JAPAN JAM 2日目。この日は駅から会場までの道には初日のように参加者を盗撮するような人はいなかった。とはいえ、初日のその様子がメディアを通して外側からのみのイメージだけで報道されてしまったことにより、自分の愛するフェスや場所がより世間の批判や注目を浴びることになってしまった。天気はこれ以上ないくらいにフェス日和の快晴っぷりだというのに。
10:30〜 四星球 [LOTUS STAGE]
山崎洋一郎に
「蘇我JAPAN JAMと言えば四星球!」
と紹介されたが、そこに関してのリアクションは少し薄め。とはいえかつてこのフェスに出演した際の「コミックバンドというか天才集団なのでは?」と思わざるを得ないようなパフォーマンスを覚えている人にとってはそう紹介されるのも実によくわかる。
「JAPAN JAMの四星球と言えば、毎年豪華なゲストを呼んでライブをしてきましたが、この朝10:30からという時間では来てくれるゲストがいませんでした!なので今回はゲストに呼ぼうとしていたアーティストたちを自分たちでやろうと思います!」
と言い、
ボーカル:夜の本気ダンス・米田 (同じ時間に SUNSET STAGEに出演していた)
ギター:きゃりーぱみゅぱみゅ (本人無許可)
ベース:打首獄門同好会・junko (首にかけている鎖も段ボールで自作)
ドラム:スーパーマーケット「ビーバー」渋谷店の店員 (SUPER BEAVER・渋谷龍太)
という出で立ちでメンバーがステージに出てくる。これだけで反則レベルだし、ボーカルの北島康雄にいたっては遠目で見たら両方のステージで夜の本気ダンスがライブしていると錯覚してしまうほど。
そんな見た目からして個性的なメンバーが演奏し始めたのはフェスではもはやおなじみの「腿上げ」、前日に雨が降ったこの野外のフェスならではの「雨をよける動き」などで客席を紅組と白組に分けてどちからが勝つかを競う「運動会やりたい」。
モリスの
「あっという間に終わってしまうよ〜」
というSUPER BEAVERの歌詞を使った煽りや、
「やらない人はこのブーメラン客席に投げて首を飛ばします。これが本当の打首獄門同好会」
と、メンバーの見た目が出オチではなくてライブ中のネタにも繋がっている。
まさーゆきゆき(ギター)が演奏しながらスタンドマイクごとその場をぐるぐる回るという彼にしかできないパフォーマンスを見せ、北島も見事なフラフープ捌きを見せる、このバンドの代表曲「クラーク博士と僕」では、
「さっき「運動会やりたい」でみんな笑ってくれてたでしょ?どんなに我慢しても笑い声って漏れちゃうものなんですよ!だから国が「もう笑うな」と言うまでは、コミックバンドとして皆さんを笑わせたいと思います!」
という北島のコミックバンドとしての強い矜持と四星球というバンドのプライドが滲む。それは音楽はもちろんのこと、「人を笑わせること」を生業にしている人たちの人生や生活を守りたいんだろうなとも思った。コミックバンドであれ、お笑い芸人であれ、落語家であれ。笑うということが人生にとってどれだけ大事なことであるかをわかっている人たちだから。
そんな熱い一面を見せた後に
「ドラムのモリスくんと楽屋でさっき作った新曲をやります」
と言うと、モリスがバスドラ一発、シンバル一発だけを鳴らす。音がそう聞こえるというだけの新曲「ドンファン」は時事ネタを使ったものであるが、
「これが蘇我のドンファンです!」
という発想力たるや。やはりこのバンドは天才の集団である。
さらには「マッサージ」をテーマにしたという新曲「リンパリンパ」は、タイトルは完全にブルーハーツ「リンダリンダ」をもじったものであるが、むしろ曲調は「TRAIN-TRAIN」に酷似している。そういう意味でもこの曲はライブでしか聴けない曲と言えるかもしれない。
まだ全然時間があるのに演奏された「時間がない時のRIVER」と、持ちうる楽しいネタを全て詰め込んでくるというさすがのサービス精神を見せつつ、
「今日の出演者(ラウドバンドが非常に多い)を見てもわかりますけど、みなさん普段からライブハウスにいる人たちですよね?
こんな状況の中でもこうしてライブに来てるみなさんはきっとこれからも一生ライブに来ますよ!あなたたちが守ってるのはルールやガイドラインではありません!エンタメの未来です!」
という四星球というバンドの本質を表すかのようなMCには思わず胸が熱くなるし、こう言えるって本当にカッコいいなって思う。面白くて、こんなにカッコいいなんてあまりに凄すぎて、あまりにズルすぎるじゃないか。
そんなライブやエンタメへの思いを曲にした「ライブハウス音頭」で観客は手を叩きながら、歌詞のあらゆる部分に深く共感して脳内にライブハウスの看板やドリンクカウンターなどの情景を浮かべ、RPGでプレイヤーの体力を回復させるアイテムの名を冠した曲である「薬草」で気が滅入るようなこともたくさんある我々の心のHPを回復させてくれる。
「薬草でも 雑草でも 脱走しておいで
約束でも ヤケクソでも 脱走しておいで」
という歌詞の通りに、死にたくなるような時があったとしても、脱走してライブハウスやフェスに来れば四星球がライブをやっている。そこで笑ったり感動したりすることで、死にたい気持ちが生きたい気持ちに変わっていく。大袈裟でも何でもなく、四星球はその覚悟を持ってステージに立っている。
だから北島は
「なんか言われるでしょうし、嘘ついたりしてここに来た人もいるかもしれない。でも「あのコミックバンドがああ言ってたから」って思ってくれていいです!僕らコミックバンドなんで、どんなこと言われても大丈夫ですんで!」
と、この日会場に来た人の後ろめたさや罪悪感や不安を全て背負い込む責任を口にして、最後に「妖怪泣き笑い」を演奏した。コミカルな曲なのに何故か泣けてきてしまう。それが四星球というバンドの存在そのものであり、真髄だと思った。
演奏が終わると、この日使用した文字、ネクタイなどを全て組み合わせてボードに「本気(マジ)LIVE大好き」という文字を浮かび上がらせた。
見ていた側も心からそう思える、その文字に拍手を送れるのは、こういうバンドがいてくれるからだ。ザッツ・エンターテイメント。
1.運動会やりたい
2.クラーク博士と僕
3.ドンファン (新曲)
4.リンパリンパ
5.時間がない時のRIVER
6.ライブハウス音頭
7.薬草
8.妖怪泣き笑い
11:15〜 フレデリック [SKY STAGE]
今年開催された、初の日本武道館ワンマンの素晴らしい余韻もまだ残っているフレデリック。もうすっかりメインステージであるこのSKY STAGEに立つのがふさわしいバンドになった。
三原康司(ベース)が明るめの金髪になっているのが目を引く中、
「JAPAN JAMが帰ってきましたね」
と三原健司(ボーカル&ギター)が言って歌い始めたのは、武道館ワンマンの時にもうライブが終わったかと思ったら最後の最後に
「思い出にされるのが嫌なんで新曲やって帰ります」
と言って演奏された「名悪役」。武道館のあの感動と心地良い裏切りっぷりが蘇る、ダンサブルではないけれど、それが逆にフレデリックの持つメロディの力を最大限に感じさせてくれる曲。この新曲で始まるというのはフレデリックならではの挑戦であるが、もうこの段階で完全にこの場を掴んでいる。それくらいの力を持った曲。
「JAPAN JAM、遊ぶ?遊ばない?遊ぶ?遊ばない?遊ぶよな」
と健司が観客に問いかけて始まるのは、赤頭隆児(ギター)がシンセのようなフレーズをギターで鳴らし、観客が高橋武のドラムのリズムに合わせてクラップする「KITAKU BEATS」。
「遊ぶ」というのはこの状況下では不謹慎と捉える人もいるかもしれない。それでもフレデリックにはこの自分たちの、我々の遊び場を守るという確固たる意思がある。決して軽い気持ちで「遊ぶ」と口にしているわけではないというのはこれまでの活動を見てきた人ならわかるはずだ。
健司がハンドマイクで青空に向かって歌い上げる「シンセンス」では
「手を振って」
のフレーズに合わせて健司が観客に手を振り、おなじみの
