毎年の夏休みの平日の風物詩であった、UK PROJECT主催のUKFCも去年に続いて今年も従来の形では開催することができなくなり、今年は時期も10月、場所も新木場STUDIO COASTではなく恵比寿The Garden Hallに、形態も各バンドのボーカリストたちの弾き語りという形に変更して「弾き語りの夕べ」という形での開催。
たかはしほのか (リーガルリリー)
百々和宏 (MO’SOME TONEBENDER)
岩崎優也 (SUNNY CAR WASH)
清水英介 (Age Factory)
佐藤千亜妃
橋本薫 (Helsinki Lambda Club)
小池貞利 (teto)
という、弾き語りでも全くゆったりとはしなそうな鋭さを持った、どちらかというと若手中心のラインナップ。
おそらくは少しは賑わいを取り戻してきつつあるであろう、恵比寿ガーデンプレイス内のThe Garden Hallに検温と消毒を経て入場すると、客席には一席空けた形で座席が置かれており、ステージには木枠に花を模した照明も取り付けられているというのは弾き語りという今回の形態と雰囲気に合わせたものだろう。
開演時間の少し前にはUK PROJECTの遠藤社長がステージに登場し、感染状況的に夏には開催出来なかったこと、tetoの小池とHelsinki Lambda Clubの橋本が弾き語りを定期的にやっており、そこから広がっていき、2人を軸にして2人の呼びたい人を呼んだラインナップであるという今回のコンセプトを語る。
14:00〜 たかはしほのか (リーガルリリー)
トップバッターはリーガルリリーのたかはしほのか。14時になって場内が暗転すると、いつの間にかすでにステージにいるという登場からして実にたかはしらしいが、椅子に座ってエレアコのギターを持つと、弾き語りとはいえエフェクターを駆使した幽玄なサウンドスケープを作り出しながら、バンドの「GOLD TRAIN」を歌い始める。バンドでの轟音サウンドとは違う弾き語りだからこそ、たかはしの少女性の強いボーカルをより強く感じることができる。
それは「高速道路」のサビでのファルセット的なハイトーン部分もまたそうであるが、やはり弾き語りというのは歌い手の技量や能力がモロに出る場であり、だからこそたかはしの歌声が持つ神秘性もいつも以上に強く感じることができる。バンドのライブではグルーヴが練り上げられていく「蛍狩り」のポエトリーリーディング部分などはまさにその最たるものである。
「まだ14時っていうお昼の時間帯ということで、元気のいいカバー曲をやりたいと思います」
とたかはしが言ったので、普段からバンドでカバーしているくるりの「三日月」はそういうタイプの曲じゃないから違うな…と思っていたら、たかはしが
「あの夜僕はフェスに出たいと話した
あの夜僕はCDを出したいと言った」
とそれまでのエフェクターを駆使したものではなく、エレアコのシンプルなサウンドでギターを弾きながら歌い始めたのはKANA-BOONの「眠れぬ森の君のため」。
確かにKANA-BOONには元気の良い曲がたくさんある。なんならライブでよく演奏されるのもそうしたタイプの曲たちだ。でもこの曲を元気の良い曲だと思って聞いたことはなかっただけに、やっぱりたかはしはどこか我々凡人とは発想や思考が違うな、ということを考えていたのだが、曲が進むに連れてそんなことを考えていられないくらいに完全に曲の中へと引き込まれていく。
この曲はKANA-BOONの曲の中でも最も谷口鮪の私的な曲と言っていいような曲だ。鮪が経験したこと、その時に思った曲がそのままダイレクトに歌詞になっている。だから他の人の曲にはならないし、なれないと思っていた。
でもたかはしが歌うことで、そんな鮪の曲でしかない曲がたくさんの人のための曲になっているというこの曲の持つ普遍性に気付かされたのだ。KANA-BOONが3人になって最初にライブを見たスペシャ列伝の同窓会ツアーでこの曲が演奏されている時に泣いていた人がたくさんいたことも、それから久しくこの曲をライブで聴けていないということも。そんなことを思えたのは、たかはしの歌声が鮪とは全く違うものであっても、そうした思いを呼び起こすような魔力を持っているからだ。まさかこの日にこの曲をライブで聴けて、こんな感情になるなんて思っていなかった。
たかはしの弾き語りでの曲としてファンにはおなじみである、まさに一気に寒くなってきた今の時期に聴くと自販機で買って飲んで暖を取りつつ、缶に残ったコーンを最後まで飲み干そうとする情景までも浮かんでくるような「コーンポタージュ」を弾き語りだからこそというように演奏すると、
