2020年には「ラブ フロム ナカマ」という盟友達による素晴らしいトリビュートアルバムがリリースされた、サンボマスター。
それを経ての2021年はついに20周年という記念イヤーとなり、初のアリーナワンマンとなる横浜アリーナでのワンマンで20年目のスペシャルイヤーの号砲を華々しく鳴らすはずだったのだが、年末からのコロナの拡大という状況を鑑みて、無観客での生配信に変更を余儀なくされた。どんなに有名になっても自他共に
「アリーナとかじゃなくてライブハウスのバンド」
として活動してきたサンボマスターの初のアリーナワンマンの勇姿を直接この目で観ることは出来なくなってしまったが、それでも配信でライブをやってくれる、サンボマスターが演奏している姿を観れるというのは、夏も冬もフェスがなくて会えない期間が長かっただけにありがたいことである。
ライブ開始時間は17時。それは全国各地からファンが横浜アリーナに来てくれるからということを考慮しての設定であったと思われるが、その15分前には配信視聴者限定の映像が流れる。
メジャー1stアルバム「新しき日本語ロックの道と光」のジャケットを撮影した、今はイオンがある幕張の道路での撮影、かつて近藤洋一(ベース)が住んでいた要町のアパート再訪、デビュー当時のアー写を撮影した高田馬場、巣鴨の練習スタジオと、サンボマスターを生み出した聖地と言える場所をメンバーが巡っていくのだが、その場所にまつわるエピソードトークがもれなく面白いのはさすがである。
映像が終わると真っ暗なステージの中に光り輝くのはこの日のために作られたであろう、ライブタイトルを冠した鮮やかな電飾と客席内に張られたフラッグの数々。ただステージを映すだけではなく、本来ならば我々がいるはずで、開演を待っているはずだった客席までも映してくれるというのがスタッフからのファンへの気遣いを感じさせる。
17時になるとステージ背面の巨大なスクリーンにはこれまでのライブの映像やこの日に向けたリハを行っているメンバーの姿が映し出され、おなじみのゴダイゴ「モンキー・マジック」のSEが流れてメンバーがステージに登場。
楽器を持つメンバーだけに微かな光が当たり、この瞬間に想いを馳せながら噛み締めるようにしばし間を置くと、山口隆がタイトルを叫んでから演奏されたのはいきなりの「ロックンロール イズ ノットデッド」。
常にライブハウスではメンバーの演奏する姿だけというストイック極まりないスタイルでライブを行ってきたのがサンボマスターというバンドであるが、この日はアリーナだからこそ冒頭からスクリーンに映像が映し出される。しかしそれもあくまでもメンバーの演奏する姿を補強するという類のもの。山口は
「よく来たね」「行きますよ!」
と確かにこの瞬間を見てくれている人へと言葉を挟みながら、今この状況だからこそより強い意味を持つこの曲をいつも以上に丁寧に、噛み締めるように演奏しているような印象だ。ただライブを中止にするのではなくて、
「誰にも言えない孤独だとか 君の不安を終わらせに来た」
とロックンロールを鳴らすことに意味があるということを曲と演奏でもって証明しているかのような。
「今からここで起きるミラクルを忘れるんじゃねぇぞ!」
と山口が叫んでから始まったのは「忘れないで 忘れないで」。映像にはタイトルの「わすれないで」という言葉がゲシュタルト崩壊を起こすくらいの数で持ってこちら側に迫ってくる。近藤だけならず木内泰史も力強いコーラスを務めているが、会場にいて、ウィルスさえなければそれを我々も一緒に歌えていたのだろうか、と思うと少し切なくなるのはこの曲が大切な人=サンボマスターの音楽を愛する人にいなくならないで欲しいというメッセージが込められている曲だからである。
木内の咆哮とともにイントロが鳴らされたのは文字通りに会場内を照明の光が飛び交う形で鳴らされた「光のロック」。ラストサビ前の合唱がおなじみのフレーズもメンバーのみで歌われたが、やはりサンボマスターがこうしてロックを鳴らしているという姿を見るだけで光を感じることができるような。
