teto × Helsinki Lambda Club TOUR2021 「TAIKIBANSeeeee.」 CLUB CITTA’ 2021.12.3 Helsinki Lambda Club, teto
今やともにZeppやCOASTという大きなライブハウスでツアーをやるようになったtetoとHelsinki Lambda Clubは2017年にスプリットCDをリリースしている。お互い当時よりも大きな存在になった今になってはなかなかあの頃のように一緒には…という我々の思いを良い意味で裏切るかのように、スプリットCDから4年後の今になって再びこの2組が2マンライブを開催。
そこには新体制のtetoにヘルシンキの熊谷太起(ギター)が参加しているという要素もあったりするのかもしれないが、当時から両者の音楽を聴いていたとはいえ、当時は2マンライブを見ることが出来なかった自分にとっては「まさか今になってこの対バンが見れるとは…」という思いでいっぱいである。
検温と消毒を経てクラブチッタの客席に入ると、足元に枠で立ち位置が区切られたスタンディング制。やはりライブハウスのドリンクでアルコールが飲めるというのも実に嬉しいことである。
・Helsinki Lambda Club
先行はHelsinki Lambda Club。自身の楽曲である「Mind The Gap」のシュールなサウンドをSEとしてサポートドラマー含めた4人がステージに登場すると、薄暗いステージを揺蕩うようなサイケデリックサウンドが包み込むような「しゃれこうべ しゃれこうべ」でスタートし、ここがまさにワルツを踊るための地獄かのような空気に。そのサウンドの中にハイトーンなボーカルを響かせる橋本薫(ボーカル&ギター)は髪がパーマがかったことによって、どこかBIGMAMAの金井政人に風貌が似ているようにも見えてくる。
「Helsinki Lambda Clubです、よろしくお願いします」
と曲間でサラッと橋本が挨拶すると、同期のラジオの曲紹介のような音声が流れて、橋本と熊谷がノイジーなサウンドのギターを掻き鳴らす「ミツビシ・マキアート」で一気にギターロックへ転じるというこのバンドだからこその振り幅の広さを冒頭から見せてくれる。稲葉航大もそのおなじみの長髪を振り乱しながらベースを弾くのだが、新木場STUDIO COASTで坊主にすることになった罰ゲームはやっぱりやらないんだろうかというくらいにその髪型は変わらない。
さらには「Skin」というギターロックサウンドの曲が続いて客席でもたくさんの腕が上がり、このバンドの持つロックな部分、疾走感あるバンドサウンドを存分に感じさせてくれるのだが、そんな曲を演奏しながらも稲葉は舌をペロペロと出しながらベースを弾いているのがどうにも気になってしまうのだが、それが実に楽しく感じられるし、パフォーマンスも含めて稲葉の存在は中性的な出で立ちの熊谷とは真逆の飛び道具的なメンバーであると言えるだろう。橋本のボーカルもやはりこうした曲では思いっきり張り上げる様を聴ける。
そんな中で特に何も言うこともなく、あたかも普通に自分たちの曲を演奏するかのようにtetoの「ルサンチマン」のカバーを演奏するものだから油断ならない。熊谷は今はtetoのサポートメンバーでもあるのだが、この曲はその経験をフルに発揮するかのようにtetoの原曲に忠実な、この流れの中で演奏されるのが実に自然なサウンド。決して口数が多いタイプのバンドではないだけに、tetoへの思いを曲と演奏に込めているということがわかるし、それはこの後に実際に橋本もそう口にしていた。
そんな言葉もありつつ、ツアーも含めて最近行ってきたライブと確実に違う内容、セトリのライブになるなというのがわかるのは、間違いなくスプリット盤に収録されている曲を演奏するのがわかるからであり、実際にそこからはシュールかつサイケデリックな「King Of White Chip」が演奏されてまたガラッと会場の空気、バンドの纏う雰囲気を変えてみせると、「極彩色」というフレーズに合わせてステージをカラフルな照明が照らす「IKEA」と続き、橋本は近年のUSヒップホップ的な歌唱も見せたりと、曲ごとどころか1曲の中でもサウンドを変化させていくのだが、その部分のビートが明らかに強いものになっていたりというライブならではのアレンジも見せてくれる。
