昨年は春にフェスを行うなんてことを考えられることもなく、ゴールデンウィークの埼玉の風物詩であるVIVA LA ROCKも夏にオンラインフェスとして開催された。
それは翌年である今年に繋げるためであったはずだが、まぁ今年になってもこんなにフェスを開催するということに逆風が吹きまくる状況になるなんて、去年の段階では主催者側も全く想像していなかっただろう。
そんな今年のビバラはコロナ対策として、フェスの象徴の一つでもあった、さいたまスーパーアリーナ前の広場の飲食スペースと入場無料のGARDEN STAGEを含めたVIVA LA GARDENをなくし、収容人数1万人、アリーナもスタンディングブロックは事前抽選の人数制限、スタンディングブロック以外のアリーナは椅子席という形に。
さいたまスーパーアリーナの最寄駅である、さいたま新都心駅はやはり2年前までに比べると改札前は閑散としているが、今回に限っては賑わっていないほうがいいのかもしれない。
会場入り口前にはこの日出演する04 Limited SazabysのRYU-TAプロデュースのラーメン屋が出店しており、そこだけ長蛇の列に。これはだからこそ屋外にしたのか、会場の400LVあたりにするべきだったのかはわからない。
検温、消毒、接触確認アプリのインストール確認を経て入場すると、200LVのコンコースに飲食ブースが並んでいるというのはVIVA LA GARDENがない今年だからこそだが、フェスがなくなったらこの人たちの仕事や食材も誰にも知られることもなく、なくなってしまうんだよな…と思うと切なくなってしまう。
今年はステージの作りも変わり、例年の会場を縦に長く使うのではなく、横に広く使って同じ大きさのULTRA STAGEとGREAT STAGEが並ぶ。CAVE STAGEは例年と変わらず。
座席は1席置きに使うというディスタンスがなされ、座ってはいけない座席には出演者の書いた文字やイラストが貼ってある。これは座席のあるフェスで、出演者の協力があるからこそできることだろう。
開演前には主催者である鹿野淳による挨拶兼開幕宣言。埼玉のゆるキャラも引き連れながら、酒を持ち込んだりしないこと、飲食をする際は黙食を徹底的に周知。それはそうだろう、このフェスで何かが起きた時に責任を負うのは鹿野淳なのだから。
10:40〜 KEYTALK [ULTRA STAGE]
すでに10時過ぎくらいからメンバーが出てきてサウンドチェックを行っていた、KEYTALK。
「声は出せないけど、跳んだり跳ねたりクラップしたりして楽しんでくださいー!」
と小野武正(ギター)が言いつつ「Summer Venus」でサウンドチェックとは思えないくらいに、早くも盛大なクラップを巻き起こしていた。
本編ではおなじみ「物販」のラウドなSEとともに4人がステージに登場。元気いっぱいというイメージはこのフェスの開催初年度の初日にVIVA! STAGEのトップバッター、つまりはこのフェスの始まりを告げた時と変わらない。そのKEYTALKが今年、2年ぶりのさいたまスーパーアリーナでのこのフェスの始まりを告げるのだ。
配信などでライブを観ていたので、こうしてリアルな姿を見るのは久しぶりではあれど、メンバーの姿自体は特段変わった感じはしないが、1曲目が「桜花爛漫」というあたりがこの日から始まる春フェスシーズンの到来を感じさせる。歌い出しを担う首藤義勝(ベース&ボーカル)にも、ファンの懸念をよそにシェイプアップされた感じすらある巨匠(ボーカル&ギター)も、その声にブランクを感じさせることはないし、この曲の風に舞うようなサウンドが、本当にこのフェスが始まったということを実感させてくれる。
義勝のスラップから始まり、武正がステージを動き回りながらギターを弾き倒す「MATSURI BAYASHI」ではこの春を超えたさらに先の夏フェスでの景色も想起させる。自分はこのタイミングでは前方スタンディングエリアで観ていたのだが、KEYTALKを前の方で見たい人たち、それはつまりこの曲の振りを完璧に覚えている人たちが本当に楽しそうに踊っていた。不安になってしまうこともたくさんあるし、来ることに迷った人もいるかもしれないけれど、今こうして「楽しい」と感じられていることは紛れもない事実だ。その光景を見ていたら、全く感動とは程遠い曲なのに泣けてきてしまった。
「久しぶりに広い会場でライブやると音の広がりが凄いですね〜」
と久しぶりのアリーナ規模でのライブの感慨を武正が語ると「YURAMEKI SUMMER」でさらに夏感を加速させ、ゆらゆらと踊らせるサウンドながらも武正のギターはロックに引き倒すというKEYTALKなりのバランスが炸裂する「BUBBLE-GUM MAGIC」へと連なっていく。
自分は千葉LOOKでのTOTALFATとの2マンやリキッドルームでのヤバTとの2マン、新代田FEVERでのTHE BAWDIESとの2マンなど、それなりにこのバンドのライブを観る機会はあるが、基本的にはフェスで観ることが多いバンドだ。
そんな自分でもわかるくらいにKEYTALKには明確に「フェス用のセトリ」というものや曲があって、「YURAMEKI SUMMER」や「BUBBLE-GUM MAGIC」は紛れもなくその中に入ってくる曲だ。自分でもそう思うくらいにフェスで観るたびに毎回演奏されているということは、ワンマンに行くくらいの人からしたら、まぁ率直に言えば飽きるくらいに聴いている曲たちである。
でもそんなフェス用のセトリや曲すらも、この日こうして目の前で鳴らされるのを聴いていて「久しぶりだな」と思った。それくらいにフェス用のセトリを演奏する、それを観ることができる機会がなかったということである。
でもそれもフェスやワンマン問わずにライブを見てきた人こそがそうした想いを強く抱えてきたことだと思う。
と思っていた側から八木優樹(ドラム)による軽快な4つ打ちの(今となっては信じられない話だが、KEYTALKはメジャーデビュー時は「4つ打ちバンド」と括られていた)、フェスセトリ的な曲ではない「sympathy」を演奏するのだからこのバンドはやはり油断ならない。コロナ禍になる前から、いついかなる時でもどんな曲でも演奏できるというバンドだったが、それはライブがめっきり減ってしまった今の状況でも変わらないようだ。
かつてKEYTALKはこのフェスのメインステージのトリを任されたこともあるのだが、そこには義勝と武正が埼玉出身という理由も少なからずあると思われるし、この日も