やはりおなじみの山口の暑苦しい煽りに近藤もカメラ目線で加わって
「全員優勝!全員優勝!」
と叫びまくってから始まったのは「ミラクルをキミとおこしたいんです」。
まるで30分の持ち時間のフェスでのセトリであるかのようなキラーチューンの連打に次ぐ連打っぷりであるが、2コーラス目では山口が
「俺が見えてないとでも思ってんのか!配信だからって大人しめでいいとか思ってんじゃねぇぞ!」
と普段と何にも変わらぬ熱量で煽りまくるし、それをカメラ目線で近藤も木内もそうしてくるからこそ、家の中で見ていても大人しく座っているなんていうのは無理な話である。この日、この時間に大きな声を出したり、飛び跳ねたりしている音が聞こえてきたとしたら、その音の主はこの配信を見ていた人かもしれない。
「こんばんはロックの申し子サンボマスターです!」
という山口のおなじみの口上から、
「無観客、無観客って言ってるけど、俺は全然そうは思ってないからな!」
と、やはりいつもと変わらない熱量を感じさせる言葉-それはこれまでにライブで築いてきたファンとバンドの信頼関係あってこそだ-とともに、ライブ初披露されたのは2020年にリリースされた「はじまっていく たかまっていく」。
音源でもヒップホップ的な要素を感じる部分はライブではどうするんだろうか?と思っていたのだが、木内による打ち込みとサンプラーによる音で再現し、頑固なようでいてサンボマスターはライブにおける禁じ手が全くないバンドであることがわかる(かつて木内は「Very Special!!」の経験が大きい」と言っていた)し、このヒップホップのサウンドは日本的というよりも今のアメリカのものを彷彿とさせるという部分からはこのバンドのいくつになっても変わらぬミュージックラバーっぷりと音楽的な好奇心を感じさせる。
観客が実際にいたらアリーナいっぱいに腕が揺れる景色が見れたのだろうなとも思うけれども、間奏での木内の「オイ!オイ!」という煽りと自画自賛するくらいの上手さの山口のギターによって、きっと日本中の様々な場所で腕が揺れているんだろうなと思える「青春狂騒曲」。久しぶりのライブとは思えないくらいにいつものサンボマスターのライブであるし、絶賛大寒波に覆われている日本であるが、このライブを観ている人の家の中だけはそんなものを吹き飛ばすくらいに暑く、熱くなっていたことと思う。
ここまではライブおなじみの曲が連発されてきたが、ここで演奏されたのは「きみはともしび」という実に久しぶりの選曲。この曲が演奏された2010年リリースのアルバム「きみのためにつよくなりたい」はサンボマスターの中でも屈指の名盤だと思っているだけに、こうして10年以上経った今でもこうして聴けているのは実に嬉しい。木内のクラッシュを多く入れるドラムも今だからこその強さを感じさせてくれるが、ライブでの凄まじさはもちろんのこと、やっぱりサンボマスターは楽曲そのものが素晴らしいバンドであるからこそ、こうして今になってアリーナでもライブが出来ているんだよなということを改めて感じさせてくれるし、アルバムリリース時にまだゴールデンウィークにフェスがなかった時代にその時期に渋谷QUATTROで無理矢理ワンマンを敢行したことも思い出す。
するとサンボマスター初期のSEであるシュガーベイブ「今日はなんだか」が流れる中で客席に作られたミニステージ(渋谷ラママを彷彿とさせるような床面)に移動すると、
「ライブハウス、横浜アリーナにようこそ!」
と言って激しい演奏とともに初期の「さよならベイビー」へ。
これが元から予定されていた演出なのか、無観客だからこそできたことなのかはわからないが、より至近距離でメンバーを捉えるカメラワークも含めて、なんだかサンボマスターをより感じられるものになっていたし、この時期の曲を鳴らしている姿を見ていると、進化しながらも3人は全く変わっていないようにも見える。