「よく来たね」
という言葉をかけるのだが、この日のその言葉はどこか今まで以上に感情を込めているように抑揚がついて聞こえた。きっとフレデリックのメンバーたちは今このフェスが、ここにいる観客たちが置かれている状況がわかっている。
タイトル通りに疾走感あふれるもう一つの新曲「サーチライトランナー」は「名悪役」が闇ならば、この曲は光。新しい2曲がフレデリックの2面性を示しているし、ロックフェスという場においてはこちらの方が向いていると言えるかもしれない。
削ぎ落とされた、でも一筋縄ではいかないリズムがサビに向かって高揚していく「Wake Me Up」は健司のボーカルの熱量の上昇っぷりやゆっくり踊っていた観客たちが徐々に解放されたように踊りまくるようになるという光景も実に面白いし、区切られたマスの中で踊っているとそれが実にわかりやすい。
基本的にフレデリックのライブは曲間がほとんどない。ワンマンでも喋るのはラストの曲の前だけだったり、アンコールの時だけだったりする。それはフェスやイベントでは「○○分1本勝負」という健司の言葉によって登場から退場までが繋がるようなライブになるということであるが、この日健司は
「いろんな言葉が飛び交うかもしれないけど、俺たちにはこの40分しかない!」
といつも以上に感情を剥き出しにして叫びながら、
「音楽は止まない」
というフレーズに願いを込めるかのように歌い鳴らし、観客が踊った「リリリピート」から、アウトロとイントロを繋げるようなライブアレンジを挟んで、赤頭はいつも通りに間奏のギターソロを本当に楽しそうに弾く、この1年でアプリ内で流して踊る動画が流行したことで再び脚光を浴びた「オドループ」がこの日の締めなのだが、フレデリックの代表曲であり、2010年代後半のロックシーン、フェスシーンのアンセムであるこの曲も、近年(特にコロナ禍になる前)はフェスやイベントでは演奏されないこともよくあった。
それはこの曲をやらなくても成立するくらいのキラーチューンたちをこのバンドが持つに至ったからであるが、今このフェスが中止になるかもしれなかった状況。またライブハウスなどの音楽が鳴る場所で音楽を鳴らせなくなってしまってきている状況。
元々はリリース当時の風営法へのバンドの意思の表明というメッセージを込めた曲であったのが、今音楽がこうした苦境に立たされているからこそ、
「踊ってない夜を知らない 踊ってない夜が気に入らない」
というフレーズが本当に心に響く。フレデリックはいつだって音楽への愛情をひたすらに曲にしてきた。だからこそフレデリックはこうしてこの状況でもステージに立つ。それが今までの自分たちの活動を肯定することになる。
かつてのようにサビをみんなで大合唱することはできないけれど、
「カスタネットがほらタンタン」
というフレーズ後の手拍子は、それを思いっきり力と感情を込めてすることはできる。そんな思いが感じられて、いつも以上に感動的な光景になっていた。フレデリックと一緒に音楽が鳴る場所を守っていく意思の表明として。音楽は止まない。ずっと。しょっちゅう。
1.名悪役
2.KITAKU BEATS
3.シンセンス
4.サーチライトランナー
5.Wake Me Up
6.リリリピート
7.オドループ
12:00〜 BIGMAMA [SUNSET STAGE]
BIGMAMAはバンド名に絡めた母の日のワンマンライブを毎年行いながらも、こうして春フェスにも毎年出演してきた。今年は母の日ライブが無観客で開催せざるを得なくなってしまっているだけに、こうして観客の前でライブをやることへの意気込みは強いはずだ。
バケツを被ったサポートドラマーのビスたんを先頭にメンバー5人が登場すると、金井政人(ボーカル&ギター)は黒の革ジャンを着て登場し、
「2年ぶりのJAPAN JAMに、喜びの歌を」
と言って始まったのは、ベートーヴェンの「第九」をロックに融合させた「No.9」。それはこのフェスの開催を祝うためのテーマソングでもあっただろうけれど、これまでに観客がメンバーたちと大合唱することでこの曲でしか生み出せない景色を描いてきたこの曲を歌うことができないというのはなんだか不思議な気持ちだ。バンドも間違いなくライブでみんなで歌うために作った曲であろうだけに。
その「No.9」の祝祭感は音楽の楽園へ誘うBIGMAMAのダンスチューン「MUTOPIA」へと引き継がれていく。ビスたんこそバケツを被っているので表情は見えないが、ハイトーンのコーラスを務める柿沼広也(ギター&ボーカル)、バンドの重心を支える、髪型の変わらなさまでもが安定感に感じられる安井英人(ベース)、飛び跳ねながらヴァイオリンを弾く東出真緒、そして金井も表情が本当に嬉しそうだ。フェスとともに大きくなってきたこのバンドも、こうして野外フェスの景色を見るのはいつ以来になるんだろうか。
かつて人気投票で1位を獲得したこともある大名曲「最後の一口」をこの青空の真下で聴くことができる。それはこの会場の外からのいろんな言葉を完全に忘れさせてくれるくらいに心も晴れていく。この景色が、夢なら醒めないで、とも、夢でも醒めないで、とも思う。
そうした屈指の名曲の後にはリリースを間近に控えた最新EP「What a Beautiful Life」収録の「Best Friend」を披露し、この状況でもバンドが前に進んでいることを示す。本来ならば母の日ライブでCDが販売される予定だっただけに、通販もあるとはいえそこに関しては非常に残念であるが。
青空の下だからこそ、東出のヴァイオリンの美しい音色がまさに春の風のように響く「春は風のように」、その東出がキーボードにスイッチし、まさに透徹したサウンドを奏でる「CRYSTAL CLEAR」。春フェスでのBIGMAMAは本当にファンが望む曲で望む景色を見せてくれる。だからこそ、こうしてここに来て良かったと思うこの心境に一点の曇りなし。
ビスたんの軽やかなツービートが響く「Strawberry Feels」もまた春らしいパンク曲目であるが、そこから新作のタイトル曲と言っても過言ではない「The Naked Kings 〜美しき我が人生を〜」へ。歌詞のストーリーも実に金井らしい曲であり、BIGMAMAがロックとクラシックだけではなく、文学をも融合させてきたバンドであることを示してくれる。
MCらしいMCは全くなし、だからこそ決して短い曲ばかりではないけれど、これだけの曲数を演奏することができる。そんなライブのラストを飾るのは、サブスク全盛期になってよく耳にするようになった言葉を「願い事」と掛け合わせた、どうしたらこんなことを考えつくんだろうか、と思う「PRAYLIST」。
「いつでもいつまでも
忘れることのない旅にしよう
on brand new stage
さあ はじめることからはじめよう」
という締めのフレーズはまさに新しくここからフェスを始めていこうというこのフェスで響くのにふさわしいフレーズであるが、去り際にビスたんのバケツを軽く手で叩いていた姿も含めて、金井は本当によく笑っていた。その表情からは何か一つ抜けたような感覚があった。その表情が見れたからこそ、一緒に歌うことができなくても本当に楽しかった。だからこそ、これからもずっとずっとこのバンドのライブを見ていたいと思えた。
1. No.9
2.MUTOPIA
3.最後の一口
4.Best Friend (what will be will be)
5.春は風のように
6.CRYSTAL CLEAR
7.Strawberry Feels
8.The Naked King 〜美しき我が人生を〜
9.PRAYLIST
12:45〜 Fear, and Loathing in Las Vegas [SKY STAGE]
パンク・ラウド系のフェスには良く出ているが、こうした幅広い音楽性のアーティストが集うフェスに良く出演しているのはCOUNTDOWN JAPANくらいであろう。あんまり野外というイメージがない(ロッキンにもLAKE STAGEのトリで出演していたが)、Fear, and Loathing in Las VegasがこのJAPAN JAMにも出演。そうしたところからもこのバンドのロッキンオンへの信頼感を感じられる。