「今日の出演者の方々の名前を見たら、名前が平仮名なのが私だけで、なんか恥ずかしいなって思ったんですけど、私は本名のほのかが平仮名なので、半分平仮名みたいな(笑)」
と、やはり最終的には何でそんなことを言い出すのか全くわからないたかはしの天然っぷりが炸裂すると、最後に演奏されたのはたかはしのその天然であるけれども、だからこそどこかその少女性の強い歌声が際限なくどこまでも伸びていくかのような「好きでよかった。」。
少女性の強いボーカル、と書いたが、海もゆきやまもいない1人きりの弾き語りで自身の持てる力を最大限に発揮したたかはしは、いつも見ているバンドでのライブよりもはるかに大人に見えた。それは彼女が1人で歌う姿に頼もしさを感じていたのかもしれない。
1.GOLD TRAIN
2.高速道路
3.蛍狩り
4.眠れぬ森の君のため (KANA-BOONカバー)
5.コーンポタージュ
6.好きでよかった。
14:45〜 百々和宏 (MO’SOME TONEBENDER)
若手メインのこの日の中で一際異彩を放つのは、UK PROJECTの重鎮とでも言うような、MO’SOME TONEBENDERの百々和宏。とはいえ近年はモーサムとしての活動は数本のライブしか行っておらず、むしろこうした弾き語りがメインになりつつあるということを考えるとこのイベントの趣旨にピッタリの存在でもある。
ニット帽にメガネという出で立ちもバンドでのライブ時の姿とは全く異なるものであるのだが、椅子に座ると曲を始めるよりもまず、
「百々和宏です。UKFC…よく知らんけど、よろしくお願いします」
と挨拶して、ブルースハープを吹きながらエレキギターをガンガン鳴らすという、まさに「ロックンロールハート(ア・ゴーゴー)」というタイトルがピッタリな曲で始まり、ソロになっても弾き語りであってもロックンロール魂は全く変わらないのであるが、それは
「ち○こを出した子一等賞」
などの歌詞にも現れており、そうした歌詞が原因でラジオ局ではオンエアしてくれないという。
そうした軽妙なトークが挟まれるのは、近年は弾き語り+トークというスタイルのライブをウエノコウジらとともに行っているからという要素もあるのだが、ロックンロールの、ロックバンドの尖った部分の最先鋭とでもいうようなバンドであるMO’SOME TONEBENDERのボーカルがこんなにライブで喋るようになるなんて、バンドとして活発にライブをやりまくっていた2000年代くらいまでの自分には想像出来なかった。もちろん「音楽と人」誌面での長寿人気連載の「泥酔ジャーナル」を読めばそういう人であるということもわかるのだが。
そんな百々は福岡のシーンから出てきた存在であり、今にしてその自身のルーツをそのまま曲にしたかのような、全編博多弁で歌っているだけに、1単語たりとも歌詞の意味を理解することができない「HA・KA・TA・BEN」は百々特有のやさぐれたような歌唱と声質が実によく似合う。何を歌っているのかは本当にわからないけれど。
そうして歌う姿を見ていると全くそんな風には見えないのだが、実は前日に吉祥寺の飲み屋でライブをやり、その際にビール、酎ハイ、ハイボールなどを次々に飲み干していった結果、完全に2日酔い状態であるという。
「何ならこの配信中にゲロを吐く姿が映されるかもしれない…」
と言っていたが、それは冗談だろうけれど、そうした生活が出来なかったこの1〜2年をそのまま自身のブルースにしたかのような「コロちゃん」はタイトルこそ可愛げがあるが、完全にコロナふざけんなの歌である。実際に酒類が提供できない期間中は完全に「泥酔ジャーナル」もそもそも店で飲めないからネタが全くないということを素直に書いていたし、そこには行きつけの居酒屋、全国をツアーして訪れた居酒屋の方々がやっていけるのかというのを心配している文章も書いていた。泥酔ジャーナリストにとってはあらゆる意味で死活問題だったと言える期間だろう。
そんな曲たちは10月29日に発売される新作アルバム「OVERHEAT 49」に収録されるというが、11月2日には下北沢シャングリラにて、ウエノコウジやヤマジカズヒデ(dip)らのソロに参加している面々に加えて、モーサムの武井靖典と藤田勇も
「仲の悪いメンバーですけど、アルバムを手伝ってくれました」
ということで全員参加のリリースパーティーが開催され、そこでアルバムと同時発売の「泥酔ジャーナル4」の販売も行うらしいが、発売まで1週間を切っているのに完成版が届いていないために不安で仕方がないという。