義勝「大宮は埼玉の渋谷だから」
と埼玉の中でも郊外である狭山市出身としてのスーパーアリーナ評を口にしていた。熊本出身の巨匠はよくわかっていなそうだったけど。
さらにはおなじみの武正のコール&レスポンス「ぺーい」も行われるのだが、観客は声を出せないということもあり、リズムに合わせて拳を上げるという声なしバージョンで。本当に誰も声を出していなかっただけになかなかシュールな場面でもあったが。
するとこちらもフェスセトリ曲でありながらも春らしさを感じさせる「Love me」で義勝は楽しそうに飛び跳ねながらベースを弾き、その楽しさが客席にも広がっていく。外の世界の騒音やいざこざが全て作り話であるかのように。
と思っていたらフェスではほとんどやらない、4つ打ちとパンクの融合と言っていいような「アワーワールド」を演奏して、こちらの予想を良い意味で裏切ってくれる。武正はこれでもかというくらいにステージを動き回りながらギターを弾きまくっているが、ステージが広いこと、観客がいることによってよりギアが上がっている感じがする。
そして最後に演奏されたのはやはり2010年代を代表するフェスアンセムである「MONSTER DANCE」であるが、先日行われた2部制のワンマンでは演奏されなかったらしい。それはここで演奏されたことによって、普段フェスとかでやりまくってる曲だから敢えてワンマンではやらなかったということがわかるのだが、武正は巨匠と入れ替わるようにステージ中央のお立ち台に立つと、先程までとは真逆にギターを弾かずに振り付けを踊りまくっている。
その姿には思わず笑顔になってしまうが、義勝も最後には叫ぶようにして思いっきり声を出して歌っていた。そこには観客に心から楽しんで欲しいという思いもありつつ、この後にこのステージに出てくる同世代バンドたちに負けたくないという思いも少なからずあったんじゃないかと思う。
そんなバンドの姿を見ていた観客は、こんなに声を出して、みんなで歌うための曲でも全く声を出すことなく踊っていた。とかく「マナーが悪い」と言われがちなのは若手〜中堅バンドのファンであり、特にKEYTALKのようにアリーナクラスになった人気バンドならなおさらである。
でもそのファンたちが、普段のように歌うこともなければ、メンバーの名前を叫んだりすることも全くなかった。今このライブに来ている自分たちがどうするべきなのかというのをわかって楽しんでいる。バンドの演奏はもちろん、自分はそこにこそ感動していた。ステージから去る際の八木のおなじみの「アス!」の挨拶は控えめだったけど。
リハ.Summer Venus
リハ.太陽系リフレイン
1.桜花爛漫
2.MATSURI BAYASHI
3.YURAMEKI SUMMER
4.BUBBLE-GUM MAGIC
5.sympathy
6.Love me
7.アワーワールド
8.MONSTER DANCE
11:35〜 Novelbright [GREAT STAGE]
昨年メジャーデビューしたバンドの中ではトップクラスにブレイクを果たしたバンドでありながら、一方では何かとディスられることもあるバンドでもある。昨年はフェスがほとんどなくなってしまったため、本格的なフェス出演イヤーとなる。
メンバー5人が登場すると、山田海斗(ギター)の髪色が明るめの緑色になっているのが否が応でも目を引く中、竹中雄大の美しく伸びやかなボーカルが響き渡る、コカコーラのCMソングとしてたくさんの人の耳に届いたであろうメジャーデビュー曲「Sunny drop」でスタート。
実に爽やかなCMにふさわしい、ロックバンドというよりもJ-POPのフィールドにいるといった方がしっくりくるようなメロディとサウンドであるが、竹中のボーカルだけでなくメンバーの演奏は実に上手い。さすがは路上で鍛えてきたバンドである。ねぎ(ドラム)の常に笑顔を絶やさないという演奏スタイルも実に爽やかだ。
竹中は歌の上手さだけでなく、実は口笛の世界チャンピオンになっているという凄まじい経歴を持っているだけに「Count on me」では間奏でギターソロならぬ口笛ソロも披露されるのだが、楽器隊がいるのにあえて口笛というあたりがあまりにシュールなために、凄いんだけど笑ってしまう。ヤバTも「肩have a good day」という曲で口笛を取り入れているが、ややネタ感のあるあれとは違う大マジでの楽器としての口笛である。
先程J-POP的ということを書いたけれど、フェスのライブにおけるロックバンドとJ-POPのアーティストとの大きな違いは「バラードをセトリに入れられるかどうか」だと思っている。ロックバンドはバラード曲をフェスでやらないことの方が多い。そういう意味では臆することなく「ツキミソウ」というバラードを演奏できるこのバンドはやはりJ-POP的と言えるけれど、それをできるのはやはり竹中のボーカルがあってこそなのだろう。それが1番輝いて聞こえるのはボーカルを前面に押し出すバラード曲なのだから。
そんな中で演奏されたリリースされたばかりのアルバムからの新曲「ハミングバード」で一気にバンドらしさを押し出すロックサウンドに転じると、竹中は去年フェスにたくさん出るはずだったのに結果的にはほとんど出れなくなってしまったことについて触れ、
「だから僕らはまだまだ未熟なバンド」
と口にした。こうした若手バンドが登っていくべき階段がいきなり消えてしまったんだな、と思わざるを得なかったし、まさに最大の成長期と言える時期にライブが出来なかったというのはかなり痛い。去年フェスに出まくった上での今年だったなら「未熟」なんて言わなくていいくらいのライブができるバンドになっていただろうから。
そんな失われた日々を
「開幕寸前だった あの舞台もまた消え去ってた
どこまで遠くなったって 前だけは向いていたいけれど」
と振り返るように歌う「青春旗」では作曲を担うギタリストの沖聡次郎がステージにスライディングするかのようにしてギターを弾きまくる。相対するようにその姿を見る竹中の表情も実に楽しそうで、失われた時間もあったけれど、曲タイトルの通りにこのバンドは今青春の真っ只中にいるのかもしれないと思った。
そんなライブの最後は手拍子が起きる中、
「心の中で歌ってくれ!」
と竹中が言うものの、いやいやそんなに上手くは歌えません、と思ってしまうくらいに観客の声無しでもライブで成立する、でもいつかこうしたアリーナでたくさんの人が合唱するようになる光景が目に浮かぶ「背景、親愛なる君へ」。果たして他のバンドたちとはちょっと出自が違うバンドなだけにどうだろうか、とも思っていたのだが、完全にこの日のこのフェスの観客はこのバンドを迎え入れていた。それくらいに初出演、初めてライブを観る人ばかりとは思えないようなホームさだった。