橋本は最近は弾き語りもよく行っているのだが、その際によくレパートリーに入っている「lipstick」では
「白い肌にレモンの匂い」
という歌詞に合わせるように背後の照明が黄色く染まる。「IKEA」の極彩色もそうであったが、そうした広いライブハウスでこそより映えるこうした演出が実に良く似合うバンドになったなと思う。
バンドとしては今年もリミックス盤(と言っていいのかというくらいに独自性の強い作品だ)、さらには新曲もリリースしているのだが、先月末にリリースされたばかりの新曲「ベニエ」は季節感を感じさせるようなタイプの曲が少ないこのバンドの中では一聴して冬の、それは今の季節そのものを感じさせてくれる曲だ。削ぎ落とされたサウンドと切ないメロディは橋本も言っていたように、冬以外の季節に聴いたとしても冬の景色を脳内に浮かび上がらせてくれるものになるはずである。
今やバンドの代表曲的な立ち位置の曲になった「God News Is Bad News」では橋本がギターを弾かずにハンドマイクとなり、ステージ上を歩き回りながら歌うのだが、そのサウンドと相まってその姿はさながらアメリカのポップスターのようですらある。
すると橋本はこのツアーを回ったことによってtetoの小池貞利の人間らしさをより強く感じ、tetoのライブからもたくさんの刺激を貰ったことを語る。その刺激を自分たちの音楽として昇華して返すために選んだのは、まさかのteto「あのトワイライト」のカバー。しかも「ルサンチマン」のストレートさとは全く異なる、このバンドだからこそのサイケデリックさをたっぷりまぶしたサウンドで生まれ変わるようにして。そこからはこの曲を聴きまくってきたバンドだからこそ、そうしてサウンドを変えるくらいのアレンジに取り組むことができるという愛が溢れていた。もはやシングルのカップリングとかに収録して欲しいくらいである。
そんなtetoについて橋本は、
「このツアーの大阪でみんなで飲んだ後に、すき家に行ってご飯食べて帰ろうってなって。俺が先に入って牛丼並盛を注文して、席に一回座った後にトイレに行って戻ってきたら、貞ちゃんが俺が座ってた席に座ってて。仕方ないから空いてる席に座り直したら、俺の席に来た牛丼並盛を貞ちゃんが全部食べたんだけど、それは俺が注文したやつだった(笑)
しかも貞ちゃんは何にも注文してなかったから、俺は1人だけ何にも食べずにみんなが食べ終わるのを待ってた(笑)」
と、普通なら怒ってもいいようなことを、実に楽しそうに話す。その傍若無人っぷりも含めて小池のことを愛しているからこそ、彼のことを貞ちゃんと呼んでいるのだろうけれど、きっとコロナになってなかなか対バンツアーもできない世の中になってしまったからこそ、そうしたバンド同士のやり取りの楽しさに改めて気付いたところもあったのだろう。ただ、稲葉には
「でも薫さん、だいぶ酔っ払ってたから、みんなが食べてる時には寝てましたけどね(笑)」
と酔い潰れていたことを暴露されていたが。
そんなtetoに贈るべく演奏されたのが「シンセミア」なのであるが、この2マンでこの曲のサビの
「盛り上がる以外の方法を
臆病な僕のわがままを」
というフレーズが歌われると、tetoがまさに盛り上がるロックバンドであるからこそ、ヘルシンキが決して同じような道を歩くことをしないバンドになったということがよくわかる気がする。影響を受けるというのは同じことをやったり追いかけたりするのではなく、その部分は自分たちにはできない、敵わないから自分たちにできることを伸ばすことでもあるということを教えてくれるかのようだ。
かと思うとハミング的なコーラスと歌詞の世界がどこか牧歌的でもあり、厭世的でもある「引っ越し」でまるで歌詞の通りに海の底にゆっくりと沈んでいくかのようなサイケデリアに引き込まれていくと、すでに10曲以上演奏しているという対バンライブとしては長い演奏時間になりながらも、
