3年前にこのステージでのこやまたくや(ボーカル&ギター)の
「大きいところで1回やるより、Zeppで5日間やりたい」
という発言を有言実行したヤバTのZepp Tokyoでの5days(しかも1日2公演)もついに最終日。この日の第2部は5日間で10公演目というわけがわからないくらいの状態になっている。
先週までの第2部は時間を繰り上げて19時30分開場の20時30分開演だったが、この日の最終日は従来通りの20時開場21時開演。21時スタートでオールナイトではないライブというのもなかなかない機会である。
検温と消毒を経てやはり椅子が並べられてヤバTのリミックス音源が流れるZepp Tokyoの場内へ。ここまで4公演見てきた、日常をライブハウスだらけにしてくれたこの1週間も終わりかと思うと、ライブが始まる前だというのに少し寂しい気持ちになる。
客席には開演前からカメラを持ったスタッフがいるのが気になる中、21時になるとおなじみの「はじまるよ〜」の脱力SEでメンバー3人がステージに登場。4日目は1部2部ともに紫色のツアーTシャツを着ていたしばたありぼぼ(ベース&ボーカル)はピンクの道重さゆみTシャツに回帰。こやまは全公演全く出で立ちが変わらない。他の服を持ってないんじゃないかと思うくらいに(Twitterでは普通のTシャツも着ている写真が上がっているけど)本当に変わらない。
メンバーが音を出しながらのライブの注意喚起ではほとんどの観客がメンバーよりも前にこやまの言葉に頭の上に両手で○や×を作っていたので、明らかにこのツアーにすでに何公演も参加してきた人たちが集まっているということがわかる。
かくいう自分もそうなのだが、毎回セトリもMCもガラッと変わる、ここまで67公演ライブをやりまくってきて仕上がっているというのすら超えた状態にあるということからも、1つ行ったら行けるだけ行きたくなってリセールや当日券を買って行くという人もたくさんいたはずだ。
そうしてたどり着いた5days最終日の10公演目の始まりを告げるのは、4日目の2部では土曜日の夜に演奏されたということもあり、平日はちゃんと働いてるパリピならぬ社会人の心を震わせた「あつまれ!パーティーピーポー」。
普通なら後半にいくにつれて速くなっていくBPMが1曲目から最速を競うかのように速くなっており、もはやディスコパンクというようなレベルになっているので観客がサビで手を左右に振る仕草も腕が痛くなるくらいに速い。
しかしながらこの日も2公演目であってもさらに全てを出し尽くすように演奏しながらも(そのくらいの気概がないとこんなにも速く演奏できない)、どこかこれで終わってしまうという寂寞感も感じさせる。
それはこやまの声が4日目までに比べて明らかに涸れていたということ(むしろ全く涸れないどころかより伸びやかになっているようにすら感じるしばたのボーカルは驚異的。きっと見えないところでめちゃくちゃ努力しているんだろうと思う)とも無関係ではないと思うが、その状態でも抑えるということは全くない。むしろだからこそより一層しっかり響くように張り上げるようにして歌っている。それが速いパンクサウンドに乗る。技術の上手い下手ではなく、どれだけ目の前にいる人の心に届けることができるのか。それをわかっているバンドのパフォーマンスだ。
最新シングル「Bluetooth Love」ではその驚異の歌唱力を誇るしばたのハイトーンボイスが炸裂しながら、サビでは客席でTikTok風ダンスが繰り広げられる。この発売間もない曲とは思えない浸透っぷりはこの曲が「かわE」に連なるキラーチューンであることを感じさせるし、ヤバTの曲がここまで世の中に浸透しているのは(この曲は映画の主題歌)やはりメロディの素晴らしさあってこそということを改めて実感させてくれる。
間奏でこやまのギターソロではしばたが真後ろで見守り、逆にしばたのベースソロではこやまがそれを覗き込むという形だった「sweet memories」はこの5日間ほとんど毎回演奏されてきたこともあってか、
「かわいいあの子が放課後に俺の上履き食べてた」
という他に絶対に歌う人が今後現れないであろうシュールな歌詞とは裏腹に、ストレートなパンクサウンドの曲としてこのツアーで最も鍛え上げられた曲であると思う。シングルのカップリングで聴いた時にはこんなにライブ定番の曲になるなんて全く思っていなかった。