しかし歌も演奏も上手いとはいえ、やはり他の年間100本とかライブをやって生きてきたバンドたちに比べると、ライブ自体の印象はまだ薄いと言わざるを得ない。だがそれは仕方ないことだ。去年の状況でメジャーデビューしたのだから。他のバンドには持ち得ない武器を持っているだけに、これからどう進化していくのか。
そしてメンバーがコロナに感染した経験がありながらも今の状況でステージに立つことを選んだというのは、今このフェスを開催する上で実に頼もしいことだ。
1.Sunny drop
2.Count on me
3.ツキミソウ
4.ハミングバード
5.Walking with you
6.青春旗
7.拝啓、親愛なる君へ
12:30〜 KANA-BOON [ULTRA STAGE]
KANA-BOONの谷口鮪は昨年から、精神の不調によって活動を休止していた。そこからの復活となったのが、先日のZepp Tokyoでのライブだったのだが、そのライブは現地ではファンクラブ会員だけで、メインは配信だっただけに、たくさんの人が復活してから初めてリアルでライブを観ることになる。
SEもなしにサポートベースのマーシーこと遠藤昌己を含めた4人がステージに登場すると、先日も自身が自虐していたように、かなり太って髪型がセンター分けになった鮪がギターを鳴らして、いきなりの「ないものねだり」でスタート。「ワンツー!」のカウントを叫ぶことも、この曲のライブでのおなじみであったコール&レスポンスをすることも観客はできないが、古賀隼斗(ギター)と向かい合ってギターを弾く鮪の顔は本当に楽しそうで、ああ、谷を抜け出したんだなということが伝わってくる。
さらには「シルエット」といきなりの名曲連発っぷりだが、
「大事にしたいもの持って大人になるんだ
どんな時も離さずに守り続けよう
そしたらいつの日にか
なにもかもを笑えるさ」
というフレーズは図らずも波瀾万丈の歴史を重ねることになったバンドのこれまでのことを受け入れてこれからも進んでいこうというように響く。歌うのが実に難しい曲であるが、鮪の声も復帰したてとは思えないくらいにしっかりと曲を乗りこなしている。
そんな名曲連打の流れでKANA-BOONのど真ん中としてのギターロックを再定義する最新曲「Torch of Liberty」へと連なっていくのだが、英単語を組み合わせた鮪の言葉遊び的な歌詞はさらに極まってきている感すらある。
ずっと変わらないと思っていたメンバーもいなくなり、新たな音楽パートナーとして一緒に活動するようになったギタリストも居なくなってしまった。それだけに、ポジティブなことが言えなくなっても仕方がないし、背負わなくていいから、自分が出来るような範囲とタイミングで活動してさえくれればいいともファンとしては思うのだが、鮪は
「今日みんなが来てくれたことを俺は全力で肯定する」
と、迷ったり不安になったりしてしまう我々を今までと変わらずに引っ張り上げてくれる。その姿を見ていると、なんでこんなに強い人なんだろうかと思う。それは想像できないくらいに壮絶な幼少期からの人生がそうさせたのかもしれないけれど。
先日の配信の時は「鮪が今やりたい曲をやっている」という感じの、レア曲(でもどれも名曲)満載のセトリだったのだが、そのモードはまだ続いているというか、フェスにおけるセトリも休止を経てリセットされたのか「フルドライブ」という代表曲が姿を消し、「バトンロード」もこの日はサウンドチェックで演奏されていた。
代わりに思わず両腕を上げながら踊りたくなるメロディアスかつダンサブルな「彷徨う日々とファンファーレ」、カラフルなサウンドでバンドの持つポップさを強く押し出した「ネリネ」がセトリに入り、短い持ち時間で見せるバンドの音楽の幅が広くなった。それこそKEYTALKとともにこのフェス開催初年度から出演し、当時は「4つ打ちバンド」の代表格的にも見られていたが、このセトリでライブを観たらそんなイメージは全く湧かないだろう。
そして音源ではフジファブリックの金澤ダイスケが参加していた鍵盤のフレーズが同期として流れる「スターマーカー」で踊らせると、これまでと全く変わらない笑顔を浮かべながら
「今日は最後まで楽しんで!」
と観客たちに告げ、最後に演奏されたのはまさにバンドの新たなスタートとして鳴らされたかのような「まっさら」。小泉貴裕のパワードラムのさらなる強化っぷりもそうだし、アウトロで鮪とともにドラムセット前に集まるようにしてギターを掲げていた古賀もきっと変わった。飯田が脱退した時にも「これからバンドとしてどう生きていくのか」ということに向き合ったと思うが、今回の鮪の休養はそれ以上にこのバンドとしてこれからも生きていくということに腹を括った出来事になったはずだ。鮪の作った曲を演奏し続けてきた2人なのだから。つまり、鮪も変わったけれど、それによって古賀も小泉も変わった。休止期間を経て、KANA-BOONはさらに強くなった。
今はまだ、鮪がステージに立っている姿を見ているだけで涙が出てきてしまう。近年の出来事を考えると、休止するのもやむを得ないし、こんなに早く戻ってきて、こうしてまた最前線に立って戦う姿を見れるとは思っていなかったから。
それをフラットに観れるようになった時には、きっとKANA-BOONはまたさらに前に進んでいるはず。その時にライブで声が出せるようになっていたら、拍手だけじゃなく自分たちの声で「おかえり!」って叫べますように。
リハ.バトンロード
1.ないものねだり
2.シルエット
3.Torch of Liberty
4.彷徨う日々とファンファーレ
5.ネリネ
6.スターマーカー
7.まっさら
13:25〜 Nothing’s Carved In Stone [GREAT STAGE]
このフェスは音楽雑誌MUSICAが主催的な立場であるため、その誌面で推されているアーティストが基本的に出演しているのだが、近年はインタビューが載るようになったとはいえ、これまでも数回出演しているのが意外な存在なのがNothing’s Carved In Stoneである。しかもこの日の出演者を見渡すと明らかに最年長であることが一目でわかる。