それは山口がドラムセットに近づいてからイントロのギターのフレーズを奏でる「美しき人間の日々」もそうであるが、もう18年も前に世の中に放たれた曲であるのに、ついこの前出た曲のような色褪せなさ。それは木内のシャウトも含めてバンドが瑞々しさやロックバンドとしての衝動を全く失っていないからであるが、こんな時代や状況であってもこうしてサンボマスターのライブを見て、画面越しであっても一緒に歌うことができている、日常にサンボマスターの音楽があるということこそが美しき人間の日々であるかのような。
大ブレイクの真っ只中に放たれた重い超大作「僕と君の全てをロックンロールと呼べ」収録の「手紙」がこのミニステージで演奏されたのは意外でもあったが、アドリブ感の強い山口の歌唱やギターソロも含めたこの曲もやはりライブハウスという景色を想定されて生み出された曲なんだろうな、とこの配信映像を見ると思うし、この曲を含めてアルバム自体も今の方が当時よりも素直に受け止められそうな感じもする。
木内のキープするドラムのリズムとともに、
「今世界中で頑張っているライブハウスとイノマーさんに捧げます」
と言って薄暗い中で演奏されたのは、これぞ詩的ロックの最高峰と思えるような山口の文学性が最大限に発揮された「ふたり」。
「明日の事柄は分からないだろう
それでもなお 君と話したいだろう」
というフレーズにはもう話すことができなくなってしまった存在であるイノマーのことを思い出さざるを得ないし、ギターソロで腕を高く掲げた山口の姿はこのライブを空の上から見てくれているであろうイノマーに届けるかのようだった。イノマーを慕うバンドはたくさんいるけれど、デビューの経緯からしてサンボマスターは最も「イノマーがいなかったらこうしてたくさんの人に発見されなかったバンド」でもあるのだから。
ミニステージでは寄りのカメラが捉えるメンバーの演奏する姿のみというストイックなライブであったが、「そのぬくもりに用がある」ではスクリーンに若き頃にこの曲をライブハウスで演奏しているメンバーの姿が映し出され、20周年を迎えたということを実感させる。それは映像の中の山口と近藤が今とは比べ物にならないくらいに痩せているからということもあるが、気軽に声をかけられないくらいに尖りまくっていた当時に比べてはるかにファンや聴いてくれている人に向けて演奏しているという今のバンドの姿が最もそれを感じさせる。だからこそ、
「俺が今まで出会った1人1人の、そのぬくもりに用がありました!」
と山口は叫んだのである。
ミニステージからメインステージに戻る際には近藤がカメラを持ってメンバーを映しながら歩くと、山口は
「もっともっと君と生き延びてロックンロールやりたいわけ。君と笑いたいわけ。何でかというと君が最高だからですよ。忘れんなよ、こんな状況になっても君が最高だってこと忘れんなよ!君がクズだったことなんて1回だってないんだからな!直接会えなくてもあんたが最高だってこと忘れんなよ!君のこと脅かしたりする場所が居場所じゃねぇぞ!ここが君の居場所だからな!」
と山口がまくしたてるように1人1人のことを肯定するように言葉を並べる。その言葉を言うことができるのは山口が、サンボマスターがその1人1人の存在によって生かされて、バンドを続けることができているからである。
そんなことを不安も弱さも含めてそのまま曲にした「生きたがり」は
「貧困と差別なくなるまで」
というフレーズも含めて、かつて「愛と平和」という誤解を招く可能性もある言葉を高らかに叫んだサンボマスターが、今に至るまで全く思考が変わっていないことの証左である。
ロックンロールバンドでありながらもポップなサウンドの曲を20年の活動の中で生み出してきたサンボマスターであるが、そのポップサイドの極みとも言えるのが「君を守って君を愛して」。シンプルなようでありながら跳ねるような連続する近藤のベースが手元まで見えるというのは配信だからこそであるが、隠れた名曲というポジションにしたままにしておくにはもったいないくらいの名曲であり、自分はこの曲のCメロの
「流れ星が流れるまで〜」