メンバー5人が登場すると、アニメ主題歌としてこのバンドの存在をたくさんの人に知らしめた「Just Awake」でSo(ボーカル)とMinami(シンセ&ボーカル)の見事なコンビネーションを見せると、さらにその2人が同じ振り付けというか踊りというかをするのが実に見ていて面白い「Rave-up Tonight」とキラーチューンを連発していくのだが、狂騒的かつラウドなスクリーモサウンドで観客は踊りまくる。
こうした激しい音楽性のバンドであるほどコロナ禍になったことによってライブの楽しみ方や景色も変わらざるを得なくなったのだが、これだけフィジカルの極みというような衝動に駆られるような激しさの中にあっても声を出さず、決められた場所から出ないという楽しみ方をするこのバンドのファン、このフェスの来場者の覚悟の強さ。
Soも
「ガイドラインとルールを守って楽しみましょう!」
と口にしていたが、もう言われずともそのつもりであることが伝わってくるし、そう言うメンバー、この状況でこのフェスに出演することを選んだバンドに恥をかかせたくないという思いが伝わってくる。
関西テレビのプロ野球中継のテーマソングという、阪神タイガースの今年の快進撃を支えているのはこの曲なんじゃないか?とすら思えるほどの破壊力を持つ新曲「One Shot, One Mind」も披露して、この状況でもただ指を加えて待っていたのではなく、バンドが前へ、先へ進んでいたことを示すと、Tomonori(ドラム)が舌を出したりしながらパワードラムを叩きつける「LLLD」からはライブではおなじみの「Let Me Hear」、さらにはSoがタイトルをコールして大きな拍手が巻き起こった「Crossover」ではTetsuyaが長髪を振り乱し、ステージを激しく動きながらベースを弾くのだが、バンドのテンションが上がっていくごとに、観客の踊りっぷりもどんどん激しくなっていくのが見ていて本当に面白い。
そして出で立ちのぶっ飛び具合も含めてファンに愛されまくっているTaiki(ギター)もボーカルを取る「Party Boys」ではボーカル2人に合わせて観客が両腕の屈伸運動を行うのだが、しっかり距離を取った規則性のある配置で踊ることによって、さながらラウドラジオ体操というような様相になっているのが本当にシュールで面白い。
そしてラストは観客の両腕が左右に揺れる「The Sun Also Rises」。基本的には歌詞もほとんどが英語であるし、メンバーがMCで思いをぶつけるようなバンドでもない。それでもこの曲が最後に演奏されたことによって、バンドからの「必ず陽は昇るから」という希望のメッセージを受け取った人もたくさんいるはずだ。
現にバンドはこのライブの直後に中断していたツアーを再開することを発表した。確実に陽は昇り始めてきているのだ。
1.Just Awake
2.Rave-up Tonight
3.One Shot , One Mind
4.LLLD
5.Let Me Hear
6.Crossover
7.Party Boys
8.The Sun Also Rises
13:30〜 TOTALFAT [SUNSET STAGE]
ダイブ禁止という、パンクバンドにとっては敬遠してもおかしくないようなルールがあるロッキンオンのフェスにパンクバンドとして出演し続け、いつしかロッキンオンのフェスの特攻隊長と呼ばれるようになった、TOTALFAT。そのバンドがロッキンオンのフェスに戻ってきた。
メンバー3人が登場すると、髪がかなり伸びたShun(ベース&ボーカル)の出で立ちに驚きながらも、サングラスをかけたJose(ボーカル&ギター)が
「ただいま!そしてみんな、おかえり!」
と、自分たちだけではなく観客のフェスの帰還を祝ってから演奏されたのは「夏のトカゲ」。手拍子が響く中、普段ならばサークルや左回りなどが起こる曲でも観客はそうした楽しみ方は今は一切しない。ただその場で感情を昂らせている。
さらには「Summer Friquence」と、どうしたって夏の野外でもこのバンドのライブを見ていたいと思う夏のキラーチューンが続く。天気も含めて今ここにいる我々が世界のどこよりも夏を先取りしているかのようだ。
自粛期間を経てもアスリートかのような見事な肉体に全く衰えの見られないBuntaが激しいツービートを叩き出す「晴天」はこの日のような天候の野外フェスのテーマソングと言ってもいいだろうし、
「太陽になるよ
晴天の空に高く
敵はいないさ 二人の世界
君の心の傘をしまいたい
何も怖くない
君の雨を止ませるのは僕だから」
といういつだって、メンバーが脱退してバンドの形が変わってさえもポジティブなメッセージを発し続けるのが変わらなかったこのバンドが音楽、ライブ、フェスに再び太陽が昇るということを歌っているかのような説得力たるや。
そしてこのバンドのキラーチューンであり、パンクシーン最大のアンセムの一つでもある「Party Party」も、そのタイトルフレーズを今までのように思いっきり叫ぶことはできない。それでも、いや、だからこそその日がまた必ず来るということを信じて心の中だけで叫ぶことができる。とはいえ、まさかモッシュもサークルもないTOTALFATのライブを見ることになるなんて、コロナ禍以前にちょっとでも想像していた人がいただろうか。
そして室内ではなく、換気という概念から解き放たれた野外のフェスだからこそ、ほかの全ての盛り上がり方が封印されてもタオル回しをすることができる「宴の合図」で本当に久しぶりに見ることができるその景色を観客とメンバーの脳内に刻み込むと、Shunがこうしてこのステージに立てていること、音楽を鳴らせていることへの感謝を口にしてから、
「フェスを守っていくのは俺たちとお前たちだ!」
と、ロッキンオンのフェスにおいてパンクバンドとしての炎が消えることなく守り続けてきたバンドだからこその言葉を叫ぶと、最後に演奏された「Place To Try」ではJoseのボーカルがJoseの声だけではないように感じる。
何かエフェクトをかけている?とも思ったのだが、それは一緒に歌うことが出来ないからこそ、事前に録音された歌声だった。
「君はひとりじゃない 涙こえて
君と進んでいこう」
という、リリース時は賛否両論というか、否定的な意見の方が圧倒的に多かった、あまりに無防備な日本語の歌詞。それは3人で再スタートを切った時のメンバーの支えとなり、今またメンバーだけではなくこうしてこのバンドのライブを見ている我々の心の支えとなっている。
「何も怖くなんてないんだ
This is a place to try」
というフレーズで起こる、歌えないからこそ全員が同じように打ち鳴らす手拍子。
何も怖くないし、これからも進んでいける。音楽があれば、パンクロックがあれば。ロッキンオンのフェスの特攻隊長はフェスに出演するようになって10年以上経ってもなお、我々を力強く導いてくれている。またみんなで肩を組んでぐるぐる回りながらこの曲を大合唱できるように。あの景色は忘れるなって言われなくても、忘れることなんてできないんだ。
1.夏のトカゲ
2.Summer Friquence
3.My Game
4.晴天
5.Party Party
6.宴の合図
7.Place To Try
14:15〜 KANA-BOON [SKY STAGE]
2日前にVIVA LA ROCKでも復活のライブを見ている、KANA-BOON。ロッキンオンのフェスには夏も冬も春も欠かすことなく出演し、メインステージに立ち続けてきただけに、結果的には谷口鮪(ボーカル&ギター)の精神の不調による休養があっても欠けることなく出演し続けられたことになった。
とはいえ、自分はVIVA LA ROCKの時とやる曲は変わらないんじゃないかと思っていた。復帰してからライブとしてはまだ3本目であるし、復帰1発目のZepp Tokyoでのライブも尺自体は長いものではなかった。(鮪は「もっと長くやりたかった」とも言っていたが)