メンバー4人がステージに登場すると、久しぶりのライブ、フェスだからといって何が変わるわけでもない、と言わんばかりにいつも通りの出で立ちであるが、バチバチにそれぞれの音がぶつかり合いながら調和していくことによって観客を踊らせる「Spirit Inspiration」から、ひなっち(ベース)はもちろんのこと、村松拓(ボーカル&ギター)も歌いながらやけに笑顔を覗かせる表情が目につく。やはり久しぶりにこうして大きな会場でたくさんの人の前でライブができているという喜びがこのバンドにもあるのだろうか。
まだ時間は昼過ぎという感じであるが、屋内のフェスであるが故に流星が降り注ぐ夜に演奏されているかのような感覚に陥る「Like a Shooting Star」から、同期の不穏なデジタルサウンドを取り入れた最新曲の「Wonderer」では村松がハンドマイクでステージを練り歩きながら歌う。そういう意味では「In Future」の進化系という系譜にあたる曲になるのかもしれないが、ここまで硬質なロックサウンドを鳴らすバンドはこれまでに出演していないだけに、生形真一のギターのサウンドがよりそうした感覚をハッキリと感じさせてくれる。
「もうやりたくないことは一切やらない、っていう人がここに集まってるんじゃないかと思います」
という村松のMCはどこか今の社会への含みを持たせているような感じもあったが、大喜多崇規のドラムの一打一打がより強くなったように感じる「Pride」からは「Milestone」と、英語の発音も実にスムーズな村松の綴る日本語の歌詞も増えていく。
あたかも最後の曲の前かのように、
「今日は最後まで楽しんでいってください。Nothing’s Carved In Stoneでした」
と言って、生形のシャープなギターとタイトなリズム隊によって踊らせまくりながらも、キメの連発によるロックバンドのダイナミズムを感じさせてくれる「Out of Control」を演奏するのだが、いくらなんでもそこまで1曲1曲が長いバンドなわけでもないし、これで終わりというのは短すぎるだろうと思っていたら、やはり村松も
「なんかさっき最後みたいなMCしちゃったけど、まだあと1曲あるから(笑)」
と言って、
「変わり続けてでも
歌い続けるよ僕は
ここで君を待つ
Carrying my tears」
というフレーズが変わっていくようでいて、こんな時代と状況であっても、4人それぞれが「職業:ロック、ライブ」であるということを示すかのような「Dream in the Dark」を本当の最後の曲として演奏し、ベテランとしての凄みを見ていた人に刻み込むようなライブを終えたのだった。
年齢を重ねると、社会とより個人的に向き合わなくてはいけない場面が多くなる。家庭があったり、家庭をなくしたりしてきたメンバーによるこのバンドはこの日のどの出演者よりもそうして音楽以外の生活者としての時間を長く経てきたバンドでもある。
そんなバンドがこの状況でも変わらずにこうしてこのステージに立っていることの頼もしさ。もしこのバンドがこの日いなかったら「若手バンドの勢いで突っ走るフェス」というイメージになっていたかもしれないし、それはこういう状況なだけにプラスに働くことはほとんどない。
そんなこの日を音楽、ライブとしても社会への向き合う方としても引き締めてくれたのがこのバンドなのである。きっとこのバンドがステージに立つ限り、どんな状況や世の中であってもそうした頼もしさを感じさせてくれるはずだ。
1.Spirit Inspiration
2.Like a Shooting Star
3.Wonderer
4.Pride
5.Milestone
6.Out of Control
7.Dream in the Dark
14:20〜 BLUE ENCOUNT [ULTRA STAGE]
この日、ULTRA STAGEはONAKAMAという集合体を形成する3組が並ぶ。今年2月には今のように大規模なライブをやることに懸念や批判の声が上がる中でも、それぞれの地元3箇所を回るツアーをやり切ってみせた3組だ。そのONAKAMAの先鋒として登場するのが、BLUE ENCOUNTである。
おなじみのSEで4人が登場すると、田邊駿一(ボーカル&ギター)は茶髪気味の髪が高村佳秀(ドラム)と同じくらいまで短くなっており、先日の横浜アリーナワンマンでそっくりさん枠的な感じでゲスト出演したという漫才コンビ・ミキの亜生により似てきている感じすらある。
「はじまるよー!」
とその田邊が元気よく告げると、1曲目は「バッドパラドックス」。田邊も
「踊っちゃってー!」
と煽っていたが、ダンスミュージックのエッセンスを取り入れながらもブルエンらしいロックであるという意味では、この曲が収録された昨年リリースのアルバム「Q.E.D」は元から幅広かったバンドの音楽性をさらに鋭く研ぎ澄ませた1枚になったと言えるかもしれない。
かと思えば同じ「Q.E.D」収録、かつ「ダンス」というタイトルがついているにもかかわらず、スタイリッシュさよりもはるかに獰猛なダンスロックとなっているのが「VALCANO DANCE」で、去年の夏以降は配信なども含めて止まらずにライブをやり続けてきた、そしてアリーナクラスで2daysのワンマンをやったことによって、新作の曲にも関わらずライブでずっと鳴らされ続けてきたかのように、すでにこの曲たちはメンバーの血肉と化している。
とはいえ最新曲だけではなく、昔からのファンには嬉しい初期の曲も今の曲たちと同列に演奏するというのがブルエンのフェスの持ち時間でのセトリの組み方であり、江口雄也(ギター)の華麗なタッピングサウンドが光る「KICKASS」から、見た目からしてラウドな辻村勇太(ベース)の全身を大きく振り回すような演奏もあり、
「いつも通りのライブをやる」
と田邊が言っていたのを、いつも通りどころかいつも以上の熱量を持って鳴らされている。やはりそこにはこの後に出てくる仲間たちに繋げながらも絶対負けたくないという意識もあるのだろう。とはいえおなじみの「ロストジンクス」田邊はもちろん、江口はスクリーンにアップになる表情は客席に向かって弾けんばかりの笑顔を向けているし、辻村は声が返ってこないのをわかっていても観客を「オイ!オイ!」と煽る。これがブルエンのライブのやり方、戦い方であり、何が起きてもそこを変えることはしないのだろう。
「いろんなことを言ってくる奴らがいるけど、外のことなんか気にすんなよ。この中にいる時だけは、目の前で鳴ってる音楽だけを信じてください!」
と田邊は観客に向けて言い、その言葉が
「あなたを守り抜くと決めた」
