2020年はエンターテイメント業界にとって厳しい年となった。新型コロナウイルスの影響で多くのミュージシャンが活動の休止や自粛を余儀なくされる中、形を変えながらも進み続けるアーティストがいた。それが禁断の多数決だ。
禁断の多数決はこれまで幾度も形を変えながら活動を続けてきた音楽集団だ。2019年末には女性メンバーを一新して「第5期 禁断の多数決」として新たなスタートを切った。(禁断の多数決 ほうのきかずなりインタビュー 空白の1年半と第5期 禁断の多数決を語る)
しかし3回のライブを経て、まさにこれから、というタイミングでコロナ禍が直撃。4月20日、ほうのきかずなりは、第5期 禁断の多数決の終了を宣言し、禁断の多数決 ファイナルシーズンとしてほうのきかずなりひとりで再スタートすることを発表した。
禁断の多数決がファイナルシーズンに移行してから7ヶ月が経った。しかし、いまだにその全貌は見えていない。ファイナルシーズンとは何なのか? 第5期はどうなったのか? 真意を訊いた。
文・インタビュー/高橋数菜
――今回、当初は渋谷でインタビューの予定だったじゃないですか。場所が変わったのはなにか理由があるんですか?(本インタビューは10月31日に実施)
「禁断の多数決で渋谷でハロウィンパレードやろうと思ってて。でも区から『渋谷に来ないでください』みたいなメッセージが出ていたので、ナシになりました」
――ああ、確かにそうですよね。本来ならインスタライブやツイキャスとかでハロウィンパレードの様子を配信していた感じですか?
「ファイナルシーズンで面白いこと徐々に始まってます、みたいなことをしたくて」
――2週間前にお会いした時、ほうのきさんのなかでファイナルシーズンを言語化できていない感じだったじゃないですか。この2週間でなにか変化があったんですか?
「いや、ないんですけど(笑)」
――ははははは!
「ファイナルシーズン、現時点でもう30人くらいメンバーがいるんですね。で、自分はものづくりの人間だから、曲には妥協したくなくて。歌ってほしい歌声の人にお願いしたいし、あとミュージックビデオに出てほしい人も同じくで。その中で、せっかくメンバーになれたのにステージやMVに出られない人も出てくるじゃないですか。それでどうしようかなと思ってたのが2週間前なんですよね。でもやっぱり少なからず実力社会というか、そういうことだよな、と思ってちょっと楽になりました。これが2週間前との違いかもです」
――その決意が固まる前は、ちゃんと全員ローテーションでステージにあげるとかじゃないですけど、ひとりひとり大切にしなきゃいけないのかな、みたいな思いがあったわけなんですね。
「全員大切なのは変わっていないんですけど、ステージとかクリエイティブな部分には全員を扱うのは無理だなと思って、気が楽になったっていうことですね。この前も、歌を歌いたいわけじゃなくて、居ると楽しそうだからっていう子が来て。いいですねえってことで入ってもらったりして。なので、グループそのものには誰がいてもいいんですけど、歌ってもらう子とステージにあがる子は妥協なく決めるっていうことだけですね。その決意が2週間前にはなかったんですよ」
――この2週間で、禁断は禁断のブランドを守ってやっていくぞっていう決心ができたというか。
「そうですね、決心と……僕、サーカスが好きなんですよ。売店の人とかホットドッグを作っている人とか、みんなサーカスの団員さんがやっているじゃないですか。あれ好きなんですよね、家族稼業みたいで。七色に光るサイリウムでレインボー綿菓子を作りたいんですよ。それを作るメンバーとか。あと上下に揺れるハイドロカーをライブ会場の前に置きたいんです。ブオンブオンって車を揺らすメンバーとか。そういう感じが理想ですね」
――ははははは! いまメンバーってほうのきさん、上野さん、はましたさんを除いて全員女性なんですか?
「最近、元メンズアイドルの男の子が入ってきて」
――男性も入れるんですね。
「いまは男女関係ないです。でもファンの人は少し抵抗あるっぽいですね」
――うーん……まあ、そうでしょうね。その男性はなにをするんですか?