「まだまだ今日を楽しみましょう!」
と言い、稲葉のダンディというかなんというかというボーカルが橋本のハイトーンかつ細めなボーカルとの対比として実に面白い「ロックンロール・プランクスター」では間奏でその橋本と稲葉の2人が楽器を抱えて大きくジャンプする。その姿はまさにロックンロールそのものであり、やはりこのバンドはカッコいいロックバンドであるということをそのステージに立つ姿によって示してくれる。
その姿がさらにライブを加速させ、仰々しいシンセのイントロが鳴った瞬間に客席からたくさんの腕が上がる「午時葵」はアラーム的なサウンドがあることによって、またここからライブが始まるかのようですらある。観客はみんな心地良く体を揺らしているのだが、
「俺はあなたが間違っていても正しくても
愛しているよ
あなたは俺が正しくても間違っていても
愛してくれるの?」
というフレーズを歌う橋本のボーカルはここに来てより強くなっているというか、このフレーズを強調するかのようだった。だからこそその直後の「ダーリン」を連呼するパートでは橋本も熊谷も一気にギターサウンドを激しくする。ライブで聴くこの曲は音源でのポップさよりもむしろロックさが際立っているし、それはこうしてライブで毎回演奏することによって積み上げてきたものによるものなのだろう。
そんなライブの最後はさらに激しく橋本と熊谷がギターを掻きむしるように弾き、客席の真上にあるミラーボールがタイトル通りに輝く、スプリット盤収録の「宵山ミラーボール」。その曲のサウンド、そしてその曲を演奏するこのバンドの姿はロックというよりももはやパンクだった。それはこうしてtetoと回っているツアーだからこそ引き出されたものなのかもしれないが、tetoと出会った時にこのバンドが持っていたものでもある。
Helsinki Lambda Clubはデビュー時から音楽マニアとして世界中のあらゆる音楽を聴いては自分たちの音楽に取り入れてきただけに、なかなか一言でどういうバンドかを説明するのは難しかったりする。でもこの日のライブを見て一言で言うのならば、カッコいいロックバンドである。そんなことを強く感じさせてくれるようなライブだった。
1.しゃれこうべ しゃれこうべ
2.ミツビシ・マキアート
3.Skin
4.ルサンチマン
5.King Of The White Chip
6.IKEA
7.lipstick
8.ベニエ
9.Good News Is Bad News
10.あのトワイライト
11.シンセミア
12.引っ越し
13.ロックンロール・プランクスター
14.午時葵
15.宵山ミラーボール
・teto
そして後攻のteto。場内が暗転するとSEもなしに髪が伸びてパーマがかかった、髪を短くする前に戻りつつある髪型の佐藤健一郎(ベース)とともに赤いセットアップのyucco(ドラム)、ヨウヘイギマ(ギター)、そして連続ライブとなる熊谷太起(ギター)のサポートメンバー3人が登場してメンバーが音を鳴らし始めると、袖から黒のロングコートを着てサングラスをかけた、どこかリアム・ギャラガー的にも見える小池貞利(ボーカル&ギター)が走って登場し、そのままハンドマイクを持って、ヘルシンキもカバーしていた「ルサンチマン」を歌い始める。当然ながら熊谷はこの日2回目のこの曲なのだが、メンバーが違うことによってギタリストとしての役割も当然異なるはずだ。何よりも小池がこの編成になってハンドマイクで歌えるようになったのを良いことに、ステージ上で暴れ回りながら歌っている姿が、今のtetoとしての衝動の放出の仕方であるということがよくわかる。
ヘルシンキもスプリット盤の収録曲を演奏していたが、それはこちらもとばかりにtetoもスプリット盤収録の「36.4」を演奏し、実に久しぶりに聴く曲であるのだが、当然ながらこの編成になって聴くのは初ということで、それぞれのコーラスが役割が異なりながらも重なっていくのがよくわかる。すでにコートが脱げているくらいに暴れ回っている小池とは対照的に演奏面ではどっしりと構えているように見える佐藤もステージ前に出てきてベースを弾くというあたりは今の正式メンバーが2人しかいないバンドの1人という姿を感じさせてくれる。