という「DAY × DAY」に込められたメッセージをさらに強くしていく。田邊はきっと、このフェスを含めて、「今フェスをやること」について否定的な言葉を投げてくる人がいることをわかっている。それは自身も今年ONAKAMAを開催した時に直接言われてきたことでもあるのだろう。でも何を言われてもブレない。
「このフェスを開催してくれたから、俺たちはステージに立つことができる。バンドマンでいることができる」
という言葉も、去年からの1年間で痛感せざるを得なかったことであるからだ。
実際に「DAY × DAY」以降の曲は、まさに「今バンドがここにいてくれている人たち」に向けて歌いたいことを歌う曲ばかりだった。それらの曲は全てコロナ禍の前からブルエンにとってのキラーチューンでありながら、大事な曲であり続けてきた曲たちだ。それはブルエンがどんな状況(実際には田邊の地元の熊本での震災もあった)でも目の前にいる人たちのために音楽を鳴らし、歌ってきたバンドであり、それが今この状況だからこそより強く響くものになっているということだ。
完全にパンクなビートに乗せて叫ばれる「だいじょうぶ」も、
「ここからが新しい始まりになりますように」
というメッセージを込めた壮大なバラード「はじまり」も。こうしてライブを見て、曲を聴いていると、音楽の力は本当に凄い、どこが不要不急なんだ、と改めて思う。本当に「だいじょうぶ」だって思えるし、本当にこの春フェスの始まりとなったこの日が新しい「はじまり」だと思える。
だから最後に田邊が言ったように、今月からバンドは新たにツアーを開始する。こうしてこの会場にいた人たちに伝えたことを、各地に住んでいる人たちのところへ届けに行くのだ。そのはじまりがこの日のライブだった。
田邊はYON FESなどではめちゃくちゃ喋ることもある。持ち時間の何分の1をMCに使っているんだろうというくらいに。でもそれは毎回がそうなるわけではなくなってきている。言葉にしなければならないことがある時は言葉にして話す。この日は伝えたいことがなかったわけじゃない。伝えたいことは曲として、音楽として伝えたのだ。かつて「おしゃべりクソメガネ」とも形容されていた田邊は紛れもなく「自分の思いを音楽にして届けるアーティスト」になっていた。
リハ.Never Ending Story
リハ.Freedom
1.バッドパラドックス
2.VALCANO DANCE
3.KICKASS
4.ロストジンクス
5.DAY × DAY
6.だいじょうぶ
7.はじまり
15:15〜 SHISHAMO [GREAT STAGE]
他のどのバンドよりもこのフェスで育ってきたバンド、SHISHAMO。早くもリハで曲を連発するというあたりにはサウンドチェックというよりも、短い持ち時間の中では演奏したくても出来ない曲を演奏するという意味合いも強いように思う。(もちろんファンへのサービスも含めて)
おなじみのSEでメンバーが1人ずつ登場すると、松岡彩(ベース)はかなり髪が伸びたように見え、「フェス出演者の中で最もTシャツ短パンが似合う女子」だと思っている宮崎朝子(ボーカル&ギター)はやはり黒のTシャツに短パンという出で立ちで右腕を上げて
「ビバラロック!」
とお馴染みのコールをするのだが、当たり前ではあるが今はレスポンスを声で返すことができないため、少し遅れて拍手が返ってきて宮崎が苦笑する。
そんなSHISHAMOらしい空気感のライブは夏ではないけれど、誰かと一緒にこのフェスに来た人はきっと今の心境をこの曲に重ねることができるであろう「君と夏フェス」からスタート。
SHISHAMOは今年にかけてのコロナ禍になってもワンマンライブを行ったりしてはいたが、自分はライブを観るのが実に久しぶりなので、より骨太になった演奏に驚く。それこそパンク、ラウド的なサウンドであるBLUE ENCOUNTの後に見ても全く負けていないくらいに強い。
しかも「君の目も鼻も口も顎も眉も寝ても覚めても超素敵!!!」ではこれまではずっと「ギター、ベース、ドラムのみ」という形(同期の音を使うことはあれど)でのライブを行ってきたSHISHAMOの宮崎がギターではなく自身の横に置かれたキーボードを弾きながら歌うという新境地を見せてくれる。音源を聴いていてもこうした形でライブで演奏されるとは思っていなかったので、これにはビックリしてしまった。
挨拶的なMCからは、コロナ禍前からライブではおなじみであり、今もこうしてフェスで演奏されるくらいの位置に成長した、宮崎ならではの視点が切り替わる歌詞が実に面白い「君の大事にしてるもの」を演奏しようとするのだが、宮崎が入りをミスっていったん演奏を止める。松岡と吉川美冴貴(ドラム)は
「何もなかったよ!」
と庇うのだが、
「いや、今日は配信されてるからミスしたのもバレてる(笑)」
と、実にSHISHAMOらしいミスへの向き合い方で再度演奏し直す。
どうにもライブ以外のことを全て忘れるというのは難しいことであるが、こういう和めるような瞬間があることが1番忘れることができるのかもしれない。
宮崎のラップではないけれど早口なボーカルが次々に単語を連射していくのもまたSHISHAMOの歌としての新境地である「ひっちゃかめっちゃか」から、最後は観ている人全員にエールを送るように演奏された「明日も」ではスクリーンに歌詞が映し出され、宮崎の後ろから客席(宮崎の見ている視界)を映すというこの曲ならではの演出が。これもまた観るのは実に久しぶりだなと思っていたら、同じようにスクリーンに
「つまんない恋はしない
死にたくなるような恋がしたい」
と宮崎節炸裂の歌詞が映し出される「明日はない」が締めとなったのだが、行儀の良いステージの去り方とは裏腹に「明日も」をやっておいて「明日はない」んかい、とツッコミたくなるようなセトリを組んでくるというのもまた実にSHISHAMOらしい天邪鬼さを感じさせてくれたのだった。
SHISHAMOは自分にとってはこのフェスとMETROCK、ラブシャというあたりでライブを観ているバンドだ。でも今年はMETROCKも大阪のみの開催となり、それすらも延期になった。ラブシャも開催発表はされたが、まだ予断は許さない。そう考えると、このフェスはSHISHAMOのライブが見れる貴重な場になっている。久しぶりにライブを観たからこそ、より強くそう思ったのだ。
リハ.好き好き!
リハ.ねぇ、
リハ.真夜中、リビング、電気を消して。
1.君と夏フェス
2.君の目も鼻も口も顎も眉も寝ても覚めても超素敵!!!