それだけに、まだ復帰したばかりでライブで演奏できる状態の曲が限られているんだろうとも思っていたけれど、1曲目からVIVA LA ROCKでは演奏していなかった「フルドライブ」で始まるというあたりに、己の考えの浅さを思い知らされた。バンドは本当にたくさんの曲を演奏したいと思っていて、実際に開催日が近いフェスでもこうしてやる曲を変えているということに。
鮪の早口なボーカルパートではヒップホップからの影響も感じられるけれど、ギターロックバンドとしてのKANA-BOONを再定義するかのような「Torch of Liberty」から、メロディの部分に全振りしたかのような鮮やかな花が咲く「ネリネ」と、新しくフェスのセトリを担っていくであろう曲たちが続け様に演奏されると、やはりまだ太った体型とセンター分けの髪型が完全に見慣れたわけではない鮪が、
「私ごとですが、今日は僕の誕生日です」
と告げ、客席からは大きな拍手が起こる。そういえばそうだった。この日の出演者の中では鮪とBIGMAMAの金井が同じ誕生日であり、かつてはVIVA LA ROCKに出演した際は毎回お祝いのケーキがステージ上に運び込まれていた。
でも今は「ハッピーバースデー」を歌うこともできなければ、「おめでとう」という言葉をかけることもできない。それが出来る様になるために、これからも毎年こうしてゴールデンウィークにフェスが開催されて、そこにKANA-BOONが出演していて欲しいと思った。
「会いたいだけ 会いたいだけ」
という歌詞がこのコロナ禍での我々の気持ちを代弁しているかのような、小泉貴裕(ドラム)とサポートベースの遠藤昌己のリズミカルなリズムによる「彷徨う日々とファンファーレ」から、鮪のボーカルが休養を経ても全く衰えていないことを示す「シルエット」の計り知れない名曲っぷり。
それを引き継ぐのはVIVA LA ROCKではサウンドチェックとして演奏されていた、前に進んでいく意志を示すかのような「バトンロード」。過去の自分たちが今の自分たちに繋がっているように、今の自分たちをさらに未来の自分たちへと繋げようとしている。
すると鮪は、
「声が出せなかったり、いろいろと変わったけれど、これからのフェスを作っていくのはみんなやから」
と、フェスの未来を我々に託した。それは「フェスの主役は参加者である」というロッキンオンが掲げてきた理念とシンクロするものであり、参加者一人一人のモラルや行動がこのフェスがどんな評価を下されるか、どんな結果を招くのかを決定づけられている今の状況を言い表している。休養から復帰したばかりで、自分のことだけでいっぱいいっぱいだとしても仕方がない鮪は誰よりもフェスの未来を思い描いている。それがこれから自分たちが立って、音楽を鳴らす場所になるということを鮪はわかっている。
そんな言葉を前向きに捉えざるを得ないくらいに希望の光に満ち溢れたカラフルなダンスサウンドの「スターマーカー」から、古賀隼斗のギターが唸りまくる「まっさら」という、新しいKANA-BOONのライブの締め方は、まっさらになったところからまた始めるというバンドの立ち位置を示しながら、今の日本のフェスの現状をも示していた。また何回でも新しく始めればいい。それが全くネガティブな意味を持たないのは、KANA-BOONがまたリスタートを切って走り始めたからだ。再び始まったフェスとともにKANA-BOONはこれからも走り続けていく。今までよりもさらに精神的にも肉体的にも強くなった姿を見せながら。きっとこれからは鮪だけではなく、古賀と小泉の存在感ももっと強くなっていくはずだ。
また、この日は朝から快晴だったのに、KANA-BOONのライブ中は雲に覆われていた。しかしライブ最後には晴れ間が広がっていた。それはKANA-BOONの今後に光が射すかのようだったし、そうした気候や天候の変化こそが野外フェスの醍醐味であり、そうした景色も含めて忘れられないライブの記憶となっていく。
1.フルドライブ
2.Torch of Liberty
3.ネリネ
4.彷徨う日々とファンファーレ
5.シルエット
6.バトンロード
7.スターマーカー
8.まっさら
15:00〜 HEY-SMITH [SUNSET STAGE]
「新しいライブの形を模索する」ということに向き合わざるを得ない1年だったが、敢えて配信ライブなどをやらずにずっとこうして観客と直接会うことができる機会を待ち続けていたバンドもいる。根っからのライブハウスバンド、ライブバンドであるHEY-SMITHはその筆頭格と言っていいバンドだ。そんなバンドがついにライブという己の生存証明の場に戻ってきたのだ。
そんな事情もあるからか、この日はヘイスミTシャツを着て会場に来ていた観客がたくさんいた。
メンバー6人がステージに登場すると、長身のイイワカケン(トランペット)、髪が鮮やかな緑色のかなす(トロンボーン)、今までと全く変わらずに上半身裸のMitsuru(テナーサックス)というこのバンドの象徴とも言えるホーン隊のサウンドが再び晴れ間を見せてきた空に向かって伸びていくような「Living In My Skin」からスタートすると、猪狩秀平(ボーカル&ギター)とは対照的と言っていい少年の面影を残したYuji(ベース&ボーカル)だからこそ歌える、このメンバーになってからの青春を歌った「2nd Youth」と続いていく。
久しぶりのライブとなると感覚が失われていてもおかしくないし、メンバーや楽器の数が多いバンドならばグルーヴも含めてそうなってもおかしくないのだが、そんなことは微塵も感じさせないのは、小手先ではなくて身体の奥底にまでライブの感覚が染み込んでいるからというライブバンドだからこそだろう。
だからこそ猪狩も
「クソみたいな1年だったな!俺はライブができないから、酒ばっかり飲んで太っていくばっかりだった!」
と、ライブが出来なかったことが自身を自堕落な道へ引きずり込んでいたことを打ち明ける。
もともとヘイスミはロックバンドによるロックフェスへの想いが強いバンドだけれど(主催するハジマザフェスがそれを象徴している)、ダイブ禁止というルールへの嫌悪感はそこまで持っているようなバンドじゃない。
だからこそロッキンオンのフェスでもメインステージを任されるようにもなり、そこで1ミリの後悔もなく「楽しかった」と言えるようなライブをやってきたバンドであるのだが、衝動の音楽であるパンクをさらに速くしたスカパンクという音楽が目の前で鳴らされているのに、当たり前のようにモッシュなどが起こることもない。それをやってしまったらバンドの顔に泥を塗ってしまうということを観客がよくわかっている。
Task-n(ドラム)のパンクとスカを両立させるリズムによって次々に曲が演奏されていくのだが、やはり久しぶりのライブということもあってか、これまでのフェスなどでも主戦を担ってきた曲たちが多く演奏されていく。
「音楽は世界で唯一認められている合法ドラックやからな!」
という猪狩の言葉の通り、この音が鳴っていれば他に何もいらないとすら思えてくる。でも合法というのが大きなポイントなのだ。悪いことやルールを破るようなことじゃない。バンドも観客も胸を張れるような、制限がある中でのパンクのライブ。それを作り上げているバンドもファンも実にカッコいい。
Yujiの爽やかな歌声がまだ明るい空に向かって伸びていく「Summer Breeze」は2年前にやはり同じように晴れやかな空の下で聴いた氣志團万博でのライブを思い出させるとともに、だからこそ夏の野外での再会を望みたくなるのだが、猪狩はそんな曲の後に意を決したように口を開く。
「今日はメディアもたくさん来てるだろうから言っておく!クラスターが起きてから手のひらを返すようにライブハウスのことをいじめるのはなんなん!?確かにライブハウスにも危ないところもあるけど、報道の仕方ってもんがあるやろ!今日を見てくれよ!距離取ってマスクして声出さない!これよりも満員電車の方がはるかに危ないやろ!そっちはええんかい!