するとこの日のレア曲は1stアルバム収録の実に久しぶりな「ウェイウェイ大学生」。しばたがベースを大きく振るように演奏する仕草に合わせて観客が手を振るというのも今の技術と経験があるからこその余裕を感じさせるが、この曲を聞くといつも歌詞の通りに安い居酒屋(鳥貴族はまだ当時そこまで店舗がなかった)に行ってサワーを飲んだり、スポッチャで朝まで遊んだりしていたことを思い出す。ウェイウェイしていたつもりは全くなかったけれど、あの頃にこの曲を聴くことができていたら、当時の我々のテーマソング的な曲になっていたのかもしれないとすら思う。
とはいえやはりこうした、「やるなんて全く思ってすらいなかった曲」を普通に、というよりもツアーで鍛え上げられた形で演奏してくれるというのは本当に凄い。Twitterのバンド公式アカウントが全公演のセトリをその日に上げるくらいにネタバレという概念が存在しない、同じツアーであっても毎回どんな曲がどんな順番で演奏されるのか全くわからないというのはここまでに参加してきた4公演のレポでも書いてきたが、本当に最後の最後まで驚かされっぱなしだ。
もちろんそれはこうして同じ場所で複数公演やるからこそ、複数公演見に来てくれる人たちが毎回最大限に楽しむためにはどうしたらいいのかということを突き詰めた結果であるし、そんなバンドだからこそ日によっては開幕を告げたり、あるいは最後に演奏したりというくらいのキラーチューンであり続けている「ハッピーウェディング前ソング」もこの日は5曲目に演奏することができる。それも全く予想できないことであり、この後の展開も全くわからなくなるのだが、
「Zepp Tokyo 5日目、開催おめでとうー!ありがとうー!」
とこやまが言う通りに、メンバーもファンもこうしてこの状況でライブが開催されていることを喜び合うことができているということだけはわかる。
MCではいつものように斬新なネタ連発、というわけではなく、5days10公演目を迎えたことにより、
こやま「これが伝説の幕開けとなる」
もりもと「今から幕開けてどうすんねん!」
というやはりどこか最終公演を迎えたことによる切なさのようなものを感じさせる、爆笑させようというのとはまたちょっと違った感覚だった。そういう状況ではないということを頭でも体でも理解しているかのような。QUEENの「We will rock you」をこやまが歌おうとするも全く歌詞をわかっていないという小ネタもあるにはあったが。
そんな中で
「ヤバTの中で最も重い曲」
と言って最新アルバム「You need the Tank-top」から演奏されたのは「早く返してDVD」。確かにラウドバンドかと思うくらいの重い音なのだが、歌っている内容は要は「DVDを借りパクされた」ということであり、そのサウンドとのギャップが凄い。
そんな最新アルバムの次に演奏されたのが2ndアルバム収録の、これまたまさかここで演奏されるとは、という「メロコアバンドのアルバムの3曲目くらいによく収録されている感じの曲」であり、間奏部分ではこやまが観客を座らせてからジャンプ、というメロコアバンドのライブによくあるライブの光景を再現するというおなじみのパフォーマンスも、そもそも観客それぞれに椅子があるという状況なので、フェスなどでの人が多くて座りきるのに時間がかかるということが一切なく、むしろ間奏を持て余すくらいにみんなすぐに座り、そこから飛び跳ねまくる。声を出すことはできないけれど、こうした楽しみ方をすることはできる。そしてそれが心から楽しい。そんな感情が芽生えるのはライブハウスでバンドが音を鳴らしているからだ。
メロコアとはメロディック・ハードコアの略であると言われる。いわゆるAIR JAM以降のパンクバンドをそう呼ぶことが多いけれど、続く手拍子に包まれる「癒着☆NIGHT」の超キャッチーなメロディなのにも関わらず、Bメロでしばたが頭を振りながらベースを弾く姿やサウンドはまさにハードコアと言ってもいいくらいの重さと激しさを備えている。
「We are メロコアバンドあんまりわかってへんけどまあいいや」
と歌いながらも、今のヤバTは完全にメロコアバンドだ。だからこそ今聴くとより説得力を持った曲になっている。
「ベースコーラスの声ばり高い」
という部分も。
そんな「永遠の新曲」こと「癒着☆NIGHT」から、
「頭空っぽにして楽しもうぜー!」