3.君の大事にしてるもの
4.ひっちゃかめっちゃか
5.明日も
6.明日はない
16:10〜 THE ORAL CIGARETTES [ULTRA STAGE]
このフェスにおいてメインステージのトリを務めたことがあるという意味ではこのフェスを代表するバンドの一つであるし、山中拓也(ボーカル&ギター)も
「ビバラと作ってきた俺たちの物語」
と言っていただけに、思い入れが強いフェスなのだろう。THE ORAL CIGARETTES、ONAKAMAの2番手として登場。
4人がステージに現れると、山中は
「久しぶりやな〜」
と口にするのだが、その表情は実に嬉しそうだ。ここに帰ってくることができたことの感慨が表情に表れている。
すると、
「ONAKAMAの2番手なのが気に入らんけど(笑)、フォーリミが声出せなくなるくらいのライブやって帰りたいと思います」
と、おなじみの「1本打って」からの開幕宣言とともに「Dream In Drive」からスタートし、ロックバンドの枠を超えたサウンドがアリーナの中に広がっていく。
山中がギターを持つと、鈴木重伸(ギター)の特徴的なリフによる「狂乱Hey Kids!!」でまさにキッズたちを狂乱させて踊らせまくるのだが、それでもみんな決して声を上げたりだとかはすることはない。ちゃんとブチ上がりながらもどうやって楽しむべきなのかをわかっている。
山中が飛び跳ねながら歌い、ヘアバンドを装着した、あきらかにあきら(ベース)がコーラスをしながらグルーヴを生み出す「カンタンナコト」から、同期のデジタルサウンドとレーザー光線が飛び交う演出が美しい、ダークな歌詞の「Naked」とバンドの持つ多面的な要素を短い時間の中にもしっかり詰め込んでいるし、とりわけ「Naked」のような曲をこのフェスのステージで鳴らせるバンドはオーラルしかいないだろう。
「Get, get it up」
のコーラスを観客が歌うことはできないが、その分メンバーが大きな声で歌う「BLACK MEMORY」では中西雅哉の要塞のような巨大なドラムセットがビートを叩き出すとともに、このバンドの持つキラーチューンがここからも続いていく予感を感じさせる。
実際に山中が飛び跳ねながら歌う「容姿端麗な嘘」で観客も飛び跳ねまくるのだが、こうしてブルエンの後にオーラルのライブを観て、しかもこうしたオーラルらしいダークさを持った曲が演奏されていると、
直情的で真っ直ぐなブルエン
ダークヒーロー的なオーラル
やんちゃに見えて大切なものを守りたいと願うフォーリミ
と、ONAKAMAは音楽性もさることながら、それぞれのキャラクターもバラバラであり、だからこそこうして同じ集合体になれているんだろうなと思う。それぞれの役割がハッキリしているからである。実際にこのフェスもONAKAMAが色々と言われながらも開催して、それが結果を出したことに背中を押された部分もあると思うし、だからこそこの3組を同じ日にしたんだろうなと思う。
そんなことを思っていると山中は、
「最近思うんです。本当の独りぼっちは自分を恨むようなやつもいなければ、愛してくれる人も愛す人もおらんのちゃうかなって。
誰かに恨まれたり愛されたり愛したりすることが、自分の生きる価値になるんちゃうかなって」
と、このコロナ禍で考えや価値観が分断されていく時代にたどり着いた自身の価値観を語り、最後に「接触」を演奏した。
「誰かのことを想うなんて傷つくだけじゃないか?
決して止まない痛みの雨に刺されるんじゃないか?
どうしようもない 僕の中だけでいい
本当にそうか?それでいいか?
なにか間違ってるんじゃないか?」
という自問自答の歌詞はその先に山中の言葉があるということを示しているが、いわゆるみんなで盛り上がれるアンセム的な曲ではなく、こうした内面に深く潜っていく曲を最後に演奏することができる。しかもそれをアリーナクラスの規模でやることができる。それこそがオーラルというバンドであるし、そのオーラルならではの持ち味が120%発揮された、素晴らしいライブだった。それだけにフォーリミも間違いなく刺激になったはず。そうした相乗効果もまた、ONAKAMAという存在があるからこそもたらされるものだ。
1.Dream In Drive
2.狂乱Hey Kids!!
3.カンタンナコト
4.Naked
5.BLACK MEMORY
6.容姿端麗な嘘
7.接触
17:05〜 sumika [GREAT STAGE]
本気のリハから観客を踊らせ、笑顔にしてくれていたsumika。配信ライブこそ毎回趣向を凝らしたものを見せてくれていたが、こうして有観客のライブを行うのは実に久しぶり、自分自身こうして見るのも実に久しぶりである。
メンバー4人にゲストメンバーの井嶋啓介(ベース)を加えたおなじみの編成で登場し、メンバーが久しぶりの観客を前にして少し緊張しながらも笑顔を浮かべると、
「晴れのち雨になってもゆく
悪足掻き尽くすまで」
という歌詞がどこかこの世の中、社会の中での音楽の立ち位置であるかのように響く「祝祭」でスタート。片岡健太(ボーカル&ギター)の声は実に伸びやかであるが、後のMCで言っていたところによると、この時にすでに歌いながら泣いていたらしい。
それくらいにsumikaがこうして観客の前でライブをするのが久しぶりということなのだが、自分は次の「Lovers」を聴いていたら片岡と同じように泣いてしまった。配信ライブではあまり演奏されていなかったというのもあるけれど、今までだったら片岡が
「みんなの声で!」
と言っていたサビのコーラス部分をみんなの声で歌うことはできない。でも片岡は指差す先には今この瞬間にsumikaの音楽を受け止めている人がいて、間奏で流麗なメロディを鳴らす小川貴之(キーボード)と力強いリズムを刻む荒井智之(ドラム)が笑顔になっていることで、笑顔になってくれる人が目の前にいる。本来ならばこのさいたまスーパーアリーナでsumikaはワンマンをやるはずで、自分もそれが見れるはずだった。しかし結果的にそれは無観客の配信になってしまった。だからsumikaの音楽を生で感じられるこの瞬間が本当に久しぶりなのだ。この感覚を、ずっとずっと離さぬように。
片岡がギターを下ろしてハンドマイクを手にし、
「みんなどこでこの曲知ったの?(笑)」
というくらいに、
「さいたまのFlower」
のパワーを返した「Flower」から、黒田隼乃介のギターが炸裂しながら、小川も含めたコーラスが観客とバンドのHPを回復させるように高揚させる「ふっかつのじゅもん」と続くと、片岡が先程の
「1曲目から泣きそうになった」
というMCをして、まだライブで全くやっていないという3月にリリースされたばかりの新作アルバム「AMUSIC」収録の「惰星のマーチ」へ。
どこか現代社会へのメッセージを含んでいるようにも取れる歌詞はポップミュージックを作りながらも実は出自がパンクであり、直接的ではない手法で表現できる片岡ならではのものではあるのだが、アルバムの中からこの曲がフェスで演奏されるということがかなり意外であった。
再び片岡がハンドマイクになり、軽やかにステージを舞うようにして歌うのは来るべき夏フェスの季節にもこの心地良いサウンドでチルアウトしていたいと思いを馳せる「Summer Vacation」。こうして聴いていると1曲ごとに全くサウンドも曲調も違うだけに、改めてsumikaというバンドの幅の広さに驚かされる。そのどれもがポップミュージックであれていることにも。