「tetoもHelsinki Lambda Clubも、ここにいる人たちも」
と、まさにライブを行う、それをライブハウスまで見に行くという行為を持って止まらないことを示すような「とめられない」では1番止められないのは小池自身の暴れっぷりと衝動であるのだが、9月にツアーで初めてこの編成でのtetoのライブを見た時には「これはやっぱりあの4人の時とはこう変わるよな」と思っていた変化が、その時よりも感じなくなっている。あのツアー「日ノ出行脚」と今回のこのツアーを経たことによって、それぞれ違う生活や生きる場所があって、これまでにやってきた音楽も違うこのメンバーたちがより一層tetoのメンバーになってくれているということが、その違和感を感じなくなったサウンドから実によくわかる。それだけでなんだか涙が出そうになる。そのメンバーたちは熊谷含めて、これまでにtetoがライブをしてきた中で出会ったバンドのメンバーたちであるから。そのバンドたちが盟友であり仲間になってくれたということに。
ヘルシンキ側もtetoのカバーをあっさりやっていたが、ここでtetoもヘルシンキの曲のカバーを演奏するのだが、それはこの日ヘルシンキがtetoに捧げるように演奏した「シンセミア」であるということが実に双方の愛情を感じる。基本的にtetoはヘルシンキのように原曲のサウンドをガラッと変えるようなカバーはしない、できないバンドであるために、小池がその原曲そのままと言っていいこの曲を歌うことによって、この曲がまるで元からtetoの曲のようにすら感じられるし、
「盛り上がる以外の方法を
臆病な僕のわがままを」
というヘルシンキ演奏時にも触れたこのフレーズは、teto側が演奏するとまた違う意味を持って聞こえてくる。盛り上がる以外の方法を会得しているヘルシンキへのリスペクトと羨望があるからこそ、自分たちはそれとは違うバンドのやり方をするというような。橋本の牛丼を勝手に食べてしまう小池のワガママさも臆病であるが故の行為であるというような。これもまたシングルのカップリングあたりに収録していただきたいカバーだと思う。
ここまではハンドマイクを持って暴れ回っていた小池はギターを持つと当然ながらハンドマイクほどは動けなくなるのだが、それでもギターを抱えて暴れまくるのはタイトル曲の「メアリー」をこれでもかというくらいに連呼する「メアリー、無理しないで」であり、さすがに全てを1人では歌いきれるような曲ではないだけに、佐藤に加えてギマもコーラスができるというのはこの曲には実に効いているし、続く「9月になること」は
「雨上がり蒸し返す空気、蝉の鳴き声
汗をかいた瓶サイダー、それとあなたの」
という原曲ではリーガルリリーのたかはしほのかが参加していたコーラス部分をyuccoが務めることによって曲の完全形となる。やはりこのフレーズは女性メンバーがコーラスすることによって曲の情景がより強く浮かんでくるし、yuccoがたかはしほのかに近い声質を持ったドラマーであるのは奇跡だとすら言える。そのコーラスが最後のサビでのメンバー全員でのコーラスの強さと美しさをより際立たせてくれる。偶然か、それともそうしたメンバーを選んだのか、この全員がコーラスをできるという要素はこの編成でのtetoの大きな武器だ。我々観客は歌いたくても今は声を出すことすらできないのだから。
ギマがアコギに持ち替えると、そうした衝動以上にメロディの美しさが際立つ、最新作「愛と例話」収録の「遊泳地」へ。
「居場所が無い訳では無くて
ただ居場所がわからない
目を閉じ胸を押さえ耳を塞ぐ
どこにも出掛けられず」
という歌詞を強調したキメのアレンジは、tetoのファンにそうした居場所がわからないという人が多いであろうだけに、そこが伝えたい部分でもあることがわかるのだが、それは小池による