以降のフレーズが本当に好きなので、こうしてバンドの歴史を辿るようなライブのセトリにこの曲が入ってきてくれているのが本当に嬉しい。
すると山口が
「踊りまくれ!踊りまくれ!」
と煽りながら、アウトロからすぐさまイントロに繋がっていったのはサンボマスター流のダンスナンバー「孤独とランデブー」。カラフルなシンセのサウンドも含めてサンボマスターの懐の広さと引き出しの多さを感じさせる曲であるが、リリース当時にこの曲をカラオケバージョンみたいな感じで3人が煽りまくりながら全員ハンドマイクで歌ったりという思い出が蘇ってくるのも20周年という記念すべきタイミングだからか。個人的にはこの曲をアリーナという広い会場でファンみんなで踊りまくりながら聴きたかったのだが、ラスサビではステージから炎柱が噴き上がっていくという演出もアリーナならではだ。
すると暗い会場の中で山口が20年のうちで楽しいことばかりだったが、別れなくてはならなくなってしまった人もたくさんいたということを語る。だからこそ、今生きている人たちに向けて
「生まれてきてくれてありがとうございます」
と語りかけてからギターを弾き始めたのは「ラブソング」。その言葉の後だからこそ、この世の中の状況だからこそ、
「いつまでも続いていくと
僕はずっと思っていたんだよ」
という歌い出しのフレーズは強く心に響く。あのみんなでぐちゃぐちゃになって叫びまくるようなサンボマスターのライブの空間だって、いつまでも続いていくと思っていた。今メンバーが演奏している姿をこうして画面越しに観ているなんて想像していなかった。常に目の前に演奏するメンバーがいてくれたから。
そのメンバーが演奏する頭上には星空を思わせるような、サンボマスターのライブの中でも最も演奏する姿をじっと見つめざるを得ないこの曲に合わせるような、最低限の、でも最適な演出が。ラスサビ前にはやはり山口は間を置いてから歌った。居なくなってしまった人たちへの想いを馳せるように。少し声が震えているようにも感じたけれど、それでも歌い始めてからは前半よりもはるかに声に伸びがあるように感じられたのは、そうして会えなくなってしまったけれどこのライブを観てくれている人や、生きてこのライブを観ている人の全員がバンドにさらなる力を与えているかのような。サンボマスターはそうして人の力を自分たちの力として増幅させるライブをしてきたバンドだから。それは目の前に観客がいなくても変わることはない。ちゃんと観ている人がいることがわかっているから。
そんな感傷的な空気から前に進むかのように歌い始めた「輝きだして走っていく」ではスクリーンが3分割になって、演奏するメンバーそれぞれの姿が映し出される中、山口は
「世界中の戦っている方!ライブハウスの方々!事業者の方々!医療従事者の方々!俺が言うのも偉そうだけど言わせてください!」
と言ってから
「負けないで」
というフレーズを歌う。それは紛れもなくロックンロールでありながらも神聖な祈りのようですらあった。気持ちだけでは変わらないかもしれないけれど、それでもやっぱりその気持ちを持っていないと変えることはできないとも思う。
だからこそサンボマスターはこの状況であっても「世界はそれを愛と呼ぶんだぜ」で「愛と平和」を叫ぶ。スクリーンにはそのバンドからのメッセージをより強く伝えるかのように曲の歌詞が映し出される。画面越しでもそこに込められた3人の思いが伝わってきて思わず泣きそうになってしまう。配信であっても間違いなくこのライブが伝説へと向かっていっているのがわかる。
映像の進化や技術の進化によって配信ライブの見せ方は変わってきている。それでもやっぱりライブが良いかどうかというのはその音を鳴らすアーティストの人間力と、その音に込められているものによってこそ決まるということが見ていてわかる。それが突き抜けるくらいに強ければ画面越しであっても伝わるということも。この日のサンボマスターのライブはそれを証明していた。
「愛と平和」を叫んだということは、ライブはクライマックスに向かっているということ。山口は
「コロナだからできねぇと思ってんのか!