ロックは悪いものみたいなことを言われるけどな、俺たちだけがわかってればええやんけ。でもそんなみんなを俺は心からカッコいいと思う!」
という言葉には本当に大きな拍手が起こった。泣いている人もいた。我々の抱えている思いを、猪狩が全部口にしてくれたのだ。
こうしたことは思っていたとしてもなかなか言い出しにくい。でもヘイスミは、猪狩は躊躇いもなく自分が言いたいこととして言うことができる。ヘイスミは仮にメディアから総スカンを喰らうようなことになっても、困ることは何もない。ライブハウスが、フェスのステージがあれば生きていけるバンドだからだ。だからこそ、そこを奪おうとする、傷つけたり攻撃したりするものへの意見をしっかり口にする。猪狩という男に改めて惚れ直すとともに、こういうバンドがいてくれて本当に良かったと思った。メディアで報道するんならこの言葉を報道してくれ。仮にそれによって猪狩やヘイスミが心ない言葉に晒されたとしても、我々がわかっていればそれでいい。メディアや音楽に興味がない人からどんなに言われようとも、失うものなんて何もない。
そんな怒りをファストかつラウドなサウンドに落とし込んだかのような「DRUG FREE JAPAN」から、ラストは大団円を描くように高らかにホーンのサウンドが鳴る「Endless Sollow」。この曲を一緒に歌えないのは少し寂しい。でもそれ以上に、この日のヘイスミのステージからはパンクバンド、ライブバンドとしての生き様が鳴っていた。それはきっとこの世に存在するどんなものよりも強いものだ。これからもこのバンドはそうやって生きていくのだから。
1.Living In My Skin
2.2nd Youth
3.Radio
4.Don’t Worry My Friend
5.We sing our song
6.Let It Punk
7.Fog and Clouds
8.Dandadan
9.Stand For Your Rights
10.Summer Breeze
11.DRUG FREE JAPAN
12.Endless Sollow
15:45〜 10-FEET [SKY STAGE]
コロナ禍の中でいち早くライブハウスを2部構成にして廻り続けていた、10-FEET。そんなバンドにおいても野外フェスというのは実に久しぶりの体験であるはずだ。ロッキンオンのフェスでは毎回トリを任されるくらいの巨大なバンドになっているが、今回はこの位置というのは前後のバンドたちとの関係性や兼ね合いもあるのだろう。このバンドの次にこのステージに出るのは盟友のマキシマム ザ ホルモンだ。
おなじみの「そして伝説へ…」のSEが流れて、観客が一斉にタオルを掲げてメンバーを待ち構えるということ自体は変わらないが、今まで見てきたのと違うのは、肩車をしたりする人が全くいないということ。それは当たり前のルールでもあり、ロッキンオンのフェスでは常にそうだったとも言えるのだけど、10-FEETのファンにはバンドの意思がしっかりと伝わっているというのがメンバーが出てくる前からわかる。
TAKUMA(ボーカル&ギター)がタイトルコールをして「RIVER」から始まる…はずなのだが、なぜかTAKUMAが弾くイントロのギターがやたらと下手になっており、NAOKI(ベース)がずっと右腕を上に伸ばしたままで演奏しようとしない、KOUICHI(ドラム)も演奏に入るタイミングが全くわからないという、
TAKUMA「何年やってんねん」
と突っ込まれるくらいにライブの始め方を忘れているというコントのようなやり取りを経てからようやく「RIVER」の演奏が始まる。
「助けてのその一言は僕の存在を否定するもの」
というフレーズで合唱することもできないために、その部分で観客のことを待つこともなくTAKUMAが歌い始める。そんな「RIVER」をライブで聴くのはいつ以来だろうか。もう思い出せないくらいに前なのは、きっとまだその頃は10-FEETが京都大作戦を主催する遥かに前の頃の話だからだ。
そんな状況でも手を緩めることなく「VIBES BY VIBES」と続くことによって、コーラスを歌うことができないことによって、これまでどれほど10-FEETのライブでみんなで一緒に歌うことを楽しんでいたのかということが逆説的にわかってしまう。とはいえ、肝心なとこで奮迅しなければならないのはこの曲から教えてもらったことであり、今がまさにその時だと思っている。
そんな中で披露されたのは最新シングルの「アオ」。決して激しいパンクではない(というか最近の10-FEETの曲にそういう曲はほとんどない)けれど、心の細部にまで染み渡るような美しいメロディ。それはこの日の青空のことを歌っているかのようでもあるのだけど、こうしたタイプの曲をしっかりと受け止める度量の大きさはさすが10-FEETのファンだなと思う。
「もっと盛り上がる曲を作ってくれよ〜」的な意見を見たことが全くないから。それは仮にそういう曲を作ろうとして作っても魂のこもったものにならないということをファンもわかっているのだろう。
「最後のライブのつもりでやるわ。もうこのライブ終わったら解散するくらいのつもりで」
と、この日TAKUMAは何回も口にしていた。それくらいの気持ちを持って演奏しないと、ここに覚悟を持ってやってきた観客たちとは対等の気持ちになれないことをわかっているのだろう。
だからこそ思いっきり感情をぶつけるように、NAOKIのハイキックも炸裂する「その向こうへ」からはバンドの持つオーラ、凄みのようなものがさらに増していくような感覚に見舞われていた。
「また同じ夢を見ていた」
という曲中のフレーズが邦ロックファンの作家の著作になった「蜃気楼」、バラードと言ってもいいくらいに聴き手を包み込むような「シエラのように」と、なんだか今は盛り上がれるような曲よりもこうしたテンポ、サウンドの曲の方が我々の心に染みることをメンバーがわかっているんじゃないかと思うような曲が続くとTAKUMAは
「なんだか、みんなでまた新しいフェスを作ってるような感じやな。マスクして声出さないで、枠の中から出ないで」
と観客を見て口にした。京都大作戦という日本を代表するくらいになったフェスを作り上げたバンドが目の前に広がる景色を見て言った言葉。