そうしたトークの面白さは声を出してはいけないのがわかっていても漏れてしまうくらいであるが、単純な弾き語りの力量だけでなく、そうした部分も場数や経験の違いが如実に現れているというくらいに全スキルが本当に高い。
それはなんなら漫画やアニメにすらなりそうな「見習いスーパーマン」や、
「音楽を作るとは砂浜の石を研磨すること」
と歌う、どこかモーサムの名曲「ロッキンルーラ」に通じるメロディの「SALVAGE」の歌詞からも感じられることであるが、前半で喋りすぎたからか、明らかに後半は喋る量が少なくなっていた。二日酔いとは思えないこのペース配分もさすがである。
そうして百々の持つ文学性の高さを感じさせる「春の白痴」から、
「なんか、すいませんでした。こんな楽しい日に二日酔いのおっさんが来てしまって」
と自虐的なのが逆に1人でエレキを弾きながらの歌唱であってもバンドであるかのようなロックンロールな「ロックンロールハート(イズネヴァーダイ)」のカッコよさを引き立てていた。
とても49歳になる男とは思えないくらいにそのロックンロールさは全く枯れていないし、「泥酔ジャーナル」の愛読者としても、この人にはこれからも全国の様々な酒場やライブハウスを巡り続けて欲しいと思うし、書籍内で紹介されている店に自分も気兼ねなく足を運べるような(基本的にツアーで訪れた地方の店が多い)世の中であって欲しいと心から思う。何なら自分は割とこの人みたいな大人にならなりたいとすら思っている。
1.ロックンロールハート(ア・ゴーゴー)
2.HA・KA・TA・BEN
3.コロちゃん
4.見習いスーパーマン
5.SALVAGE
6.春の白痴
7.ロックンロールハート(イズネヴァーダイ)
15:30〜 岩崎優也 (SUNNY CAR WASH)
このライブの2日前にSUNNY CAR WASHは12月28日のZepp DiverCityでのワンマンライブをもって解散することが発表された。岩崎優也が精神の不調による休養から復活して、今年になってからはこうしたソロ名義での出演発表がされていたのにSUNNY CAR WASHとしてバンドで出演したりと、バンドとして再び前に進んでいこうとしている姿を見ていただけに、その発表は自分にとっては青天の霹靂と言えるものだった。
たかはしほのかも百々和宏も椅子に座っての弾き語りだったが、岩崎は立ったままでアコギを弾いて歌うという形。いたって自然体というか、出で立ちもバンドでのライブ時と全く変わらないものであるし、「それだけ」から始まるセトリもバンドの時と全く変わらない、何ならバンドのライブと同じ内容のものを1人で弾き語りしているという感じすらある。それは持ち曲がそんなに多くはないからということもあるが。
しかしバンドでのライブでのギリギリの綱の上で成り立っているかのような、誰かが強く押したら崩れてしまいそうですらあるバランスは弾き語りでは存在しないものであるだけに、岩崎の歌唱はやはり安定しているというタイプのものでは決してないけれど、それでもどこか躍動感のようなもの、音楽を歌い鳴らすことの喜びと楽しさのようなものは確かに感じることができる。
基本的に弾き語りだからこそのアレンジというものもなければ、MCを随所に挟むというものでもないだけに、バンドでのライブと同じように、というかそれ以上にテンポが良い。そこは弾き語りでありながらもどこか自身のバンドのスタイルや、自身のルーツであるであろうandymoriを彷彿とさせる部分でもある。
しかしながらバンドが解散したら今こうしてライブで演奏している曲たちはどうなるのだろうか。解散前にまとめてバンドのものとしてリリースされるのか、それとも岩崎自身の次なるアクションの曲としてリリースされるのか。
そう思うのは、バンドが解散しても岩崎自身は絶対に音楽以外の道に進むことがないだろうと思ってしまうくらいに音楽をやる以外に生きていく手段がないであろう人間に見えるからだ。
「恵比寿はお金を持ってそうな人がたくさんいるなって思いました」
と、小学校中学年くらいの人が初めて恵比寿に来た時の感想みたいなことしか口から出てこないあたりも、他の仕事をして生きていけるような気がしない要素であるけれど、「ムーンスキップ」のリズム隊がいないのにリズミカルに感じるような感覚、
「友達の歌」