人の心が分断されてるからできねぇと思ってんのか!
目の前にいないからできねぇと思ってんのか!」
と暑く語りかけ、「できっこないをやらなくちゃ」を演奏する。
「アイワナビーア 君のすべて!」
とみんなで一緒に叫ぶことはできない。でもこの日、日本中の至る所でどれだけの人が叫び、歌っていたのだろうか。そうして確かにサンボマスターの音楽を通してつながっている人たちがいれば、やっぱりどんなことだってできるかのような気持ちになってくる。本当に不思議なことだけど、サンボマスターのライブはそうやって見ている人を無敵な気分にしてくれる。その感覚を数え切れないくらいに味わってきて、何度となく生きていく力をもらってきた。サンボマスターのライブで数え切れないくらいに笑ったり泣いたりしてきた。これからも何度もそう思っていくために、この世の中を生き延びていたいのだ。
木内のドラムがリズミカルなビートを叩く中で最後に演奏されたのは2020年にリリースされた最新曲「花束」であるのだが、演奏前に近藤がステージから移動したかと思ったらコタツの中でツイッターをやったりとやりたい放題で笑わせ、曲中にも同じようにツイッターをやっていると思ったら公式アカウントで木内のアカウントをブロックして笑わせてくれる。これを見ると公式アカウントは近藤が動かしているんだろうか、とも思えてくるが、最後には山口が
「アイラブユー!生きてくれよ!あなたが必要!」
と叫び、そのあなたこそが花束であるという曲のメッセージへと繋げてみせた。最後にはやっぱりユーモアを忘れないあたりがサンボマスターの人間性を表していた。
それはメンバーだけではなく、サンボマスターに関わるスタッフたちもそうだ。木内が最後に
「ありがとうございました」
とカメラに向かって言ってステージを去ると、拍手とともに客席にいる数少ないスタッフたちがアンコールを求める手拍子をする。そこには横浜アリーナのマスコットキャラもいるのだが、決して声を出さずに、会場に行くことができない我々の代わりにアンコールを求めてくれるその姿はビジネスではなく、スタッフそれぞれが心からサンボマスターの音楽を求めているからスタッフとして関わっているということを感じさせてくれたのだった。
その長い手拍子に応えてメンバーが再びステージに登場すると、山口は派手なジャケットを着用しており、近藤は同じ柄の短パン、城内はシャツを着用して、種類は違うが珍しく統一感のある出で立ちになると、
木内「また新しい目標ができたよね。みんなの前でやるっていう」
近藤「20年前はチケット売上0枚でリアル無観客だったんで、20年目で原点に戻った(笑)
無観客、無配信でしたからね(笑)」
山口「一つだけ欠けてたのは4人目のメンバーが足りなかったっていうこと」
と笑わせながらも核心を突くあたりはさすが発見されるまでが長かったサンボマスターでありながらも、
「終わりたくないからずっと喋ってると大学のサークルの頃を思い出す」
と言いながら1曲入魂として演奏されたのは「歌声よおこれ」。
ステージ背面のスクリーン前から炎が噴き出す中、MVではファンがバンドとともに思いっきり歌うこの曲がアンコールで演奏されたのは、そうしてみんなで歌うことができるようにという願いを込めているかのようであり、山口はギターソロで音を歪ませながら、
「一緒に生きてくれる人ー!」
と呼びかけた。画面の向こう側で実際に腕を挙げたり、心の中で挙げていた人もたくさんいたはずだ。きっとこのライブを観ていた人はみんなこれまでサンボマスターとともに生きて、これからも生きていこうとしている人たちなのだから。
「横浜アリーナに、サンボマスターに、見ている人に、ロックンロールの歌声が起こりましたー!」
