドで試聴会とミニライブも行った。そうしてフラッドに関する活動があることで、我々はライブハウスに足を運ぶことができる。それは何よりも「生きてるんだな」と実感することができる瞬間を味わえるということ。
それはこれから年末まで毎月続いていくし、それ以降も間違いなく続く。コロナが収束することがあったらよりその機会や瞬間は増える。こんなにイカれた時代でもそんな実感をくれるロックンロールバンドに最大限の感謝。あとは本当に、「2020」を今までよりもたくさんの人に聴いて欲しい。絶対に出会うまでの人生と変わるだろうから。
佐々木亮介
1.10/25千葉LOOKのブルース 〜 Blanket Song
2.Baby 君のことだよ
3.We Alright
SATETSU
4.You’re My Lovely Trouble
5.El PUNKINSTA
6.ありがとう
7.Peppermint Candy
flood of circle
8.象のブルース
9.Beast Mode
10.Super Star
11.Honey Moon Song
12.ベストライド
encore
13.New Tribe
文 ソノダマン