と言ってから歌われた「キルミー」の名曲っぷりをそのままの濃度でストレートに伝えることができる歌とギターからしても、岩崎はバンドが解散してからはこうした弾き語り、ソロという方向性でやっていくんじゃないかとも思った。それはSUNNY CAR WASHの羽根田剛(ベース)や、脱退してもラストライブでドラムを務めてくれることを発表した畝狹怜汰ら以外の人と上手くバンドとしてやっていけるようなイメージが岩崎には全く感じられないからである。
でもそうした部分が岩崎らしさであり、彼が作った曲、彼がこうして行ってきたライブで、この人だからこういうライブになるのだし、我々もこう感じるんだよな、ということがわかる弾き語りであった。バンドじゃなくなってもこうやって会うことができますように。
リハ.スローバラード (RCサクセションのカバー)
1.それだけ
2.ラブソング
3.ティーンエイジブルース
4.週末を待ちくたびれて
5.ハッピーエンド
6.Bend
7.ムーンスキップ
8.キルミー
9.ファンシー
16:15〜 清水英介 (Age Factory)
ステージには椅子が2つ並んでいる。Age Factoryの清水英介は自身だけではなく、バンドのサポートギターも務めている有村浩希との2人編成での弾き語りである。
かつての坊主頭は何だったのかと思うくらいに、前髪まで伸びて完全にイケメンボーカルの域に入ってきている感すらある清水がアコギ、有村がエレキという2本のギターで歌い始めたのは「Dance all night my friend」であるが、バンドのライブでは轟音をそのギターで鳴らし、がなるように歌う時すらある清水の歌とボーカルはバンドでのライブ時とはかなり違って穏やかなものになっている。それはバンドの時とは違った形で歌を遠くに飛ばすように歌う「OVER」もそうであるが、バンドの曲をバンドとは全く違う角度のアレンジで鳴らすという点が同じ曲でも全く違うライブを見ている感覚で実に面白く、かつ新鮮である。
「さっきまで渋谷にいたんだけど、東京では山が全然見えない。俺が住んでる奈良ではどっからでも山が見える。だから東京に来ると山がねぇなって思うんだけど、奈良にいたらそれはそれで飽きるところもある。そんなことを歌った曲」
と言って歌い始めた「Merry go round」では有村がエレキだけではなくコーラスも務めるのだが、この曲がそうした退屈さを歌った曲であるというのは少し意外な感じであった。
むしろ、来月リリースのニューアルバム「Pure Blue」収録の「Feel like shit today」はタイトルからしてそうした要素を感じさせる曲であるが、やはり新作に収録される、目や瞬きをテーマにしているであろう「Blink」も含めて、普段はこうしてギター一本で曲を作っているということがよくわかるくらいに、丸裸になったAge Factoryの曲はそもそも持っているメロディのポップさを強く感じさせるアレンジになっている。ということはあのバンドでの狂気と言えるような轟音は西口と増子がいてこそのものであるとも言える。
しかしながら清水は
「UKFCのFCってどういう意味なん?(笑)
サッカークラブじゃないやろ?ファンクラブの略?わからんな(笑)
でも俺たちも「EVERYNIGHT」からUK PROJECTで出させてもらってるし、UK PROJECTに好きなバンドがいるっていう人もたくさんいるはず」
と、UK PROJECTへの感謝を口にすると(Age Factoryがここからリリースしているのは少し意外な感じもするが)、まさにUK PROJECTからリリースし始めた頃の曲である「HIGH WAY BEACH」で再び有村のコーラスが研ぎ澄まされて削ぎ落とされたアレンジの曲に彩りを加えると、その有村もステージから捌けて清水1人だけでアコギで弾き語りされたのはやはりUK PROJECTからリリースし始めた頃の曲である「nothing anymore」であり、その歌詞と清水のボーカルとギターのみというサウンドからはバンドでのライブとはまた違った儚さを感じさせ、ファンが待ち侘びる新しい曲をいち早く聴かせつつも、弾き語りだからこそ感じられるAge Factoryの、清水の魅力を確かに提示したものになっていた。これから先、Age FactoryはUKFCでもおなじみのバンドになっていくのかもしれないし、そうなって欲しいと思う。
1.Dance all night my friend
2.OVER
3.Merry go round
4.Feel like shit today
5.Blink
6.HIGH WAY BEACH
7.nothing anymore
17:00〜 佐藤千亜妃