「まだわかんないです。その子にも言ったんです。禁断の多数決では女性や男性、外国人、LGBTの人々みんな平等です、でも少なからず実力社会ではあるからって。そしたら、禁断に居られるだけで嬉しい。でも、歌えるように頑張りますって言ってましたね」
――僕が子どもの頃って『ASAYAN』って番組でモーニング娘。のオーディションを毎週やっていたんですよ。
「知ってます。見てました」
――あの番組ってモーニング娘。のオーディションを1次審査から流すんです。だから1次で落とされるようなひどい歌声の子とか、受かるはずないだろっていう子とかも全部映るんですよ。でもまあ応募したくなるよなあっていう気持ちも僕は少なからずわかる部分があって。あの頃のモーニング娘。って夢のかたまりみたいな感じだったじゃないですか。禁断の多数決もそういう部分があると思うんですよ。だからさっきの話を聞いて、モーニング娘。のオーディションの映像がフラッシュバックしたんですよね 。モーニング娘。で踊っている自分は想像できてないかもしれないですけど、単純にあの場にいたい子もいるんじゃないかなって思いました。だからほうのきさんの気持ちもわかるし、応募する子の気持ちもわかるんですよね。
「誰が上で誰が下だ、なんていうのは全く興味がなくて。みんなが同じものを求めるマスの時代はもう終わってしまって、今は細分化がすごいじゃないですか。今まで当たり前のようにあったレールから外れて個人個人が自分らしく生きれる時代になったと思うんです。だから自分自身もどうしても作りたいものをメンバーに協力してもらって作りたい、そのために妥協はできないっていう」
――ほうのきさんとしては、これからの禁断は音楽に妥協しないよっていうことを発信したいのか、それとも何か別の発信したい出来事とかあったりするんですか?
「赤い公園の津野米咲さんが自殺されたじゃないですか。僕は曲も映画もアートだと思うんですけど、世界で起こっていることとアートはイコールだと思ってて。コロナがまだ終わってないじゃないですか。コロナが続いている中で、スタートダッシュする気にはならなくて。世界が混沌としてるじゃないですか。その混沌とした中で、混沌とした感じで進んでるんですよね。だからバンドメンバー決めてライブして新曲バーン! みたいなモードにはまったくなっていないんですよ。とにかく今できることをやっていますね」
――今はどういったことをやっているんですか?
「曲を作っているんですけど……昨日ちょうど米津玄師さんが『最近の自分の歌声を聞いたら真面目な声になっててびっくりした』ってツイートしていて、わかるなあと思って。そんな感じなんですけど、止まりたくなくて。曲を作ったりMVを作ったりしていますね。あとスナック禁断って人が増えるとわりと密な空間になったりもするんですけど、ああいったことも大事だと思っていて。国のルールを犯さない程度に、ある程度野蛮に生きたいんですよね」
――新曲ってコロナ後に作った曲ですか?
「曲は前からあったんですけど、歌詞は完全にコロナ後で。“バチカン・プレイスタイル”と “Don‘t Cry Baby” は歌詞も曲もコロナ前のものだったので、やっとコロナ後の曲が出ます」
――おお、聴きたいです。
「デモでよければ……“One More Night”って曲なんですけど」
(しばし聴きいる)
――超ヤバイですよ! 申し訳ないんですけど、正直、“Don‘t Cry Baby”と“バチカン・プレイスタイル”とレベルが全然違う。
「よかったです。初のコロナ禍後の歌詞です」
――第5期の6曲連続リリースの時の歌詞を僕、めっちゃ絶賛したじゃないですか。それからブランクというか期間が空いたと思うんですが、当時のままのモードでいってるというか。今のほうのきさんのモード、ヤバイですよ。歌詞の《永遠み率》ってどういう意味ですか?
「自分の言葉を作りたくて。若い子って今までにない言葉をみんなどんどん作るじゃないですか。俺も作りたいなと思って。『永遠になる打率』じゃないですけど、《永遠み率》って面白いなあと思って。造語っていうんですかね」
――音もそんなに暗くないし、今感があるし。コロナだからどよ~んという感じじゃなく、でもちょっと閉塞感があって、すげーいいとしかいいようがないです。
「『ブレードランナー』って映画が好きで。あれも終わった東京みたいなものが描かれていて。『ブレードランナー』を意識したトラックになっているんです。だから最後のサックスソロも当時っぽい感じで入っていて」
――この曲以外にはまだ手を付けてない感じですか?