「同級生がAVに出てて。25歳くらいの時に先輩に教えられて見て。そしたらその同級生が行為の後にめちゃ号泣してて。字幕で「あまりの気持ち良さに泣いてしまいました」みたいなのが出てたんだけど、絶対そうじゃないと思ってて。
今までの人生とかが頭の中に浮かんできて、どうしようもない思いが込み上げてきて涙が出たと俺は思ってる。tetoもヘルシンキもここにいる人も、そんな字幕の安っぽい感動で泣くような人じゃなくて、そういうどうしようもない思いを抱えて生きている人だと思ってる」
という、話し始めた時はどうなるかと思ったMCにも通じることである。
で、それが両バンドに通じるものであることを示すべく演奏したのは、内緒でカバーしたというヘルシンキの「チョコレィト」。
「まだバンド組んだばかりの何にもわからないで作った感じが出ている」
と小池が言ったように、近年は橋本の弾き語りでも演奏されることもあるくらいに、今のように多彩な音楽性やジャンルの融合をほとんど感じない素朴な曲。しかしながら
「もういいだろ?って思う時もたまにある
だけどいまだ生まれ続けるグッドメロディーが確かにある
だからこっちへおいでよ
どこへ行けるかわからないがここにおいでよ」
という歌詞はともにバンドとしての形が変わりながらも今も両者がこうして音楽を続けていることを歌っているようであり、
「さよなら バイバイ パーティーは終わる
楽しかったよ、ありがとう なんてふざけんなよ
スポットライト消えて パーティーが終わる
僕らそれに気付いてる 永遠を刻む」
はこの日のライブも、このツアーも終わっていくこと、でもそれがそれぞれ一人一人の人生や脳内でずっと続いていくことを言い当てているかのようだ。
そこから小池がイントロで
「スーパーハッピーソング」
と紹介した「手」に繋がっていくというのもまた実によくできた、違うバンドの違う時期の曲なのにこんなにも上手く繋がるのかと思ってしまう曲だ。この曲からはtetoの衝動だけではない、ただひたすらにメロディメーカーとしてのバンドであり、なぜそんなメロディが書けるのかというと、
「馬鹿馬鹿しい平坦な日常がいつまでも続いて欲しいのに
理想と現実は揺さぶってくる
でもあなたの、あなたの手がいつも温かかったから
目指した明日、明後日もわかってもらえるよう歩くよ」
と素直に歌詞にできる優しさを小池やこのバンドが持っているからだ。だからこそステージ上で演奏しているメンバーも笑顔であるし、モッシュもダイブも、小池がステージから飛び込んでくることもなくても、こうして観客がライブを見ていて笑顔になることができる。そこにこそ我々がそれぞれの日常、tetoというバンドの歩みなど、いろんなことに揺さぶられながらもtetoの音楽を聴き、ライブに来ている理由だ。それを感じることができる感情が確かに自分にあることが、その音楽を聴いてライブを見ているとわかる。だからやめられない。
そんな優しさや暖かさと衝動を両立させたような「invisible」で再びというか、ここからさらにバンドの演奏は加速していく。それが小池個人の衝動ではなくて、ちゃんとtetoのバンドとしてのものになっている。もしかしたらあの4人でなくなってしまった時に「私の好きだったtetoは終わってしまった」と思った人もいるかもしれない。でもそれはこうして形が変わりながらも続いている。形は変わってもtetoというバンドが大切にしてきたものは全く変わったとは思わないままで。
それを強く感じさせてくれるのが、佐藤が高音コーラスを歌いながら小池がギターをぶん回し、
「拝啓 今まで出会えた人達へ
刹那的な生き方、眩しさなど求めていないから
浅くていいから息をし続けてくれないか」
と歌う「拝啓」だ。あまりにもライブのペース配分ということができない男であるゆえに、息が切れて歌えていない部分すら多々あるのだが、それでも「今まで出会えた人達」の中に、あの2人をはじめとした、今でもtetoの音楽を聴いていると頭に浮かんでくる人達が入っていますように、と思っていた。いや、きっと入っているだろう。そして小池は彼らを恨んだりしていることもないだろう。