サウンドチェックできのこ帝国時代の「夜が明けたら」を歌ってもいたけれど、今回の出演者の中では唯一名前にバンド名がついていないアーティストである、佐藤千亜妃。UKFCに出るというのも、弾き語りで出るというのもどちらも少々意外な存在である。
いたってカジュアルな感じの服装で1人ステージに登場すると、音源では疾走感溢れるロックチューンだった「STAR」を歌い上げるようにアコギを弾きながら歌う。曲の持つポジティブなエネルギーは変わらないが、だいぶ雰囲気は違って聞こえる。
「さっき、Age Factoryのエイスケ君が「UKFCのFCってどういう意味だろう」って言ってましたけど、UK PROJECTの人に聞いたら
「Family Conference」
っていう家族会議っていう意味だって教えてくれました。だからこのイベントはUK PROJECTの家族会議っていうことで、来ていただいている皆さんも家族です」
という、先程の清水英介によって浮上した疑問を即座に解決してくれるのだが、そんな家族に向かって歌うには不似合いな「大キライ」という曲に続くというあたりがこのMCを本当に急遽用意した感じが伝わる。とはいえそんな「大キライ」にも弾き語りならではの温もりのようなことを確かに感じることができる。
先月に新作アルバム「KOE」をリリースしたばかりであり、まだ弾き語りではほとんどやっていないそのアルバムの曲もこの日に披露されるのだが、カポをつける位置を上から数えて確認したりと、本当にまだこのアルバムの曲を弾き語りで歌うことに慣れていないことがわかるのだが、アルバムのオープニング曲である「Who Am I」、さらにはタイトルに合わせたオレンジ色の照明がちょうど夕方くらいの時間になったこのタイミングに、弾き語りという形態によく似合う「橙ラプソディー」という新作収録曲を披露するのだが、アルバムに収録されたアレンジは多彩でありながら、「KOE」というタイトルであるようにその軸には自身の声があるということがよくわかるくらいに歌の力が強い。佐藤は少し前に
「今はリズムの音楽が流行っているけれど、私は歌モノが中心になって欲しい」
的なことを言っていたが、自身の作品でしっかりそれを実践していると言えるだろう。
「UK PROJECTの中に好きなアーティストがいるっていう人は手をあげてください!」
と、この日初めて観客にアクションを取らせてたくさんの腕が上がると、
「きのこ帝国がデビューした時にアルバムをリリースしてくれたのがUK PROJECTで。メジャーデビューしてからもずっと担当の方とは今でも飲みに行ったりしているくらいで。本当に家族っていう感じです」
と今や完全にメジャーアーティストとなっていてもUK PROJECTとの変わらぬ関係性があることを口にし、ドラマ主題歌として佐藤の存在を多くの人に知らしめた「カタワレ」を
「みなさんにとって片割れというような、恋人だったり家族だったり友人という人のことを思い浮かべてながら聞いてもらえたら」
と言って歌う。
「ああ、僕は君に出逢うために
生まれてきたのかもしれない
ねえ、勘違いだとしてもいい
君は世界でたった1人だけのカタワレ」
「「ああ、夢見てた王子様じゃないけど
君が好きなの
ねえ、へたくそなエスコートしてよ
エンドロールの続きも」」
という実に普遍的かつロマンチックな歌詞はドラマに合わせたものなのかもしれないが、その佐藤の歌が強すぎるが故か、誰の姿も思い浮かぶことなく、ただただその歌う姿を見ていた。きのこ帝国の初期の頃に佐藤がこうした歌を歌うようになるなんて全く想像していなかったなと思いながら。
そしてラストは「千と千尋の神隠し」のハク役の声優である入野自由に提供した「グッド・バイ」のセルフカバーという実にレアな、弾き語りだからこその選曲なのだが、それはこの曲を歌ってくれた入野が先月に結婚したことにより、それを祝う意味でもあったとのことだが、
「きみの髪型が好きです。
過去現在未来永劫。」
の「未来永劫」というフレーズなどは実に佐藤らしい。というよりも作詞作曲ともに佐藤であるだけに、こうして歌っていても佐藤の新しい曲としか思えないのだが、この曲のタイトルである「グッド・バイ」は
「昨日までのぼくに言うよ、
グッド・バイ。」
「昨日までのぼくが言うよ、
グッド・バイ。」
と視点を変えながら自分自身に歌われる。それは結婚という人生の新しい道を選んだ入野自由へのこれ以上はないくらいのメッセージであり、佐藤千亜妃の弾き語りはこの日このタイミングで歌うべき曲を歌うというものになっていた。