と、これほどビシッと決まるような終わり方もなかなかないなと思っていたのだが、木内がキメではなくドラムを叩き始めて演奏されたのは「世界を変えさせておくれよ」。
この世の中、この世界だからこそ、図らずもリリース時よりもはるかにこの曲のメッセージは強く響くようになった。ライブハウスにたくさんの人の歌声が響くような世界に変えさせておくれというように。絶望したくなるようなこともたくさんあるけれど、サンボマスターがこうしてバンドとして音を鳴らしていればそんな世界に必ず戻れるはず。
「俺たちの本当の目標は、キミとずっと笑っていることです!」
と山口が叫ぶと、金テープがステージから客席に発射された。それは紛れもなく、メンバーこそ変わらないけれど世間の目に晒されたり、音楽性が広がったりしながらもバンドの20年を祝うものであった。
演奏が終わると「うまくいくんだよきっと」が終演SEが流れる中、スクリーンにはファンから募った動画が流れ、それを見ながらステージから去っていく3人。観客とともに20年を祝うことはできなかったけれど、メンバーの表情はどこかやり切ったような満足感を感じさせた。それでも、やっぱりその姿を実際にこの目で見たかったというのは変わらないけれど。
2017年の日本武道館ワンマンの時はやはりライブハウスのバンドとして、ライブハウスの延長というような、普段のサンボマスターのままでサンボマスターのライブを武道館でやるという感じだった。それと比べると今回の横浜アリーナは演出を含めてアリーナ規模でやるからこその意味を強く感じさせるものだった。それでもやっぱりライブの中心にあるのはメンバーの演奏。そのギリギリのバランスを配信であっても理解しているスタッフたちなんだろうな、サンボマスターの周りにいる人たちは。
木内はBLANKEY JET CITYのこの会場でのラストライブを観に来ていたと語っていたし、メンバーもライブ後には
「また横浜アリーナでみなさんの前でやりましょう」
と口にしていた。その日が来ることを信じてさえいればそれを目標に生きていけるような。そんな人間としての力を感じさせた横浜アリーナからの配信ライブだった。
そう、これは配信ライブである。正直、年末のフェスが中止になるまではそれなりにリアルなライブに行っていたからこそ、配信でライブを観るというものが物足りなくなってしまっていて、あまり無理してまで観なくなっていた。
それでもやはりこうして観ていて、有観客で出来なくなってしまっても配信で開催してくれたことに本当に感謝の念が芽生えていた。それはサンボマスターのライブの地力の圧倒的な強さがあるからこそ、リアルではない物足りなさだけではないものを感じることができたから。
どんな時代になっても、ロックンロールは何度だって立ち上がる。無責任かもしれないし、何の確信もないかもしれないけれど、サンボマスターが自分たちの音楽に込めたメッセージはこの日、確かな希望となって我々の心に届いた。その人間としての、音楽そのものに宿るぬくもりにこそ用があった。
1.ロックンロール イズ ノットデッド
2.忘れないで 忘れないで
3.光のロック
4.ミラクルをキミとおこしたいんです
5.はじまっていく たかまっていく
6.青春狂騒曲
7.きみはともしび
8.さよならベイビー
9.美しき人間の日々
10.手紙 〜来たるべき音楽として〜
11.そのぬくもりに用がある
12.生きたがり
13.君を守って君を愛して
14.孤独とランデブー
15.ラブソング
16.輝きだして走ってく
17.世界はそれを愛と呼ぶんだぜ
18.できっこないをやらなくちゃ
19.花束
encore
20.歌声よおこれ
21.世界を変えさせておくれよ
文 ソノダマン