そのsumikaのポップミュージックの極地と呼べるバラードが「願い」。
「あなたに出会えてよかった
あなたが笑っている未来まで
幸せ祈り続ける夢だ
一生物のギフトはそっと
私の胸の中
「おはよう」と「おやすみ」があって
時々起きては眠ってね
「さようなら」
春の中で」
という最後のサビを聴いていると、この曲がまさに春の季節の別れの曲であることがわかるけれど、大きなタイアップに応える曲を生み出していると、それまでのファンが離れていくことにもなりがちなのに、sumikaはそうならない。むしろsumikaの新しい名曲としてみんながそれを受け止めている。それは曲にどれだけ自分たちの想いを込めることができるのかということでもあるし、片岡の暖かさを感じる歌唱からは確かにその想いを感じ取ることができるのだ。
しかしながらその片岡は久しぶりの有観客ライブだからか、最後のまとめMCで何回も噛んでしまい、黒田に助けを求めるという事態にまでなってしまうのはやはり緊張していたところもあったのだろうか。
だが最後には「AMUSIC」では1曲目に収録されている「Lamp」のメンバーの楽しいコーラスが響く。
「HEY HEY HEY
ここからでいいだろう
ここからがいいだろう
ここからがサビだよ
まだまだイントロ
ヨーイドン
未来だよ」
というようにアルバムの始まりを告げていた歌詞が、今はsumikaのここからの始まりと未来を告げている。この日以降、sumikaのライブが見れる機会は増えていく。どうかこれからは途切れることなくこの「祝祭」が続いていきますように。
リハ.カルチャーショッカー
リハ.MAGIC
1.祝祭
2.Lovers
3.Flower
4.ふっかつのじゅもん
5.惰星のマーチ
6.Summer Vacation
7.願い
8.Lamp
18:05〜 04 Limited Sazabys [ULTRA STAGE]
ONAKAMAのトリとして、ULTRA STAGEのトリとしての出演となる、04 Limited Sazabys。それこそオーラルのMCでも名前を出されていたし、ONAKAMAや同世代のバンドをここまで見てきたであろうだけに、並々ならぬ思いでこのライブに臨んでいるはず。
おなじみのオリジナルSEで4人がステージに登場すると、HIROKAZ(ギター)の髪にパーマがかかってかなりイメージが変わる。この日は自身プロデュースのラーメン屋を飲食ブースに出店していただけあり、RYU-TA(ギター)も登場から元気いっぱいだ。
レーザー光線がアリーナ中に飛び交うという、ライブハウスが主戦場のパンクバンドでありながらアリーナクラスでワンマンをやってきたフォーリミだからこその演出が冒頭から炸裂する「fiction」で始まり、大きく腕を振り下ろしたGEN(ボーカル&ベース)のハイトーンなボーカルがアリーナに広がっていき、KOUHEIの速さと手数の多さを両立したドラムのビートが観客の体よりも心を疾走させる「monolith」と続いていくのだが、自分はKEYTALKに続いてこのフォーリミも前方スタンディングエリアで見ていた。駆け回りたくなったり、前に押し寄せたりしたくなりそうなこの曲を演奏していても、誰もそうはしないし、声も出さない。ただ衝動を腕を上げたり手拍子をしたりというところに変換している。本当にみんなよく我慢している。それもこのフェスを成功させるため、守っていくためである。
よく考えたらフォーリミをフェスで見るのも久しぶりだ。愛知でのYON EXPOでワンマンは見ているが、そもそもフェスが(特に関東では)なかったのだから。
なので今フェスでどんな曲をやるのか?と思っていたら、ワンマンではセトリに入ってくるような「Alien」、KOUHEIのドラムが激しさを増す「Utopia」と、パンクかつハードに攻めまくり、さらに「My HERO」と畳み掛けてくる。このスピード感、フェスとは思えない曲数の多さもまた、パンクバンドであるフォーリミだからこそである。
GENがRYU-TAのラーメン屋を紹介して、RYU-TAがステージを走り回る中で
「なんかお腹空いてきちゃった」
と言って演奏されたのは「Kitchen」であるが、個人的にはこの曲は食というよりも猫のイメージが強い。それはGENの愛猫のちくわが可愛すぎるからかもしれないけれど。
「次なんだっけ!?」
と言いながら突入した「swim」では最近では珍しくそこまで歌詞を変えることなく歌っていたのだが、「泳いで おいで」のフレーズに合わせてまさに泳ぐような動きをする観客はみんな本当に楽しそうだ。こうしてこの曲をライブで聴くのは久しぶりという人もたくさんいるはず。まだコロナ禍以降で関東ではほとんどライブをやっていなかっただけに。
「今、時刻は18時半くらい。夜の曲を持ってきました!」
という「midnight cruising」は屋内のフェスであっても、というよりは外が明るいのか暗いのかもわからない屋内だからこそロマンチックに感じるのだが、そこへこうしてまた会うことができた観客へ向けて歌うかのように演奏された「hello」の絶妙な、かつ爽やかなメロディが実に沁みる。激しいだけではないフォーリミの魅力の部分である。
するとGENは楽屋に主催者の鹿野淳とMUSICA編集長の有泉智子からの手紙が置いてあったことについて話し始める。
「鹿野さんは字が下手過ぎて読む気がしないんだけど(笑)、付き合いが長くなってきたからわかることもあって。その人が今回こうやってフェスを開催してくれたから、開催するんならそれを正解にしたいと思って来た。誰かにとっては不要不急なものも、他の誰かにとっては生きがいだったりするから。
俺たちはライブハウスとかフェスとか、大事な場所がなくなって欲しくないし、それがなくなりそうなら守りたい。それをみんなにも協力して欲しい」
と言い、会場から大きな拍手が上がった。
YON FESを自分たちで主催するようになってからは特に、フォーリミは変わった。背負うものができた。フェスを自分たちでやることによって、バンド以外の様々な人と出会ったり話したりすることで、そういう人の人生や生活があることも知ったのだろうし、この日も含めてきっとGENやメンバーは自分たちのファンがマナーが悪いと言われていることもわかっている。
でもそれと同じくらいに自分たちのファンのことを信じている。だからYON EXPOもONAKAMAも、今開催することに批判的な意見を直接ぶつけられてもやり切ったのだ。そしてちゃんと結果を出した。GENが信じたことは間違いではなかったし、それはファンみんなが正解にしたのだ。そんなフォーリミがこのフェスを、今開催されている春フェスを正解にしようとしている。この日には来れなかった人もたくさんいると思うけれど、そういう人にもこのGENの言葉がしっかり届いて、響いて欲しいと思った。
その後に演奏された「Terminal」は再会の歌であり、
「最低な世界のまんまじゃ許されないから」
と始まり、
「最高な世界になったらきっと愛せるんじゃないか」
と帰結する曲だから。リリースからはもう長い年月が経っているけれど、こうして今ライブやフェスに来ている我々が新しい、最高だって思える世界を作っていかなくてはいけない。それがさらに先の日本の音楽が鳴り響く世界になるから。