去り際まで実に爽やかな表情だったが、百々和宏同様に「音楽と人」の誌面で食べ物についての自身の体験と視点で綴る佐藤の連載が非常に好きで愛読している身であるため、この恵比寿でのライブ後に彼女が何を食べたのかというのも少し気になっていた。
リハ.夜が明けたら (きのこ帝国)
1.STAR
2.大キライ
3.Who Am I
4.橙ラプソディー
5.カタワレ
6.グッド・バイ (入野自由提供曲セルフカバー)
17:45〜 橋本薫 (Helsinki Lambda Club)
まだバンド名がちょっとだけ違っていた頃にHelsinki Lambda ClubはUKFCの出場権をかけたオーディションを勝ち抜いて、オープニングアクトとして我々の前に現れ、それからも毎年のように出演し、メンバーチェンジもありながらも階段を1歩1歩登って、今年はUKFCが開催されてきた新木場STUDIO COASTでもワンマンを行った。つまりはUKFCで育ってきたバンドであり、遠藤社長がこの日を任せる1人に橋本薫を選んだのも実に納得のいくところである。
「UKFCへようこそ!といってももう佳境ですけど…」
という挨拶からもUKFCを自分が担っているという自負を感じさせるが、椅子に座って軽快にアコギを鳴らす「JOKEBOX」からスタートすると、バンドでのライブではこんなに流れとかを無視して序盤にはやらないであろう「チョコレィト」(なんなら新木場ワンマンではダブルアンコールで最後の最後に演奏されたくらいに再会を約束するような曲だ)、天井が高いこの会場のステージ上部でミラーボールがさりげなく輝くのが美しい「しゃれこうべ しゃれこうべ」と、リズムを加味しても弾き語りという形態で歌うのが実によくわかるHelsinki Lambda Clubの曲が演奏されていく。バンドではそこにサイケデリックさなどをまぶしたりもしているのが、この形態であると丸裸のメロディがストレートに響いてくる。つまりは、ヘルシンキってやっぱり良い曲を作ってきたバンドだよな、ということがよくわかる。
そうした形態だからこそ、比喩表現などの多い、いわゆる普通のJ-POPなどと比べたら難解に感じることもある歌詞のバンドの中ではすんなりと情景がイメージできるような「Time, Time, Time」はまさにヘルシンキの持つポップさを強く感じさせてくれる曲であると弾き語りで聴くとより強く思う。
「僕は子供の頃からリップクリームを使い切ったことがなくて。いつも使いかけで失くしてしまう。それは今もそう」
という橋本の経験が歌われた曲である「lipstick」もまさにそうした曲であるが、どちらかというとクセがあるような橋本の歌声もバンドで聴くよりも弾き語りの方がどこかスッキリしているような印象すらある。
橋本はすでにこうして弾き語りなどでも精力的に活動しているし、それはソロ名義で「ステラ」という曲をリリースしているということからもわかるのだが、この曲がまたバンドとはまた違った橋本の素朴な部分を感じさせる。これはこうした弾き語りライブでないとなかなか聴くことができない曲だろう。
バンドではサイケデリックな海の中に沈んでいくかのような「引っ越し」もアコギと歌のみというアレンジによってそのメロディが最大限に引き出され、この曲はこんな響き方をする曲だったんだな、と改めて思い知らされる中、ほとんどMCもせずにひたすら曲を歌ってきた中で、
「あとは貞ちゃんに任せます。ありがとうございました」
と、かつてスプリット盤を出し、このあとに2組での対バンも控えている(なんならヘルシンキのギターの熊谷はtetoのサポートギターでもある)盟友への強い信頼を感じさせる言葉を発し、最後もやはりこの弾き語りという形態に実によく合う、ジャカジャカとしたアコギを刻みながら歌う「マニーハニー」と、まさにHelsinki Lambda Clubの橋本薫の弾き語りだなというようなライブだった。
毎年のUKFCでヘルシンキを見ると、まだまだ若手というようなイメージがある。それはメインステージに立つ先輩たちがあまりに強すぎるからということもあるけれど、この日の橋本の弾き語りからはそうした若手という立ち位置を感じさせないような、どっしりとした強いオーラを感じた。それはやはり、これからのUKFCは自分たちが背負っていくという、飄々として見える中に強い意志と覚悟があるからかもしれない。ワンマンで立ったあの新木場のメインステージに、UKFCでも立つところが見たかったな。
リハ.NEON SISTER
リハ.SAYONARA BABY BLUE (うみのてのカバー)
1.JOKEBOX