「いや、今、ゴスペルみたいな曲も作ってて。制作に関しては心配してないです」
――今聴いたのはコロナ禍のモードが表れたサウンドになっているじゃないですか。でもコロナ前に作ってた曲もいっぱいありますよね。それは今後どうなるんですか?
「それはきっと、コロナっぽい歌詞になるんですよ。コロナの前にあったトラックにしても、化学反応みたいなのが好きで。あと自分は決定論みたいなものを信じていて。その曲たちが今後どうなるかはまだ読めないんですけど、『きっとこの曲はこういう運命だったのかな』みたいな考え方ですね。コロナがなかったら、また違った曲になっていたはずなんですよね。だから面白いなあと思っていて」
――禁断の多数決はオンラインライブ、やらないんですか?
「今は考えてないですね。でも『禁断のカーウォッシュ』っていう洗車サービスはしたくて。運転手は車に乗ってソーシャルディスタンスを保ったままで、禁断メンバーが泡だらけになって洗車してくれますっていうのをやりたくて。で、DJもいて、レインボー綿菓子もあって、ハイドロカーもいてっていう。サーカスがやりたいんですよ」
――ははははは!
「音楽は音楽で妥協なくやりたいんですけど、メンバーが何十人もいるんで楽しいことをやっていこうよっていう」
――ほうのきさんがTwitterで「禁断の多数決ファイナルシーズン、少しずつですが何かしら始まっています」と呟かれていましたけど、これはなにかあったんですか?
「ファンの方で『ファイナルシーズン始まってんだか何だかわかんない』っていう人が結構いたり、新メンバーって誰なんですかとか、新メンバー全員紹介してくださいっていうDMが来たりするんですよ。でもメンバー紹介とかはしたくなくて。『AKIRA』ってアニメあるじゃないですか。主人公の金田たちのあの集団が好きで。世界観もコロナ禍みたいじゃないですか。舞台も2020年で一緒ですよね。東京オリンピックの中止も予言していて。そんなネオ東京イコール今だとすると、コロナ禍でもユーモアも忘れずに自由に生きてるというか。金田なんて死にそうになってても常にギャグを言ってて。『AKIRA』と比べるのもおかしいんですけど、金田たちってメンバー紹介なんて絶対しないじゃないですか。ただツーリングしてる、っていうのと一緒なんですよ。だからメンバー紹介っていう概念も消えちゃって。メンバー各々が好きに自由に発信してくれたりは全然いいんですけど」
――金田たちのツーリングの列に、好きに加わってくださいみたいな、そういう感じですよね。だからグループっていうか、そういうゆるい括りみたいなのがあって、そこに入るのも自由だし、出ていくのも自由だし。
「鉄雄みたいに暴走するやつがいても自由。あと住まいが離れていてツーリングの列に加われなくても大丈夫です。メンバーのクラウド化というか。いまほんと面白い時代ですよね」
――だからメンバー紹介は粋じゃないっていうことですよね。
「粋じゃないっていう感じです、本当に。あと、自分のワンマングループ!みたいなのには興味がないんですよ。そもそも、音楽グループという概念がもうほんとに無くて、サーカスとか観にいくと、演者さん達の名前全然わかんないし、ピエロだとか、あのライオンすげー、あの空中ブランコのお姉さん綺麗、とかですよね。 でも禁断を応援してくれる人はこんなんじゃなかなか応援しづらいですよね、それも全然わかるので、誰かウィキペディアとかで好きに書いてくれたりとか、そういうの好きな人、好きに書いてくださいっていう。あ、『TENET』って映画の話をしていいですか。『TENET』って主人公だけ名前がなくて、主人公の名前って主人公なんですよ。要は、みんな主人公なんだっていうテーマの映画だと僕は思っていて。禁断もみんな主人公って感じなんですよ。金田が主人公って感じじゃなくて。金田の下にいるメンバーっていうのが嫌なんですよね。金田もちょっと目立っているだけで別に主人公を気取っていないじゃないですか。だから鉄雄みたいなやつが現れたら最高なんですよね。『TENET』っていろんなテーマが映画の中にあって。最初から出会う人はすべて決まっているっていう決定論みたいなテーマもあるんです。だから禁断のメンバーもみんな運命なんじゃないかなと思っていて。この考え方に僕は助けられていて。赤い公園の津野さんが自殺された次の日に清竜人さんが『僕は自殺しない』ってツイートしたんですよね。自殺はダメだとかじゃなくて、僕は自殺しないって。真面目に今の世界と付き合ってたら弱っちゃう人がいると思うんですよね。でも今の決定論の考え方があると、コロナ禍っていうのも決定論だからって思うと、ちょっと生きるのが楽になるんですよね」
――禁断の多数決のファイナルシーズンのゆるい繫がりっていうのは、コロナだからこういう形になったんですか?