そんなことも考え過ぎてしまうような自分たちに向けて、最後に演奏されたのは新しい自分に生まれ変わるための「Squall」。KOUHEIの激しいドラムの連打が、GENの喉が裂けんばかりの熱唱が、まだやれる、と我々に思わせてくれる。
いつも引っ張ってもらって、引き上げてもらってばかりだ。でもそれはフォーリミがそういう立ち位置のバンドになったからだ。やっぱりフォーリミは今の音楽シーンにとっての、そして我々にとってのパンクヒーローなのである。
リハ.knife
リハ.nem…
1.fiction
2.monolith
3.Alien
4.Utopia
5.My HERO
6.Kitchen
7.swim
8.midnight cruising
9.hello
10.Terminal
11.Squall
19:10〜 King Gnu [GREAT STAGE]
どちらかというと激しいバンドが居並び、2年前までにトリを経験したことのあるバンドもその中にはいる。そんな日にトリを任されたのはこのフェスでは早くから抜擢されてきた、フェスを託されてきたKing Gnuである。
メンバーが見えなくなるくらいの大量のスモークが焚かれる中に4人が現れる。勢喜遊(ドラム)は髪型だけではなく服装も含めてド派手になっているが、その勢喜を筆頭に挨拶がわりのセッションが展開されて観客の期待を高まらせると、常田大希(ボーカル&ギター)のリフと新井和輝(ベース)のリズムがグルーヴを生み出す「飛空艇」の重いロックサウンドがアリーナを支配していき、井口理の美しいハイトーンボイスが響く。久しぶりのライブであるが、全くそんなことを感じさせないオーラをバンド側が発している。その瞬間、トリを任されて当然だなと思わざるを得なかった。
CMタイアップとしても大量オンエアされた「千両役者」の疾走感溢れるロックサウンド、初期曲「Vinyl」のブラックミュージックのエッセンスの強い心地良いサウンドに乗る井口のボーカルと、曲ごとにくるくると音楽性を変遷させていくのだが、ありとあらゆる音楽のジャンルやサウンドを喰らい尽くす貪欲さとどんなサウンドも鳴らすことができるこのメンバーの演奏力の高さあってこそだ。
すると井口は1人ステージ前まで出てきて、
「今日は我慢して我慢して我慢して、ようやく来た楽しめる日だろー!」
と叫んだ。フェスではMCを全くしないことも多いし、そもそもこれもMCというよりは「Sorrows」で再びアッパーに転じていく前の一言という感じだったのだが、おそらく誰よりも我慢していた、そしてこの日を楽しみにしていたのはメンバーたちだろう。
だからこそミドルテンポと言ってもいいはずの、バンドを大ブレイクに導いた「白日」でも井口の美しいボーカルに聴き入るというよりも、勢喜と新井のリズム隊のグルーヴに身を任せて体を揺らさざるを得ないという感じで曲に向き合い、楽しんでいる人が多かった。
かつて出演したフェスではこの曲が終わったら他のステージに移動していく人もたくさんいたけれど、今はそんな人はいない。そもそも他のステージがやっていないからというのもあるが、みんなこの曲以外に聴きたい曲がまだまだたくさんあるからだ。
間違いなくそのみんなが聴きたいうちの1曲である「Slumberland」では常田が「目を覚ませ、自分で判断して決めろ」と今の日本、世界の状況を観客にアジテートするように拡声器を持ってステージを歩き回りながら歌い、軽やかなステップでベースを弾く新井も観客が歌えない分、サビのコーラスを重ねる。最後には歌い終わった常田は拡声器をステージの床に無造作に置いて歌い終わるという形だったが、そこにはライブでは喋ることはない常田なりのこの日のライブへの気合いを確かに感じることができた。
そんな狂騒空間から一転して「Prayer X」からは井口が美しく歌い上げるバラードが続くのだが、常田がピアノを弾いて井口がボーカルに専念するという編成での「三文小説」の際になぜか井口のマイクがハウリングしまくるという事態が発生してしまう。すぐに治ったけれど、よりによって歌が主体のこの曲でか、とも思ってしまった。
歌い終わると勢喜が凄まじい連打っぷりのドラムソロを見せると、ここからクライマックスとばかりに井口のキーボードのサウンドが観客をブチ上げていく「Flash!!!」へ。井口はもちろん間奏ではステージ中央に移動して狂ったように踊りまくるのだが、
「It’s flash!」
の、音源ではファルセットでコーラスする部分を地声で思いっきり叫ぶようにして歌っている。「丁寧に」でも「上手く」でもない。この日井口はツイッターでも観客へ向けたメッセージを放っていたが、いろいろなことを考えてしまうし、考えながら楽しまなくてはいけない中で自分たちが今ライブをやるということの衝動が炸裂していた。
井口はこのメンバーの中でちょっと変わっているというか、構築された音楽よりも衝動的な音楽を好んで聴いていたとインタビューで言っていたし、その際に銀杏BOYZの名前も上がっていた。コロナ禍以降の音楽や芸術への政府の対応にも真っ向から失望の意を示していたり、井口自身が衝動的な人間だからである。
その衝動は自分たちが全て解放されて楽しむことが、今目の前にいる人たちを最も楽しませることであるというように吐き出されていたし、常田、新井、勢喜の3人にもその衝動が確かにある。それはそのままバンドのグルーヴに変換され、最後の井口が絶唱というような歌い方をした「Teenager Forever」は、一緒に歌う、叫ぶことができないのが惜しいような、でもそれも気にならないような、というくらいに体が勝手に踊り出しながらも、音楽を聴く、ライブを見ることで人間は感動することができるということを示してくれていた。まさにKingの名にふさわしい、圧巻のトリ。このバンドがこの位置まで来た理由が全て詰め込まれていた50分間だった。
1.飛行艇
2.千両役者
3.Vinyl
4.Sorrows
5.白日
6.Slumberland
7.Prayer X
8.三文小説
9.Flash!!!
10.Teenager Forever
終演後はこのご時世故に規制退場。2年前とかも混雑緩和のために規制退場をしていた気もするが、ほとんど機能していなかった。でもこの日はスタンドの人もアリーナの人も自分たちが帰っていいと言われるまでだいたいの人がちゃんと待っていた。それは些細なことかもしれないけれど、ちゃんと参加者がこの場所を、このフェスを守ろうとしていることを感じさせた。
今年はビバラに参加するのはこの日だけ。なんだかんだで開催初年度から毎年1日は参加しているフェスだし、いろいろと主催に対して文句を言ったりしながらも、ステージの位置が変わったりしてきた経過を全て見てきた。
今回も「もっとこうすればいいのに」と思うところもたくさんある。人の流れ、移動には例年以上に敏感にならないといけないご時世故に。
でもこの状況でも我々を信じてフェスを開催してくれたから見れたもの、久しぶりに会えたアーティストがたくさんいる。鹿野淳を知ったのはもう20年近く前、まだ彼がロッキンオンジャパンの編集長だった頃。彼がやってきたいろんなインタビューとかを読んできたし、いろんなアーティストと揉めるのを見たり、ROCKS TOKYOからビバラに至るまで、フェスを開催するようになってからは毎年のように苦言を送ったりしまくってきたけれど、出会ってからの20年近くで今最も鹿野淳のことを応援している。どうか最終日まで何事もなくフェスを完走できますように。
文 ソノダマン