2.チョコレィト
3.しゃれこうべ しゃれこうべ
4.Time, Time, Time
5.lipstick
6.ステラ
7.引っ越し
8.マニーハニー
18:30〜 小池貞利 (teto)
3年前はトップバッター、2年前は真ん中あたり。UKFCにおいてtetoはあれだけの豪華な先輩バンドたちの中に混じって、完全にメインステージを担う存在になっている。そのtetoのボーカリストの小池貞利がこの日のトリというのも実に納得のいくところだ。
しかしながらステージに登場したのはハットを被ってサングラス着用、ロングコートというアメリカの映画俳優のような、あるいはThe Mirrazの畠山承平のような出立ちであり、客席からは驚きと笑いも少し起こる中で、
「新曲!」
と言ってアコギをジャカジャカと鳴らして歌い始めたのは、ロシア民謡の「一週間」を彷彿とさせるような、
「月曜日に財布をなくし」
と、各曜日に失ったものを羅列していき、結果的には
「日曜日は何にもない!」
と全てを失う、「ロストマン」とサビで連呼する新曲。おそらくはそれがタイトルになりそうであるが、いきなりの先制攻撃と言えるような新曲披露には驚きだ。早くも小池は、tetoは新たなモードに向かっているということだろうか。
「カバー」
と一言だけ口にするスタイルで歌い始めたのはのは、アニメ「らんま1/2」の主題歌である「じゃじゃ馬にさせないで」であり、実にレアな選曲と言えるが、歌詞こそはらんま1/2ならではのキュートなものでも、小池が荒々しく歌うことによってロックバンドの衝動をこの曲からも感じることができる。歌いながらサングラスは落ち、コートもハットも脱げていき、すぐにいつもの小池の出で立ちになっていくのだが。(何故かハットは被り直していた)
しかしながら直前に出た橋本薫はHelsinki Lambda Clubの曲の中でも、弾き語りでやるのがよくわかるような曲を選んで歌っているように見えたが、盟友同士であってもそうした弾き語りでのスタンスが真逆と言っていいくらいに違うと感じるのは、小池はtetoの中でもロックバンドの衝動というか、パンク的な衝動すら感じるような「とめられない」「メアリー、無理しないで」をテンポを落としたり、アコースティックでのアレンジを施すということもなく、むしろバンドでギターを弾きながら歌っているのをアコギに変えました、くらいの感じで弾き語りとは思えないくらいの衝動を炸裂させるような弾き語りをしているからである。
なので当然「メアリー、無理しないで」のサビの「メアリー」の連呼は音源のようにはいかないし、歌いながら足でステージの床をドンドンと踏む音がQUEENの「We Will Rock You」のような、リズムそのものとなっているというあたりもパンクな衝動を感じさせ、椅子に座って見ているのだけれども、立ち上がってライブを見たくなる。小池はずっと立ったままで歌っているだけに。
「カバー!」
と再び言うと、今度は近年では宮本浩次もカバーしたことで話題になった「木綿のハンカチーフ」という昭和歌謡の意外なカバーで、小池の年齢を疑ってしまいそうになるのだが、女性ボーカルのこの曲をがなるでもなく、ひっくり返るでもなく、ただただ名曲を名曲として歌えるというあたりに改めて小池のボーカリストとしての力量を感じることができる。とかく衝動という面ばかりにフォーカスしてしまいがちだが、やはり技術がちゃんとあってこそであり、ただめちゃくちゃにやればいい大会をやっているわけではないことがわかる。
9月がまだ1ヶ月前だったことを忘れてしまうくらいに急に寒くなってしまった10月に響く「9月になること」では、音源でコーラスとして参加しているたかはしほのかが同じ日に出演しているので出てくるのかと思ったけれども出てこず(夜から違うライブに出ていた)、小池は2コーラス目でいきなり歌を止め、
「歌詞が…全飛びしてますね。なんだっけ、ここの歌詞?」
と観客に尋ねるのだが、観客はもちろん喋ることができないので教えることができず、小池は自身の記憶を辿りながら歌い直す。バンドでのライブでは歌詞がほとんど飛ぶ場面を見たことがないのだが、これは1人きりの弾き語りだからという要素もあるのだろうか。
さらにサビで思いっきり歌い上げる様が意外なくらいに弾き語りにハマっている「invisible」、途中で小池が歌いながら真横にキックを入れるかのように足を上げる「ルサンチマン」…。ほとんど喋ることなく、tetoのバンドのライブでもハイライトとなるような衝動的なギターロックをアコギ1本だけで歌っていくのだが、この1人での弾き語りでも滲み出てきてしまう、溢れんばかりの衝動をさらに増幅するためというか、曲の持っている衝動を最大限に引き出すために、やはりtetoというバンドが小池にはなくてはならないんだろうなと思う。