と言って演奏されたのは「You need the Tank-top」のリード曲でもある「NO MONEY DANCE」。アルバムの中でも随一の「みんなで歌える曲」だからこそ、またぐちゃぐちゃになれるライブハウスでみんなで歌える景色を夢想する曲になっている。こやまとしばたが「Yeah!!!!!」の部分で顔の近くでピースするの可愛らしさも含めて、本当に楽しい。5daysまでじゃなくて、ずっとこの瞬間が続いて欲しいと思うほどに。
「2018年かな。武道館でやるよりもZeppで5日間やれるバンドになりたいって言って。まさか10公演やることになるなんて(笑)
こんな状況の中でも面白いことができるんだなって思いました。ヤバTの一つの夢が叶う瞬間に立ち合ってくれてありがとうございます!」
とこやまは改めてこのZepp Tokyoに5日間、10公演立つことができたことの感慨を口にした。
自分はミュージシャンのインタビューや自伝を読むのが好きなのだが、とある日本のベテランバンドのボーカルの方の自伝で、30年にも渡ってバンドを続けてきた理由について、
「音楽は悲しい記憶を消すことはできない。でも楽しい記憶を増やすことはできる」
と書いてあった。こうしてこうした世の中の状況であっても毎日のようにライブハウスに来て、1本でも多くヤバTのライブを見るというのは、つまりはそういうことなのだ。悲しいことがたくさんある世の中だけれども、それでも少しでも楽しいと思えることを感じたい、増やしたい。ヤバTなら絶対にその楽しい記憶を増やしてくれる。こういう状況でも、いや、こういう状況じゃないとやろうとは思えないような面白いことをやってくれる。
2018年にこやまのその発言を自分は客席で聞いていた。その時は本当にそんな瞬間が訪れるなんて全然想像していなかった。でもそれは自分たちの夢の一つであると同時に、会場のキャパを減らさなければならない今のこの状況でどうやったら少しでも多くの人がライブを見ることができるかということへのヤバTからの答えにもなった。そしてその1つ1つを全く違うライブにする。あの3年前に口にした目標は、ただ5日間やるんじゃなくて、そこに明確に意味を持ったものになった。それもまたあの頃には想像出来なかったことだった。
しかしそんな夢の一つも終わりの時間が近づいてきている。名残惜しさがあるのならばもっと喋ったりすればいいし、じっくり曲をやればいい。そうすれば終わりが伸びるから。
でもヤバTはそれをライブならではの超高速化した「ヤバみ」によってさらに加速させた。これがヤバTのライブであり、やり方、生き様であると言わんばかりに。その速さは何度となくライブで聴いてきたこの曲の中でも体感的には過去最速と言っていいものだったかもしれない。
「もう、体力全部使ってもいい。毎回そう思ってやってきたけど、今回は本当に何にも残さなくていい。毎回毎回が全部大事なライブだけど、今回が最後やから、ライブでまだ1回しかやってない曲を」
とこやまが口にした時、何の曲が演奏されるのかすぐにわかった。きっと会場にいた人はみんなわかっていたと思う。
それは「You need the Tank-top」の最後に収録されている「寿命で死ぬまで」だ。
こやまにとって身近な人が居なくなってしまったという体験を、
「生きて生きて生きて生きておくれよ」
という、まだその言葉を受け取れる人に向けて歌う、ネタ感も笑いも一切ない、リアルな曲。
そのメッセージは今目の前にいる我々に、このツアーに来てくれた全ての人に、来れなかったけれどヤバTの音楽を聴いてくれている人に、まだヤバTと出会っていない、これから出会うであろう人に、そしてもう会うことができない人に。その全てに向けて歌われているようであり、ライブ後のブログでこのツアー中に友人が亡くなっていたことを明かしたしばたは曲中、歌いながら泣いていた。
ここまでのライブで、ヤバTの活動としてのほとんどの時間で、しばたはずっとニコニコと笑っていた。それは自身の着ているTシャツに刻まれている名前の人がそうしてきたように、ステージに立っている人が笑顔でいることによって救われる人がいるということを自身の体験としてわかっているからだ。だから自分が笑顔でいることで救われる人がいることをしばたはわかっている。
そんなしばたが歌いながら泣いていた。もりもともリズムの強さと正確さは変わらずとも表情はどこか他の曲とは違っていた。こやまは長い髪に隠れて目がよく見えなかった。でもこの曲は音源を聴いてもそれまでの12曲とは歌い方が全く違う。ヘッドホンをして丁寧に歌うというレコーディングの光景が全く想像できないくらい、こうしてライブで鳴らしているように大きな声を張り上げて歌っている。