それは決してこの状況をネガティブに捉えてはいない。むしろこれからまた新しいことが始まっていくという楽しみを感じさせていた。かと思っていたらNAOKIは何故か在らん限りの開脚力で足を思いっきり広げたまま演奏しているのだが、ラストの「goes on」ではこの曲でのおなじみの光景である、走り回る観客の姿もなく、TAKUMAも
「エアーハイタッチや!」
とルールに則した行動を促した。その言葉の通りにルールを遵守する観客たちの行動は、まさに新しくフェスを作っているようだったが、モッシュもなければサークルもハイタッチもないという、身体的な距離は広がっていても、この日会場にいた観客との精神的な距離を近く感じることができたのは、みんなが同じことを考えてライブを楽しんでいたからだ。
この新しいフェスの光景はこれから先、京都大作戦から始まるであろう夏フェスにきっと繋がっていく。その時には人が10-FEETのメンバーのように優しくなれたら、人がこの日の観客のように優しくなれたら、と心から願う。背負わせてしまっているつもりはないけれど、やっぱり10-FEETが、京都大作戦が背負っているものはとてつもなく大きいから。
1.RIVER
2.VIBES BY VIBES
3.アオ
4.その向こうへ
5.蜃気楼
6.シエラのように
7.ヒトリセカイ
8.goes on
16:30〜 THE BAWDIES [LOTUS STAGE]
4月までメジャー1stアルバム「THIS IS MY STORY」と2ndアルバム「THERE’S NO TURNING BACK」の曲を中心としたツアーを行っていた、THE BAWDIES。ファイナルの新木場STUDIO COASTの日程があと1週間遅かったらそれも開催できていなかったということを考えると、本当に完走できて、それを見届けることができて良かったと思っている。
再現ツアーの際は黒のスーツに「SOUL MAN」のSEという原点回帰スタイルだったのが、ツアーを終えた今はキャメルカラーのスーツに「ダンス天国」のSEという通常営業での登場。
「THE BAWDIESでーす!」
とROY(ボーカル&ベース)が挨拶すると、本来ならばコーラス部分で大合唱となるはずの「LET’S GO BACK」からスタート。JIM(ギター)はやはり笑顔を振りまきながらステージを広く使って踊るようにギターを弾いている。こうして広い野外の場所でロックンロールを鳴らせるというのが楽しくて仕方がないというのが溢れ出ている。
「乗り遅れないでくださいね!乗り遅れてたらこうなりますよ!」
というROYのロングシャウトが轟く「IT’S TOO LATE」から、曲紹介をして最新曲の「OH NO!」へ。完成ではなく手拍子で楽しむことができるというのは今の時代においてのロックンロールであるが、こうして久しぶりにフェスでのTHE BAWDIESのライブを見ることができると、この新曲の存在も含めて、かつてからはだいぶフェスでのセトリが変わったように思う。もちろんそれはTHE BAWDIESが「Section #11」を始め、自分たちのこれまでを塗り替えるロックンロールを生み出してきたからだ。
しかしそんな中にあっても振り返りツアーを経てきたからこそという内容が伺えるのは、そのツアーで演奏して欲しい曲の人気投票で多くの票を集めた「SAD SONG」がライブにおけるバラード枠になり、こうしたフェスなどではメドレーの中の一部として演奏されることも多かった「KEEP YOU HAPPY」が1曲通して演奏される曲になっていたこと。新しい曲が入ってくるだけではないこうした変化も楽しめるし、「SAD SONG」は青空の下で鳴らされるのが実によく似合う。その曲の中で歌われていることはいろんなことを考えながらもこうしてこのフェスに来た我々の心境にもそっと寄り添ってくれる。
「初めて見る方がビックリされるといけないんで言っておきます。我々は「HOT DOG」という曲の準備に入らせていただきます」
というROYの紹介でこの日行われた劇場は、2年くらい前、「Section #11」のリリース前後で披露されていた「魔女の宅急便」バージョン。JIMが小道具のパンを忘れてどこからともなく飛んでくる、MARCY(ドラム)とTAXMAN(ギター)がいつも以上に慌てて持ち場へ戻るというのも見ていて面白いが、先日のツアーでやっていた「鬼滅の刃」バージョンではなかったのは持ち時間の関係だろうか。
そうして突入した「HOT DOG」は叫べないし歌えないけれど、飛び跳ねることはできるとばかりに観客が枠の中で飛び跳ねまくり、もはやすっかりフェスやイベントの持ち時間においてもレギュラーと言える曲になった「SKIPPIN’ STONES」の軽やかなビートから、
「声が出せなくても最高の花火を打ち上げることはできますか!?」
とROYが煽って観客が再び飛び跳ねまくり、空を切り裂くかのようなROYの超ロングシャウトをTAXMANが横で称える「JUST BE COOL」で大団円。この打ち上げ花火が今年はひたちなかでも見れますように。
普段から自分のTwitterなどを見てくれている人はおわかりだと思うが、自分はTHE BAWDIESが大好きである。バンドはもちろん、そのファンの方々も、バンドを裏から支えている人たちも。
THE BAWDIESには名物ローディーの方がライブについてくれている。(POLYSICSとかも担当している)
見た目は少し厳ついけれど、袖で控えているライブ中も、TAXMANのギターを取り替える時も、その人はメンバーと同じようにライブを楽しんでいるのがわかるような笑顔を見せてくれている。
アーティスト自身はCDや音源の印税が入ってくるけれど、ライブの裏方と呼ばれるその人たちはこうしてライブがなかったら仕事が全くなくなってしまう。そんな状況が続いたら生活が出来なくなって、仕事を変えるという選択をしてもおかしくはない。
でもそうなったら今のTHE BAWDIESのライブは変わってしまう。ずっとその姿を見てきた我々も絶対に寂しくなってしまう。
ロックンロールバンドとしてTHE BAWDIESが転がり続けるということは、そうした人たちとも一緒に転がり続けていくということだ。だからこのステージに立つ。これからも立ち続けていく。
1.LET’S GO BACK
2.IT’S TOO LATE
3.OH NO!