「時間軸で話しますと、第5期のWWWのライブのMCで『みんな禁断の多数決でいいんですよ』って話をして。この形の禁断の多数決はずっとやりたかったことではあって。でもやり方もわかんないし、どういう風にしようかなあってずっと悩んでいて。そうしたらコロナ禍が始まって、『今だ!』って思って。それで第5期のメンバーひとりひとりに電話して、『一回白紙にしたいから、また一緒にやれたらやろうよ』って話をして」
――ほうのきさんが禁断の多数決のコミュニティ化を求めているんだったら、もっとみんなが禁断に入りやすい形にしたらどうかな、っていうのをちょっと思って。今ってほうのきさんに問い合わせないと、ほうのきさんが何を考えてるのかわからないじゃないですか。その一方で、歌声を送って、ほうのきさんがこりゃ駄目だっていうこともあるわけじゃないですか。
「メンバーにはなれます。歌は歌えなくても。入るのは全然いいんです。ただ、レコーディングやライヴでは歌は妥協しませんっていうだけです」
――ああ、なるほど! じゃあメンバーには簡単になれるっていうことをもっと発信していったらいいと思うんですが。
「前のインタビューでも言ったんですけど、タイミングを重要視してて。それは決定論にも似てて。自分の意志で来てくれた人が好きなんです。七月のコロナ禍の真っただ中に、メンバーになりたい人はスナック禁断に来てって発信したのも、この状況の中で来てくれる人ってどんな人かなっていうのもあったんです。その一歩を自分で踏み出した人がいいですよね。そこはブレないかもしれないです」
――じゃあこのインタビューを読んで、禁断の多数決に入りたいって思ったら、ほうのきさんに連絡を取ったら入れるんですね?
「読んで、『今だ!』って思って連絡くれた人はなおさらいいですね」
――どうやってほうのきさんに連絡取ったらいいんですか?
「なんでもいいです。TwitterでもDMでもスナック禁断でも。いきなり家に来られたりとかは嫌ですけど(笑)」
――Twitterの非公開リストで「禁断の多数決ファイナルシーズン」ってあるじゃないですか。あれってどんなことが書かれているんですか?
「掲示板みたいな感じです。新曲出しますとかメンバーに教えたり、この日に撮影するので来れる人いますかとか、そういうアカウントです。LINEグループとかネット上での交流サイトみたいなのを作りたくないんですよね。いま週一くらいのペースでスナック禁断っていうのをやってるんですけど、ここはレンタルスペースなんですね。ほんとは週6とかで営業したくて、いま物件を探してるとこなんです。メンバーやファンの方々、一般のお客さんなどが気軽に集えるようなアジトを作りたいんです。そこで交流できたらいいなと。あと、今いるメンバーにはアイデアを出してほしいんです。例えば『知り合いに猿回しの人いるんです。このお猿さんと一緒になにかやりませんか?』って言われたら、いいねえ、禁断の猿回しショーしようよとか、レインボー綿菓子作るとか、ハイドロカーで歓迎するとか、可能性は無限なんで」
――前からオンラインサロンみたいなものを作りたいっておっしゃっていたじゃないですか。今の禁断の多数決の状態って、それとすごく似ている気がするんですけど。今ってすごく充実してますか?
「そうなんですよ。なんでわかりました(笑)? いま、めちゃくちゃ充実してて。これからの未来に希望しかないですね」
information
■RELEASE
シーズン5
CD ¥ 2,000
MP3版 ¥ 1,100
ハイレゾ音源 ¥ 1,300
収録曲
1.WAR OF THE WORLDS (宇宙戦争)
2.バニラ・フォグ
3.Spring Break
4.Beach Game
5.ジャマイカン・シャンペーン
6.フラッシング・ライト (ノイバウテン・タイム)
7.Rainbow Children
8.Fifth Reformed