「UKFC、来年はまたできるといいですね」
とだけ言って、最後に歌い始めたのはそんな再会へのメッセージを含んだかのような「手」。
「コロナとかマジファック」
と歌詞に入れるのはバンドでのライブと変わらないが、
「馬鹿馬鹿しい平坦な日常がいつまでも続いてほしいのに
理想と現実は揺さぶってくる
でもあなたの、あなたの手がいつもあたたかかったから
目指した明日、明後日もわかってもらえるよう歩くよ」
というサビのフレーズが弾き語りでの素朴なアレンジだからこそ、こうやってライブが観れるっていうささやかな日常であればドラマチックなことが何もない人生でもそれでいいと思うような、それは少しバンドでのライブとは違うような印象を感じさせてくれるものだった。
アンコールで再びステージに登場すると、口元にマスクをつけたままというのが急遽出てきた感じがあるのだが、
「「Happy Birthday To You」とかビートルズの「LET IT BE」とか、同じフレーズを繰り返すような曲が昔から好きで。自分でもそういう曲が作れて嬉しかったので」
と言って歌い始めたのは
「心のスーパーヒーローだったよ、アツシくん」
「あのライブハウスは無くなった 僕らも会うことは無くなった そんなの全然どうでもいいんだけど、それでも今もこれからもこうして」
と先月のZepp DiverCityでのワンマンの時と同様に歌詞を追加するようにした、もともとはこうして小池の弾き語りでの曲だった「光るまち」で、小池は最後には
「終電は…そろそろ逃したいなぁ」
と歌った。夜も街には街灯の明かりが、店の電気が点くようになった。それでもまだライブが終わった後に思いっきり打ち上げをして…というわけにはいかない。でもそれがほんの少しずつでも確実に近づいてきているのがわかる。それが当たり前の現実になった時には、またこの曲の最後のフレーズは変わる。それを、少しでも早くライブで耳にできる世の中になりますように。
山崎と福田が脱退した時、バンドを辞めるという選択肢だってあったはず。そもそも春の日比谷野音のワンマンの時だってそういう話をしていた。でもtetoが終わってしまっていたら、きっと弾き語りでもこうやってtetoの曲を聴くことは出来なかっただろう。
辞めるのが決まってるメンバーとこれ以上一緒にやっても意味がない、とひたすらに前に進もうとする小池だからこそ、こうして弾き語りでもtetoの曲を歌うのはtetoとして前に進んでいるからだ。それがハッキリとわかるのが何よりも嬉しい。それくらいにtetoの生み出したこの曲たちが聴きたくて、愛おしくて、自分に衝動を焚き付けてくれて仕方がないんだ。
1.新曲
2.じゃじゃ馬にさせないで (らんま1/2テーマ)
3.とめられない
4.メアリー、無理しないで
5.木綿のハンカチーフ (太田裕美のカバー)
6.9月になること
7.invisible
8.ルサンチマン
9.手
encore
10.光るまち
いつもと違う弾き語りという形で見るのも楽しい。でもやっぱりUKFCは新木場STUDIO COASTで、[Alexandros]やthe telephones、BIGMAMA、TOTALFAT、POLYSICSというこのイベントを守ってきた家族のようなバンドたちと会える場であって欲しい。
BIGMAMAとTOTALFATのライブで壁のように並んでは次々と転がっていくダイバーたちも、POLYSICSのハヤシが客席に飛び込んでくるのも、そうした家族でありライバルたちの熱いライブを見てはバチバチに闘志を燃やしたライブをやる[Alexandros]も、長島涼平が毎回ドッキリにハメられながらも愛とディスコを叫ぶthe telephonesも、UK PROJECTの歴史を作ってきた銀杏BOYZやSyrup16gの五十嵐隆が出演してきたのも。(五十嵐はこのイベントに出演した際に他のバンドたちの楽しそうな姿を見てSyrup16gの再結成を決意した)
ライブ後にそうした全ての記憶が今も鮮やかに蘇ってきていた。年内で閉館してしまうSTUDIO COASTで最後にもう1回だけ、モッシュもダイブも合唱も全員集合コラボも、打ち上げのプールへのダイブもなくてもいい。ただ、この日のライブが最後にあそこに繋がるのを見たいって心から思っている。
文 ソノダマン