「平気で何処までも届くと思った
大きな声で叫んだ」
というフレーズで締められるように、大きな声で歌えば、もう会えなくなってしまった人にも届くんじゃないかというように。
これまでにもロッキンのメインステージで演奏された「サークルバンドに光を」など、ヤバTのライブで涙が出たことは1回や2回じゃない。このツアー中、5daysの中でもそうだ。でもその時にはメンバーは決して泣いてはいなかった。泣いていたのはその想いがこもった音を受け取った我々の方だった。
それくらいに弱い部分を見せてこなかったヤバTのメンバーが泣いている。きっともうこうしてツアーに来る人の中にはヤバTのライブやメンバーが「面白いから」という理由だけで来ている人はまずいないだろう。
ヤバTの本質がどんなバンドであるのか、それを証明してきたツアーだったし、それをみんなちゃんとわかっている。笑えるけれど、それと同じくらいに泣ける、本当に人間味に溢れたバンドだということを。そのヤバTの本質が最も現れた瞬間だった。
そんなライブの最後に演奏されたのはやはりライブハウスのために鳴る、このツアーのテーマ曲「Give me the Tank-top」だった。
メンバーはこの曲を演奏している時は笑っていた。いつものヤバTに戻っていた。だから我々も笑おうとしていた。最後の瞬間を楽しもうとしていた。そのために高く高く飛び跳ねた。でもやっぱり、100%笑顔だった人はなかなかいなかったんじゃないかと思う。どうしたって、顔を手やタオルで拭わないと、なかなかステージをちゃんと見ることは出来なかったから。
演奏が終わるとこやまは最初は、
「ありがとうございました!」
とだけ言った。それしか言えることがないような感じにも見えた。でもすぐに、
「今はまだライブハウスに来れない人もたくさんいると思う。でも俺たちはずっとライブハウスでやってるから、また来れるようになったらライブハウスに友達を連れて遊びに来てください」
と言った。やはりライブハウスなのだ。ヤバTと再会する場所は。ヤバTが取り戻したい、無くしたくない場所は。ヤバTがこれまで以上にこれからの人生を一緒に歩んでいきたいバンドになった、Zepp Tokyo 5日目、10公演目だった。
こういう声を出したり、モッシュやダイブをすることができない状況になってしまった時に、「観客と一緒に騒いだりするバンドは厳しいだろう」という声もあった。
自分自身、そうではないバンドのライブを見た時はやはり「変わらないな」と思ったりもしたし、変わらないバンドのライブだからこその強さを感じたりもした。
でもヤバTは思いっきりライブが変わったバンドだ。きっとこういう状況にでもならなかったらこうした形での椅子があって、モッシュやダイブは禁止で…という形でのライブはやらなかっただろうというくらいに。
でもその変わったライブが物足りないか?と言われたら全くそんなことはない。むしろヤバTのライブの純粋な強さを感じることができたツアーだし、何よりもそうして変わってしまったからこそ、ここにいる人は年齢も職業も住んでる場所も普段の楽しみ方も思想も違うけれど、きっと同じことを望み、目指している。
誰しもが一つになれるなんて自分は基本的には思わない。でもライブの時にはそう思える瞬間が確かにある。今、ヤバTのライブに来た人みんなが望んでいること、目指していることは、またコロナ禍になる前のようなライブハウスでヤバTのライブを見ること。それは「ライブが変わらざるを得なかった」ヤバTと、そのファンである我々だからこそ一つになって目指せるものだ。
「You need the Tank-top」というタイトルは我々がそう思うことをメンバーがわかっていたかのように、やっぱり我々にはタンクトップ(=パンクロック)が必要だし、その日が来るまで、またあんな激しくも美しい景色が見れるまでこれからも一緒に、生きておくれよ。
1.あつまれ!パーティーピーポー
2.Bluetooth Love
3.sweet memories
4.ウェイウェイ大学生
5.ハッピーウェディング前ソング
6.早く返してDVD
7.メロコアバンドのアルバムの3曲目くらいによく収録されている感じの曲
8.癒着☆NIGHT
9.NO MONEY DANCE
10.ヤバみ
11.寿命で死ぬまで
12.Give me the Tank-top
文 ソノダマン