4.SAD SONG
5.KEEP YOU HAPPY
6.HOT DOG
7.SKIPPIN’ STONES
8.JUST BE COOL
17:15〜 マキシマム ザ ホルモン [SKY STAGE]
本当に久しぶりのホルモンのライブだ。スペシャを見ていると毎週のようにダイスケはん(キャーキャーうるさい方)とナヲ(ドラムと女声と姉)の姿を見ることはできるけれど、バンドとしてステージに立つ姿というのはそれこそ2年前のこのフェスに出演した時以来だろうか。
ダイスケはんがおなじみの「津田製麺所」の麺入れを重ねた台の上に立つと、本当に久しぶりのライブとは思えない、マキシマムザ亮君(歌と6弦と弟)のボーカルも凶悪なギターも、上ちゃん(4弦)のバッキバキのベースも、鋭さが全く衰えていないことがよくわかる「maximum the hormone II」でスタートし、ナヲが自身のボーカルパートでステージ前まで出てきて踊りながら歌うという自由っぷりも全く変わっていない。
この日はフリーザが飛んでいる映像は使われなかった「「F」」という激しさの極みのような曲でも誰もモッシュもシャウトもポアもしないという治安の良さは、その後のナヲの
「みんな、ただいま!おかえり!おばちゃんもう泣きそう!やっぱりこれだ〜!」
というライブの現場に帰ってくることができた万感の想いに応えるものになっていた。
昨年カップヌードル(こんなにこのタイアップが似合うバンドはそうそういないと思う)のタイアップとしても話題になった「ハングリー・プライド」、ホルモン流のラウドダンスナンバー「便所サンダルダンス」と、HEY-SMITH同様にホルモンもライブの感覚が体に染み付いているのがよくわかる。
というよりもヘイスミとは違ってホルモンは何かと色々とメンバーにポジティブなこともネガティブなこともあって、特に近年はライブをやりまくってきたバンドというわけではない。それでもいつも戻ってきた時のライブでは我々を圧倒させていた。今回も間違いもなくそうだった。
「そんなに激しく首を振って大丈夫か?」と観客ではなくてダイスケはんに対して心配してしまうくらいの激しいサウンドの応酬となった「爪爪爪」の後には、なんとダイスケはんが10-FEETのNAOKIのベースを肩にかけている。そのまま弾くのかと思ったら当然そんなことはなく、NAOKIがベースを取り返しにステージに登場、さらにはTAKUMAとKOUICHIもステージに出てきて、7人で乱闘するかのような小芝居をして、笑顔で10-FEETの3人がステージを去っていく。こんな盟友とのやり取りも本当に久しぶり(バックヤードで出演者が集まることもできないご時世であるが故に)なのだろうし、この2組を同じステージの前後に並べたロッキンオンなりの、フェスを支え続けてくれた両者への感謝の形と言えるだろう。
クライマックスに向けて放たれたのがまさかの「人間エンピ」という選曲だったのは熱心なファンからしたら狂喜する出来事だったと思われるが、
ナヲ「マキシマム ザ ホルモン改めて、Awesome City Club」
ダイスケはん「MO’SOME TONEBENDER?(笑)」
と、とめどなく様々なネタを連発してなかなかMCが終わらないのも実にホルモンらしいのだが、ナヲが余裕を持って「恋のおまじない」をしていたのでまだ時間があるのかと思ったらすでに時間を過ぎていた。なのでサイレントバージョンの「恋のおまじない」をようやく少し慌て気味でやってから、最後に演奏されたのはホルモン屈指のポップソング「恋のスペルマ」。
この曲のあまりに有名かつ面白い、フェスの観客のこの曲での楽しみ方をメンバーが実践するというMV。それすらも今は我々はすることができない。仲間とグルグル回ったり、靴紐が解けている人を壁を作って守ったりすることも。
でもこの曲を最後にやったということは、ホルモンがその景色を再び取り戻そうとしているということだ。あんなバカみたいな光景が、こんなにも愛しく思えてくるようになるなんて、全く想像したことがなかった。
初日のレポにも書いたが、今年のこのフェスでは各アクトのライブ直前に毎回ルールやガイドラインを遵守するようにというアナウンスが流れる。毎回どのアクトの前でもアナウンスのたびに拍手が起こっていたのだが、ホルモンの時がその拍手が1番大きかった。
4日間の出演者の中でも最も巨大なファンベースを持っていると言っていいバンドの、本当に久しぶりのライブ。ホルモンのファンは見た目が派手(Tシャツなどのグッズは遠くから見ても「ホルモンだ」とわかる)なこともあるから目立つし、フェスではそれが悪い方に目立つのを見たことがある人もいたかもしれない。
でもその人たちは本当に純粋にホルモンのライブが見たくて、これまでずっと我慢してきて、ようやくこの日を迎えることができた。ナヲ同様に泣きそうになっていた人もいたかもしれない。そんな思いが全てその拍手の大きさに繋がっていた。腹ペコたちは少しくらいは空腹が満たされただろうか。きっとメンバーたちもずっと我慢してくれて、自分たちの曲をルールとマナーを守って食べ尽くしてくれたファンのことを誇りに思っているはずだ。
1.maximum the hormone II 〜これからの麺カタコッテリの話をしよう〜
2.「F」
3.ハングリー・プライド
4.便所サンダルダンス
5.爪爪爪
6.人間エンピ
7.恋のスペルマ
18:15〜 打首獄門同好会 [SUNSET STAGE]
徐々に陽が落ちてきた、まさにサンセットな時間の2日目のSUNSET STAGEのトリは打首獄門同好会。CDJも含めてロッキンオンのフェスでもトリなどの重要な位置を任されてきたバンドである。
ステージが広すぎる、ステージ横のスクリーンがデカすぎるので、相対的にVJの用いるモニターがやや小さく見える中、「新型コロナウィルスが憎い」という現代の全人類の思いを代弁するような、昨年の状況の中でも止まらずにリリースしたアルバム「2020」を代表する曲から始まると「足の筋肉の衰えヤバイ」「筋肉マイフレンド」と、なんだかこの並びで演奏されることによって現代を生きる人間の人生や生活を歌っているようにすら思えるのはさすが生活密着型ラウドロックバンドである。観客には「禁止されていない行為」ということでスクワットをして足の筋肉を鍛えさせるのだが、袖にいるスタッフたちも一緒になってスクワットをしているのが見えるのが実に面白い。
この日のフェスももう終盤。時間的にも夕飯時であるだけに、ここで演奏された「私を二郎に連れてって」ではjunko(ベース)と河本あす香(ドラム)のリズム隊2人による女性ボーカルメインで進行していくのだが、まぁラーメンが食べたくなってしまう。モニターに映し出される豚ラーメンの写真はこのバンドが当代きっての飯テロバンドであることを久しぶりのライブで思い出させてくれる。
「前向きな曲です」
と大澤会長(ボーカル&ギター)が言って演奏された「はたらきたくない」は、この瞬間よりもこの2日後、このフェスの最終日が終わって家に帰った時に真っ先に頭の中に流れた曲であった。3日目、4日目にもたくさんのライブを見てきた後でそこまで余韻を残すこの曲の浸透力は本当に恐ろしい。もはや5月5日の夜のテーマソングと言える曲かもしれない。
リリースされたばかりの最新シングル収録曲「シュフノミチ」ではタイアップアニメを生かした映像がモニターに流され、「猫の惑星」では次々に可愛い猫たちが映し出されていく。さっきまではラーメンが食べたくなっていたのが、今は猫を抱っこしたくて仕方がなくなってきているくらいにガラッと感情が変わっている。
「しまじろう」のタイアップなのに「カンガルーはどこに行ったのか」というタイトルだけを見ると「?」な最新シングル収録曲はストレートな単語ではなく、言葉遊び感が強いという意味ではこのバンドの違った一面を感じさせてくれる曲である。
しかしここでまた「島国DNA」を演奏するものだから、空腹であることを思い出してしまうし、ラーメンよりもマグロやカツオを食べたくなる。個人的には刺身よりも寿司が食べたくなる。
なんならチョコのお菓子でも食べたい、となるよりは個人的には昔のファミコンのゲームがやりたくなるのは「きのこたけのこ戦争」で使われる映像がかつての名作ファミコンゲームのオマージュとなっているからだろう。そしてチョコのお菓子を食べ過ぎて虫歯になった、というように見事にストーリーが繋がっていく「歯痛くて」は来週自分が歯医者の予約をしていたことを思い出させてくれる。というくらいに感情の揺れ動きが激しくなるのがこのバンドのライブならではである。
大澤「サンセットマニアのjunkoさん、SUNSET STAGEのサンセットはいかがですか?」
junko「ステージの裏側にサンセットが出るから見えない(笑)」