「Pain Pain Pain」も「光るまち」もある中で本編最後に演奏されたのは「あのトワイライト」。それは明確にヘルシンキがこの曲をカバーしてくれたから、という感謝とリスペクトが込められていたことを感じさせるのだが、その曲に込められた
「魅了したいされたいされ続けていたい、し続けていたいよ
あのトワイライトのように」
というフレーズの通りに、ヘルシンキのメンバーも我々もtetoというバンドに魅了し続けられている。それは自身の歌うパートが終わるとまだメンバーが演奏中なのに誰よりも早くステージを去っていくという小池の姿も含めて。
かなりの時間待ってからメンバーが先にアンコールに出てきたのは小池の体力回復を待っていたところもあるのだろうけれど、実際にメンバーの後に登場した小池はそうした疲労など一切感じさせないように、ヘルシンキがそうだったように客席の頭上でミラーボールが輝きながら「宵山ミラーボール」を衝動を全て炸裂させるかのように、叫ぶようにしてパンクに演奏する。
やっぱりこの2組の対バンとなると最後はスプリット盤に入っていたこの曲だよなぁとも思うのだけども、さらに「高層ビルと人工衛星」を演奏し、「宵山ミラーボール」で激しく動きすぎて自身のマイクスタンドが歌える高さではなくなった熊谷は佐藤に寄っていって2人で1つのマイクでコーラスをするという、tetoとヘルシンキのメンバーが一緒のステージに立っているからこその姿を見せてくれるのだが、間奏でyuccoのバスドラの4つ打ち部分になると小池が演奏を制し、
「急遽、薫と稲葉を連れてくるからちょっと待ってて!」
と言ってステージ裏に向かっていくのだが、実は2人はこの時は逆サイドのステージ袖でライブを見ており、気付いていたyuccoたちは「そこにいるんだけど(笑)」という感じで笑いながら小池がステージ裏を一周して戻ってくるのを待っていた。
そうしてステージ袖から橋本と稲葉を連れてくると、小池は自身のギターを橋本に、タンバリンを稲葉に渡して演奏に参加させ、
「ふたりだけ 茜色の海や物憂いな横顔はもう
ふたりだけ 茜色の海や物憂いな横顔は
今更わかって」
というフレーズを橋本に歌わせる。最後のサビでは熊谷がギターを稲葉に渡して自身はタンバリンになり、その稲葉は先程の熊谷のように佐藤と一つのマイクでサビを歌っている。こうしてtetoの形が変わらなければステージ上で関わることはなかったであろう橋本とギマも向かい合って笑顔でギターを弾いていた。その全員が笑顔になれて、それを見れている我々が少しだけ泣けてしまうような、言葉にならないこの光景こそがこのツアーの全てだった。
5年前にスプリット盤を出した時とは、両バンドとも形が変わった。特に今年急にメンバーの脱退があったtetoにとっては、すでにメンバーが変わりながらも止まらずに活動していたヘルシンキの姿はなによりも頼もしいものだっただろうし、実際に熊谷が参加してくれていることも含めていろんなことを相談したりしていたと思う。
そうして変わりながらも変わらないものが両バンドの間には確かにある。それはこうして一緒に音楽を鳴らしている瞬間が他の何物にも変え難いくらいに楽しくて仕方がないということ。山崎と福田が脱退を表明したキネマ倶楽部でのライブは観ているのが本当に辛かったし、前回のツアーを見るまでは不安もたくさんあったけれども、そんな激動のtetoの2021年を最後に笑顔で終わらせることができたのはヘルシンキがいて、こうして一緒にツアーを回ることができたからだ。こんな、馬鹿馬鹿しい平坦な日常がいつまでも、この先何年でも続いていきますように。いや、続いていくはずだ。そんな確信が確かにこの日この場所にはあった。
1.ルサンチマン
2.36.4
3.とめられない
4.シンセミア
5.メアリー、無理しないで
6.9月になること
7.遊泳地
8.チョコレィト
9.手
10.invisible
11.拝啓
12.あのトワイライト
encore
13.宵山ミラーボール
14.高層ビルと人工衛星 w/ Helsinki Lambda Club
文 ソノダマン