という激しく重い音とは正反対の、メンバーの人間性を感じさせる緩いやり取りをしてから、
大澤「本当は次にやる曲も、みんなで大きな声を出せる状況で演奏したい。またいつか大きな声を出せるこういうフェス会場やライブ会場で必ず会いましょう」
と、緩さとは違う真摯な人間性が見える大澤会長の言葉には、自分たちがようやく完走できると思っていたツアーファイナルのぴあアリーナMMでのワンマンが出来なくなってしまったということに対する思いもあるのだろう。
そんな、本来ならみんなで歌いたい、叫びたい曲はもちろん「日本の米は世界一」。やっぱりラーメンよりも刺身よりもチョコよりも、日本の米が食べたいという結論に帰結していくのだが、それだけでは終わらずに、最後には
「このステージから去っていくBGMとして聴いてもらえれば」
と言って「明日の計画」を演奏した。自分は明日もこのフェスに来ることができる。
1.新型コロナウィルスが憎い
2.足の筋肉の衰えヤバイ
3.筋肉マイフレンド
4.私を二郎に連れてって
5.はたらきたくない
6.シュフノミチ
7.猫の惑星
8.カンガルーはどこに行ったのか
9.島国DNA
10.きのこたけのこ戦争
11.歯痛くて
12.日本の米は世界一
13.明日の計画
18:55〜 sumika [SKY STAGE]
ロッキンのGRASS STAGEに立った時に片岡健太(ボーカル&ギター)は
「夢にまで見た、特別な場所」
と口にしていた。それくらいに思い入れが強いロッキンオンのフェスのメインステージのトリをついに任されることになったsumikaが2日目のトリである。
おなじみのゲストミュージシャンの井嶋啓介(ベース)を加えた5人がステージに登場すると、もうその時点で楽しそうでもありながらも、どこか感激しているようであるのが表情からも窺えるのだが、2日前のVIVA LA ROCKでのライブと同様に3月にリリースされたばかりのアルバム「AMUSIC」収録の「祝祭」からスタートするのだが、それはこうしたフェスという場が音楽と音楽を愛する人にとっての祝祭と言える場所だからであろう。こうして開催できたことを祝しているようでもある。
黒田隼之介のギターが唸りまくる「ふっかつのじゅもん」、片岡がハンドマイクでステージを歩き回りながら歌う「Flower」と前半はトリという大役を務める喜びを爆発させるようにアッパーな曲が続いたのだが、そんな中で片岡は
「いろんな考えや選択肢があったと思う。今日ここに来なかった人も正解だと思う。でもここに来てくれたあなたを傷つけたり攻撃する人がいたら俺は許せない。そんな時に真っ先にあなたを守れるバンドでありたい」
と、こうしてこのフェスに来た我々のことを肯定してくれる。片岡は、sumikaはどんな時でも誰のことも否定しないような人間でありバンドだが、こうしていつもより語気の強い言い方をしたのは、このフェスが、このフェスに来ている人が色んなことを言われていることをわかっているからだろう。それはトリを務めるバンドとしてのこのフェスを背負うという気概でもある。
そんな言葉だけでも涙が出てきてしまうのに、その後に演奏されたのが「Lovers」というのが感情にまた追い討ちをかける。
「みんなの声で!」
とこれまでのライブではみんなで歌ってきた曲を、観客全員が腕を上げるだけで声を出すことなく聴いている。今この目に広がる景色を、ずっとずっと離さぬように、とも思うし、sumikaに守ってもらってばかりになるのではなくて、ここまで我々のことを思ってくれているバンドのことを、愛し抜いていきたいと思うのです。
sumikaは「AMUSIC」に至るまでにもシングルを次々にリリースしてきていたが、そんな中でも映画のタイアップとなった「絶叫セレナーデ」はロッキンオンジャパンのインタビューでも
「ロッキンのGRASS STAGEでやりたくて作った曲」
と言っていたし、この日も演奏する前にそうしたことを口にしていた。
それくらいに夏フェスでみんなで歌うという景色が見えていた曲を、ようやくこうして野外フェスで演奏するという光景を作り上げたのだし、その瞬間をこの日客席にいた我々は目にすることができた。夏はどうだろうか。まだ声は出せないし、マスクも外せないだろうか。それでも、あのGRASS STAGEにsumikaが立ってこの曲を演奏する、去年は見ることが出来なかった姿を今年こそは見たい。
「泥を被って
虚勢散らして
殻を破って
したいことだけ
死ぬまでやって
そこまでやって
じゃなきゃ
ライラライラ
意味がない
水を被って
アンチ招いて
這いつくばって
したいことだけ
死ぬまでやって
そこまでやって
じゃなきゃ
ライラないな
意味がない」
「毒を被って
ピンチ招いて
本気になって
したいことだけ
顔色なんて
伺わないで
じゃなきゃ
ライアー ライアー
嘘じゃない?
泥を被って
虚勢散らして
殻を破って
したいことだけ
死ぬまでやって
そこまでやって
じゃなきゃ
ライラ ライラ
意味がない」
という歌詞がまるでこのフェスに向けられた世間やメディアの視線に音楽で対抗するかのような「ライラ」はまるでこうした瞬間が来るのがわかっていたかのような選曲だ。もともとはパンクを鳴らしていた片岡らメンバーの精神性を強く感じさせる。小川貴之(キーボード)も演奏だけではなくコーラスでも強い存在感を発揮してくれる曲でもある。
ロッキンオンのフェスではカメラがステージ上にもいるだけに、片岡がハンドマイクを持ってカメラ目線で歌う姿が堪能できるのは「Summer Vacation」であり、これもまた夏にGRASS STAGEで聴きたい曲だ。
そうしてすっかり気温も空気も涼しくなった中で片岡のボーカルがしっかりと響く、心に染み入るバラード「願い」へ。本当に片岡は歌が上手い。上手いだけではなくて遠くまで届かせることができる歌い方を体得しているというか。それがこのバンドがこうしたフェスでのライブでバラード曲を演奏することができる要素の一つだろう。
そんなライブのラストはCMでたくさんの人の耳に届いたであろう「センス・オブ・ワンダー」。
「進め
誰かの手じゃなく自分で
舵を取り大人になる
立ち止まるよりもさらに向こうへ
進め それが全てさ
進め それが全てさ」
というサビの歌詞が聴いている我々を前向きな気持ちにしてくれる。結局はなんでこんな状況でもこうしてライブに来るのか、音楽を求めるのかというと、音楽からそうした力を貰えるからだ。そしてsumikaはそうした力をくれるバンドである。抜擢ではなく、このステージのトリをやるべくしてやれるバンドになったんだなと思った。
掃けた瞬間に戻ってきたと言ってもいいくらいに、すぐさま4人が走ってステージに戻ってきたのは時間がギリギリだからだろう。
「僕ららしく前向きになれる曲を!」
と言って演奏されたアンコールは「Lamp」。荒井智之(ドラム)の表情は最後まで実に楽しそうだったが、
「未来だよ」
という締めのフレーズはまさにsumikaというバンドの、日本の音楽シーンの、フェスシーンの未来を明るく照らし、指し示すかのようだった。
ロッキンオンのフェスのトリを若手バンドがやるのは実にハードルが高い。初日の[Alexandros]や3日目のアジカンのように、出演が発表された段階でトリが決まっているレベルのアーティストがたくさん出るからだ。このフェスではかつてはサカナクションやback numberもトリをやっている。
そんな中でロッキンオンはsumikaにこの日のトリを託した。その思いにsumikaはしっかりと応えるようなライブを見せてくれた。今やアリーナでワンマンをやるようになっているバンドだけれど、これから先、さらに広いステージ、重要なステージに進むような予感がしている。そう感じたのは、ライブそのものが良かったということはもちろん、ここにいた観客の思いを包み込んで抱きしめてくれるくらいに、背負う覚悟を持つことができるバンドになったからだ。「Chime」のリリースツアーの時に
「絶対に、絶対に、ぜーったいに、味方です!」
と片岡が言ってくれたことを思い出していた。あの頃と同じ思いを持っまま、さらにその思いとバンド自身が強くなった。sumikaがトリで本当に良かった。
1.祝祭
2.ふっかつのじゅもん
3.Flower
4.Lovers
5.絶叫セレナーデ
6.ライラ
7.Summer Vacation
8.願い
9.センス・オブ・ワンダー
encore
10.Lamp
きっとメディアに報道された朝のニュースを見てから会場に来た人もいたはずだし、そうした話を聞いた人もたくさんいたはず。それは心が痛んだり、悲しくもなったりするけれど、逆に参加者の意識や心をより一つにさせたような、そんな強い確信を帰りには抱いていた。
文 ソノダマン